データの平均値を計算するとき、確率分布の期待値を求めるとき、級数の収束を調べるとき。総和記号 $\Sigma$(シグマ)は数学と工学のあらゆる場面で登場します。また、その双子ともいえる総乗記号 $\Pi$(パイ)は、尤度関数や階乗の一般化などで不可欠です。
LaTeXでこれらの記号を正しく書くことは、理系の文書作成における必須スキルです。本記事では基本的な書き方から、実務で使う応用的なパターンまでを網羅します。
本記事の内容
- 総和
\sumの基本的な書き方と上下限の指定 - 総乗
\prodの書き方 - 多重和・条件付き和の書き方
- 上下限の位置調整(
\limits,\nolimits) - 実際の数式での使用例
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 分数をLaTeXで書く — 総和の中で分数を使う場面
- ギリシャ文字一覧とLaTeXでの書き方 — $\Sigma$ と $\Pi$ はギリシャ文字
総和 \sum の基本
総和とは
総和は「決まったルールで並んだ数を全部足し合わせる」操作です。たとえば、テストの合計点を求めるとき、$n$ 人の点数 $x_1, x_2, \dots, x_n$ を全部足す操作は、総和記号を使って $\sum_{i=1}^n x_i$ とコンパクトに書けます。いちいち $x_1 + x_2 + \cdots + x_n$ と書く必要がなくなるわけです。
基本構文
LaTeXでの書き方は非常にシンプルです。
$$ \sum_{i=1}^{n} a_i $$
$$
\sum_{i=1}^{n} a_i
$$
\sum で $\Sigma$ 記号を出力し、_{i=1} で下限(開始インデックス)、^{n} で上限(終了インデックス)を指定します。この構文は積分の \int_a^b とまったく同じパターンです。
上下限なしの総和
上限や下限を省略することもできます。
$$ \sum a_i $$
$$
\sum a_i
$$
文脈から添字の範囲が明らかな場合に使いますが、レポートや論文では明示するほうが親切です。
下限のみ・上限のみ
片方だけ指定することもあります。
$$ \sum_{i=1} a_i, \quad \sum^{n} a_i $$
$$
\sum_{i=1} a_i, \quad \sum^{n} a_i
$$
ただし、通常は上限と下限の両方を書くのが標準的です。
具体例:算術平均
$n$ 個のデータの算術平均は、総和を使って次のように書きます。
$$ \bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} x_i $$
$$
\bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} x_i
$$
\bar{x} はバー記号で平均を表します。この式は統計学で最も基本的な式の一つです。
具体例:等差級数の和
等差級数の和の公式も、総和記号で表現できます。
$$ \sum_{k=1}^{n} k = \frac{n(n+1)}{2} $$
$$
\sum_{k=1}^{n} k = \frac{n(n+1)}{2}
$$
左辺が $1 + 2 + \cdots + n$ を表し、右辺がその閉じた形です。
総和の基本的な書き方を押さえました。次に、掛け算版ともいえる総乗記号 $\Pi$ の書き方を見ていきましょう。
総乗 \prod の書き方
総乗とは
総乗は「決まったルールで並んだ数を全部掛け合わせる」操作です。たとえば、階乗 $n! = 1 \times 2 \times \cdots \times n$ は総乗で $\prod_{k=1}^n k$ と書けます。機械学習では、独立な事象の同時確率(尤度関数)を書くときに総乗が欠かせません。
基本構文
$$ \prod_{i=1}^{n} a_i $$
$$
\prod_{i=1}^{n} a_i
$$
\prod で $\Pi$ 記号を出力します。上下限の指定方法は \sum とまったく同じです。
具体例:階乗
$$ n! = \prod_{k=1}^{n} k $$
$$
n! = \prod_{k=1}^{n} k
$$
具体例:尤度関数
統計学・機械学習で頻出する尤度関数は、独立同分布(i.i.d.)の仮定のもとで次のように書きます。
$$ L(\theta) = \prod_{i=1}^{n} p(x_i \mid \theta) $$
$$
L(\theta) = \prod_{i=1}^{n} p(x_i \mid \theta)
$$
$p(x_i \mid \theta)$ は各データ点 $x_i$ の確率であり、これらをすべて掛け合わせたものが尤度です。対数をとると総乗が総和に変わるため、対数尤度がよく使われます。
$$ \ell(\theta) = \log L(\theta) = \sum_{i=1}^{n} \log p(x_i \mid \theta) $$
このように、総乗と総和は対数を介して密接に関連しています。
具体例:行列式の余因子展開
$n \times n$ 行列の行列式は、置換の符号を含む総和・総乗で書けます。
$$ \det(\bm{A}) = \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^{n} a_{i, \sigma(i)} $$
$$
\det(\bm{A}) = \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^{n} a_{i, \sigma(i)}
$$
この式では \sum の下限が $\sigma \in S_n$($n$ 次対称群の元すべてについての和)という集合の記法になっています。このような条件付きの和については次のセクションで詳しく解説します。
総乗の基本を理解しました。次に、もう少し複雑な総和のパターンを見ていきましょう。
多重和と条件付き和
二重和
2つの添字について和をとる二重和は、\sum を2つ並べて書きます。
$$ \sum_{i=1}^{m} \sum_{j=1}^{n} a_{ij} $$
$$
\sum_{i=1}^{m} \sum_{j=1}^{n} a_{ij}
$$
行列のすべての要素の和を求める場合などに使います。
条件付き和
添字に条件を付けた和は、下限の部分に条件を書きます。
$$ \sum_{\substack{1 \leq i \leq n \\ i \neq k}} a_i $$
$$
\sum_{\substack{1 \leq i \leq n \\ i \neq k}} a_i
$$
\substack コマンドを使うと、下限に複数行の条件を書くことができます。\\ で改行します。
もう一つの例として、集合に属する要素についての和を見てみましょう。
$$ \sum_{x \in S} f(x) $$
$$
\sum_{x \in S} f(x)
$$
$\in$ は「属する」を意味する記号で、\in で出力します。集合 $S$ のすべての要素 $x$ について $f(x)$ を足し合わせる操作です。
二重和の条件付き
二重和に条件をつけるパターンもよく見ます。
$$ \sum_{\substack{i=1 \\ j=1 \\ i < j}}^{n} a_{ij} = \sum_{1 \leq i < j \leq n} a_{ij} $$
$$
\sum_{1 \leq i < j \leq n} a_{ij}
$$
この式は「$i < j$ を満たすすべての組 $(i, j)$ について」の和を取ることを意味しています。グラフ理論やネットワーク分析でよく使います。
多重和と条件付き和の書き方がわかりました。次に、上下限の表示位置を調整する方法を解説します。
上下限の位置調整
ディスプレイスタイルとインラインスタイル
\sum の上下限の表示位置は、数式のスタイルによって変わります。
ディスプレイスタイル($$...$$内)では、上下限が $\Sigma$ の真上と真下に配置されます。
$$ \sum_{i=1}^{n} a_i $$
インラインスタイル($...$内)では、上下限が $\Sigma$ の右肩と右下に配置されます:$\sum_{i=1}^{n} a_i$
\limits と \nolimits
表示位置を明示的に制御するには、\limits と \nolimits を使います。
インラインでも真上・真下に配置したい場合:
$$ \textstyle\sum\limits_{i=1}^{n} a_i $$
$\sum\limits_{i=1}^{n} a_i$
ディスプレイスタイルでも右肩・右下に配置したい場合:
$$ \sum\nolimits_{i=1}^{n} a_i $$
$$
\sum\nolimits_{i=1}^{n} a_i
$$
通常はデフォルトの動作で問題ありませんが、論文のスタイル要件に合わせて調整が必要な場合に使いましょう。
\displaystyle でインライン数式を大きく
文中の総和を見やすくしたい場合は、\displaystyle を使うこともできます。
平均値は $\displaystyle\sum_{i=1}^{n} x_i / n$ で計算します。
ただし、行間が広がってしまうため、多用は避けたほうがよいでしょう。
上下限の位置調整方法を理解しました。次に、総和と総乗に関連するその他の記号を紹介します。
関連する記号
直和 \bigoplus
ベクトル空間の直和を表す記号です。
$$ V = \bigoplus_{i=1}^{n} V_i $$
$$
V = \bigoplus_{i=1}^{n} V_i
$$
直積 \bigotimes
テンソル積の繰り返しを表します。
$$ \bigotimes_{i=1}^{n} V_i $$
$$
\bigotimes_{i=1}^{n} V_i
$$
和集合・共通部分
集合の和集合・共通部分を繰り返す場合には \bigcup と \bigcap を使います。
$$ \bigcup_{i=1}^{n} A_i, \quad \bigcap_{i=1}^{n} A_i $$
$$
\bigcup_{i=1}^{n} A_i, \quad \bigcap_{i=1}^{n} A_i
$$
これらの「大きな演算子」はすべて \sum と同じ構文で上下限を指定できます。
関連記号をまとめたところで、KaTeXでの互換性についても確認しておきましょう。
LaTeX vs KaTeX の注意点
| コマンド | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|
\sum |
対応 | 基本の総和 |
\prod |
対応 | 基本の総乗 |
\limits |
対応 | 上下限の位置変更 |
\nolimits |
対応 | 上下限の位置変更 |
\substack |
対応 | 条件付き和の改行 |
\bigoplus |
対応 | 直和 |
\bigotimes |
対応 | 直積 |
\bigcup |
対応 | 和集合 |
\bigcap |
対応 | 共通部分 |
KaTeXでは、総和・総乗に関連するコマンドはほぼすべてサポートされています。安心して使いましょう。
よくある間違いとTips
間違い1:上下限の波括弧忘れ
上限・下限が複数文字の場合は波括弧が必須です。
% NG: n=1 ではなく n だけが下付きになる
\sum_n=1^N
% OK
\sum_{n=1}^{N}
間違い2:添字変数の不一致
総和の添字と、内部の式で使う変数が一致しているか確認しましょう。
% NG: 添字は i なのに式中で k を使っている
\sum_{i=1}^{n} x_k
% OK
\sum_{i=1}^{n} x_i
間違い3:空の総和・総乗の意味
上限が下限より小さい場合、総和は $0$、総乗は $1$ と解釈するのが慣例です(空和・空積)。
$$ \sum_{i=1}^{0} a_i = 0, \quad \prod_{i=1}^{0} a_i = 1 $$
Tips:級数の表記
無限級数は上限を $\infty$ にして書きます。
$$ \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = e^x $$
$$
\sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = e^x
$$
収束を示すときに使う表記です。この例はテイラー展開の有名な公式で、指数関数がべき級数として表されることを示しています。
まとめ
本記事では、LaTeXで総和記号 $\Sigma$ と総乗記号 $\Pi$ を書く方法を解説しました。
- 総和の基本:
\sum_{i=1}^{n} a_iで上下限を指定する - 総乗の基本:
\prod_{i=1}^{n} a_iで掛け合わせを表す - 条件付き和:
\substackで複数行の条件を書く - 上下限の位置:
\limits/\nolimitsで位置を制御する - 関連記号:
\bigoplus,\bigcup,\bigcapなども同じ構文
総和と総乗は統計学、線形代数、確率論、信号処理など、ほとんどすべての理工系分野で必要になる基本的な記号です。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 積分記号をLaTeXで書く — 総和の連続版
- 確率記号をLaTeXで書く — 期待値・分散で総和を多用
- 分数をLaTeXで書く — 総和と組み合わせる分数表記