「LaTeX で分数ってどう書くんだっけ?」「インライン数式の分数が小さすぎるので大きく表示したい」「\frac と \dfrac は何が違う?」——分数は数式の中で最も登場頻度が高い表記でありながら、LaTeX ではコマンドの選択肢が多く、意外と迷いやすいポイントです。基本の \frac のほかに、インラインでも大きく表示する \dfrac、逆に小さくする \tfrac、連分数専用の \cfrac、スラッシュ表記、さらに見た目がそっくりな二項係数 \binom まで、それぞれ使いどころが違います。
この記事は、そんな「分数を LaTeX でどう書くか」を一気に解決するための逆引きリファレンスです。基本の書き方からサイズの制御、入れ子の分数(繁分数)、括弧との組み合わせ、微分や確率での実践的な使い方まで、コピペできる実例を大量に載せて網羅します。
分数は二次方程式の解の公式、微分 $\frac{dy}{dx}$、ベイズの定理、ガウス分布の密度関数など、理工系のあらゆる数式の骨格になります。本記事で「迷ったらここを見れば書ける」状態を作っておきましょう。

分数の基本はこの1枚に尽きます。\frac{a}{b} と書くと、第1引数 a が分子(上)、第2引数 b が分母(下)に配置され、間に横線が引かれます。手書きで分数を書くときと同じ「上に分子・下に分母」という構造が、そのままコマンドの形になっている——これさえ押さえれば、あとは応用です。
本記事の内容
- まず結論:分数の LaTeX コマンド逆引き早見表(コピペ用)
\fracの基本構文と波括弧のルール- インライン数式で分数を大きく表示する方法(
\dfrac・\displaystyle) \dfracと\tfracによるサイズ制御の仕組み\cfracを使った連分数の書き方- 入れ子の分数(繁分数)をきれいに書くコツ
- 分数と括弧のサイズ調整(
\left\right) - スラッシュ表記・単位・割合の書き方
- 二項係数
\binomとの違いと\genfrac - 微分・確率・物理での実践例(コピペ用数式集)
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 括弧のサイズ調整(left・right・big) — 分数と括弧の組み合わせ
- ギリシャ文字一覧とLaTeXでの書き方 — 分数の中で使うギリシャ文字
まず結論:分数のLaTeXコマンド逆引き早見表
細かい解説の前に、「やりたいこと」から逆引きできる早見表を置いておきます。急いでいる人はここからコピペしてください。各セクションで意味と使いどころを詳しく説明します。
| やりたいこと | LaTeX コード | 表示 |
|---|---|---|
| ふつうの分数 | \frac{a}{b} |
$\frac{a}{b}$ |
| インラインで分数を大きく | \dfrac{a}{b} |
$\dfrac{a}{b}$ |
| ブロック数式で分数を小さく | \tfrac{a}{b} |
$\tfrac{a}{b}$ |
| 式全体をディスプレイサイズに | \displaystyle \frac{a}{b} |
$\displaystyle \frac{a}{b}$ |
| 連分数 | \cfrac{1}{2+\cfrac{1}{3}} |
$\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{3}}$ |
| スラッシュの分数(文中向き) | a/b |
$a/b$ |
| 分数を括弧で囲む | \left(\frac{a}{b}\right)^2 |
$\left(\frac{a}{b}\right)^2$ |
| 微分(ライプニッツ記法) | \frac{dy}{dx} |
$\frac{dy}{dx}$ |
| 偏微分 | \frac{\partial f}{\partial x} |
$\frac{\partial f}{\partial x}$ |
| 二項係数(分数ではない) | \binom{n}{k} |
$\binom{n}{k}$ |
| 二項係数をインラインで大きく | \dbinom{n}{k} |
$\dbinom{n}{k}$ |
| 横線なしの「重ね」 | \genfrac{}{}{0pt}{}{a}{b} |
$\genfrac{}{}{0pt}{}{a}{b}$ |
| 単位(毎秒・毎時など) | \mathrm{m/s} |
$\mathrm{m/s}$ |
| 入れ子の分数を読みやすく | \dfrac{\;\frac{a}{b}\;}{c} |
$\dfrac{\;\frac{a}{b}\;}{c}$ |
| 分数の前の係数 | \tfrac{1}{2}mv^2 |
$\tfrac{1}{2}mv^2$ |
図でも同じ早見表を用意しました。コマンドと実際の表示を並べているので、視覚的に「どれを使えばどう出るか」を一目で確認できます。

この図を見ると、\frac・\dfrac・\tfrac で同じ a/b でも大きさが変わること、連分数や二項係数は分数とは別の見た目になることが直感的につかめます。横線なしで上下に重ねる \genfrac だけ毛色が違う、という点もここで押さえておきましょう。
早見表だけで用が足りることも多いですが、「インラインで分数が小さくなる理由」や「\dfrac を多用してはいけない場面」など、知らないと表示が崩れるポイントがあります。ここから先で一つずつ丁寧に見ていきましょう。
\frac:基本の分数コマンド
分数の直感的なイメージ
分数とは「割り算」を式の中で2階建てに表現する記法です。手書きのときは横線を引いて上に分子、下に分母を書きますが、LaTeX でもまったく同じ構造を \frac{分子}{分母} で書きます。fraction(分数)の頭4文字がそのままコマンド名になっているので、覚えやすいはずです。
基本構文
$$ \frac{a}{b} $$
$$
\frac{a}{b}
$$
\frac は2つの引数を取ります。第1引数が分子(上)、第2引数が分母(下)です。「上から順に書く」と覚えれば、分子と分母を逆にするミスを防げます。
具体的な数値ではこうなります。
$$ \frac{1}{2}, \quad \frac{3}{4}, \quad \frac{22}{7} $$
$$
\frac{1}{2}, \quad \frac{3}{4}, \quad \frac{22}{7}
$$
数式を含む分数
分子・分母には任意の数式を入れられます。多項式でも、根号でも、さらに別の分数でも構いません。
$$ \frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1} = x + 1, \qquad \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{2} $$
$$
\frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1} = x + 1, \qquad \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{2}
$$
分子・分母が複雑になっても、波括弧 {} で囲んでいる範囲がそれぞれ「上」と「下」に入る——この原則さえ押さえれば、どんな分数でも書けます。実際に、いくつかの \frac のソースがどう表示されるかを並べてみましょう。

左のコードと右の表示を見比べると、分子・分母にどんな式(多項式、平方根、微分の dy/dx、偏微分の \partial)を入れても、波括弧で囲んだ範囲がそのまま上下に積まれているのがわかります。複雑に見える式も、結局は \frac{上}{下} の組み合わせにすぎません。
波括弧の省略ルール
引数が1文字(1トークン)の場合に限り、波括弧を省略できます。
% どちらも同じ表示になる
\frac12
\frac{1}{2}
$\frac12$ と $\frac{1}{2}$ はどちらも同じ表示です。ただし \frac x+1 x-1 のように2文字以上で省略すると、最初の1文字だけが引数として解釈され、意図しない表示になります(この例では $\frac{x}{+}1x-1$ という壊れた式になります)。省略記法はタイプ数を少し減らせるだけでメリットが薄いので、常に波括弧を付ける習慣をおすすめします。
\frac の基本を押さえました。ここで多くの人がつまずくのが「インライン数式に分数を書くと小さくなりすぎる」問題です。次のセクションで解決しましょう。
インライン数式で分数を大きく表示する(最重要)
なぜインラインの分数は小さくなるのか
文章の途中に $\frac{a}{b}$ と書くと、$\frac{a}{b}$ のように縮小されて表示されます。これはバグではなく仕様です。インライン数式は「行の高さを壊さない」ことを優先するため、LaTeX が自動的に分数を圧縮します。2階建ての分数をそのままのサイズで行中に置くと、行間がガタガタに広がって本文が読みにくくなるからです。
とはいえ、「分子・分母が読めないほど小さいのは困る。大きく表示したい」という場面は実際よくあります。方法は2つです。
方法1:\dfrac を使う
\dfrac(display fraction)は、どこに書いてもディスプレイサイズ(ブロック数式と同じ大きさ)で表示するコマンドです。
インラインで \frac を使うと $\frac{a+b}{c+d}$ と小さくなりますが、\dfrac なら $\dfrac{a+b}{c+d}$ と大きく表示されます。
% 小さい(自動で圧縮される)
$\frac{a+b}{c+d}$
% 大きい(ディスプレイサイズを強制)
$\dfrac{a+b}{c+d}$
実際に本文に埋め込んだときの見た目の差を図で並べてみます。

上段の \frac は行の高さを保つ代わりに分子・分母が小さくなり、下段の \dfrac は読みやすい代わりに行間が広がっています。どちらが正解というわけではなく、「行の詰まりを優先するか、分数の読みやすさを優先するか」のトレードオフです。図の最下部にあるとおり、単純な分数なら本文ではスラッシュ (a+b)/(c+d) が一番なじむことも多い、と覚えておきましょう。
方法2:\displaystyle を使う
\displaystyle は、それ以降の数式全体をディスプレイスタイルに切り替える宣言です。
$\displaystyle \sum_{i=1}^{n} \frac{1}{i^2}$ のように、分数だけでなく総和記号の上下の添字位置まで「ブロック数式と同じ見た目」になります。
% 分数だけ大きくしたい → \dfrac
$\dfrac{1}{i^2}$
% 式全体(Σの添字位置なども含めて)を大きくしたい → \displaystyle
$\displaystyle \sum_{i=1}^{n} \frac{1}{i^2}$
\dfrac と \displaystyle の使い分け
| 方法 | 効果の範囲 | 使いどころ |
|---|---|---|
\dfrac{a}{b} |
その分数だけ | 分数1個をピンポイントで大きくする |
\displaystyle |
宣言以降の式全体 | 総和・積分・極限なども含めて大きくする |
ピンポイントなら \dfrac、式全体なら \displaystyle、と覚えておけば十分です。
多用は禁物:行間が広がる
大きくできるとはいえ、本文中で \dfrac を多用すると行の高さが不揃いになり、文章全体が読みにくくなります。実務的な指針は次のとおりです。
- 単純な分数($1/2$ や $a/b$ 程度)→ スラッシュ表記で書く(後述)
- どうしても2階建てで見せたい分数 →
\dfracを使う - 複雑な分数 → そもそもインラインに入れず、ブロック数式
$$...$$に出す
「インラインの分数が小さい問題」はこれで解決です。では、この大小の切り替えが内部でどういう仕組みになっているのか、\dfrac と \tfrac の動作原理を次に見ておきましょう。仕組みがわかると応用が利きます。
\dfrac と \tfrac:サイズ制御の仕組み
LaTeXの4つの数式スタイル
LaTeX の数式には、実は4段階のスタイルがあります。
| スタイル | 主な適用場所 | 分数のサイズ |
|---|---|---|
| ディスプレイスタイル | ブロック数式 $$...$$ |
大 |
| テキストスタイル | インライン数式 $...$ |
中(圧縮) |
| スクリプトスタイル | 上付き・下付き添字 | 小 |
| スクリプトスクリプトスタイル | 添字の中の添字 | 極小 |
\frac は「いま自分がどのスタイルの中にいるか」を見て自動的にサイズを変えます。ブロック数式では大きく、インラインでは中くらいに、添字の中ではさらに小さく表示されるのはこのためです。

同じ \frac{a}{b} でも、置かれるスタイルが深くなるほど段階的に縮小されていくのが見て取れます。\dfrac と \tfrac は、この自動判定を上書きして「常に大」「常に小」に固定するためのコマンド、と理解すると腑に落ちます。
\dfrac:常にディスプレイサイズ
\dfrac は、この自動判定を無視して常にディスプレイスタイルで表示します。前のセクションで見たとおり、インラインで分数を大きくしたいときの主役です。
\tfrac:常にテキストサイズ
逆に \tfrac(text fraction)は、ブロック数式の中でも常にテキストスタイル(小さめ)で表示します。
$$ \tfrac{1}{2}mv^2 \quad \text{と} \quad \frac{1}{2}mv^2 $$
$$
\tfrac{1}{2}mv^2 \quad \text{と} \quad \frac{1}{2}mv^2
$$
左が \tfrac、右が通常の \frac です。運動エネルギー $\tfrac{1}{2}mv^2$ のように「係数としての分数」は、小さめの \tfrac のほうが式の主役($mv^2$)を邪魔せず、引き締まった見た目になります。論文でも、行頭の係数 $\tfrac{1}{2}$ や指数の中の分数によく使われるテクニックです。
使い分けの指針
| コマンド | サイズ | 使いどころ |
|---|---|---|
\frac |
場所に応じて自動 | 通常はこれ。迷ったら \frac |
\dfrac |
常に大 | インラインで分数を大きく見せたいとき |
\tfrac |
常に小 | ブロック数式中の係数・添字内の分数 |
9割の場面は \frac で足ります。残り1割の「見た目を整えたい」ときに \dfrac と \tfrac を思い出してください。3つのコマンドのサイズの違いを並べると次のとおりです。

左から \dfrac(常に大)、\frac(場所に応じて自動)、\tfrac(常に小)です。同じ a/b でも用途に合わせてサイズを選べることが一目でわかります。係数として添える分数は \tfrac、本文で目立たせたい分数は \dfrac、と使い分けるのがコツです。
サイズ制御を理解したところで、次は分数が何段にも続く特殊な形——連分数を見ていきます。
\cfrac:連分数の書き方
連分数とは
連分数(continued fraction)は、分母の中にさらに分数が続く構造です。数論や近似理論で登場し、無理数を精度よく近似する道具として使われます。たとえば黄金比 $\phi$ は「1を足して逆数を取る」操作の無限の繰り返しとして、次の連分数で表せます。
$$ \phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}} $$
$$
\phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}}
$$
\frac の入れ子と何が違うか
同じ式を \frac の入れ子で書くと、こうなります。
$$ \phi = 1 + \frac{1}{1 + \frac{1}{1 + \frac{1}{1 + \cdots}}} $$
$$
\phi = 1 + \frac{1}{1 + \frac{1}{1 + \frac{1}{1 + \cdots}}}
$$
\frac は入れ子になるたびにスタイルが1段階ずつ小さくなる(前セクションの自動サイズ判定が働く)ため、深い段がつぶれて読めなくなります。一方 \cfrac(continued fraction)はすべての段をディスプレイサイズで統一し、さらに段ごとの行送りも連分数向けに調整してくれます。連分数を書くときは迷わず \cfrac を選びましょう。

左の \cfrac は各段が同じ大きさで階段状に並び、奥の段までくっきり読めます。右の \frac 入れ子は段を追うごとに分数が縮小し、3段目以降が小さくつぶれてしまうのがわかります。連分数のように何段も続く構造ほど、\cfrac の「全段同サイズ」という性質がありがたく効いてきます。
円周率の連分数展開
もう1つ有名な例として、円周率の連分数展開を載せておきます。コピペしてそのまま使えます。
$$ \pi = 3 + \cfrac{1}{7 + \cfrac{1}{15 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{292 + \cdots}}}} $$
$$
\pi = 3 + \cfrac{1}{7 + \cfrac{1}{15 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{292 + \cdots}}}}
$$
途中で打ち切ると $3 + \tfrac{1}{7} = \tfrac{22}{7}$ という、よく知られた円周率の近似分数が現れます。
分子の位置指定(\cfrac[l]・\cfrac[r])
LaTeX(amsmath)では、オプション引数で分子を左寄せ・右寄せにできます。
\cfrac[l]{1}{2 + x} % 分子を左寄せ
\cfrac[r]{1}{2 + x} % 分子を右寄せ
ただしこのオプションは KaTeX では未対応です。Web 上(本ブログ含む)では中央揃えの \cfrac だけ使えると覚えておけば困りません。
連分数は「入れ子の分数」の極端な例でした。次は、もっと日常的に出会う「分数の中に分数が1段だけ入る」繁分数のきれいな書き方を見ていきます。
入れ子の分数(繁分数)をきれいに書く
分数の分子や分母に別の分数が入った形を繁分数と呼びます。たとえば「分数同士の割り算」です。
$$ \frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}} = \frac{a}{b} \cdot \frac{d}{c} = \frac{ad}{bc} $$
$$
\frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}} = \frac{a}{b} \cdot \frac{d}{c} = \frac{ad}{bc}
$$
そのまま \frac を入れ子にすると、内側の分数が小さくつぶれて読みにくくなります。改善策は3つあります。
改善策1:内側を \dfrac にする。 内側の分数を強制的に大きくします。
$$ \frac{1}{\dfrac{a}{b} + \dfrac{c}{d}} $$
$$
\frac{1}{\dfrac{a}{b} + \dfrac{c}{d}}
$$
改善策2:内側をスラッシュにする。 内側の分数が単純なら、スラッシュ表記に逃がすと全体が1段で収まります。
$$ \frac{1}{a/b + c/d} $$
$$
\frac{1}{a/b + c/d}
$$
改善策3:式を変形して入れ子を解消する。 数学的に同値な形に直すのが、実は一番読みやすいことも多いです。
$$ \frac{1}{\dfrac{a}{b} + \dfrac{c}{d}} = \frac{bd}{ad + bc} $$
3つの改善策を並べて見比べてみましょう。

左は素の入れ子で内側の a/b・c/d が小さくつぶれている状態(\dfrac で内側を大きく保つのが改善策1)、中央は内側をスラッシュ表記にして全体を低く収めた形、右は数式変形で1段に直した最も明快な形です。どれを選ぶかは「読者にどの構造を見せたいか」次第です。割り算の構造そのものを見せたい教育的な文脈なら改善策1、結果だけ伝わればよいなら改善策3が向いています。
入れ子の分数は縦に背が高くなるため、括弧で囲むと今度は「括弧が分数より小さい」問題が起きます。次はその解決法です。
分数と括弧のサイズ調整
分数を普通の括弧 ( ) で囲むと、括弧の高さが1行分のままで、分数がはみ出した不格好な見た目になります。
$$ ( \frac{a}{b} )^2 \quad \text{と} \quad \left( \frac{a}{b} \right)^2 $$
% NG: 括弧が分数より小さい
( \frac{a}{b} )^2
% OK: 中身の高さに自動で合わせる
\left( \frac{a}{b} \right)^2
\left( と \right) のペアで囲むと、括弧が中身の高さに合わせて自動で伸びます。左の例と右の例を見比べると、右は括弧が分数全体をきちんと包んでいるのがわかります。

左の素の ( ) は高さが1行分のままで、分数が括弧からはみ出した不格好な見た目です。右の \left( \right) は分数の高さに合わせて括弧が縦に伸び、全体をきれいに包んでいます。分数を括弧でくくるときは、ほぼ反射的に \left( \right) をセットで使うクセをつけておくと安心です。
ガウス分布の指数部のように、分数を含む式を括弧で囲む場面では必須のテクニックです。
$$ \exp\left( -\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} \right) $$
$$
\exp\left( -\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} \right)
$$
\left \right は丸括弧だけでなく、角括弧 \left[ \right]、波括弧 \left\{ \right\}、絶対値 \left| \right| にも使えます。詳しくは括弧のサイズ調整の記事にまとめています。
ここまでは2階建ての分数の話でした。次は、行中で重宝する「1階建ての分数」——スラッシュ表記です。
スラッシュ表記と単位・割合の書き方
インラインではスラッシュが第一候補
文中の単純な分数は、2階建てにせずスラッシュ / で書くのが読みやすく、行間も乱れません。
速度は $v = s/t$ で求められます。確率はそれぞれ $1/2$、$1/6$ です。
これは「速度は $v = s/t$ で求められます。確率はそれぞれ $1/2$、$1/6$ です。」と表示されます。\dfrac で大きくするより文章になじむことが多いので、インラインではまずスラッシュを検討してください。
ただし、分子・分母に和や差が入る場合は、スラッシュだとどこまでが分母か曖昧になります。$(a+b)/(c+d)$ のように括弧を補うか、2階建ての \frac に切り替えましょう。
単位の表記
物理量の単位は、イタリックにならないよう \mathrm(ローマン体)と組み合わせてスラッシュで書くのが定石です。
$$ v = 340 \ \mathrm{m/s}, \qquad \rho = 1.2 \ \mathrm{kg/m^3} $$
$$
v = 340 \ \mathrm{m/s}, \qquad \rho = 1.2 \ \mathrm{kg/m^3}
$$
単位を \frac{\mathrm{m}}{\mathrm{s}} と2階建てにする流儀もありますが、本文中ではスラッシュ形式のほうが一般的です。
\nicefrac・\sfrac:斜め分数
LaTeX には、$1/2$ より引き締まった「小さな斜め分数」を出すパッケージがあります。
% プリアンブルに \usepackage{nicefrac}
$\nicefrac{1}{2}$
% プリアンブルに \usepackage{xfrac}(より高品質)
$\sfrac{1}{2}$
\nicefrac{1}{2} や \sfrac{1}{2} は、分子が左上・分母が右下に小さく配置されたコンパクトな分数を出力します。レシピの「2分の1カップ」のような、本文によくなじむ表記です。ただし KaTeX はどちらも未対応なので、Web では 1/2 か \tfrac{1}{2} で代用してください。
割合・パーセント
割合は分数とパーセントの併記がよく使われます。パーセント記号は \% とエスケープが必要な点に注意してください(% のままだと LaTeX ではコメント扱いになり、それ以降が消えます)。
$$ \frac{3}{4} = 0.75 = 75\% $$
$$
\frac{3}{4} = 0.75 = 75\%
$$
スラッシュ表記まで押さえれば、分数の「書き方」は一通り完成です。次は、分数と見た目がそっくりなのに意味がまったく違う記法——二項係数を区別しておきましょう。
二項係数 \binom との違い
組合せの数(二項係数)は、分数とよく似た「上下に数を重ねる」記法ですが、横線を引かず、全体を括弧で囲みます。これを \frac で無理やり作ろうとすると崩れるので、専用コマンド \binom を使います。
$$ \binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k)!} $$
$$
\binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k)!}
$$
左辺が二項係数(横線なし・括弧つき)、右辺が定義の分数(横線あり)です。両者の見た目の違いがそのまま「コマンドの使い分け」になっています。高校数学の ${}_n C_k$ と同じ意味で、大学以降の数学・統計ではほぼ \binom 表記が使われます。

並べてみると違いは明らかです。\frac{n}{k} は横線を引いて「n 割る k」を表しますが、\binom{n}{k} は横線を引かず全体を大きな括弧で囲み、「n 個から k 個選ぶ組合せの数」を表します。見た目が似ているからといって \frac で代用すると意味が変わってしまうので、二項係数には必ず専用の \binom を使いましょう。
\frac と同様に、サイズ固定版の \dbinom(常に大)と \tbinom(常に小)もあります。インラインで二項係数を大きく見せたいときは $\dbinom{n}{k}$(\dbinom{n}{k})です。
\genfrac:分数系記法の万能コマンド
実は \frac も \binom も、内部では \genfrac という汎用コマンド(amsmath)の特殊な場合です。
\genfrac{左括弧}{右括弧}{線の太さ}{スタイル}{上}{下}
$$ \genfrac{}{}{0pt}{}{n}{k}, \qquad \genfrac{[}{]}{0pt}{}{n}{k}, \qquad \genfrac{(}{)}{1pt}{}{a}{b} $$
$$
\genfrac{}{}{0pt}{}{n}{k}, \qquad
\genfrac{[}{]}{0pt}{}{n}{k}, \qquad
\genfrac{(}{)}{1pt}{}{a}{b}
$$
1つ目は「横線なしで上下に重ねるだけ」(合同式の法の表記やベクトルの成分の略記に便利)、2つ目は角括弧版の二項係数(第2種スターリング数などで使用)、3つ目は太い横線の分数です。\genfrac は KaTeX でも対応しています。めったに使いませんが、「横線のない分数を書きたい」と思ったときに思い出すと役立ちます。
記法の引き出しが揃ったので、最後に実際の数式の中で分数がどう活躍するか、コピペで使える実例集を見ていきましょう。
実践でよく使う分数の数式集(コピペ用)
二次方程式の解の公式
$$ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a} $$
$$
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}
$$
分子に \pm(プラスマイナス)と \sqrt{}(平方根)を組み合わせた、分数の代表例です。
微分(ライプニッツ記法)
$$ \frac{dy}{dx}, \qquad \frac{d^2y}{dx^2}, \qquad \frac{\partial f}{\partial x} $$
$$
\frac{dy}{dx}, \qquad \frac{d^2y}{dx^2}, \qquad \frac{\partial f}{\partial x}
$$
微分は「分数の形をした記法」の筆頭です。2階微分は分子側が d^2y、分母側が dx^2 と、2乗の位置が分子と分母で異なる点に注意してください。偏微分は \partial($\partial$)を使います。$d$ をローマン体にする流儀では \frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x} と書きます。詳しくは偏微分・全微分の記事を参照してください。
微分の定義(極限との組み合わせ)
$$ f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) – f(x)}{h} $$
$$
f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) - f(x)}{h}
$$
\lim と \frac の組み合わせです。ブロック数式では \lim の下に $h \to 0$ が自動で配置されます。
ベイズの定理
$$ P(A \mid B) = \frac{P(B \mid A)\, P(A)}{P(B)} $$
$$
P(A \mid B) = \frac{P(B \mid A)\, P(A)}{P(B)}
$$
条件付き確率の縦線 \mid と分数の組み合わせです。機械学習・統計の文書で最も書く頻度が高い分数かもしれません。
ガウス分布の確率密度関数
$$ f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left(-\frac{(x – \mu)^2}{2\sigma^2}\right) $$
$$
f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left(-\frac{(x - \mu)^2}{2\sigma^2}\right)
$$
分数が2箇所に登場します。\exp の中の分数は \left( \right) で括弧の高さを合わせるのがポイントです。
運動エネルギーと万有引力
$$ E = \tfrac{1}{2}mv^2, \qquad F = G\frac{m_1 m_2}{r^2} $$
$$
E = \tfrac{1}{2}mv^2, \qquad F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}
$$
係数の $\tfrac{1}{2}$ は小さめに、本体の分数 $\frac{m_1 m_2}{r^2}$ は通常サイズに——前のセクションで説明したサイズの使い分けが、実際の物理式でこう活きてきます。
調和級数・バーゼル問題
$$ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6} $$
$$
\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}
$$
総和記号と分数の組み合わせです。総和の書き方は総和Σと総乗Πの記事で詳しく扱っています。
実例が揃ったところで、環境差で困らないために KaTeX での対応状況を確認しておきましょう。
LaTeX vs KaTeX の対応状況
本ブログを含む多くの Web サイト(Qiita、はてなブログなど)は KaTeX または MathJax で数式をレンダリングしています。分数まわりの対応状況は次のとおりです。
| コマンド | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|
\frac |
対応 | 基本の分数 |
\dfrac |
対応 | 常にディスプレイサイズ |
\tfrac |
対応 | 常にテキストサイズ |
\displaystyle |
対応 | 式全体を大きく |
\cfrac |
対応 | 連分数 |
\cfrac[l]・\cfrac[r] |
非対応 | 位置指定は使えない |
\binom・\dbinom・\tbinom |
対応 | 二項係数 |
\genfrac |
対応 | 汎用分数 |
\nicefrac |
非対応 | 1/2 か \tfrac で代用 |
\sfrac |
非対応 | 同上 |
主要コマンドはすべて KaTeX で動きます。非対応なのは \nicefrac・\sfrac と \cfrac の位置指定オプションだけ、と覚えておけば実務で困りません。なお LaTeX 文書側では、\dfrac・\tfrac・\cfrac・\binom・\genfrac は amsmath パッケージ由来なので、プリアンブルに \usepackage{amsmath} を入れておきましょう。
よくある間違いとTips
間違い1:分子と分母を逆に書く
\frac{分子}{分母} の順番を逆にする、最も古典的なミスです。
% NG: これは 2/1 になってしまう
\frac{2}{1}
% OK: 1/2 はこちら
\frac{1}{2}
「第1引数が上(分子)、第2引数が下(分母)」——手書きで分数を書くときの順番(先に分子を書く人が多い)と同じ、と覚えてください。
間違い2:複数文字なのに波括弧を省略する
% NG: 最初の1文字しか引数にならない
\frac x+1 x-1
% OK: 波括弧で囲む
\frac{x+1}{x-1}
波括弧の省略が許されるのは1文字のときだけです。事故防止のため、常に波括弧を付けるのが安全です。
間違い3:インラインの分数が小さいのを放置する
$\frac{a+b}{c+d}$ のままでは読みにくい場合、本記事で解説した3つの選択肢——\dfrac で大きくする、スラッシュ (a+b)/(c+d) にする、ブロック数式に出す——から文脈に合うものを選びましょう。
間違い4:分数を囲む括弧が小さいまま
% NG: 括弧が分数からはみ出される
(\frac{a}{b})^2
% OK: \left \right で自動調整
\left(\frac{a}{b}\right)^2
分数を括弧で囲むときは \left( \right) をセットで使う、と体に覚えさせてしまうのがおすすめです。
Tips1:分数に色をつけて強調する
導出の途中で注目してほしい分数には色をつけられます。
$$ \frac{\color{red} a}{\color{blue} b} $$
$$
\frac{\color{red} a}{\color{blue} b}
$$
分子と分母を色分けすると、「どこが分子でどこが分母か」を講義資料などで視覚的に示せます。色付けの詳細は数式に色をつける記事を参照してください。
Tips2:帯分数は書かない
LaTeX(および大学以降の数学)では、帯分数 $2\tfrac{1}{2}$ は積 $2 \times \tfrac{1}{2}$ と紛らわしいため使いません。仮分数 $\tfrac{5}{2}$ か小数 $2.5$ で書きましょう。どうしても帯分数が必要な場合(小学校向け教材など)は 2\tfrac{1}{2} のように \tfrac を添えて書きます。
よくある質問(FAQ)
検索でよく見かける疑問を、コピペできる形で簡潔にまとめておきます。
Q. LaTeX で分数はどう書く?
A. \frac{分子}{分母} です。例えば \frac{1}{2} で $\frac{1}{2}$ になります。第1引数が上(分子)、第2引数が下(分母)です。
Q. frac の前のバックスラッシュは必要?
A. 必要です。\frac(先頭に \)が正しい書き方で、frac だけでは動きません。
Q. インラインの分数が小さくなる。大きく表示するには?
A. \dfrac{1}{2} を使うと、本文中でもディスプレイ数式と同じ大きさになります。式全体を大きくしたいときは \displaystyle を先頭に付けます。
Q. \frac と \dfrac と \tfrac の違いは?
A. \frac は文脈でサイズが変わり、\dfrac は常に大きく(display)、\tfrac は常に小さく(text)表示します。係数として書く分数は \tfrac が引き締まって見えます。
Q. 連分数(分数の入れ子)をきれいに書くには?
A. \cfrac{1}{1+\cfrac{1}{2}} のように \cfrac を使うと、各段が同じ大きさで読みやすくなります。\frac の入れ子だと下の段ほど潰れてしまいます。
まとめ
本記事では、LaTeX で分数を書く方法を逆引きできる形で網羅しました。
- 基本:
\frac{分子}{分母}。第1引数が上、第2引数が下。波括弧は常に付ける - インラインで大きく: 分数だけなら
\dfrac、式全体なら\displaystyle。ただし多用すると行間が乱れるので、単純な分数はスラッシュa/bが第一候補 - サイズ固定:
\dfrac(常に大)と\tfrac(常に小)。係数の分数は\tfracが引き締まる - 連分数:
\cfracを使うと全段が同じサイズで読みやすい(\fracの入れ子はつぶれる) - 括弧との組み合わせ:
\left( \right)で括弧の高さを分数に合わせる - 二項係数: 横線のない
\binom{n}{k}。分数とは別コマンド。さらに一般化した\genfracもある - KaTeX: 主要コマンドはすべて対応。
\nicefrac・\sfrac・\cfrac[l]のみ非対応
分数は微分・確率・物理公式など、あらゆる数式の骨格です。迷ったら本記事の早見表に戻れば、すぐ正しいコマンドにたどり着けるはずです。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 偏微分・全微分をLaTeXで書く — 分数形式の微分表記
- 積分記号をLaTeXで書く — 分数を含む被積分関数
- 括弧のサイズ調整(left・right・big) — 分数と括弧の組み合わせ
- 総和Σと総乗ΠをLaTeXで書く — 分数を含む級数
関連記事:LaTeX数式記法シリーズ
