分数は数学の最も基本的な表記の一つでありながら、LaTeXで書くときにはいくつかの選択肢があります。通常のレポートで使う \frac だけでなく、行間を詰めたくないときの \dfrac、連分数に特化した \cfrac など、状況に応じた使い分けが必要です。
分数を使いこなすことで、積分や微分の式、確率の条件付き確率、物理学の公式など、あらゆる数式をきれいに書けるようになります。
本記事の内容
\fracの基本的な書き方\dfracと\tfracの違い\cfracを使った連分数の書き方- 分数を含む複雑な数式の書き方
- よくある間違いとTips
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- argminやargmaxをLatexで表現する — LaTeXの基本コマンド
\frac:基本の分数コマンド
分数の直感的なイメージ
分数とは「割り算の結果」を式の中で表現する方法です。手書きのときは横線を引いて上に分子、下に分母を書きますが、LaTeXでもまったく同じ構造を \frac{分子}{分母} で書きます。
基本構文
$$ \frac{a}{b} $$
$$
\frac{a}{b}
$$
\frac コマンドは2つの引数を取ります。第1引数が分子(numerator)、第2引数が分母(denominator)です。この順番を間違えないようにしましょう。
数値の分数
具体的な数値で書いてみます。
$$ \frac{1}{2}, \quad \frac{3}{4}, \quad \frac{22}{7} $$
$$
\frac{1}{2}, \quad \frac{3}{4}, \quad \frac{22}{7}
$$
数式を含む分数
分子や分母には、任意の数式を入れることができます。
$$ \frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1} = x + 1 $$
$$
\frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1} = x + 1
$$
分子・分母が複雑になっても、波括弧 {} で囲めば正しくレンダリングされます。
分数の入れ子
分数の中にさらに分数を入れることもできます。
$$ \frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}} = \frac{a}{b} \cdot \frac{d}{c} = \frac{ad}{bc} $$
$$
\frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}} = \frac{a}{b} \cdot \frac{d}{c} = \frac{ad}{bc}
$$
ただし、入れ子の分数はどんどん小さくなって読みづらくなります。次に紹介する \dfrac を使うと改善できます。
\frac の基本を押さえました。次に、分数のサイズを制御するコマンドを見ていきましょう。
\dfrac と \tfrac:サイズの制御
ディスプレイスタイルとテキストスタイル
LaTeXの数式には2つの主要なスタイルがあります。
- ディスプレイスタイル(displaystyle): ブロック数式(
$$...$$)で使われる大きなサイズ - テキストスタイル(textstyle): インライン数式(
$...$)で使われる小さなサイズ
\frac はスタイルに応じて自動的にサイズが変わります。ブロック数式では大きく、インライン数式では小さくなります。
\dfrac:常にディスプレイサイズで表示
\dfrac(display fraction)は、インライン数式の中でも分数をディスプレイサイズ(大きなサイズ)で表示します。
インラインで通常の \frac を使うと:$\frac{a}{b}$(小さい)
インラインで \dfrac を使うと:$\dfrac{a}{b}$(大きい)
% 通常サイズ
$\frac{a}{b}$
% ディスプレイサイズ(大きい)
$\dfrac{a}{b}$
\dfrac はインライン数式で分数を目立たせたいときに便利ですが、行間が広がってしまうため多用は避けましょう。
\tfrac:常にテキストサイズで表示
逆に、\tfrac(text fraction)はブロック数式の中でも分数を小さなサイズで表示します。
$$ \tfrac{a}{b} \quad \text{vs} \quad \frac{a}{b} $$
$$
\tfrac{a}{b} \quad \text{vs} \quad \frac{a}{b}
$$
式が横に長くなりすぎるのを防ぎたいときや、添字の中の分数を小さくしたいときに使います。
使い分けの指針
| コマンド | サイズ | 使いどころ |
|---|---|---|
\frac |
自動 | 通常の分数(最も一般的) |
\dfrac |
常に大 | インライン数式で分数を目立たせたいとき |
\tfrac |
常に小 | ブロック数式で分数を小さくしたいとき |
ほとんどの場合は \frac で十分です。見た目を調整したい場合にのみ \dfrac や \tfrac を使いましょう。
分数のサイズ制御を理解しました。次に、連分数を書くための専用コマンド \cfrac を紹介します。
\cfrac:連分数
連分数とは
連分数(continued fraction)は、分母の中にさらに分数が続く構造です。数論や近似理論で登場し、無理数の表現や収束の良い近似に使われます。
たとえば、黄金比 $\phi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}$ は次のような連分数で表されます。
$$ \phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}} $$
\cfrac の使い方
\cfrac は連分数を見やすく書くための専用コマンドです。
$$ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{3 + \cfrac{1}{4}}} $$
$$
\cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{3 + \cfrac{1}{4}}}
$$
\frac を入れ子にした場合と比較してみましょう。
$$ \frac{1}{2 + \frac{1}{3 + \frac{1}{4}}} $$
\cfrac を使ったほうが、各段の分数が均一なサイズで表示され、はるかに読みやすくなります。
左寄せ・右寄せの連分数
\cfrac は分子を中央揃えにしますが、\cfrac[l] で左寄せ、\cfrac[r] で右寄せにすることもできます。
% 左寄せ
\cfrac[l]{1}{2 + x}
% 右寄せ
\cfrac[r]{1}{2 + x}
ただし、この位置指定はKaTeXではサポートされていない場合があります。
円周率の連分数展開
有名な例として、円周率の連分数展開があります。
$$ \pi = 3 + \cfrac{1}{7 + \cfrac{1}{15 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{292 + \cdots}}}} $$
$$
\pi = 3 + \cfrac{1}{7 + \cfrac{1}{15 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{292 + \cdots}}}}
$$
連分数の書き方がわかりました。次に、分数を使った実際の数式例をいくつか見ていきましょう。
分数を使った実践的な数式
二次方程式の解の公式
$$ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a} $$
$$
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}
$$
分子に \pm(プラスマイナス)と \sqrt{}(平方根)を組み合わせた例です。
ベイズの定理
$$ P(A \mid B) = \frac{P(B \mid A) P(A)}{P(B)} $$
$$
P(A \mid B) = \frac{P(B \mid A) P(A)}{P(B)}
$$
条件付き確率の \mid(縦線)と分数の組み合わせです。
ガウス分布の確率密度関数
$$ f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left(-\frac{(x – \mu)^2}{2\sigma^2}\right) $$
$$
f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left(-\frac{(x - \mu)^2}{2\sigma^2}\right)
$$
分数が2箇所に登場する複雑な式です。\exp の引数の中の \frac は自動的にサイズが調整されますが、\left( と \right) で括弧のサイズを合わせています。
微分の定義
$$ f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) – f(x)}{h} $$
$$
f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) - f(x)}{h}
$$
\lim と \frac の組み合わせです。微分の定義式は数学の基礎中の基礎であり、この書き方は必ず覚えておきましょう。
オイラーの公式
$$ e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta $$
これ自体は分数を含みませんが、$\theta = \pi$ を代入すると有名なオイラーの等式になります。
$$ e^{i\pi} + 1 = 0 $$
分数はさまざまな数式の中で自然に登場します。次に、スラッシュを使った分数表記について解説します。
スラッシュ形式の分数
インラインでのスラッシュ表記
文中で分数を書くとき、行間を乱さないようにスラッシュ / を使うことがあります。
速度は $v = s/t$ で計算できます。
これは $v = s/t$ のように表示されます。単純な分数ならスラッシュ形式のほうがテキストになじみます。
\nicefrac:スラッシュ付き分数
nicefrac パッケージを使うと、きれいなスラッシュ形式の分数が書けます。
% プリアンブルに \usepackage{nicefrac}
$\nicefrac{1}{2}$
ただし、KaTeXでは \nicefrac はサポートされていないため、ブログでは通常のスラッシュ 1/2 か \frac を使いましょう。
いつスラッシュを使うか
| 状況 | 推奨する表記 |
|---|---|
| ブロック数式 | \frac{a}{b} |
| インラインで単純な分数 | a/b |
| インラインで複雑な分数 | \frac{a}{b} または \dfrac{a}{b} |
| 単位の表記 | m/s, kg/m^3 のようにスラッシュ |
スラッシュ形式の使い方を押さえたところで、KaTeXとの互換性について確認しましょう。
LaTeX vs KaTeX の注意点
| コマンド | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|
\frac |
対応 | 基本の分数 |
\dfrac |
対応 | ディスプレイサイズ |
\tfrac |
対応 | テキストサイズ |
\cfrac |
対応 | 連分数 |
\cfrac[l] |
非対応の場合あり | 左寄せ連分数 |
\nicefrac |
非対応 | スラッシュを使って代用 |
基本的なコマンドはすべてKaTeXで使用可能です。安心して使いましょう。
よくある間違いとTips
間違い1:引数の波括弧を忘れる
\frac の引数が1文字の場合は波括弧を省略できますが、複数文字では必須です。
% OK: 1文字なら波括弧省略可
\frac12 % → 1/2
% NG: 複数文字なのに波括弧なし
\frac x+1 x-1 % → 意図通りにならない
% OK: 波括弧で囲む
\frac{x+1}{x-1}
安全のため、常に波括弧をつける習慣をつけましょう。
間違い2:分数の中の分数が小さすぎる
分数を入れ子にすると、内側の分数がどんどん小さくなります。
% 読みづらい(入れ子の分数が小さくなる)
\frac{1}{\frac{a}{b} + \frac{c}{d}}
% 改善策1: dfrac を使う
\frac{1}{\dfrac{a}{b} + \dfrac{c}{d}}
% 改善策2: 式を変形する
\frac{bd}{ad + bc}
可能であれば、分数の入れ子は避けて式を変形するのが最も読みやすくなります。
間違い3:分母・分子を逆に書く
\frac{分子}{分母} の順番を逆にしてしまうミスがよくあります。
% NG: 分子と分母が逆
\frac{2}{1} % これは 1/2 ではなく 2/1
% OK
\frac{1}{2} % これが 1/2
「分子が先、分母が後」と覚えましょう。
Tips1:分数に色をつける
重要な分数を強調するために色をつけることもできます。
$$ \frac{\color{red}{a}}{\color{blue}{b}} $$
$$
\frac{\color{red}{a}}{\color{blue}{b}}
$$
分子と分母を異なる色にすると、どちらが分子でどちらが分母かが一目瞭然になります。
Tips2:分数と括弧の組み合わせ
分数を括弧で囲む場合は、\left と \right で括弧のサイズを自動調整しましょう。
$$ \left(\frac{a}{b}\right)^2 = \frac{a^2}{b^2} $$
$$
\left(\frac{a}{b}\right)^2 = \frac{a^2}{b^2}
$$
\left( と \right) を使わないと、括弧が分数より小さくなってしまいます。
まとめ
本記事では、LaTeXで分数を書くためのコマンドと使い分けを解説しました。
\frac{分子}{分母}: 最も基本的な分数コマンド\dfrac: インラインでも大きなサイズで表示\tfrac: ブロックでも小さなサイズで表示\cfrac: 連分数を見やすく書く専用コマンド- スラッシュ形式: インラインで簡潔に書きたいときに使用
分数は数式の中で最も頻繁に使われる表記の一つです。適切なコマンドを選ぶことで、美しく読みやすい数式を書けるようになります。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 偏微分・全微分をLaTeXで書く — 分数形式の微分表記
- 積分記号をLaTeXで書く — 分数を含む被積分関数
- 括弧のサイズ調整 — 分数と括弧の組み合わせ