積分は微積分学の根幹であり、理工系のあらゆる場面で登場します。物理学で仕事量やエネルギーを求めるとき、確率論で確率密度関数を積分して確率を計算するとき、電磁気学でガウスの法則を書くとき――これらすべてに積分記号が必要です。
LaTeXで積分を書く方法は見た目ほど難しくありませんが、定積分・不定積分・重積分・線積分・面積分・周回積分と種類が多いため、体系的に整理しておくと便利です。
本記事の内容
- 不定積分と定積分の基本的な書き方
- 重積分(二重積分・三重積分)
- 線積分・面積分・体積積分
- 周回積分記号
- 積分の上下限の位置調整
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 分数をLaTeXで書く — 被積分関数内の分数表記
- 総和と総乗をLaTeXで書く — 積分と類似した上下限の書き方
不定積分の書き方
基本構文
不定積分は、積分記号 $\int$ の後に被積分関数を書き、最後に微分要素 $dx$ を付けます。「面積を細い短冊に分けて全部足し合わせる」というイメージの数式表現です。
$$ \int f(x) \, dx $$
$$
\int f(x) \, dx
$$
\int で積分記号 $\int$ を出力します。被積分関数と $dx$ の間の \, は薄いスペースで、見た目を整えるために入れます。この薄いスペースがあるかないかで可読性が大きく変わるため、習慣として入れることを推奨します。
具体例
いくつかの不定積分の例を見てみましょう。
$$ \int x^n \, dx = \frac{x^{n+1}}{n+1} + C \quad (n \neq -1) $$
$$
\int x^n \, dx = \frac{x^{n+1}}{n+1} + C \quad (n \neq -1)
$$
$$ \int e^x \, dx = e^x + C $$
$$ \int \frac{1}{x} \, dx = \ln|x| + C $$
積分定数 $C$ を忘れずに書くのが不定積分のルールです。
不定積分の書き方は以上です。次に、上端と下端を持つ定積分の書き方を見ていきましょう。
定積分の書き方
基本構文
定積分は \int の上付き文字と下付き文字で積分区間を指定します。
$$ \int_a^b f(x) \, dx $$
$$
\int_a^b f(x) \, dx
$$
_a が下端(下限)、^b が上端(上限)です。数式の構文上、下端と上端のどちらを先に書いても構いませんが、\int_a^b の順番が慣例的です。
上下限の位置
ブロック数式では、積分の上下限が積分記号の右肩と右下に配置されます(ディスプレイスタイル)。これはLaTeXの標準的な動作で、教科書でも一般的なレイアウトです。
$$ \int_0^\infty e^{-x} \, dx = 1 $$
$$
\int_0^\infty e^{-x} \, dx = 1
$$
$\infty$ は \infty で出力します。$0$ から $\infty$ までの積分は確率分布の正規化条件や、ラプラス変換などで頻出します。
\limits で上下限を真上・真下に配置
積分記号の真上と真下に上下限を配置したい場合は、\limits コマンドを使います。
$$ \int\limits_a^b f(x) \, dx $$
$$
\int\limits_a^b f(x) \, dx
$$
ただし、積分記号に \limits を使うのは慣習的にはあまり一般的ではありません。総和 $\sum$ や総乗 $\prod$ では \limits が標準ですが、積分では右肩・右下に配置するのが主流です。
定積分の評価記号
定積分を計算した結果を書くときは、評価記号(大括弧と上下端)を使います。
$$ \int_0^1 2x \, dx = \left[ x^2 \right]_0^1 = 1 – 0 = 1 $$
$$
\int_0^1 2x \, dx = \left[ x^2 \right]_0^1 = 1 - 0 = 1
$$
\left[ と \right] で括弧のサイズを自動調整し、_0^1 で評価区間を示しています。この表記は積分の導出過程を丁寧に書くときに欠かせません。
定積分の基本を押さえました。次に、2変数以上の関数を積分する重積分の書き方に進みましょう。
重積分
二重積分
2変数関数 $f(x, y)$ を領域 $D$ 上で積分する二重積分は、積分記号を2つ並べて書きます。立体の体積を求める場面や、2次元の確率密度関数を扱う場面で使います。
$$ \iint_D f(x, y) \, dA $$
$$
\iint_D f(x, y) \, dA
$$
\iint で二重積分記号 $\iint$ を出力します。$dA$ は面積要素で、直交座標では $dA = dx \, dy$ です。
累次積分の形で書くことも多いです。
$$ \iint_D f(x, y) \, dA = \int_a^b \int_{g_1(x)}^{g_2(x)} f(x, y) \, dy \, dx $$
$$
\iint_D f(x, y) \, dA = \int_a^b \int_{g_1(x)}^{g_2(x)} f(x, y) \, dy \, dx
$$
三重積分
3変数関数を立体領域 $V$ 上で積分する三重積分は \iiint を使います。
$$ \iiint_V f(x, y, z) \, dV $$
$$
\iiint_V f(x, y, z) \, dV
$$
$dV$ は体積要素で、直交座標では $dV = dx \, dy \, dz$ です。質量分布から全質量を求めるときなどに使います。
$n$ 重積分
一般に $n$ 重積分を書くには、\int を \cdots とともに並べます。
$$ \idotsint_D f(x_1, \dots, x_n) \, dx_1 \cdots dx_n $$
$$
\idotsint_D f(x_1, \dots, x_n) \, dx_1 \cdots dx_n
$$
\idotsint はamsmath パッケージが提供するコマンドで、積分記号の間にドットが入ります。KaTeXでも利用可能です。
重積分の書き方を理解しました。次は、曲線や曲面に沿って積分する線積分・面積分の書き方を見ていきましょう。
線積分・面積分
線積分
曲線 $C$ に沿った線積分は、積分記号の下に曲線名を書きます。電磁気学で電場の仕事を計算するときや、複素解析で留数定理を使うときに登場します。
$$ \int_C \bm{F} \cdot d\bm{r} $$
$$
\int_C \bm{F} \cdot d\bm{r}
$$
$\bm{F}$ はベクトル場、$d\bm{r}$ は曲線に沿った微小変位ベクトルです。
スカラー場の線積分は次のように書きます。
$$ \int_C f(x, y) \, ds $$
$ds$ は弧長要素で、曲線の微小長さを表します。
面積分
曲面 $S$ 上の面積分は、二重積分記号に曲面名を付けて書きます。
$$ \iint_S \bm{F} \cdot d\bm{S} $$
$$
\iint_S \bm{F} \cdot d\bm{S}
$$
$d\bm{S}$ は面積要素ベクトル(法線方向を向いた微小面積ベクトル)です。ガウスの法則やストークスの定理で使います。
スカラー場の面積分は次のように書きます。
$$ \iint_S f(x, y, z) \, dS $$
$dS$ はスカラーの面積要素です。
体積積分
三重積分を体積 $V$ の領域で行う体積積分も同様に書きます。
$$ \iiint_V \rho(\bm{r}) \, dV $$
密度 $\rho$ を体積 $V$ にわたって積分すると全質量が得られます。
線積分と面積分の書き方がわかりました。次に、閉曲線や閉曲面に沿った周回積分の記号を紹介します。
周回積分
閉曲線上の線積分
閉じた曲線に沿って一周する積分(周回積分)には、積分記号に丸($\oint$)を付けます。
$$ \oint_C \bm{F} \cdot d\bm{r} $$
$$
\oint_C \bm{F} \cdot d\bm{r}
$$
\oint で周回積分記号 $\oint$ を出力します。この記号は電磁気学のアンペールの法則やファラデーの法則で使われます。
$$ \oint_C \bm{B} \cdot d\bm{l} = \mu_0 I_{\text{enc}} $$
これはアンペールの法則で、閉曲線 $C$ に沿った磁場 $\bm{B}$ の線積分が、囲まれた電流 $I_{\text{enc}}$ に比例することを表しています。
閉曲面上の面積分
閉じた曲面に沿った面積分も書く必要がある場合があります。LaTeX標準では \oiint コマンドがありませんが、以下の方法で対応できます。
方法1:\oint\!\!\oint を使う(二重周回積分の近似)
$$ \oint\!\!\oint_S \bm{E} \cdot d\bm{S} = \frac{Q}{\varepsilon_0} $$
$$
\oint\!\!\oint_S \bm{E} \cdot d\bm{S} = \frac{Q}{\varepsilon_0}
$$
\!\! は負のスペースで、2つの $\oint$ を近づけています。
方法2:通常の二重積分で代用
$$ \oiint_S \bm{E} \cdot d\bm{S} $$
KaTeXの一部のバージョンでは \oiint がサポートされている場合もあります。サポートされていない場合は方法1を使いましょう。
周回積分の記号を紹介しました。次に、積分の表記をきれいに整えるためのTipsを見ていきましょう。
積分表記のスタイリング
$dx$ の前にスペースを入れる
被積分関数と微分要素の間にスペースを入れると、数式が読みやすくなります。
$$ \int f(x) \, dx \quad \text{vs} \quad \int f(x)dx $$
左側のように \,(thin space)を入れるのが推奨されます。
% 推奨
\int f(x) \, dx
% 非推奨(スペースなし)
\int f(x)dx
被積分関数が複雑な場合
被積分関数が分数を含む場合、\displaystyle を使うと見やすくなります。
$$ \int_0^1 \frac{x^2}{1 + x^2} \, dx $$
$$
\int_0^1 \frac{x^2}{1 + x^2} \, dx
$$
ブロック数式($$...$$)では自動的に \displaystyle が適用されるため、通常は意識する必要はありません。
置換積分の表記
置換積分を書くときは、変数の置換関係を添えて書きます。
$$ \int f(g(x)) g'(x) \, dx = \int f(u) \, du \quad (u = g(x)) $$
$$
\int f(g(x)) g'(x) \, dx = \int f(u) \, du \quad (u = g(x))
$$
\quad で適切なスペースを入れてから、括弧で置換の定義を添えるスタイルです。
部分積分の表記
部分積分の公式も頻出するので書き方を押さえておきましょう。
$$ \int u \, dv = uv – \int v \, du $$
$$
\int u \, dv = uv - \int v \, du
$$
積分のスタイリングを学んだところで、KaTeXとの互換性について確認しておきましょう。
LaTeX vs KaTeX の注意点
積分記号に関して、KaTeXで注意すべき点をまとめます。
| コマンド | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|
\int |
対応 | 基本の積分記号 |
\iint |
対応 | 二重積分 |
\iiint |
対応 | 三重積分 |
\oint |
対応 | 周回積分 |
\idotsint |
対応 | $n$ 重積分 |
\limits |
対応 | 上下限の位置変更 |
\oiint |
バージョンによる | 閉曲面積分 |
\varoiint |
非対応 | 代替手段を使用 |
基本的な積分記号はすべてKaTeXで使用可能です。\oiint などの特殊な記号がサポートされていない場合は、先述の \oint\!\!\oint で代用できます。
よくある間違いとTips
間違い1:上下限の波括弧を忘れる
上端・下端が複数文字の場合、波括弧で囲まないと最初の1文字だけが上付き・下付きになります。
% NG: 0とnだけが上下限になり、-1が外に出る
\int_0^n-1 f(x) \, dx
% OK: 波括弧で囲む
\int_0^{n-1} f(x) \, dx
間違い2:$dx$ を斜体にしてしまう
数式モードでは $d$ はイタリック体(斜体)になりますが、これは通常の変数と同じ見た目になります。物理学のスタイルでは \mathrm{d} で立体にすることがあります。
% 一般的(イタリック体の d)
\int f(x) \, dx
% 物理学スタイル(立体の d)
\int f(x) \, \mathrm{d}x
どちらが正しいということはなく、分野の慣習に従ってください。
Tips:積分と総和の対比
連続量の積分 $\int$ と離散量の総和 $\sum$ は本質的に同じ操作(足し合わせ)の連続版と離散版です。LaTeXでも書き方が似ています。
$$ \text{連続: } \int_a^b f(x) \, dx \qquad \text{離散: } \sum_{k=a}^b f(k) $$
この対応関係を意識しておくと、新しい積分表記に出会ったときにも直感的に理解できるでしょう。
まとめ
本記事では、LaTeXで積分記号を書くための方法を網羅的に解説しました。
- 基本:
\intで積分記号を書き、_a^bで上下限を指定する - 不定積分:
\int f(x) \, dxで積分定数 $C$ を忘れずに - 重積分:
\iint,\iiint,\idotsintで二重・三重・$n$ 重積分 - 線積分・面積分: 曲線 $C$ や曲面 $S$ を下付き文字で指定
- 周回積分:
\ointで閉曲線上の積分 - スタイリング:
\,で $dx$ の前にスペースを入れる
積分記号は数学・物理・工学で最も頻繁に使われる記号の一つです。本記事の表記法を身につけて、美しい数式を書きましょう。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 総和と総乗をLaTeXで書く — 積分と対になる離散的な操作
- 偏微分・全微分をLaTeXで書く — 積分の逆操作
- 極限limをLaTeXで書く — 積分の定義に使う極限