「LaTeX lim」「latex 極限」で検索してこのページにたどり着いた方の多くは、「lim と打ったら斜体になった」「添字 $x \to \infty$ が lim の真下ではなく右横に付いてしまう」「無限大 ∞ や矢印 → のコマンドが思い出せない」——このどれかで手が止まっているのではないでしょうか。本記事はそうした疑問にコピペできる実例で一気に答えるリファレンスです。
極限は、微分の定義、無限級数の収束、確率論の大数の法則、数値解析の反復法の収束条件まで、解析学とその応用のほぼすべての議論の土台です。レポートや論文でこれだけ頻繁に登場する以上、\lim・\to・\infty の3点セットを一度きちんと押さえておけば、書くたびに調べ直す手間がなくなります。
まずは結論を先に知りたい方のために、冒頭に逆引き早見表と記号のコピペ一覧を置きました。そのあと、基本構文・添字を真下に置く方法・無限大への極限・片側極限・矢印のバリエーション・上極限/下極限・多変数・KaTeX互換・よくある間違いまで、順番に解説していきます。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
- ∞・→ など記号そのもののコピペ一覧
\lim・\to・\inftyの基本構文- インライン数式で添字が横に付く問題(
\displaystyle/\limits/\nolimits) - 無限大への極限:
\infty・-\infty・\pm\infty - 片側極限 $x \to a^{+}$ / $x \to a^{-}$
- 極限で使う矢印の一覧(
\to・\longrightarrow・\xrightarrow{}・\Rightarrowの使い分け) - 上極限
\limsupと下極限\liminf - 数列・多変数・ベクトルの極限、
\sup・\inf・\max・\min - KaTeX対応表とよくある間違い
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
細かい解説に入る前に、極限まわりでよく使うパターンを一覧にまとめます。「とりあえずこれをコピペしたい」という場合はこの表だけで用が足りることも多いはずです。各行の詳細は後続のセクションで解説します。
| やりたいこと | LaTeXコマンド | 表示イメージ |
|---|---|---|
| 基本の極限 | \lim_{x \to a} f(x) |
$\lim\limits_{x \to a} f(x)$ |
| 無限大への極限 | \lim_{x \to \infty} f(x) |
$\lim\limits_{x \to \infty} f(x)$ |
| マイナス無限大へ | \lim_{x \to -\infty} f(x) |
$\lim\limits_{x \to -\infty} f(x)$ |
| 数列の極限 | \lim_{n \to \infty} a_n |
$\lim\limits_{n \to \infty} a_n$ |
| 右極限(右から近づく) | \lim_{x \to a^{+}} f(x) |
$\lim\limits_{x \to a^{+}} f(x)$ |
| 左極限(左から近づく) | \lim_{x \to a^{-}} f(x) |
$\lim\limits_{x \to a^{-}} f(x)$ |
| インラインでも添字を真下に | \lim\limits_{n \to \infty} a_n |
$\lim\limits_{n \to \infty} a_n$ |
| インライン全体を大きく組む | \displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n |
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n$ |
| 上極限 | \limsup_{n \to \infty} a_n |
$\limsup\limits_{n \to \infty} a_n$ |
| 下極限 | \liminf_{n \to \infty} a_n |
$\liminf\limits_{n \to \infty} a_n$ |
| 矢印だけで収束を書く | a_n \to L \quad (n \to \infty) |
$a_n \to L \ (n \to \infty)$ |
| 矢印の上にラベル | X_n \xrightarrow{P} X |
$X_n \xrightarrow{P} X$ |
| 無限大の記号 | \infty |
$\infty$ |
| プラスマイナス無限大 | \pm\infty |
$\pm\infty$ |
| 上限・下限 | \sup_{x \in A} f(x), \inf_{x \in A} f(x) |
$\sup\limits_{x \in A} f(x)$ |
| 多変数の極限 | \lim_{(x, y) \to (a, b)} f(x, y) |
$\lim\limits_{(x, y) \to (a, b)} f(x, y)$ |
最初に押さえるべきことは3つだけです。「lim」の文字は \lim、「近づく」の矢印は \to、無限大は \infty。この3部品を \lim_{変数 \to 行き先} の形に組み合わせれば、ほとんどの極限が書けます。
記号そのもののコピペ一覧:∞・→・⇒
LaTeX が使えない場所——Word、Google ドキュメント、Slack、メールなど——では、記号の文字を直接貼り付けるのが早道です。極限まわりでよく使う記号を Unicode 文字としてまとめておきます。
| 記号 | 読み・意味 | LaTeXコマンド |
|---|---|---|
| ∞ | 無限大 | \infty |
| −∞ | マイナス無限大 | -\infty |
| ±∞ | プラスマイナス無限大 | \pm\infty |
| → | 右矢印(〜に近づく) | \to / \rightarrow |
| ⟶ | 長い右矢印 | \longrightarrow |
| ⇒ | 二重右矢印(ならば) | \Rightarrow |
| ⇔ | 同値 | \Leftrightarrow |
| ↑ / ↓ | 上矢印・下矢印(単調収束) | \uparrow / \downarrow |
| ↗ / ↘ | 斜め矢印(単調増加・減少) | \nearrow / \searrow |
| ↦ | 写像の矢印(極限には使わない) | \mapsto |
Word の数式エディタも「\infty」「\to」と打ってスペースを押すと同じ記号に変換されます(UnicodeMath)。ただし、本格的な数式を含む文書では最初から LaTeX で書くほうが結局速い、というのが筆者の実感です。
記号の正体がわかったところで、これらを組み合わせる基本構文から見ていきましょう。
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 分数をLaTeXで書く — 極限の中で使う分数
- 上付き・下付き文字の書き方 — 添字
_{...}の基本ルール
なお本記事のサンプルはすべて、Webで数式を表示するKaTeX、および一般的なLaTeX(amsmath環境)の両方で動作するように書いています。
\lim の基本
極限とは
直感的に言えば、極限とは「ある値にどんどん近づいていくとき、関数の値がどこに向かうか」を表す概念です。たとえば、$x$ を $0$ に近づけていったとき $\frac{\sin x}{x}$ はどうなるか、と問うのが極限です。$x=0$ そのものでは $\frac{0}{0}$ で値が定まりませんが、$0$ に「限りなく近い」点での値を追いかけると、はっきり $1$ という行き先が見えてきます。

この図のように、$x=0$ では穴が空いている(定義できない)にもかかわらず、左右どちらから近づいても関数値が $1$ という一点に集まっていく――これが「極限が $1$ である」ことの意味です。LaTeX で書きたいのは、まさにこの「近づく」と「行き先」の関係を表す $\lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1$ という式です。
基本構文
$$ \lim_{x \to a} f(x) = L $$
$$
\lim_{x \to a} f(x) = L
$$
\lim で「lim」という文字をローマン体(立体)で出力します。続く _{x \to a} が「$x$ を $a$ に近づける」という条件で、波括弧 { } で囲んだ全体が下付き(添字)になります。\to は右向き矢印 $\to$ を出力し、「近づく」を表します。

上の図は \lim_{x \to a} f(x) を部品ごとに色分けしたものです。\lim が立体の「lim」を、_{...} が真下(または右下)の条件を、\to が矢印を担います。この3つさえ押さえれば、あとは中身を差し替えるだけでほとんどの極限が組めます。
具体例:微分の定義・自然対数の底・有名な極限
基本構文の練習を兼ねて、頻出の極限を組んでみましょう。まずは微分の定義です。
$$ f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) – f(x)}{h} $$
$$
f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) - f(x)}{h}
$$
次に、自然対数の底 $e$ の定義です。
$$ e = \lim_{n \to \infty} \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n $$
$$
e = \lim_{n \to \infty} \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n
$$
そのほかの有名な極限も並べておきます。
$$ \lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1 $$
$$ \lim_{n \to \infty} \frac{n!}{n^n e^{-n} \sqrt{2\pi n}} = 1 $$
最後の式はスターリングの近似に関連する極限です。これらをソースと並べて見ると、組み方の対応がつかみやすくなります。

図のように、左の \lim_{h \to 0}\frac{...}{...} のようなソースが、右のきれいな数式に変換されます。極限の中に分数を入れたいときは \frac{分子}{分母} を、累乗を付けたいときは ^{...} を組み合わせるだけです。分数の書き方そのものは「分数をLaTeXで書く」も参照してください。
基本構文はこれで十分ですが、実際に文中で使うと「添字が真下に来ない」という最初の壁にぶつかります。次のセクションで解決しましょう。
インライン数式で lim の添字が横に付く問題
真下か右下かはスタイルで決まる
\lim を使ううえで最も多くの人が戸惑うのが、添字($n \to \infty$)が lim の真下に来るか、右下に来るかの違いです。これは書き手のミスではなく、数式が「ディスプレイスタイル」で組まれているか「テキストスタイル」で組まれているかによる LaTeX の仕様です。
ブロック数式($$...$$ で囲んだ独立行の式)はディスプレイスタイルになり、条件が lim の真下に配置されます。
$$ \lim_{n \to \infty} a_n = L $$
一方、本文中に埋め込むインライン数式($...$)はテキストスタイルになり、行の高さを節約するために条件が lim の右下(通常の下付き文字と同じ位置)に配置されます:$\lim_{n \to \infty} a_n = L$

図の左がディスプレイスタイル(真下)、右がインライン(右下)です。同じ \lim_{n \to \infty} a_n = L というソースでも、置かれる場所によって見た目が変わる点に注意してください。これは \sum や \int、\prod でも共通する LaTeX の挙動です。
\displaystyle と \limits で真下に強制する
「インラインの式でも添字を真下に置きたい」というときは、次の2つの方法があります。
% 方法1: \displaystyle でその場をディスプレイスタイルに切り替える
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = L$
% 方法2: \limits で「直前の演算子の真下」を強制する
$\lim\limits_{n \to \infty} a_n = L$
2つの違いは効果の範囲です。
\displaystyleは「この式をディスプレイスタイルで組め」という指示で、\limだけでなく同じ式内の分数\fracなども大きく組まれます。行の高さは広がります。\limitsは「直前の演算子に対してだけ、添字を真上・真下に置け」というピンポイントの指示です。\lim\limits_{...}のように演算子の直後に書きます。
逆に、ディスプレイスタイルの式で添字を右下に寄せたいときは \nolimits を使います。
% ディスプレイでも右下に寄せたいとき
$$ \lim\nolimits_{n \to \infty} a_n = L $$
本文に挟む短い極限は素の $\lim_{...}$ のままで十分読めますが、添字の条件が長い場合(多変数や $\|\bm{x}\| \to 0$ など)は、つぶれて読みにくくなるので \displaystyle で真下に展開すると親切です。
添字の位置をコントロールできるようになりました。次は、極限の「行き先」として最頻出の無限大 $\infty$ を見ていきます。
無限大 ∞ への極限:\infty・-\infty・\pm\infty
無限大の記号 $\infty$ は \infty で出力します。infinity の略で、\inf ではない点に注意してください(\inf は後述する下限 $\inf$ という別の演算子です)。
$$ \lim_{x \to \infty} f(x), \quad \lim_{x \to -\infty} f(x), \quad \lim_{x \to +\infty} f(x) $$
$$
\lim_{x \to \infty} f(x), \quad
\lim_{x \to -\infty} f(x), \quad
\lim_{x \to +\infty} f(x)
$$
マイナス無限大は -\infty、プラスを明示したいときは +\infty と、符号をそのまま前に付けるだけです。$+\infty$ と $\infty$ は数学的には同じですが、$-\infty$ と対比して向きを強調したいときは明示的に +\infty と書くこともあります。「プラスマイナス無限大」は \pm\infty で $\pm\infty$ になります。
$$ \lim_{x \to 0} \frac{1}{x^2} = \infty, \qquad \int_{-\infty}^{+\infty} e^{-x^2} \, dx = \sqrt{\pi} $$
$$
\lim_{x \to 0} \frac{1}{x^2} = \infty, \qquad
\int_{-\infty}^{+\infty} e^{-x^2} \, dx = \sqrt{\pi}
$$
左の式のように、$\infty$ は極限の行き先(添字の中)だけでなく右辺にも現れます。これは「$x$ を $0$ に近づけると $f(x)$ は限りなく大きくなる(発散する)」という意味で、値が収束しているわけではない点に注意してください。右の式のように積分区間の端点にもよく登場します。
無限大記号のフォントによる違い、区間 $(0, \infty)$ の書き方、アレフ数など、$\infty$ そのものを深掘りしたい方は「無限大∞の書き方」にまとめています。
無限大への極限が書けたら、次は「どちら側から近づくか」を指定する片側極限です。
片側極限:右極限 $x \to a^{+}$ と左極限 $x \to a^{-}$
関数によっては、右から近づいたときと左から近づいたときで行き先が違う場合があります(例: $\lim_{x\to 0}\frac{1}{x}$ は右からは $+\infty$、左からは $-\infty$)。そこで、近づく向きを指定するのが片側極限です。行き先の肩(上付き文字)に + や - を付けて書きます。
$$ \lim_{x \to a^{+}} f(x), \quad \lim_{x \to a^{-}} f(x) $$
$$
\lim_{x \to a^{+}} f(x), \quad \lim_{x \to a^{-}} f(x)
$$
$a^{+}$ は右側($a$ より大きい側)から近づく右極限、$a^{-}$ は左側($a$ より小さい側)から近づく左極限です。肩文字は a^+ と波括弧なしでも1文字なら同じ結果になりますが、+0 のように複数文字を載せるときは a^{+0} と波括弧が必須です。

図のように、$x \to a^{+}$ は数直線上で $a$ の右側から、$x \to a^{-}$ は左側から $a$ へ近づくことを表します。両側の片側極限が一致して初めて、通常の(両側)極限 $\lim_{x \to a}$ が存在します。LaTeX 上はソース \lim_{x \to a^{+}} f(x) がそのまま右側の表示結果に対応します。
ここまで極限の「行き先」の書き方を見てきました。次は、極限記法のもう一つの主役である矢印そのものを整理します。
極限で使う矢印 → の一覧:\to・\rightarrow・\xrightarrow{}
基本は \to(= \rightarrow)
極限の「近づく」を表す右矢印 $\to$ には、\to と \rightarrow の2つのコマンドがあります。出力はまったく同じで、\to のほうがタイプ数が少ないため、極限ではこちらが定番です。極限の文脈で登場する矢印を一覧にまとめます。
| 出力 | コマンド | 極限での使いどころ |
|---|---|---|
| $\to$ | \to |
「〜に近づく」の標準。\lim_{x \to a} |
| $\rightarrow$ | \rightarrow |
\to とまったく同じ出力 |
| $\longrightarrow$ | \longrightarrow |
長い右矢印。$f(x) \longrightarrow L$ と本文で強調 |
| $\xrightarrow{n \to \infty}$ | \xrightarrow{...} |
矢印の上にラベルを載せる |
| $\Rightarrow$ | \Rightarrow |
「ならば」(論理)。極限の「近づく」には使わない |
| $\uparrow$ | \uparrow |
下から単調に収束:$a_n \uparrow L$ |
| $\downarrow$ | \downarrow |
上から単調に収束:$a_n \downarrow L$ |
| $\nearrow$ | \nearrow |
単調増加しながら収束 |
| $\searrow$ | \searrow |
単調減少しながら収束 |
| $\mapsto$ | \mapsto |
写像の対応 $x \mapsto f(x)$。極限には使わない |

図の左がコマンド、右が実際の出力です。表の下2つは「見た目が似ているが意味が違う」要注意ペアです。二重矢印 $\Rightarrow$ は「ならば」という論理関係、$\mapsto$ は写像の対応を表す記号で、どちらも「近づく」の意味はありません。\lim_{x \Rightarrow 0} のような書き方は文法エラーにはならないぶん、意味の間違いとして残ってしまうので気をつけてください。
矢印だけで収束を書く記法
\lim を使わずに、矢印だけで収束を表すこともよくあります。
$$ a_n \to L \quad (n \to \infty) $$
$$
a_n \to L \quad (n \to \infty)
$$
$a_n \to L \ (n \to \infty)$ は「$n$ を限りなく大きくすると $a_n$ は $L$ に近づく」という意味で、$\lim_{n\to\infty} a_n = L$ と同じことを表します。論文や教科書では、文章の流れの中で軽く触れるときは矢印記法、定理の主張として正式に書くときは \lim 記法、と使い分けることが多いです。どちらを使っても誤りではありませんが、同じ文書内では記法を統一すると読みやすくなります。
\xrightarrow{} で矢印の上にラベルを載せる
収束の「種類」を矢印の上に添えたいときは \xrightarrow{ラベル} を使います。中身の長さに応じて矢印が自動で伸びるのが特徴です。確率論では、さまざまな種類の収束がこの記法で区別されます。
| 収束の種類 | 表記 | LaTeX |
|---|---|---|
| ほぼ確実に | $X_n \xrightarrow{\text{a.s.}} X$ | X_n \xrightarrow{\text{a.s.}} X |
| 確率で | $X_n \xrightarrow{P} X$ | X_n \xrightarrow{P} X |
| 分布で | $X_n \xrightarrow{d} X$ | X_n \xrightarrow{d} X |
| $L^p$ で | $X_n \xrightarrow{L^p} X$ | X_n \xrightarrow{L^p} X |

図のように、\xrightarrow{ラベル} は矢印の上に「収束の種類」を表す小さな文字を載せます。a.s.(almost surely)はほぼ確実な収束、P は確率収束、d(distribution)は分布収束です。a.s. のように複数文字をローマン体で出したいときは \xrightarrow{\text{a.s.}} と \text{...} で囲みます。
$$ X_n \xrightarrow{P} X \quad (n \to \infty) $$
$$
X_n \xrightarrow{P} X \quad (n \to \infty)
$$
左右両向き・可換図式・ベクトルの矢印 \vec など、矢印記号の全体像は「矢印記号の書き方 完全ガイド」にまとめています。
矢印を押さえたところで、\lim の兄弟コマンドである上極限・下極限に進みましょう。
上極限 \limsup と下極限 \liminf
上極限と下極限とは
数列 $\{a_n\}$ が収束するとは限りません。たとえば $a_n = (-1)^n$ は $+1$ と $-1$ を行き来して、どこにも収束しません。こうした振動する数列に対しても「最終的にどのあたりを動き回るか」を定義するために、上極限(limit superior)と下極限(limit inferior)が使われます。イメージとしては、上極限は「数列が最終的に下回らないギリギリの上界(天井)」、下極限は「数列が最終的に上回らないギリギリの下界(床)」です。

図の灰色が振動する数列、赤線が「以降の最大値(sup)の極限」=上極限へ向かう包絡線、水色が「以降の最小値(inf)の極限」=下極限へ向かう包絡線です。数列本体は収束しなくても、天井と床はそれぞれ一定値に落ち着いていく様子が読み取れます。この2つの値が一致すれば、数列は収束し通常の極限を持ちます。
書き方
$$ \limsup_{n \to \infty} a_n, \quad \liminf_{n \to \infty} a_n $$
$$
\limsup_{n \to \infty} a_n, \quad \liminf_{n \to \infty} a_n
$$
\limsup と \liminf はそれぞれ専用のコマンドで、添字の付け方は \lim とまったく同じです。\lim \sup と分けて書くと lim sup の間隔や添字の位置が崩れるので、必ず一語のコマンドを使ってください。
別表記
上極限・下極限は、以下のように定義から書くこともあります。
$$ \limsup_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} \sup_{k \geq n} a_k $$
$$ \liminf_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} \inf_{k \geq n} a_k $$
$$
\limsup_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} \sup_{k \geq n} a_k
$$
ここで \sup は上限(supremum)、\inf は下限(infimum)を表します。この定義式は「$n$ 番目以降の項だけを見たときの最大値($\sup_{k \geq n} a_k$)を、$n$ を進めながら追いかけた極限が上極限」という意味で、$\lim$・$\sup$・添字を入れ子にした典型的な式です。LaTeX 上は \lim・\sup それぞれに _{...} で添字を付けて並べるだけで組めます。なお、横線付きの $\overline{\lim}$ / $\underline{\lim}$ という記法で上極限・下極限を表す流儀もあり、その場合は \overline{\lim} / \underline{\lim} のように \overline / \underline を使います。
上極限と下極限が一致する場合
数列が収束するとき、上極限と下極限は一致し、通常の極限に等しくなります。
$$ \lim_{n \to \infty} a_n = L \quad \Leftrightarrow \quad \limsup_{n \to \infty} a_n = \liminf_{n \to \infty} a_n = L $$
上極限と下極限の書き方を理解しました。次に、数列や多変数といった「添字が少し複雑になる」極限の書き方を紹介します。
数列・多変数・ベクトルの極限
数列の極限
数列 $\{a_n\}$ の極限は、添字を $n \to \infty$ とするのが定番です。「無限大への極限」と組み合わせて使います。
$$ \lim_{n \to \infty} a_n = L, \qquad \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} = 0 $$
$$
\lim_{n \to \infty} a_n = L, \qquad
\lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} = 0
$$
数列では変数に整数を表す $n$ や $k$ を使い、向き先はほぼ常に $\infty$ です。式の間隔を少し広げたいときは \quad(中くらい)や \qquad(広め)を挟みます。
2変数の極限
2変数関数 $f(x, y)$ の極限は、下付きの条件が少し長くなります。
$$ \lim_{(x, y) \to (a, b)} f(x, y), \qquad \lim_{(x, y) \to (0, 0)} \frac{xy}{x^2 + y^2} $$
$$
\lim_{(x, y) \to (a, b)} f(x, y), \qquad
\lim_{(x, y) \to (0, 0)} \frac{xy}{x^2 + y^2}
$$
ベクトル・ノルムの極限
$$ \lim_{\bm{x} \to \bm{a}} f(\bm{x}), \qquad \lim_{\|\bm{x}\| \to 0} \frac{f(\bm{x})}{\|\bm{x}\|} $$
$$
\lim_{\bm{x} \to \bm{a}} f(\bm{x}), \qquad
\lim_{\|\bm{x}\| \to 0} \frac{f(\bm{x})}{\|\bm{x}\|}
$$

図のように、多変数では添字が $(x,y) \to (0,0)$ のように長くなります。ベクトルは太字 \bm{x}、ノルムは \|\bm{x}\| で囲って書きます。添字が長い分インラインだとつぶれやすいので、こうした式は $$...$$ のブロック数式か \displaystyle で組むと読みやすくなります。
多変数の極限の書き方がわかりました。次に、極限に関連するその他の演算子を紹介します。
関連する演算子:\sup・\inf・\max・\min
極限とよく一緒に使われる演算子も、\lim と同じ仲間(添字を真下に取れる「大型演算子」)として用意されています。書き方の発想は \lim とまったく同じで、コマンド名の直後に _{条件} を付けるだけです。
\sup と \inf
上限 \sup(supremum)と下限 \inf(infimum)は、最大値・最小値が存在しない集合でも「ギリギリの上界・下界」を定義できる演算子です。上極限・下極限の定義にも登場しました。添字には「どの範囲で取るか」を書きます。
$$ \sup_{x \in A} f(x), \quad \inf_{x \in A} f(x) $$
$$
\sup_{x \in A} f(x), \quad \inf_{x \in A} f(x)
$$
x \in A の \in は「集合 $A$ に属する」を表す記号です。\sup も \lim と同じく立体(ローマン体)で出力され、sup とそのまま打つと斜体の変数になってしまう点も \lim と共通です。また、繰り返しになりますが \inf は下限、\infty は無限大で、まったくの別コマンドです。
\max と \min
最大値 \max・最小値 \min も同じ要領です。有限個の中から最大・最小を取るときに使い、添字には「$i$ がどの範囲を動くか」を書きます。
$$ \max_{1 \leq i \leq n} a_i, \quad \min_{1 \leq i \leq n} a_i $$
$$
\max_{1 \leq i \leq n} a_i, \quad \min_{1 \leq i \leq n} a_i
$$
1 \leq i \leq n の \leq は「以下($\leq$)」を表します。これらの演算子も、ブロック数式では添字が真下に、インラインでは右下に配置されるという \lim と同じ挙動をします。
大きさのオーダー
計算量の解析で使う漸近記法も極限と関連しています。
$$ f(n) = O(g(n)) \quad \Leftrightarrow \quad \limsup_{n \to \infty} \frac{|f(n)|}{g(n)} < \infty $$
$$
f(n) = O(g(n)) \quad \Leftrightarrow \quad \limsup_{n \to \infty} \frac{|f(n)|}{g(n)} < \infty
$$
関連する演算子を紹介しました。次に、Webで数式を表示するときに気になるKaTeXでの互換性を確認しましょう。
LaTeX vs KaTeX の注意点
ブログやドキュメントで数式を表示するときは、フル LaTeX ではなく軽量な KaTeX エンジンが使われることが多くあります(当ブログもその一つです)。極限まわりの主要コマンドが KaTeX に対応しているかをまとめます。
| コマンド | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|
\lim |
対応 | — |
\limsup |
対応 | — |
\liminf |
対応 | — |
\displaystyle |
対応 | 添字を真下に |
\limits |
対応 | 演算子の真上・真下に強制 |
\nolimits |
対応 | 右下に寄せる |
\to |
対応 | — |
\rightarrow, \longrightarrow |
対応 | — |
\xrightarrow |
対応 | 矢印上にテキスト |
\sup, \inf |
対応 | — |
\max, \min |
対応 | — |
\infty |
対応 | — |
\varlimsup, \varliminf |
非対応 | 横線付きの上極限・下極限。\overline{\lim} 等で代替 |
極限関連のほとんどのコマンドは KaTeX でもそのまま使えます。例外は横線付きの $\overline{\lim}$ / $\underline{\lim}$ 記法を出す \varlimsup / \varliminf で、これは KaTeX 非対応のため、必要なら \overline{\lim}_{n\to\infty} のように \overline で代用します。
互換性を確認できたところで、最後につまずきやすいポイントをNG/OKの対比で整理します。
よくある間違いとTips
LaTeX で極限を書くときにつまずきやすい3つの間違いを、NG と OK の対比で整理します。

図の通り、上から「\lim を付け忘れて斜体になる」「波括弧を忘れて添字がずれる」「\mapsto を使ってしまう」の3パターンです。いずれも左の NG ソースが意図と違う表示を生み、右の OK ソースで正しく組めます。以下で1つずつ見ていきましょう。
間違い1:lim をそのまま書く
% NG: イタリック体になってしまう
$lim_{x \to 0} f(x)$
% OK: \lim でローマン体
$\lim_{x \to 0} f(x)$
\lim を使わずに lim と書くと、$l$、$i$、$m$ がそれぞれ独立した変数として解釈され、イタリック体の $lim$ になってしまいます。添字が真下に付かなくなる副作用もあります。
間違い2:矢印のコマンドを間違える
% NG: 集合論の写像の矢印(使い方が違う)
$\lim_{x \mapsto 0}$
% OK: 「向かう」の矢印
$\lim_{x \to 0}$
\mapsto($\mapsto$)は写像の定義 $x \mapsto x^2$ に使う矢印で、極限の「近づく」とは意味が異なります。同様に、二重矢印 \Rightarrow($\Rightarrow$)は論理の「ならば」なので、これも極限の添字には使いません。
間違い3:下付き文字の波括弧忘れ
% NG: n だけが下付きになる
$\lim_n \to \infty$
% OK: 全体を波括弧で囲む
$\lim_{n \to \infty}$
_ の直後は1文字(または1コマンド)しか下付きにならないため、\lim_n \to \infty と書くと $n$ だけが添字になり、$\to \infty$ が本文サイズで横に並んでしまいます。条件全体を _{n \to \infty} と波括弧で囲むのが正解です。
Tips:ランダウの記号
極限に関連して、ランダウの記号($O$, $o$, $\Theta$)もよく使います。
$$ f(x) = o(g(x)) \quad \Leftrightarrow \quad \lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = 0 $$
$$
f(x) = o(g(x)) \quad \Leftrightarrow \quad \lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = 0
$$
小文字の $o$ は「$g$ より速く0に近づく」ことを意味します。
まとめ
本記事では、LaTeXで極限 $\lim$ を書く方法を逆引きで網羅しました。
- 基本:
\lim_{x \to a} f(x)で極限を書く。\limで立体、_{...}で条件、\toで「近づく」 - 添字の位置: ブロック数式は真下、インラインは右下。真下に揃えたいときは
\displaystyleか\limits - 無限大:
\infty/-\infty/\pm\infty。\inf(下限)との混同に注意 - 片側極限:
a^{+}(右極限)/a^{-}(左極限)で近づく向きを指定 - 矢印: 「近づく」は
\to。\longrightarrowで強調、\xrightarrow{...}でラベル付き。\Rightarrowと\mapstoは意味が違うので使わない - 上極限・下極限:
\limsup,\liminfの専用コマンド - 多変数: 下付き文字に $(x, y) \to (a, b)$ のように書く
- 関連演算子:
\sup,\inf,\max,\minも\limと同じ大型演算子
極限は解析学の基盤であり、正確に・きれいに書けることが理工系の文章の説得力につながります。書きたい式に近いものを本記事から探して、コピペで活用してください。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 無限大∞の書き方 — 極限の行き先 ∞ を深掘り
- 矢印記号の書き方 完全ガイド — → ⇒ ↦ など矢印の全体像
- 積分記号をLaTeXで書く — 極限で定義される積分
- 総和と総乗をLaTeXで書く — 無限級数の収束
関連記事:LaTeX数式記法シリーズ
