テレビ放送の受信アンテナとして、屋根の上に魚の骨のような形をしたアンテナを見たことがある人は多いでしょう。あれは八木・宇田アンテナです。八木アンテナは高い利得を持ちますが、帯域幅が狭いという弱点があります。地上デジタル放送のような広い帯域(470〜710 MHz)をカバーするには、帯域幅の広いアンテナが必要です。
ここで活躍するのが対数周期ダイポールアレイ(LPDA: Log-Periodic Dipole Array)アンテナです。LPDAは八木アンテナに似た外見を持ちながら、10:1以上の帯域比と安定した指向性を両立する広帯域アンテナです。
LPDAアンテナの設計理論を理解することは、以下の場面で大きな力を発揮します。
- テレビ・FM受信: 地上波放送の広帯域受信アンテナとしてLPDAが広く使われています。周波数が変わっても利得とパターンが安定していることが重要です
- EMC試験: 電磁両立性の放射試験(30 MHz〜1 GHz)では、広帯域のLPDAアンテナが標準的な測定アンテナとして使われています
- 電子戦・信号傍受: 未知の周波数帯の信号を受信するために、広帯域かつ方向がわかる(指向性がある)LPDAが不可欠です
本記事の内容
- 八木アンテナとLPDAの比較
- 対数周期構造の原理(スケーリング比 $\tau$ と間隔比 $\sigma$)
- 活性領域の移動メカニズム
- Carrelの設計チャートと設計手順
- 利得と帯域幅のトレードオフ
- Pythonによる素子配置の計算と放射パターンのシミュレーション
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
八木アンテナとLPDAの比較
八木アンテナの限界
八木・宇田アンテナは、1本の放射器(driven element)、1本の反射器(reflector)、および複数の導波器(director)で構成されます。放射器の長さは半波長に設計され、反射器はやや長く、導波器はやや短く作られます。
八木アンテナの利得は導波器の本数に依存し、10〜15本の導波器で12〜15 dBiの高利得が得られます。しかし、帯域幅は狭く、VSWR $< 2$ で10〜15%程度です。これは、共振条件(素子長 $\approx \lambda/2$)が特定の周波数でのみ成り立つためです。
LPDAのアプローチ
LPDAの発想は画期的です。さまざまな長さのダイポール素子を一列に配置し、各周波数に対して対応する長さの素子が「活性化」して放射するという仕組みです。低い周波数では長い素子が、高い周波数では短い素子が主に放射を担います。
これは、ピアノの鍵盤に例えることができます。ピアノは低い音から高い音まで、それぞれの音に対応する弦(素子)を持っています。演奏者がどの音(周波数)を弾いても、対応する弦が振動し、楽器としての「音質」(放射パターン)はほぼ一定です。LPDAも同様に、周波数に応じて「活性化する素子」が移動するだけで、全体としての放射特性は一定に保たれます。
八木アンテナとの最大の違いは、LPDAではすべての素子が給電線路に直接接続されている(すべてが放射器)ことです。八木アンテナでは放射器は1本だけで、他は寄生素子です。
では、このような魔法のような動作を実現する対数周期構造とは何かを、数学的に定義しましょう。
対数周期構造の原理
スケーリング比 $\tau$
LPDAの構造を定義する最も重要なパラメータがスケーリング比(scaling ratio)$\tau$ です。
LPDAの $N$ 本のダイポール素子の長さ $l_n$ と、給電点からの位置 $R_n$ は、次の関係で定義されます。
$$ \tau = \frac{l_{n+1}}{l_n} = \frac{R_{n+1}}{R_n} \quad (0 < \tau < 1) $$
つまり、隣接する素子の長さの比と位置の比が一定値 $\tau$ です。これは等比数列(幾何級数)の構造です。
最も長い素子($n = 1$)の長さを $l_1$、最も短い素子($n = N$)の長さを $l_N$ とすると
$$ l_n = l_1 \tau^{n-1} $$
$$ R_n = R_1 \tau^{n-1} $$
間隔比 $\sigma$
2つ目の重要なパラメータが間隔比(spacing ratio)$\sigma$ です。$\sigma$ は隣接素子間の間隔 $d_n = R_n – R_{n+1}$ と素子長の比で定義されます。
$$ \sigma = \frac{R_n – R_{n+1}}{2l_n} = \frac{R_n(1-\tau)}{2l_n} $$
$\sigma$ はLPDA全体にわたって一定です。$\sigma$ は素子間の間隔を素子長で正規化したもので、活性領域の動作に大きく影響します。
なぜ「対数周期」と呼ばれるのか
素子長 $l_n$ の対数をとると
$$ \log l_n = \log l_1 + (n-1)\log\tau $$
素子長の対数が素子番号 $n$ に対して等間隔(間隔 $\log\tau$)に並んでいます。
各素子が共振する周波数 $f_n$($l_n = \lambda_n/2 = c/(2f_n)$)も同様に
$$ \log f_n = \log\frac{c}{2l_1} – (n-1)\log\tau $$
対数周波数軸上で等間隔に共振点が並びます。周波数を1周期($\tau$ 倍)だけスケーリングすると、活性領域が1素子分だけ移動し、全く同じ構造が再現される — これが「対数周期(log-periodic)」の名前の由来です。
仮想頂点
LPDAのすべての素子を延長すると、ある1点で交わります。この点を仮想頂点(virtual apex)と呼びます。仮想頂点から各素子までの距離が $R_n$ です。
仮想頂点の位置は
$$ R_0 = \frac{R_1}{1} = \frac{l_1 \cdot \sigma \cdot 2}{1 – \tau} $$
すなわち
$$ R_1 = \frac{2\sigma l_1}{1-\tau} $$
仮想頂点から最大素子までの距離 $R_1$ が、LPDA全体の長さを決定します。
対数周期構造の数学を理解したところで、この構造がどのようにアンテナとして動作するのかを見ていきましょう。
活性領域の移動
給電方法
LPDAの重要な特徴は、すべてのダイポール素子が交互に極性を反転させて給電線路に接続されていることです。具体的には、隣接する素子の接続を交差させます($n$ 番目の素子の上のアームと $n+1$ 番目の素子の下のアームが同じ導体に接続)。
この交差接続により、隣接素子間に180°の位相反転が加わります。この位相反転がなければ、すべての素子が同位相で放射し、指向性の制御ができません。
活性領域のメカニズム
ある周波数 $f$ で動作する場合、半波長共振する素子($l_n \approx \lambda/2$)とその近傍の素子が主に放射に寄与します。この領域が活性領域(active region)です。
活性領域内の素子群は、以下のように動作します。
共振素子($l_n \approx \lambda/2$): 電流が最大となり、放射の主役を担います。入力インピーダンスはほぼ純抵抗です。
共振より長い素子($l_{n-1} > \lambda/2$): 誘導性のリアクタンスを持ち、電流は共振素子より小さくなります。反射器として機能し、長い素子側への放射を抑制します。
共振より短い素子($l_{n+1} < \lambda/2$): 容量性のリアクタンスを持ちます。導波器として機能し、短い素子側への放射を強化します。
つまり、活性領域内では八木アンテナと同様の「反射器-放射器-導波器」の構造が自動的に形成されるのです。周波数が変わると活性領域が移動し、異なる素子が反射器、放射器、導波器の役割を担います。
メインビームの方向
LPDAのメインビームは短い素子の方向(周波数の高い方向)を向きます。これは、短い素子が導波器として機能するためです。八木アンテナとの類推で、メインビームは導波器の方向を向くことを思い出してください。
この特性は、給電点の位置と関連します。LPDAは通常、最も短い素子側から給電します。電磁波は給電点から長い素子に向かって伝搬し、活性領域で放射されます。放射は短い素子の方向(給電点側)を向くため、メインビームは給電点側を向きます。
活性領域の概念を理解したところで、具体的な設計手法であるCarrelの設計チャートを見ていきましょう。
Carrelの設計チャート
設計パラメータの関係
1961年にR. L. Carrelは、LPDAの設計に必要なパラメータの関係を体系的に整理しました。Carrelの設計チャートは、$\tau$(スケーリング比)と $\sigma$(間隔比)の平面上に、等利得の曲線を描いたものです。
$\tau$ と $\sigma$ の影響
$\tau$ の影響: $\tau$ が1に近いほど(素子長の変化が緩やかなほど)、活性領域内の素子数が増え、利得が高くなります。ただし、必要な素子数も増え、アンテナが長くなります。
$\sigma$ の影響: $\sigma$ が大きいほど(素子間隔が広いほど)、活性領域内の素子の相互作用が弱くなり、各素子がより独立に動作します。最適な $\sigma$ はCarrelの研究により $\tau$ に依存して決まります。
Carrelの経験式
Carrelの研究から、所望の利得 $G$(dBi)を達成するための $\tau$ と $\sigma$ の最適関係が導かれています。近似的には
$$ \sigma_{\text{opt}} = 0.243\tau – 0.051 $$
この直線は、$\tau$-$\sigma$ 平面上の等利得線のピークを結んだものです。
代表的な設計値を表にまとめます。
| $\tau$ | $\sigma_{\text{opt}}$ | 利得 [dBi] | 活性領域内素子数 |
|---|---|---|---|
| 0.80 | 0.143 | 6.5 | 3〜4 |
| 0.85 | 0.155 | 7.0 | 4〜5 |
| 0.90 | 0.167 | 8.0 | 5〜7 |
| 0.95 | 0.179 | 9.5 | 8〜12 |
設計手順
LPDAの設計手順をステップバイステップで示します。
ステップ1: 仕様の確定
設計周波数の下限 $f_L$ と上限 $f_H$、および所望の利得 $G$ を決定します。
ステップ2: $\tau$ と $\sigma$ の選定
Carrelの設計チャートまたは経験式から、所望の利得を達成する $\tau$ と $\sigma$ の組み合わせを選びます。
ステップ3: 帯域幅比の計算
活性領域が帯域端で切れないように、構造的な帯域比 $B_s$ を設計帯域比 $B = f_H/f_L$ より広く取ります。
$$ B_s = B \cdot B_{\text{ar}} $$
ここで $B_{\text{ar}}$ は活性領域の帯域比で
$$ B_{\text{ar}} = 1.1 + 7.7(1-\tau)^2\cot\alpha $$
$\alpha$ はLPDAの半頂角で $\alpha = \arctan[(1-\tau)/(4\sigma)]$ です。
ステップ4: 素子数の計算
必要な素子数 $N$ は
$$ N = 1 + \frac{\log B_s}{\log(1/\tau)} $$
小数点以下は切り上げます。
ステップ5: 素子長と位置の計算
最長素子の長さ $l_1 = c/(2f_L)$($f_L$ での半波長)から順に
$$ l_n = l_1 \tau^{n-1}, \quad R_n = \frac{2\sigma l_n}{1-\tau} $$
ステップ6: 給電線路のインピーダンス設計
LPDAの入力インピーダンスは、給電線路の特性インピーダンス $Z_0$ と素子のインピーダンスの関係で決まります。Carrelの近似式によると、活性領域内の素子のインピーダンスが並列に接続されるため
$$ R_{\text{in}} \approx \frac{Z_0}{\sqrt{1 + (Z_0/\bar{Z}_a)^2 \cdot \frac{8\sigma}{(1-\tau)}\cdot \frac{1}{N_{\text{act}}}}} $$
ここで $\bar{Z}_a$ は素子の平均インピーダンス、$N_{\text{act}}$ は活性領域内の素子数です。実用上は、入力インピーダンスが50 $\Omega$ になるように $Z_0$ を調整します。
設計手順を理解したところで、利得と帯域幅のトレードオフについて定量的に議論しましょう。
利得と帯域幅のトレードオフ
トレードオフの本質
LPDAアンテナには、利得を高くするほどアンテナが大きく(長く)なるというトレードオフがあります。このトレードオフはQ値や対数周期構造の本質に起因します。
利得を高くするには $\tau$ を1に近づける必要があります。$\tau \to 1$ では素子長の変化が微小になるため、所望の帯域をカバーするために必要な素子数 $N$ が急増します。
$$ N \approx \frac{\log B}{\log(1/\tau)} $$
たとえば、帯域比 $B = 10$(10:1の帯域比)の場合:
| $\tau$ | $N$ | 利得 [dBi] | 相対的な長さ |
|---|---|---|---|
| 0.80 | 11 | 6.5 | 1.0 |
| 0.85 | 15 | 7.0 | 1.4 |
| 0.90 | 22 | 8.0 | 2.3 |
| 0.95 | 45 | 9.5 | 5.5 |
$\tau = 0.95$ では $\tau = 0.80$ に比べて素子数が約4倍、アンテナ長は5倍以上になります。利得の3 dB改善に対してこのペナルティは大きく、実用的には $\tau = 0.82$ 〜 $0.92$ の範囲が多く使われます。
八木アンテナとの比較
同じ帯域内で八木アンテナとLPDAを比較すると:
- 八木アンテナ: 狭帯域で高利得(12〜15 dBi)。周波数が固定されている用途に最適
- LPDA: 広帯域で中利得(6〜10 dBi)。複数の周波数帯をカバーする必要がある用途に最適
LPDAの利得が八木アンテナに比べて低いのは、活性領域内の素子だけが放射に寄与し、残りの素子は「待機中」だからです。全素子が常に動作する八木アンテナとの違いがここに現れます。
理論的な議論を踏まえて、Pythonで具体的な設計計算と放射パターンのシミュレーションを行いましょう。
Pythonによる素子配置の計算
LPDAの設計パラメータから素子配置を計算し、構造を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def design_lpda(f_low, f_high, tau, sigma, c=3e8):
"""
LPDAの素子配置を計算する。
Parameters
----------
f_low : float 下限周波数 [Hz]
f_high : float 上限周波数 [Hz]
tau : float スケーリング比 (0 < tau < 1)
sigma : float 間隔比
c : float 光速 [m/s]
Returns
-------
lengths : array 素子長 [m]
positions : array 素子位置(仮想頂点からの距離)[m]
"""
# 最長素子(f_low で半波長共振)
l1 = c / (2 * f_low)
# 活性領域の帯域比
alpha = np.arctan((1 - tau) / (4 * sigma))
B_ar = 1.1 + 7.7 * (1 - tau)**2 / np.tan(alpha)
# 構造的帯域比
B = f_high / f_low
B_s = B * B_ar
# 素子数
N = int(np.ceil(1 + np.log(B_s) / np.log(1/tau)))
# 素子長と位置
lengths = l1 * tau**np.arange(N)
R1 = 2 * sigma * l1 / (1 - tau)
positions = R1 * tau**np.arange(N)
return lengths, positions, N
# --- 設計例 ---
f_low = 100e6 # 100 MHz
f_high = 1000e6 # 1 GHz (帯域比10:1)
c = 3e8
# 異なるτでの設計比較
tau_values = [0.82, 0.88, 0.94]
sigma_values = [0.143 + 0.243*(t-0.8) for t in tau_values] # Carrelの経験式
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(16, 7))
# (a) アンテナ構造の可視化
ax = axes[0]
colors = ['#FF6B6B', '#4ECDC4', '#45B7D1']
for tau, sigma, color in zip(tau_values, sigma_values, colors):
lengths, positions, N = design_lpda(f_low, f_high, tau, sigma)
# 素子の描画(横から見た図)
y_offset = (tau - 0.82) * 20 # 表示用オフセット
for i in range(N):
x = positions[i] * 100 # cm
half_l = lengths[i] * 100 / 2 # cm
ax.plot([x, x], [y_offset - half_l, y_offset + half_l],
color=color, linewidth=1.5,
alpha=0.7 + 0.3 * (i == N//2))
# ブーム(給電線路)
ax.plot([positions[-1]*100, positions[0]*100],
[y_offset, y_offset], color=color,
linewidth=2, label=f'$\\tau$={tau}, N={N}')
# メインビームの方向を矢印で示す
ax.annotate('', xy=(positions[-1]*100 - 20, y_offset),
xytext=(positions[-1]*100, y_offset),
arrowprops=dict(arrowstyle='->', color=color, lw=2))
ax.set_xlabel('Position from apex [cm]', fontsize=12)
ax.set_ylabel('Element half-length [cm]', fontsize=12)
ax.set_title('LPDA Structure Comparison\n(100 MHz - 1 GHz)', fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# (b) 素子長の対数プロット
ax = axes[1]
for tau, sigma, color in zip(tau_values, sigma_values, colors):
lengths, positions, N = design_lpda(f_low, f_high, tau, sigma)
freqs_resonant = c / (2 * lengths) / 1e6 # 共振周波数 [MHz]
ax.semilogy(range(1, N+1), lengths*100, 'o-', color=color,
linewidth=1.5, markersize=5,
label=f'$\\tau$={tau}, N={N}')
ax.set_xlabel('Element Number', fontsize=12)
ax.set_ylabel('Element Length [cm]', fontsize=12)
ax.set_title('Element Lengths (Log Scale)', fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11)
ax.grid(True, alpha=0.3, which='both')
plt.tight_layout()
plt.show()
LPDA素子配置の可視化から、スケーリング比 $\tau$ の影響が直感的に理解できます。
- $\tau$ が大きいほどアンテナが長くなる: $\tau = 0.94$ のアンテナは $\tau = 0.82$ に比べて約3倍の長さを持ちます。素子長の変化が緩やかなため、帯域をカバーするために多くの素子が必要になるためです。
- 素子長は対数軸上で等間隔: 右図の対数プロットで、素子長が直線上に並んでいることが確認できます。これは $l_n = l_1 \tau^{n-1}$ の等比数列構造の直接的な反映です。
- メインビームの方向(矢印)は短い素子側: 給電は短い素子側から行い、メインビームも短い素子側を向きます。
Pythonによる放射パターンのシミュレーション
LPDAの放射パターンを近似的にシミュレーションします。活性領域モデルに基づいて、各周波数での放射パターンを計算します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def lpda_pattern(theta, freq, lengths, positions, c=3e8):
"""
LPDAの近似放射パターンを計算する。
各素子をダイポールとし、電流分布を共振特性で近似。
Parameters
----------
theta : array 角度 [rad]
freq : float 周波数 [Hz]
lengths : array 素子長 [m]
positions : array 素子位置 [m]
"""
wavelength = c / freq
k = 2 * np.pi / wavelength
N = len(lengths)
# 各素子の電流振幅(共振からの離調に基づく近似)
Q_element = 10 # 素子のQ値
currents = np.zeros(N, dtype=complex)
for i in range(N):
f_res = c / (2 * lengths[i]) # 共振周波数
detuning = (freq - f_res) / f_res
# 共振曲線(ローレンツ型)
amplitude = 1 / (1 + (Q_element * detuning)**2)
# 交互位相反転
phase = np.pi * i # 交差接続による180°反転
currents[i] = amplitude * np.exp(1j * phase)
# アレイファクタの計算
AF = np.zeros(len(theta), dtype=complex)
ref_pos = positions[-1] # 最短素子を基準
for i in range(N):
d = positions[i] - ref_pos
AF += currents[i] * np.exp(1j * k * d * np.cos(theta))
# 素子パターン(ダイポール)
EF = np.ones_like(theta) # 簡略化
pattern = np.abs(AF * EF)
pattern /= np.max(pattern) + 1e-10
return pattern
# --- パラメータ ---
f_low = 200e6
f_high = 1000e6
tau = 0.88
sigma = 0.162
c = 3e8
lengths, positions, N = design_lpda(f_low, f_high, tau, sigma)
# 複数の周波数での放射パターン
theta = np.linspace(0, 2*np.pi, 500)
test_freqs = [250e6, 400e6, 600e6, 900e6]
freq_labels = ['250 MHz', '400 MHz', '600 MHz', '900 MHz']
colors = ['#FF6B6B', '#4ECDC4', '#45B7D1', '#96CEB4']
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 6))
# (a) 直交座標での比較
ax = axes[0]
theta_deg = np.degrees(theta) - 180
for freq, label, color in zip(test_freqs, freq_labels, colors):
pattern = lpda_pattern(theta, freq, lengths, positions)
pattern_dB = 20 * np.log10(pattern + 1e-10)
pattern_dB = np.clip(pattern_dB, -30, 0)
ax.plot(theta_deg, pattern_dB, color=color, linewidth=1.5, label=label)
ax.set_xlabel('Angle [degrees]', fontsize=12)
ax.set_ylabel('Normalized Pattern [dB]', fontsize=12)
ax.set_title('LPDA Radiation Pattern at Different Frequencies', fontsize=13)
ax.set_xlim(-180, 180)
ax.set_ylim(-30, 3)
ax.legend(fontsize=10)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# (b) 極座標表示(1つの周波数)
ax = plt.subplot(122, projection='polar')
for freq, label, color in zip(test_freqs, freq_labels, colors):
pattern = lpda_pattern(theta, freq, lengths, positions)
ax.plot(theta, pattern, color=color, linewidth=1.5, label=label)
ax.set_title('LPDA Pattern (Polar)', fontsize=13, pad=20)
ax.legend(loc='lower right', fontsize=9)
plt.tight_layout()
plt.show()
放射パターンのシミュレーション結果から、LPDAの広帯域特性が確認できます。
- 放射パターンの形状が周波数によらずほぼ安定していることが最も重要な観察です。250 MHzから900 MHzまで(帯域比3.6:1)にわたって、メインビームの方向とビーム幅がほぼ一定に保たれています。これがLPDAの最大の利点です。
- メインビームの方向は0°(短い素子方向): 全周波数でメインビームが同じ方向を向いています。周波数が変わると活性領域は移動しますが、メインビームの方向は変わりません。
- パターンの微小な変動: 厳密にはパターンに周波数依存のわずかな変動(リップル)が見られます。これは活性領域内の素子数が有限であるため、周波数によって活性領域の位相中心が微小に移動することに起因します。
Pythonによる設計パラメータの最適化
$\tau$ と $\sigma$ の変化による利得と素子数のトレードオフを可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# --- τとσによる設計パラメータの変化 ---
f_low = 100e6
f_high = 1000e6
c = 3e8
tau_range = np.linspace(0.78, 0.96, 50)
# Carrelの経験式による最適σ
sigma_opt = 0.243 * tau_range - 0.051
# 各τでの素子数とアンテナ長
N_array = np.zeros_like(tau_range)
L_total = np.zeros_like(tau_range)
gain_approx = np.zeros_like(tau_range)
for i, (tau, sigma) in enumerate(zip(tau_range, sigma_opt)):
if sigma < 0.05:
sigma = 0.05
lengths, positions, N = design_lpda(f_low, f_high, tau, sigma)
N_array[i] = N
L_total[i] = (positions[0] - positions[-1]) * 100 # cm
# 利得の近似式 (Carrelの経験データに基づく)
gain_approx[i] = 10 * np.log10(1.5 + 3.5 * tau / (1 - tau) * sigma)
fig, axes = plt.subplots(1, 3, figsize=(18, 5))
# (a) 素子数 vs τ
ax = axes[0]
ax.plot(tau_range, N_array, 'c-', linewidth=2.5)
ax.set_xlabel('Scaling Ratio $\\tau$', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Number of Elements $N$', fontsize=13)
ax.set_title('Number of Elements vs $\\tau$\n(100 MHz - 1 GHz)', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# (b) アンテナ長 vs τ
ax = axes[1]
ax.plot(tau_range, L_total, 'm-', linewidth=2.5)
ax.set_xlabel('Scaling Ratio $\\tau$', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Total Length [cm]', fontsize=13)
ax.set_title('Antenna Length vs $\\tau$', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# (c) 利得 vs τ
ax = axes[2]
ax.plot(tau_range, gain_approx, '#FF6B6B', linewidth=2.5)
ax.set_xlabel('Scaling Ratio $\\tau$', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Approximate Gain [dBi]', fontsize=13)
ax.set_title('Gain vs $\\tau$', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.show()
設計パラメータの最適化グラフから、LPDAの設計トレードオフが定量的に理解できます。
- 素子数の急増(左図): $\tau$ が 0.95 に近づくと素子数が 40 以上に急増します。$\tau = 0.88$ 付近で約 16 本、$\tau = 0.82$ で約 11 本と、$\tau$ の選択が素子数に大きく影響します。
- アンテナ長の増大(中央図): 素子数の増加に伴い、アンテナ全長も急増します。$\tau = 0.95$ では $\tau = 0.82$ の 4〜5 倍の長さが必要です。設置スペースの制約から、$\tau$ の上限が決まる場合が多いです。
- 利得の改善は限定的(右図): $\tau$ を上げても利得の改善は緩やかです。$\tau = 0.82$ で約 7 dBi、$\tau = 0.95$ でも約 10 dBi であり、素子数と長さの急増に対して利得の改善は 3 dB 程度にとどまります。
実用上の考慮事項
給電線路のバラン
LPDAの給電線路は平衡型(バランス型)であるため、不平衡型の同軸ケーブルからの給電にはバランが必要です。一般的な手法は、同軸ケーブルを一方のブームパイプ内に通し、ブーム自体を給電線路として利用する方法です。
端末素子の処理
最長素子と最短素子の近傍では、活性領域が構造の端に達するため、パターンとインピーダンスの変動が生じやすくなります。最長素子をさらに1〜2本追加し、最短素子も同様にマージンを持たせることで、帯域端での性能劣化を緩和できます。
相互結合の影響
隣接するダイポール素子間の相互結合は、LPDAの動作に本質的な役割を果たします。相互結合は活性領域内での電流分布を変化させ、指向性の形成に寄与します。設計時には、相互インピーダンスを考慮した解析(モーメント法など)が必要です。
まとめ
本記事では、対数周期ダイポールアレイ(LPDA)アンテナの設計理論について解説しました。
- 対数周期構造の原理: スケーリング比 $\tau$ と間隔比 $\sigma$ の2つのパラメータで構造が完全に定義されます。素子長と位置は等比数列に従い、対数周波数軸上で周期的な構造を持ちます
- 活性領域の移動: 周波数が変わると、共振する素子(活性領域)が自動的に移動します。活性領域内では八木アンテナと同様の反射器-放射器-導波器の構造が自己組織的に形成されます
- Carrelの設計チャート: $\tau$ と $\sigma$ の最適関係を与え、所望の利得に対する設計パラメータを系統的に決定できます
- 利得と帯域幅のトレードオフ: $\tau$ を大きくすると利得は向上しますが、素子数とアンテナ長が急増します。実用的には $\tau = 0.82$ 〜 $0.92$ が多く使われます
- 安定した放射パターン: 10:1以上の帯域比にわたって、メインビームの方向とビーム幅がほぼ一定に保たれることが最大の利点です
LPDAは「広帯域」と「指向性」を同時に実現する希少なアンテナ構造であり、放送受信、EMC試験、電子戦など幅広い分野で不可欠な存在です。
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