アンテナの基本パラメータ(利得・指向性・放射パターン)を解説

電磁波を空間に放射したり、空間から電磁波を受信したりする素子がアンテナです。アンテナは無線通信システムにおける最も基本的な構成要素であり、その性能はシステム全体の通信品質を大きく左右します。

アンテナの性能を定量的に評価するためには、放射パターン指向性利得実効開口面積といったパラメータを正しく理解する必要があります。これらのパラメータは互いに密接に関連しており、アンテナ設計や無線回線設計の基盤となります。

本記事の内容

  • アンテナの役割(ガイド波から自由空間波への変換)
  • 放射パターンの定義(主ローブ・サイドローブ・ヌル)
  • 放射強度と全放射電力
  • 指向性 $D$ の定義と導出
  • 利得 $G$ の定義($G = \eta D$)
  • 実効開口面積 $A_e$ と $G = 4\pi A_e / \lambda^2$ の導出
  • 半値幅(HPBW)とビーム立体角
  • アンテナの相反定理
  • Pythonによる2D/3Dの放射パターン可視化

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

アンテナの役割

アンテナはガイド波と自由空間波をつなぐ変換器である

アンテナの働きを一言で言えば変換器です。給電線の中では、電磁波は2本の導体に挟まれた空間に閉じ込められて進みます。導体を開いていくと、波は閉じ込めを失って自由空間へ出ていきます。

この過程はインピーダンスの移り変わりとして理解できます。同軸ケーブルの特性インピーダンス(典型的には $50\,\Omega$)から、自由空間の固有インピーダンス $377.0\,\Omega$ へと滑らかにつなぐこと——それがアンテナの設計課題の本質です。この整合が悪ければ、電力は放射されずに給電線へ跳ね返ってきます。以下では、放射された電波の「形」を表す指標を順に定義していきます。

ガイド波から自由空間波への変換

伝送線路(同軸ケーブルや導波管)を伝搬する電磁波はガイド波(guided wave)と呼ばれ、導体に沿って閉じ込められた状態で伝搬します。一方、空中を伝搬する電磁波は自由空間波(free-space wave)です。

アンテナの本質的な役割は、このガイド波と自由空間波の間の変換器(トランスデューサー)として機能することです。送信側では、伝送線路のガイド波を自由空間に効率よく放射します。受信側では、自由空間を伝搬してきた電磁波を捉え、伝送線路上のガイド波に変換します。

この変換がどの方向にどれだけ効率よく行われるかを定量的に表すのが、以降で解説する各パラメータです。

放射パターン

放射パターンの定義

放射パターン(radiation pattern)は、アンテナから十分遠方(遠方界:far field)において、方向 $(\theta, \phi)$ ごとの電磁界の強度分布を表したものです。ここで $\theta$ は天頂角(z軸からの角度)、$\phi$ は方位角(x軸からxy平面内での回転角)です。

一般に、遠方界において電界の大きさは距離 $r$ に反比例します。

$$ |\bm{E}(r, \theta, \phi)| \propto \frac{1}{r} $$

そこで、距離によらないパターンを得るために、$r|\bm{E}|$ を方向の関数として表し、最大値で正規化したものを正規化放射パターンと定義します。

$$ F(\theta, \phi) = \frac{|\bm{E}(\theta, \phi)|}{|\bm{E}|_{\max}} $$

$F(\theta, \phi)$ は0から1の値をとり、$F = 1$ となる方向が最大放射方向です。

主ローブ・サイドローブ・ヌル

放射パターンの主ローブ サイドローブ ヌル 半値幅

8素子アレイのパターンで各部の名称を確認します。最も強い方向を含むふくらみが主ローブ、その両脇の小さなふくらみがサイドローブ、放射がほぼ消える方向がヌルです。主ローブの強さが半分($-3$ dB)になる幅が半値幅で、この例では $12.7°$ でした。最大サイドローブは $-12.80$ dB、すなわち主ローブの約 $1/19$ の電力です。

左右の図はまったく同じデータです。極座標表示は方向の直感に優れ、直交座標表示はサイドローブのレベルを読み取りやすい——用途に応じて使い分けます。サイドローブは単なる無駄ではなく、意図しない方向からの妨害を拾う入口にもなるため、レーダーや衛星通信では厳しく管理される指標です。

放射パターンには以下の特徴的な構造が現れます。

  • 主ローブ(main lobe): 放射が最も強い方向を含むローブ。最大放射方向を含みます。
  • サイドローブ(side lobe): 主ローブ以外のローブ。不要な方向への放射であり、通常は抑制が望まれます。
  • ヌル(null): 放射がゼロになる方向。ローブとローブの境界に現れます。
  • バックローブ(back lobe): 主ローブと反対方向($\theta = 180°$ 付近)のローブ。

サイドローブの大きさはサイドローブレベル(SLL: Side Lobe Level)で定量化されます。

$$ \text{SLL} = 20 \log_{10} \frac{F_{\text{side}}}{F_{\text{main}}} \quad [\text{dB}] $$

ここで、$F_{\text{side}}$ は最大サイドローブのレベル、$F_{\text{main}} = 1$ は主ローブのレベルです。

放射強度と全放射電力

放射強度

放射強度と立体角の関係および電力密度の距離依存

放射強度を定義するには立体角という考え方が必要です。左図の赤い領域が立体角 $d\Omega = \sin\theta\, d\theta\, d\phi$ の一片で、そこを通って流れる電力が $U\, d\Omega$ です。全球の立体角は $4\pi = 12.566$ ステラジアンになります。

放射強度 $U$ が距離に依存しない量であることが重要です。右図のように電力密度 $[\mathrm{W/m^2}]$ は距離の2乗で薄まりますが(1 W の等方性放射器の場合、1 m 地点で $0.0796\ \mathrm{W/m^2}$)、立体角あたりの電力で測れば距離が消えます。アンテナの性質を距離と無関係に語れるのは、この定義のおかげです。

放射強度(radiation intensity) $U(\theta, \phi)$ は、アンテナから方向 $(\theta, \phi)$ に単位立体角あたりに放射される電力です。遠方界におけるポインティングベクトルの動径成分 $S_r$ を用いて、次のように定義されます。

$$ U(\theta, \phi) = r^2 S_r(r, \theta, \phi) $$

遠方界では、ポインティングベクトルは次のように表されます。

$$ S_r = \frac{|\bm{E}|^2}{2\eta_0} $$

ここで $\eta_0 = \sqrt{\mu_0 / \varepsilon_0} \approx 120\pi \approx 377 \; \Omega$ は自由空間のインピーダンスです。したがって、

$$ U(\theta, \phi) = \frac{r^2 |\bm{E}(r, \theta, \phi)|^2}{2\eta_0} $$

遠方界では $|\bm{E}| \propto 1/r$ なので、$U$ は $r$ によらない量となります。これが放射強度を用いる利点です。

全放射電力

アンテナが全方向に放射する電力の合計を全放射電力(total radiated power) $P_{\text{rad}}$ と呼びます。これは放射強度を全立体角にわたって積分することで得られます。

$$ P_{\text{rad}} = \oint U(\theta, \phi) \, d\Omega = \int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} U(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi $$

ここで $d\Omega = \sin\theta \, d\theta \, d\phi$ は微小立体角です。

等方性放射器

全方向に均一に放射する仮想的なアンテナを等方性放射器(isotropic radiator)と呼びます。等方性放射器の放射強度は方向によらず一定で、

$$ U_0 = \frac{P_{\text{rad}}}{4\pi} $$

となります。全立体角は $4\pi$ ステラジアンだからです。等方性放射器は物理的には実現不可能ですが、他のアンテナの性能を比較する際の基準として極めて重要です。

指向性の定義と導出

指向性の定義

指向性の意味 同じ放射電力をどこへ集めるか

指向性の意味を1枚にしたものです。灰色が等方性放射器、赤が指向性アンテナで、囲む面積(=全放射電力)は両者で等しいように描いてあります。

同じ電力を狭い範囲に押し込めば、その方向での強さは増します。この例では正面で等方性の $18.00$ 倍、すなわち $12.55$ dBi です。指向性とは電力を増やす仕組みではなく、配分を変える仕組みである——この理解が、次に述べる「利得」を正しく読むための前提になります。アンテナが増幅器のように電力を生み出しているわけではありません。

指向性(directivity) $D$ は、アンテナの最大放射強度 $U_{\max}$ と等方性放射器の放射強度 $U_0$ の比として定義されます。

$$ D = \frac{U_{\max}}{U_0} = \frac{U_{\max}}{P_{\text{rad}} / 4\pi} = \frac{4\pi U_{\max}}{P_{\text{rad}}} $$

指向性は、アンテナがどれだけ効率的にエネルギーを特定の方向に集中できるかを表す無次元量です。等方性放射器の指向性は $D = 1$(0 dBi)です。

方向ごとの指向性

特定の方向 $(\theta, \phi)$ における指向性は次のように定義されます。

$$ D(\theta, \phi) = \frac{4\pi U(\theta, \phi)}{P_{\text{rad}}} $$

最大指向性は $D = \max_{\theta, \phi} D(\theta, \phi)$ です。

指向性の導出(正規化パターンによる表現)

正規化された放射パターン $F(\theta, \phi)$ を用いると、放射強度は次のように書けます。

$$ U(\theta, \phi) = U_{\max} F^2(\theta, \phi) $$

ここで $F^2$ は電力パターンです($F$ は電界パターン)。これを全放射電力の式に代入すると、

$$ P_{\text{rad}} = \int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} U_{\max} F^2(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi = U_{\max} \int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} F^2(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi $$

したがって、指向性は次のように表されます。

$$ \begin{align} D &= \frac{4\pi U_{\max}}{P_{\text{rad}}} \\ &= \frac{4\pi U_{\max}}{U_{\max} \displaystyle\int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} F^2(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi} \\ &= \frac{4\pi}{\displaystyle\int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} F^2(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi} \end{align} $$

この結果から、指向性は正規化電力パターン $F^2$ の立体角積分の逆数に $4\pi$ をかけたものとなります。パターンが鋭いほど分母の積分値が小さくなり、指向性が大きくなることが読み取れます。

ビーム立体角

ビーム立体角の定義

指向性の分母に現れた積分はビーム立体角(beam solid angle) $\Omega_A$ と呼ばれます。

$$ \Omega_A = \int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} F^2(\theta, \phi) \sin\theta \, d\theta \, d\phi $$

ビーム立体角は「もし正規化パターンの最大値($F^2 = 1$)がビーム立体角 $\Omega_A$ の範囲に均一に分布し、それ以外ではゼロであったならば、同じ全放射電力を得る」という等価的な立体角です。

これを用いると、指向性は非常にコンパクトに表現できます。

$$ D = \frac{4\pi}{\Omega_A} $$

半値幅(HPBW)との関係

半値幅と指向性の関係

半値幅と指向性は表裏一体です。E面・H面ともに同じ半値幅とすると、$60°$ で $10.59$ dBi、$30°$ で $16.61$ dBi、$10°$ で $26.15$ dBi、$3°$ では $36.61$ dBi になります。

覚えやすい関係として、半値幅を半分に絞るごとに利得は $6.02$ dB 上がります(面積が4倍になるため)。逆に言えば、高利得アンテナは必然的にビームが細くなり、狙いを正確に合わせなければ通信できません。パラボラアンテナの設置に精密な方向調整が要求されるのは、この物理から来ています。

半値幅(HPBW: Half Power Beam Width)は、電力パターンが最大値の半分($-3$ dB)に低下する2方向間の角度幅です。E面(電界面)の半値幅を $\Theta_E$、H面(磁界面)の半値幅を $\Theta_H$ とすると、ビーム立体角の近似式として次が知られています。

$$ \Omega_A \approx \Theta_E \cdot \Theta_H \quad (\text{ラジアン単位}) $$

したがって、指向性の近似式は次のようになります。

$$ D \approx \frac{4\pi}{\Theta_E \cdot \Theta_H} $$

この近似は、サイドローブが小さく主ローブが支配的な場合に良い精度を持ちます。

利得の定義

利得とは

利得と指向性と放射効率の関係および代表的アンテナの利得

指向性は放射パターンの形だけから決まる幾何学的な量ですが、実際のアンテナには導体抵抗や誘電体損失があり、入力した電力の一部は熱になって放射されません。この割合を放射効率 $\eta$ とすると、利得は $G = \eta D$ となり、必ず指向性以下になります。

左図は指向性 $20$ dBi のアンテナの例です。効率 $95\%$ なら利得 $19.78$ dBi(損失 $0.22$ dB)ですが、効率 $50\%$ では $16.99$ dBi と $3$ dB 丸ごと失われます。右図は代表的なアンテナの利得で、半波長ダイポールが $2.15$ dBi、直径1 m のパラボラを 10 GHz で使えば $38.18$ dBi に達します。

指向性と利得を混同すると、カタログ値を過大に解釈することになります。「指向性はどう配るか、利得は実際にどれだけ届くか」と区別して覚えるのが実務的です。

利得(gain) $G$ は、指向性と放射効率(radiation efficiency) $\eta$ の積として定義されます。

$$ G = \eta D $$

放射効率 $\eta$ は、アンテナに入力された電力 $P_{\text{in}}$ のうち、実際に放射される電力 $P_{\text{rad}}$ の割合です。

$$ \eta = \frac{P_{\text{rad}}}{P_{\text{in}}} $$

差分 $P_{\text{in}} – P_{\text{rad}}$ は、アンテナ導体のオーム損失や誘電体損失として熱に変わります。

利得の物理的意味

利得の定義を展開すると、

$$ \begin{align} G &= \eta D = \frac{P_{\text{rad}}}{P_{\text{in}}} \cdot \frac{4\pi U_{\max}}{P_{\text{rad}}} \\ &= \frac{4\pi U_{\max}}{P_{\text{in}}} \end{align} $$

すなわち、利得は「アンテナに入力された電力に対して、最大放射方向における放射強度が等方性放射器の何倍か」を表します。指向性が損失のない理想的なアンテナを基準とするのに対し、利得はオーム損失を含めた実際の性能指標です。

デシベル表記

利得はデシベル(dB)で表記されることが多く、等方性放射器を基準とする場合は dBi を用います。

$$ G \; [\text{dBi}] = 10 \log_{10} G $$

半波長ダイポールアンテナを基準とする場合は dBd を用います。半波長ダイポールの利得は約 $2.15$ dBi なので、

$$ G \; [\text{dBd}] = G \; [\text{dBi}] – 2.15 $$

実効開口面積と利得の関係

実効開口面積の定義

実効開口面積と利得の関係の周波数依存

利得と面積を結ぶのが $G = 4\pi A_e/\lambda^2$ です。この式が持つ意外な含意を左図が示しています。直径1 m の反射鏡は、物理的な大きさが変わらないのに、周波数が上がるだけで利得が増えるのです。1 GHz で $18.18$ dBi、10 GHz で $38.18$ dBi、30 GHz では $47.72$ dBi——20 dB 以上の差が出ます。

理由は、利得が「波長を基準にした相対的な大きさ」で決まるからです。波長 $30$ cm に対する 1 m はさほど大きくありませんが、波長 $1$ cm に対する 1 m は100波長ぶんの巨大な開口になります。

右図は逆算で、$30$ dBi を得るのに必要な実効開口は 1 GHz では $7.162\ \mathrm{m^2}$ ですが、10 GHz なら $0.0716\ \mathrm{m^2}$ ——100分の1で足ります。衛星通信やミリ波レーダーが高い周波数を選ぶ理由の一つがこれで、小さなアンテナで高い利得が得られるのです。

実効開口面積(effective aperture area) $A_e$ は、アンテナが電磁波から電力を取り出す能力を面積の次元で表したものです。入射する電磁波の電力密度を $S_i$($\text{W/m}^2$)、受信電力を $P_r$ とすると、

$$ P_r = A_e \cdot S_i $$

と定義されます。物理的には「アンテナがどれだけの面積分の電力を捕獲できるか」を意味します。

$G = 4\pi A_e / \lambda^2$ の導出

フリスの伝達公式から、この重要な関係式を導出します。

送信アンテナの利得を $G_t$、受信アンテナの利得を $G_r$、送信電力を $P_t$、受信電力を $P_r$、距離を $R$、波長を $\lambda$ とすると、フリスの伝達公式は次の通りです。

$$ P_r = P_t \cdot G_t \cdot G_r \cdot \left(\frac{\lambda}{4\pi R}\right)^2 $$

一方、送信アンテナからの電力密度は次のように書けます。

$$ S_i = \frac{P_t G_t}{4\pi R^2} $$

これは、等方性放射器なら $P_t / (4\pi R^2)$ で均等に広がるところ、利得 $G_t$ 倍だけ強くなっていることを意味します。

受信電力は実効開口面積の定義から、

$$ P_r = A_e \cdot S_i = A_e \cdot \frac{P_t G_t}{4\pi R^2} $$

フリスの式と比較すると、

$$ A_e \cdot \frac{P_t G_t}{4\pi R^2} = P_t \cdot G_t \cdot G_r \cdot \frac{\lambda^2}{(4\pi)^2 R^2} $$

両辺を $P_t G_t / (4\pi R^2)$ で割ると、

$$ A_e = G_r \cdot \frac{\lambda^2}{4\pi} $$

したがって、

$$ \boxed{G = \frac{4\pi A_e}{\lambda^2}} $$

この関係式はすべてのアンテナに普遍的に成立する極めて重要な公式です。この式から、以下のことがわかります。

  • 同じ物理サイズのアンテナでも、周波数が高い($\lambda$ が小さい)ほど利得が大きくなる
  • 利得を上げるには、実効開口面積を大きくすればよい
  • 等方性放射器($G = 1$)の実効開口面積は $A_e = \lambda^2 / (4\pi)$ となる

アンテナの相反定理

相反定理 送信パターンと受信パターンは一致する

相反定理が主張するのは、同一のアンテナについて送信時のパターンと受信時のパターンが完全に一致するということです。図の2つは異なる測定結果ではなく、同じ関数を描いたものです。

実務上の恩恵は大きく、アンテナの測定を送信・受信の片方だけで済ませられます。また「送信で強く飛ぶ方向は、受信でも感度が高い方向」なので、利得・指向性・実効開口面積といった指標をすべて送受信共通で使えます。前節で導いた $G = 4\pi A_e/\lambda^2$ が送信アンテナにも受信アンテナにも適用できるのは、この定理が保証しているからです。

アンテナの相反定理(reciprocity theorem)は、アンテナの送信特性と受信特性が本質的に同一であることを述べるものです。

具体的には、以下が成り立ちます。

  • 送信時の放射パターンと受信時の感度パターンは同じ形状
  • 送信時のインピーダンスと受信時のインピーダンスは同じ
  • 送信時の利得と受信時の利得は同じ

この定理は、マクスウェル方程式の対称性(ローレンツの相反定理)から厳密に導かれます。相反定理のおかげで、送信特性の測定結果をそのまま受信特性として用いることができ、アンテナの設計や評価が大幅に簡素化されます。

ただし、フェライトやプラズマなどの非相反媒質を含むアンテナでは、相反定理は成立しません。これらの媒質は誘電率テンソルが非対称であるため、送信と受信で特性が異なります。

数値計算で確かめる

代表的なパターンを並べて見る

等方性放射器と短ダイポールと半波長ダイポールのパターン比較

3つのパターンを同じ縮尺で並べました。等方性放射器は完全な円(3次元では球)で、どの方向にも等しく放射します。短ダイポールは $\sin^2\theta$ のドーナツ型で、真横に最も強く、軸方向にはまったく放射しません。半波長ダイポールも似た形ですが、わずかに横方向へ絞られています。

数値積分で指向性を求めると、等方性が $D = 1.00000$、短ダイポールが $D = 1.50000$($1.761$ dBi)、半波長ダイポールが $D = 1.64092$($2.151$ dBi)となりました。半波長ダイポールの $2.15$ dBi はアンテナ工学で最も頻繁に登場する数値で、dBd(ダイポール基準)と dBi(等方性基準)を換算する際の定数そのものです。パターンの形だけからこの値が出てくることに注目してください。

3次元で見る

3次元で見た放射パターン

原点からの距離が放射の強さを表す描き方です。等方性放射器は球、短ダイポールはドーナツ(軸方向にくぼみ)、$\cos^8$ 型は片側に伸びた指向性ビームになります。

2次元の断面図に慣れると忘れがちですが、放射パターンは本来3次元の量です。$\cos^8$ 型の指向性は $D = 18.00$($12.553$ dBi)で、同じ電力を球全体ではなく前方の一部に集めた結果として18倍の強さが得られているわけです。次節では、この「集める」度合いを定義します。

ビーム立体角による近似はどれだけ当たるか

ビーム立体角による指向性の近似式の精度

実務では、半値幅から指向性を素早く見積もる近似式 $D \approx 41253/(\theta_E \theta_H)$ がよく使われます。厳密な数値積分と比べてみると、パターンの鋭さによって精度が変わることがわかります。

緩いビーム($n=1$、$D=6.00$)では近似が $5.09$ と $15.1\%$ 過小評価、逆に非常に鋭いビーム($n=40$、$D=162.0$)では $181.8$ と $12.2\%$ 過大評価になりました。最もよく当たるのは $n=4$ 付近(誤差 $+3.7\%$)です。

近似式が「主ローブだけが全電力を運ぶ」という仮定に立っているためで、サイドローブが無視できない場合や、逆に主ローブが極端に細い場合には破綻します。桁を掴む道具としては十分だが、設計値としては数値積分すべきという位置づけになります。

短ダイポールの指向性の解析的導出

短ダイポールの場合、$F^2(\theta) = \sin^2\theta$ であり、パターンは $\phi$ に依存しません(軸対称)。ビーム立体角を解析的に計算してみましょう。

$$ \begin{align} \Omega_A &= \int_0^{2\pi} \int_0^{\pi} \sin^2\theta \cdot \sin\theta \, d\theta \, d\phi \\ &= 2\pi \int_0^{\pi} \sin^3\theta \, d\theta \end{align} $$

$\sin^3\theta = \sin\theta(1 – \cos^2\theta)$ とおいて、$u = \cos\theta$ と置換すると $du = -\sin\theta \, d\theta$ なので、

$$ \begin{align} \int_0^{\pi} \sin^3\theta \, d\theta &= \int_1^{-1} -(1 – u^2) \, du \\ &= \int_{-1}^{1} (1 – u^2) \, du \\ &= \left[u – \frac{u^3}{3}\right]_{-1}^{1} \\ &= \left(1 – \frac{1}{3}\right) – \left(-1 + \frac{1}{3}\right) \\ &= \frac{2}{3} + \frac{2}{3} = \frac{4}{3} \end{align} $$

よって、

$$ \Omega_A = 2\pi \cdot \frac{4}{3} = \frac{8\pi}{3} $$

指向性は、

$$ D = \frac{4\pi}{\Omega_A} = \frac{4\pi}{8\pi / 3} = \frac{4\pi \cdot 3}{8\pi} = \frac{3}{2} = 1.5 $$

$$ D \; [\text{dBi}] = 10\log_{10}(1.5) \approx 1.76 \; \text{dBi} $$

数値計算の結果と一致することが確認できました。

利得と実効開口面積の計算例

実際の数値で感覚を掴んでおきましょう。等方性放射器の実効開口面積は $A_e = \lambda^2/(4\pi)$、半波長ダイポールはその $1.64$ 倍です。

周波数 波長 等方性放射器の $A_e$ 半波長ダイポールの $A_e$
100 MHz 3.00 m 7,162.0 cm$^2$ 11,752.2 cm$^2$
1 GHz 30.0 cm 71.6 cm$^2$ 117.5 cm$^2$
10 GHz 3.0 cm 0.7 cm$^2$ 1.2 cm$^2$
30 GHz 1.0 cm 0.1 cm$^2$ 0.1 cm$^2$

この表が示す事実は直感に反します。アンテナの「電波を捕まえる面積」は、アンテナの物理的な大きさではなく波長で決まっているのです。100 MHz(波長3 m)における半波長ダイポールの実効開口は約 $1.2\ \mathrm{m^2}$ に相当しますが、素子そのものは太さ数ミリの導体1.5 mにすぎません。

逆に 30 GHz では実効開口が $0.13\ \mathrm{cm^2}$ ——切手の10分の1ほどの面積しかありません。だからミリ波では、ダイポール単体ではなく反射鏡やアレイで物理的な開口を稼ぐ必要が出てきます。周波数が上がるほど「同じ利得なら小さくできる」一方で、「同じアンテナでは捕まえる電力が減る」——両方の側面が $G = 4\pi A_e/\lambda^2$ という1本の式に同居していることになります。

まとめ

本記事では、アンテナの基本パラメータについて解説しました。

  • 放射パターンは方向ごとの放射強度の分布を表し、主ローブ・サイドローブ・ヌルなどの構造を持つ
  • 放射強度 $U(\theta, \phi)$ は単位立体角あたりの放射電力であり、距離によらない量である
  • 指向性 $D$ は最大放射強度と等方性放射器の比であり、$D = 4\pi / \Omega_A$ と表される
  • 利得 $G = \eta D$ は放射効率を含む実用的な性能指標である
  • 実効開口面積 $A_e$ と利得は $G = 4\pi A_e / \lambda^2$ で普遍的に結びつく
  • ビーム立体角 $\Omega_A$ は指向性と逆数の関係にあり、半値幅から近似できる
  • アンテナの相反定理により、送信特性と受信特性は同一である

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。