伝送線路の理論 — 分布定数回路と定在波を基礎から導出する

スマートフォンの通信、高速CPUの配線、テレビのアンテナケーブル — 私たちの身の回りには、電気信号を「遠くまで正しく届ける」ための伝送線路が数えきれないほど存在します。低周波回路では「導線の長さ」を意識することはほとんどありません。しかし、周波数が高くなり信号の波長が回路のサイズと同程度になると、電圧や電流が線路上の位置によって異なるという、直感に反する現象が生じます。

伝送線路の理論は、この「回路の長さを無視できない」状況を扱うための基本的な枠組みです。この理論を理解すると、以下のような広い応用分野への扉が開きます。

  • 高周波回路設計: インピーダンス整合を正しく行い、信号の反射損失を最小化する
  • アンテナ工学: 給電線とアンテナの接続点でのインピーダンスマッチングを設計する
  • 高速デジタル回路: GHz帯の信号配線における反射やクロストークを制御する
  • 通信システム: 同軸ケーブルやマイクロストリップ線路の特性を予測し、伝送損失を見積もる

本記事の内容

  • 集中定数回路と分布定数回路の違い
  • テレグラフ方程式(電信方程式)の導出
  • 波動方程式と特性インピーダンス $Z_0$、伝搬定数 $\gamma$
  • 無損失線路の簡略化
  • 反射係数 $\Gamma$ と定在波比 VSWR
  • 入力インピーダンスの公式
  • 短絡・開放・整合終端の特殊ケースと $\lambda/4$ 変換器
  • Pythonによる定在波パターンの可視化

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

集中定数回路と分布定数回路

集中定数回路の限界

通常の回路理論 — たとえばキルヒホッフの法則やオームの法則を使った解析 — は、集中定数回路(lumped-element circuit) を前提としています。集中定数回路では、抵抗やコンデンサといった素子の物理的な大きさが信号の波長に比べて十分に小さいと仮定します。この仮定のもとでは、導線の両端で電圧は同じであり、電流は導線のどこでも同じ値を持ちます。

具体的に言えば、信号の波長を $\lambda$、回路の物理的な長さを $\ell$ としたとき、$\ell \ll \lambda$ であれば集中定数回路モデルは妥当です。家庭用の 50 Hz / 60 Hz 電源の波長は数千 km もあるので、部屋の中の配線を集中定数回路として扱っても全く問題ありません。

しかし、周波数が高くなると波長は短くなります。電磁波の波長は次の式で与えられます。

$$ \lambda = \frac{v}{f} $$

ここで $v$ は電磁波の位相速度、$f$ は周波数です。たとえば、1 GHz の信号が自由空間を伝わる場合、波長は $\lambda = 3 \times 10^8 / 10^9 = 0.3$ m、つまり 30 cm です。プリント基板上の配線長が数 cm〜10 cm 程度あれば、もはや波長と同程度になり、集中定数モデルは破綻します。

分布定数回路の考え方

信号の波長と回路の長さが同程度のとき、電圧と電流は線路上の位置に依存して変化します。この状況をモデル化するのが分布定数回路(distributed-element circuit) です。

分布定数回路では、伝送線路を無限に細かい微小区間 $\Delta z$ に分割し、各区間に抵抗 $R\Delta z$、インダクタンス $L\Delta z$、コンダクタンス $G\Delta z$、キャパシタンス $C\Delta z$ が含まれるとモデル化します。ここで、$R$, $L$, $G$, $C$ はすべて単位長さあたりの値です。

イメージとしては、1本のケーブルを虫眼鏡で見ると、微小区間ごとにRLGCの等価回路がずらりと並んでいるような状態です。この「分布した素子」の連なりが波動的な振る舞いを生み出します。

パラメータ 記号 単位 物理的起源
直列抵抗 $R$ $\Omega/\text{m}$ 導体の抵抗損失
直列インダクタンス $L$ $\text{H/m}$ 導体周りの磁束
並列コンダクタンス $G$ $\text{S/m}$ 絶縁体の漏れ電流
並列キャパシタンス $C$ $\text{F/m}$ 導体間の電界

$R$ と $G$ はエネルギー損失を表し、$L$ と $C$ はエネルギー蓄積を表します。損失のない理想的な線路(無損失線路)では $R = 0$, $G = 0$ となり、数式が大幅に簡略化されます。

ここまでで、伝送線路を分布定数回路としてモデル化する動機と基本的な枠組みを理解しました。次に、この微小区間モデルにキルヒホッフの法則を適用して、電圧と電流が満たす基本方程式 — テレグラフ方程式 — を導出します。

テレグラフ方程式の導出

微小区間のモデル

伝送線路上の位置 $z$ から $z + \Delta z$ までの微小区間を考えます。この区間の等価回路は、直列インピーダンス($R\Delta z$ と $L\Delta z$ の直列接続)と並列アドミタンス($G\Delta z$ と $C\Delta z$ の並列接続)で構成されます。

位置 $z$ における電圧を $V(z, t)$、電流を $I(z, t)$ とします。時間領域で議論を始めますが、最終的にはフェーザ表示(正弦波定常状態)に移行します。

KVLの適用

微小区間の入力側から出力側に向かって、キルヒホッフの電圧則(KVL)を適用します。直列インピーダンスによる電圧降下を考えると、次の関係が成り立ちます。

$$ V(z, t) – R\Delta z \cdot I(z, t) – L\Delta z \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} = V(z + \Delta z, t) $$

右辺を左辺に移項して整理します。

$$ V(z, t) – V(z + \Delta z, t) = R\Delta z \cdot I(z, t) + L\Delta z \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} $$

両辺を $\Delta z$ で割ります。

$$ -\frac{V(z + \Delta z, t) – V(z, t)}{\Delta z} = R \cdot I(z, t) + L \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} $$

$\Delta z \to 0$ の極限を取ると、左辺は偏微分の定義そのものです。

$$ \boxed{-\frac{\partial V(z, t)}{\partial z} = R \cdot I(z, t) + L \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t}} $$

これが伝送線路の第一のテレグラフ方程式です。

KCLの適用

同様に、位置 $z + \Delta z$ のノードでキルヒホッフの電流則(KCL)を適用します。並列アドミタンスを通じて漏れる電流を考えると、次の関係が得られます。

$$ I(z, t) – G\Delta z \cdot V(z + \Delta z, t) – C\Delta z \cdot \frac{\partial V(z + \Delta z, t)}{\partial t} = I(z + \Delta z, t) $$

同様に整理し、$\Delta z$ で割って極限を取ります。$\Delta z \to 0$ では $V(z + \Delta z, t) \to V(z, t)$ となるため、次式を得ます。

$$ \boxed{-\frac{\partial I(z, t)}{\partial z} = G \cdot V(z, t) + C \cdot \frac{\partial V(z, t)}{\partial t}} $$

これが第二のテレグラフ方程式です。

フェーザ表示への変換

正弦波定常状態(角周波数 $\omega$)を仮定し、電圧と電流をフェーザ $\tilde{V}(z)$, $\tilde{I}(z)$ で表すと、時間微分 $\partial / \partial t$ は $j\omega$ に置き換わります。テレグラフ方程式は次のようにコンパクトになります。

$$ \boxed{-\frac{d\tilde{V}(z)}{dz} = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z)} $$

$$ \boxed{-\frac{d\tilde{I}(z)}{dz} = (G + j\omega C)\,\tilde{V}(z)} $$

ここで、直列インピーダンス密度 $Z’ = R + j\omega L$ と並列アドミタンス密度 $Y’ = G + j\omega C$ を定義すると、さらに簡潔に書けます。

$$ -\frac{d\tilde{V}}{dz} = Z’\,\tilde{I}, \quad -\frac{d\tilde{I}}{dz} = Y’\,\tilde{V} $$

このように、テレグラフ方程式は電圧と電流が互いにカップルした連立一階微分方程式です。次に、この連立方程式を一つの変数について解くことで、波動方程式を得ます。

波動方程式と一般解

波動方程式の導出

テレグラフ方程式の第一式を $z$ でもう一度微分します。

$$ -\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = Z’\frac{d\tilde{I}}{dz} $$

右辺の $d\tilde{I}/dz$ に第二のテレグラフ方程式 $d\tilde{I}/dz = -Y’\tilde{V}$ を代入すると、次式を得ます。

$$ -\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = Z'(-Y’\tilde{V}) $$

整理すると、電圧に関する波動方程式が得られます。

$$ \boxed{\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = \gamma^2 \tilde{V}} $$

ここで、伝搬定数(propagation constant) $\gamma$ を次のように定義しました。

$$ \boxed{\gamma = \sqrt{Z’Y’} = \sqrt{(R + j\omega L)(G + j\omega C)}} $$

同様の手順で電流についても波動方程式が得られます。

$$ \frac{d^2\tilde{I}}{dz^2} = \gamma^2 \tilde{I} $$

一般解

上の波動方程式は定係数の二階線形常微分方程式であり、一般解は指数関数の重ね合わせです。

$$ \tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-\gamma z} + V_0^- e^{+\gamma z} $$

ここで、$V_0^+$ は $+z$ 方向に進む進行波(forward wave)、$V_0^-$ は $-z$ 方向に進む反射波(backward wave) の振幅です。指数の符号に注意してください。$e^{-\gamma z}$ は $z$ が増加する方向に減衰しながら進む波を表し、$e^{+\gamma z}$ はその逆方向に進む波を表します。

同様に、電流の一般解は次のようになります(テレグラフ方程式の第一式から導かれます)。

$$ \tilde{I}(z) = \frac{V_0^+}{Z_0} e^{-\gamma z} – \frac{V_0^-}{Z_0} e^{+\gamma z} $$

電流の式で反射波の前にマイナス符号がついていることに注意してください。これは、反射波では電圧と電流の比が $-Z_0$ になることを意味しています。進行波と反射波では電力の流れる方向が逆なので、電流の向きが反転するのは物理的に自然です。

ここまでの導出で、波動方程式の一般解に特性インピーダンス $Z_0$ という新しい量が現れました。次のセクションで、この $Z_0$ と伝搬定数 $\gamma$ の物理的意味を詳しく見ていきます。

特性インピーダンスと伝搬定数

特性インピーダンス $Z_0$

特性インピーダンスとは何でしょうか。日常のアナロジーで考えてみましょう。ホースに水を流すとき、ホースの太さや材質によって「水の流れやすさ」が決まります。太いホースなら低い水圧でもたくさんの水が流れ、細いホースなら高い水圧が必要です。伝送線路の特性インピーダンスもこれと似ていて、線路上を進む波の「電圧と電流の比」 を表します。

テレグラフ方程式の第一式に進行波成分 $\tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-\gamma z}$ を代入すると、次のように導出できます。

$$ -\frac{d}{dz}\left(V_0^+ e^{-\gamma z}\right) = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z) $$

左辺を微分します。

$$ \gamma V_0^+ e^{-\gamma z} = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z) $$

$\tilde{I}(z)$ について解きます。

$$ \tilde{I}(z) = \frac{\gamma}{R + j\omega L} V_0^+ e^{-\gamma z} $$

進行波における電圧と電流の比が特性インピーダンス $Z_0$ です。

$$ Z_0 = \frac{\tilde{V}(z)}{\tilde{I}(z)} = \frac{R + j\omega L}{\gamma} $$

$\gamma = \sqrt{(R + j\omega L)(G + j\omega C)}$ を代入して整理すると、最終的に次の式を得ます。

$$ \boxed{Z_0 = \sqrt{\frac{R + j\omega L}{G + j\omega C}}} $$

特性インピーダンスは線路の単位長さあたりのパラメータ $R$, $L$, $G$, $C$ と周波数 $\omega$ で決まり、線路の長さには依存しません。これは「ホースの太さ」がホースの長さに依存しないのと同じです。一般に $Z_0$ は複素数ですが、無損失線路では実数になります。

代表的な伝送線路の特性インピーダンスは以下のとおりです。

伝送線路の種類 典型的な $Z_0$
同軸ケーブル(テレビ用) 75 $\Omega$
同軸ケーブル(通信用) 50 $\Omega$
ツイストペアケーブル 100〜120 $\Omega$
マイクロストリップ線路 設計値(通常50 $\Omega$)
自由空間(平面波) 377 $\Omega$

伝搬定数 $\gamma = \alpha + j\beta$

伝搬定数 $\gamma$ は一般に複素数であり、実部と虚部に分けて書くことができます。

$$ \gamma = \alpha + j\beta $$

ここで、$\alpha$ は減衰定数(attenuation constant)、$\beta$ は位相定数(phase constant) と呼ばれます。

進行波 $V_0^+ e^{-\gamma z} = V_0^+ e^{-\alpha z} e^{-j\beta z}$ を見ると、各成分の役割が明瞭です。

  • $e^{-\alpha z}$: 伝搬するにつれて指数的に振幅が減衰する。$\alpha$ の単位は Np/m(ネーパ毎メートル)または dB/m に変換できます。
  • $e^{-j\beta z}$: 位置 $z$ に応じて位相が回転する。この回転が「波」の正体です。$\beta$ の単位は rad/m です。

位相速度と波長

位相定数 $\beta$ から、線路上を伝わる波の位相速度 $v_p$ と波長 $\lambda$ が求まります。

$$ \boxed{v_p = \frac{\omega}{\beta}, \quad \lambda = \frac{2\pi}{\beta}} $$

自由空間の光速 $c$ とは異なり、線路上の位相速度は線路の構造と周囲の誘電体に依存します。たとえば、誘電体で充填された同軸ケーブル内では $v_p = c / \sqrt{\varepsilon_r}$ となり、比誘電率 $\varepsilon_r > 1$ のために自由空間より遅くなります。

ここまでで、伝搬定数と特性インピーダンスという二つの基本量を定義しました。次に、損失のない理想的な線路(無損失線路)の場合に、これらの式がどう簡略化されるかを見ていきます。実際の高周波設計では、まず無損失線路で考え、その後に損失を摂動として扱うことが一般的です。

無損失線路

簡略化条件

無損失線路とは、導体の抵抗損失と絶縁体の漏れ損失が無視できる理想的な伝送線路です。すなわち、次の条件を置きます。

$$ R = 0, \quad G = 0 $$

この条件は非現実的に見えるかもしれませんが、高品質な同軸ケーブルやマイクロストリップ線路では、短い線路長に対して損失は極めて小さく、無損失近似は優れた第一近似を与えます。

無損失線路の伝搬定数と特性インピーダンス

$R = 0$, $G = 0$ を代入すると、伝搬定数は次のように簡略化されます。

$$ \gamma = \sqrt{j\omega L \cdot j\omega C} = \sqrt{(j)^2 \omega^2 LC} = j\omega\sqrt{LC} $$

よって、減衰定数と位相定数はそれぞれ次のようになります。

$$ \alpha = 0, \quad \beta = \omega\sqrt{LC} $$

減衰定数がゼロ、すなわち信号は減衰せずに伝搬します。これが「無損失」の意味です。

特性インピーダンスも実数に簡略化されます。

$$ Z_0 = \sqrt{\frac{j\omega L}{j\omega C}} = \sqrt{\frac{L}{C}} $$

$$ \boxed{Z_0 = \sqrt{\frac{L}{C}} \quad (\text{実数})} $$

無損失線路の特性インピーダンスは周波数に依存せず、単位長さあたりの $L$ と $C$ だけで決まります。たとえば、同軸ケーブルの $L$ と $C$ は内外導体の半径比と誘電体の特性で決まるため、$Z_0$ はケーブルの幾何学的構造のみで定まるパラメータです。

位相速度

無損失線路での位相速度は次式で与えられます。

$$ v_p = \frac{\omega}{\beta} = \frac{\omega}{\omega\sqrt{LC}} = \frac{1}{\sqrt{LC}} $$

この位相速度も周波数に依存しません。つまり、無損失線路は無分散(dispersionless) であり、すべての周波数成分が同じ速度で伝搬します。パルス信号を送っても波形が崩れないという重要な性質です。

無損失線路の電圧・電流

無損失線路上の電圧と電流は次のようになります。

$$ \tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-j\beta z} + V_0^- e^{+j\beta z} $$

$$ \tilde{I}(z) = \frac{V_0^+}{Z_0} e^{-j\beta z} – \frac{V_0^-}{Z_0} e^{+j\beta z} $$

これらの式は、進行波と反射波の干渉を記述しています。ここで重要な疑問が生まれます — そもそも、反射波はなぜ生じるのでしょうか? その答えは、線路の終端(負荷)にあります。次のセクションで、負荷インピーダンスと反射係数の関係を明らかにします。

反射係数

反射が起こるメカニズム

水の波がプールの壁にぶつかると跳ね返るように、電気信号も伝送線路の終端で「反射」します。ただし、反射の大きさは終端の条件に依存します。終端のインピーダンスが特性インピーダンスと一致していれば反射は生じず、一致していなければ反射が起こります。

なぜでしょうか。進行波は特性インピーダンス $Z_0$ のもとで電圧と電流の比 $V/I = Z_0$ を維持しながら進みます。終端に到達すると、負荷インピーダンス $Z_L$ が $V/I = Z_L$ という別の比率を要求します。$Z_0 \neq Z_L$ のとき、この矛盾を解消するために反射波が生じ、全体の電圧と電流が負荷の境界条件を満たすように調整されるのです。

反射係数の定義と導出

伝送線路の終端($z = 0$)に負荷インピーダンス $Z_L$ が接続されている場合を考えます。ここでは、負荷を原点 $z = 0$ に置き、$z$ は負荷から電源に向かう方向を負とする座標系を使います(慣例的な定義)。

負荷端($z = 0$)での境界条件は次のとおりです。

$$ Z_L = \frac{\tilde{V}(0)}{\tilde{I}(0)} $$

電圧と電流の一般解に $z = 0$ を代入します。

$$ \tilde{V}(0) = V_0^+ + V_0^- $$

$$ \tilde{I}(0) = \frac{V_0^+ – V_0^-}{Z_0} $$

これらを境界条件に代入します。

$$ Z_L = \frac{V_0^+ + V_0^-}{\dfrac{V_0^+ – V_0^-}{Z_0}} = Z_0 \cdot \frac{V_0^+ + V_0^-}{V_0^+ – V_0^-} $$

負荷端での反射係数 $\Gamma_L$ を、反射波と進行波の振幅比として定義します。

$$ \Gamma_L = \frac{V_0^-}{V_0^+} $$

先ほどの式を $\Gamma_L$ で書き直すために、分子分母を $V_0^+$ で割ります。

$$ Z_L = Z_0 \cdot \frac{1 + \Gamma_L}{1 – \Gamma_L} $$

この式を $\Gamma_L$ について解きます。まず、両辺に $(1 – \Gamma_L)$ を掛けます。

$$ Z_L(1 – \Gamma_L) = Z_0(1 + \Gamma_L) $$

展開して $\Gamma_L$ を含む項を一方にまとめます。

$$ Z_L – Z_L \Gamma_L = Z_0 + Z_0 \Gamma_L $$

$\Gamma_L$ を含む項を右辺に、定数項を左辺にまとめると、次のようになります。

$$ Z_L – Z_0 = (Z_L + Z_0)\Gamma_L $$

最終的に、負荷端の反射係数は次のようになります。

$$ \boxed{\Gamma_L = \frac{Z_L – Z_0}{Z_L + Z_0}} $$

この式は伝送線路理論における最も基本的で重要な式の一つです。反射係数は負荷インピーダンスと特性インピーダンスの差で決まります。$Z_L = Z_0$ のとき $\Gamma_L = 0$(反射なし = 整合)、$Z_L = 0$(短絡)のとき $\Gamma_L = -1$(全反射、位相反転)、$Z_L \to \infty$(開放)のとき $\Gamma_L = +1$(全反射、位相保持)です。

線路上の任意の点での反射係数

負荷端から距離 $d$($z = -d$)の点での反射係数は、位相の回転を受けて次のようになります。

$$ \Gamma(d) = \Gamma_L e^{-j2\beta d} $$

ここで $e^{-j2\beta d}$ は、進行波が距離 $d$ だけ進み、反射して同じ距離を戻ってくるまでの往復の位相遅れ $2\beta d$ を表しています。反射係数の大きさ $|\Gamma|$ は線路上で一定ですが、位相は $z$ の位置に応じて回転します。これがスミスチャートの動作原理の基礎でもあります。

反射係数の概念を理解したところで、進行波と反射波が重なり合うことで生じる「定在波」について見ていきましょう。

定在波と VSWR

定在波パターン

進行波と反射波が同時に存在する線路では、両者の干渉によって定在波(standing wave) が形成されます。定在波という名前は、干渉パターンが空間的に固定される(時間とともに移動しない)ことに由来します。

無損失線路上の電圧の大きさ $|\tilde{V}(d)|$ を、負荷からの距離 $d$ の関数として求めてみましょう。

$$ \tilde{V}(d) = V_0^+ \left(e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

$\Gamma_L = |\Gamma_L| e^{j\theta_\Gamma}$ と書くと($\theta_\Gamma$ は反射係数の位相)、電圧の大きさは次のようになります。

$$ |\tilde{V}(d)| = |V_0^+| \left|e^{j\beta d} + |\Gamma_L| e^{j(\theta_\Gamma – \beta d)}\right| $$

この式の絶対値を計算するには、複素数の和の絶対値を求めます。結果は次式です。

$$ |\tilde{V}(d)| = |V_0^+| \sqrt{1 + |\Gamma_L|^2 + 2|\Gamma_L|\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d)} $$

$\cos$ の項が $d$ に依存して変動するため、電圧の大きさは線路上の位置によって周期的に変化します。この変動パターンが定在波です。

電圧の最大値と最小値

$\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d) = +1$ のとき電圧は最大となり、$\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d) = -1$ のとき最小となります。

$$ |\tilde{V}|_{\max} = |V_0^+|(1 + |\Gamma_L|) $$

$\cos$ が $-1$ となる位置では進行波と反射波が逆位相で打ち消し合うため、電圧は最小値を取ります。

$$ |\tilde{V}|_{\min} = |V_0^+|(1 – |\Gamma_L|) $$

最大値と最小値の間隔は $\lambda/4$(四分の一波長)です。これは $\cos$ 関数の引数が $2\beta d$ で変化し、$2\beta \cdot (\lambda/4) = 2 \cdot (2\pi/\lambda) \cdot (\lambda/4) = \pi$ だけ変化する、つまり $\cos$ が半周期分進むためです。

定在波比 VSWR

電圧定在波比 VSWR(Voltage Standing Wave Ratio) は、定在波パターンの電圧最大値と最小値の比として定義されます。

$$ \boxed{\text{VSWR} = \frac{|\tilde{V}|_{\max}}{|\tilde{V}|_{\min}} = \frac{1 + |\Gamma_L|}{1 – |\Gamma_L|}} $$

VSWRは反射の程度を示す実用的な指標であり、次のような値を取ります。

条件 $|\Gamma_L|$ VSWR 状態
完全整合 0 1 反射なし
部分反射 0.5 3 中程度の不整合
全反射 1 $\infty$ 短絡または開放

VSWR = 1 が理想的であり、値が大きいほど反射が大きいことを意味します。実用的には VSWR $\leq 2$($|\Gamma| \leq 1/3$)が許容範囲とされることが多く、これは反射による電力損失が約 11% 以下に対応します。

VSWRの逆の関係式も有用です。

$$ |\Gamma_L| = \frac{\text{VSWR} – 1}{\text{VSWR} + 1} $$

定在波の概念を理解したところで、次に実用的に非常に重要な量 — 任意の位置から負荷側を見たときのインピーダンス(入力インピーダンス)を導出します。

入力インピーダンス

入力インピーダンスの導出

負荷端から距離 $d$ の点で線路を切断し、そこから負荷側を覗いたときに見えるインピーダンスを入力インピーダンス $Z_\text{in}(d)$ と呼びます。これは、その点の電圧と電流の比として定義されます。

$$ Z_\text{in}(d) = \frac{\tilde{V}(d)}{\tilde{I}(d)} $$

無損失線路上の電圧と電流を、負荷からの距離 $d$ の関数として書きます($z = -d$ に対応)。

$$ \tilde{V}(d) = V_0^+\left(e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

$$ \tilde{I}(d) = \frac{V_0^+}{Z_0}\left(e^{j\beta d} – \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

比を取ります。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}}{e^{j\beta d} – \Gamma_L e^{-j\beta d}} $$

ここで $\Gamma_L = (Z_L – Z_0)/(Z_L + Z_0)$ を代入します。分子と分母をそれぞれ展開するのは煩雑なので、次のテクニックを使います。分子と分母に $e^{-j\beta d}(Z_L + Z_0)$ を掛けてまとめると(途中の代数的操作を省略しますが、結果は以下のとおりです)、次の有名な公式が得られます。

$$ \boxed{Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_L\tan(\beta d)}} $$

この入力インピーダンスの公式は、伝送線路理論の実用上最も重要な式です。負荷インピーダンス $Z_L$、特性インピーダンス $Z_0$、電気長 $\beta d$ がわかれば、線路上の任意の点で見たインピーダンスを計算できます。

導出の詳細を示します。$\Gamma_L$ を代入した後の分子を計算します。

$$ e^{j\beta d} + \frac{Z_L – Z_0}{Z_L + Z_0} e^{-j\beta d} $$

$(Z_L + Z_0)$ を掛けて通分します。

$$ = \frac{(Z_L + Z_0)e^{j\beta d} + (Z_L – Z_0)e^{-j\beta d}}{Z_L + Z_0} $$

指数関数をオイラーの公式で展開すると、$(Z_L + Z_0)e^{j\beta d} + (Z_L – Z_0)e^{-j\beta d}$ は次のようになります。

$$ = Z_L(e^{j\beta d} + e^{-j\beta d}) + Z_0(e^{j\beta d} – e^{-j\beta d}) $$

オイラーの公式 $e^{j\theta} + e^{-j\theta} = 2\cos\theta$, $e^{j\theta} – e^{-j\theta} = 2j\sin\theta$ を適用します。

$$ = 2Z_L\cos(\beta d) + 2jZ_0\sin(\beta d) $$

同様に分母を計算すると、次のようになります。

$$ = 2Z_0\cos(\beta d) + 2jZ_L\sin(\beta d) $$

$2\cos(\beta d)$ でくくって $\tan(\beta d)$ の形に整理すると、先ほどの公式が得られます。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_L\tan(\beta d)} $$

この公式は $\beta d$、つまり線路の電気長が $\tan$ の引数に入っている点が特徴的です。線路の物理長が波長の何倍かによって入力インピーダンスが周期的に変化するということです。

入力インピーダンスの一般公式が得られたので、次に特殊な終端条件 — 短絡、開放、整合 — を代入して、それぞれのケースの振る舞いを分析します。

特殊な終端条件

整合終端($Z_L = Z_0$)

負荷インピーダンスが特性インピーダンスと一致する場合です。入力インピーダンスの公式に $Z_L = Z_0$ を代入します。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_0 + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_0\tan(\beta d)} = Z_0 $$

入力インピーダンスは線路上のどの位置でも $Z_0$ に等しくなります。反射係数は $\Gamma_L = 0$、VSWR = 1 です。進行波だけが存在し、定在波は生じません。電力はすべて負荷に吸収されます。

これが理想的な状態 — インピーダンス整合 — であり、高周波回路設計の最も基本的な目標です。

短絡終端($Z_L = 0$)

線路の終端が短絡されている場合(たとえば、導線で終端を接続)です。反射係数は次のようになります。

$$ \Gamma_L = \frac{0 – Z_0}{0 + Z_0} = -1 $$

反射波の振幅は進行波と同じ大きさですが、位相が反転しています。入力インピーダンスの公式に $Z_L = 0$ を代入すると、次式を得ます。

$$ Z_\text{in}^{\text{SC}}(d) = Z_0 \cdot \frac{0 + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + j \cdot 0 \cdot \tan(\beta d)} = jZ_0\tan(\beta d) $$

$$ \boxed{Z_\text{in}^{\text{SC}}(d) = jZ_0\tan(\beta d)} $$

これは純虚数であり、短絡終端の伝送線路は純リアクタンスとして振る舞います

  • $d < \lambda/4$ のとき:$\tan(\beta d) > 0$ なので、$Z_\text{in}$ は正の虚数 = インダクティブ(インダクタのように振る舞う)
  • $\lambda/4 < d < \lambda/2$ のとき:$\tan(\beta d) < 0$ なので、$Z_\text{in}$ は負の虚数 = キャパシティブ(コンデンサのように振る舞う)
  • $d = \lambda/4$ のとき:$\tan(\beta d) \to \infty$ なので、$Z_\text{in} \to \infty$(開放のように見える)

つまり、短絡した伝送線路の長さを変えるだけで、インダクタにもコンデンサにもなれるのです。これはマイクロ波回路設計でスタブ として利用されます。

開放終端($Z_L \to \infty$)

線路の終端が何も接続されていない(開放)場合です。反射係数は $\Gamma_L = +1$ です。

入力インピーダンスの公式で $Z_L \to \infty$ の極限を取ります。分子分母を $Z_L$ で割ると次のようになります。

$$ Z_\text{in}^{\text{OC}}(d) = Z_0 \cdot \frac{1 + j(Z_0/Z_L)\tan(\beta d)}{Z_0/Z_L + j\tan(\beta d)} $$

$Z_L \to \infty$ とすると $Z_0/Z_L \to 0$ なので、次式が得られます。

$$ \boxed{Z_\text{in}^{\text{OC}}(d) = -jZ_0\cot(\beta d) = \frac{Z_0}{j\tan(\beta d)}} $$

開放終端も純リアクタンスとして振る舞いますが、短絡終端とは $\lambda/4$ ずれた振る舞いをします。

  • $d < \lambda/4$ のとき:キャパシティブ
  • $\lambda/4 < d < \lambda/2$ のとき:インダクティブ
  • $d = \lambda/4$ のとき:$Z_\text{in} = 0$(短絡のように見える)

短絡終端と開放終端は互いに補関係にあり、一方が $d$ で示す振る舞いを他方は $d + \lambda/4$ で示します。

半波長線路($d = \lambda/2$)

線路長がちょうど半波長のとき、$\beta d = 2\pi/\lambda \cdot \lambda/2 = \pi$ なので $\tan(\pi) = 0$ です。入力インピーダンスの公式に代入すると、次のようになります。

$$ Z_\text{in}\left(\frac{\lambda}{2}\right) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + 0}{Z_0 + 0} = Z_L $$

半波長線路は負荷インピーダンスをそのまま繰り返します。これは測定や回路設計で便利な性質です。

ここまでで特殊な終端条件の振る舞いを分析しました。次に、インピーダンス変換の実用的テクニックである四分の一波長変換器について解説します。

$\lambda/4$ 変換器(インピーダンス変換器)

四分の一波長線路の性質

伝送線路の長さがちょうど $\lambda/4$(四分の一波長)のとき、$\beta d = 2\pi/\lambda \cdot \lambda/4 = \pi/2$ なので $\tan(\pi/2) \to \infty$ です。入力インピーダンスの公式で $\tan(\beta d) \to \infty$ の極限を取ります。

分子分母を $\tan(\beta d)$ で割ります。

$$ Z_\text{in} = Z_0 \cdot \frac{Z_L / \tan(\beta d) + jZ_0}{Z_0 / \tan(\beta d) + jZ_L} $$

$\tan(\beta d) \to \infty$ とすると、次の結果を得ます。

$$ \boxed{Z_\text{in}\left(\frac{\lambda}{4}\right) = \frac{Z_0^2}{Z_L}} $$

これが $\lambda/4$ 変換器(quarter-wave transformer) の公式です。四分の一波長の伝送線路を挟むだけで、負荷インピーダンスを $Z_0^2/Z_L$ に変換できます。

実用的な応用

たとえば、特性インピーダンス 50 $\Omega$ の主線路に 100 $\Omega$ の負荷を接続したい場合を考えます。直接接続すると反射が生じます。

$$ \Gamma = \frac{100 – 50}{100 + 50} = \frac{1}{3} \approx 0.333 $$

そこで、$\lambda/4$ 変換器を用いてインピーダンス整合を行います。変換器の特性インピーダンス $Z_T$ は次の条件で決まります。

$$ Z_\text{in} = \frac{Z_T^2}{Z_L} = Z_0 $$

$Z_T$ について解きます。

$$ Z_T = \sqrt{Z_0 \cdot Z_L} = \sqrt{50 \times 100} = \sqrt{5000} \approx 70.7 \; \Omega $$

特性インピーダンス $70.7 \; \Omega$、長さ $\lambda/4$ の伝送線路を負荷と主線路の間に挿入すれば、主線路から見た入力インピーダンスは 50 $\Omega$ となり、完全整合が達成されます。

この変換器は原理的に単一周波数でのみ完全な整合を実現するという点に注意が必要です。$\lambda/4$ という条件は周波数に依存するため、設計周波数から離れると整合が劣化します。広帯域な整合が必要な場合は、多段の $\lambda/4$ 変換器や、テーパ線路を使用します。

理論の解説は以上です。ここからは、これまでに導出した式をPythonで実装し、定在波パターンや各終端条件での入力インピーダンスの振る舞いを視覚的に確認します。

Pythonでの実装と可視化

定在波パターンの可視化

まず、さまざまな反射係数に対する定在波パターンを描画します。負荷端からの距離に沿って電圧振幅がどう変化するかを確認しましょう。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# パラメータ設定
Z0 = 50.0          # 特性インピーダンス [Ω]
f = 1e9             # 周波数 1 GHz
c = 3e8             # 光速 [m/s]
lam = c / f         # 波長 [m]
beta = 2 * np.pi / lam  # 位相定数 [rad/m]

# 負荷からの距離
d = np.linspace(0, 2 * lam, 1000)

# 異なる負荷インピーダンスに対する反射係数
ZL_list = [50, 100, 150, 0, 1e10]  # 整合, 不整合, 不整合, 短絡, 開放
labels = [
    r"$Z_L = 50\,\Omega$ (整合)",
    r"$Z_L = 100\,\Omega$",
    r"$Z_L = 150\,\Omega$",
    r"$Z_L = 0$ (短絡)",
    r"$Z_L \to \infty$ (開放)",
]
colors = ["#00bcd4", "#ff9800", "#e91e63", "#4caf50", "#9c27b0"]

fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 6))

for ZL, label, color in zip(ZL_list, labels, colors):
    Gamma_L = (ZL - Z0) / (ZL + Z0)
    # 電圧振幅 |V(d)| / |V0+|
    V_norm = np.abs(np.exp(1j * beta * d) + Gamma_L * np.exp(-1j * beta * d))
    ax.plot(d / lam, V_norm, label=label, color=color, linewidth=2)

ax.set_xlabel(r"負荷からの距離 $d / \lambda$", fontsize=13)
ax.set_ylabel(r"正規化電圧振幅 $|\tilde{V}(d)| / |V_0^+|$", fontsize=13)
ax.set_title("伝送線路上の定在波パターン", fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11)
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0, 2)
plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフからいくつかの重要な特徴が読み取れます。

  1. 整合終端($Z_L = 50 \; \Omega$) では電圧振幅が一定(= 1)であり、定在波が全く生じません。VSWR = 1 です。信号が負荷に完全に吸収されていることがわかります。
  2. 短絡終端と開放終端 では、電圧振幅が 0 から 2 まで変動する完全な定在波が形成されます。VSWR = $\infty$ です。短絡終端では負荷端で電圧がゼロ、開放終端では負荷端で電圧が最大になるという、互いに $\lambda/4$ ずれたパターンを示しています。
  3. 部分反射のケース($Z_L = 100, 150 \; \Omega$)では、電圧振幅が最大値と最小値の間で周期的に変動します。負荷インピーダンスと $Z_0$ の差が大きいほど変動幅が大きく、VSWRも大きくなります。

各終端条件での入力インピーダンス

次に、短絡終端と開放終端の伝送線路について、入力インピーダンスが線路長にどう依存するかを描画します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

Z0 = 50.0
f = 1e9
c = 3e8
lam = c / f
beta = 2 * np.pi / lam

# 線路長を波長で正規化
d_lam = np.linspace(0.001, 1.0, 1000)
d = d_lam * lam

# 短絡終端の入力インピーダンス(純虚数)
Zin_SC = 1j * Z0 * np.tan(beta * d)

# 開放終端の入力インピーダンス(純虚数)
Zin_OC = -1j * Z0 / np.tan(beta * d)

fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5))

# 短絡終端
axes[0].plot(d_lam, Zin_SC.imag / Z0, color="#4caf50", linewidth=2)
axes[0].set_xlabel(r"線路長 $d / \lambda$", fontsize=12)
axes[0].set_ylabel(r"$\mathrm{Im}[Z_\mathrm{in}] / Z_0$", fontsize=12)
axes[0].set_title("短絡終端の入力インピーダンス", fontsize=13)
axes[0].set_ylim(-10, 10)
axes[0].axhline(0, color="white", linewidth=0.5, alpha=0.5)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)

# 正 → インダクティブ、負 → キャパシティブ の注釈
axes[0].annotate("インダクティブ", xy=(0.1, 5), fontsize=11, color="#ff9800")
axes[0].annotate("キャパシティブ", xy=(0.3, -5), fontsize=11, color="#2196f3")

# 開放終端
axes[1].plot(d_lam, Zin_OC.imag / Z0, color="#9c27b0", linewidth=2)
axes[1].set_xlabel(r"線路長 $d / \lambda$", fontsize=12)
axes[1].set_ylabel(r"$\mathrm{Im}[Z_\mathrm{in}] / Z_0$", fontsize=12)
axes[1].set_title("開放終端の入力インピーダンス", fontsize=13)
axes[1].set_ylim(-10, 10)
axes[1].axhline(0, color="white", linewidth=0.5, alpha=0.5)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)

axes[1].annotate("キャパシティブ", xy=(0.02, -5), fontsize=11, color="#2196f3")
axes[1].annotate("インダクティブ", xy=(0.3, 5), fontsize=11, color="#ff9800")

plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフから、短絡終端と開放終端のリアクタンス特性がはっきり見て取れます。

  1. 短絡終端(左図): $d < \lambda/4$ では正のリアクタンス(インダクティブ)、$\lambda/4 < d < \lambda/2$ では負のリアクタンス(キャパシティブ)となり、$\lambda/2$ ごとにこのパターンが繰り返されます。$d = \lambda/4$ で $|Z_\text{in}| \to \infty$(開放)、$d = \lambda/2$ で $Z_\text{in} = 0$(短絡に戻る)です。
  2. 開放終端(右図): 短絡終端とちょうど $\lambda/4$ だけずれたパターンになっています。$d < \lambda/4$ ではキャパシティブ、$\lambda/4 < d < \lambda/2$ ではインダクティブです。
  3. 両者とも $\tan$ 関数の性質で $\lambda/4$ の奇数倍の位置に特異点(発散)を持ちます。この急激な変化は、線路長が共振条件に近いことを示しています。

電圧・電流分布の可視化

短絡終端と開放終端で、電圧と電流の空間分布がどう異なるかを同時に可視化します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

Z0 = 50.0
f = 1e9
c = 3e8
lam = c / f
beta = 2 * np.pi / lam

d = np.linspace(0, 2 * lam, 1000)

fig, axes = plt.subplots(2, 2, figsize=(14, 9))

# --- 短絡終端 ---
Gamma_SC = -1.0
V_SC = np.abs(np.exp(1j * beta * d) + Gamma_SC * np.exp(-1j * beta * d))
I_SC = np.abs(np.exp(1j * beta * d) - Gamma_SC * np.exp(-1j * beta * d))

axes[0, 0].plot(d / lam, V_SC, color="#4caf50", linewidth=2, label=r"$|\tilde{V}|$")
axes[0, 0].set_title("短絡終端: 電圧振幅", fontsize=13)
axes[0, 0].set_ylabel(r"$|\tilde{V}| / |V_0^+|$", fontsize=12)
axes[0, 0].legend(fontsize=11)
axes[0, 0].grid(True, alpha=0.3)

axes[1, 0].plot(d / lam, I_SC, color="#ff9800", linewidth=2, label=r"$|\tilde{I}| \cdot Z_0$")
axes[1, 0].set_title("短絡終端: 電流振幅", fontsize=13)
axes[1, 0].set_xlabel(r"負荷からの距離 $d / \lambda$", fontsize=12)
axes[1, 0].set_ylabel(r"$|\tilde{I}| \cdot Z_0 / |V_0^+|$", fontsize=12)
axes[1, 0].legend(fontsize=11)
axes[1, 0].grid(True, alpha=0.3)

# --- 開放終端 ---
Gamma_OC = 1.0
V_OC = np.abs(np.exp(1j * beta * d) + Gamma_OC * np.exp(-1j * beta * d))
I_OC = np.abs(np.exp(1j * beta * d) - Gamma_OC * np.exp(-1j * beta * d))

axes[0, 1].plot(d / lam, V_OC, color="#9c27b0", linewidth=2, label=r"$|\tilde{V}|$")
axes[0, 1].set_title("開放終端: 電圧振幅", fontsize=13)
axes[0, 1].set_ylabel(r"$|\tilde{V}| / |V_0^+|$", fontsize=12)
axes[0, 1].legend(fontsize=11)
axes[0, 1].grid(True, alpha=0.3)

axes[1, 1].plot(d / lam, I_OC, color="#e91e63", linewidth=2, label=r"$|\tilde{I}| \cdot Z_0$")
axes[1, 1].set_title("開放終端: 電流振幅", fontsize=13)
axes[1, 1].set_xlabel(r"負荷からの距離 $d / \lambda$", fontsize=12)
axes[1, 1].set_ylabel(r"$|\tilde{I}| \cdot Z_0 / |V_0^+|$", fontsize=12)
axes[1, 1].legend(fontsize=11)
axes[1, 1].grid(True, alpha=0.3)

plt.suptitle("短絡・開放終端での電圧・電流の定在波パターン", fontsize=14, y=1.01)
plt.tight_layout()
plt.show()

4つのパネルから、短絡終端と開放終端の定在波パターンの特徴が明確に見て取れます。

  1. 短絡終端の電圧(左上): 負荷端($d = 0$)で電圧がゼロになります。これは短絡条件 $V = 0$ を直接反映しています。電圧の腹(最大値)は $d = \lambda/4, 3\lambda/4, \ldots$ に現れます。
  2. 短絡終端の電流(左下): 負荷端で電流が最大になります。電圧の節(ゼロ)と電流の腹(最大)が同じ位置にあり、両者は空間的に $\lambda/4$ ずれて相補的なパターンを形成しています。
  3. 開放終端の電圧(右上): 負荷端で電圧が最大です。開放端では電流が流れ出ないため、電圧が最大になるのは物理的に自然です。
  4. 開放終端の電流(右下): 負荷端で電流がゼロです。短絡終端の電圧パターンと同じ形をしていますが、$\lambda/4$ シフトしています。

$\lambda/4$ 変換器の帯域特性

$\lambda/4$ 変換器が設計周波数付近でどの程度の帯域幅を持つかを調べます。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

Z0_main = 50.0   # 主線路の特性インピーダンス
ZL = 100.0        # 負荷インピーダンス

# λ/4変換器の最適な特性インピーダンス
Z_T = np.sqrt(Z0_main * ZL)

# 設計周波数を基準にした正規化周波数
f_ratio = np.linspace(0.5, 1.5, 500)

# 設計周波数でのλ/4に対応する電気長
# β d = (π/2) × (f/f0)
beta_d = (np.pi / 2) * f_ratio

# 入力インピーダンス
tan_bd = np.tan(beta_d)
Zin = Z_T * (ZL + 1j * Z_T * tan_bd) / (Z_T + 1j * ZL * tan_bd)

# 反射係数の大きさ
Gamma_mag = np.abs((Zin - Z0_main) / (Zin + Z0_main))

# VSWR
VSWR = (1 + Gamma_mag) / (1 - Gamma_mag)

fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5))

# 反射係数
axes[0].plot(f_ratio, Gamma_mag, color="#00bcd4", linewidth=2)
axes[0].set_xlabel(r"正規化周波数 $f / f_0$", fontsize=12)
axes[0].set_ylabel(r"$|\Gamma|$", fontsize=12)
axes[0].set_title(r"$\lambda/4$ 変換器の反射係数", fontsize=13)
axes[0].axhline(1/3, color="#ff9800", linestyle="--", alpha=0.7, label=r"$|\Gamma| = 1/3$ (VSWR=2)")
axes[0].legend(fontsize=11)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_ylim(0, 0.5)

# VSWR
axes[1].plot(f_ratio, VSWR, color="#e91e63", linewidth=2)
axes[1].set_xlabel(r"正規化周波数 $f / f_0$", fontsize=12)
axes[1].set_ylabel("VSWR", fontsize=12)
axes[1].set_title(r"$\lambda/4$ 変換器の VSWR", fontsize=13)
axes[1].axhline(2, color="#ff9800", linestyle="--", alpha=0.7, label="VSWR = 2")
axes[1].legend(fontsize=11)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_ylim(1, 5)

plt.suptitle(
    rf"$Z_0 = {Z0_main:.0f}\,\Omega$, $Z_L = {ZL:.0f}\,\Omega$, $Z_T = {Z_T:.1f}\,\Omega$",
    fontsize=13, y=1.01
)
plt.tight_layout()
plt.show()

$\lambda/4$ 変換器の帯域特性のグラフから、次のことが読み取れます。

  1. 設計周波数 $f_0$ で完全整合($|\Gamma| = 0$, VSWR = 1)が達成されています。これは理論の予測どおりです。
  2. 帯域幅は有限です。$f/f_0$ が 1 から離れるにつれて反射係数は急速に増大します。VSWR $\leq 2$ の帯域は $f/f_0 \approx 0.7$ から $1.3$ 程度、すなわち設計周波数の $\pm 30\%$ 程度です。実際の帯域幅はインピーダンス比 $Z_L / Z_0$ に依存し、この比が 1 に近いほど広帯域になります。
  3. $f/f_0 = 0.5$ や $1.5$ では半波長や $3/4$ 波長の条件に近づくため、変換器の効果が弱まり反射が増大しています。

反射係数の複素平面上の軌跡

最後に、線路上の位置に応じて反射係数が複素平面上でどう変化するかを可視化します。これはスミスチャートの基礎となる描像です。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

Z0 = 50.0
ZL_list = [100 + 50j, 25 - 25j, 150 + 0j]
labels = [
    r"$Z_L = 100 + j50\,\Omega$",
    r"$Z_L = 25 - j25\,\Omega$",
    r"$Z_L = 150\,\Omega$",
]
colors = ["#00bcd4", "#ff9800", "#e91e63"]

fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 8))

# 単位円
theta_circle = np.linspace(0, 2 * np.pi, 200)
ax.plot(np.cos(theta_circle), np.sin(theta_circle), "w-", alpha=0.3, linewidth=1)

for ZL, label, color in zip(ZL_list, labels, colors):
    Gamma_L = (ZL - Z0) / (ZL + Z0)

    # 負荷端から d=0 → λ/2 まで移動
    d_lam = np.linspace(0, 0.5, 500)
    beta_d = 2 * np.pi * d_lam
    Gamma_d = Gamma_L * np.exp(-2j * beta_d)

    ax.plot(Gamma_d.real, Gamma_d.imag, color=color, linewidth=2, label=label)
    # 負荷端の位置にマーカー
    ax.plot(Gamma_L.real, Gamma_L.imag, "o", color=color, markersize=8)

ax.set_xlabel(r"Re$[\Gamma]$", fontsize=12)
ax.set_ylabel(r"Im$[\Gamma]$", fontsize=12)
ax.set_title(r"反射係数 $\Gamma(d)$ の複素平面上の軌跡", fontsize=14)
ax.set_aspect("equal")
ax.set_xlim(-1.2, 1.2)
ax.set_ylim(-1.2, 1.2)
ax.axhline(0, color="white", linewidth=0.5, alpha=0.3)
ax.axvline(0, color="white", linewidth=0.5, alpha=0.3)
ax.legend(fontsize=11, loc="upper left")
ax.grid(True, alpha=0.2)
plt.tight_layout()
plt.show()

複素平面上の反射係数の軌跡から、伝送線路理論の幾何学的な構造が見えてきます。

  1. すべての軌跡は円弧です。線路上を移動すると $\Gamma(d) = \Gamma_L e^{-j2\beta d}$ の位相が変化するだけなので、軌跡は $|\Gamma_L|$ を半径とする円上を時計回りに回転します。丸印は負荷端($d = 0$)を表しています。
  2. 整合点は原点です。反射係数の大きさが小さいほど(軌跡の円が小さいほど)、整合に近い状態です。
  3. $d = \lambda/4$ で円の反対側に到達し、$d = \lambda/2$ で元に戻ります。この描像がスミスチャートの基本原理であり、次の記事で詳しく扱います。

まとめ

本記事では、伝送線路の理論を基礎から体系的に導出しました。

  • 集中定数回路と分布定数回路: 信号の波長と回路サイズが同程度になると、電圧・電流が位置の関数として変化し、分布定数モデルが必要になります
  • テレグラフ方程式: 微小区間にKVL・KCLを適用することで、電圧と電流の連立偏微分方程式が導出されます
  • 波動方程式: テレグラフ方程式から伝搬定数 $\gamma = \alpha + j\beta$ と特性インピーダンス $Z_0 = \sqrt{(R + j\omega L)/(G + j\omega C)}$ が得られます
  • 無損失線路: $R = G = 0$ とすると $Z_0 = \sqrt{L/C}$(実数)、$\beta = \omega\sqrt{LC}$ に簡略化されます
  • 反射係数: $\Gamma_L = (Z_L – Z_0)/(Z_L + Z_0)$ は、負荷でのインピーダンス不整合による反射の大きさと位相を表します
  • 定在波比: $\text{VSWR} = (1 + |\Gamma|)/(1 – |\Gamma|)$ は反射の程度を示す実用的な指標です
  • 入力インピーダンス: $Z_\text{in} = Z_0(Z_L + jZ_0\tan\beta d)/(Z_0 + jZ_L\tan\beta d)$ は線路上の任意の点でのインピーダンスを与えます
  • $\lambda/4$ 変換器: $Z_\text{in} = Z_0^2/Z_L$ により、インピーダンス変換が実現できます

伝送線路の理論は、高周波回路設計やアンテナ工学の基盤です。次のステップとして、反射係数を視覚的に扱う強力なツールであるスミスチャートと、アンテナのインピーダンス整合について学ぶことをお勧めします。