AM ラジオは夜になると遠くの放送局が聞こえるのに、FM ラジオでは決してそんなことは起きません。携帯電話は建物の中でもつながるのに、衛星放送は少しアンテナの向きがずれただけで映らなくなります。同じ「電波」なのに、なぜこれほど振る舞いが違うのでしょうか。
その答えは 周波数 にあります。電波の周波数が変わると、回折・反射・減衰の性質が劇的に変化し、伝わり方も使い道もまったく異なるものになります。周波数帯ごとの伝搬特性を理解することは、通信システム設計の第一歩であり、次のような場面で直接的に役立ちます。
- 無線通信のリンクバジェット設計: 使用する周波数帯によって自由空間損失が大きく異なるため、送信電力やアンテナ利得の要件が変わります
- 電波法と周波数割当ての理解: 各帯域には用途が厳密に定められており、国際的な調整(ITU)と国内法(電波法)の両方を知る必要があります
- 5G / 衛星通信の技術選定: ミリ波帯の特性を理解することで、ビームフォーミングやセル設計の必然性がわかります
- レーダーやリモートセンシング: 周波数によって分解能や大気透過特性が異なり、目的に応じた帯域選択が求められます
本記事の内容
- 電磁波スペクトルの全体像と電波の位置付け
- ITU による周波数帯の分類(VLF / LF / MF / HF / VHF / UHF / SHF / EHF)
- 各帯域の伝搬メカニズム(地表波・電離層反射・見通し伝搬)
- 各帯域の主な用途(放送・携帯・衛星・レーダー)
- 日本の電波法と周波数割当て
- アンテナサイズと周波数の関係
- 自由空間損失の周波数依存性
- 5G ミリ波の特徴と課題
- Python: 各周波数帯の自由空間損失比較とアンテナサイズの可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 自由空間損失とフリスの伝達公式を導出する — FSPL の導出と dB 表現
- 電磁波の導出と伝搬特性 — マクスウェル方程式から光を導く — 電磁波の基礎物理
電磁波スペクトルの全体像
電波は電磁波の一部
電磁波は周波数(または波長)によって分類され、低い方から電波・赤外線・可視光・紫外線・X線・ガンマ線と続きます。このうち 電波(radio wave) は、一般に周波数が $3 \, \text{kHz}$ から $300 \, \text{GHz}$ までの電磁波を指します。
電波は周波数と波長の間に次の基本関係を持ちます。
$$ \begin{equation} \lambda = \frac{c}{f} \end{equation} $$
ここで、$\lambda$ は波長 [m]、$f$ は周波数 [Hz]、$c$ は光速($\approx 3 \times 10^8$ m/s)です。この式から、周波数が高くなるほど波長は短くなることがわかります。例えば、$f = 1 \, \text{MHz}$ なら $\lambda = 300 \, \text{m}$、$f = 1 \, \text{GHz}$ なら $\lambda = 30 \, \text{cm}$、$f = 30 \, \text{GHz}$ なら $\lambda = 1 \, \text{cm}$ です。
波長が変わると、電波が障害物や地表・大気とどう相互作用するかが根本的に変わります。波長が建物や山の大きさに対して十分に長ければ電波は回折して回り込みますが、波長がそれらに比べて極端に短くなると光のように直進し、障害物の影には届かなくなります。この原理が、周波数帯ごとの伝搬特性の違いを生む本質です。
電波帯域の概観
$3 \, \text{kHz}$ から $300 \, \text{GHz}$ は非常に広い範囲なので、国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)はこの範囲を10の帯域に区分しています。各帯域は周波数が10倍(1ディケード)ずつ上がるごとに区切られ、それぞれに固有の名前が付けられています。
では、その具体的な分類を見ていきましょう。
ITU による周波数帯の分類
ITU は無線通信規則(Radio Regulations)において、電波の周波数帯を以下のように分類しています。各帯域の名前は英語の頭文字で呼ばれ、国際的な標準用語として広く使われています。
| 帯域名 | 略称 | 周波数範囲 | 波長範囲 | 別名 |
|---|---|---|---|---|
| Very Low Frequency | VLF | 3 – 30 kHz | 100 – 10 km | ミリアメートル波 |
| Low Frequency | LF | 30 – 300 kHz | 10 – 1 km | キロメートル波 |
| Medium Frequency | MF | 300 kHz – 3 MHz | 1000 – 100 m | ヘクトメートル波 |
| High Frequency | HF | 3 – 30 MHz | 100 – 10 m | デカメートル波 |
| Very High Frequency | VHF | 30 – 300 MHz | 10 – 1 m | メートル波 |
| Ultra High Frequency | UHF | 300 MHz – 3 GHz | 100 – 10 cm | デシメートル波 |
| Super High Frequency | SHF | 3 – 30 GHz | 10 – 1 cm | センチメートル波 |
| Extremely High Frequency | EHF | 30 – 300 GHz | 10 – 1 mm | ミリメートル波 |
各帯域の名前は周波数の「高さ」を表しています。VLF(Very Low)が最も低く、EHF(Extremely High)が最も高い帯域です。命名規則は直感的で、Low → Medium → High → Very High → Ultra High → Super High → Extremely High と段階的に上がっていきます。
注意すべき点として、ITU の分類にはさらに低い帯域(ELF: 3 – 30 Hz、SLF: 30 – 300 Hz、ULF: 300 Hz – 3 kHz)もありますが、これらは一般的な通信にはほとんど使われず、潜水艦への極超長波通信など特殊な用途に限られます。本記事では VLF 以上を扱います。
周波数帯の分類がわかったところで、各帯域の電波がどのような仕組みで伝搬するのかを見ていきましょう。伝搬メカニズムを理解することが、各帯域の用途を理解する鍵となります。
電波の伝搬メカニズム
電波の伝搬経路は大きく3つに分類できます。周波数帯によってどの経路が支配的かが異なり、それが利用可能な通信距離や信頼性を左右します。
地表波伝搬
地表波(ground wave)は、地球の表面に沿って伝搬する電波です。電波が地表の曲率に沿って回折しながら進むため、見通し線(line of sight)を超えた距離まで到達できます。
地表波伝搬が効率的に機能するためには、波長が地表の起伏に対して十分に長い必要があります。具体的には、VLF・LF・MF 帯(波長が数百メートルから数十キロメートル)で地表波が主要な伝搬モードとなります。
地表波の減衰は、地表の導電率と周波数に依存します。海水は導電率が高い(約 $4 \, \text{S/m}$)ため地表波の減衰が小さく、逆に乾燥した砂漠(導電率 $\sim 10^{-3} \, \text{S/m}$)では急速に減衰します。このため、海上通信ではLF帯やMF帯の地表波が非常に有効です。
地表波伝搬の到達距離は、次のように周波数と導電率に強く依存します。MF帯のAMラジオ(約 $1 \, \text{MHz}$)は昼間、地表波により数百キロメートル圏内をカバーできますが、VHF帯のFMラジオ(約 $100 \, \text{MHz}$)では地表波はほとんど使えません。
電離層伝搬(空間波)
地球の上空 $60 \sim 1000 \, \text{km}$ には 電離層(ionosphere) と呼ばれる、太陽の紫外線やX線によって大気が電離した層があります。電離層は電波を反射・屈折させる性質があり、特に HF 帯(短波: 3 – 30 MHz)では電離層反射によって地球の裏側まで電波を届けることができます。
電離層による反射は、電離層中の電子密度と電波の周波数の関係で決まります。プラズマ周波数 $f_p$ は電子密度 $n_e$ [m$^{-3}$] から次のように計算されます。
$$ \begin{equation} f_p = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{n_e e^2}{m_e \varepsilon_0}} \end{equation} $$
ここで、$e$ は電子の電荷、$m_e$ は電子の質量、$\varepsilon_0$ は真空の誘電率です。
簡単に言えば、電波の周波数がプラズマ周波数より低ければ反射され、高ければ電離層を突き抜けます。電離層の電子密度は昼夜・季節・太陽活動によって大きく変動するため、HF帯の伝搬状態も時間とともに変化します。これが「AMラジオが夜に遠くの局が聞こえる」現象の正体です。夜間は低い電離層(D層)が消失し、より高い電離層(F層)で反射されるため、跳躍距離が長くなるのです。
電離層で反射される最大周波数は 臨界周波数(critical frequency) と呼ばれ、電離層の電子密度の最大値で決まります。垂直入射の場合の臨界周波数 $f_c$ は次の関係で与えられます。
$$ \begin{equation} f_c = 9 \sqrt{n_{e,\max}} \quad [\text{Hz}] \end{equation} $$
ここで $n_{e,\max}$ は電子密度の最大値 [m$^{-3}$] です。典型的には、$f_c$ は昼間で 5 – 12 MHz 程度、夜間で 2 – 5 MHz 程度です。
斜め入射の場合は、セカント則(secant law)により、臨界周波数よりも高い周波数でも反射が可能になります。
$$ \begin{equation} f_{\text{MUF}} = \frac{f_c}{\cos \theta} \end{equation} $$
$\theta$ は電離層への入射角で、$f_{\text{MUF}}$(Maximum Usable Frequency)がその角度で反射される最大周波数です。遠距離通信では $\theta$ が大きくなるため、$f_{\text{MUF}}$ は臨界周波数の数倍に達します。
見通し伝搬(直接波)
VHF 帯以上(30 MHz 以上)の電波は、電離層を突き抜けてしまうため電離層反射には頼れません。また波長が短いため地表波も急速に減衰します。そのため、これらの帯域では 見通し伝搬(line-of-sight propagation) が主な伝搬モードとなります。
見通し伝搬では、送信アンテナと受信アンテナの間に障害物がなく、互いが「見える」状態にある必要があります。地球の曲率を考慮した場合の見通し距離 $d$ [km] は、次の近似式で与えられます。
$$ \begin{equation} d \approx 3.57 \left(\sqrt{h_t} + \sqrt{h_r}\right) \quad [\text{km}] \end{equation} $$
ここで $h_t$ と $h_r$ はそれぞれ送信・受信アンテナの地上高 [m] です。大気の屈折効果を考慮して地球の実効半径を真の半径の $4/3$ 倍とした近似($4/3$ 地球モデル)を使っています。
例えば、送信アンテナの高さが $h_t = 100 \, \text{m}$(ビルの屋上に設置した携帯電話基地局)、受信アンテナの高さが $h_r = 1.5 \, \text{m}$(歩行者のスマートフォン)の場合、見通し距離は
$$ d \approx 3.57 \left(\sqrt{100} + \sqrt{1.5}\right) = 3.57 \times (10 + 1.22) \approx 40 \, \text{km} $$
となります。実際にはフレネルゾーンの確保やマルチパスの影響を考慮する必要がありますが、上の式は粗い見積もりとして有用です。
見通し伝搬では、自由空間損失(FSPL)が支配的な損失要因となります。FSPL は距離と周波数に依存し、次の式で与えられます。
$$ \begin{equation} \text{FSPL} = \left(\frac{4\pi d f}{c}\right)^2 \end{equation} $$
dB 表現では、
$$ \begin{equation} \text{FSPL [dB]} = 20 \log_{10}\left(\frac{4\pi d f}{c}\right) = 20\log_{10}(d) + 20\log_{10}(f) + 20\log_{10}\left(\frac{4\pi}{c}\right) \end{equation} $$
距離 $d$ を km、周波数 $f$ を MHz で表すと、便利な近似式として
$$ \begin{equation} \text{FSPL [dB]} \approx 32.45 + 20\log_{10}(d_{\text{km}}) + 20\log_{10}(f_{\text{MHz}}) \end{equation} $$
が得られます。この式から、周波数が10倍になるとFSPLは 20 dB(100倍)増加することがわかります。これは高い周波数帯を使う場合に大きな課題となります。
伝搬メカニズムの概観がわかったところで、これらの知識をもとに各周波数帯の具体的な特性と用途を詳しく見ていきましょう。
各周波数帯の特性と用途
ここでは VLF から EHF まで各帯域の特徴を、伝搬特性と主な用途の両面から解説します。各帯域が「なぜその用途に使われるのか」を伝搬特性から説明することに重点を置きます。
VLF(3 – 30 kHz): 超長距離・水中通信
VLF 帯の波長は 10 – 100 km と非常に長く、地球の表面と電離層の間を導波路のように伝搬します。この「地球-電離層導波路」の効果により、VLF は極めて長い距離(数千キロメートル)を安定して伝搬できます。
主な用途: – 潜水艦通信: 海水中への浸透深さ(スキンデプス)は周波数が低いほど大きく、VLF は海面下数十メートルまで到達できます。海水中のスキンデプス $\delta$ は $\delta = \sqrt{2/(\omega \mu \sigma)}$ で与えられ、$f = 10 \, \text{kHz}$ で約 $5 \, \text{m}$ です – 航行支援: オメガ航法システム(現在は廃止)などの長距離航法に使われていました – 標準電波: 日本のJJY(40 kHz, 60 kHz)は LF 帯寄りですが、同様の原理で長距離の時刻同期に使われます
VLF の欠点は、波長が極端に長いためアンテナも巨大になること(後述)と、帯域幅が狭いためデータ伝送速度が非常に低いことです。典型的な VLF 通信の伝送速度は数百 bps 程度にとどまります。
LF(30 – 300 kHz): 標準電波と航法
LF 帯は VLF と同様に地表波伝搬が可能で、安定した長距離通信が実現できます。波長は 1 – 10 km です。
主な用途: – 標準電波(JJY): 日本では福島県おおたかどや山(40 kHz)と佐賀県はがね山(60 kHz)から LF 帯の標準電波が送信されており、電波時計の時刻合わせに使われています – 航空用 NDB(Non-Directional Beacon): 航空機の方位測定に使われる無指向性ビーコン – LORAN: 長距離航法システム(LF / MF 帯を使用)
LF 帯は地表波の安定性が高いため、精密な時刻・周波数標準の伝送に適しています。
MF(300 kHz – 3 MHz): AM ラジオ放送
MF 帯は AM ラジオ放送(531 – 1602 kHz)の帯域として世界中で使われています。波長は 100 – 1000 m です。
昼間は地表波伝搬が主で、到達距離は数百キロメートル程度です。ところが夜間になると電離層(D層)の消失により HF 帯と同様の電離層反射が起こり、遠方の放送局が受信できるようになります。これがAMラジオの「夜間遠距離受信」の原理です。
主な用途: – AM ラジオ放送: 世界的に最も普及したラジオ放送方式 – 船舶通信: 中波帯の海上通信(2182 kHz は国際遭難周波数) – 航空 NDB: LF 帯から MF 帯にかけての航空ビーコン
MF 帯は変調方式が振幅変調(AM)であるため音質はFMに劣りますが、地表波による広域カバレッジが利点です。
HF(3 – 30 MHz): 電離層反射による長距離通信
HF 帯は 短波(shortwave) とも呼ばれ、電離層反射を利用した長距離通信が最大の特徴です。波長は 10 – 100 m で、適切な周波数を選べば地球の裏側まで通信できます。
電離層反射の仕組みは前述のとおりですが、HF 帯の通信ではいくつかの重要な特性があります。
跳躍距離(skip distance): 地表波の到達限界と電離層反射波の最初の着地点の間には電波が届かない領域が存在します。これを跳躍距離と呼びます。使用周波数が高いほど、また電離層の高度が高いほど跳躍距離は長くなります。
フェージング: 電離層の状態が時間とともに変動するため、受信電界強度が変動します。特にマルチパスフェージング(複数経路の干渉)が顕著です。
主な用途: – 国際放送(短波放送): BBC World Service、NHK World など – アマチュア無線: HF 帯はアマチュア無線の主要な帯域で、DX 通信(遠距離通信)に広く利用されます – 航空通信: 洋上飛行時の航空管制通信(VHF が届かない海上) – 軍事通信: 電離層反射による見通し外通信 – 非常通信: 災害時にインフラに依存しない長距離通信手段として
HF 帯は衛星通信の普及により役割が縮小していますが、インフラ不要で長距離通信ができるという特性は、災害時や軍事利用において依然として重要です。
VHF(30 – 300 MHz): FM 放送とテレビ
VHF 帯は波長が 1 – 10 m で、電離層を突き抜けるため見通し伝搬が基本です。ただし波長がまだ比較的長いため、建物や山の陰にある程度回折して回り込むことができます。
主な用途: – FM ラジオ放送: 日本では 76 – 95 MHz を使用。AM に比べて高音質で、ステレオ放送にも対応 – テレビ放送: 地上デジタル放送は VHF / UHF 帯を使用(日本では VHF 帯のアナログ放送は2011年に終了し、デジタル放送は UHF 帯に移行) – 航空管制通信: 118 – 137 MHz の VHF エアバンド – 船舶通信: 国際 VHF(156 – 162 MHz) – 防災無線: 市町村の防災行政無線
VHF 帯は見通し伝搬が基本ですが、スポラディックE層(Es層) と呼ばれる局所的な電離層の異常により、夏季に数百キロメートルの異常伝搬が発生することがあります。アマチュア無線家はこの現象を利用して VHF 帯での遠距離通信を楽しむことがあります。
UHF(300 MHz – 3 GHz): 携帯電話とWi-Fi
UHF 帯は現代の無線通信で最も幅広く使われている帯域です。波長は 10 – 100 cm で、アンテナを小型化できることが大きな利点です。
見通し伝搬が基本ですが、波長が建物の大きさに比べて十分に短くないため、反射・回折・散乱によるマルチパス伝搬が顕著です。都市環境ではレイリーフェージングが発生しますが、逆に言えば障害物の裏にもある程度回り込むことができます。
主な用途: – 携帯電話(4G LTE): 700 MHz – 2.6 GHz の複数のバンドを使用 – Wi-Fi: 2.4 GHz 帯(IEEE 802.11b/g/n/ax) – 地上デジタルテレビ: 日本では 470 – 710 MHz を使用 – Bluetooth: 2.4 GHz 帯の ISM バンド – GPS: L1 = 1575.42 MHz, L2 = 1227.60 MHz – 電子レンジ: 2.45 GHz(ISM バンド)
UHF 帯が携帯電話に適している理由は、(1) アンテナを小型にできる、(2) 適度な帯域幅が確保できる、(3) 建物への浸透性と回折による屋内カバレッジのバランスがよい、の3点に集約されます。
SHF(3 – 30 GHz): 衛星通信とレーダー
SHF 帯はマイクロ波(microwave)帯の中心的な帯域で、波長は 1 – 10 cm です。指向性の高いアンテナを比較的小型に実現でき、広い帯域幅を使えるため、大容量通信に適しています。
見通し伝搬が必須で、大気中の水蒸気や酸素による吸収が徐々に影響し始めます。特に水蒸気の吸収線が $22.235 \, \text{GHz}$ にあるため、この付近では追加の減衰が生じます。また、降雨による減衰(レインフェージング)も 10 GHz を超えると無視できなくなります。
主な用途: – 衛星通信: C バンド(4 / 6 GHz)、Ku バンド(12 / 14 GHz)、Ka バンド(20 / 30 GHz) – Wi-Fi(5 GHz帯): IEEE 802.11a/n/ac/ax で使用される 5 GHz 帯は SHF に分類 – 気象レーダー: Cバンド(5.6 GHz)やXバンド(9.4 GHz)を使用 – 航空レーダー: 航空管制用監視レーダー – 5G(Sub-6 GHz): 3.5 GHz 帯や 4.5 GHz 帯
SHF 帯の衛星通信では、パラボラアンテナの直径が波長に対して十分大きいため、高い利得が得られます。これが衛星放送の受信に45 cm 程度の小型アンテナで十分な理由です。
EHF(30 – 300 GHz): ミリ波・5G
EHF 帯は ミリ波(millimeter wave, mmWave) とも呼ばれ、波長が 1 – 10 mm と非常に短い帯域です。広大な帯域幅が利用可能であるため、超高速データ通信に適していますが、伝搬損失が大きいという課題を抱えています。
大気中の吸収が顕著で、特に酸素分子の吸収線($60 \, \text{GHz}$ 付近)と水蒸気の吸収線($183 \, \text{GHz}$ 付近)による減衰が大きくなります。逆に、これらの吸収線の間には「大気の窓」と呼ばれる、比較的減衰の小さい周波数帯が存在します。$35 \, \text{GHz}$、$94 \, \text{GHz}$、$140 \, \text{GHz}$、$220 \, \text{GHz}$ 付近がそれに該当します。
主な用途: – 5G ミリ波: 28 GHz 帯、39 GHz 帯を使用し、数 Gbps の超高速通信を実現 – 自動車レーダー: 77 GHz 帯が衝突回避レーダーに使用 – セキュリティスキャナ: 空港のボディスキャナは 24 – 30 GHz や 70 – 80 GHz を使用 – 電波天文: ミリ波・サブミリ波による宇宙観測(ALMA 望遠鏡など) – 衛星間通信: 大気の影響を受けない宇宙空間での通信
各周波数帯の特性と用途を俯瞰しました。次に、日本における電波利用の法的枠組みである電波法と周波数割当てについて見ていきましょう。
日本の電波法と周波数割当て
電波法の基本
日本では 電波法(1950年制定)により、電波の利用が規制されています。電波法の目的は「電波の公平且つ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進すること」(第1条)です。
電波法における「電波」の定義は $300 \, \text{GHz}$ 以下の電磁波(第2条第1号)で、ITU の分類とほぼ一致します。無線局の開設には原則として総務大臣の免許が必要です(第4条)。
周波数割当ての仕組み
日本の周波数割当ては、ITU の国際的な枠組みと整合させつつ、国内事情に合わせて総務省が決定します。具体的には 周波数割当計画(旧: 周波数割当表)に各周波数帯の用途が定められています。
周波数帯は大きく以下のカテゴリに分けて管理されています。
- 一次業務(Primary service): その帯域で優先的に使用できる業務
- 二次業務(Secondary service): 一次業務に干渉を与えない条件で使用できる業務
- ISM バンド: 工業・科学・医療用の非通信利用(2.4 GHz、5.8 GHz など)
主要な周波数割当ての例
日本における代表的な周波数割当てをいくつか紹介します。
| 用途 | 周波数帯 | 帯域名 |
|---|---|---|
| AM ラジオ | 531 – 1602 kHz | MF |
| FM ラジオ | 76 – 95 MHz | VHF |
| 地上デジタルテレビ | 470 – 710 MHz | UHF |
| 携帯電話(4G LTE) | 700 / 800 / 900 MHz, 1.5 / 1.7 / 2.1 / 2.6 / 3.5 GHz | UHF / SHF |
| Wi-Fi (2.4 GHz) | 2400 – 2483.5 MHz | UHF |
| Wi-Fi (5 GHz) | 5150 – 5725 MHz | SHF |
| 5G (Sub-6) | 3.7 / 4.5 GHz | SHF |
| 5G (ミリ波) | 28 GHz | SHF / EHF |
| 衛星放送(BS / CS) | 12 GHz 帯 | SHF |
| 気象レーダー | 5.3 GHz, 9.4 GHz | SHF |
免許不要局
一定の条件を満たす無線設備は免許不要で使用できます(電波法第4条の例外)。代表的なものとして:
- 微弱無線局: 発射する電波が著しく微弱なもの(リモコン、ワイヤレスマイク等)
- 小電力無線局: 技術基準適合証明を受けた特定小電力の無線設備(Wi-Fi ルーター、Bluetooth 機器、トランシーバー等)
これらの免許不要局が利用する ISM バンド(2.4 GHz 帯など)は、多数の機器が共存するため干渉管理が重要な課題となっています。
電波法の枠組みを理解したところで、次はより物理的な観点から、アンテナサイズと周波数の関係を定量的に見ていきましょう。
アンテナサイズと周波数の関係
波長とアンテナの基本寸法
アンテナ設計において、アンテナの物理的な寸法は動作周波数の波長に強く依存します。最も基本的なアンテナであるダイポールアンテナの場合、共振するためにはアンテナの全長が半波長 $\lambda/2$ である必要があります。
$$ \begin{equation} L = \frac{\lambda}{2} = \frac{c}{2f} \end{equation} $$
この関係から、周波数が高くなるほどアンテナは小型化できることがわかります。具体的に各周波数帯での半波長ダイポールの長さを計算してみましょう。
| 周波数帯 | 代表周波数 | 波長 $\lambda$ | 半波長 $\lambda/2$ |
|---|---|---|---|
| MF(AM ラジオ) | 1 MHz | 300 m | 150 m |
| HF(短波) | 10 MHz | 30 m | 15 m |
| VHF(FM ラジオ) | 100 MHz | 3 m | 1.5 m |
| UHF(携帯電話) | 1 GHz | 30 cm | 15 cm |
| SHF(Wi-Fi 5 GHz) | 5 GHz | 6 cm | 3 cm |
| EHF(5G ミリ波) | 28 GHz | 10.7 mm | 5.4 mm |
AMラジオの送信アンテナが巨大な鉄塔である理由がこの表から明らかです。波長が300 mもあるため、半波長ダイポールでも150 mの高さが必要になるのです。一方、5G ミリ波のアンテナは 5 mm 程度で済むため、スマートフォンの内部に多数のアンテナ素子を並べることができます。
パラボラアンテナの利得と周波数
SHF・EHF 帯で広く使われるパラボラアンテナの利得は、開口面積と波長で決まります。直径 $D$ のパラボラアンテナの利得 $G$ は次式で与えられます。
$$ \begin{equation} G = \eta \left(\frac{\pi D}{\lambda}\right)^2 = \eta \left(\frac{\pi D f}{c}\right)^2 \end{equation} $$
ここで $\eta$ は開口効率(typical: 0.5 – 0.7)です。この式を分析すると、2つの重要な知見が得られます。
1つ目は、同じ直径のアンテナでも、周波数が高いほど利得が大きくなる ことです。$G \propto f^2$ なので、周波数を10倍にすると利得は20 dB(100倍)増加します。
2つ目は、所望の利得を実現するために必要なアンテナ直径は、周波数が高いほど小さくなる ことです。$G$ を固定して $D$ について解くと
$$ \begin{equation} D = \frac{\lambda}{\pi}\sqrt{\frac{G}{\eta}} = \frac{c}{\pi f}\sqrt{\frac{G}{\eta}} \end{equation} $$
となり、$D \propto 1/f$ です。これが、衛星放送(12 GHz帯)の受信に45 cm程度の小型パラボラアンテナで十分な理由です。もし同じ利得を VHF 帯(100 MHz)で実現しようとすれば、直径が120倍の約54 mになってしまいます。
ただし、ここには重要なトレードオフがあります。パラボラアンテナの利得が高いということは、ビーム幅が狭いということでもあります。半値ビーム幅 $\theta_{3\text{dB}}$ は近似的に
$$ \begin{equation} \theta_{3\text{dB}} \approx \frac{70\lambda}{D} \quad [\text{deg}] \end{equation} $$
で与えられます。高周波で高利得のアンテナはビームが非常に鋭くなるため、アンテナの指向精度が厳しく要求されます。
アンテナサイズの議論から、周波数が高いほどアンテナは小型化でき、利得も高くなることがわかりました。しかし、高い周波数にはもう一つの重要な課題があります。それが自由空間損失の増大です。次にこの点を定量的に分析しましょう。
自由空間損失の周波数依存性
FSPL の物理的意味の再確認
フリスの伝達公式で導出したように、自由空間損失は次の式で表されます。
$$ \begin{equation} \text{FSPL [dB]} = 20\log_{10}\left(\frac{4\pi d f}{c}\right) \end{equation} $$
この式の中に周波数 $f$ が含まれているため、同じ距離でも周波数が高いほど損失が大きくなります。しかし、これは少し不思議に思えるかもしれません。自由空間では電磁波は周波数によらず同じ速度で伝搬するのに、なぜ周波数が高いと「損失が大きい」のでしょうか。
実は、FSPL の式に周波数が現れるのは、受信アンテナの実効開口面積が周波数に依存する ためです。等方性アンテナの実効開口面積は $A_e = \lambda^2 / (4\pi)$ で与えられ、周波数が高くなると $\lambda$ が短くなるため $A_e$ が小さくなります。つまり、高い周波数では受信アンテナが「拾える」面積が狭くなり、結果として受信電力が減少するのです。
これは重要な物理的洞察です。電磁波のエネルギーそのものが周波数によって余計に失われるわけではなく、受信アンテナの「キャッチ面積」が小さくなることで見かけ上の損失が増えるのです。
数値比較
具体的にいくつかの周波数と距離で FSPL を計算してみましょう。
| 周波数 | 帯域 | 距離 1 km | 距離 10 km | 距離 100 km |
|---|---|---|---|---|
| 1 MHz | MF | 52.4 dB | 72.4 dB | 92.4 dB |
| 100 MHz | VHF | 92.4 dB | 112.4 dB | 132.4 dB |
| 1 GHz | UHF | 112.4 dB | 132.4 dB | 152.4 dB |
| 10 GHz | SHF | 132.4 dB | 152.4 dB | 172.4 dB |
| 28 GHz | EHF | 141.4 dB | 161.4 dB | 181.4 dB |
MF 帯(1 MHz)と EHF 帯(28 GHz)を比較すると、同じ距離でも約89 dBの差があります。89 dB は約 $8 \times 10^8$ 倍のエネルギー差ですから、ミリ波帯での通信がいかに挑戦的かがわかります。
ただし先述のとおり、高い周波数ではアンテナの利得を大きくできるため、パラボラアンテナやアレイアンテナで FSPL の増大分を補償することが可能です。これがリンクバジェット設計の要点です。
この周波数依存性を Python で可視化して、さらに直感的に理解を深めましょう。
Python による可視化
自由空間損失の周波数帯比較
まず、各周波数帯の代表的な周波数について、距離に対する FSPL をプロットします。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 物理定数
c = 3e8 # 光速 [m/s]
# 自由空間損失 (dB)
def fspl_db(d, f):
"""距離 d [m], 周波数 f [Hz] での FSPL [dB]"""
return 20 * np.log10(4 * np.pi * d * f / c)
# 各周波数帯の代表周波数
bands = {
'MF (1 MHz)': 1e6,
'HF (10 MHz)': 10e6,
'VHF (100 MHz)': 100e6,
'UHF (1 GHz)': 1e9,
'SHF (10 GHz)': 10e9,
'EHF (28 GHz)': 28e9,
'EHF (60 GHz)': 60e9,
}
# 距離: 100 m ~ 100 km
d = np.logspace(2, 5, 500) # [m]
# プロット
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 7))
colors = plt.cm.viridis(np.linspace(0.1, 0.9, len(bands)))
for (name, freq), color in zip(bands.items(), colors):
loss = fspl_db(d, freq)
ax.plot(d / 1e3, loss, label=name, color=color, linewidth=2)
ax.set_xlabel('Distance [km]', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Free Space Path Loss [dB]', fontsize=13)
ax.set_title('FSPL vs Distance for Various Frequency Bands', fontsize=14)
ax.set_xscale('log')
ax.legend(fontsize=11, loc='lower right')
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0.1, 100)
ax.set_ylim(40, 200)
plt.tight_layout()
plt.show()
このグラフから、いくつかの重要な特徴が読み取れます。
- 全ての曲線が平行: FSPL [dB] は $20\log_{10}(d)$ に比例するため、距離のスケーリングは周波数に依存しません。対数スケールでは全ての曲線が同じ傾き(距離が10倍で +20 dB)の平行線になります
- 周波数帯間のオフセット: 周波数が10倍になるごとに曲線は上方に 20 dB シフトします。MF(1 MHz)と EHF(28 GHz)の間では約89 dBの差があり、これはリンクバジェットの設計に決定的な影響を与えます
- 近距離でも高い損失: EHF 帯(60 GHz)では、わずか1 kmの距離でもFSPLが128 dB に達します。これが 60 GHz 帯が屋内通信(WiGig)に適しているとされる一因です — 壁を越えにくいことがセルの分離に有利に働きます
アンテナサイズの周波数依存性
次に、半波長ダイポールとパラボラアンテナのサイズが周波数によってどう変化するかを可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
c = 3e8 # 光速 [m/s]
# 周波数範囲: 100 kHz ~ 300 GHz
f = np.logspace(5, 11.5, 1000) # [Hz]
lam = c / f # 波長 [m]
# 半波長ダイポール長
dipole_length = lam / 2
# パラボラアンテナ直径 (利得 30 dBi = 1000, 開口効率 0.55)
G_linear = 10**(30 / 10) # 30 dBi
eta = 0.55
parabola_d = (lam / np.pi) * np.sqrt(G_linear / eta)
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 7))
ax.loglog(f / 1e9, dipole_length, 'b-', linewidth=2, label='Half-wave dipole length')
ax.loglog(f / 1e9, parabola_d, 'r--', linewidth=2, label='Parabola diameter (30 dBi)')
# 周波数帯の境界線
band_boundaries = {
'VLF': 3e3, 'LF': 30e3, 'MF': 300e3, 'HF': 3e6,
'VHF': 30e6, 'UHF': 300e6, 'SHF': 3e9, 'EHF': 30e9
}
for name, freq in band_boundaries.items():
if 1e5 <= freq <= 3e11:
ax.axvline(freq / 1e9, color='gray', linestyle=':', alpha=0.5)
ax.text(freq / 1e9 * 1.1, ax.get_ylim()[1] * 0.5, name,
fontsize=9, color='gray', rotation=90, va='center')
# 目印の水平線
ax.axhline(1.0, color='green', linestyle=':', alpha=0.4, label='1 m reference')
ax.axhline(0.01, color='orange', linestyle=':', alpha=0.4, label='1 cm reference')
ax.set_xlabel('Frequency [GHz]', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Antenna Size [m]', fontsize=13)
ax.set_title('Antenna Size vs Frequency', fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11, loc='upper right')
ax.grid(True, alpha=0.3, which='both')
ax.set_xlim(1e-4, 300)
ax.set_ylim(1e-3, 1e4)
plt.tight_layout()
plt.show()
このグラフから読み取れるポイントは以下のとおりです。
- 半波長ダイポールは $1/f$ に比例して小さくなる: 対数プロットで傾き $-1$ の直線になります。MF 帯では150 m級のアンテナが必要ですが、UHF 帯では15 cm、EHF 帯では数ミリメートルまで縮小します
- パラボラアンテナの直径も同様に $1/f$ で小さくなる: 30 dBi の利得を得るために、VHF 帯では約15 m の巨大なパラボラが必要ですが、SHF 帯(10 GHz)では約60 cm、EHF 帯(60 GHz)では約10 cm で済みます
- 「1 m」の参照線: UHF 帯付近でダイポール長が1 mを下回ります。これが、携帯電話にアンテナを内蔵できるようになる境界です
FSPL とアンテナ利得の補償関係
最後に、高い周波数ほど FSPL は大きくなる一方でアンテナ利得も稼ぎやすくなるという補償関係を定量的に確認します。送信・受信とも同じ直径のパラボラアンテナを使った場合の受信電力を計算します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
c = 3e8
D = 0.5 # パラボラ直径 [m]
eta = 0.55 # 開口効率
P_t_dBm = 30 # 送信電力 30 dBm (= 1 W)
# 周波数範囲
f = np.logspace(8, 11, 500) # 100 MHz ~ 100 GHz
lam = c / f
# パラボラ利得 [dBi]
G_dBi = 10 * np.log10(eta * (np.pi * D / lam)**2)
# 距離
distances = [1e3, 10e3, 50e3] # 1 km, 10 km, 50 km
colors = ['#2196F3', '#FF9800', '#E91E63']
fig, axes = plt.subplots(1, 3, figsize=(16, 5))
# (1) パラボラ利得 vs 周波数
axes[0].plot(f / 1e9, G_dBi, 'b-', linewidth=2)
axes[0].set_xlabel('Frequency [GHz]', fontsize=12)
axes[0].set_ylabel('Antenna Gain [dBi]', fontsize=12)
axes[0].set_title('Parabola Gain (D = 0.5 m)', fontsize=13)
axes[0].set_xscale('log')
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim(0.1, 100)
# (2) FSPL vs 周波数 (各距離)
for dist, col in zip(distances, colors):
fspl = 20 * np.log10(4 * np.pi * dist * f / c)
axes[1].plot(f / 1e9, fspl, color=col, linewidth=2,
label=f'd = {dist/1e3:.0f} km')
axes[1].set_xlabel('Frequency [GHz]', fontsize=12)
axes[1].set_ylabel('FSPL [dB]', fontsize=12)
axes[1].set_title('Free Space Path Loss', fontsize=13)
axes[1].set_xscale('log')
axes[1].legend(fontsize=10)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_xlim(0.1, 100)
# (3) 受信電力 = P_t + G_t - FSPL + G_r (同じパラボラ)
for dist, col in zip(distances, colors):
fspl = 20 * np.log10(4 * np.pi * dist * f / c)
P_r = P_t_dBm + G_dBi - fspl + G_dBi # 送受同一アンテナ
axes[2].plot(f / 1e9, P_r, color=col, linewidth=2,
label=f'd = {dist/1e3:.0f} km')
axes[2].set_xlabel('Frequency [GHz]', fontsize=12)
axes[2].set_ylabel('Received Power [dBm]', fontsize=12)
axes[2].set_title('Received Power (Tx + Rx: D = 0.5 m)', fontsize=13)
axes[2].set_xscale('log')
axes[2].legend(fontsize=10)
axes[2].grid(True, alpha=0.3)
axes[2].set_xlim(0.1, 100)
plt.tight_layout()
plt.show()
このグラフから、非常に重要な知見が読み取れます。
- パラボラ利得は $f^2$ に比例: 左パネルで、周波数が10倍になると利得が 20 dB 増加していることが確認できます。直径 0.5 m のパラボラは 1 GHz で約 14 dBi ですが、10 GHz では約 34 dBi、100 GHz では約 54 dBi に達します
- FSPL も $f^2$ に比例: 中央パネルで、FSPL が周波数とともに 20 dB/decade で増加しています
- 受信電力は周波数に依存しない(パラボラ対パラボラの場合): 右パネルが最も重要です。送受両方で同じ直径のパラボラアンテナを使う場合、パラボラ利得の $f^2$ 増加が FSPL の $f^2$ 増加と相殺し、受信電力はほぼ一定になります。これはフリスの伝達公式を開口面積で書き直すと $P_r = P_t A_t A_r / (\lambda^2 d^2)$ となり、$A_t$ と $A_r$ が物理的に固定されている場合、$\lambda^2$ の効果が $P_r \propto f^2$ の増加を生み、実は高い周波数のほうが有利になることを示しています
この結果は直感的に理解できます。同じ物理的な開口面積をもつアンテナは、周波数が高いほど多くの波長分の面積を持つことになり、電磁波をより効率的に集束・捕捉できるのです。これが衛星通信で高い周波数帯が好まれる理由の一つです。
5G ミリ波の特徴と課題
なぜミリ波を使うのか
5G(第5世代移動通信)では、従来の携帯電話が使っていた UHF / SHF 帯の低い周波数に加えて、EHF 帯のミリ波(日本では 28 GHz 帯)が導入されました。その最大の理由は 帯域幅 です。
データ伝送速度は、シャノンの通信容量定理により
$$ \begin{equation} C = B \log_2\left(1 + \frac{S}{N}\right) \end{equation} $$
で制限されます。ここで $C$ はチャネル容量 [bps]、$B$ は帯域幅 [Hz]、$S/N$ は信号対雑音比です。伝送速度を上げるには $B$ を広げるか $S/N$ を上げるかの2通りしかありません。
低い周波数帯は既に多くのサービスで混雑しており、数百 MHz 幅の連続した帯域を確保することが困難です。一方、28 GHz 帯や 39 GHz 帯には数 GHz 幅の空き帯域があり、単純な帯域幅の広さだけで従来の10倍以上の伝送速度が実現できます。
ミリ波の伝搬特性
28 GHz帯のミリ波通信には、以下の特性があります。
大きな自由空間損失: 先ほどの計算で示したように、28 GHz での FSPL は 1 GHz と比較して約 $20\log_{10}(28) \approx 29 \, \text{dB}$ 大きくなります。
直進性が高い: 波長が約 10.7 mm と短いため、回折が非常に小さく、光のように直進します。建物や人体による遮蔽(ブロッキング)の影響が大きく、遮蔽物の背後に電波が回り込みにくいのです。
大気吸収: 28 GHz 帯では大気吸収は比較的小さい(約 0.1 dB/km)ですが、降雨時には追加の減衰が生じます。豪雨時(50 mm/h)には約 5 dB/km の減衰が加わります。
人体ブロッキング: ミリ波は人体に吸収・散乱されやすく、人が送受信経路を横切るだけで20 – 30 dBの損失が生じることがあります。これは携帯通信において深刻な問題です。
ミリ波の課題への対策
これらの課題に対して、5G ミリ波では以下の技術が用いられます。
ビームフォーミング: アンテナ素子を多数並べた フェーズドアレイアンテナ を使い、電子的にビーム方向を制御します。波長が短いためアンテナ素子を小型・高密度に配置でき、64素子や128素子のアレイも現実的なサイズに収まります。$N$ 素子のアレイではアレイ利得として $10\log_{10}(N)$ dB が得られるため、64素子で約 18 dBi のアレイ利得が追加されます。
アレイアンテナ全体の利得は、素子利得 $G_{\text{elem}}$ とアレイファクタの積で与えられます。一様振幅の $N$ 素子リニアアレイの場合、最大指向方向のアレイ利得は
$$ \begin{equation} G_{\text{array}} = N \cdot G_{\text{elem}} \end{equation} $$
$$ \begin{equation} G_{\text{array}} [\text{dBi}] = 10\log_{10}(N) + G_{\text{elem}} [\text{dBi}] \end{equation} $$
です。例えば、128素子の 28 GHz パッチアレイでは、素子利得 5 dBi + アレイ利得 $10\log_{10}(128) \approx 21 \, \text{dB}$ = 合計 26 dBi 程度が達成できます。
スモールセル: ミリ波のセル半径は 100 – 200 m 程度に制限されるため、基地局を高密度に配置する必要があります。これは欠点のように見えますが、セルが小さいほど周波数を空間的に再利用でき、エリア当たりの通信容量を飛躍的に高められるという利点もあります。
ビーム追従(beam tracking): ユーザが移動したり遮蔽物が変化したりすると最適なビーム方向が変わるため、リアルタイムでビーム方向を追従する機構が必要です。基地局と端末が定期的にビーム参照信号を交換し、最適なビームペアを選択します。
5G ミリ波の特性と課題を理解することで、ビームフォーミングやスモールセル化が技術的な必然であることがわかります。
それでは最後に、各周波数帯の特性をまとめた総合的なテーブルと Python コードで本記事の内容を整理しましょう。
Python: 周波数帯の総合比較
各帯域の特性を一覧表示し、伝搬メカニズムの概要を含む総合的な可視化を行います。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from matplotlib.patches import FancyBboxPatch
c = 3e8
# 周波数帯の定義
bands_info = [
('VLF', 3e3, 30e3, 'Ground wave\n/ Waveguide', '#1a237e'),
('LF', 30e3, 300e3, 'Ground wave', '#283593'),
('MF', 300e3, 3e6, 'Ground wave\n+ Sky wave', '#1565c0'),
('HF', 3e6, 30e6, 'Sky wave\n(ionosphere)', '#1976d2'),
('VHF', 30e6, 300e6, 'Line of sight', '#2196f3'),
('UHF', 300e6, 3e9, 'Line of sight\n+ multipath', '#42a5f5'),
('SHF', 3e9, 30e9, 'Line of sight', '#90caf9'),
('EHF', 30e9, 300e9, 'Line of sight\n+ atm. abs.', '#bbdefb'),
]
fig, axes = plt.subplots(3, 1, figsize=(14, 12))
# (1) 周波数帯マップ
ax1 = axes[0]
for i, (name, f_lo, f_hi, prop, color) in enumerate(bands_info):
left = np.log10(f_lo)
width = np.log10(f_hi) - np.log10(f_lo)
rect = FancyBboxPatch((left, 0.1), width, 0.8,
boxstyle="round,pad=0.02",
facecolor=color, edgecolor='white', linewidth=2,
alpha=0.8)
ax1.add_patch(rect)
mid = left + width / 2
ax1.text(mid, 0.65, name, ha='center', va='center',
fontsize=11, fontweight='bold', color='white')
ax1.text(mid, 0.35, prop, ha='center', va='center',
fontsize=7, color='white')
ax1.set_xlim(np.log10(3e3), np.log10(300e9))
ax1.set_ylim(0, 1)
ax1.set_xlabel('Frequency', fontsize=12)
ax1.set_title('Radio Frequency Band Map', fontsize=14)
# x軸を実際の周波数ラベルに
tick_freqs = [3e3, 30e3, 300e3, 3e6, 30e6, 300e6, 3e9, 30e9, 300e9]
tick_labels = ['3 kHz', '30 kHz', '300 kHz', '3 MHz', '30 MHz',
'300 MHz', '3 GHz', '30 GHz', '300 GHz']
ax1.set_xticks([np.log10(f) for f in tick_freqs])
ax1.set_xticklabels(tick_labels, fontsize=9)
ax1.set_yticks([])
# (2) 半波長ダイポール長 + FSPL@10km
f_range = np.logspace(3.5, 11.5, 1000)
lam_range = c / f_range
dipole = lam_range / 2
ax2 = axes[1]
ax2.loglog(f_range, dipole, 'b-', linewidth=2, label='Half-wave dipole length')
ax2.set_xlabel('Frequency [Hz]', fontsize=12)
ax2.set_ylabel('Antenna Length [m]', fontsize=12, color='b')
ax2.set_title('Antenna Size and FSPL at 10 km', fontsize=14)
ax2.tick_params(axis='y', labelcolor='b')
ax2.grid(True, alpha=0.3, which='both')
# 右軸: FSPL @ 10 km
ax2r = ax2.twinx()
# FSPL は f > 0 のみ計算 (VHF以上で意味がある)
f_fspl = np.logspace(6, 11.5, 500)
fspl_10km = 20 * np.log10(4 * np.pi * 10e3 * f_fspl / c)
ax2r.plot(f_fspl, fspl_10km, 'r--', linewidth=2, label='FSPL @ 10 km')
ax2r.set_ylabel('FSPL [dB]', fontsize=12, color='r')
ax2r.tick_params(axis='y', labelcolor='r')
# 帯域境界
for name, f_lo, f_hi, _, _ in bands_info:
ax2.axvline(f_lo, color='gray', linestyle=':', alpha=0.3)
lines1, labels1 = ax2.get_legend_handles_labels()
lines2, labels2 = ax2r.get_legend_handles_labels()
ax2.legend(lines1 + lines2, labels1 + labels2, loc='center left', fontsize=10)
# (3) 用途マッピング
ax3 = axes[2]
applications = [
('Submarine comm.', 10e3, 30e3),
('JJY time signal', 40e3, 60e3),
('AM radio', 531e3, 1602e3),
('Shortwave radio', 3e6, 30e6),
('FM radio', 76e6, 95e6),
('Air traffic VHF', 118e6, 137e6),
('Digital TV', 470e6, 710e6),
('4G LTE', 700e6, 3.5e9),
('Wi-Fi 2.4G', 2.4e9, 2.5e9),
('Wi-Fi 5G', 5.15e9, 5.725e9),
('Sat. comm.', 4e9, 30e9),
('Weather radar', 5.3e9, 9.5e9),
('5G mmWave', 28e9, 39e9),
('Auto radar', 76e9, 81e9),
]
colors_app = plt.cm.Set3(np.linspace(0, 1, len(applications)))
for i, (name, f_lo, f_hi) in enumerate(applications):
y = len(applications) - i
left = np.log10(f_lo)
width = np.log10(f_hi) - np.log10(f_lo)
ax3.barh(y, width, left=left, height=0.6, color=colors_app[i],
edgecolor='gray', linewidth=0.5)
ax3.text(left + width + 0.05, y, name, va='center', fontsize=9)
ax3.set_xlim(np.log10(3e3), np.log10(300e9))
ax3.set_xlabel('Frequency', fontsize=12)
ax3.set_title('Applications by Frequency', fontsize=14)
ax3.set_xticks([np.log10(f) for f in tick_freqs])
ax3.set_xticklabels(tick_labels, fontsize=9)
ax3.set_yticks([])
plt.tight_layout()
plt.show()
この総合図から、電波の周波数帯と利用の全体像を視覚的に把握できます。
- 上段の帯域マップ: VLF から EHF まで、各帯域の伝搬メカニズムが低周波側の地表波・電離層反射から高周波側の見通し伝搬へと遷移していく様子がわかります
- 中段のアンテナサイズと FSPL: アンテナサイズ(青線)が周波数の増加に伴い劇的に小さくなる一方、FSPL(赤破線)は増大していきます。この2つのトレードオフがシステム設計の核心です
- 下段の用途マッピング: 各アプリケーションがどの周波数帯に位置しているかを一目で確認できます。携帯電話(4G LTE)が UHF から SHF にかけての広い範囲を使っていること、5G ミリ波が従来とは全く異なる高い帯域に位置していることがよくわかります
まとめ
本記事では、電波の周波数帯と伝搬特性について、VLF から EHF まで体系的に解説しました。
-
電波は周波数帯によって伝搬メカニズムが根本的に異なる — VLF / LF / MF 帯は地表波、HF 帯は電離層反射、VHF 帯以上は見通し伝搬が主要な伝搬モードとなります。各帯域の用途はこの伝搬特性から必然的に決まっています
-
自由空間損失は周波数の2乗に比例する — ただし、これは受信アンテナの実効開口面積が $\lambda^2$ に比例して小さくなることが原因であり、同じ物理的開口面積のアンテナを使えばこの損失は相殺できます
-
アンテナサイズは波長に比例する — 高い周波数ほどアンテナを小型化でき、同じサイズでより高い利得が得られます。これが携帯電話やミリ波通信におけるフェーズドアレイの実現を支えています
-
5G ミリ波は広帯域がメリットだが伝搬損失が課題 — ビームフォーミング、スモールセル、ビーム追従といった技術で課題に対処しています
-
日本の電波法は ITU の国際的枠組みと整合して周波数を管理している — 各帯域には用途が厳密に割り当てられ、免許制度により干渉が管理されています
周波数帯の全体像をつかんだことで、個別の伝搬メカニズムをより深く理解する準備が整いました。次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。