株式市場では、通常の日はわずかな価格変動が続きますが、突然の大ニュースによって価格が急激にジャンプすることがあります。ブラウン運動は連続な経路を持つため、こうした「ジャンプ」を記述できません。一方、ポアソン過程はジャンプのみの過程であり、通常時の緩やかな変動を捉えられません。レヴィ過程(Levy process)は、ブラウン運動とポアソン過程を統一的に含む広いクラスの確率過程であり、「連続な変動 + ランダムなジャンプ」を同時に記述する枠組みを提供します。
レヴィ過程は以下の分野で幅広く応用されています。
- 金融工学: マートンのジャンプ拡散モデル、VGモデル(Variance Gamma)など、ブラック・ショールズの拡張として使われます
- 保険数学: 保険金支払いのランダムなジャンプを含む余剰過程(surplus process)のモデル化に用いられます。クラメール・ルンドベルグモデルは複合ポアソン過程によるレヴィ過程の典型例です
- 物理学: 超拡散(superdiffusion)やレヴィフライトなど、通常の拡散を超える輸送現象の記述に使われます
- 通信工学: インパルス雑音を含む信号モデルに応用されます。突発的な干渉やフェージングの統計モデルとして利用されています
本記事では、レヴィ過程の定義と基本性質を解説し、レヴィ・ヒンチンの表現定理を通じてレヴィ過程の構造を理解します。さらに、具体的なレヴィ測度の例を紹介し、マートンのジャンプ拡散モデルの金融工学への応用をPythonで実装・可視化します。レヴィ過程を学ぶことで、ブラウン運動だけでは記述できない「急激な変動」を含む現象を、統一的かつ厳密に取り扱えるようになります。
本記事の内容
- レヴィ過程の定義と基本性質
- レヴィ・ヒンチンの表現定理
- レヴィ過程の具体例(複合ポアソン過程、ジャンプ拡散)
- レヴィ・伊藤分解
- マートンのジャンプ拡散モデル
- Pythonによるシミュレーション
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- ブラウン運動 — 連続な確率過程の基本
- 点過程の理論 — ポアソン過程の理論
- 伊藤積分の定義と性質 — 確率積分の基礎
レヴィ過程とは — 連続 + ジャンプの統一理論
ブラウン運動とポアソン過程の共通点
一見異なるブラウン運動とポアソン過程には、実は深い共通点があります。
- 独立増分: 重なりのない区間の増分は独立
- 定常増分: 増分の分布は時間差のみに依存
- 確率連続性: $P(|X_{t+h} – X_t| > \epsilon) \to 0$ as $h \to 0$(ただし $\epsilon > 0$)
レヴィ過程は、これらの性質を公理として持つ確率過程のクラスとして定義されます。
レヴィ過程の定義
確率過程 $\{X_t\}_{t \geq 0}$ がレヴィ過程であるとは、以下の条件を満たすことです。
- $X_0 = 0$ a.s.
- 独立増分: $0 \leq t_1 < t_2 < \dots < t_n$ に対して、$X_{t_2} - X_{t_1}, X_{t_3} - X_{t_2}, \dots, X_{t_n} - X_{t_{n-1}}$ は互いに独立
- 定常増分: $X_{t+s} – X_s$ の分布は $s$ に依存しない($t$ のみに依存)
- 確率連続性: 任意の $\epsilon > 0$ に対して $P(|X_{t+h} – X_t| > \epsilon) \to 0$ ($h \to 0$)
- 右連続左極限(cadlag)経路: ほぼ確実に $X_t$ は右連続で左極限を持つ
条件4の確率連続性は重要な技術的条件です。これは「固定された時刻 $t$ でジャンプが起こる確率がゼロ」であることを意味します。ただし、ランダムな時刻でのジャンプは許されます。たとえば、ポアソン過程は各固定時刻 $t$ でジャンプする確率はゼロですが、ランダムな時刻で必ずジャンプします。確率連続性は、ポアソン過程のような離散的なジャンプ過程がレヴィ過程に含まれることを保証する条件なのです。
条件5のcadlag(右連続左極限)経路は、ジャンプの定義を明確にするために必要です。ジャンプ時刻 $T$ での値は $X_T = X_{T^-} + \Delta X_T$(右連続なので $X_T$ はジャンプ後の値)と定められ、ジャンプサイズは $\Delta X_T = X_T – X_{T^-}$ で定義されます。
なお、レヴィ過程の定義から、$X_t$ の分布を完全に特徴づけるには $X_1$ の分布(1次元周辺分布)を知れば十分です。なぜなら、定常独立増分の性質から $X_t = (X_{t/n}-X_0) + \dots + (X_t – X_{(n-1)t/n})$ のように $n$ 個の独立で $X_{t/n}$ と同分布の確率変数の和に分解でき、特性関数で書けば $\phi_{X_t}(\xi) = [\phi_{X_1}(\xi)]^t$ となるからです。
具体例の位置づけ
レヴィ過程の代表的な例を整理しましょう。
ブラウン運動 $B_t$: 連続な経路を持つレヴィ過程。ジャンプがない場合です。
ポアソン過程 $N_t$: ジャンプのみのレヴィ過程。サイズ1のジャンプが率 $\lambda$ で発生します。
複合ポアソン過程: $Y_t = \sum_{i=1}^{N_t} J_i$($J_i$ はジャンプサイズ)。ランダムなサイズのジャンプが率 $\lambda$ で発生します。
ジャンプ拡散: $X_t = \mu t + \sigma B_t + Y_t$。ブラウン運動と複合ポアソン過程の和。これが最も一般的な応用で使われる形です。
これらはすべてレヴィ過程のクラスに含まれますが、レヴィ過程のクラスはさらに広く、無限に多くの小さなジャンプを含む過程(無限活動度のレヴィ過程)も含みます。
レヴィ過程の構造を完全に特徴づけるのが、次のレヴィ・ヒンチンの表現定理です。
レヴィ・ヒンチンの表現定理
特性関数による記述
レヴィ過程の増分 $X_t$ は無限分解可能(infinitely divisible)な分布に従います。その特性関数は次の形で表されます。
$$ \begin{equation} E[e^{i\xi X_t}] = e^{t\psi(\xi)} \end{equation} $$
ここで $\psi(\xi)$ はレヴィ指数(Levy exponent)と呼ばれ、次の形をしています。
$$ \begin{equation} \psi(\xi) = i\gamma\xi – \frac{\sigma^2}{2}\xi^2 + \int_{\mathbb{R} \setminus \{0\}} \left(e^{i\xi x} – 1 – i\xi x \mathbf{1}_{|x| \leq 1}\right) \nu(dx) \end{equation} $$
これがレヴィ・ヒンチンの表現定理(Levy-Khintchine representation)です。
各項の物理的意味
第1項 $i\gamma\xi$: ドリフト。$\gamma \in \mathbb{R}$ は確定的なドリフトの率です。
第2項 $-\frac{\sigma^2}{2}\xi^2$: ガウス成分。$\sigma \geq 0$ はブラウン運動の拡散係数です。$\sigma = 0$ ならガウス成分はありません。
第3項: ジャンプ成分。$\nu(dx)$ はレヴィ測度(Levy measure)と呼ばれ、ジャンプサイズの分布を記述します。レヴィ測度は以下の可積分条件を満たします。
$$ \begin{equation} \int_{\mathbb{R} \setminus \{0\}} \min(1, x^2)\,\nu(dx) < \infty \end{equation} $$
レヴィ測度 $\nu(A)$ は、単位時間あたりにサイズが集合 $A$ に入るジャンプの平均回数を表します。$\nu$ が有限測度($\nu(\mathbb{R} \setminus \{0\}) < \infty$)のとき、ジャンプは有限回しか起こりません(有限活動度)。$\nu$ が無限測度のとき、無限に多くの小さなジャンプが起こります(無限活動度)。
レヴィ三つ組
レヴィ過程はパラメータの組 $(\gamma, \sigma^2, \nu)$ で完全に特徴づけられます。この組をレヴィ三つ組(Levy triplet)と呼びます。
- ブラウン運動: $(\gamma, \sigma^2, \nu) = (0, \sigma^2, 0)$
- ポアソン過程: $(\gamma, \sigma^2, \nu) = (\lambda, 0, \lambda\delta_1)$($\delta_1$ はサイズ1のジャンプ)
- 複合ポアソン過程: $(\gamma, \sigma^2, \nu) = (\gamma, 0, \lambda F)$($F$ はジャンプサイズの分布)
この表現定理は、任意のレヴィ過程が「ドリフト + ブラウン運動 + ジャンプ」の三成分に分解できることを示しています。レヴィ三つ組という3つのパラメータ(実数、非負実数、測度)を指定するだけで、独立定常増分を持つあらゆる確率過程が記述できるという強力な結果です。
無限分解可能性
レヴィ・ヒンチンの表現定理の背景には無限分解可能性(infinite divisibility)の概念があります。確率分布 $F$ が無限分解可能であるとは、任意の正整数 $n$ に対して、$F$ が $n$ 個の独立同一分布の和として表現できることです。
レヴィ過程の $X_t$ は定常独立増分を持つため、$X_t = (X_{t/n} – X_0) + (X_{2t/n} – X_{t/n}) + \dots + (X_t – X_{(n-1)t/n})$ と $n$ 個の独立同一分布の和に書けます。したがって $X_t$ の分布は無限分解可能です。逆に、任意の無限分解可能な分布に対して、対応するレヴィ過程が一意に存在します。
ガウス分布、ポアソン分布、ガンマ分布、安定分布はすべて無限分解可能であり、対応するレヴィ過程を持ちます。一方、二項分布や一様分布は無限分解可能ではないため、対応するレヴィ過程は存在しません。
ここまでで特性関数の観点からレヴィ過程を理解しました。次に、経路(サンプルパス)のレベルでレヴィ過程を分解する方法を見ましょう。
レヴィ測度の具体例
レヴィ三つ組のうち、最も豊かな構造を持つのがレヴィ測度 $\nu$ です。いくつかの代表的なレヴィ測度を紹介しましょう。
有限活動度のレヴィ過程
$\nu(\mathbb{R} \setminus \{0\}) = \lambda < \infty$ のとき、単位時間あたりのジャンプ回数は有限(平均 $\lambda$ 回)です。ジャンプ部分は複合ポアソン過程になります。
例えば、ジャンプサイズが正規分布 $N(\mu_J, \sigma_J^2)$ に従う場合、レヴィ測度は
$$ \nu(dx) = \lambda \cdot \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_J}\exp\!\left(-\frac{(x-\mu_J)^2}{2\sigma_J^2}\right)dx $$
です。これはマートンのジャンプ拡散モデルで使われるレヴィ測度に対応します。
無限活動度のレヴィ過程
$\nu(\mathbb{R} \setminus \{0\}) = \infty$ のとき、任意の有限時間区間で無限に多くのジャンプが発生します。しかし、大きなジャンプの回数は有限です($\nu(\{|x| \geq 1\}) < \infty$)。
ガンマ過程: レヴィ測度が $\nu(dx) = \frac{\alpha}{x}e^{-\beta x}\,dx$($x > 0$)。非減少な純ジャンプ過程で、ガウス成分を持ちません。保険数学の累積請求額モデルに使われます。
Variance Gamma過程: ガンマ過程による時間変換を用いて定義されます。$X_t = \theta \Gamma_t + \sigma B_{\Gamma_t}$($\Gamma_t$ はガンマ過程)。金融工学でブラック・ショールズの代替モデルとして使われます。レヴィ測度は
$$ \nu(dx) = \frac{C}{|x|}\exp(-G|x|)\,\mathbf{1}_{x<0}\,dx + \frac{C}{x}\exp(-Mx)\,\mathbf{1}_{x>0}\,dx $$
の形です($C, G, M > 0$)。
安定過程: レヴィ測度が $\nu(dx) = \frac{c}{|x|^{1+\alpha}}\,dx$($0 < \alpha < 2$)の形。$\alpha = 2$ の極限がブラウン運動に対応します。$\alpha < 2$ では分散が無限大であり、裾の重い分布を持ちます。物理学のレヴィフライト(Levy flight)はこの過程の経路に対応し、動物のランダムな採餌行動のモデルとして知られています。
レヴィ・伊藤分解
三成分への分解
レヴィ・ヒンチンの表現定理の経路レベルのバージョンがレヴィ・伊藤分解(Levy-Ito decomposition)です。任意のレヴィ過程 $X_t$ は次のように分解されます。
$$ \begin{equation} X_t = \gamma t + \sigma B_t + \sum_{0 < s \leq t, |\Delta X_s| \geq 1} \Delta X_s + \lim_{\epsilon \to 0} \left(\sum_{0 < s \leq t, \epsilon \leq |\Delta X_s| < 1} \Delta X_s - t\int_{\epsilon \leq |x| < 1} x\,\nu(dx)\right) \end{equation} $$
各成分の意味を詳しく見ましょう。
-
$\gamma t$: 確定的なドリフト。レヴィ過程の「平均的な方向」を決める成分です。
-
$\sigma B_t$: 連続なガウス成分。ブラウン運動による滑らかな変動を表します。$\sigma = 0$ の場合、過程は純粋にジャンプのみで構成されます(純ジャンプ過程)。
-
大きなジャンプの和: サイズ1以上のジャンプの累積です。レヴィ測度の可積分条件 $\nu(\{|x| \geq 1\}) < \infty$ により、任意の有限時間区間で大きなジャンプは有限回しか起こりません。したがって通常の和(有限和)として定義できます。
-
小さなジャンプの補償和: これが最も技術的に難しい部分です。$\nu(\{0 < |x| < 1\})$ が無限の場合、小さなジャンプの和はそのままでは発散する可能性があります。そこで、各ジャンプからその期待値 $t\int_{\epsilon \leq |x| < 1} x\,\nu(dx)$ を引いた補償和を考え、$\epsilon \to 0$ の極限を取ります。補償によって和が確率的に収束し、マルチンゲール(平均ゼロの揺らぎ)となることが保証されます。
分解の意義
レヴィ・伊藤分解は、レヴィ過程の経路の構造を完全に明らかにします。任意のレヴィ過程の経路は、4つの独立な確率過程の和として表現されます。この分解により、次のことが可能になります。
- 確率積分の拡張: ブラウン運動に対する伊藤積分を、ジャンプ成分を含むレヴィ過程に拡張できます。ジャンプ部分に対する確率積分はポアソンランダム測度に対する積分として定式化されます
- マルチンゲール性の判定: 連続マルチンゲール部分とジャンプマルチンゲール部分を分離して扱えます
- 経路の性質の特徴づけ: $\sigma > 0$ のときレヴィ過程は無限変動(bounded variation でない)ですが、$\sigma = 0$ で $\int_{|x| \leq 1} |x|\,\nu(dx) < \infty$ のとき有限変動になるなど、経路の正則性がレヴィ三つ組から判定できます
この分解を実際の応用に活かした代表的な例が、次のマートンのジャンプ拡散モデルです。
マートンのジャンプ拡散モデル
金融への応用
レヴィ過程の金融工学における最も重要な応用が、マートンのジャンプ拡散モデル(Merton’s jump-diffusion model, 1976)です。株価 $S_t$ は次のSDEに従います。
$$ \begin{equation} \frac{dS_t}{S_{t^-}} = (\mu – \lambda k)\,dt + \sigma\,dB_t + J\,dN_t \end{equation} $$
ここで $\mu$ はドリフト、$\sigma$ はボラティリティ、$N_t$ は率 $\lambda$ のポアソン過程、$J$ はジャンプサイズ($\ln(1 + J) \sim N(\mu_J, \sigma_J^2)$)、$k = E[J] = e^{\mu_J + \sigma_J^2/2} – 1$ はジャンプの期待値です。
$S_{t^-}$ はジャンプ直前の値を表し、ジャンプ時に $S$ は $S_{t^-}(1 + J)$ に変化します。$J > 0$ なら上方ジャンプ(好材料の発表など)、$-1 < J < 0$ なら下方ジャンプ(突然の暴落など)です。$J = -1$ は株価がゼロになること(倒産)を意味しますが、対数正規分布のジャンプサイズでは $J > -1$ が保証されます。
$-\lambda k$ のドリフト補正は、ジャンプの平均的な効果を打ち消してリスク中立測度のもとでのドリフトを調整する役割を果たします。この補正がないと、ジャンプによる平均的な株価上昇(または下落)がドリフトに二重計上されてしまいます。
ブラック・ショールズモデルでは $\sigma$ と $\mu$ の2パラメータしかありませんが、マートンモデルでは $\sigma, \mu, \lambda, \mu_J, \sigma_J$ の5パラメータがあり、市場データへのフィッティングの自由度が大きくなります。特に、$\mu_J < 0$(下方ジャンプが支配的)を設定することで、株式市場でしばしば観測される「暴落リスクの非対称性」を捉えることができます。
解の構造
ジャンプが発生しない期間では、通常の幾何ブラウン運動と同じです。ジャンプ時刻 $T_i$ での株価は $(1 + J_i)$ 倍にジャンプします。解は次のように書けます。
$$ \begin{equation} S_t = S_0 \exp\left[\left(\mu – \lambda k – \frac{\sigma^2}{2}\right)t + \sigma B_t\right] \prod_{i=1}^{N_t}(1 + J_i) \end{equation} $$
対数をとると $\ln S_t$ は正規分布とジャンプの和になるため、$\ln S_t$ の分布はポアソン分布で重みづけされた正規分布の混合になります。
このモデルの利点は、ブラック・ショールズモデルでは説明できないオプション価格のボラティリティスマイル(implied volatility smile)を再現できることです。
オプション価格への影響
マートンモデルでのヨーロピアンコールオプションの価格は、条件付き期待値の公式を使って解析的に求めることができます。ポアソン過程のジャンプ回数 $n$ で条件付けると、各 $n$ に対してブラック・ショールズ型の公式が適用できるため、
$$ C = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{e^{-\lambda’ T}(\lambda’ T)^n}{n!} C_{\text{BS}}(S_0, K, T, r_n, \sigma_n) $$
ここで $\lambda’ = \lambda(1+k)$、$r_n = r – \lambda k + n\ln(1+k)/T$、$\sigma_n^2 = \sigma^2 + n\sigma_J^2/T$ です。$C_{\text{BS}}$ は通常のブラック・ショールズ公式です。
この「ポアソン分布で重みづけされたブラック・ショールズ価格の和」という構造は、マートンモデルの数学的な美しさの一つです。ジャンプの存在により、アウト・オブ・ザ・マネーのオプションの価格が上昇し、ボラティリティスマイルが生じます。
Pythonでこれらの理論を可視化してみましょう。
Pythonによるシミュレーション
各種レヴィ過程のサンプルパス
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
np.random.seed(42)
T = 5.0
n = 10000
dt = T / n
t = np.linspace(0, T, n + 1)
fig, axes = plt.subplots(2, 2, figsize=(14, 10))
# --- 左上: ブラウン運動 ---
ax = axes[0, 0]
for _ in range(5):
dB = np.random.normal(0, np.sqrt(dt), n)
B = np.cumsum(dB)
B = np.insert(B, 0, 0)
ax.plot(t, B, linewidth=0.8, alpha=0.7)
ax.set_xlabel('Time $t$', fontsize=12)
ax.set_ylabel('$B_t$', fontsize=12)
ax.set_title('Brownian motion (continuous Levy process)', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# --- 右上: 複合ポアソン過程 ---
ax = axes[0, 1]
lam = 3.0 # ジャンプ率
for _ in range(5):
n_jumps = np.random.poisson(lam * T)
jump_times = np.sort(np.random.uniform(0, T, n_jumps))
jump_sizes = np.random.normal(0, 0.5, n_jumps)
Y = np.zeros(n + 1)
for jt, js in zip(jump_times, jump_sizes):
idx = int(jt / dt)
if idx < n + 1:
Y[idx:] += js
ax.plot(t, Y, linewidth=0.8, alpha=0.7)
ax.set_xlabel('Time $t$', fontsize=12)
ax.set_ylabel('$Y_t$', fontsize=12)
ax.set_title(f'Compound Poisson process ($\\lambda={lam}$)', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# --- 左下: ジャンプ拡散 ---
ax = axes[1, 0]
sigma_bm = 0.3
mu_drift = 0.1
lam_jd = 2.0
for _ in range(5):
dB = np.random.normal(0, np.sqrt(dt), n)
B = np.cumsum(dB)
B = np.insert(B, 0, 0)
# ポアソンジャンプ
n_jumps = np.random.poisson(lam_jd * T)
jump_times = np.sort(np.random.uniform(0, T, n_jumps))
jump_sizes = np.random.normal(0, 0.3, n_jumps)
J = np.zeros(n + 1)
for jt, js in zip(jump_times, jump_sizes):
idx = int(jt / dt)
if idx < n + 1:
J[idx:] += js
X = mu_drift * t + sigma_bm * B + J
ax.plot(t, X, linewidth=0.8, alpha=0.7)
ax.set_xlabel('Time $t$', fontsize=12)
ax.set_ylabel('$X_t$', fontsize=12)
ax.set_title('Jump-diffusion process', fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
# --- 右下: マートンモデルの株価 ---
ax = axes[1, 1]
S0 = 100
mu_stock = 0.08
sigma_stock = 0.2
lam_merton = 1.0
mu_J = -0.05
sigma_J = 0.1
k = np.exp(mu_J + sigma_J**2 / 2) - 1
for _ in range(10):
dB = np.random.normal(0, np.sqrt(dt), n)
B = np.cumsum(dB)
B = np.insert(B, 0, 0)
# ジャンプ
n_jumps = np.random.poisson(lam_merton * T)
jump_times = np.sort(np.random.uniform(0, T, n_jumps))
log_jump_sizes = np.random.normal(mu_J, sigma_J, n_jumps)
log_J = np.zeros(n + 1)
for jt, ljs in zip(jump_times, log_jump_sizes):
idx = int(jt / dt)
if idx < n + 1:
log_J[idx:] += ljs
log_S = (np.log(S0) + (mu_stock - lam_merton * k - sigma_stock**2 / 2) * t
+ sigma_stock * B + log_J)
S = np.exp(log_S)
ax.plot(t, S, linewidth=0.8, alpha=0.6)
ax.set_xlabel('Time $t$', fontsize=12)
ax.set_ylabel('$S_t$', fontsize=12)
ax.set_title("Merton's jump-diffusion model", fontsize=13)
ax.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('levy_processes.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
4つのレヴィ過程の比較から、以下の特徴が読み取れます。
-
左上: ブラウン運動は連続で滑らかな経路を持ちます。ジャンプがなく、すべての変動は連続的です。これはレヴィ三つ組の $\nu = 0$ の場合に対応します
-
右上: 複合ポアソン過程はジャンプのみの階段状の経路を持ちます。ジャンプ間は一定値を保ち、各ジャンプのサイズはランダムです。連続成分($\sigma = 0$)がない場合です
-
左下: ジャンプ拡散は連続変動とジャンプの両方を含む。ブラウン運動による滑らかな変動の上に、離散的なジャンプが重畳されています。経路の「ギザギザ」はブラウン運動由来で、「段差」はジャンプ由来です
-
右下: マートンモデルの株価は通常時は幾何ブラウン運動に近い振る舞いですが、ジャンプにより急激な下落や上昇が発生します。$\mu_J < 0$(下方ジャンプが平均的に大きい)を設定しているため、暴落を含む現実的な株価パターンが再現されています
まとめ
本記事では、レヴィ過程の基本理論から金融工学への応用まで解説しました。
- レヴィ過程は独立定常増分を持つcadlag確率過程であり、ブラウン運動とポアソン過程を含む広いクラスです。確率連続性の条件により固定時刻でのジャンプは排除されますが、ランダムな時刻でのジャンプは許されます
- レヴィ・ヒンチンの表現定理により、任意のレヴィ過程はレヴィ三つ組 $(\gamma, \sigma^2, \nu)$ で完全に特徴づけられます。$\gamma$ はドリフト、$\sigma^2$ はガウス成分の拡散係数、$\nu$ はジャンプサイズの分布を記述するレヴィ測度です
- 無限分解可能性がレヴィ過程の本質的な性質であり、任意の無限分解可能な分布に対応するレヴィ過程が一意に存在します
- レヴィ測度の選び方によって多様な過程が得られます。有限活動度(複合ポアソン過程)、無限活動度(ガンマ過程、Variance Gamma過程)、安定過程など、応用に応じた柔軟なモデル構成が可能です
- レヴィ・伊藤分解により、レヴィ過程の経路は「ドリフト + ブラウン運動 + 大きなジャンプ + 補償された小さなジャンプ」の4成分に分解されます
- マートンのジャンプ拡散モデルは幾何ブラウン運動に複合ポアソン過程のジャンプを加えたもので、オプション価格のボラティリティスマイルを再現できます。オプション価格は「ポアソン分布で重みづけされたブラック・ショールズ公式の和」として表されます
レヴィ過程は、ブラウン運動では記述できない「ジャンプ」という現象を理論的に取り扱う枠組みを提供し、確率解析の重要な拡張です。金融工学、保険数学、物理学など多くの分野で、現実のデータに含まれる急激な変動をモデル化するための基盤となっています。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 点過程の理論 — ポアソン過程の一般化 — レヴィ過程のジャンプ部分の基礎
- 伊藤積分の定義と性質 — 連続成分の確率積分
- 幾何ブラウン運動と株価モデリング — ジャンプなしの場合の株価モデル