はちみつをスプーンですくうと、ゆっくりと糸を引きながら流れ落ちます。一方、水をスプーンですくえば、あっという間にこぼれてしまいます。どちらも「流体」ですが、なぜこれほど振る舞いが違うのでしょうか。あるいは、シャボン玉はなぜ球形になるのでしょうか。植物はどうやって根から吸い上げた水を数十メートルもの高さまで運ぶのでしょうか。船のスクリューが高速回転すると金属表面がボロボロになるのはなぜでしょうか。
これらの問いに答えるには、流体が持つ基本的な性質を正しく理解する必要があります。流体の性質は、流体力学のあらゆる理論の出発点です。たとえば、粘性を理解すればナビエ・ストークス方程式の粘性項の由来がわかりますし、圧縮性を理解すれば音速やマッハ数といった高速流の概念への橋が架かります。さらに、表面張力や毛管現象は、マイクロ流体デバイスの設計やインクジェットプリンターの液滴制御、宇宙空間での液体燃料の管理など、幅広い工学分野で不可欠な知識です。
本記事の内容
- 流体の定義と固体との本質的な違い
- 連続体仮定とクヌーセン数
- 粘性の物理 — ニュートンの粘性法則、動粘度と粘度
- 非ニュートン流体の分類
- 圧縮性 — 体積弾性率とマッハ数
- 表面張力とヤング・ラプラスの式
- 毛管現象
- 蒸気圧とキャビテーション
- Pythonでの可視化と数値計算
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 流体の性質(粘性・圧縮性・表面張力) — 密度・比重・粘性の基礎
- 静水力学(パスカルの原理とアルキメデスの原理) — 静止流体中の圧力
流体とは何か — 固体との違い
せん断応力に対する応答
「流体」と「固体」の違いを一言で表すなら、せん断応力(shear stress)に対する応答の違い です。
日常的なイメージで考えてみましょう。テーブルの上に消しゴムを置き、指で横から押すとします。消しゴムは少し変形しますが、指を離せば元の形に戻ります。これが固体の応答です。固体はせん断応力に対して有限の変形で釣り合い、応力を取り除けば(弾性範囲内であれば)元に戻ります。
一方、コップに入った水の表面を指でなぞると、水は指に引きずられて動き続けます。どれだけ小さな力でも、水は変形し続けるのをやめません。つまり、流体はどんなに小さなせん断応力に対しても連続的に変形し続ける物質です。
これを定義として述べると次のようになります。
流体(fluid): せん断応力を受けたとき、連続的かつ不可逆的に変形し続ける物質。液体と気体の総称。
ここで重要なのは、流体が「弱い」わけではないということです。流体は垂直応力(圧力)には抵抗できます。水中に潜ると水圧を感じるように、流体は圧縮に対しては大きな抵抗を示します。流体が抵抗できないのは、あくまでせん断応力(ずれの力)です。
液体と気体の違い
流体は液体と気体に大別されます。両者の主な違いは以下の通りです。
| 性質 | 液体 | 気体 |
|---|---|---|
| 分子間距離 | 小さい(密に詰まっている) | 大きい(自由に飛び回る) |
| 圧縮性 | ほぼ非圧縮 | 容易に圧縮される |
| 自由表面 | 持つ(水面など) | 持たない(容器全体に広がる) |
| 密度 | 大きい($\sim 10^3$ kg/m$^3$) | 小さい($\sim 1$ kg/m$^3$) |
ただし、流体力学の基礎方程式は液体と気体を区別しません。連続体として扱える限り、同じ支配方程式(ナビエ・ストークス方程式)が適用されます。では「連続体として扱える」とはどういうことでしょうか。次のセクションでこの問いに答えます。
連続体仮定
なぜ連続体仮定が必要か
現実の流体は分子の集まりです。水 1 cm$^3$ には約 $3.3 \times 10^{22}$ 個の水分子が含まれています。これらの分子一つ一つの運動を追跡することは現実的ではありません。そこで流体力学では、分子の離散的な構造を無視し、流体を「隙間なく連続的に分布する物質」とみなします。これが連続体仮定(continuum hypothesis)です。
イメージとしては、砂浜を遠くから眺めると一様な面に見えるのと似ています。近づけば一粒一粒の砂が見えますが、海岸線の形を議論するには「連続的な面」として扱うほうが合理的です。流体力学も同様に、十分大きなスケールでは分子の個別の振る舞いを無視できます。
連続体仮定のもとでは、密度 $\rho$、速度 $\bm{v}$、圧力 $p$ などの物理量が空間の各点で滑らかな関数として定義されます。これにより、微分方程式(ナビエ・ストークス方程式など)を使って流体の運動を記述できるようになります。
クヌーセン数 — 連続体仮定の妥当性判定
連続体仮定が成り立つかどうかを判定する無次元数がクヌーセン数(Knudsen number) $\text{Kn}$ です。
$$ \text{Kn} = \frac{\lambda}{L} $$
ここで $\lambda$ は分子の平均自由行程(分子が他の分子と衝突するまでに移動する平均距離)、$L$ は着目する流れの代表長さスケール(管の直径など)です。
クヌーセン数の値と流れの分類は以下のようになります。
| $\text{Kn}$ の範囲 | 領域 | 取り扱い |
|---|---|---|
| $\text{Kn} < 0.01$ | 連続体領域 | ナビエ・ストークス方程式が有効 |
| $0.01 < \text{Kn} < 0.1$ | すべり流れ領域 | 壁面ですべり境界条件が必要 |
| $0.1 < \text{Kn} < 10$ | 遷移領域 | ボルツマン方程式が必要 |
| $\text{Kn} > 10$ | 自由分子流領域 | 分子動力学的手法が必要 |
標準大気圧のもとでの空気の平均自由行程は約 $\lambda \approx 68$ nm です。管の直径が 1 mm であれば $\text{Kn} \approx 6.8 \times 10^{-5}$ となり、十分に連続体とみなせます。一方、高度 100 km 以上の超高層大気では $\lambda$ が数メートルに達するため、人工衛星まわりの空気力学では連続体仮定が破綻し、希薄気体力学(rarefied gas dynamics)の手法が必要になります。
連続体仮定が成り立つことを確認したところで、次に流体の最も重要な物性値の一つである密度と比重を簡単に復習し、その後、流体力学の核心となる粘性の物理に進みましょう。
密度と比重
密度の定義
密度 $\rho$ は、単位体積あたりの質量です。
$$ \rho = \frac{m}{V} \quad [\text{kg/m}^3] $$
水の場合、4°C において密度は最大値 $\rho = 999.97$ kg/m$^3$(≒ 1000 kg/m$^3$)をとります。温度が 4°C から上昇しても下降しても密度は減少します。この特異な性質は水分子の水素結合の構造変化に起因しており、湖が冬に表面から凍る(底は 4°C の水で満たされる)理由になっています。
比重
比重(specific gravity)$s$ は、対象の流体の密度と基準流体の密度の比です。液体では 4°C の水、気体では標準状態の空気を基準とすることが一般的です。
$$ s = \frac{\rho}{\rho_{\text{ref}}} $$
比重は無次元量なので、単位系に依存しない便利な指標です。たとえば水銀の比重は $s \approx 13.6$ ですので、水の 13.6 倍の密度を持つことが直感的にわかります。
温度と密度の関係
多くの液体では、温度が上昇すると分子の熱運動が激しくなり体積が膨張するため、密度は低下します。水の密度の温度依存性は以下の経験式で近似できます(5°C〜95°C の範囲)。
$$ \rho(T) \approx 999.83 + 5.053 \times 10^{-2}\, T – 7.480 \times 10^{-3}\, T^2 + 3.566 \times 10^{-5}\, T^3 – 1.037 \times 10^{-7}\, T^4 $$
ここで $T$ は摂氏温度 [°C] です。この式では 4°C 付近で極大値をとることが再現されています。
密度と比重は流体の「重さ」に関わる基本量でした。しかし、流体力学で密度と同じくらい重要なのが、流体の「流れにくさ」を表す粘性です。次に粘性の物理を詳しく見ていきましょう。
粘性の物理 — ニュートンの粘性法則
粘性とは何か
粘性(viscosity)は、流体が「流れにくい」性質を定量化する物理量です。冒頭の例に戻ると、はちみつが水よりもゆっくり流れるのは、はちみつの粘性が水よりもはるかに大きいからです。
粘性の物理的な起源を理解するために、2枚の平行な平板の間に流体が挟まれた状況を考えましょう。下の板は固定し、上の板を速度 $U$ で右方向に引っ張ります。すると、流体は上の板に引きずられて動き始め、上の板に近い層ほど速く、下の板に近い層ほど遅い速度分布が形成されます。このとき、速い層は遅い層を引っ張り、遅い層は速い層にブレーキをかけます。この隣り合う流体層の間に働く摩擦力が粘性の正体です。
分子論的には、速い層の分子と遅い層の分子がランダムに行き来することで運動量が交換され、マクロな摩擦力として現れます。気体では分子の熱運動による運動量輸送が主因であり、液体では分子間の引力(凝集力)が主因です。この違いから、気体の粘性は温度上昇とともに増加し、液体の粘性は温度上昇とともに減少するという対照的な振る舞いが生じます。
ニュートンの粘性法則
上で述べた 2 枚の平板の問題において、定常状態では速度は $y$ 方向に線形に変化します。
$$ v_x(y) = U \frac{y}{h} $$
ここで $h$ は板の間隔です。このとき、流体層間に働くせん断応力 $\tau$ は次の関係に従います。
$$ \boxed{\tau = \mu \frac{dv_x}{dy}} $$
これがニュートンの粘性法則(Newton’s law of viscosity)です。この式が述べていることは明快です。せん断応力 $\tau$ は速度勾配(速度の $y$ 方向変化率)に比例し、その比例定数が粘性係数(動粘性係数、dynamic viscosity)$\mu$ です。
各量の単位を確認しておきましょう。
- $\tau$: せん断応力 [Pa] = [N/m$^2$]
- $dv_x/dy$: 速度勾配(せん断速度) [s$^{-1}$]
- $\mu$: 粘性係数 [Pa·s] = [kg/(m·s)]
粘性係数の SI 単位は Pa·s ですが、CGS 単位系では P(ポアズ)= 0.1 Pa·s が使われます。実用上は cP(センチポアズ)= $10^{-3}$ Pa·s もよく登場します。水(20°C)の粘性係数は $\mu \approx 1.0 \times 10^{-3}$ Pa·s = 1.0 cP です。
ニュートンの粘性法則は、応力とひずみ速度が線形関係にあることを表しています。これは固体力学におけるフックの法則(応力とひずみが線形関係)のアナロジーです。ただし、固体はひずみ(変形量)に比例する応力が生じるのに対し、流体はひずみ速度(変形の速さ)に比例する応力が生じるという本質的な違いがあります。
粘性係数 $\mu$ は流体層間の摩擦力を表す量でしたが、流体の運動方程式を立てるときには、もう一つの重要な量が登場します。それが動粘度です。
動粘度と粘度の使い分け
動粘度の定義
動粘度(kinematic viscosity) $\nu$ は、粘性係数 $\mu$ を密度 $\rho$ で割った量です。
$$ \nu = \frac{\mu}{\rho} \quad [\text{m}^2/\text{s}] $$
なぜこの量が必要なのでしょうか。流体の運動方程式(ナビエ・ストークス方程式)を見ると、粘性項は $(\mu/\rho) \nabla^2 \bm{v} = \nu \nabla^2 \bm{v}$ の形で現れます。つまり、流体の加速度に対する粘性の効果は、$\mu$ 単独ではなく $\mu/\rho$ で決まります。密度が大きい流体ほど慣性が大きいため、同じ粘性係数でも「動きにくさ」は緩和されるのです。
たとえば、水銀は水よりも粘性係数 $\mu$ が大きいですが、密度が 13.6 倍もあるため、動粘度 $\nu$ はかえって水より小さくなります。流体の「流れやすさ」を論じるときには動粘度のほうが適切な指標になる場面が多いのです。
代表的な流体の粘性
以下に代表的な流体の粘性係数と動粘度を示します(20°C、1 atm)。
| 流体 | $\mu$ [Pa·s] | $\rho$ [kg/m$^3$] | $\nu$ [m$^2$/s] |
|---|---|---|---|
| 空気 | $1.8 \times 10^{-5}$ | 1.20 | $1.5 \times 10^{-5}$ |
| 水 | $1.0 \times 10^{-3}$ | 998 | $1.0 \times 10^{-6}$ |
| エンジンオイル(SAE 30) | $0.3$ | 880 | $3.4 \times 10^{-4}$ |
| はちみつ | $2 \sim 10$ | 1400 | $1.4 \times 10^{-3} \sim 7 \times 10^{-3}$ |
| 水銀 | $1.5 \times 10^{-3}$ | 13546 | $1.1 \times 10^{-7}$ |
動粘度はレイノルズ数 $\text{Re} = VL/\nu$ の計算にも直接使われます。
ここまでは、せん断応力と速度勾配が線形関係にある流体を前提にしてきました。このような流体をニュートン流体と呼びます。しかし、世の中にはこの線形関係に従わない流体も多数存在します。次にそれらの「非ニュートン流体」について見ていきましょう。
非ニュートン流体
ニュートン流体と非ニュートン流体
ニュートンの粘性法則 $\tau = \mu \, dv_x/dy$ では、せん断応力とせん断速度(速度勾配)の関係が原点を通る直線になります。粘性係数 $\mu$ はせん断速度によらず一定です。水、空気、オイルなどの多くの流体はこの関係をよく満たし、ニュートン流体に分類されます。
しかし、身の回りにはニュートンの粘性法則に従わない流体も存在します。たとえば、ケチャップは瓶を振ると急に流れ出しますし、片栗粉を水に溶いた液体(ウーブレック)は強く叩くと固体のように硬くなります。これらが非ニュートン流体です。
非ニュートン流体を一般的に記述するために、見かけの粘性係数 $\mu_{\text{app}}$ を導入します。
$$ \tau = \mu_{\text{app}}(\dot{\gamma}) \, \dot{\gamma} $$
ここで $\dot{\gamma} = dv_x/dy$ はせん断速度です。ニュートン流体では $\mu_{\text{app}}$ がせん断速度 $\dot{\gamma}$ に依存しませんが、非ニュートン流体では $\mu_{\text{app}}$ が $\dot{\gamma}$ の関数になります。
べき乗則モデル
非ニュートン流体の多くは、べき乗則(power-law model)で近似的に記述できます。
$$ \tau = K \dot{\gamma}^n $$
ここで $K$ は流動度指数(consistency index)、$n$ は流動挙動指数(flow behavior index)です。
- $n = 1$: ニュートン流体($K = \mu$)
- $n < 1$: シアシニング流体(shear-thinning / 擬塑性流体) — せん断速度が大きくなると見かけの粘性が低下する
- $n > 1$: ダイラタント流体(shear-thickening / ダイラタント流体) — せん断速度が大きくなると見かけの粘性が増加する
シアシニング流体の身近な例はケチャップや塗料です。振ったり塗ったりするときの高いせん断速度で粘性が下がるため、塗り伸ばしやすくなります。ダイラタント流体の例は前述の片栗粉水溶液(ウーブレック)です。
ビンガム塑性体
もう一つ重要な非ニュートン流体のモデルがビンガム塑性体(Bingham plastic)です。
$$ \begin{cases} \dot{\gamma} = 0 & (\tau < \tau_0) \\ \tau = \tau_0 + \mu_B \dot{\gamma} & (\tau \geq \tau_0) \end{cases} $$
ビンガム塑性体は、せん断応力が降伏応力 $\tau_0$ を超えるまでは流れず(固体のように振る舞い)、$\tau_0$ を超えるとニュートン流体的に流れます。歯磨き粉やマヨネーズがこの挙動を示します。チューブから押し出す力($\tau > \tau_0$)がないと流れませんが、一度流れ始めるとスムーズに出てきます。
非ニュートン流体の理解は、化学工業、食品工業、バイオメカニクスなど多くの分野で重要です。しかし、本記事では以降、話を簡潔にするためにニュートン流体を前提として進めます。
ここまでは、流体の「流れにくさ」に関わる粘性を議論しました。次は、流体の「縮みやすさ」に関わる圧縮性を見ていきましょう。
圧縮性 — 体積弾性率とマッハ数
圧縮性とは
流体に圧力をかけたとき、体積が変化するかどうか — これが圧縮性(compressibility)の問題です。
日常の経験では、水はほとんど圧縮できません。注射器の先端を塞いでピストンを押しても、水はほぼ縮みません。一方、注射器に空気を入れて同じことをすると、ピストンは楽に押し込めます。この違いは液体と気体の圧縮性の差を如実に示しています。
体積弾性率
流体の圧縮されにくさを定量的に表すのが体積弾性率(bulk modulus) $K$ です。
圧力が $dp$ だけ増加したとき、体積 $V$ が $dV$ だけ減少するとします。体積弾性率は次のように定義されます。
$$ \boxed{K = -V \frac{dp}{dV} = -\frac{dp}{dV/V}} $$
分母の $dV/V$ は体積ひずみ(体積の相対変化)です。マイナス符号は、圧力増加($dp > 0$)に対して体積が減少($dV < 0$)することに対応しています。$K$ が大きいほど、同じ圧力変化に対して体積変化が小さい — つまり「圧縮されにくい」ことを意味します。
密度を用いて書き直すと、$\rho = m/V$ から $dV/V = -d\rho/\rho$ なので、
$$ K = \rho \frac{dp}{d\rho} $$
と表されます。代表的な流体の体積弾性率を比較してみましょう。
| 流体 | $K$ [GPa] |
|---|---|
| 水(20°C) | 2.2 |
| エンジンオイル | 1.5 |
| 水銀 | 28.5 |
| 空気(等温過程、1 atm) | $1.01 \times 10^{-4}$ |
水の体積弾性率は空気の約 2 万倍です。この桁違いの差が、多くの流体力学の問題で水を「非圧縮性流体」として扱える根拠になっています。
圧縮性の指標 — マッハ数
流れの圧縮性が重要になるかどうかを判定する無次元数がマッハ数(Mach number) $\text{Ma}$ です。
$$ \text{Ma} = \frac{V}{c} $$
ここで $V$ は流れの代表速度、$c$ は流体中の音速です。音速は体積弾性率と密度から次のように求まります。
$$ c = \sqrt{\frac{K}{\rho}} $$
理想気体の断熱過程では $K = \gamma p$($\gamma$ は比熱比)なので、
$$ c = \sqrt{\frac{\gamma p}{\rho}} = \sqrt{\gamma R T} $$
となります。ここで $R$ は気体のガス定数、$T$ は絶対温度です。標準大気(15°C)における空気の音速は $c \approx 340$ m/s です。
マッハ数による流れの分類は以下の通りです。
| マッハ数 | 流れの名称 | 圧縮性の取り扱い |
|---|---|---|
| $\text{Ma} < 0.3$ | 低速流(非圧縮性流れ) | 圧縮性を無視できる |
| $0.3 \leq \text{Ma} < 0.8$ | 亜音速流 | 圧縮性を考慮する必要あり |
| $0.8 \leq \text{Ma} < 1.2$ | 遷音速流 | 衝撃波が発生しうる |
| $1.2 \leq \text{Ma} < 5$ | 超音速流 | 衝撃波、膨張波が支配的 |
| $\text{Ma} \geq 5$ | 極超音速流 | 空力加熱が深刻になる |
$\text{Ma} < 0.3$ では密度変化は最大で約 5% 以内にとどまるため、非圧縮性流れとして扱えます。一般的な水の流れはもちろん、時速 300 km 程度の自動車周りの空気流もこの範囲に収まるため、多くの工学問題で非圧縮の仮定が使えるのです。
圧縮性は流体の「体積変化のしやすさ」に関わる性質でした。次は、流体の自由表面で特有な役割を果たす表面張力について見ていきましょう。
表面張力 — 分子間力の視点から
表面張力とは
コップに水を注いでいくと、縁を少し超えても水がこぼれない — このとき水面はまるで薄いゴム膜が張られたように振る舞います。この「膜のような力」の正体が表面張力(surface tension)です。
表面張力の起源は分子間力(凝集力)にあります。液体の内部にいる分子は、四方八方から隣の分子に引っ張られているため、力が打ち消し合ってバランスしています。しかし、液体の表面にいる分子は、上側が気体(分子間力がほとんどない)であるため、内部方向への引力が支配的になります。この不均衡な引力の結果、表面は面積を最小にしようとする方向に収縮する力を持ちます。これが表面張力です。
表面張力の定義
表面張力 $\sigma$(あるいは $\gamma$ と表記されることもあります)は、表面上の仮想的な単位長さの線分に垂直に、かつ表面に沿って働く力として定義されます。
$$ \sigma = \frac{F}{L} \quad [\text{N/m}] $$
ここで $F$ は表面に沿った力 [N]、$L$ は線分の長さ [m] です。
エネルギーの観点からは、表面張力は表面の単位面積あたりの自由エネルギー [J/m$^2$] とも解釈できます。この解釈では、表面積の増加がエネルギーの増加を伴うため、系はエネルギーを最小化するように表面積を最小化しようとします。シャボン玉が球形になるのは、与えられた体積に対して表面積が最小になる形が球だからです。
代表的な液体の表面張力を以下に示します(20°C、空気との界面)。
| 液体 | $\sigma$ [N/m] |
|---|---|
| 水 | $7.28 \times 10^{-2}$ |
| エタノール | $2.23 \times 10^{-2}$ |
| 水銀 | $4.65 \times 10^{-1}$ |
| 石鹸水 | $\approx 2.5 \times 10^{-2}$ |
水の表面張力は液体の中では比較的大きく、これは水分子の強い水素結合に起因しています。石鹸水の表面張力が水より低いのは、界面活性剤の分子が表面に並ぶことで分子間力を弱めるためです。
表面張力は平面の液面だけでなく、曲がった液面でも重要な役割を果たします。とくに曲率を持つ液面では、表面張力が圧力差を生み出します。これを記述するのが次のヤング・ラプラスの式です。
ヤング・ラプラスの式
曲面での圧力差
シャボン玉やガラス管中の水面のように、液面が曲率を持つとき、表面張力は液面を横切る圧力差を生じさせます。この関係を定量的に表すのがヤング・ラプラスの式(Young-Laplace equation)です。
なぜ曲面で圧力差が生じるのか、直感的に考えてみましょう。風船を膨らませているとき、ゴムの張力がバランスするためには、内側の気圧が外側より高くなければなりません。同様に、球状の液滴では表面張力が液面を収縮させようとするため、その収縮力に対抗するために内部の圧力が外部より高くなります。
ヤング・ラプラスの式の導出
半径 $R$ の球状液滴を考えます。液滴を赤道面で半分に切った断面について力の釣り合いを考えましょう。
内外の圧力差を $\Delta p = p_{\text{in}} – p_{\text{out}}$ とします。液滴の半球部分(切断面の円の面積 $\pi R^2$)に作用する圧力差による力は、
$$ F_{\text{pressure}} = \Delta p \cdot \pi R^2 $$
です。一方、切断面の円周上で表面張力が液面を引っ張る力は、
$$ F_{\text{surface}} = \sigma \cdot 2\pi R $$
です。力の釣り合い $F_{\text{pressure}} = F_{\text{surface}}$ から、
$$ \Delta p \cdot \pi R^2 = \sigma \cdot 2\pi R $$
両辺を $\pi R^2$ で割ると、
$$ \boxed{\Delta p = \frac{2\sigma}{R}} $$
が得られます。これが球状液面のヤング・ラプラスの式です。
より一般的な曲面(楕円面など)に対しては、2つの主曲率半径 $R_1$, $R_2$ を用いて、
$$ \Delta p = \sigma \left(\frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\right) $$
と表されます。球面では $R_1 = R_2 = R$ なので $\Delta p = 2\sigma/R$ に帰着します。
ヤング・ラプラスの式の意味
この式から読み取れる重要な点は以下の 2 つです。
- 曲率半径が小さい(曲がりがきつい)ほど圧力差が大きい: 小さな液滴ほど内部圧力が高くなります。これは、小さな気泡が大きな気泡に吸収される現象(オストワルド熟成)の原因です。
- 平面($R \to \infty$)では圧力差がゼロ: 曲率のない液面では表面張力は圧力差を生みません。
なお、シャボン玉のように2つの表面を持つ薄膜の場合は、内外の圧力差は $\Delta p = 4\sigma/R$ になります(表と裏の 2 面分)。
ヤング・ラプラスの式は、液面の曲率と圧力差の関係を教えてくれました。この関係がとりわけ重要になるのが、細い管の中で液面が湾曲する毛管現象です。
毛管現象
毛管現象とは
細いガラス管(毛細管)を水に浸すと、管内の水面が外側の水面よりも高く上昇します。逆に、水銀の場合は管内の液面が外側より低くなります。このように細い管の中で液面が上下する現象を毛管現象(capillarity / capillary action)と呼びます。
植物が根から吸い上げた水を茎を通じて葉まで運ぶメカニズムの一つが毛管現象です(ただし、高い木ではこれだけでは説明できず、葉からの蒸散による負圧も重要です)。また、紙やタオルが水を吸い上げるのも、繊維の隙間が毛細管として働くためです。
接触角
毛管現象を理解するには、まず接触角(contact angle) $\theta$ の概念が必要です。液面が固体壁と接する点(接触線)において、液面の接線と固体表面のなす角度を接触角と定義します。
- $\theta < 90°$: 液体が固体表面を濡らす(親水性)— 水とガラスの関係
- $\theta > 90°$: 液体が固体表面をはじく(疎水性)— 水銀とガラスの関係
- $\theta = 0°$: 完全濡れ
- $\theta = 180°$: 完全非濡れ(超撥水)
接触角の値は、液体と固体の組み合わせ、および気相の種類によって決まります。
毛管上昇の公式
内径 $d$(半径 $r = d/2$)の円形毛細管に液体を浸したとき、管内の液面が外液面からどれだけ上昇(または下降)するかを求めましょう。
管内の液面は曲率半径 $R$ の球面状のメニスカスを形成します。接触角 $\theta$ と管の半径 $r$ の間には、幾何学的に次の関係があります。
$$ R = \frac{r}{\cos\theta} $$
ヤング・ラプラスの式により、メニスカスを横切る圧力差は、
$$ \Delta p = \frac{2\sigma}{R} = \frac{2\sigma \cos\theta}{r} $$
です。この圧力差が、上昇した液柱の重さ $\rho g h$ と釣り合うので、
$$ \rho g h = \frac{2\sigma \cos\theta}{r} $$
これを $h$ について解くと、毛管上昇高さの公式が得られます。
$$ \boxed{h = \frac{2\sigma \cos\theta}{\rho g r} = \frac{4\sigma \cos\theta}{\rho g d}} $$
ここで、
- $\sigma$: 表面張力 [N/m]
- $\theta$: 接触角
- $\rho$: 液体の密度 [kg/m$^3$]
- $g$: 重力加速度 [m/s$^2$]
- $r$: 管の半径 [m]、$d = 2r$: 管の直径 [m]
毛管上昇の物理的解釈
この公式から次のことがわかります。
- 管が細いほど($r$ が小さいほど)液面は高く上がる: 毛管上昇高さは管の半径に反比例します。これは直感とも合います — 非常に細い管では液面が劇的に上昇します。
- 接触角が $90°$ 以下なら上昇、$90°$ 以上なら下降: $\cos\theta > 0$ なら $h > 0$(上昇)、$\cos\theta < 0$ なら $h < 0$(下降)です。水銀がガラス管内で液面が下がるのは、接触角が約 $140°$ であるためです。
- 表面張力が大きいほど上昇が大きい: 水は表面張力が比較的大きいため、毛管現象が顕著に現れます。
具体例
ガラス管(内径 $d = 1$ mm)に水($\sigma = 0.0728$ N/m、$\theta \approx 0°$、$\rho = 998$ kg/m$^3$)を浸した場合の毛管上昇高さを計算してみましょう。
$$ h = \frac{4 \times 0.0728 \times \cos 0°}{998 \times 9.81 \times 0.001} = \frac{0.2912}{9.790} \approx 0.0298 \text{ m} \approx 30 \text{ mm} $$
わずか直径 1 mm の管で、水は約 30 mm も上昇します。管の直径をさらに細くすると(たとえば $d = 0.1$ mm)、上昇高さは約 300 mm にもなります。
毛管現象は、流体の表面と固体壁の相互作用に起因する現象でした。最後に、流体自身の相変化に関わる重要な性質 — 蒸気圧とキャビテーション — を取り上げましょう。
蒸気圧とキャビテーション
蒸気圧とは
コップに水を入れて放置すると、やがて水が減っていきます。これは水面から水分子が気相へ飛び出す蒸発が起きているためです。密閉容器の中では、蒸発した分子が再び液面に戻る凝縮も同時に起こり、やがて蒸発速度と凝縮速度がバランスする動的平衡に達します。このときの気相の圧力が蒸気圧(vapor pressure) $p_v$ です。
蒸気圧は温度の上昇とともに急激に増加します。水の場合、20°C では $p_v \approx 2.34$ kPa ですが、100°C では $p_v \approx 101.3$ kPa(= 1 atm)になります。沸騰とは、液体の蒸気圧が外部圧力(大気圧)に等しくなった状態に他なりません。
蒸気圧の温度依存性はクラウジウス・クラペイロンの式で近似的に記述されます。
$$ \frac{dp_v}{dT} = \frac{L}{T(v_g – v_l)} $$
ここで $L$ は蒸発潜熱、$v_g$ と $v_l$ はそれぞれ気相と液相の比体積です。$v_g \gg v_l$ かつ理想気体を仮定すると、積分して次のアントワン型の近似式が得られます。
$$ \ln p_v \approx A – \frac{B}{T + C} $$
$A$, $B$, $C$ は物質固有の定数です。
キャビテーション
流体力学で蒸気圧が重要になる場面の一つがキャビテーション(cavitation)です。
キャビテーションとは、流れの中で局所的な圧力が蒸気圧以下に低下したとき、液体中に蒸気の泡(キャビティ)が発生する現象です。泡は低圧領域で生成されますが、流れに乗って高圧領域に移動すると急激に崩壊(圧壊)します。この崩壊は非常に激しく、局所的に数百 MPa にも達する衝撃圧が発生します。
キャビテーションが実際に問題になる場面は以下の通りです。
- 船のプロペラ: 翼面の低圧側でキャビテーションが発生し、推進効率が低下するとともに、泡の崩壊による衝撃波がプロペラ表面を侵食(エロージョン)します。
- ポンプの羽根車: 同様にエロージョンと効率低下を引き起こし、ポンプの寿命を縮めます。
- ダムの余水路: 高速流が通過する際にキャビテーションが発生し、コンクリート表面を侵食します。
キャビテーション数
キャビテーションの発生しやすさを評価する無次元数がキャビテーション数(cavitation number) $\sigma_c$(表面張力の $\sigma$ とは別物です)です。
$$ \sigma_c = \frac{p_\infty – p_v}{\frac{1}{2}\rho V^2} $$
ここで $p_\infty$ は一様流の圧力、$p_v$ は蒸気圧、$V$ は一様流の速度です。分子は「蒸気圧からどれだけ余裕があるか」を表し、分母は流れの動圧です。$\sigma_c$ が小さいほどキャビテーションが発生しやすくなります。
一方、キャビテーションは破壊的な側面だけでなく、医療分野では超音波洗浄や結石破砕に利用されるなど、積極的に活用される場面もあります。
ここまでで、流体を特徴づける主要な性質(粘性、圧縮性、表面張力、毛管現象、蒸気圧とキャビテーション)を一通り解説しました。次に、Python を使っていくつかの性質を数値的に可視化してみましょう。
Python実装:流体の性質を可視化する
温度と粘性の関係
液体と気体で粘性の温度依存性が逆方向になることを、Pythonで可視化します。水の粘性係数は温度上昇に伴い減少し、空気の粘性係数は温度上昇に伴い増加する様子を確認しましょう。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 温度範囲 [°C]
T_water = np.linspace(0, 100, 200)
T_air = np.linspace(0, 500, 200)
# 水の粘性係数 [Pa·s] — 経験式 (Vogel式の近似)
# mu_water = A * exp(B / (T + C)) (T in °C)
A_w, B_w, C_w = 2.414e-5, 247.8, 140.0
mu_water = A_w * 10**(B_w / (T_water + C_w))
# 空気の粘性係数 [Pa·s] — サザーランドの式
# mu_air = mu_ref * (T/T_ref)^(3/2) * (T_ref + S)/(T + S)
T_air_K = T_air + 273.15 # ケルビンに変換
mu_ref = 1.716e-5 # 基準粘性 (273.15 K)
T_ref = 273.15 # 基準温度 [K]
S_air = 110.4 # サザーランド定数 [K]
mu_air = mu_ref * (T_air_K / T_ref)**1.5 * (T_ref + S_air) / (T_air_K + S_air)
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(12, 5))
# 水の粘性
axes[0].plot(T_water, mu_water * 1e3, color='#00bcd4', linewidth=2)
axes[0].set_xlabel('Temperature [°C]', fontsize=12)
axes[0].set_ylabel('Dynamic viscosity [mPa·s]', fontsize=12)
axes[0].set_title('Water: Viscosity vs Temperature', fontsize=13)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim(0, 100)
# 空気の粘性
axes[1].plot(T_air, mu_air * 1e5, color='#ff7043', linewidth=2)
axes[1].set_xlabel('Temperature [°C]', fontsize=12)
axes[1].set_ylabel('Dynamic viscosity [×10⁻⁵ Pa·s]', fontsize=12)
axes[1].set_title('Air: Viscosity vs Temperature (Sutherland)', fontsize=13)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_xlim(0, 500)
plt.tight_layout()
plt.savefig('viscosity_vs_temperature.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
左のグラフから、水の粘性係数は 0°C の約 1.8 mPa·s から 100°C の約 0.28 mPa·s まで、温度上昇に伴って大幅に減少していることがわかります。これは、温度が上がると分子の熱運動が活発になり、分子間の凝集力(液体の粘性の主因)が弱まるためです。右のグラフからは、空気の粘性係数が温度上昇とともに単調に増加していることが読み取れます。気体では分子のランダムな運動による運動量交換が粘性の主因であり、温度が上がると分子運動が激しくなるため、運動量交換が活発化して粘性が増大します。この液体と気体での対照的な温度依存性は、粘性の分子論的メカニズムの違いを明確に示しています。
非ニュートン流体の流動曲線
べき乗則モデルのパラメータ $n$ を変えることで、ニュートン流体、シアシニング流体、ダイラタント流体の応力-せん断速度関係がどう変化するかを可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# せん断速度 [1/s]
gamma_dot = np.linspace(0, 100, 300)
# べき乗則: tau = K * gamma_dot^n
K = 0.5 # 流動度指数 [Pa·s^n]
# 流動挙動指数の異なるケース
n_values = [0.5, 1.0, 1.5]
labels = ['Shear-thinning (n=0.5)', 'Newtonian (n=1.0)', 'Shear-thickening (n=1.5)']
colors = ['#26a69a', '#42a5f5', '#ef5350']
# ビンガム塑性体
tau_0 = 10.0 # 降伏応力 [Pa]
mu_B = 0.3 # ビンガム粘性 [Pa·s]
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(13, 5))
# (a) べき乗則モデル
for n, label, color in zip(n_values, labels, colors):
tau = K * gamma_dot**n
axes[0].plot(gamma_dot, tau, label=label, color=color, linewidth=2)
axes[0].set_xlabel('Shear rate $\\dot{\\gamma}$ [1/s]', fontsize=12)
axes[0].set_ylabel('Shear stress $\\tau$ [Pa]', fontsize=12)
axes[0].set_title('(a) Power-law fluids', fontsize=13)
axes[0].legend(fontsize=10)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim(0, 100)
axes[0].set_ylim(0, 80)
# (b) ビンガム塑性体
tau_bingham = np.where(gamma_dot > 0, tau_0 + mu_B * gamma_dot, 0)
tau_newton = mu_B * gamma_dot
axes[1].plot(gamma_dot, tau_bingham, label='Bingham plastic', color='#ab47bc', linewidth=2)
axes[1].plot(gamma_dot, tau_newton, label='Newtonian', color='#42a5f5', linewidth=2, linestyle='--')
axes[1].axhline(y=tau_0, color='gray', linestyle=':', alpha=0.7, label=f'Yield stress $\\tau_0$ = {tau_0} Pa')
axes[1].set_xlabel('Shear rate $\\dot{\\gamma}$ [1/s]', fontsize=12)
axes[1].set_ylabel('Shear stress $\\tau$ [Pa]', fontsize=12)
axes[1].set_title('(b) Bingham plastic vs Newtonian', fontsize=13)
axes[1].legend(fontsize=10)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_xlim(0, 100)
axes[1].set_ylim(0, 50)
plt.tight_layout()
plt.savefig('non_newtonian_fluids.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
左のグラフ (a) から、ニュートン流体($n=1$)ではせん断応力がせん断速度に対して線形に増加するのに対し、シアシニング流体($n=0.5$)では曲線が上に凸で、高いせん断速度ほど応力の増加が緩やかになることが確認できます。これは見かけの粘性が低下していることを意味し、ケチャップのように振ると流れやすくなる挙動に対応しています。一方、ダイラタント流体($n=1.5$)では曲線が下に凸で、高いせん断速度ほど応力が急激に増大します。右のグラフ (b) のビンガム塑性体は、降伏応力 $\tau_0 = 10$ Pa のオフセットを持ったニュートン流体のように振る舞い、ある閾値を超えないと流れないという特性が視覚的に理解できます。
毛管上昇の計算
管の直径を変えたときの毛管上昇高さを計算し、管径の逆比例関係を確認しましょう。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 物性値
sigma = 0.0728 # 表面張力 [N/m] (水, 20°C)
theta_water = 0 # 接触角 [rad] (水-ガラス, 完全濡れ近似)
theta_mercury = np.radians(140) # 接触角 [rad] (水銀-ガラス)
rho_water = 998 # 密度 [kg/m^3]
rho_mercury = 13546 # 密度 [kg/m^3]
sigma_mercury = 0.465 # 表面張力 [N/m]
g = 9.81 # 重力加速度 [m/s^2]
# 管の直径 [mm]
d_mm = np.linspace(0.2, 5.0, 200)
d = d_mm * 1e-3 # [m]
r = d / 2 # [m]
# 毛管上昇高さ h = 2*sigma*cos(theta) / (rho*g*r)
h_water = 2 * sigma * np.cos(theta_water) / (rho_water * g * r) * 1e3 # [mm]
h_mercury = 2 * sigma_mercury * np.cos(theta_mercury) / (rho_mercury * g * r) * 1e3 # [mm]
fig, ax = plt.subplots(figsize=(9, 6))
ax.plot(d_mm, h_water, color='#00bcd4', linewidth=2.5, label='Water (θ ≈ 0°)')
ax.plot(d_mm, h_mercury, color='#78909c', linewidth=2.5, label='Mercury (θ ≈ 140°)')
ax.axhline(y=0, color='gray', linewidth=0.8)
ax.set_xlabel('Tube diameter [mm]', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Capillary rise h [mm]', fontsize=13)
ax.set_title('Capillary Rise vs Tube Diameter', fontsize=14)
ax.legend(fontsize=12)
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0.2, 5.0)
ax.set_ylim(-20, 150)
# 具体値の表示
d_example = 1.0 # mm
h_example = 2 * sigma * np.cos(theta_water) / (rho_water * g * (d_example * 1e-3 / 2)) * 1e3
ax.annotate(f'd = {d_example} mm → h = {h_example:.1f} mm',
xy=(d_example, h_example), xytext=(2.5, h_example + 10),
fontsize=11, arrowprops=dict(arrowstyle='->', color='black'),
bbox=dict(boxstyle='round,pad=0.3', facecolor='lightyellow'))
plt.tight_layout()
plt.savefig('capillary_rise.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
# 数値出力
print("=== 毛管上昇の計算結果(水-ガラス) ===")
for d_val in [0.5, 1.0, 2.0, 5.0]:
h_val = 2 * sigma * np.cos(theta_water) / (rho_water * g * (d_val * 1e-3 / 2))
print(f" d = {d_val:.1f} mm → h = {h_val*1e3:.2f} mm")
グラフから、水(シアン色の曲線)の毛管上昇高さが管径に対して反比例的に増大していることが明確に確認できます。管径 1 mm で約 30 mm、管径 0.5 mm で約 60 mm と、管が細くなるほど上昇高さが劇的に増加します。これは先に導出した $h \propto 1/r$ の関係と完全に一致しています。一方、水銀(灰色の曲線)は接触角が 90° を超えるため毛管降下(負の $h$)を示しており、ガラス管中で液面が下がる現象が数値的にも裏付けられます。水銀の毛管降下は水の毛管上昇に比べて小さいですが、これは水銀の高い密度が重力の効果を増大させるためです。
ヤング・ラプラスの式 — 液滴サイズと内部圧力
液滴半径を変えたときの内部超過圧力を計算し、微小液滴の高い内部圧力を確認します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 表面張力
sigma_water = 0.0728 # [N/m]
# 液滴半径 [μm]
R_um = np.linspace(0.1, 100, 500)
R = R_um * 1e-6 # [m]
# ヤング・ラプラスの式: Delta_p = 2*sigma/R
Delta_p = 2 * sigma_water / R # [Pa]
Delta_p_kPa = Delta_p * 1e-3 # [kPa]
fig, ax = plt.subplots(figsize=(9, 6))
ax.plot(R_um, Delta_p_kPa, color='#5c6bc0', linewidth=2.5)
ax.set_xlabel('Droplet radius R [μm]', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Internal overpressure Δp [kPa]', fontsize=13)
ax.set_title('Young-Laplace: Pressure inside a Water Droplet', fontsize=14)
ax.set_xscale('log')
ax.set_yscale('log')
ax.grid(True, alpha=0.3, which='both')
ax.set_xlim(0.1, 100)
# 代表的なスケールを注釈
annotations = [
(1.0, '1 μm (cloud droplet)'),
(10.0, '10 μm (fog droplet)'),
(50.0, '50 μm (drizzle)')
]
for r_val, label in annotations:
dp_val = 2 * sigma_water / (r_val * 1e-6) * 1e-3
ax.annotate(f'{label}\nΔp = {dp_val:.1f} kPa',
xy=(r_val, dp_val), xytext=(r_val * 3, dp_val * 2),
fontsize=9, arrowprops=dict(arrowstyle='->', color='gray'),
bbox=dict(boxstyle='round,pad=0.2', facecolor='lightyellow', alpha=0.8))
plt.tight_layout()
plt.savefig('young_laplace_droplet.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
# 数値出力
print("=== ヤング・ラプラスの式: 水滴の内部超過圧力 ===")
for R_val in [0.1, 1.0, 10.0, 100.0]:
dp = 2 * sigma_water / (R_val * 1e-6)
print(f" R = {R_val:6.1f} μm → Δp = {dp:.1f} Pa ({dp/1e3:.2f} kPa)")
対数スケールのグラフから、液滴の内部超過圧力が半径に反比例する関係(対数グラフ上で傾き $-1$ の直線)が明瞭に確認できます。半径 1 $\mu$m の雲粒では約 146 kPa(約 1.4 atm)もの超過圧力が生じますが、半径 100 $\mu$m の霧滴では約 1.5 kPa と 2 桁小さくなります。この結果は、微小スケールで表面張力がいかに強い影響を持つかを示しており、雲物理学における核形成理論やインクジェット技術における液滴サイズ制御にとって非常に重要な知見です。
蒸気圧の温度依存性
水の蒸気圧がアントワンの式に従って温度とともに急激に上昇する様子を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# アントワンの式のパラメータ(水, NIST推奨値, 圧力: mmHg, 温度: °C)
# log10(p_mmHg) = A - B/(C + T)
A_ant = 8.07131
B_ant = 1730.63
C_ant = 233.426
# 温度範囲 [°C]
T = np.linspace(0, 100, 300)
# 蒸気圧 [kPa]
p_v_mmHg = 10**(A_ant - B_ant / (C_ant + T))
p_v_kPa = p_v_mmHg * 0.133322 # mmHg → kPa
# 1 atm ライン
p_atm = 101.325 # [kPa]
fig, ax = plt.subplots(figsize=(9, 6))
ax.plot(T, p_v_kPa, color='#e53935', linewidth=2.5, label='Water vapor pressure')
ax.axhline(y=p_atm, color='#1565c0', linestyle='--', linewidth=1.5,
label=f'1 atm = {p_atm:.1f} kPa')
# 沸点の交点
T_boil = 100.0
ax.plot(T_boil, p_atm, 'ko', markersize=8, zorder=5)
ax.annotate('Boiling point (100°C)',
xy=(T_boil, p_atm), xytext=(60, 115),
fontsize=11, arrowprops=dict(arrowstyle='->', color='black'),
bbox=dict(boxstyle='round,pad=0.3', facecolor='lightyellow'))
# キャビテーション領域の説明
ax.fill_between(T[:100], 0, p_v_kPa[:100], alpha=0.1, color='red')
ax.annotate('Cavitation possible\n(if local p < p_v)',
xy=(20, 3), fontsize=10, color='#c62828',
bbox=dict(boxstyle='round,pad=0.3', facecolor='#ffebee'))
ax.set_xlabel('Temperature [°C]', fontsize=13)
ax.set_ylabel('Vapor pressure [kPa]', fontsize=13)
ax.set_title('Vapor Pressure of Water (Antoine Equation)', fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11, loc='upper left')
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0, 105)
ax.set_ylim(0, 130)
plt.tight_layout()
plt.savefig('vapor_pressure.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
# 数値出力
print("=== 水の蒸気圧 (アントワンの式) ===")
for t in [0, 20, 40, 60, 80, 100]:
pv = 10**(A_ant - B_ant / (C_ant + t)) * 0.133322
print(f" T = {t:3d}°C → p_v = {pv:8.2f} kPa")
グラフから、蒸気圧が温度に対して指数関数的に急増する様子が一目瞭然です。20°C での蒸気圧はわずか約 2.3 kPa ですが、100°C では大気圧(101.3 kPa)に達し、この点が沸点であることがグラフ上でも確認できます。赤い網掛け領域は、流れの局所圧力がその温度での蒸気圧を下回るとキャビテーションが発生しうる領域を概念的に示しています。たとえば 20°C の水でも、流れの局所圧力が 2.3 kPa 以下に低下すると蒸気泡が発生します。ポンプや水車の設計では、動作温度における蒸気圧を常に念頭に置き、局所圧力がこの閾値を下回らないように配慮する必要があることが、このグラフから実感できます。
まとめ
本記事では、流体力学の出発点となる流体の基本性質を包括的に解説しました。
- 流体の定義: せん断応力に対して連続的に変形し続ける物質が流体であり、固体との本質的な違いはせん断応力への応答にあります。
- 連続体仮定: 分子の離散性を無視し、物理量を連続関数として扱う仮定であり、クヌーセン数 $\text{Kn} < 0.01$ のとき妥当です。
- 粘性: ニュートンの粘性法則 $\tau = \mu \, dv_x/dy$ がせん断応力と速度勾配の線形関係を表し、粘性係数 $\mu$ と動粘度 $\nu = \mu/\rho$ を使い分けることが重要です。
- 非ニュートン流体: べき乗則モデルやビンガム塑性体など、応力とせん断速度が非線形な関係を示す流体が工業的に重要です。
- 圧縮性: 体積弾性率 $K$ が流体の圧縮されにくさを表し、マッハ数 $\text{Ma} = V/c$ が流れの圧縮性の重要度を判定します。$\text{Ma} < 0.3$ なら非圧縮で扱えます。
- 表面張力: 分子間力の不均衡により液面が面積を最小化しようとする力であり、ヤング・ラプラスの式 $\Delta p = 2\sigma/R$ が曲面での圧力差を与えます。
- 毛管現象: 表面張力と接触角により、細い管内の液面が上昇(または下降)する現象であり、$h = 2\sigma\cos\theta / (\rho g r)$ で定量化されます。
- 蒸気圧とキャビテーション: 局所圧力が蒸気圧以下に低下すると蒸気泡が発生・崩壊し、構造物を侵食する危険があります。
これらの性質は、流体力学のより高度なトピック — 静水力学における圧力分布、ナビエ・ストークス方程式の各項の物理的意味、レイノルズ数と流れの相似則 — を学ぶための不可欠な基盤となります。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 流体の性質(粘性・圧縮性・表面張力) — 密度・比重・粘性のさらなる詳細
- 静水力学(パスカルの原理とアルキメデスの原理) — 静止流体の圧力と浮力
- ナビエ・ストークス方程式 — 流体運動の支配方程式
- レイノルズ数と相似則 — 層流と乱流の判定