ボレル・カンテリの補題と応用 — 無限回起きるか有限回で終わるか

サイコロを無限回振り続けたとき、6の目は無限回出るでしょうか。当然「はい」と答えたくなりますが、それを厳密に証明できるでしょうか。一方、$n$ 回目の試行で6が出る確率が $1/n^2$ に減衰していく場合、6の目が出る回数は有限で終わるのでしょうか。

これらの問い——「ある事象が無限回起きるか、有限回で終わるか」——に一般的な判定基準を与えるのがボレル・カンテリの補題(Borel-Cantelli lemma)です。

ボレル・カンテリの補題は確率論の基礎定理の中でも特にエレガントなものの一つであり、2つのパートからなります。

  • 第1補題: 確率の和が有限なら、事象は有限回しか起きない(概確実に)
  • 第2補題: 事象が独立で確率の和が無限大なら、事象は無限回起きる(概確実に)

この補題を理解すると、以下のような応用が可能になります。

  • 概収束の証明: 大数の法則の証明で中心的な役割を果たす
  • 確率変数の収束の判定: 確率収束と概収束の関係を明らかにする
  • 乱数の性質の証明: 正規数の存在証明、ランダムウォークの再帰性など
  • 極値理論: 最大値の漸近的振る舞いの解析

本記事では、ボレル・カンテリの補題の両パートを直感的に理解し、厳密に証明します。さらに、具体例とPythonシミュレーションで補題の内容を確認します。

本記事の内容

  • 上極限集合(limsup)の定義と直感
  • 第1ボレル・カンテリ補題の証明
  • 第2ボレル・カンテリ補題の証明(独立性の役割)
  • 具体例による応用
  • Pythonによるシミュレーションと検証

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

上極限集合と下極限集合 — 「無限回起きる」「有限回しか起きない」の数学

上極限集合の定義

事象の列 $A_1, A_2, A_3, \dots$ に対して、上極限集合(limit superior, limsup)を次のように定義します。

$$ \begin{equation} \limsup_{n \to \infty} A_n = \bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{k=n}^{\infty} A_k \end{equation} $$

この集合は「$A_n$ が無限回起きる」事象を表します。記号 $\{A_n \text{ i.o.}\}$(infinitely often)とも書きます。

直感的な理解

上極限集合の定義は二重の集合演算で書かれるため、一見すると複雑に見えます。内側から順に意味を紐解いていきましょう。

内側の和集合: $B_n = \bigcup_{k=n}^{\infty} A_k$ は「$n$ 回目以降に $A_k$ が少なくとも1回起きる」事象です。$n$ を大きくすると「より遠い将来に少なくとも1回起きる」ことを要求するので、$B_1 \supseteq B_2 \supseteq B_3 \supseteq \cdots$ と単調減少します。

外側の共通部分: $\bigcap_{n=1}^{\infty} B_n$ は「すべての $n$ に対して、$n$ 回目以降に $A_k$ が少なくとも1回起きる」ことを意味します。これは「どんなに遠い将来から見ても、さらにその先で $A_k$ が起きる」ということであり、結局「$A_n$ が無限回起きる」ことと同値です。

身近な例で考えてみましょう。毎日天気を観測するとして、$A_n$ = 「$n$ 日目に雪が降る」とします。上極限集合 $\limsup A_n$ は「雪が無限回降る」事象です。$B_{100} = \bigcup_{k=100}^{\infty} A_k$ は「100日目以降に少なくとも1回雪が降る」であり、$\limsup A_n$ はこれがすべての $n$ で成り立つこと——つまり「いつから数えても、その後にまた雪が降る」= 「雪が無限回降る」ということです。

$$ \{\omega : \omega \in A_n \text{ for infinitely many } n\} = \limsup_{n \to \infty} A_n $$

下極限集合の定義

上極限集合とペアになるのが下極限集合(limit inferior, liminf)です。

$$ \begin{equation} \liminf_{n \to \infty} A_n = \bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty} A_k \end{equation} $$

$\liminf A_n$ は「$A_n$ がある番号以降ずっと起き続ける(有限個の例外を除いてすべて起きる)」事象です。上極限集合が「無限回起きる」であるのに対し、下極限集合は「いつかの時点からずっと起きる」を意味します。

上極限集合と下極限集合の関係

これら2つの集合の間には以下の包含関係が常に成り立ちます。

$$ \liminf_{n \to \infty} A_n \subseteq \limsup_{n \to \infty} A_n $$

これは直感的にも明らかです。「ある番号以降ずっと起き続ける」ならば、当然「無限回起きる」ことになります。しかし逆は成り立ちません。たとえば、偶数回目だけ事象が起きる場合、無限回は起きますが「ある番号以降ずっと」ではありません。

補集合との関係も重要です。

$$ \left(\limsup_{n \to \infty} A_n\right)^c = \liminf_{n \to \infty} A_n^c $$

すなわち、「$A_n$ が有限回しか起きない」ことと「$A_n^c$ がある番号以降ずっと起き続ける」ことは同値です。この関係は第2補題の証明で使います。

0-1法則との関連

ボレル・カンテリの補題は、$P(A_n \text{ i.o.})$ がゼロかイチかを判定する基準を与えるものです。実は、事象が独立な場合、上極限集合 $\limsup A_n$ はコルモゴロフの0-1法則における末尾事象(tail event)の一例です。末尾事象の確率は必ず0または1になるため、独立な場合に $P(A_n \text{ i.o.}) \in \{0, 1\}$ が成り立つのは自然なことです。ボレル・カンテリの補題は、確率の和の有限・無限によってゼロとイチのどちらになるかを具体的に判定します。

第1ボレル・カンテリ補題

主張

$A_1, A_2, A_3, \dots$ を確率空間 $(\Omega, \mathcal{F}, P)$ 上の事象の列とします。

$$ \begin{equation} \sum_{n=1}^{\infty} P(A_n) < \infty \quad \Longrightarrow \quad P(A_n \text{ i.o.}) = 0 \end{equation} $$

確率の和が収束するならば、無限回起きる確率はゼロです。独立性は仮定していないことに注意してください。

証明

$B_N = \bigcup_{n=N}^{\infty} A_n$ とおきます。劣加法性($P(\bigcup A_n) \leq \sum P(A_n)$)より、

$$ P(B_N) = P\left(\bigcup_{n=N}^{\infty} A_n\right) \leq \sum_{n=N}^{\infty} P(A_n) $$

$\sum_{n=1}^{\infty} P(A_n) < \infty$ なので、級数の剰余 $\sum_{n=N}^{\infty} P(A_n) \to 0$($N \to \infty$)です。

$\limsup A_n = \bigcap_{N=1}^{\infty} B_N$ であり、$B_1 \supseteq B_2 \supseteq \cdots$ と単調減少するので、確率の連続性により

$$ P(\limsup A_n) = \lim_{N \to \infty} P(B_N) \leq \lim_{N \to \infty} \sum_{n=N}^{\infty} P(A_n) = 0 $$

したがって $P(A_n \text{ i.o.}) = 0$。$\square$

直感的理解

確率の和が有限であるということは、$P(A_n)$ が十分速く0に近づくことを意味します。各事象の起きやすさが急速に減衰するので、「たまたま起きる」ことが積み重なっても、無限回に至ることはないのです。

この補題の強力さは独立性を仮定しない点にあります。事象同士がどのように依存していようと、確率の和が有限であれば「無限回起きる確率はゼロ」が保証されます。劣加法性(ブールの不等式)$P(\bigcup A_n) \leq \sum P(A_n)$ のみを使って証明できるため、独立性は不要なのです。

第1補題の逆は成り立たない

$\sum P(A_n) = \infty$ であっても、$P(A_n \text{ i.o.}) > 0$ とは限りません。たとえば、$A_n = A$(すべて同じ事象)で $0 < P(A) < 1$ のとき、$\sum P(A_n) = \infty$ ですが $P(A_n \text{ i.o.}) = P(A) < 1$ です。つまり、第1補題は $\sum P(A_n) < \infty \Rightarrow P(\text{i.o.}) = 0$ という一方向の含意であり、逆方向の十分条件を与えるには第2補題で独立性の仮定が必要になります。

次に、確率の和が発散する場合を扱う第2補題を見てみましょう。

第2ボレル・カンテリ補題

主張

$A_1, A_2, A_3, \dots$ が互いに独立な事象であるとき、

$$ \begin{equation} \sum_{n=1}^{\infty} P(A_n) = \infty \quad \Longrightarrow \quad P(A_n \text{ i.o.}) = 1 \end{equation} $$

確率の和が発散し、かつ事象が独立であれば、無限回起きる確率は1です。

証明

$P(A_n \text{ i.o.}) = 1$ を示すには、$P((A_n \text{ i.o.})^c) = 0$ を示します。

$$ (A_n \text{ i.o.})^c = \left(\bigcap_{N=1}^{\infty}\bigcup_{n=N}^{\infty} A_n\right)^c = \bigcup_{N=1}^{\infty}\bigcap_{n=N}^{\infty} A_n^c $$

任意の $N$ に対して $P\left(\bigcap_{n=N}^{M} A_n^c\right) = 0$ を示せば十分です。独立性より、

$$ P\left(\bigcap_{n=N}^{M} A_n^c\right) = \prod_{n=N}^{M} P(A_n^c) = \prod_{n=N}^{M} (1 – P(A_n)) $$

不等式 $1 – x \leq e^{-x}$($x \geq 0$)を使うと、

$$ \prod_{n=N}^{M} (1 – P(A_n)) \leq \prod_{n=N}^{M} e^{-P(A_n)} = \exp\left(-\sum_{n=N}^{M} P(A_n)\right) $$

$\sum_{n=1}^{\infty} P(A_n) = \infty$ より、$M \to \infty$ のとき $\sum_{n=N}^{M} P(A_n) \to \infty$。したがって、

$$ P\left(\bigcap_{n=N}^{\infty} A_n^c\right) = \lim_{M \to \infty} P\left(\bigcap_{n=N}^{M} A_n^c\right) = 0 $$

よって $P((A_n \text{ i.o.})^c) \leq \sum_{N=1}^{\infty} P\left(\bigcap_{n=N}^{\infty} A_n^c\right) = 0$。$\square$

証明の各ステップの直感

この証明を直感的に振り返りましょう。

  1. 目標の言い換え: 「無限回起きる」を直接示す代わりに、「有限回で終わる確率がゼロ」を示します。「有限回で終わる」とは「ある番号 $N$ 以降まったく起きない」ことであり、これは $\bigcup_N \bigcap_{n \geq N} A_n^c$ と書けます。

  2. 独立性の活用: $\bigcap_{n=N}^{M} A_n^c$ の確率を計算する際に、事象の独立性から確率の積に分解できます。独立でなければこの分解はできません。

  3. 指数関数の不等式: $1 – x \leq e^{-x}$ は基本的でありながら強力な不等式です。これにより、積を指数関数の和に変換でき、級数の発散条件を直接利用できます。

  4. 級数の発散の威力: $\sum P(A_n) = \infty$ は、どの番号 $N$ から始めても部分和が無限大に発散することを意味します。したがって $\exp(-\sum_{n=N}^{M} P(A_n)) \to 0$ がすべての $N$ について成り立ち、「$N$ 以降まったく起きない」確率がすべての $N$ でゼロになります。

独立性は本質的

第2補題で独立性の仮定を外すことはできません。以下にいくつかの反例を示します。

反例1(同一事象の繰り返し): $A_n = A$(すべて同じ事象)のとき、$P(A) > 0$ であれば $\sum P(A_n) = \infty$ ですが、$A_n$ が「無限回起きる」かどうかは $P(A) = 1$ かどうかで決まり、$0 < P(A) < 1$ の場合は $P(A_n \text{ i.o.}) = P(A) < 1$ となります。

反例2(完全従属事象): コインを1回だけ投げ、表が出れば $A_n$ が全部起き、裏が出れば $A_n$ が1つも起きないとします。$P(A_n) = 1/2$ なので $\sum P(A_n) = \infty$ ですが、$P(A_n \text{ i.o.}) = 1/2$ です。独立性がなければ、確率の和が発散しても $P(\text{i.o.}) = 1$ は保証されません。

ペアワイズ独立では不十分

注意すべきは、第2補題には相互独立性(mutual independence)が必要であり、ペアワイズ独立(pairwise independence)では不十分であるということです。ペアワイズ独立とは「任意の2つの事象が独立」であることですが、3つ以上の事象の同時確率については制約がありません。ペアワイズ独立のもとでは $\sum P(A_n) = \infty$ でも $P(A_n \text{ i.o.}) < 1$ となる例を構成できます。

具体例

例1: サイコロの6の目

公正なサイコロを独立に無限回振るとき、$A_n$ = 「$n$ 回目に6が出る」とすると $P(A_n) = 1/6$。

$\sum P(A_n) = \sum 1/6 = \infty$ であり、事象は独立なので、第2補題より

$$ P(\text{6が無限回出る}) = 1 $$

直感的に「当たり前」と感じる結果ですが、ボレル・カンテリの補題はこれを厳密に保証します。

例2: 確率が $1/n^2$ で減衰する事象

$P(A_n) = 1/n^2$ のとき、$\sum P(A_n) = \pi^2/6 < \infty$ なので、第1補題より

$$ P(A_n \text{ i.o.}) = 0 $$

独立性に関係なく、事象は有限回しか起きません。確率が $1/n^2$ のように急速に減衰する場合、事象がいつかは起きなくなることが保証されます。

例3: 確率が $1/n$ で減衰する事象

$P(A_n) = 1/n$ のとき、$\sum P(A_n) = \infty$(調和級数)です。

事象が独立であれば、第2補題より $P(A_n \text{ i.o.}) = 1$。しかし独立でなければ、この結論は保証されません。$1/n$ は $1/n^2$ よりもゆっくり減衰するため、独立な場合には事象が無限回起きるのです。

この例は、$p$-級数 $\sum 1/n^p$ の収束・発散の境界($p = 1$)が確率論でも本質的であることを示しています。

例4: 猿のタイプライター問題

「猿がランダムにタイプライターを叩き続ければ、いつかはシェイクスピアの全作品を打ち出す」という有名な思考実験も、ボレル・カンテリの補題で厳密に示せます。

キーボードに $m$ 個のキーがあり、長さ $L$ の特定の文字列(たとえば “HAMLET”、$L=6$)を考えます。$n$ 番目から始まる $L$ 文字が目的の文字列と一致する事象を $A_n$ とすると、$P(A_n) = 1/m^L$(等確率でキーを叩く場合)です。

$\sum_{n=1}^{\infty} P(A_n) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{m^L} = \infty$

ただし、$A_n$ と $A_{n+1}$ は文字の重なりがあるため正確には独立ではありません。しかし、$A_n$ と $A_{n+L}$ は重なりがないため独立です。部分列 $A_L, A_{2L}, A_{3L}, \dots$ をとると、これらは互いに独立であり、$\sum P(A_{kL}) = \infty$ です。第2補題より

$$ P(A_{kL} \text{ i.o.}) = 1 $$

つまり、猿は目的の文字列を概確実に(確率1で)無限回タイプします。

例5: ランダムウォークの再帰性

1次元の単純ランダムウォーク $S_n = X_1 + X_2 + \cdots + X_n$($X_i$ は $\pm 1$ を等確率でとる独立な確率変数)について、原点への再帰性を考えます。

$A_n$ = 「$S_{2n} = 0$」とすると、スターリングの公式を用いて

$$ P(S_{2n} = 0) = \binom{2n}{n} \left(\frac{1}{2}\right)^{2n} \sim \frac{1}{\sqrt{\pi n}} \quad (n \to \infty) $$

$\sum 1/\sqrt{n} = \infty$ なので $\sum P(A_n) = \infty$ です。ただし $A_n$ は独立ではないため、第2補題を直接適用することはできません。再帰性の証明には別のアプローチ(マルコフ連鎖の理論や特性関数法)が必要ですが、第1補題の対偶として「$\sum P(A_n) = \infty$ なので、$P(\text{i.o.}) = 0$ は起きない」ということはわかります。実際、1次元ランダムウォークは再帰的(確率1で原点に無限回戻る)であることが知られています。

Pythonによるシミュレーション

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

np.random.seed(42)

fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5.5))

N = 5000  # 試行回数
n_experiments = 1000

# --- (a) 第1補題: P(A_n) = 1/n^2 → 有限回 ---
ax = axes[0]
counts = []
for _ in range(n_experiments):
    probs = 1.0 / np.arange(1, N + 1)**2
    events = np.random.random(N) < probs
    counts.append(np.sum(events))

ax.hist(counts, bins=range(0, max(counts) + 2), density=True,
        alpha=0.7, color="steelblue", edgecolor="white")
ax.set_xlabel("Number of occurrences", fontsize=12)
ax.set_ylabel("Proportion", fontsize=12)
ax.set_title(r"$P(A_n) = 1/n^2$: finite occurrences (BC1)", fontsize=13)
ax.axvline(np.mean(counts), color="red", linewidth=2, linestyle="--",
           label=f"Mean = {np.mean(counts):.1f}")
ax.legend(fontsize=10)
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.text(0.6, 0.85, rf"$\sum P(A_n) = \pi^2/6 \approx {np.pi**2/6:.2f}$",
        transform=ax.transAxes, fontsize=12,
        bbox=dict(facecolor="wheat", alpha=0.5))

# --- (b) 第2補題: P(A_n) = 1/n → 無限回(独立) ---
ax = axes[1]
# N=5000での累積発生回数の推移
n_paths = 20
for _ in range(n_paths):
    probs = 1.0 / np.arange(1, N + 1)
    events = np.random.random(N) < probs
    cum_count = np.cumsum(events)
    ax.plot(range(1, N + 1), cum_count, linewidth=0.8, alpha=0.6)

# 理論的な期待累積回数: sum_{k=1}^{n} 1/k ≈ ln(n)
n_range = np.arange(1, N + 1)
expected = np.cumsum(1.0 / n_range)
ax.plot(n_range, expected, "r-", linewidth=2.5, label=r"$E[\mathrm{count}] \approx \ln n$")

ax.set_xlabel("n (trial number)", fontsize=12)
ax.set_ylabel("Cumulative occurrences", fontsize=12)
ax.set_title(r"$P(A_n) = 1/n$: infinite occurrences (BC2)", fontsize=13)
ax.legend(fontsize=10)
ax.grid(True, alpha=0.3)

plt.tight_layout()
plt.savefig("borel_cantelli.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()

このシミュレーション結果から、ボレル・カンテリの補題の2つのパートが明確に確認できます。

  1. 左図(第1補題): $P(A_n) = 1/n^2$ のとき、事象が起きる回数は有限で、ほとんどの実験で1〜3回程度です。確率の和 $\sum 1/n^2 = \pi^2/6 \approx 1.64$ が有限であり、平均的にも約1.6回しか起きません。これは第1補題の「有限回で終わる」という結論と整合しています

  2. 右図(第2補題): $P(A_n) = 1/n$ のとき、累積発生回数はすべてのパスで際限なく増加しています。期待累積回数(赤線)は $\sum_{k=1}^n 1/k \approx \ln n$ であり、$n \to \infty$ で発散します。どのパスを見ても発生回数が頭打ちにならない——これが「無限回起きる」ことの数値的な裏付けです

条件付きボレル・カンテリ補題

第2補題は独立性を仮定しますが、独立性がない場合にも適用できる一般化が存在します。これが条件付きボレル・カンテリ補題(conditional Borel-Cantelli lemma)です。

主張

$(\mathcal{F}_n)_{n \geq 0}$ をフィルトレーション(情報の流れを表す $\sigma$-加法族の増大列)とし、$A_n \in \mathcal{F}_n$ とします。

$$ \sum_{n=1}^{\infty} P(A_n \mid \mathcal{F}_{n-1}) = \infty \quad \text{a.s.} \quad \Longrightarrow \quad P(A_n \text{ i.o.}) = 1 $$

逆に、

$$ \sum_{n=1}^{\infty} P(A_n \mid \mathcal{F}_{n-1}) < \infty \quad \text{a.s.} \quad \Longrightarrow \quad P(A_n \text{ i.o.}) = 0 $$

意味と解釈

この補題は、独立性の代わりに条件付き確率を使います。事象 $A_n$ が過去の情報 $\mathcal{F}_{n-1}$ を条件とした確率で評価され、その条件付き確率の和が発散すれば無限回起きることが保証されます。

事象が独立な場合、$P(A_n \mid \mathcal{F}_{n-1}) = P(A_n)$ となるため、条件付き版は通常の第2補題を含む一般化になっています。

条件付きボレル・カンテリ補題は、マルチンゲール理論を用いて証明されます。$M_n = \sum_{k=1}^{n} (\mathbf{1}_{A_k} – P(A_k \mid \mathcal{F}_{k-1}))$ がマルチンゲールになることを利用し、マルチンゲール収束定理と組み合わせます。

概収束への応用

ボレル・カンテリの補題は、確率変数の収束の理論で中心的な役割を果たします。特に、確率収束から概収束を導く際の主要な道具です。

確率収束から概収束を導く条件

命題: 任意の $\epsilon > 0$ に対して

$$ \sum_{n=1}^{\infty} P(|X_n – X| > \epsilon) < \infty $$

ならば、$X_n \xrightarrow{\text{a.s.}} X$(概収束)。

証明: $A_n = \{|X_n – X| > \epsilon\}$ とおけば、第1補題より $P(A_n \text{ i.o.}) = 0$。すなわち、ほとんどすべての $\omega$ に対して、有限個の $n$ を除いて $|X_n(\omega) – X(\omega)| \leq \epsilon$ が成り立ちます。

ここで $\epsilon > 0$ は任意でしたが、可算個の $\epsilon$ で十分です。$\epsilon_m = 1/m$($m = 1, 2, 3, \dots$)とおくと、各 $m$ について

$$ P\left(\{|X_n – X| > 1/m\} \text{ i.o.}\right) = 0 $$

可算個の確率ゼロの事象の和集合も確率ゼロなので、

$$ P\left(\bigcup_{m=1}^{\infty} \{|X_n – X| > 1/m \text{ i.o.}\}\right) = 0 $$

この補集合の事象——「すべての $m$ に対して、十分大きい $n$ では $|X_n – X| \leq 1/m$」——は、まさに $X_n \to X$ の定義です。$\square$

大数の強法則への応用

この命題を使って大数の強法則を証明する流れを見てみましょう。$X_1, X_2, \dots$ がi.i.d.(独立同分布)で $E[X_1] = \mu$、$E[X_1^4] < \infty$ のとき、$\bar{X}_n = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i$ が $\mu$ に概収束することを示します。

ステップ1(4次モーメントによる評価): $Y_i = X_i – \mu$ とおくと $E[Y_i] = 0$ です。$\bar{Y}_n = \bar{X}_n – \mu$ として

$$ E[\bar{Y}_n^4] = E\left[\left(\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n Y_i\right)^4\right] $$

を展開します。$E[Y_i] = 0$ と独立性から、

$$ E[\bar{Y}_n^4] = \frac{1}{n^4}\left(nE[Y_1^4] + 3n(n-1)(E[Y_1^2])^2\right) $$

最高次の項は $3n(n-1)(E[Y_1^2])^2 / n^4 = O(1/n^2)$ なので、

$$ E[\bar{Y}_n^4] = O(1/n^2) $$

ステップ2(マルコフの不等式の適用): マルコフの不等式を4乗に適用すると

$$ P(|\bar{X}_n – \mu| > \epsilon) = P(|\bar{Y}_n|^4 > \epsilon^4) \leq \frac{E[\bar{Y}_n^4]}{\epsilon^4} = \frac{C}{\epsilon^4 n^2} $$

ステップ3(ボレル・カンテリの適用):

$$ \sum_{n=1}^{\infty} P(|\bar{X}_n – \mu| > \epsilon) \leq \sum_{n=1}^{\infty} \frac{C}{\epsilon^4 n^2} < \infty $$

$\sum 1/n^2$ は収束するので、第1補題より $P(|\bar{X}_n – \mu| > \epsilon \text{ i.o.}) = 0$。先の命題より $\bar{X}_n \to \mu$ a.s.。$\square$

この証明は4次モーメントの存在を仮定していますが、実際にはKolmogorovは2次モーメント(分散)の存在のみで大数の強法則を証明しました。その証明にもボレル・カンテリの補題が使われますが、より精巧な部分列の引数が必要です。

確率収束と概収束の関係の明確化

ボレル・カンテリの補題は「確率収束するが概収束しない」例の構成にも使えます。$\sum P(|X_n – X| > \epsilon) = \infty$ であっても第2補題が適用できなければ(独立でなければ)概収束するかもしれませんが、独立な場合は概収束しないことが保証されます。

逆に、確率収束する列 $(X_n)$ に対して、適切に部分列 $(X_{n_k})$ を選ぶと $\sum P(|X_{n_k} – X| > \epsilon) < \infty$ とできます。たとえば $P(|X_n - X| > \epsilon) \to 0$ ならば、$P(|X_{n_k} – X| > \epsilon) < 1/k^2$ となる $n_k$ を選べばよく、この部分列は概収束します。これが「確率収束する列には概収束する部分列が存在する」という定理の証明です。

まとめ

本記事では、ボレル・カンテリの補題の両パートを証明し、多様な応用例を示しました。ここで得られた知見を整理します。

基礎概念: * 上極限集合 $\limsup A_n = \bigcap_{n}\bigcup_{k \geq n} A_k$ は「$A_n$ が無限回起きる」事象を表す * 下極限集合 $\liminf A_n = \bigcup_{n}\bigcap_{k \geq n} A_k$ は「$A_n$ がある番号以降ずっと起きる」事象を表す * 常に $\liminf A_n \subseteq \limsup A_n$ が成り立つ

2つの補題: * 第1補題: $\sum P(A_n) < \infty$ ならば $P(A_n \text{ i.o.}) = 0$(独立性不要) * 第2補題: $A_n$ が独立で $\sum P(A_n) = \infty$ ならば $P(A_n \text{ i.o.}) = 1$ * 第2補題には相互独立性が本質的であり、ペアワイズ独立では不十分 * 条件付き版: 独立性を条件付き確率に置き換えた一般化が存在する

主な応用: * 概収束の証明: $\sum P(|X_n – X| > \epsilon) < \infty$ ならば $X_n \to X$ a.s. * 大数の強法則の証明(4次モーメント条件下) * 確率収束する列には概収束する部分列が存在することの証明 * 猿のタイプライター問題、ランダムウォークの再帰性などの具体的応用

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。