レーダー断面積(RCS: Radar Cross Section)は、目標物体がレーダー電波をどの程度反射するかを定量的に表す指標です。RCSはレーダーシステムの探知距離を左右する最も重要なパラメータの一つであり、ステルス技術の根幹をなす概念でもあります。
RCSは単位面積($\text{m}^2$)の次元を持ちますが、必ずしも目標の物理的な断面積とは一致しません。同じ大きさの物体でも、形状や材質、周波数、偏波、入射角によってRCSは大きく変化します。
本記事の内容
- RCSの厳密な定義と物理的意味
- 単純形状のRCS解析解の導出(球体、平板、コーナーリフレクタ)
- 周波数領域によるRCSの変化(レイリー・ミー・光学領域)
- RCSの統計モデル(Swerlingモデル I–IV)
- ステルス技術の基本原理
- Pythonによるシミュレーション
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
RCSの定義
厳密な定義
レーダー断面積 $\sigma$ は、以下のように定義されます。
$$ \boxed{\sigma = \lim_{R \to \infty} 4\pi R^2 \frac{|E_s|^2}{|E_i|^2}} $$
ここで、
- $R$ : レーダーから目標までの距離
- $E_i$ : 目標位置における入射電界の振幅
- $E_s$ : 目標から距離 $R$ における散乱電界の振幅
この定義の物理的意味を理解するために、各項を分解して考えましょう。
物理的意味
$4\pi R^2 |E_s|^2$ は、距離 $R$ における散乱電界のパワー密度に全球面の面積 $4\pi R^2$ を掛けたものです。これは、目標が散乱波を等方的に放射すると仮定した場合の「等価的な全散乱パワー」に比例する量です。
$|E_i|^2$ は入射波のパワー密度に比例します。
したがって、RCSは「入射パワー密度のうち、どれだけの面積分に相当する電力が等方散乱されたか」を表す等価的な面積です。大雑把に言うと、RCSが大きいほどレーダーによく映るということです。
dBsmでの表記
RCSは通常 $\text{dBsm}$(dB square meters)で表記されます。
$$ \sigma_{\text{dBsm}} = 10 \log_{10}\left(\frac{\sigma}{1\,\text{m}^2}\right) $$
例えば、$\sigma = 1\,\text{m}^2$ は $0\,\text{dBsm}$、$\sigma = 0.01\,\text{m}^2$ は $-20\,\text{dBsm}$ です。
典型的な目標のRCSの目安は以下の通りです。
| 目標 | RCS ($\text{m}^2$) | RCS (dBsm) |
|---|---|---|
| 昆虫 | $10^{-5}$ | $-50$ |
| 鳥 | $0.01$ | $-20$ |
| ステルス戦闘機 | $0.001$–$0.01$ | $-30$–$-20$ |
| 一般的な戦闘機 | $1$–$10$ | $0$–$10$ |
| 大型旅客機 | $10$–$100$ | $10$–$20$ |
| 大型船舶 | $10^3$–$10^5$ | $30$–$50$ |
単純形状のRCS
導電性球体のRCS
半径 $a$ の完全導体球のRCSを導出します。球は最も基本的な散乱体であり、RCSの理解の出発点です。
光学領域($a \gg \lambda$)において、球体のRCSは幾何光学近似により求められます。入射波が球面に当たると、その反射波は球の曲率に応じて広がりながら散乱されます。
球体の表面の微小面積 $dA$ に入射した電力 $S_i \, dA$ は、球面の曲率により $4\pi R^2$ の全球面に広がって散乱されます。球体の幾何学的断面積は $\pi a^2$ ですから、入射パワーは $S_i \pi a^2$ です。
この電力が等方的に散乱されると仮定し、RCSの定義に当てはめると、
$$ \begin{align} \sigma &= \lim_{R \to \infty} 4\pi R^2 \frac{S_s}{S_i} \end{align} $$
ここで、距離 $R$ における散乱パワー密度 $S_s$ は、
$$ S_s = \frac{S_i \pi a^2}{4\pi R^2} $$
代入すると、
$$ \sigma = 4\pi R^2 \cdot \frac{S_i \pi a^2}{4\pi R^2 S_i} = \pi a^2 $$
$$ \boxed{\sigma_{\text{sphere}} = \pi a^2} $$
光学領域における導電性球体のRCSは、幾何学的断面積 $\pi a^2$ に等しくなります。これは球が全方位からの入射に対して同じRCSを持つ(等方性)ことを意味します。この性質から、球体はRCSの校正に使われます。
平板のRCS
$a \times b$ の長方形完全導体平板に、法線方向から平面波が入射する場合のRCSを導出します。
平板上の電流分布は、物理光学近似(PO近似)により、入射波の磁界の2倍で近似されます。
$$ \bm{J}_s = 2\hat{n} \times \bm{H}_i $$
ここで、$\hat{n}$ は平板の法線方向単位ベクトルです。
この電流分布からの散乱電界を遠方界近似で計算し、RCSの定義に代入します。法線方向(後方散乱方向)では、平板上の全電流の寄与が同位相で加算されるため、
$$ |E_s| \propto \frac{A}{\lambda R}|E_i| $$
ここで、$A = ab$ は平板の面積です。
RCSの定義に代入すると、
$$ \begin{align} \sigma &= \lim_{R \to \infty} 4\pi R^2 \frac{|E_s|^2}{|E_i|^2} \\ &= 4\pi R^2 \cdot \frac{A^2}{\lambda^2 R^2} \\ &= \frac{4\pi A^2}{\lambda^2} \end{align} $$
$$ \boxed{\sigma_{\text{flat plate}} = \frac{4\pi A^2}{\lambda^2}} $$
平板の法線方向RCSは面積の2乗に比例し、波長の2乗に反比例します。例えば、$1\,\text{m} \times 1\,\text{m}$ の平板($A = 1\,\text{m}^2$)に $\lambda = 0.03\,\text{m}$(10GHz)の電波が入射する場合、
$$ \sigma = \frac{4\pi \times 1^2}{0.03^2} \approx 13{,}963\,\text{m}^2 \approx 41.4\,\text{dBsm} $$
平板は法線方向に対して非常に大きなRCSを示しますが、角度が少しでもずれるとRCSは急激に減少します。この性質がステルス設計の重要な指針になります。
コーナーリフレクタのRCS
三面コーナーリフレクタは、3枚の平面が互いに直交する構造です。入射波は3回の反射を経て、入射方向にほぼ平行に戻ります(再帰反射性)。
一辺 $a$ の正三面コーナーリフレクタのRCSは、物理光学近似により次のように導出されます。
コーナーリフレクタの再帰反射面積は、入射方向からの射影面積 $A_{\text{eff}}$ で決まります。3回の反射により、等価的に面積 $A_{\text{eff}}$ の平板が再帰反射を行うと見なせます。
正三面コーナーリフレクタの場合、対角線方向からの入射に対する等価平板面積は、
$$ A_{\text{eff}} = \frac{\sqrt{3}}{3} a^2 $$
これを平板のRCSの式に代入すると、
$$ \begin{align} \sigma &= \frac{4\pi A_{\text{eff}}^2}{\lambda^2} \\ &= \frac{4\pi}{3} \cdot \frac{a^4}{\lambda^2} \\ &= \frac{4\pi a^4}{3\lambda^2} \end{align} $$
$$ \boxed{\sigma_{\text{corner}} = \frac{4\pi a^4}{3\lambda^2}} $$
なお、軸方向(各面に対して $45°$)からの入射に対しては、
$$ \sigma_{\text{corner,max}} = \frac{12\pi a^4}{\lambda^2} $$
と表されることもあります(方向による違い)。コーナーリフレクタのRCSは $a^4 / \lambda^2$ に比例するため、サイズを少し変えるだけでRCSが大幅に変わります。この性質を利用して、レーダーの校正用リフレクタや航行安全用の反射器として使われます。
周波数領域によるRCSの変化
目標のサイズ $a$ と波長 $\lambda$ の比(電気的サイズ $ka = 2\pi a / \lambda$)によって、散乱のメカニズムは大きく異なり、3つの領域に分類されます。
レイリー領域($ka \ll 1$)
目標サイズが波長に比べて十分小さい領域です。この領域では、目標は入射波に対してほぼ一様な電界を受け、電気双極子として振る舞います。
球体のRCSはレイリー散乱の理論から次のように与えられます。
$$ \sigma_{\text{Rayleigh}} = \frac{9\pi^5 a^2}{4} \left(\frac{2a}{\lambda}\right)^4 \cdot \left|\frac{\epsilon_r – 1}{\epsilon_r + 2}\right|^2 $$
完全導体球($\epsilon_r \to \infty$)の場合、
$$ \sigma_{\text{Rayleigh}} = 9\pi a^2 (ka)^4 = \frac{9 \times 16 \pi^5 a^6}{\lambda^4} = \frac{144 \pi^5 a^6}{\lambda^4} $$
レイリー領域のRCSは $\lambda^{-4}$($f^4$)に比例して急激に増大します。これは、波長が短くなる(周波数が高くなる)ほど散乱が強くなることを意味します。
ミー領域($ka \sim 1$)
目標サイズと波長が同程度の領域です。この領域では、厳密な電磁波散乱理論(球体の場合はミー散乱理論)による解析が必要です。
RCSは周波数に対して複雑な振動を示し、共振ピークが現れます。これは、目標表面を伝搬するクリーピング波(creeping wave)が干渉するためです。
光学領域($ka \gg 1$)
目標サイズが波長に比べて十分大きい領域です。幾何光学近似や物理光学近似が適用できます。
球体のRCSは前述の通り $\sigma = \pi a^2$ に収束し、周波数にほとんど依存しなくなります。
Swerlingモデル
概要
実際のレーダー目標のRCSは、目標の向きや姿勢の変化により時間的に変動します。この変動を統計的にモデル化したのがSwerlingモデルです。Swerlingは1960年に4つのモデルを提唱しました。
分類
Swerlingモデルは、RCSの確率分布と変動の時間スケールの2つの軸で分類されます。
確率分布:
- 指数分布(Swerling I, II): 多数の散乱中心が等しい強度を持ち、独立な位相でランダムに散乱する場合に相当。複雑形状の目標(航空機など)のモデル。
- 4次カイ二乗分布(Swerling III, IV): 1つの支配的な散乱中心と多数の小散乱中心がある場合に相当。
変動の時間スケール:
- スキャン間変動(Swerling I, III): RCSはスキャン間で変動するが、1スキャン中は一定(slow fluctuation)
- パルス間変動(Swerling II, IV): RCSはパルスごとに独立に変動(fast fluctuation)
| モデル | 確率分布 | 変動スケール |
|---|---|---|
| Swerling I | 指数分布 | スキャン間 |
| Swerling II | 指数分布 | パルス間 |
| Swerling III | 4次カイ二乗分布 | スキャン間 |
| Swerling IV | 4次カイ二乗分布 | パルス間 |
確率密度関数
Swerling I / II(指数分布):
RCSの確率密度関数は、
$$ p(\sigma) = \frac{1}{\bar{\sigma}} \exp\left(-\frac{\sigma}{\bar{\sigma}}\right), \quad \sigma \geq 0 $$
ここで、$\bar{\sigma}$ は平均RCSです。
Swerling III / IV(4次カイ二乗分布、自由度4):
$$ p(\sigma) = \frac{4\sigma}{\bar{\sigma}^2} \exp\left(-\frac{2\sigma}{\bar{\sigma}}\right), \quad \sigma \geq 0 $$
Swerling III/IVモデルでは、確率密度関数がピークを持ち、RCSが極端に小さくなる確率がSwerling I/IIに比べて低くなります。これは支配的な散乱中心が存在するためです。
検出確率への影響
Swerlingモデルの違いは、レーダーの検出確率に大きな影響を与えます。一般に、
- Swerling I(指数分布・スキャン間変動)が最も検出が困難
- Swerling II(指数分布・パルス間変動)はパルス積分の効果で検出しやすい
- Swerling III/IV(4次カイ二乗分布)はRCSの変動が小さいため検出しやすい
ステルス技術の概要
RCS低減の原理
ステルス技術とは、目標のRCSを低減させることで、レーダーに対する探知距離を短縮する技術です。レーダー方程式から、探知距離 $R$ はRCSの4乗根に比例するため、
$$ R \propto \sigma^{1/4} $$
RCSを $1/100$($-20\,\text{dB}$)にすると、探知距離は $1/\sqrt[4]{100} \approx 1/3.16$ に短縮されます。
形状制御(シェーピング)
最も基本的なRCS低減手法は、目標の形状を工夫して入射レーダー波を送信方向以外に反射させることです。
- 直交面の除去: コーナーリフレクタのような直交する面の組み合わせを避ける
- 表面の傾斜: 平面をレーダー方向に正対させず、鋭角に傾斜させる
- エッジのアライメント: すべてのエッジを少数の方向に統一し、RCSのスパイクを限定的な角度に集中させる(B-2爆撃機のような全翼機形状)
電波吸収材(RAM: Radar Absorbing Material)
電波吸収材は、入射した電波のエネルギーを熱に変換することでRCSを低減する材料です。
代表的な電波吸収材:
- ソールズベリースクリーン: 波長の $\lambda/4$ 前方に抵抗シートを配置し、反射波を干渉的に打ち消す構造
- ダルレンバッハ層: 損失性誘電体層の裏面に導体板を配置する構造
- ジョーマン吸収体: 多層の抵抗カードと誘電体スペーサを交互に積層する広帯域吸収体
Pythonによるシミュレーション
球体のRCS(周波数依存性)
レイリー領域からミー領域、光学領域にわたる球体のRCSの周波数依存性をプロットします。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.special import spherical_jn, spherical_yn
def mie_rcs(a, wavelength, n_terms=50):
"""
完全導体球のミー散乱によるRCSを計算
a: 球の半径 [m]
wavelength: 波長 [m]
n_terms: 級数の項数
"""
k = 2 * np.pi / wavelength
ka = k * a
sigma = 0.0
for n in range(1, n_terms + 1):
# 球ベッセル関数と球ノイマン関数
jn = spherical_jn(n, ka)
yn = spherical_yn(n, ka)
# 球ベッセル関数の微分
jn_d = spherical_jn(n, ka, derivative=True)
yn_d = spherical_yn(n, ka, derivative=True)
# ミー係数 (完全導体球)
a_n = -jn / (jn + 1j * yn) # TEモード
b_n = -jn_d / (jn_d + 1j * yn_d) # TMモード
sigma += (2 * n + 1) * ((-1)**n) * (b_n - a_n)
rcs = (wavelength**2 / np.pi) * np.abs(sigma)**2
return rcs
# パラメータ
a = 0.1 # 球の半径 [m]
# 周波数範囲
ka_values = np.logspace(-1, 1.5, 500)
wavelengths = 2 * np.pi * a / ka_values
# RCS計算
rcs_values = np.array([mie_rcs(a, lam, n_terms=80) for lam in wavelengths])
rcs_norm = rcs_values / (np.pi * a**2) # πa^2 で正規化
# レイリー近似
rcs_rayleigh = 9 * (ka_values)**4 * (np.pi * a**2)
rcs_rayleigh_norm = rcs_rayleigh / (np.pi * a**2)
# プロット
plt.figure(figsize=(12, 7))
plt.loglog(ka_values, rcs_norm, 'b-', linewidth=2, label='Mie (Exact)')
plt.loglog(ka_values, rcs_rayleigh_norm, 'r--', linewidth=1.5,
label='Rayleigh approx.')
plt.axhline(y=1.0, color='g', linestyle=':', linewidth=1.5,
label=r'Optical limit ($\sigma = \pi a^2$)')
# 領域の注釈
plt.axvspan(0.1, 0.5, alpha=0.1, color='red', label='Rayleigh region')
plt.axvspan(0.5, 5, alpha=0.1, color='yellow', label='Mie region')
plt.axvspan(5, 32, alpha=0.1, color='green', label='Optical region')
plt.xlabel('$ka = 2\\pi a / \\lambda$', fontsize=14)
plt.ylabel('$\\sigma / \\pi a^2$', fontsize=14)
plt.title('RCS of Conducting Sphere vs Electrical Size', fontsize=14)
plt.grid(True, alpha=0.3, which='both')
plt.legend(fontsize=11)
plt.xlim([0.1, 32])
plt.ylim([1e-4, 10])
plt.tight_layout()
plt.show()
レイリー領域($ka \ll 1$)ではRCSが $(ka)^4$ に比例して急激に増大し、ミー領域($ka \sim 1$)では共振振動が見られ、光学領域($ka \gg 1$)では $\sigma \to \pi a^2$ に収束する様子が確認できます。
各種形状のRCS比較
球体、平板、コーナーリフレクタのRCSを代表的なサイズで比較します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 周波数範囲
freq = np.linspace(1e9, 20e9, 500) # 1 GHz ~ 20 GHz
c = 3e8
lam = c / freq
# 各形状のパラメータ
a_sphere = 0.5 # 球の半径 [m]
A_plate = 1.0 # 平板面積 [m^2] (1m x 1m)
a_corner = 0.3 # コーナーリフレクタの辺長 [m]
# RCS計算(光学領域の近似)
sigma_sphere = np.ones_like(freq) * np.pi * a_sphere**2
sigma_plate = 4 * np.pi * A_plate**2 / lam**2
sigma_corner = 4 * np.pi * a_corner**4 / (3 * lam**2)
# dBsm変換
sigma_sphere_dB = 10 * np.log10(sigma_sphere)
sigma_plate_dB = 10 * np.log10(sigma_plate)
sigma_corner_dB = 10 * np.log10(sigma_corner)
plt.figure(figsize=(12, 7))
plt.plot(freq / 1e9, sigma_sphere_dB, 'b-', linewidth=2,
label=f'Sphere (a={a_sphere}m)')
plt.plot(freq / 1e9, sigma_plate_dB, 'r-', linewidth=2,
label=f'Flat plate (A={A_plate}m²)')
plt.plot(freq / 1e9, sigma_corner_dB, 'g-', linewidth=2,
label=f'Corner reflector (a={a_corner}m)')
plt.xlabel('Frequency [GHz]', fontsize=13)
plt.ylabel('RCS [dBsm]', fontsize=13)
plt.title('RCS Comparison of Different Shapes', fontsize=14)
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.legend(fontsize=12)
plt.tight_layout()
plt.show()
平板とコーナーリフレクタのRCSは周波数の2乗に比例して増大しますが、球体のRCSは光学領域では周波数に依存せず一定です。
Swerlingモデルのシミュレーション
Swerling I/IIとSwerling III/IVの確率密度関数と、それに基づくRCS変動のモンテカルロシミュレーションを行います。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 平均RCS
sigma_bar = 1.0 # [m^2]
# Swerling I/II (指数分布)
sigma_range = np.linspace(0, 5 * sigma_bar, 1000)
pdf_sw12 = (1 / sigma_bar) * np.exp(-sigma_range / sigma_bar)
# Swerling III/IV (4次カイ二乗分布, 自由度4)
pdf_sw34 = (4 * sigma_range / sigma_bar**2) * np.exp(-2 * sigma_range / sigma_bar)
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5))
# 確率密度関数
axes[0].plot(sigma_range / sigma_bar, pdf_sw12 * sigma_bar, 'b-',
linewidth=2, label='Swerling I/II (Exponential)')
axes[0].plot(sigma_range / sigma_bar, pdf_sw34 * sigma_bar, 'r-',
linewidth=2, label='Swerling III/IV (Chi-sq, dof=4)')
axes[0].set_xlabel(r'$\sigma / \bar{\sigma}$', fontsize=13)
axes[0].set_ylabel('PDF', fontsize=13)
axes[0].set_title('RCS Probability Density Functions', fontsize=13)
axes[0].legend(fontsize=11)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim([0, 5])
# モンテカルロシミュレーション
N_samples = 200
# Swerling I (指数分布からのサンプル)
rcs_sw1 = np.random.exponential(sigma_bar, N_samples)
# Swerling III (4次カイ二乗: ガンマ分布 shape=2, scale=sigma_bar/2)
rcs_sw3 = np.random.gamma(2, sigma_bar / 2, N_samples)
scan_idx = np.arange(N_samples)
axes[1].plot(scan_idx, 10 * np.log10(rcs_sw1 + 1e-12), 'b-',
linewidth=0.8, alpha=0.7, label='Swerling I')
axes[1].plot(scan_idx, 10 * np.log10(rcs_sw3 + 1e-12), 'r-',
linewidth=0.8, alpha=0.7, label='Swerling III')
axes[1].axhline(y=10 * np.log10(sigma_bar), color='k', linestyle='--',
alpha=0.5, label=f'Mean RCS = {sigma_bar} m²')
axes[1].set_xlabel('Scan Number', fontsize=13)
axes[1].set_ylabel('RCS [dBsm]', fontsize=13)
axes[1].set_title('RCS Fluctuation (Monte Carlo)', fontsize=13)
axes[1].legend(fontsize=11)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_ylim([-30, 15])
plt.tight_layout()
plt.show()
# 統計量の表示
print("=== Swerling I (指数分布) ===")
print(f" 平均 RCS: {np.mean(rcs_sw1):.3f} m² (理論値: {sigma_bar})")
print(f" 標準偏差: {np.std(rcs_sw1):.3f} m² (理論値: {sigma_bar})")
print(f" 変動係数: {np.std(rcs_sw1)/np.mean(rcs_sw1):.3f} (理論値: 1.0)")
print("\n=== Swerling III (4次カイ二乗) ===")
print(f" 平均 RCS: {np.mean(rcs_sw3):.3f} m² (理論値: {sigma_bar})")
print(f" 標準偏差: {np.std(rcs_sw3):.3f} m² (理論値: {sigma_bar/np.sqrt(2):.3f})")
print(f" 変動係数: {np.std(rcs_sw3)/np.mean(rcs_sw3):.3f} (理論値: {1/np.sqrt(2):.3f})")
Swerling I/II(指数分布)ではRCSの変動が非常に大きく、平均値を大きく下回ることが頻繁に起こります。一方、Swerling III/IV(4次カイ二乗分布)では変動が比較的小さく、極端に小さなRCSになる確率が低いことが確認できます。
平板のRCS角度依存性
平板のRCSが入射角に対してどのように変化するかを可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# パラメータ
c = 3e8
freq = 10e9 # 10 GHz
lam = c / freq # 波長 [m]
k = 2 * np.pi / lam
a = 0.5 # 平板の幅 [m]
b = 0.5 # 平板の高さ [m]
# 入射角(法線方向 = 0°)
theta = np.linspace(-90, 90, 2000)
theta_rad = np.deg2rad(theta)
# 物理光学近似による平板のRCS角度依存性
# σ(θ) = (4π/λ²) * A² * sinc²(ka sinθ) * sinc²(kb sinθ2)
# 1次元の場合(x方向のみ): σ(θ) = (4πA²/λ²) * sinc²(ka sinθ)
u = k * a * np.sin(theta_rad)
# sinc関数: sin(u)/u
with np.errstate(divide='ignore', invalid='ignore'):
sinc_val = np.where(np.abs(u) < 1e-10, 1.0, np.sin(u) / u)
sigma = (4 * np.pi * (a * b)**2 / lam**2) * sinc_val**2
sigma_dBsm = 10 * np.log10(sigma + 1e-20)
# 法線方向のRCS
sigma_normal = 4 * np.pi * (a * b)**2 / lam**2
plt.figure(figsize=(12, 6))
plt.plot(theta, sigma_dBsm, 'b-', linewidth=1.5)
plt.axhline(y=10 * np.log10(sigma_normal), color='r', linestyle='--',
alpha=0.5, label=f'Normal incidence: {10*np.log10(sigma_normal):.1f} dBsm')
plt.xlabel('Incidence Angle [deg]', fontsize=13)
plt.ylabel('RCS [dBsm]', fontsize=13)
plt.title(f'Flat Plate RCS vs Angle ({a}m × {b}m, f={freq/1e9:.0f} GHz)',
fontsize=14)
plt.xlim([-90, 90])
plt.ylim([-40, 50])
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.legend(fontsize=12)
plt.tight_layout()
plt.show()
平板のRCSは法線方向で最大となり、角度がずれるとsinc関数に従って急激に減衰します。この特性がステルス設計における形状制御(シェーピング)の基本原理です。
まとめ
本記事では、レーダー断面積(RCS)の理論と計算について解説しました。
- RCSの定義 $\sigma = \lim_{R \to \infty} 4\pi R^2 |E_s|^2 / |E_i|^2$ は、目標の等価的な散乱面積を表す
- 光学領域における球体のRCSは $\pi a^2$、平板のRCSは $4\pi A^2/\lambda^2$、コーナーリフレクタのRCSは $4\pi a^4/(3\lambda^2)$ である
- 周波数に対してRCSはレイリー領域($\propto f^4$)、ミー領域(共振振動)、光学領域(収束)の3つの振る舞いを示す
- Swerlingモデル(I–IV)は、RCSの統計的変動を指数分布または4次カイ二乗分布で分類する
- ステルス技術は形状制御と電波吸収材によりRCSを低減し、探知距離を $\sigma^{1/4}$ に比例して短縮する
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。