水と蜂蜜を同じコップに注いでみてください。水はサッと流れ落ちますが、蜂蜜はゆっくりとトロリと糸を引きます。同じ「液体」なのに、なぜこれほど流れ方が違うのでしょうか。あるいは、ケチャップの瓶を振ると最初は出てこないのに、一度出始めると勢いよく流れる不思議を体験したことはないでしょうか。これらの日常的な疑問の背後には、流体の性質という物理的な概念が隠れています。
流体の性質を理解することは、単なる座学にとどまりません。たとえば、航空機の翼まわりの空気の流れを設計する際には粘性と圧縮性が決定的な役割を果たしますし、半導体製造のウェット工程では表面張力と毛管現象がナノスケールの液体挙動を支配します。さらに、血液のような生体流体の流動特性を正しく理解しなければ、人工心臓ポンプの設計はできません。インクジェットプリンタで微小な液滴を正確に飛ばす技術にも、粘性と表面張力のバランスが不可欠です。
このように、粘性、圧縮性、表面張力という流体の3つの基本性質は、工学のあらゆる場面で登場します。これらを体系的に学ぶことが、ナビエ・ストークス方程式やベルヌーイの定理といった流体力学の支配方程式を正しく扱うための出発点となります。
本記事の内容
- 流体の定義と固体との根本的な違い
- 密度・比重の基礎
- 粘性とニュートンの粘性法則(クレープ生地のアナロジー)
- 動粘度の意味とレイノルズ数への接続
- 非ニュートン流体(ケチャップ・コーンスターチの科学)
- 圧縮性とマッハ数による分類
- 表面張力と毛管現象のメカニズム
- Pythonによる粘性プロファイル・非ニュートン流体・温度依存性・毛管現象の可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
流体とは何か — 固体との根本的な違い
せん断応力に対する応答の違い
流体とは何か、を理解するには、まず固体との違いを明確にすることが近道です。テーブルの上に消しゴムを置いて、指で横方向に押してみましょう。消しゴムは少し変形しますが、指を離せば元の形に戻ります。つまり、固体はせん断応力に対して有限の変形で釣り合い、力を取り除けば復元します。
一方、同じテーブルの上に蜂蜜を垂らして指で横にこすると、蜂蜜はずっと変形し続けます。指を止めなければ流れは止まりません。これが流体の本質です。
流体(fluid)とは、せん断応力がどんなに小さくても連続的に変形し続ける物質のことです。固体が応力とひずみの関係で記述されるのに対し、流体は応力と変形速度(ひずみ速度) の関係で記述されます。この違いが、固体力学と流体力学を分ける最も根本的な分岐点です。
流体には液体(liquid)と気体(gas)が含まれます。液体は一定の体積を持ち自由表面を形成しますが、気体は容器全体に広がります。しかし力学的には、どちらも「せん断応力に対して連続的に変形する」という共通の性質を持つため、統一的に「流体」として扱うことができます。
連続体仮説
実際の流体は分子の集合体ですが、流体力学では通常、連続体仮説(continuum hypothesis)を採用します。これは、流体を「分子の集合」ではなく「連続的に分布する物質」として扱う近似です。日常的なスケール(ミリメートル以上)では、分子間の距離は観測スケールに比べて十分に小さいため、密度や速度を空間の各点で定義された連続的な場として扱えます。
この仮説が成り立つ条件は、流体分子の平均自由行程 $\lambda$ が系の特性長さ $L$ に比べて十分小さいことです。これを定量化したのがクヌッセン数 $\text{Kn} = \lambda / L$ であり、$\text{Kn} \ll 1$ であれば連続体仮説が有効です。標準大気圧の空気では $\lambda \approx 68 \, \text{nm}$ なので、通常の工学的問題では十分に連続体として扱えます。一方、高高度の希薄大気(宇宙往還機の再突入など)では $\text{Kn}$ が大きくなり、分子動力学的な取り扱いが必要になります。
流体の定義と連続体仮説が理解できたところで、次は流体を特徴づける最も基本的な物理量である密度について見ていきましょう。
密度と比重
密度 — 流体の「重さ」の指標
密度(density)$\rho$ は、単位体積あたりの質量です。
$$ \begin{equation} \rho = \frac{m}{V} \quad [\text{kg/m}^3] \end{equation} $$
日常的な感覚で言えば、「同じ体積でどれだけ重いか」を示す量です。バケツ一杯の水とバケツ一杯の水銀では、水銀のほうが約13.6倍重く感じます。これは水銀の密度が水の約13.6倍だからです。
代表的な流体の密度を以下に示します。
| 流体(20°C, 1 atm) | $\rho$ [kg/m³] |
|---|---|
| 空気 | $1.204$ |
| 水 | $998$ |
| 海水 | $1,025$ |
| 水銀 | $13,546$ |
| エタノール | $789$ |
密度は温度と圧力に依存します。一般に、液体の密度は温度上昇とともにわずかに減少し(水の場合4°Cで最大密度)、気体の密度は温度上昇で大きく減少します。この温度依存性が対流現象の原動力となり、静水力学から動的な流れの問題へとつながっていきます。
比重
比重(specific gravity)$SG$ は、ある流体の密度と基準物質(通常は4°Cの水、$\rho_{\text{water}} = 1000 \, \text{kg/m}^3$)の密度の比です。
$$ \begin{equation} SG = \frac{\rho}{\rho_{\text{water}}} \end{equation} $$
比重は無次元量であるため、単位系によらず使えるという利点があります。たとえば、オリーブ油の比重は約0.92なので、水に浮くことがすぐにわかります。
密度と比重は流体の質量に関する性質でした。しかし、流体の振る舞いを決定づけるのは質量だけではありません。冒頭で述べた「水と蜂蜜の流れ方の違い」を理解するために、次は流体の最も重要な性質である粘性について掘り下げていきます。
粘性 — 流体の「粘り」の正体
粘性の直感的理解
粘性とは、平たく言えば流体の「粘り気」のことです。しかし、物理的にはもう少し正確に捉える必要があります。
クレープ生地を鉄板の上に広げるときのことを想像してください。トンボ(T字型の棒)を動かすと、生地はトンボに引きずられて流れます。しかし、トンボから離れた部分の生地はあまり動きません。つまり、トンボに近い層の生地は速く動き、鉄板に近い層の生地はほとんど動かない — この速度の差が生じています。
このとき、速い層は遅い層を引きずろうとし、遅い層は速い層にブレーキをかけようとします。この「隣り合う流体層の間で速度差に抗って働く摩擦力」が粘性力です。粘性が大きい蜂蜜では、この層間の摩擦が大きいため、流れにくくなります。逆に、粘性が小さい水では、層間の摩擦が小さいため、スイスイと流れます。
分子論的に見ると、粘性のメカニズムは液体と気体で異なります。液体では分子間力(分子同士の引力)が主な原因です。温度が上がると分子の熱運動が活発になり分子間力の効果が相対的に弱まるため、液体の粘性は温度上昇とともに低下します。気体では分子同士の衝突による運動量交換が粘性の原因です。温度が上がると分子の運動速度が増し、層間の運動量交換が活発になるため、気体の粘性は温度上昇とともに増加します。この液体と気体で温度依存性が逆になるという事実は、粘性の物理的メカニズムの違いを如実に反映しています。
ニュートンの粘性法則
上述の直感を数式にしたのがニュートンの粘性法則です。
2枚の平行な板の間に流体を挟んだ状況を考えます。下の板を固定し、上の板を速度 $U$ で水平方向に動かすと、流体には板に平行な方向のせん断応力が生じます。十分に時間が経つと、流体内の速度分布は板の間で直線的になります(この流れをクエット流れと呼びます)。
このとき、板間の距離を $h$、板からの距離を $y$、その位置での流体速度を $u(y)$ とすると、ニュートンの粘性法則は次のように表されます。
$$ \begin{equation} \tau = \mu \frac{du}{dy} \end{equation} $$
ここで、各記号の意味は以下のとおりです。
- $\tau$ : せん断応力 [Pa] — 流体層間に作用する単位面積あたりの力
- $\mu$ : 粘度(動力学的粘性係数、dynamic viscosity)[Pa·s] — 流体固有の「粘り」の強さ
- $du/dy$ : 速度勾配(せん断速度、shear rate)[1/s] — 隣り合う層の速度差の大きさ
この式は、「せん断応力は速度勾配に比例し、その比例定数が粘度 $\mu$ である」ことを述べています。クレープ生地のアナロジーに戻ると、トンボを速く動かすほど($du/dy$ が大きいほど)生地に大きな力が必要で($\tau$ が大きい)、生地が硬いほど($\mu$ が大きいほど)同じ速度で動かすのに大きな力が要る、ということです。
ニュートンの粘性法則に従う流体をニュートン流体と呼びます。水、空気、油など、身の回りの多くの流体はニュートン流体として扱えます。
代表的な流体の粘度
以下の表に、代表的な流体の粘度(動力学的粘性係数)$\mu$ と動粘度 $\nu$(次節で解説)をまとめます。
| 流体(20°C) | $\mu$ [Pa·s] | $\nu$ [m²/s] |
|---|---|---|
| 空気 | $1.8 \times 10^{-5}$ | $1.5 \times 10^{-5}$ |
| 水 | $1.0 \times 10^{-3}$ | $1.0 \times 10^{-6}$ |
| オリーブ油 | $8.1 \times 10^{-2}$ | $9.0 \times 10^{-5}$ |
| グリセリン | $1.5$ | $1.2 \times 10^{-3}$ |
| ハチミツ | $\sim 10$ | $\sim 7 \times 10^{-3}$ |
この表を見ると、粘度のオーダーが流体によって6桁以上異なることがわかります。空気の粘度は $10^{-5}$ Pa·s のオーダーであるのに対し、ハチミツは $10$ Pa·s のオーダーです。この巨大な差が、私たちが日常的に感じる「サラサラ」から「ドロドロ」までの流れの違いを生み出しています。
温度と粘度の関係
先ほど述べたように、粘度の温度依存性は液体と気体で逆方向です。
液体の場合: 温度上昇にともない粘度が低下します。アンドレード(Andrade)の経験式として知られる次の関係が広く使われます。
$$ \begin{equation} \mu = A \exp\left(\frac{B}{T}\right) \end{equation} $$
ここで $A$, $B$ は流体固有の定数、$T$ は絶対温度 [K] です。指数関数的な依存性を持つため、温度変化による粘度変化は非常に大きくなります。たとえば、水の粘度は0°Cで約 $1.79 \times 10^{-3}$ Pa·s ですが、100°Cでは約 $0.28 \times 10^{-3}$ Pa·s まで低下します。お風呂のお湯がぬるい水より「サラッと」感じるのは、この温度依存性によるものです。
気体の場合: 温度上昇にともない粘度が増加します。サザランド(Sutherland)の式で近似されます。
$$ \begin{equation} \mu = \mu_0 \left(\frac{T}{T_0}\right)^{3/2} \frac{T_0 + S}{T + S} \end{equation} $$
ここで $\mu_0$ は基準温度 $T_0$ での粘度、$S$ はサザランド定数です。空気の場合、$S \approx 110.4$ K です。
粘度の温度依存性は工業的にも重要です。エンジンオイルは高温で粘度が下がりすぎると潤滑機能を失い、低温で粘度が上がりすぎるとエンジンの始動が困難になります。このため、粘度の温度依存性が小さい「マルチグレードオイル」が開発されています。
粘度 $\mu$ は流体そのものの粘性の強さを表す量でした。しかし、実際の流れの問題では、粘性力だけでなく慣性力(流体の質量に起因する力)とのバランスが重要になります。そこで登場するのが、粘度を密度で割った動粘度です。
動粘度 — なぜ密度で割るのか
動粘度の定義
動粘度(kinematic viscosity)$\nu$ は、粘度 $\mu$ を密度 $\rho$ で割った量です。
$$ \begin{equation} \nu = \frac{\mu}{\rho} \quad [\text{m}^2/\text{s}] \end{equation} $$
なぜわざわざ密度で割る必要があるのでしょうか。これを理解するには、流体中の運動方程式(ナビエ・ストークス方程式)を見るのが一番です。ナビエ・ストークス方程式の両辺を密度 $\rho$ で割ると、粘性項に現れるのは $\mu / \rho = \nu$ です。つまり、流体要素の加速度(単位質量あたりの力)に影響するのは粘度 $\mu$ そのものではなく、動粘度 $\nu$ なのです。
日常的なアナロジーで言えば、同じ「粘り」を持つ流体でも、軽い流体ほど粘性の影響を強く受けます。重い流体は慣性が大きいため、粘性力に負けにくいのです。動粘度はこの「慣性に対する粘性の効きやすさ」を一つの数値で表しています。
レイノルズ数への接続
動粘度が最も重要になるのは、レイノルズ数の定義においてです。
$$ \begin{equation} Re = \frac{UL}{\nu} = \frac{\rho U L}{\mu} \end{equation} $$
ここで $U$ は代表流速、$L$ は代表長さです。レイノルズ数は慣性力と粘性力の比を表す無次元数であり、流れが層流か乱流かを判別する最も基本的な指標です。
たとえば、円管内の流れでは $Re < 2300$ 程度で層流、$Re > 4000$ 程度で乱流となります。この判別は管内流れの設計において不可欠です。
ここで注目すべきは、「流速が同じでも、動粘度が小さい流体ほどレイノルズ数が大きくなる(乱流になりやすい)」という点です。空気と水を比べると、水の動粘度($\nu \approx 10^{-6}$ m²/s)は空気の動粘度($\nu \approx 1.5 \times 10^{-5}$ m²/s)の約15分の1です。したがって、同じ速度・同じ管径では、水のほうがレイノルズ数が大きくなり、乱流になりやすいことがわかります。
ここまで、ニュートン流体の粘性について詳しく見てきました。しかし、世の中にはニュートンの粘性法則に従わない流体も多く存在します。日常的に目にするケチャップや歯磨き粉がその代表例です。次節では、このような非ニュートン流体について見ていきましょう。
非ニュートン流体 — ケチャップとコーンスターチの科学
非ニュートン流体とは
ニュートンの粘性法則 $\tau = \mu (du/dy)$ では、せん断応力とせん断速度が線形(比例)の関係にあり、粘度 $\mu$ は一定でした。しかし、実際には粘度がせん断速度に依存する流体が数多く存在します。このような流体を総称して非ニュートン流体と呼びます。
非ニュートン流体の最も基本的なモデルは、べき乗則モデル(power-law model)です。
$$ \begin{equation} \tau = K \left(\frac{du}{dy}\right)^n \end{equation} $$
ここで $K$ は流動度指数(consistency index)、$n$ はべき乗指数(power-law index)です。この式では、見かけの粘度 $\mu_{\text{app}}$ がせん断速度 $\dot{\gamma} = du/dy$ に依存します。
見かけの粘度を求めるために、$\tau = \mu_{\text{app}} \dot{\gamma}$ と定義すると、
$$ K \dot{\gamma}^n = \mu_{\text{app}} \dot{\gamma} $$
両辺を $\dot{\gamma}$ で割ることで、
$$ \begin{equation} \mu_{\text{app}} = K \dot{\gamma}^{n-1} \end{equation} $$
となります。$n$ の値によって流体の挙動が大きく変わります。
べき乗指数による分類
$n = 1$ の場合(ニュートン流体): $\mu_{\text{app}} = K$ となり、粘度は一定です。水、空気、エンジンオイルなどが該当します。
$n < 1$ の場合(擬塑性流体 / shear-thinning): せん断速度が増加すると見かけの粘度が低下します。「かき混ぜるほどサラサラになる」流体です。代表例はケチャップ、マヨネーズ、血液、ペンキなどです。
ケチャップが瓶を振ると出やすくなるのは、まさにこのshear-thinning特性のおかげです。瓶を振る動作がケチャップにせん断を与え、粘度が下がって流れやすくなるのです。静置しているときは粘度が高いので、瓶をひっくり返しただけでは重力だけではなかなか出てきません。
$n > 1$ の場合(ダイラタント流体 / shear-thickening): せん断速度が増加すると見かけの粘度が上昇します。「かき混ぜるほどドロドロになる」流体です。代表例はコーンスターチ(片栗粉)水溶液です。
コーンスターチ水溶液をゆっくり指で押すと指が沈みますが、素早く叩くとまるで固体のように硬くなり、水面の上を走ることすらできます。これは、急速なせん断が粒子を密にパッキングさせ、粒子間の液体が排除されて粒子同士が直接接触することで、流動抵抗が急増するためです。
ビンガム流体
もう一つ重要な非ニュートン流体のモデルとして、ビンガム流体(Bingham fluid)があります。
$$ \begin{equation} \tau = \tau_0 + \mu_p \frac{du}{dy} \quad (\tau > \tau_0 \text{ のとき}) \end{equation} $$
ここで $\tau_0$ は降伏応力(yield stress)です。せん断応力が $\tau_0$ を超えなければ流体は流れず、固体のように振る舞います。$\tau_0$ を超えると、ニュートン流体的に流れ始めます。歯磨き粉やマーガリンがこの挙動を示します。チューブから歯磨き粉を絞り出すと流れますが、歯ブラシの上に乗せるとそのままの形を保つのは、降伏応力のおかげです。
非ニュートン流体の世界は多様で奥が深いですが、ここでは基本的な分類を押さえておけば十分です。次に、流体のもう一つの重要な性質である圧縮性について見ていきましょう。水や空気は圧縮できるのか、そしてそれが流れにどう影響するのかを考えます。
圧縮性 — 流体は縮むのか
圧縮性の直感的理解
自転車のタイヤに空気を入れるとき、ポンプを押すと空気は確かに縮みます。しかし、水鉄砲の水はいくら押しても縮みません(少なくとも日常的な力では)。この違いが圧縮性です。
圧縮性とは、圧力変化に対する体積(密度)変化の起こりやすさを表す性質です。気体は一般に圧縮性が大きく、液体は圧縮性がきわめて小さいのが特徴です。
体積弾性率
圧縮性を定量化するのが体積弾性率(bulk modulus)$K$ です。
$$ \begin{equation} K = -V\frac{dp}{dV} = \rho\frac{dp}{d\rho} \quad [\text{Pa}] \end{equation} $$
この式は、「微小な圧力変化 $dp$ に対して、体積がどれだけ変化するか」を表しています。$K$ が大きいほど、圧力をかけても体積が変化しにくい(つまり圧縮されにくい)ことを意味します。
ここで、2番目の等号の導出を補足します。質量保存 $m = \rho V = \text{const}$ を微分すると、
$$ d(\rho V) = \rho \, dV + V \, d\rho = 0 $$
この関係を整理すると $dV / V = -d\rho / \rho$ が得られるので、
$$ K = -V\frac{dp}{dV} = \rho \frac{dp}{d\rho} $$
と変形できます。
代表的な値を挙げると以下のとおりです。
- 水: $K \approx 2.2 \, \text{GPa} = 2.2 \times 10^9 \, \text{Pa}$
- 空気(等温過程): $K = p \approx 1 \, \text{atm} \approx 10^5 \, \text{Pa}$
水の体積弾性率は空気の約2万倍です。これは、水を1%体積変化させるのに約22 MPa(約220気圧)もの圧力が必要であることを意味します。日常的な条件下では、水はほぼ非圧縮性流体として扱えるのです。
音速と圧縮性
体積弾性率は音速 $c$ と密接に関係しています。流体中の音速は次式で与えられます。
$$ \begin{equation} c = \sqrt{\frac{K}{\rho}} \quad [\text{m/s}] \end{equation} $$
$K$ が大きく $\rho$ が小さいほど音速は速くなります。水中の音速は約 $1{,}500 \, \text{m/s}$、空気中の音速は約 $343 \, \text{m/s}$(20°Cにおいて)です。水中のほうが空気中より音速が速いのは、水のほうが圧倒的に体積弾性率が大きいためです。
マッハ数と非圧縮近似の条件
流れの圧縮性が重要かどうかを判定する指標がマッハ数 $Ma$ です。
$$ \begin{equation} Ma = \frac{v}{c} \end{equation} $$
$v$ は流速、$c$ は音速です。マッハ数は「流れの速度が音速に対してどれだけ速いか」を表します。
マッハ数の大きさに応じて、流れは以下のように分類されます。
| マッハ数 | 分類 | 密度変化 | 例 |
|---|---|---|---|
| $Ma < 0.3$ | 非圧縮性流れ | 密度変化5%未満 | 自動車周りの空気流 |
| $0.3 \le Ma < 0.8$ | 亜音速流れ | 圧縮性が無視できない | 旅客機の巡航 |
| $0.8 \le Ma < 1.2$ | 遷音速流れ | 局所的に衝撃波発生 | 戦闘機の加速 |
| $1.2 \le Ma < 5$ | 超音速流れ | 衝撃波が発生 | 超音速旅客機、弾丸 |
| $Ma \ge 5$ | 極超音速流れ | 空力加熱が支配的 | 大気圏再突入 |
重要なのは、$Ma < 0.3$ ならば密度変化は約5%以内に収まるため、流体を非圧縮として扱えるという事実です。空気の音速が約 $343 \, \text{m/s}$ なので、$Ma = 0.3$ は約 $103 \, \text{m/s}$(約370 km/h)に相当します。つまり、時速370 km以下の空気の流れであれば、空気であっても非圧縮として近似できます。自動車や建築物まわりの風の解析では、空気を非圧縮流体として扱うのが一般的です。
一方で、水の場合は音速が約 $1{,}500 \, \text{m/s}$ なので、$Ma = 0.3$ に達するには $450 \, \text{m/s}$ もの流速が必要です。通常の水流でこのような速度に達することはほぼないため、水は実質的に常に非圧縮として扱えます。
圧縮性は流れの速度域に応じて考慮の要否が変わるため、問題の設定に応じて適切なモデルを選択することが重要です。連続の方程式は圧縮性・非圧縮性の両方の形式があり、どちらを使うかはマッハ数で判断します。
さて、粘性と圧縮性という流体の2大性質を見てきました。最後に、液体に特有の性質である表面張力について解説します。なぜ水滴は球形になるのか、なぜ細い管を水が上っていくのか — これらの現象を理解する鍵が表面張力です。
表面張力 — 水滴が球になる理由
表面張力の直感的理解
コップに水を注ぐと、水面はわずかに盛り上がってコップの縁から少しだけはみ出しても、すぐにはこぼれません。また、小さな針を慎重に水面に置くと、針は水面に浮かびます(鉄は水より密度が大きいのに!)。雨上がりの蜘蛛の巣に光る水滴は、どれも綺麗な球形をしています。
これらの現象はすべて表面張力(surface tension)によるものです。液体の内部にいる分子は、周囲のすべての方向から他の分子に引かれるため、正味の力はゼロです。しかし、表面にいる分子は、液体側からは引かれますが、気体側(空気側)からはほとんど引かれません。そのため、表面の分子には液体の内部に向かう正味の力が作用します。この不均衡な力の結果として、液体の表面は面積をできるだけ小さくしようとします。球は、与えられた体積に対して表面積が最小となる形状です。だからこそ、小さな水滴は球形になるのです。
表面張力の定義
表面張力 $\sigma_s$ は、液体表面の単位長さあたりに表面に沿って働く力として定義されます。
$$ \begin{equation} \sigma_s \quad [\text{N/m}] \end{equation} $$
等価的に、$\sigma_s$ は表面の単位面積あたりの表面エネルギー [J/m²] とも解釈できます。表面を広げるにはエネルギーが必要であり、そのエネルギーの大きさが $\sigma_s$ で与えられます。
代表的な値は以下のとおりです。
| 液体(20°C) | $\sigma_s$ [N/m] |
|---|---|
| 水 | $0.0728$ |
| エタノール | $0.0223$ |
| 水銀 | $0.465$ |
| 石鹸水 | $\sim 0.025$ |
水の表面張力は比較的大きく、これは水分子間の水素結合が強いためです。石鹸(界面活性剤)を入れると表面張力が大幅に下がり、水が広がりやすくなります。洗濯で衣類の繊維に水が染み込みやすくなるのは、洗剤が表面張力を下げるからです。
球形液滴の内圧 — ヤング・ラプラスの式
表面張力は、曲がった液体表面の内側と外側で圧力差を生じさせます。半径 $R$ の球形液滴を考えると、内部の圧力 $p_{\text{in}}$ と外部の圧力 $p_{\text{out}}$ の差は次のヤング・ラプラスの式(Young-Laplace equation)で与えられます。
$$ \begin{equation} \Delta p = p_{\text{in}} – p_{\text{out}} = \frac{2\sigma_s}{R} \end{equation} $$
この式の導出を簡単に見てみましょう。球形液滴を赤道面で2つの半球に分け、上半球の力のバランスを考えます。
内部の圧力が赤道面の断面に作用する力は上向きに $\Delta p \cdot \pi R^2$ です。一方、赤道の周囲(長さ $2\pi R$)に沿って表面張力が下向きに作用し、その力は $\sigma_s \cdot 2\pi R$ です。これらが釣り合うので、
$$ \Delta p \cdot \pi R^2 = \sigma_s \cdot 2\pi R $$
$\pi R$ で両辺を割ると、
$$ \Delta p = \frac{2\sigma_s}{R} $$
が得られます。この式から、液滴が小さい($R$ が小さい)ほど内部圧力が高くなることがわかります。シャボン玉で言えば、小さなシャボン玉ほど内部の空気圧が高く、大きなシャボン玉と小さなシャボン玉を管でつなぐと、小さいほうの空気が大きいほうに流れ込みます。
毛管現象
毛管現象(capillarity)は、表面張力が生み出す最も身近な現象の一つです。細いガラス管を水に浸すと、管の中の水面が外の水面より高くなります。逆に、水銀の場合は管の中の水面が下がります。
この現象を理解するには、接触角 $\theta$(contact angle)が重要です。接触角とは、固体表面上の液滴が液体-気体界面と固体表面とのなす角度です。$\theta < 90°$ の場合は「濡れやすい」(親水性)、$\theta > 90°$ の場合は「濡れにくい」(疎水性)です。
- 水-ガラス: $\theta \approx 0°$(非常に濡れやすい)
- 水-パラフィン: $\theta \approx 107°$(濡れにくい)
- 水銀-ガラス: $\theta \approx 140°$(非常に濡れにくい)
毛管管(半径 $r$)に液体が上昇(または下降)する高さ $h$ は、表面張力による上向きの力と液柱の重さの力の釣り合いから求められます。
管の内壁に沿って上向きに働く表面張力の鉛直成分は $\sigma_s \cos\theta$ であり、これが管の周長 $2\pi r$ に沿って作用するので、合力は $2\pi r \sigma_s \cos\theta$ です。一方、高さ $h$ の液柱の重さは $\rho g \pi r^2 h$ です。これらが釣り合うとして、
$$ 2\pi r \sigma_s \cos\theta = \rho g \pi r^2 h $$
両辺を $\pi r$ で割り、$h$ について解くと、
$$ \begin{equation} h = \frac{2\sigma_s \cos\theta}{\rho g r} \end{equation} $$
が得られます。
この式から重要な性質が読み取れます。
- 管が細い($r$ が小さい)ほど、液面は高く上昇する: $h$ は $r$ に反比例します。直径0.1 mmのガラス管に水を入れると、約30 cmも上昇します。
- $\cos\theta > 0$($\theta < 90°$)なら上昇、$\cos\theta < 0$($\theta > 90°$)なら下降: 水-ガラスでは液面が上昇し、水銀-ガラスでは液面が下降します。
- 表面張力 $\sigma_s$ が大きいほど、上昇高さが大きい: 水銀は表面張力が大きいですが、接触角が $90°$ を超えるため液面は下降します。
毛管現象は植物が根から水を吸い上げるメカニズムの一部(浸透圧と蒸散も寄与)であり、インクジェットプリンタのインク供給、土壌中の水の移動、建築物の基礎の防湿設計など、多くの場面で重要な役割を果たしています。
表面張力と毛管現象の理論を一通り見てきましたので、次はここまでの内容をPythonで可視化し、理論の理解を深めましょう。
Pythonによる可視化
ここでは、流体の性質に関する4つのテーマをPythonで可視化します。理論で学んだことを「目で見て」確認することで、理解を定着させるのが目的です。
1. ニュートン流体と非ニュートン流体の応力-ひずみ速度関係
まず、べき乗則モデルに基づいて、ニュートン流体・擬塑性流体・ダイラタント流体のせん断応力-せん断速度関係を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# せん断速度の範囲を設定
shear_rate = np.linspace(0, 10, 300)
# べき乗則モデル: τ = K * (du/dy)^n
K = 1.0 # 流動度指数
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5))
# (a) せん断応力 vs せん断速度
fluid_types = [
(1.0, "Newtonian (n=1.0)", "black"),
(0.3, "Shear-thinning (n=0.3)", "blue"),
(0.5, "Shear-thinning (n=0.5)", "deepskyblue"),
(1.5, "Shear-thickening (n=1.5)", "red"),
(2.0, "Shear-thickening (n=2.0)", "darkred"),
]
for n, label, color in fluid_types:
tau = K * shear_rate**n
axes[0].plot(shear_rate, tau, linewidth=2, label=label, color=color)
axes[0].set_xlabel(r"Shear rate $\dot{\gamma}$ [1/s]", fontsize=13)
axes[0].set_ylabel(r"Shear stress $\tau$ [Pa]", fontsize=13)
axes[0].set_title("Shear stress vs Shear rate", fontsize=14)
axes[0].legend(fontsize=10)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim(0, 10)
axes[0].set_ylim(0, 15)
# (b) 見かけの粘度 vs せん断速度
shear_rate_pos = np.linspace(0.1, 10, 300) # ゼロ除算回避
for n, label, color in fluid_types:
mu_app = K * shear_rate_pos**(n - 1)
axes[1].plot(shear_rate_pos, mu_app, linewidth=2, label=label, color=color)
axes[1].set_xlabel(r"Shear rate $\dot{\gamma}$ [1/s]", fontsize=13)
axes[1].set_ylabel(r"Apparent viscosity $\mu_{\rm app}$ [Pa·s]", fontsize=13)
axes[1].set_title("Apparent viscosity vs Shear rate", fontsize=14)
axes[1].legend(fontsize=10)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_xlim(0, 10)
axes[1].set_ylim(0, 5)
plt.tight_layout()
plt.savefig("newtonian_vs_non_newtonian.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
左図(せん断応力 vs せん断速度)を見ると、ニュートン流体($n=1$)では応力がせん断速度に対して直線的に増加しているのに対し、擬塑性流体($n<1$)では上に凸のカーブ、ダイラタント流体($n>1$)では下に凸のカーブを描いています。ケチャップのような擬塑性流体は、力を加え始めると急速に応力が立ち上がりますが、さらに力を加えても応力の増加は緩やかです。つまり、一度流れ始めると少ない力で大きな変形が得られるのです。
右図(見かけの粘度 vs せん断速度)はさらに直感的です。擬塑性流体の見かけの粘度は、せん断速度の増加とともに減少していきます。これがケチャップを瓶から出すときに「最初は硬いが、振ると柔らかくなる」現象の正体です。一方、ダイラタント流体では逆に、せん断速度が増すほど粘度が上昇します。コーンスターチ水溶液を素早く叩くと硬くなる理由がここにあります。
2. 温度と粘度の関係
次に、液体(水)と気体(空気)の粘度の温度依存性を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 温度範囲
T_celsius = np.linspace(0, 100, 300)
T_kelvin = T_celsius + 273.15
# 水の粘度(アンドレードの近似式)
# μ = A * exp(B/T) A, B は経験定数
A_water = 2.414e-5 # Pa·s
B_water = 247.8 # K
C_water = 140.0 # K
mu_water = A_water * 10**(B_water / (T_kelvin - C_water))
# 空気の粘度(サザランドの式)
# μ = μ0 * (T/T0)^(3/2) * (T0 + S) / (T + S)
mu0_air = 1.716e-5 # Pa·s (T0 = 273.15 K)
T0_air = 273.15 # K
S_air = 110.4 # K (サザランド定数)
mu_air = mu0_air * (T_kelvin / T0_air)**1.5 * (T0_air + S_air) / (T_kelvin + S_air)
fig, ax1 = plt.subplots(figsize=(10, 6))
# 水の粘度(左軸)
color_water = "blue"
ax1.plot(T_celsius, mu_water * 1e3, color=color_water, linewidth=2.5, label="Water")
ax1.set_xlabel("Temperature [°C]", fontsize=13)
ax1.set_ylabel(r"Viscosity of water $\mu$ [mPa·s]", fontsize=13, color=color_water)
ax1.tick_params(axis="y", labelcolor=color_water)
ax1.set_xlim(0, 100)
# 空気の粘度(右軸)
ax2 = ax1.twinx()
color_air = "red"
ax2.plot(T_celsius, mu_air * 1e5, color=color_air, linewidth=2.5, linestyle="--", label="Air")
ax2.set_ylabel(r"Viscosity of air $\mu$ [$\times 10^{-5}$ Pa·s]", fontsize=13, color=color_air)
ax2.tick_params(axis="y", labelcolor=color_air)
# 凡例を統合
lines1, labels1 = ax1.get_legend_handles_labels()
lines2, labels2 = ax2.get_legend_handles_labels()
ax1.legend(lines1 + lines2, labels1 + labels2, fontsize=12, loc="center right")
ax1.set_title("Temperature dependence of viscosity", fontsize=14)
ax1.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig("viscosity_temperature.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
このグラフから、液体と気体の粘度の温度依存性が正反対であることが一目瞭然です。水(青実線、左軸)の粘度は0°Cの約1.79 mPa·s から100°Cの約0.28 mPa·s まで、実に6倍以上も低下しています。この急激な低下は、アンドレードの式が指数関数型であることに起因します。一方、空気(赤破線、右軸)の粘度は0°Cの約1.72 $\times 10^{-5}$ Pa·s から100°Cの約2.17 $\times 10^{-5}$ Pa·s へと、約26%増加しています。空気の粘度変化は水に比べると緩やかですが、高温のガスタービン内部の流れを解析する際には無視できません。
3. クエット流れの速度プロファイル
ニュートン流体と非ニュートン流体で、2枚の平行板間のクエット流れの速度プロファイルがどう変わるかを確認します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 正規化された板間距離
y = np.linspace(0, 1, 500)
U = 1.0 # 上板の速度
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 6))
profiles = [
(0.3, "Shear-thinning (n=0.3)", "blue"),
(0.5, "Shear-thinning (n=0.5)", "deepskyblue"),
(1.0, "Newtonian (n=1.0)", "black"),
(1.5, "Shear-thickening (n=1.5)", "orange"),
(2.0, "Shear-thickening (n=2.0)", "red"),
]
for n, label, color in profiles:
# べき乗則流体のクエット流れ速度分布
u = U * y**(1.0 / n)
ax.plot(u, y, linewidth=2, label=label, color=color)
ax.set_xlabel("Velocity u/U", fontsize=13)
ax.set_ylabel("Position y/h", fontsize=13)
ax.set_title("Couette flow velocity profiles for power-law fluids", fontsize=14)
ax.legend(fontsize=10, loc="upper left")
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0, 1)
ax.set_ylim(0, 1)
# 板の位置を示す
ax.axhline(y=0, color="gray", linewidth=3, label="_nolegend_")
ax.axhline(y=1, color="gray", linewidth=3, label="_nolegend_")
ax.text(0.5, -0.05, "Fixed plate", ha="center", fontsize=11, color="gray")
ax.text(0.5, 1.03, "Moving plate (U)", ha="center", fontsize=11, color="gray")
plt.tight_layout()
plt.savefig("couette_flow_profiles.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
このグラフは、べき乗指数 $n$ が速度プロファイルの形状に与える影響を明瞭に示しています。ニュートン流体($n=1$、黒線)では速度が板間距離に対して直線的に変化しており、速度勾配が板間で一様です。擬塑性流体($n<1$、青系の線)では速度プロファイルが膨らんだ形になり、固定板(下)付近で速度勾配が大きく、移動板(上)付近で速度勾配が小さくなっています。これは、板近傍のせん断速度が大きい領域で粘度が低下し、流体が「流れやすく」なっているためです。逆に、ダイラタント流体($n>1$、赤系の線)では速度プロファイルが凹んだ形になり、固定板付近の速度勾配が小さくなっています。
4. 毛管上昇の管径依存性
表面張力による毛管上昇高さが管径にどう依存するかを定量的に可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 物性値
sigma_s = 0.0728 # 表面張力 [N/m](水, 20°C)
rho = 998 # 密度 [kg/m³](水, 20°C)
g = 9.81 # 重力加速度 [m/s²]
# 管の半径範囲
r = np.linspace(0.05e-3, 5e-3, 500)
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 6))
# (a) 接触角による比較
contact_angles = [
(0, r"Water-Glass ($\theta = 0°$)", "blue"),
(30, r"$\theta = 30°$", "deepskyblue"),
(60, r"$\theta = 60°$", "green"),
(140, r"Mercury-Glass ($\theta = 140°$)", "red"),
]
for theta_deg, label, color in contact_angles:
theta_rad = np.radians(theta_deg)
h = 2 * sigma_s * np.cos(theta_rad) / (rho * g * r)
axes[0].plot(r * 1e3, h * 1e3, linewidth=2, label=label, color=color)
axes[0].axhline(y=0, color="gray", linewidth=0.8, linestyle="--")
axes[0].set_xlabel("Tube radius r [mm]", fontsize=13)
axes[0].set_ylabel("Capillary rise h [mm]", fontsize=13)
axes[0].set_title("Capillary rise vs Tube radius", fontsize=14)
axes[0].legend(fontsize=10)
axes[0].grid(True, alpha=0.3)
axes[0].set_xlim(0, 5)
# (b) 表面張力の値による比較(θ = 0°の場合)
liquids = [
(0.0728, 998, r"Water ($\sigma_s = 0.073$ N/m)", "blue"),
(0.0223, 789, r"Ethanol ($\sigma_s = 0.022$ N/m)", "green"),
(0.465, 13546, r"Mercury ($\sigma_s = 0.465$ N/m, $\theta=0°$)", "red"),
]
for sigma, rho_l, label, color in liquids:
h = 2 * sigma * np.cos(0) / (rho_l * g * r)
axes[1].plot(r * 1e3, h * 1e3, linewidth=2, label=label, color=color)
axes[1].set_xlabel("Tube radius r [mm]", fontsize=13)
axes[1].set_ylabel("Capillary rise h [mm]", fontsize=13)
axes[1].set_title("Capillary rise for different liquids (contact angle = 0°)", fontsize=14)
axes[1].legend(fontsize=10)
axes[1].grid(True, alpha=0.3)
axes[1].set_xlim(0, 5)
axes[1].set_ylim(0, 50)
plt.tight_layout()
plt.savefig("capillary_rise.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
左図(接触角による比較)を見ると、水-ガラス系($\theta = 0°$、青線)では管径が小さくなるほど毛管上昇高さが急激に増加し、管半径0.1 mmでは約150 mmも上昇することがわかります。理論式 $h \propto 1/r$ に従って、双曲線的に増大しています。接触角が大きくなるにつれて上昇高さは減少し、$\theta = 140°$(水銀-ガラス系を模擬、赤線)では $h$ が負の値をとり、これは液面が下降することを意味しています。
右図(液体による比較)では、同じ接触角($\theta = 0°$)でも液体の種類によって上昇高さが大きく異なることがわかります。水銀は表面張力が非常に大きいですが、密度が水の約13.6倍もあるため、毛管上昇高さは水と同程度($\theta = 0°$ と仮定した場合)にとどまります。式 $h = 2\sigma_s \cos\theta / (\rho g r)$ において、上昇高さは $\sigma_s / \rho$ に比例するため、表面張力と密度の比が重要であることが確認できます。
5. ビンガム流体のモデル
最後に、降伏応力を持つビンガム流体のせん断応力-せん断速度関係を可視化し、ニュートン流体やべき乗則流体と比較します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
shear_rate = np.linspace(0, 10, 300)
fig, ax = plt.subplots(figsize=(9, 6))
# ニュートン流体
mu_newton = 1.0
tau_newton = mu_newton * shear_rate
ax.plot(shear_rate, tau_newton, "k-", linewidth=2, label="Newtonian")
# 擬塑性流体 (n=0.5)
K, n = 2.0, 0.5
tau_shear_thin = K * shear_rate**n
ax.plot(shear_rate, tau_shear_thin, "b-", linewidth=2, label="Shear-thinning (n=0.5)")
# ダイラタント流体 (n=1.5)
K_d, n_d = 0.3, 1.5
tau_shear_thick = K_d * shear_rate**n_d
ax.plot(shear_rate, tau_shear_thick, "r-", linewidth=2, label="Shear-thickening (n=1.5)")
# ビンガム流体
tau_0 = 2.0 # 降伏応力 [Pa]
mu_p = 0.8 # 塑性粘度 [Pa·s]
tau_bingham = np.where(shear_rate > 0, tau_0 + mu_p * shear_rate, 0)
ax.plot(shear_rate, tau_bingham, "g-", linewidth=2, label=f"Bingham ($\\tau_0 = {tau_0}$ Pa)")
# 降伏応力の位置を示す
ax.axhline(y=tau_0, color="green", linewidth=0.8, linestyle=":")
ax.annotate(r"Yield stress $\tau_0$", xy=(0.3, tau_0),
xytext=(1.5, tau_0 + 1.5), fontsize=11, color="green",
arrowprops=dict(arrowstyle="->", color="green"))
ax.set_xlabel(r"Shear rate $\dot{\gamma}$ [1/s]", fontsize=13)
ax.set_ylabel(r"Shear stress $\tau$ [Pa]", fontsize=13)
ax.set_title("Rheological models comparison", fontsize=14)
ax.legend(fontsize=11)
ax.grid(True, alpha=0.3)
ax.set_xlim(0, 10)
ax.set_ylim(0, 12)
plt.tight_layout()
plt.savefig("rheological_models.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
このグラフでは、4種類の流動モデルを一つの図にまとめて比較しています。ビンガム流体(緑線)の最も際立った特徴は、原点を通らず $\tau_0 = 2$ Pa のところからスタートしている点です。これは、せん断応力が $\tau_0$ 以下では流体がまったく流れない(固体のように振る舞う)ことを意味します。$\tau_0$ を超えると、直線的に(ニュートン流体的に)応力が増加します。歯磨き粉がチューブから出た後にブラシの上で形を保つのは、重力によるせん断応力が降伏応力 $\tau_0$ を超えないためです。
6. 粘度の温度依存性の詳細比較
水以外にも複数の液体について、粘度の温度依存性を比較します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 温度範囲
T_celsius = np.linspace(0, 100, 300)
T_kelvin = T_celsius + 273.15
# 各液体の粘度をアンドレードの近似式で計算
# μ = A * exp(B / T) [Pa·s]
liquids = {
"Water": {"A": 2.414e-5, "B": 247.8, "C": 140.0, "color": "blue"},
"Ethanol": {"A": 5.19e-5, "B": 222.0, "C": 128.0, "color": "green"},
"Glycerin": {"A": 1.0e-6, "B": 690.0, "C": 103.0, "color": "orange"},
"Olive oil": {"A": 3.0e-5, "B": 380.0, "C": 120.0, "color": "brown"},
}
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 7))
for name, props in liquids.items():
mu = props["A"] * 10**(props["B"] / (T_kelvin - props["C"]))
ax.semilogy(T_celsius, mu * 1e3, linewidth=2.5, label=name, color=props["color"])
ax.set_xlabel("Temperature [°C]", fontsize=13)
ax.set_ylabel(r"Viscosity $\mu$ [mPa·s]", fontsize=13)
ax.set_title("Temperature dependence of viscosity for various liquids", fontsize=14)
ax.legend(fontsize=12)
ax.grid(True, alpha=0.3, which="both")
ax.set_xlim(0, 100)
plt.tight_layout()
plt.savefig("viscosity_temperature_comparison.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()
このグラフでは、対数軸を用いることで広範な粘度範囲をカバーしています。グリセリン(橙線)の粘度は低温では水(青線)の千倍以上ですが、温度が上昇すると急激に低下し、100°C付近では差が大幅に縮まっていることがわかります。すべての液体で粘度は温度上昇とともに減少していますが、その減少率は液体によって大きく異なります。グリセリンやオリーブ油のように分子間相互作用が強い液体ほど、温度依存性が大きい傾向にあります。この性質はエンジンオイルの規格(SAE粘度等級)にも直結しており、高温でも適切な潤滑性を保つ油を選定する際に重要です。
各性質の相互関係と流体力学への接続
ここまで、粘性・圧縮性・表面張力という流体の3つの基本性質を個別に見てきましたが、実際の流体現象ではこれらが複合的に作用します。
たとえば、ナビエ・ストークス方程式は粘性を含む流体の運動方程式ですが、非圧縮の場合と圧縮性を考慮する場合で方程式の形が変わります。非圧縮ナビエ・ストークス方程式は、密度 $\rho$ を定数として扱い、連続の方程式が $\nabla \cdot \bm{u} = 0$ という簡潔な形になります。圧縮性を考慮する場合は、エネルギー方程式と状態方程式も連立する必要があります。
レイノルズ数は動粘度 $\nu$ を通じて粘性と密度の両方を反映し、流れの層流と乱流の遷移を支配します。また、ベルヌーイの定理は非粘性・非圧縮流体(理想流体)に対する定理ですが、実在の流体ではこの理想からのずれが粘性損失として現れます。
表面張力は、液滴・気泡・薄膜のようなスケールの小さい系で支配的になります。ボンド数(Bond number)$Bo = \rho g L^2 / \sigma_s$ は重力と表面張力の比を表す無次元数で、$Bo \ll 1$ の場合に表面張力が支配的になります。マイクロ流体デバイスや生体内の微小流路では、このスケール効果が特に重要です。
渦度と循環の概念も粘性と深く関係しています。粘性は渦度の拡散を引き起こし、渦が時間とともに広がって減衰するメカニズムを提供します。理想流体(非粘性流体)では渦の強さが保存されますが、実在の粘性流体では渦は必ず減衰します。
まとめ
本記事では、流体力学を学ぶうえで最も基礎的な「流体の性質」を体系的に解説しました。
-
流体の定義: 流体とは、どんなに小さなせん断応力に対しても連続的に変形し続ける物質です。固体が応力-ひずみの関係で記述されるのに対し、流体は応力-ひずみ速度の関係で記述されます。
-
粘性とニュートンの粘性法則: せん断応力 $\tau = \mu(du/dy)$ における粘度 $\mu$ が流体の「粘り」を定量的に表します。液体の粘度は温度上昇で低下し、気体の粘度は温度上昇で増加します。
-
動粘度: $\nu = \mu / \rho$ は「慣性に対する粘性の効きやすさ」を表し、レイノルズ数 $Re = UL / \nu$ を通じて流れの層流・乱流判定に使われます。
-
非ニュートン流体: べき乗則 $\tau = K \dot{\gamma}^n$ で記述され、$n < 1$ の擬塑性流体(ケチャップ)や $n > 1$ のダイラタント流体(コーンスターチ水溶液)、降伏応力を持つビンガム流体(歯磨き粉)があります。
-
圧縮性: マッハ数 $Ma < 0.3$ なら非圧縮近似が有効です。体積弾性率 $K$ は音速 $c = \sqrt{K/\rho}$ と直結しています。
-
表面張力: 液体表面の縮もうとする力であり、ヤング・ラプラスの式 $\Delta p = 2\sigma_s/R$ や毛管現象 $h = 2\sigma_s \cos\theta / (\rho g r)$ を支配します。
これらの基本性質の理解を踏まえて、次のステップとして以下の記事で流体力学の方程式体系に進むことをお勧めします。
- 連続の方程式 — 質量保存の法則を流体に適用する
- ベルヌーイの定理 — エネルギー保存から流れの関係式を導く
- ナビエ・ストークス方程式 — 粘性流体の運動方程式
- レイノルズ数 — 流れの相似則と層流・乱流の判別