流体の性質とは?粘性・圧縮性・表面張力をわかりやすく解説

はじめに

「流体力学」と聞くと、航空機の翼周りの気流や、パイプの中を流れる水を思い浮かべるかもしれません。流体力学は空力設計、配管工学、気象予測、さらには血流のシミュレーションまで、幅広い分野で活用されています。

この記事では、流体力学を学ぶうえでまず理解すべき 流体の基本的な性質 を取り上げます。密度、粘性、圧縮性、表面張力といった概念を、定義式と物理的意味を丁寧に説明しながら解説します。


前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

流体とは何か

固体との違い

物質は大きく 固体流体 に分類されます。固体は外力に対して一定の形状を保つのに対し、流体はせん断応力がかかると 連続的に変形 し続けるという特徴があります。

より厳密に述べると、固体にせん断応力 $\tau$ を加えるとある角度だけ変形して静止しますが、流体に $\tau$ を加えると変形が止まらず、応力が作用し続ける限り流れ続けます。この性質こそが流体を定義する本質です。

流体はさらに 液体気体 に分けられます。

液体 気体
分子間距離 小さい 大きい
圧縮性 小さい(ほぼ非圧縮) 大きい
自由表面 持つ 持たない(容器全体に広がる)

連続体仮説

実際の流体は分子の集合体ですが、流体力学では通常、流体を 連続的な媒質(連続体) として扱います。これを 連続体仮説(continuum hypothesis) と呼びます。

この仮説が成り立つ条件は、着目するスケール(長さ $L$)が分子の平均自由行程 $\lambda$ に比べて十分大きいことです。この比を クヌーセン数(Knudsen number) $\mathrm{Kn}$ で評価します。

$$ \mathrm{Kn} = \frac{\lambda}{L} $$

$\mathrm{Kn} \ll 1$(一般に $\mathrm{Kn} < 0.01$)であれば連続体仮説は妥当です。通常のエンジニアリング問題ではこの条件が満たされますが、宇宙空間の希薄気体やナノスケールの流れでは成り立たない場合があります。


密度と比重

密度

流体の 密度(density) $\rho$ は、単位体積あたりの質量として定義されます。

$$ \rho = \frac{m}{V} $$

記号 意味 SI単位
$\rho$ 密度 kg/m$^3$
$m$ 質量 kg
$V$ 体積 m$^3$

代表的な流体の密度を以下に示します(標準状態: 20 $^\circ$C, 1 atm)。

流体 密度 $\rho$ [kg/m$^3$]
998
海水 1025
空気 1.20
水銀 13,546

比重

比重(specific gravity) $s$ は、対象流体の密度と基準流体(液体の場合は 4 $^\circ$C の水 $\rho_w = 1000 \, \mathrm{kg/m^3}$)の密度との比です。

$$ s = \frac{\rho}{\rho_w} $$

比重は無次元量であり、水より重ければ $s > 1$、軽ければ $s < 1$ となります。


粘性(Viscosity)

ニュートンの粘性法則

粘性とは、流体の内部で隣接する流体層が異なる速度で動くときに生じる 抵抗力(内部摩擦) のことです。

2枚の平行平板の間に流体が挟まれ、上の板が速度 $U$ で動いているとします。板間距離を $h$ とすると、十分時間が経った後に流体内の速度分布は直線的(クエット流れ)になります。このとき、流体内部のせん断応力 $\tau$ は ニュートンの粘性法則 に従います。

$$ \tau = \mu \frac{du}{dy} $$

ここで各記号の意味は以下のとおりです。

記号 意味 SI単位
$\tau$ せん断応力 Pa
$\mu$ 粘性係数(動力学粘性率) Pa$\cdot$s
$du/dy$ 速度勾配(せん断速度) 1/s

直線的な速度分布の場合、速度勾配は一定であり次のように書けます。

$$ \frac{du}{dy} = \frac{U}{h} $$

したがって、

$$ \tau = \mu \frac{U}{h} $$

となります。粘性係数 $\mu$ が大きいほど同じ速度勾配に対して大きなせん断応力が生じます。つまり、$\mu$ は「流体の流れにくさ」を表す量です。

動粘性係数

粘性係数 $\mu$ を密度 $\rho$ で割った量を 動粘性係数(kinematic viscosity) $\nu$ と呼びます。

$$ \nu = \frac{\mu}{\rho} $$

記号 意味 SI単位
$\nu$ 動粘性係数 m$^2$/s

動粘性係数は、流体の運動を支配するナビエ-ストークス方程式において自然に現れる量であり、流体運動の解析で頻繁に使用されます。

代表的な流体の粘性係数と動粘性係数を以下に示します(20 $^\circ$C, 1 atm)。

流体 $\mu$ [Pa$\cdot$s] $\nu$ [m$^2$/s]
$1.00 \times 10^{-3}$ $1.00 \times 10^{-6}$
空気 $1.82 \times 10^{-5}$ $1.52 \times 10^{-5}$
グリセリン $1.5$ $1.19 \times 10^{-3}$
水銀 $1.56 \times 10^{-3}$ $1.15 \times 10^{-7}$

ニュートン流体と非ニュートン流体

ニュートン流体

せん断応力 $\tau$ と速度勾配 $du/dy$ が 線形関係(比例関係)にある流体を ニュートン流体(Newtonian fluid) と呼びます。

$$ \tau = \mu \frac{du}{dy} \quad (\mu = \text{const.}) $$

水、空気、油(低分子のもの)などはニュートン流体としてよく近似できます。

非ニュートン流体

一方、$\tau$ と $du/dy$ の関係が非線形である流体を 非ニュートン流体(non-Newtonian fluid) と呼びます。一般的なモデルとして べき乗則(power-law)モデル があります。

$$ \tau = K \left( \frac{du}{dy} \right)^n $$

ここで $K$ は整合性指数、$n$ は流動指数です。

$n$ の値 流体のタイプ
$n = 1$ ニュートン流体 水、空気
$n < 1$ 擬塑性流体(シアシニング) 血液、ペンキ
$n > 1$ ダイラタント流体(シアシックニング) 片栗粉水溶液

日常的な例として、ケチャップは振ると流れやすくなる擬塑性流体であり、片栗粉を水に溶かしたものは強く叩くと固くなるダイラタント流体です。


圧縮性と非圧縮性

体積弾性率

流体にかかる圧力が変化すると、体積が変化する場合があります。この「圧縮のしにくさ」を表す量が 体積弾性率(bulk modulus) $K$ です。

$$ K = -V \frac{dp}{dV} = \rho \frac{dp}{d\rho} $$

$K$ が大きいほど、圧力変化に対して体積変化が小さい(圧縮されにくい)ことを意味します。

水の体積弾性率は約 $2.2 \times 10^9 \, \mathrm{Pa}$(= 2.2 GPa)であり、通常の条件下では水はほぼ非圧縮性として扱えます。

マッハ数による分類

気体の流れでは、流速 $v$ と音速 $c$ の比である マッハ数(Mach number) $\mathrm{Ma}$ によって圧縮性の影響を分類します。

$$ \mathrm{Ma} = \frac{v}{c} $$

マッハ数の範囲 分類 圧縮性の扱い
$\mathrm{Ma} < 0.3$ 非圧縮性流れ 密度変化を無視
$0.3 \leq \mathrm{Ma} < 1.0$ 亜音速流れ 圧縮性の考慮が必要
$\mathrm{Ma} = 1.0$ 音速流れ(遷音速) 衝撃波の発生
$\mathrm{Ma} > 1.0$ 超音速流れ 衝撃波・膨張波
$\mathrm{Ma} > 5.0$ 極超音速流れ 空力加熱の影響大

$\mathrm{Ma} < 0.3$ の場合、密度変化は約 5% 以下であるため、非圧縮性流体として扱うことができます。日常的な速度の空気の流れ(風速 100 m/s 以下)は通常この範囲に収まります。

理想気体の音速は次のように与えられます。

$$ c = \sqrt{\gamma \frac{p}{\rho}} = \sqrt{\gamma R T} $$

ここで $\gamma$ は比熱比(空気では $\gamma \approx 1.4$)、$R$ は気体定数(空気では $R \approx 287 \, \mathrm{J/(kg \cdot K)}$)、$T$ は絶対温度 [K] です。

20 $^\circ$C の空気の音速は、

$$ c = \sqrt{1.4 \times 287 \times 293} \approx 343 \, \mathrm{m/s} $$

です。


表面張力とラプラス圧

表面張力

液体の表面(液体-気体の界面)では、分子が液体内部に引き込まれる力が働くため、表面を最小にしようとする力が生じます。これが 表面張力(surface tension) $\sigma_s$ です。

表面張力の単位は N/m であり、単位長さあたりの力として定義されます。

液体 表面張力 $\sigma_s$ [N/m](20 $^\circ$C)
0.0728
エタノール 0.0223
水銀 0.465

ラプラス圧

曲面をもつ液体表面では、表面張力により界面の内側と外側で圧力差が生じます。これを ラプラス圧(Laplace pressure) $\Delta p$ と呼びます。

一般的な曲面に対するラプラス圧の式は次のとおりです。

$$ \Delta p = \sigma_s \left( \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} \right) $$

ここで $R_1$, $R_2$ は曲面の2つの主曲率半径です。

球形の液滴(半径 $R$)の場合は $R_1 = R_2 = R$ であるため、

$$ \Delta p = \frac{2 \sigma_s}{R} $$

となります。この式から、液滴が小さい($R$ が小さい)ほど内部の圧力が高くなることがわかります。

例: 水滴のラプラス圧

半径 $R = 1 \, \mu\mathrm{m} = 1 \times 10^{-6} \, \mathrm{m}$ の水滴について計算してみましょう。

$$ \Delta p = \frac{2 \times 0.0728}{1 \times 10^{-6}} = 1.456 \times 10^{5} \, \mathrm{Pa} \approx 1.44 \, \mathrm{atm} $$

わずか半径 1 $\mu$m の水滴でも、内部の圧力は外部よりも約 1.44 気圧高くなります。


Python で流体の粘性を温度の関数として可視化

粘性係数は温度に強く依存します。一般に 液体 の粘性係数は温度上昇に伴い 減少 し、気体 の粘性係数は温度上昇に伴い 増加 します。

以下の Python コードでは、水・空気・エンジンオイル(SAE 30 相当)の粘性係数を温度の関数としてプロットします。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# --- 温度範囲 [°C] ---
T_celsius = np.linspace(0, 100, 200)
T_kelvin = T_celsius + 273.15

# ===========================================================
# (1) 水の動粘性係数 [m^2/s]
#     Vogel-Fulcher-Tammann (VFT) 型の経験式で近似
#     mu [Pa·s] を近似し、密度で割って動粘性係数を得る
# ===========================================================
# 水の粘性係数 (Vogel 式の近似パラメータ)
A_water = 2.414e-5   # [Pa·s]
B_water = 247.8       # [K]
C_water = 140.0       # [K]
mu_water = A_water * 10 ** (B_water / (T_kelvin - C_water))  # [Pa·s]

# ===========================================================
# (2) 空気の粘性係数 [Pa·s]
#     サザランドの式 (Sutherland's formula)
# ===========================================================
mu0_air = 1.716e-5    # 基準粘性係数 [Pa·s] at T0
T0_air = 273.15       # 基準温度 [K]
S_air = 110.4         # サザランド定数 [K]
mu_air = mu0_air * (T_kelvin / T0_air) ** 1.5 * (T0_air + S_air) / (T_kelvin + S_air)

# ===========================================================
# (3) エンジンオイル (SAE 30 相当) の粘性係数 [Pa·s]
#     指数関数的な温度依存性を近似
# ===========================================================
# Andrade 式: mu = A * exp(B / T)
A_oil = 3.0e-6        # [Pa·s]
B_oil = 3500.0         # [K]
mu_oil = A_oil * np.exp(B_oil / T_kelvin)

# --- 描画 ---
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 6))

# 左: 水とエンジンオイル(液体)--- 対数スケール
ax1 = axes[0]
ax1.semilogy(T_celsius, mu_water * 1e3, color="royalblue", linewidth=2,
             label="水 (Water)")
ax1.semilogy(T_celsius, mu_oil * 1e3, color="darkorange", linewidth=2,
             label="エンジンオイル (SAE 30)")
ax1.set_xlabel("温度 T [°C]", fontsize=13)
ax1.set_ylabel("粘性係数 μ [mPa·s]", fontsize=13)
ax1.set_title("液体の粘性係数と温度", fontsize=14)
ax1.legend(fontsize=11)
ax1.grid(True, linestyle="--", alpha=0.5)

# 右: 空気(気体)
ax2 = axes[1]
ax2.plot(T_celsius, mu_air * 1e5, color="seagreen", linewidth=2,
         label="空気 (Air)")
ax2.set_xlabel("温度 T [°C]", fontsize=13)
ax2.set_ylabel("粘性係数 μ [×10⁻⁵ Pa·s]", fontsize=13)
ax2.set_title("気体の粘性係数と温度", fontsize=14)
ax2.legend(fontsize=11)
ax2.grid(True, linestyle="--", alpha=0.5)

plt.tight_layout()
plt.savefig("fluid_viscosity_vs_temperature.png", dpi=150)
plt.show()

上記のコードを実行すると、2つのグラフが描画されます。

  • 左図: 液体(水とエンジンオイル)の粘性係数が温度上昇に伴い急激に減少する様子が、対数スケールで確認できます。エンジンオイルは水に比べて粘性係数が桁違いに大きいことがわかります。
  • 右図: 気体(空気)の粘性係数が温度上昇に伴い緩やかに増加する様子が確認できます。

温度依存性の物理的解釈

  • 液体: 温度が上がると分子の熱運動が活発になり、分子間の結合が弱まるため、粘性が減少します。
  • 気体: 温度が上がると分子の運動量が増加し、隣接層間の運動量輸送が活発になるため、粘性が増加します。

この違いは、液体の粘性が 分子間力 に起因するのに対し、気体の粘性が 分子の運動量輸送 に起因するという、メカニズムの違いを反映しています。


まとめ

本記事では、流体力学を学ぶ出発点として、流体の基本的な性質を解説しました。要点を整理します。

概念 定義式 物理的意味
密度 $\rho$ $\rho = m / V$ 単位体積あたりの質量
粘性法則 $\tau = \mu (du/dy)$ せん断応力と速度勾配の比例関係
動粘性係数 $\nu$ $\nu = \mu / \rho$ 粘性係数を密度で正規化した量
マッハ数 $\mathrm{Ma}$ $\mathrm{Ma} = v / c$ 流速と音速の比(圧縮性の指標)
ラプラス圧 $\Delta p$ $\Delta p = \sigma_s (1/R_1 + 1/R_2)$ 曲面の表面張力による圧力差

これらの性質は、流体力学のあらゆる問題の基礎となります。特に粘性係数と密度は、流れの性質を決定する レイノルズ数 $\mathrm{Re} = \rho v L / \mu = v L / \nu$ という重要な無次元数に直結します。

次の記事では、流体力学で最も有名な定理の一つである ベルヌーイの定理 を取り上げる予定です。流速と圧力の関係を理解し、日常現象からエンジニアリングへの応用まで解説していきます。