衛星通信の地球局アンテナから延びる金属管、レーダー装置の送受信部、粒子加速器の高周波キャビティ — これらに共通するのは「導波管(waveguide)」と呼ばれる金属管の中にマイクロ波を閉じ込めて伝送する技術です。同軸ケーブルでマイクロ波を送ればよいのでは?と思うかもしれません。実は、周波数が数 GHz を超えると同軸ケーブルでは中心導体と外部導体の間の誘電体損失、および表皮効果による導体損失が急激に増大し、長距離伝送には向かなくなります。導波管は内部が空洞(または低損失の誘電体で満たされている)であるため、誘電体損失がほぼゼロになり、マイクロ波帯で圧倒的に低損失な伝送を実現できます。
導波管の理論を理解すると、以下のような応用分野への見通しが格段によくなります。
- アンテナ工学: ホーンアンテナやスロットアンテナの給電構造は導波管そのものであり、放射パターンの設計にはモード分布の知識が不可欠です
- レーダーシステム: 送信機からアンテナまでの大電力伝送路として導波管を使い、損失を最小限に抑えます
- 衛星通信: 地球局のフィードホーンや、衛星搭載機器内部のフィルタ・結合器は導波管構造です
- 加速器・プラズマ: 高周波電力を共振空洞に効率よく伝送するために大断面導波管が使われます
本記事の内容
- 導波管の基本概念と同軸ケーブルとの比較
- 矩形導波管内の波動方程式の導出
- TE モード(横電界モード)の電磁界成分の導出
- TM モード(横磁界モード)の電磁界成分の導出
- 遮断周波数 $f_c$ の物理的意味と計算
- 主モード TE$_{10}$ の電磁界分布と伝搬特性
- 群速度と位相速度の分散関係
- 導波管の損失メカニズム(壁面損失・誘電体損失)
- 円形導波管の概要
- Python 実装: TE/TM モードの電磁界パターンと分散関係の可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
導波管とは

導波管とは、図のような中空の金属管です。電磁波は管の内壁で反射を繰り返しながら伝わります。同軸ケーブルと違い中心導体がなく、マイクロ波帯で低損失・大電力の伝送ができるのが大きな特徴です。
マイクロ波伝送の課題
日常的な回路で信号を伝送するには、同軸ケーブルやプリント基板上のマイクロストリップ線路を使います。これらは TEM(横電磁界)モードと呼ばれる伝搬モードを利用しており、2 本の導体の間に電界と磁界が存在し、伝搬方向には電界成分も磁界成分も持ちません。TEM モードには遮断周波数がなく、直流から高周波まで伝搬できるという利点があります。
しかし、周波数が高くなると問題が生じます。同軸ケーブルでは、中心導体の表皮効果により電流が表面のごく薄い層にしか流れなくなり、実効的な抵抗が増大します。さらに、内部の誘電体(ポリエチレンなど)の $\tan\delta$(誘電正接)に起因する損失も周波数に比例して増加します。10 GHz を超える領域では、同軸ケーブル 1 m あたりの損失が数 dB に達することもあり、実用的な伝送手段とは言えなくなります。
導波管の構造と利点
導波管は、この高周波伝送の課題を解決するために考案された伝送構造です。最も基本的な矩形導波管は、内部が空洞の金属管(通常は銅やアルミニウム製)で、断面は長辺 $a$、短辺 $b$($a > b$)の矩形です。
導波管の内部には誘電体が存在しない(空気または真空で満たされている)ため、誘電体損失がほぼゼロになります。損失源は金属壁面の表面抵抗のみであり、同軸ケーブルと比較して圧倒的に低損失です。たとえば、X バンド(8〜12 GHz)で広く使われる WR-90 導波管($a = 22.86$ mm、$b = 10.16$ mm)の損失は、10 GHz で約 0.11 dB/m にすぎません。同じ周波数帯の同軸ケーブルが 1 dB/m 程度の損失を示すことと比べると、約 10 分の 1 です。
さらに、導波管は大電力伝送にも適しています。同軸ケーブルでは中心導体の先端で電界が集中し、高い電力で絶縁破壊が生じますが、導波管にはそのような鋭い構造がなく、耐電力が大幅に高くなります。
一方、導波管にはデメリットもあります。最大の特徴であり制約でもあるのが「遮断周波数」の存在です。ある周波数以下の電磁波は導波管内を伝搬できず、指数関数的に減衰してしまいます。また、導波管は同軸ケーブルと比較してサイズが大きく重いため、小型化が求められる用途では不利です。

同軸ケーブルと導波管の使い分けを整理すると図の通りです。低周波〜数GHzで小型・柔軟が求められるなら同軸、数GHz以上のマイクロ波で低損失・大電力が求められるなら導波管、と周波数と電力で選びます。
ここまでで、導波管の基本的な特徴と利点を把握しました。では、なぜ導波管には遮断周波数が存在するのでしょうか。そのメカニズムを理解するために、まずは矩形導波管内の電磁界が満たす波動方程式を導出し、境界条件を適用してみましょう。
矩形導波管の波動方程式

これから行う導出の流れを先に示しておきます。図のように、マクスウェル方程式から波動方程式(ヘルムホルツ方程式)を立て、電磁界の横成分を伝搬方向成分 $E_z, H_z$ で表し、変数分離と境界条件を適用してモードを求めます。この4ステップを念頭に読み進めてください。
座標系とマクスウェル方程式
矩形導波管の断面を $xy$ 平面に取り、伝搬方向を $z$ 軸とします。導波管の壁面は $x = 0$, $x = a$, $y = 0$, $y = b$ の 4 面です。導波管内部は自由空間(または損失のない誘電体)で満たされているとします。
電磁界が $z$ 方向に $e^{-j\beta z}$ の形で伝搬し、時間依存性 $e^{j\omega t}$ を仮定すると、電界 $\bm{E}$ と磁界 $\bm{H}$ の各成分は次のように書けます。
$$ \bm{E}(x, y, z) = \bm{E}_0(x, y) e^{-j\beta z} $$
同様に、磁界も同じ伝搬因子を持つと仮定します。
$$ \bm{H}(x, y, z) = \bm{H}_0(x, y) e^{-j\beta z} $$
ここで $\beta$ は導波管内の伝搬定数(位相定数)です。自由空間の波数を $k = \omega\sqrt{\mu\varepsilon}$ としたとき、$\beta$ は一般に $k$ とは異なります。この差が導波管特有の分散特性を生み出します。
源のない領域でのマクスウェル方程式は、フェーザ表示で次のように書けます。
$$ \nabla \times \bm{E} = -j\omega\mu \bm{H} $$
また、アンペール・マクスウェルの法則から磁界の回転は次のようになります。
$$ \nabla \times \bm{H} = j\omega\varepsilon \bm{E} $$
ヘルムホルツ方程式の導出
マクスウェル方程式から $\bm{H}$ を消去すると、電界 $\bm{E}$ に対するヘルムホルツ方程式が得られます。具体的には、第 1 式の両辺に $\nabla \times$ を作用させます。
$$ \nabla \times (\nabla \times \bm{E}) = -j\omega\mu (\nabla \times \bm{H}) $$
右辺に第 2 式を代入すると、
$$ \nabla \times (\nabla \times \bm{E}) = -j\omega\mu (j\omega\varepsilon \bm{E}) = \omega^2 \mu\varepsilon \bm{E} $$
左辺にベクトル恒等式 $\nabla \times (\nabla \times \bm{E}) = \nabla(\nabla \cdot \bm{E}) – \nabla^2 \bm{E}$ を用い、源のない領域では $\nabla \cdot \bm{E} = 0$ なので、
$$ \nabla^2 \bm{E} + k^2 \bm{E} = 0 $$
が得られます。ここで $k^2 = \omega^2 \mu\varepsilon$ です。磁界 $\bm{H}$ についても全く同様に、
$$ \nabla^2 \bm{H} + k^2 \bm{H} = 0 $$
が成り立ちます。
横方向と伝搬方向の分離
$z$ 方向の伝搬を $e^{-j\beta z}$ とすると、$\partial / \partial z = -j\beta$ に置き換えられます。ラプラシアンを $xy$ 成分と $z$ 成分に分離すると、
$$ \nabla^2 = \nabla_t^2 + \frac{\partial^2}{\partial z^2} = \nabla_t^2 – \beta^2 $$
と書けます。ここで $\nabla_t^2 = \partial^2/\partial x^2 + \partial^2/\partial y^2$ は横方向のラプラシアンです。これをヘルムホルツ方程式に代入すると、
$$ \nabla_t^2 \bm{E} + (k^2 – \beta^2) \bm{E} = 0 $$
ここで 遮断波数 $k_c$ を次のように定義します。
$$ k_c^2 = k^2 – \beta^2 $$
すなわち、
$$ \nabla_t^2 \bm{E} + k_c^2 \bm{E} = 0 $$
この $k_c$ は、導波管の断面形状と境界条件によって決まる定数です。$k_c$ が定まると、伝搬定数は $\beta = \sqrt{k^2 – k_c^2}$ で求められます。$k > k_c$ ならば $\beta$ は実数で電磁波は伝搬し、$k < k_c$ ならば $\beta$ は純虚数になり電磁波は指数関数的に減衰します。これが遮断現象の数学的な起源です。
電磁界の横成分を $E_z$ と $H_z$ で表す
導波管内の解析で重要なのは、すべての横方向成分($E_x$, $E_y$, $H_x$, $H_y$)が $z$ 成分($E_z$ と $H_z$)から完全に決定されるという事実です。マクスウェル方程式の各成分を展開し、$\partial/\partial z = -j\beta$ を使って整理すると、次の関係式が得られます。
$$ E_x = -\frac{1}{k_c^2}\left(j\beta \frac{\partial E_z}{\partial x} + j\omega\mu \frac{\partial H_z}{\partial y}\right) $$
次に $y$ 方向の電界成分 $E_y$ は、$E_z$ の $y$ 微分と $H_z$ の $x$ 微分の組み合わせで決まります。
$$ E_y = -\frac{1}{k_c^2}\left(j\beta \frac{\partial E_z}{\partial y} – j\omega\mu \frac{\partial H_z}{\partial x}\right) $$
磁界の横方向成分も同様に導かれます。$x$ 方向の磁界 $H_x$ は次の通りです。
$$ H_x = -\frac{1}{k_c^2}\left(j\beta \frac{\partial H_z}{\partial x} – j\omega\varepsilon \frac{\partial E_z}{\partial y}\right) $$
最後に $y$ 方向の磁界 $H_y$ は、$H_z$ の $y$ 微分と $E_z$ の $x$ 微分から求められます。
$$ H_y = -\frac{1}{k_c^2}\left(j\beta \frac{\partial H_z}{\partial y} + j\omega\varepsilon \frac{\partial E_z}{\partial x}\right) $$
この式は強力です。$E_z$ と $H_z$ さえ求めれば、残りの 4 つの成分はすべて自動的に決まります。したがって、問題は $E_z$ と $H_z$ のそれぞれについて 2 次元のヘルムホルツ方程式を解くことに帰着します。
この事実を活用して、まず $E_z = 0$ とした場合(TE モード)、次に $H_z = 0$ とした場合(TM モード)を順に解いていきましょう。
TE モード(横電界モード)の導出

導波管を伝わる電磁波は、伝搬方向成分 $E_z$(電界)と $H_z$(磁界)のどちらがゼロかでモードが分かれます。図のように、$E_z=0$ がTEモード(横電界)、$H_z=0$ がTMモード(横磁界)です。まずはTEモードから導出します。
TE モードの定義
TE モード(Transverse Electric mode)は、電界の伝搬方向成分がゼロ、すなわち $E_z = 0$ のモードです。「横電界」と呼ばれるのは、電界ベクトルが伝搬方向($z$ 軸)に対して常に横向き($xy$ 平面内)にあるためです。
水面を伝わる波で例えるなら、水面の高さの変動は波の進行方向に対して横向きです。TE モードの電界もこれと似た状況にあり、伝搬方向には振動成分を持ちません。ただし、磁界は $z$ 成分 $H_z$ を持つため、磁界のパターンから遮断波数が決まります。
$E_z = 0$ とすると、前節の横方向成分の式は $H_z$ のみで記述されます。
$$ E_x = -\frac{j\omega\mu}{k_c^2} \frac{\partial H_z}{\partial y} $$
次に $E_y$ は $H_z$ の $x$ 方向の偏微分のみで決まります。
$$ E_y = \frac{j\omega\mu}{k_c^2} \frac{\partial H_z}{\partial x} $$
磁界の横方向成分も $H_z$ だけで表せます。$H_x$ は $H_z$ の $x$ 微分に比例します。
$$ H_x = -\frac{j\beta}{k_c^2} \frac{\partial H_z}{\partial x} $$
同様に $H_y$ は $H_z$ の $y$ 微分に比例します。
$$ H_y = -\frac{j\beta}{k_c^2} \frac{\partial H_z}{\partial y} $$
したがって、TE モードを求めるには $H_z$ が満たすヘルムホルツ方程式を解けばよいことになります。
$H_z$ の解法 — 変数分離法
$H_z(x, y)$ は 2 次元ヘルムホルツ方程式を満たします。
$$ \frac{\partial^2 H_z}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 H_z}{\partial y^2} + k_c^2 H_z = 0 $$
この方程式を変数分離法で解きます。$H_z(x, y) = X(x) Y(y)$ と仮定して代入すると、
$$ X”(x) Y(y) + X(x) Y”(y) + k_c^2 X(x) Y(y) = 0 $$
両辺を $X(x) Y(y)$ で割ると、
$$ \frac{X”(x)}{X(x)} + \frac{Y”(y)}{Y(y)} + k_c^2 = 0 $$
第 1 項は $x$ のみの関数、第 2 項は $y$ のみの関数であるため、各項はそれぞれ定数でなければなりません。そこで $X”/X = -k_x^2$, $Y”/Y = -k_y^2$ と置くと、分離条件として次が成り立ちます。
$$ k_x^2 + k_y^2 = k_c^2 $$
各方向の常微分方程式の一般解は、
$$ X(x) = A\cos(k_x x) + B\sin(k_x x) $$
$y$ 方向についても同じ形の一般解が得られます。
$$ Y(y) = C\cos(k_y y) + D\sin(k_y y) $$
境界条件の適用
導波管の壁面は完全導体であると仮定します。完全導体表面では、電界の接線成分がゼロという境界条件が課されます。TE モードでは $E_z = 0$ なので、横方向の電界成分に着目します。
$x = 0$ および $x = a$ の壁面($z$ 軸に平行で $y$ 軸方向を向く面)では、$E_y$ の接線成分がゼロでなければなりません。前述の関係式より、$E_y \propto \partial H_z / \partial x$ なので、
$$ \left.\frac{\partial H_z}{\partial x}\right|_{x=0} = 0, \quad \left.\frac{\partial H_z}{\partial x}\right|_{x=a} = 0 $$
$x = 0$ の条件から $X'(0) = 0$ が要求されます。$X'(x) = -A k_x \sin(k_x x) + B k_x \cos(k_x x)$ なので、$x = 0$ で $X'(0) = B k_x = 0$、つまり $B = 0$ です。
次に $x = a$ の条件から $X'(a) = -A k_x \sin(k_x a) = 0$ が要求されます。$A \neq 0$(自明でない解)のためには $\sin(k_x a) = 0$、すなわち、
$$ k_x a = m\pi \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
同様に、$y = 0$ および $y = b$ の壁面では $E_x$ の接線成分がゼロ、すなわち $\partial H_z / \partial y = 0$ が要求され、全く同じ論法により $D = 0$ かつ、
$$ k_y b = n\pi \quad (n = 0, 1, 2, \dots) $$
TE$_{mn}$ モードの電磁界
以上を整理すると、TE$_{mn}$ モードの $H_z$ は次のようになります。
$$ H_z(x, y, z) = H_0 \cos\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
ここで $H_0$ は振幅定数、$m = 0, 1, 2, \dots$、$n = 0, 1, 2, \dots$ で、$m = n = 0$ は自明解($H_z = \text{const}$、すべての電磁界成分がゼロ)となるため除外します。つまり、$m$ と $n$ の少なくとも一方は 1 以上です。
遮断波数は分離条件から次のように決まります。
$$ k_c^2 = k_x^2 + k_y^2 = \left(\frac{m\pi}{a}\right)^2 + \left(\frac{n\pi}{b}\right)^2 $$
この $H_z$ を前述の横方向成分の式に代入すると、TE$_{mn}$ モードの全電磁界成分が得られます。
$$ E_x = \frac{j\omega\mu n\pi}{k_c^2 b} H_0 \cos\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \sin\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
次に $E_y$ は $H_z$ の $x$ 微分から導かれ、$\sin(m\pi x/a)$ の因子を持ちます。
$$ E_y = -\frac{j\omega\mu m\pi}{k_c^2 a} H_0 \sin\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
磁界の横方向成分に移ります。$H_x$ は伝搬定数 $\beta$ と $H_z$ の $x$ 微分で決まります。
$$ H_x = \frac{j\beta m\pi}{k_c^2 a} H_0 \sin\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
最後に $H_y$ は $H_z$ の $y$ 微分から求められます。
$$ H_y = \frac{j\beta n\pi}{k_c^2 b} H_0 \cos\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \sin\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
各成分の三角関数の組み合わせに注目してください。$E_x$ は $x$ 方向に $\cos$、$y$ 方向に $\sin$ です。これは、$x = 0$ と $x = a$ の壁面で $E_x$ がゼロにならない(壁に平行な電界成分は壁の表面電流によって維持される)一方、$y = 0$ と $y = b$ の壁面では $E_x = 0$(壁に垂直な方向の接線成分がゼロ)になることと整合しています。
TE モードの電磁界がすべて求まりました。次に、$H_z = 0$ として電界の $z$ 成分 $E_z$ から全電磁界を組み立てる TM モードを導出しましょう。
TM モード(横磁界モード)の導出
TM モードの定義
TM モード(Transverse Magnetic mode)は、磁界の伝搬方向成分がゼロ、すなわち $H_z = 0$ のモードです。名前の通り、磁界ベクトルが常に $xy$ 平面内にあります。TE モードとは対照的に、電界が $z$ 成分 $E_z$ を持ち、この $E_z$ からすべての横方向成分が導かれます。
$H_z = 0$ とすると、横方向成分の式は $E_z$ のみで記述されます。
$$ E_x = -\frac{j\beta}{k_c^2} \frac{\partial E_z}{\partial x} $$
次に $E_y$ は $E_z$ の $y$ 方向の偏微分で決まります。
$$ E_y = -\frac{j\beta}{k_c^2} \frac{\partial E_z}{\partial y} $$
磁界の横方向成分は、$E_z$ の偏微分と角周波数 $\omega$ を通じて結びつきます。$H_x$ は次の通りです。
$$ H_x = \frac{j\omega\varepsilon}{k_c^2} \frac{\partial E_z}{\partial y} $$
同様に $H_y$ は $E_z$ の $x$ 微分から求められます。
$$ H_y = -\frac{j\omega\varepsilon}{k_c^2} \frac{\partial E_z}{\partial x} $$
$E_z$ の解法
$E_z(x, y)$ も同じ 2 次元ヘルムホルツ方程式を満たします。
$$ \frac{\partial^2 E_z}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 E_z}{\partial y^2} + k_c^2 E_z = 0 $$
TE モードと同じく変数分離法を用いますが、境界条件が異なります。完全導体壁面では電界の接線成分がゼロなので、$E_z$(壁面に平行な成分)自体がゼロでなければなりません。
$$ E_z|_{x=0} = 0, \quad E_z|_{x=a} = 0, \quad E_z|_{y=0} = 0, \quad E_z|_{y=b} = 0 $$
これはディリクレ境界条件であり、TE モードのノイマン境界条件(法線微分がゼロ)とは対照的です。
$E_z(x, y) = X(x) Y(y)$ として変数分離し、ディリクレ条件を適用すると、$x = 0$ で $X(0) = 0$ から余弦関数が消え、$x = a$ で $X(a) = 0$ から $\sin(k_x a) = 0$、つまり $k_x = m\pi/a$ が得られます。$y$ 方向も同様に $k_y = n\pi/b$ です。
TM$_{mn}$ モードの電磁界
TM$_{mn}$ モードの $E_z$ は次のようになります。
$$ E_z(x, y, z) = E_0 \sin\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \sin\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
TE モードでは $\cos$ 関数が現れましたが、TM モードでは $\sin$ 関数が現れることに注意してください。これは境界条件の違い(ノイマン vs ディリクレ)に直接対応しています。
ここで重要な点として、TM モードでは $m \geq 1$ かつ $n \geq 1$ でなければなりません。もし $m = 0$ または $n = 0$ なら $\sin$ 関数がゼロになり $E_z = 0$(自明解)となってしまいます。したがって、最低次の TM モードは TM$_{11}$ です。
遮断波数は TE モードと同じ式で与えられます。
$$ k_c^2 = \left(\frac{m\pi}{a}\right)^2 + \left(\frac{n\pi}{b}\right)^2 $$
$E_z$ を横方向成分の式に代入すると、TM$_{mn}$ モードの全電磁界が得られます。
$$ E_x = -\frac{j\beta m\pi}{k_c^2 a} E_0 \cos\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \sin\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
次に $E_y$ は $E_z$ の $y$ 微分に由来し、$\sin(m\pi x/a)\cos(n\pi y/b)$ の空間分布を持ちます。
$$ E_y = -\frac{j\beta n\pi}{k_c^2 b} E_0 \sin\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
磁界の横方向成分に移ります。$H_x$ は $E_z$ の $y$ 微分と誘電率 $\varepsilon$ を通じて結びつきます。
$$ H_x = \frac{j\omega\varepsilon n\pi}{k_c^2 b} E_0 \sin\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
最後に $H_y$ は $E_z$ の $x$ 微分から導かれます。
$$ H_y = -\frac{j\omega\varepsilon m\pi}{k_c^2 a} E_0 \cos\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \sin\left(\frac{n\pi y}{b}\right) e^{-j\beta z} $$
TE モードと TM モードの電磁界表現を比較すると、三角関数の $\sin$ と $\cos$ が入れ替わっていることがわかります。これは物理的にも自然なことで、TE モードの $H_z$ は壁面で法線微分がゼロ(壁に沿った電流に対応)、TM モードの $E_z$ は壁面でゼロ(完全導体の境界条件に対応)という、異なる境界条件を反映しています。
TE モードと TM モードの電磁界分布がすべて求まりました。次に、これらのモードがいつ伝搬でき、いつ減衰するかを決める「遮断周波数」を詳しく見ていきましょう。
遮断周波数の導出

各モードには、伝搬できる最低周波数=遮断周波数があります。図のように、最も低いのが主モード TE$_{10}$(WR-90で約6.56 GHz)です。これより低い周波数では、どのモードも伝搬できません。
遮断周波数の物理的意味

分散関係(周波数 vs 伝搬定数 β)を見ると、遮断周波数以下では β=0、つまり伝搬しないことがわかります。図のように各モードは自分の遮断周波数から立ち上がり、高周波では光速線に漸近します。
音響学で長いトンネルの中に音を通すとき、低い音(長い波長)はトンネルの壁に何度も反射しながらも奥まで届きますが、トンネルの断面より長い波長の音はうまく伝わりません。導波管の遮断現象もこれに似ています。電磁波が金属壁で反射しながら $z$ 方向に進むためには、断面寸法に対して波長が十分短い(周波数が十分高い)ことが必要です。
数学的には、伝搬定数 $\beta$ の式から遮断条件が導かれます。
$$ \beta = \sqrt{k^2 – k_c^2} = \sqrt{\omega^2 \mu\varepsilon – k_c^2} $$
$\beta$ が実数(伝搬する)であるためには $k^2 > k_c^2$、すなわち $\omega > \omega_c$ でなければなりません。等号 $k = k_c$ のとき $\beta = 0$ となり、これが遮断の境界です。
遮断角周波数 $\omega_c$ は $k_c = \omega_c \sqrt{\mu\varepsilon}$ より、
$$ \omega_c = \frac{k_c}{\sqrt{\mu\varepsilon}} $$
この角周波数を通常の遮断周波数 $f_c = \omega_c / (2\pi)$ に変換すると、次のようになります。
$$ f_c = \frac{k_c}{2\pi\sqrt{\mu\varepsilon}} $$
$k_c$ に TE$_{mn}$ / TM$_{mn}$ モードの遮断波数を代入します。
$$ k_c = \sqrt{\left(\frac{m\pi}{a}\right)^2 + \left(\frac{n\pi}{b}\right)^2} = \pi\sqrt{\left(\frac{m}{a}\right)^2 + \left(\frac{n}{b}\right)^2} $$
これを $f_c$ の式に代入すると、分子と分母の $\pi$ が約分されて次の簡潔な形になります。
$$ f_{c,mn} = \frac{1}{2\sqrt{\mu\varepsilon}}\sqrt{\left(\frac{m}{a}\right)^2 + \left(\frac{n}{b}\right)^2} $$
さらに、真空中($\mu = \mu_0$, $\varepsilon = \varepsilon_0$)では $1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0} = c$(光速)となるので、最終的に次の公式が得られます。
$$ \boxed{f_{c,mn} = \frac{c}{2}\sqrt{\left(\frac{m}{a}\right)^2 + \left(\frac{n}{b}\right)^2}} $$
この式が矩形導波管の遮断周波数の一般公式です。TE モードと TM モードで遮断波数の式は同じなので、同じ $(m, n)$ に対する遮断周波数も同一です(ただし TM モードは $m \geq 1$ かつ $n \geq 1$)。
遮断周波数の具体例
$a > b$ の矩形導波管について、最初のいくつかのモードの遮断周波数を比較しましょう。$a = 2b$ の場合(実用導波管でよく使われる比率に近い)の遮断周波数を $f_{c,10} = c/(2a)$ で規格化して示します。
| モード | $m$ | $n$ | $f_c / f_{c,10}$ |
|---|---|---|---|
| TE$_{10}$ | 1 | 0 | 1.000 |
| TE$_{20}$ | 2 | 0 | 2.000 |
| TE$_{01}$ | 0 | 1 | 2.000 |
| TM$_{11}$ / TE$_{11}$ | 1 | 1 | 2.236 |
| TE$_{30}$ | 3 | 0 | 3.000 |
| TM$_{21}$ / TE$_{21}$ | 2 | 1 | 2.828 |
最も低い遮断周波数を持つモードが TE$_{10}$ であることがわかります。$a > b$ のとき、TE$_{10}$ モードの遮断周波数は $f_{c,10} = c/(2a)$ で、次に遮断周波数が低いモードとの間にギャップが存在します。この性質が、TE$_{10}$ を「主モード(dominant mode)」とする根拠です。
単一モード帯域

実用上は、TE$_{10}$ だけが伝搬する「単一モード帯域」(図の緑)を使います。遮断周波数以下では伝搬せず、TE$_{20}$ の遮断を超えると複数モードが混在して扱いにくくなるためです。

この帯域での波の速度も見ておきましょう。導波管中では位相速度 $v_p$ が光速を超え、群速度 $v_g$ が光速以下になります($v_p \cdot v_g = c^2$)。図のように遮断周波数の近くで両者は大きく乖離し、高周波で光速へ近づきます。エネルギーは群速度で伝わるため、光速を超える情報伝送にはなりません。
実用上、導波管は 単一モード動作 させるのが基本です。複数のモードが同時に伝搬すると、モード間の干渉によって電磁界パターンが複雑になり、信号の歪みや不要な結合が生じます。
TE$_{10}$ モードのみが伝搬し、他のすべてのモードが遮断される周波数範囲を「単一モード帯域」と呼びます。$a = 2b$ のとき、TE$_{10}$ の遮断周波数は $f_{c,10} = c/(2a)$、次に遮断周波数が低い TE$_{20}$(または TE$_{01}$)は $f_{c,20} = c/a$ です。したがって、単一モード帯域は、
$$ f_{c,10} < f < f_{c,20} $$
具体的に遮断周波数の値を代入すると、次の周波数範囲となります。
$$ \frac{c}{2a} < f < \frac{c}{a} $$
つまり、帯域幅は 1 オクターブ(周波数比 2:1)です。たとえば WR-90 導波管($a = 22.86$ mm)では、$f_{c,10} \approx 6.56$ GHz、$f_{c,20} \approx 13.12$ GHz となり、推奨動作帯域は 8.2〜12.4 GHz(X バンド)です。遮断周波数のすぐ近くでは分散が激しく損失も大きいため、実用的には遮断周波数から少し離れた範囲で使用します。
遮断周波数と単一モード帯域の概念を理解したところで、最も重要な主モード TE$_{10}$ の電磁界分布を詳しく調べてみましょう。
主モード TE$_{10}$ の電磁界分布

主モード TE$_{10}$ の電界は、図のように管の幅方向に $\sin(\pi x/a)$ の形をとります。中央で最大、両側の壁でゼロ(壁では電界の接線成分がゼロという境界条件)です。

断面で見ると図の通りです。電界は縦(y)方向を向き、中央で最も強く、左右の壁に近づくほど弱まります。このシンプルな分布が、TE$_{10}$ が主モードとして広く使われる理由の一つです。
TE$_{10}$ モードの特殊性
TE$_{10}$ モードは矩形導波管で最も低い遮断周波数を持ち、最も広く利用されるモードです。$m = 1$, $n = 0$ を TE モードの一般式に代入すると、$y$ 方向の変動がなくなり($\cos(0) = 1$)、電磁界は $x$ 方向のみに変化するシンプルなパターンになります。
遮断波数と遮断周波数は、
$$ k_c = \frac{\pi}{a}, \quad f_{c,10} = \frac{c}{2a} $$
この式は直感的にも理解できます。TE$_{10}$ モードの遮断条件は、導波管の幅 $a$ がちょうど半波長に等しくなるとき、すなわち $a = \lambda_c / 2$ のときです。
電磁界成分
$m = 1$, $n = 0$ を代入すると、$n = 0$ のために $E_x = 0$ かつ $H_y = 0$ となります。残る成分は $E_y$, $H_x$, $H_z$ の 3 つです。
$$ E_y = -\frac{j\omega\mu\pi}{k_c^2 a} H_0 \sin\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z} $$
$$ H_x = \frac{j\beta\pi}{k_c^2 a} H_0 \sin\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z} $$
$$ H_z = H_0 \cos\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z} $$
$E_y$ の振幅プロファイルに注目してください。$\sin(\pi x / a)$ は $x = 0$ と $x = a$ の壁面でゼロ、$x = a/2$ の中央で最大になります。つまり、電界は導波管の中央で最も強く、壁面でゼロというパターンです。これは弦の基本振動(半波長が両端で固定される定在波)と全く同じ構造です。
$H_z$ は $\cos(\pi x / a)$ であり、壁面で最大、中央でゼロになります。磁界の $x$ 成分 $H_x$ は $\sin(\pi x / a)$ で、電界 $E_y$ と同じ空間分布を持ちます。電界と磁界が直交しつつ同相で強め合う中央部が、エネルギーの主な伝搬領域です。
波動インピーダンス
TE モードにおける横方向の電界と磁界の比は、TE 波の波動インピーダンス $Z_{\text{TE}}$ として定義されます。
$$ Z_{\text{TE}} = \frac{E_y}{H_x} = \frac{\omega\mu}{\beta} $$
自由空間の固有インピーダンス $\eta = \sqrt{\mu/\varepsilon}$ を用いると、
$$ Z_{\text{TE}} = \frac{\eta}{\sqrt{1 – (f_c/f)^2}} $$
遮断周波数に近づくと $\beta \to 0$ で $Z_{\text{TE}} \to \infty$ となり、十分高い周波数では $Z_{\text{TE}} \to \eta$ に漸近します。この性質は、導波管とアンテナの整合設計において重要です。
TE$_{10}$ モードの電磁界構造がわかったところで、次はこのモードの伝搬がもつ独特の分散特性 — 群速度と位相速度 — を調べましょう。
群速度と位相速度
導波管の分散関係
導波管の最も直感に反する性質の一つが、位相速度が光速を超えるという事実です。これは情報や物質が光速を超えることを意味しません。信号(エネルギー)の伝搬速度は群速度であり、群速度は常に光速以下です。
伝搬定数 $\beta$ と角周波数 $\omega$ の関係(分散関係)は、
$$ \beta = \sqrt{k^2 – k_c^2} = \sqrt{\omega^2 \mu\varepsilon – k_c^2} $$
これを $\omega$ について解くと、
$$ \omega = \frac{1}{\sqrt{\mu\varepsilon}}\sqrt{\beta^2 + k_c^2} $$
自由空間の分散関係 $\omega = c\beta$(直線的)と異なり、導波管では $\omega$-$\beta$ 曲線が双曲線型になります。$\beta = 0$ のとき $\omega = \omega_c = k_c / \sqrt{\mu\varepsilon}$ となり、これが遮断角周波数です。
位相速度
位相速度 $v_p$ は等位相面の伝搬速度であり、次のように定義されます。
$$ v_p = \frac{\omega}{\beta} $$
$\beta = \sqrt{k^2 – k_c^2}$ を代入すると、
$$ v_p = \frac{\omega}{\sqrt{\omega^2 \mu\varepsilon – k_c^2}} $$
$c = 1/\sqrt{\mu\varepsilon}$ を使って整理すると、
$$ v_p = \frac{c}{\sqrt{1 – (f_c/f)^2}} $$
分母が 1 以下なので、$v_p > c$ です。遮断周波数ぎりぎり($f \to f_c$)では $v_p \to \infty$ となり、十分高い周波数($f \gg f_c$)では $v_p \to c$ に漸近します。
位相速度が光速を超えるという事実に面食らうかもしれませんが、これは情報やエネルギーの伝達速度ではありません。海岸に対して斜めに押し寄せる波の波頭が海岸線に沿って進む速度が、波そのものの速度より速くなるのと同じ原理です。導波管内の電磁波は、壁面で斜めに反射しながらジグザグに進んでおり、等位相面の「見かけの進行速度」が実際の光速を超えるのです。
群速度
信号のエネルギーが伝搬する速度は群速度 $v_g$ であり、分散関係の傾きとして定義されます。
$$ v_g = \frac{d\omega}{d\beta} $$
$\omega^2 = c^2(\beta^2 + k_c^2)$ の両辺を $\beta$ で微分すると、
$$ 2\omega \frac{d\omega}{d\beta} = 2c^2 \beta $$
したがって、$v_g = d\omega/d\beta$ は $c^2\beta/\omega$ と表されます。さらに $v_p = \omega/\beta$ を代入すると、群速度と位相速度の関係が得られます。
$$ v_g = \frac{c^2 \beta}{\omega} = \frac{c^2}{v_p} $$
$\beta = (k^2 – k_c^2)^{1/2}$ と $k = \omega/c$ を代入して $\beta/\omega$ を $f_c/f$ で表すと、群速度の周波数依存性が陽に書けます。
$$ v_g = c\sqrt{1 – (f_c/f)^2} $$
群速度は常に $c$ 以下であり、遮断周波数で $v_g = 0$(信号が伝わらない)、高周波極限で $v_g \to c$ となります。
位相速度と群速度の間には美しい関係式が成り立ちます。
$$ v_p \cdot v_g = c^2 $$
この関係は、導波管が「正常分散」媒質であることを示しています。周波数が高いほど群速度が大きい(光速に近づく)ため、パルス信号は導波管を伝搬する際に分散を受け、波形が広がります。広帯域信号を扱う際には、この分散効果を考慮した設計が必要です。
管内波長
導波管内の波長(管内波長)$\lambda_g$ は、位相速度を用いて次のように定義されます。
$$ \lambda_g = \frac{v_p}{f} = \frac{2\pi}{\beta} $$
自由空間の波長 $\lambda_0 = c/f$ を使うと、
$$ \lambda_g = \frac{\lambda_0}{\sqrt{1 – (f_c/f)^2}} = \frac{\lambda_0}{\sqrt{1 – (\lambda_0/\lambda_c)^2}} $$
管内波長は常に自由空間の波長より長くなります。これも波がジグザグに反射しながら進むことの帰結で、$z$ 方向の実効的な波長が引き延ばされるのです。
群速度と位相速度の分散特性を把握したところで、次は実用上重要な導波管の損失メカニズムについて見ていきましょう。
導波管の減衰
損失のない理想導波管からの出発
これまでの議論では、導波管の壁面を完全導体、内部を無損失の誘電体(または真空)として扱いました。しかし現実の導波管には 2 つの損失源があります。
- 壁面損失(導体損失): 壁面の金属が有限の導電率を持つため、表皮効果による電流に伴うオーム損失が生じる
- 誘電体損失: 導波管内部に誘電体が充填されている場合、誘電体の吸収損失が生じる
伝搬する電磁波の振幅が $e^{-\alpha z}$ で減衰するとき、$\alpha$ を減衰定数と呼びます。全減衰定数は両者の和で与えられます。
$$ \alpha = \alpha_c + \alpha_d $$
壁面損失
壁面損失を求めるには、摂動法(perturbation method)を用います。これは、まず完全導体壁の理想解を求め、その電磁界分布を使って壁面での電力散逸を計算するというアプローチです。
金属壁面の表面抵抗 $R_s$ は、周波数 $f$、金属の導電率 $\sigma$、透磁率 $\mu$ を用いて次のように書けます。
$$ R_s = \sqrt{\frac{\pi f \mu}{\sigma}} $$
この表面抵抗は、表皮効果の深さ $\delta_s = 1/\sqrt{\pi f \mu \sigma}$ を使うと $R_s = 1/(\sigma \delta_s)$ とも表現できます。周波数が高くなるほど表皮深さが浅くなり、電流が表面近くの薄い層に集中するため、$R_s$ は $\sqrt{f}$ に比例して増大します。
壁面で散逸する単位長さあたりの電力 $P_l$ は、壁面上の表面電流密度 $\bm{J}_s$ を用いて、
$$ P_l = \frac{R_s}{2} \oint |\bm{J}_s|^2 \, dl $$
ここで積分は導波管の断面周囲に沿って行います。$\bm{J}_s = \hat{n} \times \bm{H}$($\hat{n}$ は壁面の内向き法線)の関係から、壁面上の磁界の接線成分がわかれば $P_l$ が計算できます。
一方、導波管を伝搬する電力 $P$ は断面全体のポインティングベクトルの積分です。
$$ P = \frac{1}{2} \text{Re}\int \int (\bm{E} \times \bm{H}^*) \cdot \hat{z} \, dA $$
減衰定数は次のように求められます。
$$ \alpha_c = \frac{P_l}{2P} $$
TE$_{10}$ モードについて具体的に計算すると(詳細な積分は煩雑ですが結果のみ示すと)、
$$ \alpha_c = \frac{R_s}{a^3 b \beta k \eta} \left(2b\pi^2 + a^3 k^2\right) $$
ここで $\eta = \sqrt{\mu/\varepsilon}$ は自由空間の固有インピーダンスです。遮断周波数の近くでは $\beta \to 0$ のため $\alpha_c \to \infty$ となり、損失が非常に大きくなります。一方、周波数が十分高くなると $\alpha_c$ は単調に減少するのではなく、ある最小値を持った後に再び緩やかに増加します。これは、高周波では $R_s \propto \sqrt{f}$ の影響が効いてくるためです。
誘電体損失
導波管内部に比誘電率 $\varepsilon_r$、誘電正接 $\tan\delta$ の誘電体が充填されている場合、誘電体損失による減衰定数は次のように近似されます。
$$ \alpha_d = \frac{k^2 \tan\delta}{2\beta} $$
空気で満たされた(または真空の)導波管では $\tan\delta \approx 0$ なので、誘電体損失は無視できます。これが空洞導波管の大きな利点です。一方、誘電体充填導波管ではこの損失が支配的になることがあります。
損失の数値例
WR-90 導波管(銅製、$a = 22.86$ mm、$b = 10.16$ mm)を 10 GHz で使用する場合を考えましょう。銅の導電率は $\sigma = 5.8 \times 10^7$ S/m です。
表面抵抗: $R_s = \sqrt{\pi \times 10^{10} \times 4\pi \times 10^{-7} / (5.8 \times 10^7)} \approx 0.026 \, \Omega$
この条件での TE$_{10}$ モードの減衰定数は $\alpha_c \approx 0.011$ Np/m(約 0.10 dB/m)です。つまり、10 m の導波管を通しても損失はわずか約 1 dB にすぎません。同じ周波数帯の同軸ケーブル(RG-401 など)が 10 m で約 10 dB の損失を示すことと比較すると、導波管の低損失性能は圧倒的です。
ここまでで矩形導波管の理論体系を一通り構築しました。最後に、矩形以外の断面を持つ導波管として重要な円形導波管について概観しましょう。
円形導波管の概要
円形断面への拡張
矩形導波管は製造が容易で理論的にも扱いやすいため、最も広く使われます。しかし、パラボラアンテナのフィードホーンや回転ジョイントなど、対称性が重要な場面では円形導波管が使われます。
円形導波管の断面は半径 $a$ の円であり、解析には円筒座標系 $(\rho, \phi, z)$ を用います。ヘルムホルツ方程式を円筒座標系で書くと、
$$ \frac{1}{\rho}\frac{\partial}{\partial \rho}\left(\rho \frac{\partial \psi}{\partial \rho}\right) + \frac{1}{\rho^2}\frac{\partial^2 \psi}{\partial \phi^2} + k_c^2 \psi = 0 $$
ここで $\psi$ は TE モードでは $H_z$、TM モードでは $E_z$ を表します。
ベッセル関数の登場
変数分離法で $\psi(\rho, \phi) = R(\rho) \Phi(\phi)$ と置くと、角度方向は $\Phi(\phi) = e^{jn\phi}$($n$ は整数)、径方向はベッセルの微分方程式に帰着します。
$$ \rho^2 R” + \rho R’ + (k_c^2 \rho^2 – n^2) R = 0 $$
導波管内部では原点 $\rho = 0$ で有界な解が必要なので、解は第 1 種ベッセル関数 $J_n(k_c \rho)$ です(第 2 種ベッセル関数 $Y_n$ は原点で発散するため棄却されます)。
円形導波管の遮断波数
境界条件($\rho = a$ の壁面)は、矩形導波管と同様にモードの種類によって異なります。
- TE モード: $\partial H_z / \partial \rho|_{\rho=a} = 0$ すなわち $J_n'(k_c a) = 0$
- TM モード: $E_z|_{\rho=a} = 0$ すなわち $J_n(k_c a) = 0$
$J_n'(x) = 0$ の $m$ 番目のゼロ点を $p’_{nm}$、$J_n(x) = 0$ の $m$ 番目のゼロ点を $p_{nm}$ とすると、遮断波数は次のようになります。
$$ k_c = \frac{p’_{nm}}{a} \quad (\text{TE}_{nm} \text{ モード}) $$
一方、TM モードでは $E_z$ 自体が壁面でゼロとなるため、$J_n(k_c a) = 0$ のゼロ点が遮断波数を決定します。
$$ k_c = \frac{p_{nm}}{a} \quad (\text{TM}_{nm} \text{ モード}) $$
遮断周波数は $f_c = k_c c / (2\pi)$ で計算できます。
円形導波管の最低次モード(主モード)は TE$_{11}$ で、$p’_{11} \approx 1.841$ です。矩形導波管では TE$_{10}$ が主モードでしたが、円形導波管では「TE$_{10}$」に相当するモードが存在しないため(角度方向の対称性が異なる)、TE$_{11}$ が最も低い遮断周波数を持ちます。
ベッセル関数のゼロ点は解析的に求まらないため、数値表やプログラムを使って計算します。主要なモードのゼロ点を以下にまとめます。
| モード | $p’_{nm}$ or $p_{nm}$ | 遮断周波数の順序 |
|---|---|---|
| TE$_{11}$ | $p’_{11} = 1.841$ | 1位(主モード) |
| TM$_{01}$ | $p_{01} = 2.405$ | 2位 |
| TE$_{21}$ | $p’_{21} = 3.054$ | 3位 |
| TM$_{11}$ | $p_{11} = 3.832$ | 5位 |
| TE$_{01}$ | $p’_{01} = 3.832$ | 5位(TM$_{11}$と縮退) |
TE$_{01}$ モードには特別な性質があります。このモードの壁面損失は周波数が上がるほど減少するという、他のモードにはない特徴を持っています。そのため、長距離の低損失伝送に TE$_{01}$ モードを利用する研究が行われてきました。ただし、TE$_{01}$ は主モードではないため、他のモードへの結合を抑制する工夫(モードフィルタなど)が必要です。
以上で導波管の理論的な枠組みを一通り解説しました。ここからは、Python を使って TE / TM モードの電磁界パターンと分散関係を可視化し、理論の理解を視覚的に深めましょう。
Python による電磁界パターンの可視化
TE モードと TM モードの断面電磁界分布
まず、矩形導波管の断面における電磁界分布を可視化します。TE$_{10}$, TE$_{20}$, TE$_{11}$ および TM$_{11}$, TM$_{21}$ モードについて、電界ベクトルの矢印図と電界強度のカラーマップを描画します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 導波管パラメータ
a = 22.86e-3 # 長辺 [m] (WR-90)
b = 10.16e-3 # 短辺 [m]
# 断面グリッド
Nx, Ny = 40, 20
x = np.linspace(0, a, Nx)
y = np.linspace(0, b, Ny)
X, Y = np.meshgrid(x, y)
def te_mode_fields(m, n, X, Y, a, b):
"""TEmnモードの横方向電界成分 (Ex, Ey) を計算"""
kx = m * np.pi / a
ky = n * np.pi / b
kc2 = kx**2 + ky**2
if kc2 == 0:
return np.zeros_like(X), np.zeros_like(X)
# Ex ∝ cos(kx*x) * sin(ky*y) の ky/kc^2 係数
# Ey ∝ -sin(kx*x) * cos(ky*y) の kx/kc^2 係数
Ex = (ky / kc2) * np.cos(kx * X) * np.sin(ky * Y)
Ey = -(kx / kc2) * np.sin(kx * X) * np.cos(ky * Y)
return Ex, Ey
def tm_mode_fields(m, n, X, Y, a, b):
"""TMmnモードの横方向電界成分 (Ex, Ey) を計算"""
kx = m * np.pi / a
ky = n * np.pi / b
kc2 = kx**2 + ky**2
if kc2 == 0:
return np.zeros_like(X), np.zeros_like(X)
# Ex ∝ -cos(kx*x) * sin(ky*y) の kx/kc^2 係数
# Ey ∝ -sin(kx*x) * cos(ky*y) の ky/kc^2 係数
Ex = -(kx / kc2) * np.cos(kx * X) * np.sin(ky * Y)
Ey = -(ky / kc2) * np.sin(kx * X) * np.cos(ky * Y)
return Ex, Ey
# 描画するモード一覧
modes = [
("TE", 1, 0), ("TE", 2, 0), ("TE", 1, 1),
("TM", 1, 1), ("TM", 2, 1), ("TE", 2, 1),
]
fig, axes = plt.subplots(2, 3, figsize=(15, 8))
axes = axes.flatten()
for idx, (mode_type, m, n) in enumerate(modes):
ax = axes[idx]
if mode_type == "TE":
Ex, Ey = te_mode_fields(m, n, X, Y, a, b)
else:
Ex, Ey = tm_mode_fields(m, n, X, Y, a, b)
# 電界強度
E_mag = np.sqrt(Ex**2 + Ey**2)
E_max = E_mag.max()
if E_max > 0:
Ex_norm = Ex / E_max
Ey_norm = Ey / E_max
else:
Ex_norm, Ey_norm = Ex, Ey
# カラーマップ
c = ax.pcolormesh(X * 1e3, Y * 1e3, E_mag / (E_max if E_max > 0 else 1),
cmap='hot', shading='auto')
# ベクトル場(間引き)
skip = 2
ax.quiver(X[::skip, ::skip] * 1e3, Y[::skip, ::skip] * 1e3,
Ex_norm[::skip, ::skip], Ey_norm[::skip, ::skip],
color='cyan', scale=15, width=0.004)
# 遮断周波数を計算
c0 = 3e8
fc = (c0 / 2) * np.sqrt((m / a)**2 + (n / b)**2)
ax.set_title(f'{mode_type}$_{{{m}{n}}}$ ($f_c$ = {fc/1e9:.2f} GHz)',
fontsize=12)
ax.set_xlabel('x [mm]')
ax.set_ylabel('y [mm]')
ax.set_aspect('equal')
plt.suptitle('Rectangular Waveguide — Transverse Electric Field Patterns',
fontsize=14, fontweight='bold')
plt.tight_layout()
plt.savefig('waveguide_mode_patterns.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このコードは、6 つの代表的なモードについて、導波管断面での横方向電界ベクトルと電界強度分布を描画します。上段の 3 つが TE モード(TE$_{10}$, TE$_{20}$, TE$_{11}$)、下段の 3 つが TM モード(TM$_{11}$, TM$_{21}$)と TE$_{21}$ モードです。
上のグラフから、いくつかの重要な特徴が読み取れます。
- TE$_{10}$ モードは最もシンプル — 電界は $y$ 方向のみで、$x$ 方向に正弦波状の 1 つの山を持ちます。中央で最大、壁面でゼロです。$m$ が増えると山の数が増え、$n$ が増えると $y$ 方向にも変動が現れます。
- TM モードでは壁面で電界がゼロ — $E_z$ がディリクレ条件を満たすことの帰結で、横方向電界も壁面近くで小さくなる傾向があります。対照的に TE モードでは $H_z$ のノイマン条件が課されるため、電界パターンが異なります。
- モード次数が高いほど空間的な変動が細かく — $(m, n)$ の値が大きいほど電磁界の「節」が増え、構造が複雑になります。高次モードほど遮断周波数も高くなります。
分散関係の可視化
次に、TE および TM モードの分散関係($\omega$-$\beta$ 図)と、位相速度・群速度の周波数依存性を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 導波管パラメータ (WR-90)
a = 22.86e-3
b = 10.16e-3
c0 = 3e8 # 光速
# 遮断周波数の計算
def cutoff_freq(m, n, a, b):
return (c0 / 2) * np.sqrt((m / a)**2 + (n / b)**2)
# モード一覧
modes = [
("TE", 1, 0), ("TE", 2, 0), ("TE", 0, 1),
("TE", 1, 1), ("TM", 1, 1), ("TE", 2, 1),
]
# 周波数範囲
f = np.linspace(0, 30e9, 1000)
omega = 2 * np.pi * f
k0 = omega / c0
fig, axes = plt.subplots(1, 3, figsize=(18, 5))
# --- (a) ω-β 分散関係 ---
ax1 = axes[0]
# 光線(自由空間)
ax1.plot(k0, omega / 1e9, 'k--', alpha=0.5, label='Light line ($\\omega = c\\beta$)')
for mode_type, m, n in modes:
fc = cutoff_freq(m, n, a, b)
kc = 2 * np.pi * fc / c0
beta = np.sqrt(np.maximum(k0**2 - kc**2, 0))
mask = k0 > kc
label = f'{mode_type}$_{{{m}{n}}}$ ($f_c$={fc/1e9:.1f} GHz)'
ax1.plot(beta[mask], omega[mask] / (2 * np.pi * 1e9), label=label, linewidth=1.5)
ax1.set_xlabel('$\\beta$ [rad/m]')
ax1.set_ylabel('Frequency [GHz]')
ax1.set_title('(a) Dispersion Relation')
ax1.legend(fontsize=8, loc='lower right')
ax1.set_xlim(0, 600)
ax1.set_ylim(0, 30)
ax1.grid(True, alpha=0.3)
# --- (b) 位相速度と群速度(TE10) ---
ax2 = axes[1]
fc10 = cutoff_freq(1, 0, a, b)
f_te10 = np.linspace(fc10 * 1.01, 30e9, 500)
ratio = fc10 / f_te10
vp = c0 / np.sqrt(1 - ratio**2)
vg = c0 * np.sqrt(1 - ratio**2)
ax2.plot(f_te10 / 1e9, vp / c0, 'b-', linewidth=2, label='Phase velocity $v_p/c$')
ax2.plot(f_te10 / 1e9, vg / c0, 'r-', linewidth=2, label='Group velocity $v_g/c$')
ax2.axhline(y=1, color='k', linestyle='--', alpha=0.5, label='$c$ (speed of light)')
ax2.axvline(x=fc10 / 1e9, color='gray', linestyle=':', alpha=0.7,
label=f'$f_c$ = {fc10/1e9:.2f} GHz')
ax2.set_xlabel('Frequency [GHz]')
ax2.set_ylabel('Velocity / $c$')
ax2.set_title('(b) Phase & Group Velocity (TE$_{10}$)')
ax2.legend(fontsize=9)
ax2.set_xlim(fc10 / 1e9, 30)
ax2.set_ylim(0, 5)
ax2.grid(True, alpha=0.3)
# --- (c) 管内波長(TE10) ---
ax3 = axes[2]
lambda0 = c0 / f_te10 # 自由空間波長
lambda_g = lambda0 / np.sqrt(1 - ratio**2)
ax3.plot(f_te10 / 1e9, lambda0 * 1e3, 'g--', linewidth=2,
label='Free-space $\\lambda_0$')
ax3.plot(f_te10 / 1e9, lambda_g * 1e3, 'm-', linewidth=2,
label='Guide wavelength $\\lambda_g$')
ax3.axvline(x=fc10 / 1e9, color='gray', linestyle=':', alpha=0.7,
label=f'$f_c$ = {fc10/1e9:.2f} GHz')
ax3.set_xlabel('Frequency [GHz]')
ax3.set_ylabel('Wavelength [mm]')
ax3.set_title('(c) Guide Wavelength (TE$_{10}$)')
ax3.legend(fontsize=9)
ax3.set_xlim(fc10 / 1e9, 30)
ax3.set_ylim(0, 100)
ax3.grid(True, alpha=0.3)
plt.suptitle('WR-90 Rectangular Waveguide — Dispersion Characteristics',
fontsize=14, fontweight='bold')
plt.tight_layout()
plt.savefig('waveguide_dispersion.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このコードは 3 つのサブプロットを描画します。(a) は各モードの $\omega$-$\beta$ 分散関係、(b) は TE$_{10}$ モードの位相速度と群速度の周波数依存性、(c) は管内波長の周波数依存性です。
上のグラフから、以下の重要な特性が確認できます。
- 分散関係は双曲線型 — 各モードの $\omega$-$\beta$ 曲線は、遮断周波数で $\beta = 0$ から始まり、高周波で光線($\omega = c\beta$)に漸近します。自由空間の線形な分散関係とは根本的に異なることがわかります。
- 位相速度は常に光速以上、群速度は常に光速以下 — 遮断周波数のすぐ上では位相速度が急激に大きくなり(理論上は無限大に発散)、群速度はゼロに近づきます。$v_p \cdot v_g = c^2$ の関係が成り立っていることも、2 つの曲線が光速の線に対して対称的であることから視覚的に読み取れます。
- 管内波長は遮断周波数付近で急激に長くなる — 遮断のすぐ上では $\lambda_g \gg \lambda_0$ となり、十分高い周波数では $\lambda_g \to \lambda_0$ に収束します。この特性は、導波管スロットアンテナの素子間隔設計などで重要になります。
TE$_{10}$ モードの 3 次元電磁界パターン
最後に、TE$_{10}$ モードの電界と磁界の 3 次元的なパターンを可視化します。$z$ 方向の伝搬に沿った電磁界の空間分布を立体的に確認しましょう。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from mpl_toolkits.mplot3d import Axes3D
# パラメータ
a = 22.86e-3
b = 10.16e-3
c0 = 3e8
f = 10e9 # 動作周波数 10 GHz
fc = c0 / (2 * a) # TE10 遮断周波数
beta = (2 * np.pi * f / c0) * np.sqrt(1 - (fc / f)**2)
lambda_g = 2 * np.pi / beta
# xz平面 (y = b/2) での Ey の分布
Nx, Nz = 30, 80
x = np.linspace(0, a, Nx)
z = np.linspace(0, 2 * lambda_g, Nz)
X_xz, Z_xz = np.meshgrid(x, z)
# Ey(x, z, t=0) の実部 ∝ sin(πx/a) * cos(βz)
Ey_xz = np.sin(np.pi * X_xz / a) * np.cos(beta * Z_xz)
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(16, 5))
# (a) Ey の xz 平面分布
ax1 = axes[0]
c1 = ax1.pcolormesh(Z_xz * 1e3, X_xz * 1e3, Ey_xz,
cmap='RdBu_r', shading='auto', vmin=-1, vmax=1)
ax1.set_xlabel('z [mm]')
ax1.set_ylabel('x [mm]')
ax1.set_title('(a) $E_y$ in xz-plane (y = b/2)', fontsize=12)
plt.colorbar(c1, ax=ax1, label='$E_y$ (normalized)')
# (b) 壁面電流密度(上面 y=b での Jx)
# Jx = Hz|_{y=b} ∝ cos(πx/a) * exp(-jβz)
Jx = np.cos(np.pi * X_xz / a) * np.cos(beta * Z_xz)
ax2 = axes[1]
c2 = ax2.pcolormesh(Z_xz * 1e3, X_xz * 1e3, Jx,
cmap='PiYG', shading='auto', vmin=-1, vmax=1)
ax2.set_xlabel('z [mm]')
ax2.set_ylabel('x [mm]')
ax2.set_title('(b) Surface Current $J_x$ on Top Wall (y = b)', fontsize=12)
plt.colorbar(c2, ax=ax2, label='$J_x$ (normalized)')
plt.suptitle(f'TE$_{{10}}$ Mode at {f/1e9:.0f} GHz ($\\lambda_g$ = {lambda_g*1e3:.1f} mm)',
fontsize=14, fontweight='bold')
plt.tight_layout()
plt.savefig('waveguide_te10_pattern.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
左のパネル (a) は、$y = b/2$ の平面における電界 $E_y$ の空間分布を示しています。赤と青の交互パターンは、電界が $z$ 方向に $\cos(\beta z)$ で振動していること、すなわち管内波長 $\lambda_g$ の周期で正負を繰り返す進行波であることを表しています。$x$ 方向には $\sin(\pi x / a)$ のプロファイルで、中央が最大、壁面がゼロです。
右のパネル (b) は、上面壁($y = b$)における表面電流密度 $J_x$ の分布です。表面電流は $H_z$ の接線成分に比例し、$\cos(\pi x / a)$ のパターンを持ちます。壁面で電流が最大になる位置は電界が最大になる位置とずれており(電界はサイン、電流はコサイン)、これはエネルギーの蓄積と散逸の空間分布を理解する上で重要です。壁面損失を低減するには、電流が強い部分の表面粗さを抑えたり、金めっきを施したりする手法が取られます。
まとめ
本記事では、導波管の電磁界理論を基礎から体系的に導出しました。
- 導波管は金属管内に電磁波を閉じ込めて伝送する構造であり、同軸ケーブルと比較して高周波帯で圧倒的に低損失・高耐電力です
- 矩形導波管の波動方程式を変数分離法で解くことで、TE モード($E_z = 0$)と TM モード($H_z = 0$)の電磁界成分がすべて求まります
- 遮断周波数 $f_{c,mn} = \frac{c}{2}\sqrt{(m/a)^2 + (n/b)^2}$ がモードの伝搬可否を決定し、$a > b$ のとき TE$_{10}$ が主モードとなります
- 位相速度は光速を超え、群速度は光速以下という分散特性を持ち、$v_p \cdot v_g = c^2$ の関係が成り立ちます
- 壁面損失は表面抵抗 $R_s$ と表面電流で決まり、空洞導波管は誘電体損失がゼロという利点があります
- 円形導波管ではベッセル関数が登場し、主モードは TE$_{11}$ です
導波管の理論は、マイクロ波回路設計のあらゆる場面で基盤となる知識です。導波管の概念を理解した上で、次はこの伝送構造を活用した具体的な回路要素やアンテナ構造の設計へ進みましょう。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。