伝送線路とは?分布定数回路・反射係数・定在波比(SWR)を図解で解説

スマートフォンの通信、高速CPUの配線、テレビのアンテナケーブル — 私たちの身の回りには、電気信号を「遠くまで正しく届ける」ための伝送線路が数えきれないほど存在します。低周波回路では「導線の長さ」を意識することはほとんどありません。しかし、周波数が高くなり信号の波長が回路のサイズと同程度になると、電圧や電流が線路上の位置によって異なるという、直感に反する現象が生じます。

たとえば、こんな問いに即答できるでしょうか。「アンテナのSWRが2.0だったとき、送信機から出した電力の何パーセントが戻ってきているのか」「長さ数センチの基板配線が、なぜGHz帯だとコンデンサやコイルのように振る舞うのか」。どちらも普通の回路理論では答えが出ませんが、伝送線路の理論を使えば数行の計算で決着します(答えはそれぞれ11.1%と、線路長が波長の何分の一かで決まる、です)。

伝送線路の理論は、この「回路の長さを無視できない」状況を扱うための基本的な枠組みです。この理論を理解すると、以下のような広い応用分野への扉が開きます。

  • 高周波回路設計: インピーダンス整合を正しく行い、信号の反射損失を最小化する
  • アンテナ工学: 給電線とアンテナの接続点でのインピーダンスマッチングを設計する
  • 高速デジタル回路: GHz帯の信号配線における反射やクロストークを制御する
  • 通信システム: 同軸ケーブルやマイクロストリップ線路の特性を予測し、伝送損失を見積もる

まず、この理論が必要になる瞬間を1枚の絵で見ておきましょう。次の図は、まったく同じ「1本の導線」に同じ正弦波を流したときの、ある瞬間の電圧分布を、線路の長さだけを変えて3通り並べたものです。

線路長が0.02λ・0.25λ・1.5λのときの瞬間電圧分布を比べた模式図。長くなるほど両端の電圧差が広がる

左のように線路長が波長の1/50(0.02λ)しかなければ、入力端の電圧 +1.00 に対して終端は +0.99 で、両端の電圧差はわずか 0.01 です。これなら「導線の両端は同電位」という普通の回路理論の前提がそのまま使えます。ところが中央の 0.25λ では終端の電圧が 0.00 になり、両端の差は 1.00 — 振幅と同じ大きさに達します。右の 1.5λ では終端が −1.00 まで振れ、差は 2.00、つまり「同じ導線の一方の端がプラス最大、もう一方がマイナス最大」という状態が起きています。導線の材質も長さ以外の条件も何ひとつ変えていないのに、波長との比だけでこれほど話が変わる、というのがこの記事の出発点です。

本記事の内容

  • 集中定数回路と分布定数回路の違い
  • テレグラフ方程式(電信方程式)の導出
  • 波動方程式と特性インピーダンス $Z_0$、伝搬定数 $\gamma$
  • 無損失線路の簡略化
  • 反射係数 $\Gamma$ と定在波比 SWR、そして反射電力の割合
  • 入力インピーダンスの公式と $\lambda/2$ 周期性
  • 短絡・開放・整合終端の特殊ケース、スタブ、$\lambda/4$ 変成器
  • スミスチャートの原理と、損失のある実際の線路

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

集中定数回路と分布定数回路

集中定数回路の限界

通常の回路理論 — たとえばキルヒホッフの法則やオームの法則を使った解析 — は、集中定数回路(lumped-element circuit) を前提としています。集中定数回路では、抵抗やコンデンサといった素子の物理的な大きさが信号の波長に比べて十分に小さいと仮定します。この仮定のもとでは、導線の両端で電圧は同じであり、電流は導線のどこでも同じ値を持ちます。

具体的に言えば、信号の波長を $\lambda$、回路の物理的な長さを $\ell$ としたとき、$\ell \ll \lambda$ であれば集中定数回路モデルは妥当です。家庭用の 50 Hz / 60 Hz 電源の波長は数千 km もあるので、部屋の中の配線を集中定数回路として扱っても全く問題ありません。

しかし、周波数が高くなると波長は短くなります。電磁波の波長は次の式で与えられます。

$$ \lambda = \frac{v}{f} $$

ここで $v$ は電磁波の位相速度、$f$ は周波数です。たとえば、1 GHz の信号が自由空間を伝わる場合、波長は $\lambda = 3 \times 10^8 / 10^9 = 0.3$ m、つまり 30 cm です。プリント基板上の配線長が数 cm〜10 cm 程度あれば、もはや波長と同程度になり、集中定数モデルは破綻します。

分布定数回路の考え方

信号の波長と回路の長さが同程度のとき、電圧と電流は線路上の位置に依存して変化します。この状況をモデル化するのが分布定数回路(distributed-element circuit) です。

分布定数回路では、伝送線路を無限に細かい微小区間 $\Delta z$ に分割し、各区間に抵抗 $R\Delta z$、インダクタンス $L\Delta z$、コンダクタンス $G\Delta z$、キャパシタンス $C\Delta z$ が含まれるとモデル化します。ここで、$R$, $L$, $G$, $C$ はすべて単位長さあたりの値です。

イメージとしては、1本のケーブルを虫眼鏡で見ると、微小区間ごとにRLGCの等価回路がずらりと並んでいるような状態です。この「分布した素子」の連なりが波動的な振る舞いを生み出します。絵にすると次のようになります。

伝送線路の微小区間ΔzをR・L・G・Cで表した分布定数回路の等価回路図

この図で本質的なのは、素子が「直列」と「並列」の両方に入っていることです。直列の $L\Delta z$ は電流を急に変えられなくし、並列の $C\Delta z$ は電圧を急に変えられなくします。この2つが交互に並ぶと、区間 $n$ の電流変化が区間 $n+1$ の電圧変化を引き起こし、それがまた次の区間の電流を動かす — というバケツリレーが生まれます。これが「波が伝わる」ことの回路的な正体で、$R\Delta z$ と $G\Delta z$ はそのバケツリレーの途中で水がこぼれる(エネルギーが熱になる)分に相当します。左右に点線で描いたとおり、この区間は線路の全長にわたって無限に続いていると考えます。

パラメータ 記号 単位 物理的起源
直列抵抗 $R$ $\Omega/\text{m}$ 導体の抵抗損失
直列インダクタンス $L$ $\text{H/m}$ 導体周りの磁束
並列コンダクタンス $G$ $\text{S/m}$ 絶縁体の漏れ電流
並列キャパシタンス $C$ $\text{F/m}$ 導体間の電界

$R$ と $G$ はエネルギー損失を表し、$L$ と $C$ はエネルギー蓄積を表します。損失のない理想的な線路(無損失線路)では $R = 0$, $G = 0$ となり、数式が大幅に簡略化されます。

ここまでで、伝送線路を分布定数回路としてモデル化する動機と基本的な枠組みを理解しました。次に、この微小区間モデルにキルヒホッフの法則を適用して、電圧と電流が満たす基本方程式 — テレグラフ方程式 — を導出します。

テレグラフ方程式の導出

微小区間のモデル

伝送線路上の位置 $z$ から $z + \Delta z$ までの微小区間を考えます。この区間の等価回路は、直列インピーダンス($R\Delta z$ と $L\Delta z$ の直列接続)と並列アドミタンス($G\Delta z$ と $C\Delta z$ の並列接続)で構成されます。

位置 $z$ における電圧を $V(z, t)$、電流を $I(z, t)$ とします。時間領域で議論を始めますが、最終的にはフェーザ表示(正弦波定常状態)に移行します。

KVLの適用

微小区間の入力側から出力側に向かって、キルヒホッフの電圧則(KVL)を適用します。直列インピーダンスによる電圧降下を考えると、次の関係が成り立ちます。

$$ V(z, t) – R\Delta z \cdot I(z, t) – L\Delta z \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} = V(z + \Delta z, t) $$

右辺を左辺に移項して整理します。

$$ V(z, t) – V(z + \Delta z, t) = R\Delta z \cdot I(z, t) + L\Delta z \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} $$

両辺を $\Delta z$ で割ります。

$$ -\frac{V(z + \Delta z, t) – V(z, t)}{\Delta z} = R \cdot I(z, t) + L \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t} $$

$\Delta z \to 0$ の極限を取ると、左辺は偏微分の定義そのものです。

$$ \boxed{-\frac{\partial V(z, t)}{\partial z} = R \cdot I(z, t) + L \cdot \frac{\partial I(z, t)}{\partial t}} $$

これが伝送線路の第一のテレグラフ方程式です。

KCLの適用

同様に、位置 $z + \Delta z$ のノードでキルヒホッフの電流則(KCL)を適用します。並列アドミタンスを通じて漏れる電流を考えると、次の関係が得られます。

$$ I(z, t) – G\Delta z \cdot V(z + \Delta z, t) – C\Delta z \cdot \frac{\partial V(z + \Delta z, t)}{\partial t} = I(z + \Delta z, t) $$

同様に整理し、$\Delta z$ で割って極限を取ります。$\Delta z \to 0$ では $V(z + \Delta z, t) \to V(z, t)$ となるため、次式を得ます。

$$ \boxed{-\frac{\partial I(z, t)}{\partial z} = G \cdot V(z, t) + C \cdot \frac{\partial V(z, t)}{\partial t}} $$

これが第二のテレグラフ方程式です。

フェーザ表示への変換

正弦波定常状態(角周波数 $\omega$)を仮定し、電圧と電流をフェーザ $\tilde{V}(z)$, $\tilde{I}(z)$ で表すと、時間微分 $\partial / \partial t$ は $j\omega$ に置き換わります。テレグラフ方程式は次のようにコンパクトになります。

$$ \boxed{-\frac{d\tilde{V}(z)}{dz} = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z)} $$

$$ \boxed{-\frac{d\tilde{I}(z)}{dz} = (G + j\omega C)\,\tilde{V}(z)} $$

ここで、直列インピーダンス密度 $Z’ = R + j\omega L$ と並列アドミタンス密度 $Y’ = G + j\omega C$ を定義すると、さらに簡潔に書けます。

$$ -\frac{d\tilde{V}}{dz} = Z’\,\tilde{I}, \quad -\frac{d\tilde{I}}{dz} = Y’\,\tilde{V} $$

このように、テレグラフ方程式は電圧と電流が互いにカップルした連立一階微分方程式です。次に、この連立方程式を一つの変数について解くことで、波動方程式を得ます。

波動方程式と一般解

波動方程式の導出

テレグラフ方程式の第一式を $z$ でもう一度微分します。

$$ -\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = Z’\frac{d\tilde{I}}{dz} $$

右辺の $d\tilde{I}/dz$ に第二のテレグラフ方程式 $d\tilde{I}/dz = -Y’\tilde{V}$ を代入すると、次式を得ます。

$$ -\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = Z'(-Y’\tilde{V}) $$

整理すると、電圧に関する波動方程式が得られます。

$$ \boxed{\frac{d^2\tilde{V}}{dz^2} = \gamma^2 \tilde{V}} $$

ここで、伝搬定数(propagation constant) $\gamma$ を次のように定義しました。

$$ \boxed{\gamma = \sqrt{Z’Y’} = \sqrt{(R + j\omega L)(G + j\omega C)}} $$

同様の手順で電流についても波動方程式が得られます。

$$ \frac{d^2\tilde{I}}{dz^2} = \gamma^2 \tilde{I} $$

一般解

上の波動方程式は定係数の二階線形常微分方程式であり、一般解は指数関数の重ね合わせです。

$$ \tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-\gamma z} + V_0^- e^{+\gamma z} $$

ここで、$V_0^+$ は $+z$ 方向に進む進行波(forward wave)、$V_0^-$ は $-z$ 方向に進む反射波(backward wave) の振幅です。指数の符号に注意してください。$e^{-\gamma z}$ は $z$ が増加する方向に減衰しながら進む波を表し、$e^{+\gamma z}$ はその逆方向に進む波を表します。

「なぜこれが波なのか」は、時間項 $e^{j\omega t}$ を掛けて実部を取ってみると一目でわかります。無損失($\gamma = j\beta$)の場合、$\mathrm{Re}[V_0^+ e^{-j\beta z} e^{j\omega t}] = |V_0^+|\cos(\omega t – \beta z)$ です。この関数を、時刻を少しずつ進めながらスナップショットで重ねて描いたのが次の図です。

進行波cos(ωt−βz)の時間スナップショットと、山の位置が一定速度で移動することを示すグラフ

上段の4本の曲線は $t = 0,\ 0.25T,\ 0.5T,\ 0.75T$ での電圧分布で、波形が形を変えずにそっくり右へずれていくことがわかります。振幅も波長も変わらず、位置だけが平行移動する — これが「進行波」の定義そのものです。下段は山(位相 $0$ の点)と谷(位相 $\pi$ の点)の位置を時間の関数として追跡したもので、傾きは実測でちょうど 1.00 波長/周期になりました。波長と周期で正規化しているので、この傾き 1.00 は $v_p = \lambda / T = \omega / \beta$ に対応します。山も谷も同じ傾きの平行線になっていることから、波形全体が同じ速度で動いていることも確認できます。

同様に、電流の一般解は次のようになります(テレグラフ方程式の第一式から導かれます)。

$$ \tilde{I}(z) = \frac{V_0^+}{Z_0} e^{-\gamma z} – \frac{V_0^-}{Z_0} e^{+\gamma z} $$

電流の式で反射波の前にマイナス符号がついていることに注意してください。これは、反射波では電圧と電流の比が $-Z_0$ になることを意味しています。進行波と反射波では電力の流れる方向が逆なので、電流の向きが反転するのは物理的に自然です。

ここまでの導出で、波動方程式の一般解に特性インピーダンス $Z_0$ という新しい量が現れました。次のセクションで、この $Z_0$ と伝搬定数 $\gamma$ の物理的意味を詳しく見ていきます。

特性インピーダンスと伝搬定数

特性インピーダンス $Z_0$

特性インピーダンスとは何でしょうか。日常のアナロジーで考えてみましょう。ホースに水を流すとき、ホースの太さや材質によって「水の流れやすさ」が決まります。太いホースなら低い水圧でもたくさんの水が流れ、細いホースなら高い水圧が必要です。伝送線路の特性インピーダンスもこれと似ていて、線路上を進む波の「電圧と電流の比」 を表します。

テレグラフ方程式の第一式に進行波成分 $\tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-\gamma z}$ を代入すると、次のように導出できます。

$$ -\frac{d}{dz}\left(V_0^+ e^{-\gamma z}\right) = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z) $$

左辺を微分します。

$$ \gamma V_0^+ e^{-\gamma z} = (R + j\omega L)\,\tilde{I}(z) $$

$\tilde{I}(z)$ について解きます。

$$ \tilde{I}(z) = \frac{\gamma}{R + j\omega L} V_0^+ e^{-\gamma z} $$

進行波における電圧と電流の比が特性インピーダンス $Z_0$ です。

$$ Z_0 = \frac{\tilde{V}(z)}{\tilde{I}(z)} = \frac{R + j\omega L}{\gamma} $$

$\gamma = \sqrt{(R + j\omega L)(G + j\omega C)}$ を代入して整理すると、最終的に次の式を得ます。

$$ \boxed{Z_0 = \sqrt{\frac{R + j\omega L}{G + j\omega C}}} $$

特性インピーダンスは線路の単位長さあたりのパラメータ $R$, $L$, $G$, $C$ と周波数 $\omega$ で決まり、線路の長さには依存しません。これは「ホースの太さ」がホースの長さに依存しないのと同じです。一般に $Z_0$ は複素数ですが、無損失線路では実数になります。

この「線路の長さに依存しない」という性質には、もっと踏み込んだ意味があります。もし線路が無限に長ければ、入り口から見たインピーダンスはそもそも終端の存在を知りようがなく、$Z_0$ そのものになるはずです。実際にそうなることを、わずかに損失のある線路($\alpha = 0.5$ Np/波長)で長さを変えながら計算して確かめたのが次の図の左です。

線路が長くなると終端によらず入力インピーダンスがZ0に収束する図と、同軸の寸法比とZ0の関係

左のグラフでは、終端を短絡(0 $\Omega$)、5 $\Omega$、200 $\Omega$、開放と極端に振っていますが、線路長が1波長のときには $|Z_\text{in}|$ が 23.1、26.9、78.3、108.0 $\Omega$ とばらばらだったものが、5波長では 49.3、49.5、50.4、50.7 $\Omega$ と、すべて $Z_0 = 50\;\Omega$ の1%程度以内に収まっています。終端が何であれ忘れられていく、という直感が数値でそのまま出ています。右のグラフは、同軸線路の $Z_0$ が外導体内径と内導体外径の比 $b/a$ と誘電体だけで決まることを示したもので、ポリエチレン充填($\varepsilon_r = 2.25$)の場合、50 $\Omega$ には $b/a = 3.49$、75 $\Omega$ には $b/a = 6.53$ が必要だと読み取れます。ケーブルの太さそのものではなく「比」で決まるという点が、$Z_0 = \sqrt{L/C}$ が長さに依存しないことと同じ理由に基づいています。

代表的な伝送線路の特性インピーダンスは以下のとおりです。

伝送線路の種類 典型的な $Z_0$
同軸ケーブル(テレビ用) 75 $\Omega$
同軸ケーブル(通信用) 50 $\Omega$
ツイストペアケーブル 100〜120 $\Omega$
マイクロストリップ線路 設計値(通常50 $\Omega$)
自由空間(平面波) 377 $\Omega$

伝搬定数 $\gamma = \alpha + j\beta$

伝搬定数 $\gamma$ は一般に複素数であり、実部と虚部に分けて書くことができます。

$$ \gamma = \alpha + j\beta $$

ここで、$\alpha$ は減衰定数(attenuation constant)、$\beta$ は位相定数(phase constant) と呼ばれます。

進行波 $V_0^+ e^{-\gamma z} = V_0^+ e^{-\alpha z} e^{-j\beta z}$ を見ると、各成分の役割が明瞭です。

  • $e^{-\alpha z}$: 伝搬するにつれて指数的に振幅が減衰する。$\alpha$ の単位は Np/m(ネーパ毎メートル)または dB/m に変換できます。
  • $e^{-j\beta z}$: 位置 $z$ に応じて位相が回転する。この回転が「波」の正体です。$\beta$ の単位は rad/m です。

位相速度と波長

位相定数 $\beta$ から、線路上を伝わる波の位相速度 $v_p$ と波長 $\lambda$ が求まります。

$$ \boxed{v_p = \frac{\omega}{\beta}, \quad \lambda = \frac{2\pi}{\beta}} $$

自由空間の光速 $c$ とは異なり、線路上の位相速度は線路の構造と周囲の誘電体に依存します。たとえば、誘電体で充填された同軸ケーブル内では $v_p = c / \sqrt{\varepsilon_r}$ となり、比誘電率 $\varepsilon_r > 1$ のために自由空間より遅くなります。

ここまでで、伝搬定数と特性インピーダンスという二つの基本量を定義しました。次に、損失のない理想的な線路(無損失線路)の場合に、これらの式がどう簡略化されるかを見ていきます。実際の高周波設計では、まず無損失線路で考え、その後に損失を摂動として扱うことが一般的です。

無損失線路

簡略化条件

無損失線路とは、導体の抵抗損失と絶縁体の漏れ損失が無視できる理想的な伝送線路です。すなわち、次の条件を置きます。

$$ R = 0, \quad G = 0 $$

この条件は非現実的に見えるかもしれませんが、高品質な同軸ケーブルやマイクロストリップ線路では、短い線路長に対して損失は極めて小さく、無損失近似は優れた第一近似を与えます。

無損失線路の伝搬定数と特性インピーダンス

$R = 0$, $G = 0$ を代入すると、伝搬定数は次のように簡略化されます。

$$ \gamma = \sqrt{j\omega L \cdot j\omega C} = \sqrt{(j)^2 \omega^2 LC} = j\omega\sqrt{LC} $$

よって、減衰定数と位相定数はそれぞれ次のようになります。

$$ \alpha = 0, \quad \beta = \omega\sqrt{LC} $$

減衰定数がゼロ、すなわち信号は減衰せずに伝搬します。これが「無損失」の意味です。

特性インピーダンスも実数に簡略化されます。

$$ Z_0 = \sqrt{\frac{j\omega L}{j\omega C}} = \sqrt{\frac{L}{C}} $$

$$ \boxed{Z_0 = \sqrt{\frac{L}{C}} \quad (\text{実数})} $$

無損失線路の特性インピーダンスは周波数に依存せず、単位長さあたりの $L$ と $C$ だけで決まります。たとえば、同軸ケーブルの $L$ と $C$ は内外導体の半径比と誘電体の特性で決まるため、$Z_0$ はケーブルの幾何学的構造のみで定まるパラメータです。

位相速度

無損失線路での位相速度は次式で与えられます。

$$ v_p = \frac{\omega}{\beta} = \frac{\omega}{\omega\sqrt{LC}} = \frac{1}{\sqrt{LC}} $$

この位相速度も周波数に依存しません。つまり、無損失線路は無分散(dispersionless) であり、すべての周波数成分が同じ速度で伝搬します。パルス信号を送っても波形が崩れないという重要な性質です。

無損失線路の電圧・電流

無損失線路上の電圧と電流は次のようになります。

$$ \tilde{V}(z) = V_0^+ e^{-j\beta z} + V_0^- e^{+j\beta z} $$

$$ \tilde{I}(z) = \frac{V_0^+}{Z_0} e^{-j\beta z} – \frac{V_0^-}{Z_0} e^{+j\beta z} $$

これらの式は、進行波と反射波の干渉を記述しています。ここで重要な疑問が生まれます — そもそも、反射波はなぜ生じるのでしょうか? その答えは、線路の終端(負荷)にあります。次のセクションで、負荷インピーダンスと反射係数の関係を明らかにします。

反射係数

反射が起こるメカニズム

水の波がプールの壁にぶつかると跳ね返るように、電気信号も伝送線路の終端で「反射」します。ただし、反射の大きさは終端の条件に依存します。終端のインピーダンスが特性インピーダンスと一致していれば反射は生じず、一致していなければ反射が起こります。

なぜでしょうか。進行波は特性インピーダンス $Z_0$ のもとで電圧と電流の比 $V/I = Z_0$ を維持しながら進みます。終端に到達すると、負荷インピーダンス $Z_L$ が $V/I = Z_L$ という別の比率を要求します。$Z_0 \neq Z_L$ のとき、この矛盾を解消するために反射波が生じ、全体の電圧と電流が負荷の境界条件を満たすように調整されるのです。

反射係数の定義と導出

伝送線路の終端($z = 0$)に負荷インピーダンス $Z_L$ が接続されている場合を考えます。ここでは、負荷を原点 $z = 0$ に置き、$z$ は負荷から電源に向かう方向を負とする座標系を使います(慣例的な定義)。

負荷端($z = 0$)での境界条件は次のとおりです。

$$ Z_L = \frac{\tilde{V}(0)}{\tilde{I}(0)} $$

電圧と電流の一般解に $z = 0$ を代入します。

$$ \tilde{V}(0) = V_0^+ + V_0^- $$

$$ \tilde{I}(0) = \frac{V_0^+ – V_0^-}{Z_0} $$

これらを境界条件に代入します。

$$ Z_L = \frac{V_0^+ + V_0^-}{\dfrac{V_0^+ – V_0^-}{Z_0}} = Z_0 \cdot \frac{V_0^+ + V_0^-}{V_0^+ – V_0^-} $$

負荷端での反射係数 $\Gamma_L$ を、反射波と進行波の振幅比として定義します。

$$ \Gamma_L = \frac{V_0^-}{V_0^+} $$

先ほどの式を $\Gamma_L$ で書き直すために、分子分母を $V_0^+$ で割ります。

$$ Z_L = Z_0 \cdot \frac{1 + \Gamma_L}{1 – \Gamma_L} $$

この式を $\Gamma_L$ について解きます。まず、両辺に $(1 – \Gamma_L)$ を掛けます。

$$ Z_L(1 – \Gamma_L) = Z_0(1 + \Gamma_L) $$

展開して $\Gamma_L$ を含む項を一方にまとめます。

$$ Z_L – Z_L \Gamma_L = Z_0 + Z_0 \Gamma_L $$

$\Gamma_L$ を含む項を右辺に、定数項を左辺にまとめると、次のようになります。

$$ Z_L – Z_0 = (Z_L + Z_0)\Gamma_L $$

最終的に、負荷端の反射係数は次のようになります。

$$ \boxed{\Gamma_L = \frac{Z_L – Z_0}{Z_L + Z_0}} $$

この式は伝送線路理論における最も基本的で重要な式の一つです。反射係数は負荷インピーダンスと特性インピーダンスの差で決まります。$Z_L = Z_0$ のとき $\Gamma_L = 0$(反射なし = 整合)、$Z_L = 0$(短絡)のとき $\Gamma_L = -1$(全反射、位相反転)、$Z_L \to \infty$(開放)のとき $\Gamma_L = +1$(全反射、位相保持)です。

この4通りの違いは、正弦波よりも短いパルスを1発だけ撃ち込んでみると劇的に見えます。次の図は、線路の左端からガウス形のパルスを送り込み、時間を追って(上から下へ)電圧分布を並べたものです。

整合・開放・短絡・任意負荷の4条件でパルスが負荷で反射する様子を時間順に並べた図

左上の整合終端($\Gamma = 0.000$)では、パルスは負荷に到達したあと跡形もなく消えます。エネルギーが100%負荷に吸収されたということです。右上の開放終端($\Gamma = +1.000$)では、同じ振幅・同じ極性のパルスがそっくり戻ってきます。左下の短絡終端($\Gamma = -1.000$)も同じ振幅で戻りますが、上下が反転しています。$\Gamma$ の符号が負であることが、そのまま波形の反転として現れているわけです。右下の $Z_L = 150\;\Omega$($\Gamma = +0.500$)では、振幅が半分のパルスだけが同極性で戻り、残りは負荷に吸収されます。$\Gamma$ の絶対値が「どれだけ戻るか」、符号(一般には位相)が「どんな形で戻るか」を決めている、という役割分担がはっきり見て取れます。

線路上の任意の点での反射係数

負荷端から距離 $d$($z = -d$)の点での反射係数は、位相の回転を受けて次のようになります。

$$ \Gamma(d) = \Gamma_L e^{-j2\beta d} $$

ここで $e^{-j2\beta d}$ は、進行波が距離 $d$ だけ進み、反射して同じ距離を戻ってくるまでの往復の位相遅れ $2\beta d$ を表しています。反射係数の大きさ $|\Gamma|$ は線路上で一定ですが、位相は $z$ の位置に応じて回転します。これがスミスチャートの動作原理の基礎でもあります。

反射係数の概念を理解したところで、進行波と反射波が重なり合うことで生じる「定在波」について見ていきましょう。

定在波と VSWR

定在波パターン

進行波と反射波が同時に存在する線路では、両者の干渉によって定在波(standing wave) が形成されます。定在波という名前は、干渉パターンが空間的に固定される(時間とともに移動しない)ことに由来します。

ここが直感的に引っかかりやすいところです。「進む波」を2つ足したのに、なぜ「進まない模様」ができるのでしょうか。答えは、右へ進む波と左へ進む波が足し算されると、ある位置では常に打ち消し合い、別の位置では常に強め合うからです。打ち消し合う位置()と強め合う位置()は時間によらず固定されるため、全体としては「振幅が場所ごとに違う、その場で振動するだけの波」に見えます。次の図で実際に確かめてみましょう。

入射波と反射波の重ね合わせから定在波が形成される様子と包絡線を示した図

左列は開放終端($\Gamma = +1$)です。上段を見ると入射波(青)と反射波(橙の破線)が完全に重なっており、その和(緑)はちょうど振幅2倍になっています。下段では時刻を7通り変えた合成波(灰色の細線)を重ね描きしていますが、$d = 0.25\lambda$ と $d = 0.75\lambda$ ではどの時刻でも電圧がゼロで、灰色の線がすべて1点で交差しています。これが節です。包絡線(赤紫)の最大は 2.000、最小は 0 で、比は無限大 — つまりSWR $= \infty$ です。右列は $Z_L = 100\;\Omega$($\Gamma = +1/3$)の部分反射で、反射波の振幅が入射波の1/3しかないため打ち消しが不完全になり、包絡線の最大 1.333・最小 0.667、その比はちょうど 2.000 になりました。反射が弱いほど「うねり」が浅くなる、という関係がここに現れています。

では、この包絡線を数式で書き下してみましょう。無損失線路上の電圧の大きさ $|\tilde{V}(d)|$ を、負荷からの距離 $d$ の関数として求めます。

$$ \tilde{V}(d) = V_0^+ \left(e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

$\Gamma_L = |\Gamma_L| e^{j\theta_\Gamma}$ と書くと($\theta_\Gamma$ は反射係数の位相)、電圧の大きさは次のようになります。

$$ |\tilde{V}(d)| = |V_0^+| \left|e^{j\beta d} + |\Gamma_L| e^{j(\theta_\Gamma – \beta d)}\right| $$

この式の絶対値を計算するには、複素数の和の絶対値を求めます。結果は次式です。

$$ |\tilde{V}(d)| = |V_0^+| \sqrt{1 + |\Gamma_L|^2 + 2|\Gamma_L|\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d)} $$

$\cos$ の項が $d$ に依存して変動するため、電圧の大きさは線路上の位置によって周期的に変化します。この変動パターンが定在波です。

電圧の最大値と最小値

$\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d) = +1$ のとき電圧は最大となり、$\cos(\theta_\Gamma – 2\beta d) = -1$ のとき最小となります。

$$ |\tilde{V}|_{\max} = |V_0^+|(1 + |\Gamma_L|) $$

$\cos$ が $-1$ となる位置では進行波と反射波が逆位相で打ち消し合うため、電圧は最小値を取ります。

$$ |\tilde{V}|_{\min} = |V_0^+|(1 – |\Gamma_L|) $$

最大値と最小値の間隔は $\lambda/4$(四分の一波長)です。これは $\cos$ 関数の引数が $2\beta d$ で変化し、$2\beta \cdot (\lambda/4) = 2 \cdot (2\pi/\lambda) \cdot (\lambda/4) = \pi$ だけ変化する、つまり $\cos$ が半周期分進むためです。

定在波比 VSWR

電圧定在波比 VSWR(Voltage Standing Wave Ratio) は、定在波パターンの電圧最大値と最小値の比として定義されます。

$$ \boxed{\text{VSWR} = \frac{|\tilde{V}|_{\max}}{|\tilde{V}|_{\min}} = \frac{1 + |\Gamma_L|}{1 – |\Gamma_L|}} $$

なお、実務では VSWR を単に SWR と呼ぶことも多く、本記事でも以降は両方を同じ意味で使います。

この定義は「波形を測って最大値と最小値の比を取る」という、測定器で直接実行できる手順そのものです。そこで、負荷インピーダンスを変えながら包絡線を計算し、その最大値と最小値の比が本当に $(1+|\Gamma_L|)/(1-|\Gamma_L|)$ と一致するかを確かめてみます。

負荷インピーダンスごとの定在波包絡線と、実測SWRが公式(1+|Γ|)/(1−|Γ|)と一致することを示す棒グラフ

左のグラフは $Z_L = 50, 75, 100, 150, 250\;\Omega$ に対する包絡線です。整合(50 $\Omega$)では完全に平坦な直線になり、負荷が $Z_0$ から離れるほどうねりが深くなっていきます。うねりの山と谷の間隔はどの曲線でも $\lambda/4$ で共通していて、負荷が変わっても変わるのは「深さ」だけだという点が確認できます。右の棒グラフは、包絡線から数値的に読み取った最大/最小(青)と、公式に $|\Gamma_L|$ を入れて計算した値(黄)の比較です。$Z_L = 75\;\Omega$ で 1.500、$100\;\Omega$ で 2.000、$150\;\Omega$ で 3.000、$250\;\Omega$ で 5.000 と、両者は小数点以下4桁まで完全に一致しました(最大の食い違いでも $4.4\times10^{-16}$、要するに浮動小数点の丸め誤差だけです)。

VSWRの逆の関係式も有用です。

$$ |\Gamma_L| = \frac{\text{VSWR} – 1}{\text{VSWR} + 1} $$

反射係数・SWR・反射電力の対応表

現場では「SWRがいくつだった」という言い方をしますが、本当に知りたいのはたいてい「送った電力のうち何パーセントが無駄になったのか」です。この2つは $|\Gamma|$ を経由して結びついています。電力は電圧振幅の2乗に比例するので、負荷に届かず戻ってくる電力の割合は次式です。

$$ \frac{P_\text{反射}}{P_\text{入射}} = |\Gamma|^2 $$

そして、この反射の程度をdBで表したものがリターンロス(return loss) です。

$$ \text{RL [dB]} = -20\log_{10}|\Gamma| $$

リターンロスは「戻ってきた電力が入射に比べて何dB下か」を表すので、値が大きいほど良い(反射が小さい)という、SWRとは逆向きの指標である点に注意してください。一方、負荷に届いた電力が理想(全部届いた場合)より何dB少ないかを表すのがミスマッチ損(mismatch loss) です。届く電力の割合が $1 – |\Gamma|^2$ なので、次のようになります。

$$ \text{ML [dB]} = -10\log_{10}\left(1 – |\Gamma|^2\right) $$

この3つ(SWR・反射電力の割合・dB表示)の対応を実際に計算して並べたのが次の図です。

SWRに対する反射電力の割合・リターンロス・ミスマッチ損の曲線と数値対応表

右の表が実務でそのまま使える換算表です。SWR 1.5 なら $|\Gamma| = 0.2000$ で反射電力は 4.00%、SWR 2.0 なら $|\Gamma| = 0.3333$ で 11.11%、SWR 3.0 なら $|\Gamma| = 0.5000$ で 25.00% が戻ります。左のグラフを見ると、SWRが1から2へ悪化する間に反射電力が0%から11%へ、さらに3へ進むと25%へと、加速度的に増えていく様子がわかります。一方でミスマッチ損の列に注目すると、SWR 2.0 でも負荷に届かない分は 0.512 dB しかありません。反射電力11%は一見大きく感じますが、電力比では約89%が届いているので、送信電力のロスという意味では0.5dB程度の話にすぎない、ということです。SWR 2.0 が実用上の許容ラインとされることが多いのは、この「損失自体は0.5dBで済む」ことと、送信機側が戻ってきた電力に耐えられる限界とのバランスによります。

以上の表を作った上で、下の対応関係を頭に入れておくと計算なしで見積もれます。

SWR $\|\Gamma\|$ 反射電力 リターンロス ミスマッチ損
1.0 0.0000 0.00% $\infty$ dB 0.000 dB
1.1 0.0476 0.23% 26.44 dB 0.010 dB
1.2 0.0909 0.83% 20.83 dB 0.036 dB
1.5 0.2000 4.00% 13.98 dB 0.177 dB
2.0 0.3333 11.11% 9.54 dB 0.512 dB
2.5 0.4286 18.37% 7.36 dB 0.881 dB
3.0 0.5000 25.00% 6.02 dB 1.249 dB
5.0 0.6667 44.44% 3.52 dB 2.553 dB

定在波の概念を理解したところで、次に実用的に非常に重要な量 — 任意の位置から負荷側を見たときのインピーダンス(入力インピーダンス)を導出します。定在波が「電圧の大きさが場所によって違う」ことを教えてくれたのなら、入力インピーダンスは「電圧と電流の比が場所によって違う」ことを教えてくれます。

入力インピーダンス

入力インピーダンスの導出

負荷端から距離 $d$ の点で線路を切断し、そこから負荷側を覗いたときに見えるインピーダンスを入力インピーダンス $Z_\text{in}(d)$ と呼びます。これは、その点の電圧と電流の比として定義されます。

$$ Z_\text{in}(d) = \frac{\tilde{V}(d)}{\tilde{I}(d)} $$

無損失線路上の電圧と電流を、負荷からの距離 $d$ の関数として書きます($z = -d$ に対応)。

$$ \tilde{V}(d) = V_0^+\left(e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

$$ \tilde{I}(d) = \frac{V_0^+}{Z_0}\left(e^{j\beta d} – \Gamma_L e^{-j\beta d}\right) $$

比を取ります。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{e^{j\beta d} + \Gamma_L e^{-j\beta d}}{e^{j\beta d} – \Gamma_L e^{-j\beta d}} $$

ここで $\Gamma_L = (Z_L – Z_0)/(Z_L + Z_0)$ を代入します。分子と分母をそれぞれ展開するのは煩雑なので、次のテクニックを使います。分子と分母に $e^{-j\beta d}(Z_L + Z_0)$ を掛けてまとめると(途中の代数的操作を省略しますが、結果は以下のとおりです)、次の有名な公式が得られます。

$$ \boxed{Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_L\tan(\beta d)}} $$

この入力インピーダンスの公式は、伝送線路理論の実用上最も重要な式です。負荷インピーダンス $Z_L$、特性インピーダンス $Z_0$、電気長 $\beta d$ がわかれば、線路上の任意の点で見たインピーダンスを計算できます。

導出の詳細を示します。$\Gamma_L$ を代入した後の分子を計算します。

$$ e^{j\beta d} + \frac{Z_L – Z_0}{Z_L + Z_0} e^{-j\beta d} $$

$(Z_L + Z_0)$ を掛けて通分します。

$$ = \frac{(Z_L + Z_0)e^{j\beta d} + (Z_L – Z_0)e^{-j\beta d}}{Z_L + Z_0} $$

指数関数をオイラーの公式で展開すると、$(Z_L + Z_0)e^{j\beta d} + (Z_L – Z_0)e^{-j\beta d}$ は次のようになります。

$$ = Z_L(e^{j\beta d} + e^{-j\beta d}) + Z_0(e^{j\beta d} – e^{-j\beta d}) $$

オイラーの公式 $e^{j\theta} + e^{-j\theta} = 2\cos\theta$, $e^{j\theta} – e^{-j\theta} = 2j\sin\theta$ を適用します。

$$ = 2Z_L\cos(\beta d) + 2jZ_0\sin(\beta d) $$

同様に分母を計算すると、次のようになります。

$$ = 2Z_0\cos(\beta d) + 2jZ_L\sin(\beta d) $$

$2\cos(\beta d)$ でくくって $\tan(\beta d)$ の形に整理すると、先ほどの公式が得られます。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_L\tan(\beta d)} $$

この公式は $\beta d$、つまり線路の電気長が $\tan$ の引数に入っている点が特徴的です。線路の物理長が波長の何倍かによって入力インピーダンスが周期的に変化するということです。$\tan$ の周期は $\pi$ なので、$\beta d$ が $\pi$ 増える長さ、すなわち $d = \lambda/2$ ごとに $Z_\text{in}$ は元の値に戻ります。

この周期性を、2種類の負荷について実際に計算したのが次の図です。

入力インピーダンスが線路長に対してλ/2周期で繰り返す様子を実部・虚部で示したグラフ

左は純抵抗負荷 $Z_L = 100\;\Omega$ の場合です。$d = 0$ では当然 $100 + 0j\;\Omega$ ですが、$\lambda/4$ 進むと $25.0 + 0.0j\;\Omega$ になりました。これは $Z_0^2 / Z_L = 50^2/100 = 25\;\Omega$ と一致しており、後で扱う $\lambda/4$ 変成器の公式がここに顔を出しています。そして $\lambda/2$ ではきっちり $100.0 + 0.0j\;\Omega$ に戻っています。右は複素負荷 $Z_L = 25 – j40\;\Omega$ の場合で、途中では実部が最大 175 $\Omega$ 近くまで跳ね上がり虚部も $\pm 80\;\Omega$ 振れますが、$\lambda/4$ で $28.1 + 44.9j\;\Omega$($Z_0^2/Z_L$ の計算値 $28.09 + 44.94j$ と一致)、$\lambda/2$ で $25.0 – 40.0j\;\Omega$ と、やはり元の負荷値に完全復帰しています。「同じ負荷でも、どこで測るかによって見えるインピーダンスはまったく違う」 という、高周波測定でいちばん最初に躓くポイントがこの図に凝縮されています。

なお、この周期性は「反射係数の位相が往復で $2\beta d$ 回る」という前節の話と同じことを言い換えたものです。$d = \lambda/2$ のとき $2\beta d = 2\pi$、つまり位相が1周してぴったり元に戻るため、インピーダンスも元に戻ります。

入力インピーダンスの一般公式が得られたので、次に特殊な終端条件 — 短絡、開放、整合 — を代入して、それぞれのケースの振る舞いを分析します。

特殊な終端条件

整合終端($Z_L = Z_0$)

負荷インピーダンスが特性インピーダンスと一致する場合です。入力インピーダンスの公式に $Z_L = Z_0$ を代入します。

$$ Z_\text{in}(d) = Z_0 \cdot \frac{Z_0 + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + jZ_0\tan(\beta d)} = Z_0 $$

入力インピーダンスは線路上のどの位置でも $Z_0$ に等しくなります。反射係数は $\Gamma_L = 0$、VSWR = 1 です。進行波だけが存在し、定在波は生じません。電力はすべて負荷に吸収されます。

これが理想的な状態 — インピーダンス整合 — であり、高周波回路設計の最も基本的な目標です。

短絡終端($Z_L = 0$)

線路の終端が短絡されている場合(たとえば、導線で終端を接続)です。反射係数は次のようになります。

$$ \Gamma_L = \frac{0 – Z_0}{0 + Z_0} = -1 $$

反射波の振幅は進行波と同じ大きさですが、位相が反転しています。入力インピーダンスの公式に $Z_L = 0$ を代入すると、次式を得ます。

$$ Z_\text{in}^{\text{SC}}(d) = Z_0 \cdot \frac{0 + jZ_0\tan(\beta d)}{Z_0 + j \cdot 0 \cdot \tan(\beta d)} = jZ_0\tan(\beta d) $$

$$ \boxed{Z_\text{in}^{\text{SC}}(d) = jZ_0\tan(\beta d)} $$

これは純虚数であり、短絡終端の伝送線路は純リアクタンスとして振る舞います

  • $d < \lambda/4$ のとき:$\tan(\beta d) > 0$ なので、$Z_\text{in}$ は正の虚数 = インダクティブ(インダクタのように振る舞う)
  • $\lambda/4 < d < \lambda/2$ のとき:$\tan(\beta d) < 0$ なので、$Z_\text{in}$ は負の虚数 = キャパシティブ(コンデンサのように振る舞う)
  • $d = \lambda/4$ のとき:$\tan(\beta d) \to \infty$ なので、$Z_\text{in} \to \infty$(開放のように見える)

つまり、短絡した伝送線路の長さを変えるだけで、インダクタにもコンデンサにもなれるのです。これはマイクロ波回路設計でスタブ として利用されます。

短絡終端の定在波パターンも押さえておきましょう。$\Gamma_L = -1$ を電圧・電流の式に入れると、負荷端では電圧が完全に打ち消されてゼロ(節)、電流は逆に2倍(腹)になります。短絡なのだから端子間電圧がゼロなのは当然で、境界条件がそのまま定在波の形として現れているわけです。電圧の腹は $d = \lambda/4,\ 3\lambda/4, \dots$ に、電流の節は同じ位置に来るため、電圧と電流のパターンは常に $\lambda/4$ ずれた相補的な関係になります。開放終端ではこれがそっくり入れ替わり、負荷端で電圧が最大・電流がゼロになります(電流の行き先がないので当然です)。

開放終端($Z_L \to \infty$)

線路の終端が何も接続されていない(開放)場合です。反射係数は $\Gamma_L = +1$ です。

入力インピーダンスの公式で $Z_L \to \infty$ の極限を取ります。分子分母を $Z_L$ で割ると次のようになります。

$$ Z_\text{in}^{\text{OC}}(d) = Z_0 \cdot \frac{1 + j(Z_0/Z_L)\tan(\beta d)}{Z_0/Z_L + j\tan(\beta d)} $$

$Z_L \to \infty$ とすると $Z_0/Z_L \to 0$ なので、次式が得られます。

$$ \boxed{Z_\text{in}^{\text{OC}}(d) = -jZ_0\cot(\beta d) = \frac{Z_0}{j\tan(\beta d)}} $$

開放終端も純リアクタンスとして振る舞いますが、短絡終端とは $\lambda/4$ ずれた振る舞いをします。

  • $d < \lambda/4$ のとき:キャパシティブ
  • $\lambda/4 < d < \lambda/2$ のとき:インダクティブ
  • $d = \lambda/4$ のとき:$Z_\text{in} = 0$(短絡のように見える)

短絡終端と開放終端は互いに補関係にあり、一方が $d$ で示す振る舞いを他方は $d + \lambda/4$ で示します。

スタブ:線路の切れ端を素子として使う

この2つの式を、線路長を横軸にとってグラフにすると、伝送線路が「長さを変えるだけで値が変わる可変リアクタンス」であることが目に見えます。

短絡スタブと開放スタブのリアクタンスが線路長に応じてコイル的・コンデンサ的に変化する図

左の短絡スタブでは、$0 < d < \lambda/4$ の範囲でリアクタンスが正(オレンジの領域=コイルの代わり)、$\lambda/4 < d < \lambda/2$ で負(青の領域=コンデンサの代わり)に切り替わります。$Z_0 = 50\;\Omega$ の線路なら、長さ $0.05\lambda$ の短絡スタブは $+16.25\;\Omega$、$0.125\lambda$ なら $+50.00\;\Omega$、$0.20\lambda$ なら $+153.88\;\Omega$ のリアクタンスとして振る舞います。$0.125\lambda$ でちょうど $+Z_0$ になるのは $\tan(\pi/4) = 1$ だからで、覚えやすい基準点です。右の開放スタブは同じ長さで符号が逆転し、$0.05\lambda$ で $-153.88\;\Omega$、$0.125\lambda$ で $-50.00\;\Omega$、$0.20\lambda$ で $-16.25\;\Omega$ となっています。短絡側と開放側で「$0.05\lambda$ と $0.20\lambda$ の値が入れ替わっている」ことが、両者が $\lambda/4$ ずれた補関係にあることの数値的な現れです。

図中に注記したとおり、$\lambda/4$ の短絡スタブは開放($|Z| \to \infty$)に、$\lambda/4$ の開放スタブは短絡($Z = 0$)に見えます。これは机上の遊びではなく実用技術で、たとえば「直流やバイアス電流は流したいが、高周波だけは通したくない」という箇所に $\lambda/4$ 短絡スタブを付けると、直流的には短絡なのに設計周波数では開放に見えるため、高周波回路にまったく影響しない給電経路を作れます。逆に $\lambda/4$ 開放スタブは、機械的に穴を開けずに済む「見かけ上の短絡点」として使われます。

半波長線路($d = \lambda/2$)

線路長がちょうど半波長のとき、$\beta d = 2\pi/\lambda \cdot \lambda/2 = \pi$ なので $\tan(\pi) = 0$ です。入力インピーダンスの公式に代入すると、次のようになります。

$$ Z_\text{in}\left(\frac{\lambda}{2}\right) = Z_0 \cdot \frac{Z_L + 0}{Z_0 + 0} = Z_L $$

半波長線路は負荷インピーダンスをそのまま繰り返します。これは測定や回路設計で便利な性質です。

ここまでで特殊な終端条件の振る舞いを分析しました。次に、インピーダンス変換の実用的テクニックである四分の一波長変換器について解説します。

$\lambda/4$ 変換器(インピーダンス変換器)

四分の一波長線路の性質

伝送線路の長さがちょうど $\lambda/4$(四分の一波長)のとき、$\beta d = 2\pi/\lambda \cdot \lambda/4 = \pi/2$ なので $\tan(\pi/2) \to \infty$ です。入力インピーダンスの公式で $\tan(\beta d) \to \infty$ の極限を取ります。

分子分母を $\tan(\beta d)$ で割ります。

$$ Z_\text{in} = Z_0 \cdot \frac{Z_L / \tan(\beta d) + jZ_0}{Z_0 / \tan(\beta d) + jZ_L} $$

$\tan(\beta d) \to \infty$ とすると、次の結果を得ます。

$$ \boxed{Z_\text{in}\left(\frac{\lambda}{4}\right) = \frac{Z_0^2}{Z_L}} $$

これが $\lambda/4$ 変換器(quarter-wave transformer) の公式です。四分の一波長の伝送線路を挟むだけで、負荷インピーダンスを $Z_0^2/Z_L$ に変換できます。

実用的な応用

たとえば、特性インピーダンス 50 $\Omega$ の主線路に 100 $\Omega$ の負荷を接続したい場合を考えます。直接接続すると反射が生じます。

$$ \Gamma = \frac{100 – 50}{100 + 50} = \frac{1}{3} \approx 0.333 $$

そこで、$\lambda/4$ 変換器を用いてインピーダンス整合を行います。変換器の特性インピーダンス $Z_T$ は次の条件で決まります。

$$ Z_\text{in} = \frac{Z_T^2}{Z_L} = Z_0 $$

$Z_T$ について解きます。

$$ Z_T = \sqrt{Z_0 \cdot Z_L} = \sqrt{50 \times 100} = \sqrt{5000} \approx 70.7 \; \Omega $$

特性インピーダンス $70.7 \; \Omega$、長さ $\lambda/4$ の伝送線路を負荷と主線路の間に挿入すれば、主線路から見た入力インピーダンスは 50 $\Omega$ となり、完全整合が達成されます。

帯域幅という代償

この変換器は原理的に単一周波数でのみ完全な整合を実現するという点に注意が必要です。$\lambda/4$ という条件は周波数に依存するため、設計周波数から離れると整合が劣化します。では、どのくらい離れると使い物にならなくなるのでしょうか。設計周波数 $f_0$ で $\beta d = \pi/2$ になるよう長さを固定したまま周波数を変え、反射係数を計算したのが次の図です。

λ/4変成器の反射係数とVSWRの周波数特性。インピーダンス比が大きいほど帯域が狭くなる

どのケースでも $f/f_0 = 1$ で $|\Gamma| = 0$、すなわち完全整合が達成されており、理論どおりです。重要なのは帯域がインピーダンス比に強く依存することで、SWR $\leq 1.2$ を保てる帯域を実測すると、$Z_L = 100\;\Omega$(比2倍)では $f/f_0 = 0.834 \sim 1.166$ の 33.2%、$Z_L = 200\;\Omega$(比4倍)では $0.923 \sim 1.077$ の 15.4%、$Z_L = 500\;\Omega$(比10倍)では $0.960 \sim 1.040$ のわずか 8.1% しかありません。変換比を欲張るほど、狭い周波数でしか使えない部品になるということです。

もう少し緩い SWR $\leq 2$ を基準にすると景色が変わります。$Z_L = 200\;\Omega$ では $0.688 \sim 1.312$(62.5%)、$Z_L = 500\;\Omega$ では $0.840 \sim 1.160$(31.9%)ですが、$Z_L = 100\;\Omega$ の場合は計算範囲($f/f_0 = 0.02 \sim 1.98$)の全域で SWR $\leq 2$ を満たしました。これは偶然ではなく、$Z_L/Z_0 = 2$ なら変成器なしの直結でも $|\Gamma| = 1/3$(SWR $= 2$)だからです。変成器を入れることで最悪でも直結と同じ、設計周波数付近では大幅に改善する、という構図になっています。逆にいえば、もともとの不整合が軽い場合ほど $\lambda/4$ 変成器は「効く範囲が広い」わけです。

広帯域な整合が必要な場合は、変換比を複数段に分割する多段 $\lambda/4$ 変成器や、特性インピーダンスを連続的に変化させるテーパ線路を使用します。段数を増やすほど1段あたりのインピーダンス比が小さくなるため、上で見た「比が小さいほど広帯域」という性質が効いてくるのです。

ここまでで、反射係数・定在波・入力インピーダンスという3つの見方を扱ってきました。実はこれらは同じ情報の別の表現であり、それを1枚の図の上で統一的に扱う道具が次に説明するスミスチャートです。

スミスチャート:3つの見方を1枚にまとめる

前節までに、線路上のある点の状態を表す方法が3つ出てきました。反射係数 $\Gamma(d)$、定在波比 SWR、入力インピーダンス $Z_\text{in}(d)$ です。実はこれらは独立した情報ではなく、どれか1つを知れば残りは計算で出せます。$\Gamma$ から SWR は $(1+|\Gamma|)/(1-|\Gamma|)$、$\Gamma$ から $Z_\text{in}$ は $Z_0(1+\Gamma)/(1-\Gamma)$ で求まるからです。

そこで、「$\Gamma$ の複素平面を主役にして、そこにインピーダンスの目盛りを重ね書きする」という発想が生まれます。これがスミスチャートです。なぜ $\Gamma$ を主役にするのかというと、線路上を移動したときの変化が $\Gamma$ ではきわめて単純だからです。

$$ \Gamma(d) = \Gamma_L e^{-j2\beta d} $$

この式は「大きさは変えず、位相だけ $-2\beta d$ 回す」と言っているだけです。つまり複素平面上では原点を中心とする円周上を回るだけになります。一方これをインピーダンスで表現すると、あの $\tan$ の入った複雑な公式になってしまいます。同じ物理を、圧倒的に単純に書ける座標系を選んだのがスミスチャートというわけです。

スミスチャート上で線路長を伸ばすと反射係数が原点まわりの円を時計回りに動く軌跡

薄いグレーの円は、正規化抵抗 $r = R/Z_0$ が一定の線(等抵抗円)と、正規化リアクタンス $x = X/Z_0$ が一定の線(等リアクタンス円)です。この目盛りのおかげで、$\Gamma$ の点を打つだけでインピーダンスが読み取れます。3本の色つき曲線は、負荷端(丸印)から $\lambda/2$ まで線路を伸ばしたときの軌跡です。$Z_L = 100 + j50\;\Omega$ と $Z_L = 25 – j25\;\Omega$ は $|\Gamma_L| = 0.447$ で一致しており(位相はそれぞれ $26.57°$ と $-116.57°$)、まったく同じ大きさの円の上を、違う出発点から回っていることが読み取れます。$|\Gamma|$ が同じということは SWR も同じ(どちらも 2.62)で、「SWRだけでは負荷を特定できない」という測定上の重要な事実がここに現れています。

四角のマーカーは $d = \lambda/4$ の位置で、いずれも負荷端の真反対側(原点対称)に来ています。$\lambda/4$ で位相が $2\beta d = \pi$ 回るためで、たとえば $Z_L = 150\;\Omega$ の $\Gamma_L = +0.500$ は $\lambda/4$ 先で $-0.500$ になります。これを $Z_\text{in} = Z_0(1+\Gamma)/(1-\Gamma)$ で戻すと $50 \times 0.5/1.5 = 16.7\;\Omega = Z_0^2/Z_L$ となり、$\lambda/4$ 変成器の公式が「原点対称に飛ぶこと」の言い換えだったとわかります。原点(緑の星)は $\Gamma = 0$、すなわち完全整合で、整合作業とは要するに「点を原点へ動かす作業」だ、というのがスミスチャートの世界観です。

ここまでは、線路に損失がない理想的な場合を前提に議論してきました。最後に、実際のケーブルが持つ損失が理論をどう修正するのかを見ておきます。

損失のある線路

減衰定数が効いてくる

現実の同軸ケーブルには導体の抵抗損($R$)と誘電体の漏れ損($G$)があり、$\alpha \neq 0$ になります。このとき進行波の振幅は $e^{-\alpha z}$ で指数関数的に減っていきます。dB表示では、距離 $z$ 進んだときの減衰量が次式です。

$$ A\text{ [dB]} = 20\log_{10}\frac{1}{e^{-\alpha z}} = 8.686\,\alpha z $$

係数 8.686 は $20\log_{10}e$ の値で、Np(ネーパ)からdBへの換算係数です。この減衰が実際にどう効くかを、3つの角度から見てみましょう。

損失線路での波形の指数減衰、周波数に対する減衰量、損失が不整合を隠す様子を示す3枚組

左は減衰量 0.70 dB/m の線路を10 m 伝わる波形です。5 m 地点で $-3.5$ dB、振幅は元の67%、10 m 地点で $-7.0$ dB、振幅は45%まで落ちています。電力で見ると10 m でちょうど20.0%、つまり8割が熱になって消えている計算です。中央は、導体損が表皮効果のために $\sqrt{f}$ に比例し、誘電体損が $f$ に比例するというモデルで減衰量の周波数依存を描いたものです。このモデル線路では 100 MHz で 0.19 dB/m、1 GHz で 0.70 dB/m、10 GHz では 3.24 dB/m となり、10 m 引き回すと 10 GHz では 32.4 dB — 電力にして 1/1700 になってしまいます。高い周波数ほど「ケーブルを引き回す」という何気ない行為の代償が大きくなることがわかります。

損失は不整合を隠す

右のグラフは、実務でとくに注意すべき現象を示しています。負荷側で $|\Gamma_L| = 0.5$(SWR 3.00)の不整合があっても、線路の片道損失が 3 dB あれば入力端で測ったSWRは 1.667、6 dB なら 1.286 まで下がってしまいます。理由は単純で、入射波が負荷まで行く途中で減り、反射波が戻ってくる途中でまた減るため、入力端で見える反射係数が $|\Gamma_\text{in}| = |\Gamma_L| \cdot 10^{-2A/20}$($A$ は片道損失[dB])と往復2回分だけ小さくなるからです。極端な例として、負荷が完全反射($|\Gamma_L| = 1$、SWR $= \infty$)でも、片道 6 dB の損失があれば入力端のSWRは 1.668 にしか見えません。

つまり、送信機の直近でSWRを測って良好だからといって、アンテナが整合しているとは限りません。長いケーブルの先で起きている不整合ほど、手元では小さく見えてしまいます。逆にいえば、手元の測定値が悪いときは、ケーブル損失で薄まってなおその値なのですから、負荷側の実際の不整合はもっとひどいということです。アンテナ側で測るか、ケーブル損失を差し引いて補正するのが正しい手順になります。

なお、損失線路では特性インピーダンスも厳密には複素数 $Z_0 = \sqrt{(R+j\omega L)/(G+j\omega C)}$ になります。ただし高周波では $\omega L \gg R$、$\omega C \gg G$ が成り立つため虚部はごく小さく、実用上は実数として扱って差し支えありません。理論を無損失で組み立て、損失を後から補正として加えるという進め方が有効なのはこのためです。

まとめ

本記事では、伝送線路の理論を基礎から体系的に導出しました。

  • 集中定数回路と分布定数回路: 信号の波長と回路サイズが同程度になると、電圧・電流が位置の関数として変化し、分布定数モデルが必要になります
  • テレグラフ方程式: 微小区間にKVL・KCLを適用することで、電圧と電流の連立偏微分方程式が導出されます
  • 波動方程式: テレグラフ方程式から伝搬定数 $\gamma = \alpha + j\beta$ と特性インピーダンス $Z_0 = \sqrt{(R + j\omega L)/(G + j\omega C)}$ が得られます
  • 無損失線路: $R = G = 0$ とすると $Z_0 = \sqrt{L/C}$(実数)、$\beta = \omega\sqrt{LC}$ に簡略化されます
  • 反射係数: $\Gamma_L = (Z_L – Z_0)/(Z_L + Z_0)$ は、負荷でのインピーダンス不整合による反射の大きさと位相を表します
  • 定在波比: $\text{SWR} = (1 + |\Gamma|)/(1 – |\Gamma|)$ は反射の程度を示す実用的な指標です。包絡線から測った値と公式の値は完全に一致することを確認しました
  • 反射電力: SWR 1.5 で 4.00%、SWR 2.0 で 11.11%、SWR 3.0 で 25.00% が反射して戻ります。ただし届く電力のロス(ミスマッチ損)はSWR 2.0でも 0.512 dB にとどまります
  • 入力インピーダンス: $Z_\text{in} = Z_0(Z_L + jZ_0\tan\beta d)/(Z_0 + jZ_L\tan\beta d)$ は線路上の任意の点でのインピーダンスを与え、$\lambda/2$ ごとに同じ値を繰り返します
  • スタブ: $Z_0 = 50\;\Omega$ の短絡スタブは $0.125\lambda$ で $+50\;\Omega$、開放スタブは同じ長さで $-50\;\Omega$。$\lambda/4$ 短絡スタブは開放に見えます
  • $\lambda/4$ 変成器: $Z_\text{in} = Z_0^2/Z_L$ により、インピーダンス変換が実現できます。ただしSWR $\leq 1.2$ の帯域は変換比2倍で33.2%、10倍ではわずか8.1%です
  • 損失線路: 損失は不整合を隠します。片道 6 dB のケーブルの先が完全反射でも、手元では SWR 1.67 にしか見えません

伝送線路の理論は、高周波回路設計やアンテナ工学の基盤です。次のステップとして、反射係数を視覚的に扱う強力なツールであるスミスチャートと、アンテナのインピーダンス整合について学ぶことをお勧めします。

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