5G やミリ波レーダー、77 GHz の車載レーダーモジュールの内部を覗くと、プリント基板の上に金属のビア(through-hole)が 2 列ずらりと並び、まるで柵(フェンス)のように回路を囲んでいる構造を見かけます。これは「基板集積導波路(Substrate Integrated Waveguide, SIW)」と呼ばれる伝送構造で、金属の中空導波管をプリント基板の中に「埋め込んで」しまった、いわば導波管とマイクロストリップ線路の良いとこ取りをした技術です。
中空の矩形導波管は、ミリ波帯で圧倒的に低損失で大電力を扱えるという長所がありますが、金属の塊であるため重く、かさばり、そして基板上のIC(増幅器やミキサ)と接続するには高価な変換コネクタが必要です。一方、マイクロストリップ線路は基板にそのまま印刷できて安価ですが、ミリ波帯では放射損失や導体損失が大きく、Q値も低くなります。SIW は、この両者のギャップを埋めるために生まれました。上下の金属層(プリント基板の表裏の銅箔)が導波管の上下壁になり、左右の金属壁は「ビアの列」で近似します。こうすると、安価なプリント基板製造プロセスだけで、中空導波管とほぼ同じ低損失・高Q・大電力の伝送路を作れるのです。
SIW の理論を理解すると、以下のような応用分野への見通しが格段によくなります。
- ミリ波・5G/6G フロントエンド: 28 GHz や 60 GHz のフィルタ、カプラ、アンテナ給電回路を、IC と同じ基板上に集積できます
- 車載レーダー: 77 GHz のアンテナアレイの給電網(フィードネットワーク)に SIW が使われ、低損失で多数の素子へ電力を分配します
- 衛星通信端末: 平面構造で軽量なため、フェーズドアレイアンテナのバックエンド回路として有利です
- 受動部品の小型化: 共振器、ダイプレクサ、方向性結合器などを基板内に作り込め、システム全体を薄く軽くできます
本記事の内容
- SIW の構造と「なぜビアの柵が金属壁になるのか」という直感的理解
- 矩形導波路 TE$_{10}$ モードの遮断周波数 $f_c = c/(2a)$ の復習
- SIW の等価導波路幅 $w_{\text{eff}}$ を与える経験式の意味と導出の考え方
- 誘電体充填による波長短縮($\sqrt{\varepsilon_r}$ 倍の縮小)
- ビア間隔 $p$ と直径 $d$ が満たすべき放射漏れ抑制条件($p < 2d$, $p < \lambda_g/5$)
- 指定遮断周波数から SIW 寸法を逆算する Python 関数の実装
- ビア間隔と漏洩損失のトレードオフ、周波数対群速度の可視化
- ミリ波回路で SIW が選ばれる理由のまとめ
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。本記事は矩形導波路の遮断周波数の知識を出発点として全面的に使うため、特に最初の 2 つは必読です。
- 導波管の理論 — TEモード・TMモードと遮断周波数を基礎から導出する
- 矩形導波管のモード — TE/TMモードの電磁界分布を理解する
- マイクロストリップ線路の設計 — 特性インピーダンスと実効誘電率
SIW とは — ビアの柵が金属壁になる仕組み
中空の矩形導波管は、4 枚の金属の壁で囲まれた箱の中に電磁波を閉じ込めて伝送します。では、もし左右の壁を「連続した金属板」ではなく、「細かい金属の柱(ビア)を等間隔に並べた柵」で置き換えたらどうなるでしょうか。隙間があるのだから電磁波が漏れてしまうのでは、と直感的には思えます。
ここで効いてくるのが、波長と隙間の大小関係です。柵の隙間が波長に比べて十分に小さければ、電磁波にとって柵は「ほとんど連続した壁」と区別がつきません。光に対して、目の細かい金網が鏡のように振る舞うのと同じ原理です。電子レンジの窓に張られた金属メッシュが、2.45 GHz のマイクロ波(波長 12 cm)を通さず、可視光(波長 0.5 μm)は通すのも、メッシュの穴のサイズと波長の関係で決まっています。SIW でも、ビアの間隔をその場の波長より十分小さく設計すれば、ビアの列は実効的に金属壁として機能し、電磁波を内部に閉じ込められるのです。
このとき、もう一つ重要な条件があります。中空導波管の TE$_{10}$ モードでは、伝搬方向($z$ 軸)に沿って壁面を流れる表面電流が存在しません(後で詳しく見ます)。SIW のビアの隙間は伝搬方向に並んでいるので、もし壁面電流が伝搬方向に流れていれば、ビアの隙間でその電流が途切れてしまい、隙間から電磁波が漏れ出てしまいます。しかし TE$_{10}$ モードでは壁面電流が縦方向($y$ 軸方向、上下壁をつなぐ向き)にしか流れないため、横方向に並んだビアの隙間が電流を妨げません。これが、SIW が TE$_{10}$ モードに限って中空導波管をうまく模擬できる物理的な理由です。逆に、TE$_{20}$ や TM モードのように壁面電流が伝搬方向成分を持つモードは SIW では大きく漏れてしまい、伝搬できません。
SIW の構造を改めて整理しておきましょう。誘電率 $\varepsilon_r$ の薄い基板(厚さ $h$)の表裏に銅箔が貼られています。この上下の銅箔が導波管の上下壁(広い壁)になります。基板の中に、表裏の銅箔を電気的につなぐビアを 2 列、間隔 $p$(pitch、隣り合うビアの中心間距離)、直径 $d$ で打ち込みます。2 列のビアの中心間距離を $w$ とすると、これが「見かけの導波管の幅」になります。ただし、ビアは連続した壁ではなく、また波が少しだけビアの外側まで染み出すため、電磁気的に実効的な幅 $w_{\text{eff}}$ は $w$ より少し狭くなります。この $w_{\text{eff}}$ をどう見積もるかが、SIW 設計の核心です。
SIW の動作原理がイメージできたところで、まずは出発点となる中空矩形導波管の遮断周波数を復習し、そこから SIW の等価幅へとつなげていきましょう。
出発点 — 矩形導波路 TE$_{10}$ モードの遮断周波数
SIW の設計は、すべて「等価な中空矩形導波管」に置き換えて考えることから始まります。そのため、まず矩形導波管の主モードである TE$_{10}$ モードの遮断周波数を確認しておきましょう。詳しい導出は前提記事の導波管の理論に譲り、ここでは結果と物理的意味を押さえます。
長辺 $a$、短辺 $b$($a > b$)の矩形導波管における TE$_{mn}$ / TM$_{mn}$ モードの遮断周波数は、内部が真空のとき次式で与えられます。
$$ f_{c,mn} = \frac{c}{2}\sqrt{\left(\frac{m}{a}\right)^2 + \left(\frac{n}{b}\right)^2} $$
ここで $c$ は光速、$m, n$ はモード次数です。最も低い遮断周波数を持つのは TE$_{10}$ モード($m=1, n=0$)で、
$$ f_{c,10} = \frac{c}{2a} $$
となります。この式は驚くほどシンプルで、遮断周波数は導波管の幅 $a$ だけで決まり、短辺 $b$ には依存しません。物理的には、TE$_{10}$ モードの遮断は「導波管の幅 $a$ がちょうど半波長に等しくなるとき」、すなわち $a = \lambda_c / 2$ で起こることを表しています。波がぴったり半波長で壁の間にはまると、それ以上長い波長(低い周波数)は壁の間で振動できず、伝搬できなくなるのです。
ここで、SIW が誘電体(基板)で満たされていることを思い出します。誘電体が充填されると、その中を伝わる電磁波の速度(位相速度)は $c$ から $c/\sqrt{\varepsilon_r}$ に遅くなります。波数 $k = \omega\sqrt{\mu\varepsilon}$ の関係で言えば、$\varepsilon = \varepsilon_0 \varepsilon_r$ なので、遮断周波数の式の $c$ を $c/\sqrt{\varepsilon_r}$ で置き換えればよいことになります。したがって、比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体で満たされた幅 $a$ の導波管の TE$_{10}$ 遮断周波数は、
$$ f_{c,10} = \frac{c}{2a\sqrt{\varepsilon_r}} $$
となります。同じ遮断周波数を達成するのに必要な幅 $a$ が、真空の場合に比べて $1/\sqrt{\varepsilon_r}$ 倍に縮むことに注目してください。たとえば $\varepsilon_r = 4$ の基板を使えば、導波管の幅は半分で済みます。これが「誘電体充填による波長短縮」であり、SIW がコンパクトに作れる大きな理由の一つです。
この式は、もし SIW の左右の壁が完全な金属板だったら、そのまま使える理想式です。しかし実際の SIW の壁は離散的なビアの列です。次のセクションでは、このビアの列を「実効的な金属壁」に置き換えるための等価幅 $w_{\text{eff}}$ をどう求めるかを見ていきましょう。
SIW の等価導波路幅 $w_{\text{eff}}$
なぜ実効幅が必要なのか
SIW の物理的なビア列間隔を $w$(2 列のビアの中心を結んだ距離)とします。もしこの $w$ をそのまま中空導波管の幅 $a$ として遮断周波数を計算すると、実測値とずれてしまいます。理由は 2 つあります。
第一に、ビアは点在しているだけで連続した壁ではないため、波は隙間からビアの外側へわずかに染み出します。第二に、各ビアは有限の直径 $d$ を持つ円柱であり、波にとっての「実効的な反射面」がビア中心ではなく、ビア中心から内側に少しずれた位置になります。これらの効果により、電磁気的に有効な幅は物理間隔 $w$ より狭くなります。この有効な幅を等価導波路幅 $w_{\text{eff}}$ と呼びます。
直感的には、「離散的で穴の空いたビアの柵」を「同じ遮断周波数を与える、なめらかな連続金属壁の中空導波管」に置き換えたときの、その仮想導波管の幅が $w_{\text{eff}}$ です。設計では、まず欲しい遮断周波数から必要な $w_{\text{eff}}$ を求め、次に経験式を逆に使って実際のビア間隔 $w$ を決める、という流れになります。
等価幅の経験式
電磁界シミュレーションと実測に基づいて、SIW の等価幅は次の経験式で精度よく表せることが知られています。
$$ w_{\text{eff}} = w – \frac{d^2}{0.95\, p} $$
ここで $w$ はビア列の中心間距離、$d$ はビアの直径、$p$ はビアのピッチ(間隔)です。第 2 項 $d^2/(0.95\,p)$ が、ビアが連続壁でないことによる「幅の目減り分」を表します。
この式の構造を読み解いてみましょう。まず、ビアの直径 $d$ が大きいほど目減りが大きくなります。これは $d^2$ に比例するので、太いビアほど実効的な反射面が内側に寄り、幅が狭く感じられることを意味します。一方、ピッチ $p$ が大きい(ビアがまばら)ほど目減りは小さくなります。これは少し意外に思えるかもしれませんが、ビアがまばらだと「壁」としての密度が下がり、波がビア列の面まで届きやすくなるため、実効幅が物理間隔に近づくと解釈できます。係数 $0.95$ は多数のシミュレーション結果をフィッティングして得られた定数です。
この経験式は、ビア間隔 $p$ とビア直径 $d$ が次節で述べる設計範囲内(隙間が波長より十分小さく、漏れが無視できる範囲)にあるときに、おおむね数パーセント以内の精度で成り立つことが知られています。範囲を外れると、より高次の補正項を含む式(後述)が必要になります。
等価幅を用いた遮断周波数
等価幅 $w_{\text{eff}}$ が求まれば、SIW の TE$_{10}$ モード遮断周波数は、中空導波管の式の $a$ を $w_{\text{eff}}$ に、内部を比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体として置き換えるだけで得られます。
$$ f_{c,10}^{\text{SIW}} = \frac{c}{2\, w_{\text{eff}}\,\sqrt{\varepsilon_r}} $$
これが SIW 設計の中心となる式です。逆に、目標とする遮断周波数 $f_c$ が与えられたとき、必要な等価幅は次のように逆算できます。
$$ w_{\text{eff}} = \frac{c}{2\, f_c\,\sqrt{\varepsilon_r}} $$
そして、選んだビア直径 $d$ とピッチ $p$ に対して、実際に開けるべきビア列の中心間距離 $w$ は、経験式を $w$ について解いて、
$$ w = w_{\text{eff}} + \frac{d^2}{0.95\, p} $$
で求まります。この 3 段階(目標 $f_c$ → $w_{\text{eff}}$ → $w$)が SIW 寸法設計の基本フローです。
なお、より高精度を求める場合には、$d/w$ や $p/w$ の比に依存する補正項を加えた次の形の経験式(Xu と Wu による式)も使われます。
$$ w_{\text{eff}} = w – 1.08\frac{d^2}{p} + 0.1\frac{d^2}{w} $$
第 1 項に加えて第 2 項の補正が入っており、より広いパラメータ範囲で精度を保ちます。本記事では理解しやすさを優先して、まず $w_{\text{eff}} = w – d^2/(0.95 p)$ を中心に扱い、Python 実装ではこの高精度版も比較として実装します。
ここまでで、欲しい遮断周波数から SIW の幅を決める手順がわかりました。しかし、ビア間隔 $p$ と直径 $d$ を自由に選べるわけではありません。隙間が大きすぎると電磁波が漏れてしまうからです。次に、漏れを抑えるための設計則を導きましょう。
ビア間隔と放射漏れ抑制の設計則
漏れの正体 — 隙間からの放射
SIW のビアの柵には、当然ながらビアとビアの間に隙間があります。隙間の幅は $p – d$(ピッチからビア直径を引いた値)です。この隙間が大きいと、内部を伝わる電磁波の一部が隙間から外側へ漏れ出し、放射損失(leakage loss)となります。漏れた電力は伝送に寄与せず、損失として失われるだけでなく、隣接する回路への不要な結合(クロストーク)も引き起こします。
漏れを定量的に評価するために、ビア列を「周期構造を持つ部分的な反射壁」とみなします。周期 $p$ の構造に波長 $\lambda_g$(管内波長)の波が当たるとき、隙間からの漏れは「隙間が波長に対してどれだけ大きいか」、すなわち比 $p/\lambda_g$ と、ビアの「埋まり具合」を表す比 $d/p$ によって決まります。これらの比が小さいほど、柵は連続壁に近づき、漏れが抑えられます。
2 つの基本設計則
長年のシミュレーションと実測から、漏洩損失を実用上無視できるレベル(典型的には伝搬損失に対して十分小さいレベル)に抑えるための、簡潔で広く使われる 2 つの設計則が確立されています。
設計則 1: ビア間隔は直径の 2 倍未満
$$ p < 2d $$
これは「隣り合うビアの隙間 $p – d$ が、ビア直径 $d$ より小さい」ことと同値です($p < 2d \Leftrightarrow p - d < d$)。隙間がビアそのものより小さければ、柵は十分に密で「壁らしく」振る舞います。この条件は、ビアの幾何学的な密度に関する目安です。
設計則 2: ビア間隔は管内波長の 5 分の 1 未満
$$ p < \frac{\lambda_g}{5} $$
ここで $\lambda_g$ は SIW 内の管内波長です。これは「隙間の周期が波長に対して十分細かい」ことを保証する条件で、波にとって柵が連続壁に見えるための波長スケールの目安です。$\lambda_g/5$ より細かければ、周期構造による回折・漏れが急激に小さくなります。なお、より保守的な設計では $p < \lambda_g/4$ や、漏れをさらに抑えたい場合は $p < \lambda_g/10$ を採用することもあります。
実際の設計では、この 2 つの条件を両方とも満たす必要があります。多くの場合、設計則 2(波長条件)の方が厳しく効いてきます。なぜなら、遮断周波数の近くでは管内波長 $\lambda_g$ が非常に長くなり緩い条件になりますが、動作周波数を上げる(あるいは高次の効果を考える)と $\lambda_g$ が短くなり、$p$ を小さく取らねばならなくなるからです。
管内波長の計算
設計則 2 を使うには、SIW 内の管内波長 $\lambda_g$ を知る必要があります。これは中空導波管と同じ分散関係から導けます。前提記事で導いたように、TE$_{10}$ モードの管内波長は、
$$ \lambda_g = \frac{\lambda}{\sqrt{1 – (f_c/f)^2}} $$
で与えられます。ここで $\lambda$ は SIW を満たす誘電体中での波長で、$\lambda = c/(f\sqrt{\varepsilon_r})$ です。動作周波数 $f$ が遮断周波数 $f_c$ に近いほど分母が小さくなり、$\lambda_g$ は長くなります。逆に $f \gg f_c$ では $\lambda_g \to \lambda$ に漸近します。
この式から、設計則 2 を満たす最大ピッチ $p_{\max}$ は次のように決まります。
$$ p_{\max} = \frac{\lambda_g}{5} = \frac{1}{5}\cdot\frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_r}\,\sqrt{1 – (f_c/f)^2}} $$
設計者は、動作帯域の中で最も短くなる $\lambda_g$(つまり帯域の上端の周波数)に対してこの条件を満たすようにピッチを選びます。
ビア直径の下限
ピッチ $p$ を小さくすれば漏れは減りますが、設計則 1($p < 2d$)より、$p$ を小さくするにはビア直径 $d$ も小さくする必要があります。しかし $d$ には製造上の下限があります。プリント基板のビア(スルーホール)の直径は、基板の厚さ $h$ に対してアスペクト比($h/d$)の制約があり、また機械ドリルやレーザー加工の最小径にも限界があります。一般的な目安として、
$$ d < \frac{\lambda_g}{5} $$
という条件も併せて使われ、$d$ が大きすぎてもビアの円柱が散乱体として悪さをしないようにします。結局、$d$ は「製造可能な最小径」と「漏れ・散乱を抑える最大径」の間で、$p$ とのバランスを取って選ばれます。これは典型的なエンジニアリングのトレードオフです。
ここまでで、SIW の寸法を決めるための理論式(等価幅、遮断周波数、波長短縮)と設計則(ビア間隔・直径の条件)がすべて出そろいました。次は、これらを Python で実装し、実際の数値で設計フローを体験してみましょう。
Python 実装 — 指定遮断周波数から SIW 寸法を逆算する
設計関数の実装
まず、目標遮断周波数 $f_c$、基板の比誘電率 $\varepsilon_r$、選んだビア直径 $d$ とピッチ $p$ を入力すると、必要なビア列間隔 $w$ と等価幅 $w_{\text{eff}}$ を返す設計関数を実装します。先ほど導いた 3 段階のフロー($f_c \to w_{\text{eff}} \to w$)をそのままコードにします。
import numpy as np
c0 = 2.99792458e8 # 光速 [m/s]
def siw_design(fc_target, eps_r, d, p):
"""目標遮断周波数からSIW寸法を逆算する。
fc_target: 目標TE10遮断周波数 [Hz]
eps_r: 基板の比誘電率
d: ビア直径 [m]
p: ビアピッチ [m]
戻り値: (w_eff, w) いずれも [m]
"""
# 1) 目標fcから必要な等価幅w_effを逆算
w_eff = c0 / (2 * fc_target * np.sqrt(eps_r))
# 2) 経験式 w_eff = w - d^2/(0.95 p) を w について解く
w = w_eff + d**2 / (0.95 * p)
return w_eff, w
# 例: 28 GHz帯(5Gミリ波)向けSIW
# Rogers RO4003C基板 (eps_r=3.55) を想定
fc = 21e9 # 遮断周波数 21 GHz (動作帯域 28 GHz の下に置く)
eps_r = 3.55
d = 0.4e-3 # ビア直径 0.4 mm
p = 0.7e-3 # ビアピッチ 0.7 mm
w_eff, w = siw_design(fc, eps_r, d, p)
print(f"等価幅 w_eff = {w_eff*1e3:.3f} mm")
print(f"ビア列間隔 w = {w*1e3:.3f} mm")
print(f"目減り分 d^2/(0.95p) = {d**2/(0.95*p)*1e3:.3f} mm")
このコードを実行すると、等価幅 $w_{\text{eff}} \approx 3.79$ mm、実際に開けるビア列間隔 $w \approx 4.03$ mm、目減り分が約 0.24 mm と出力されます。ここから 2 つのことが読み取れます。第一に、$\varepsilon_r = 3.55$ の基板を使うことで、もし真空($\varepsilon_r=1$)の中空導波管なら $w_{\text{eff}} = c/(2 f_c) \approx 7.14$ mm 必要なところが、その $1/\sqrt{3.55} \approx 0.53$ 倍の約 3.8 mm まで小さくできていることです。第二に、ビアの離散性による目減りは約 0.24 mm(実効幅の 6% 程度)であり、無視できない補正であることがわかります。
設計則のチェック関数
次に、選んだ $d, p$ が放射漏れ抑制の設計則($p < 2d$ と $p < \lambda_g/5$)を満たしているかを自動チェックする関数を作ります。管内波長 $\lambda_g$ は動作周波数で評価する必要があるため、動作周波数 $f$ も引数に取ります。
import numpy as np
c0 = 2.99792458e8
def guided_wavelength(f, fc, eps_r):
"""SIWの管内波長 lambda_g [m] を計算"""
lam = c0 / (f * np.sqrt(eps_r)) # 誘電体中の波長
return lam / np.sqrt(1 - (fc / f)**2) # 分散による伸び
def check_design_rules(d, p, f, fc, eps_r):
"""2つの設計則を満たすか判定して結果を表示"""
lam_g = guided_wavelength(f, fc, eps_r)
rule1 = p < 2 * d # ビア密度条件
rule2 = p < lam_g / 5 # 波長条件
print(f"動作周波数 f = {f/1e9:.1f} GHz, 管内波長 lambda_g = {lam_g*1e3:.3f} mm")
print(f" 規則1 p < 2d : p={p*1e3:.3f} mm vs 2d={2*d*1e3:.3f} mm -> "
f"{'OK' if rule1 else 'NG'}")
print(f" 規則2 p < lambda_g/5 : p={p*1e3:.3f} mm vs lg/5={lam_g/5*1e3:.3f} mm -> "
f"{'OK' if rule2 else 'NG'}")
return rule1 and rule2
# 上で設計したSIWを 28 GHz で使う場合のチェック
ok = check_design_rules(d=0.4e-3, p=0.7e-3, f=28e9, fc=21e9, eps_r=3.55)
print("総合判定:", "設計OK" if ok else "要見直し")
このチェックを実行すると、規則1($p < 2d$)は $0.7 < 0.8$ mm で OK、規則2($p < \lambda_g/5$)も管内波長が約 8 mm なので $\lambda_g/5 \approx 1.6$ mm に対し $p = 0.7$ mm で余裕を持って OK となり、総合判定は「設計OK」になります。動作周波数 28 GHz では遮断周波数 21 GHz から十分離れているため、管内波長がそれほど長くならず、ピッチ条件にも余裕があることが確認できます。設計則を満たしていれば、漏洩損失は伝搬損失に対して無視できるレベルに収まります。
等価幅の 2 つの経験式の比較
ここで、本文で紹介した 2 つの経験式(簡易版 $w_{\text{eff}} = w – d^2/(0.95p)$ と高精度版 $w_{\text{eff}} = w – 1.08 d^2/p + 0.1 d^2/w$)が、どの程度違う結果を与えるかを比較してみましょう。ビア直径 $d$ を固定し、ピッチ $p$ を変化させたときの等価幅の差を見ます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def w_eff_simple(w, d, p):
"""簡易経験式"""
return w - d**2 / (0.95 * p)
def w_eff_xu_wu(w, d, p):
"""Xu-Wu の高精度経験式"""
return w - 1.08 * d**2 / p + 0.1 * d**2 / w
w = 4.0e-3 # ビア列間隔 4 mm 固定
d = 0.4e-3 # ビア直径 0.4 mm 固定
p_vals = np.linspace(0.5e-3, 0.8e-3, 100) # ピッチを 0.5-0.8 mm で変化
weff_s = w_eff_simple(w, d, p_vals)
weff_x = w_eff_xu_wu(w, d, p_vals)
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(p_vals*1e3, weff_s*1e3, label='Simple: w - d^2/(0.95p)', lw=2)
plt.plot(p_vals*1e3, weff_x*1e3, '--', label='Xu-Wu (high accuracy)', lw=2)
plt.xlabel('Via pitch p [mm]')
plt.ylabel('Effective width w_eff [mm]')
plt.title('Effective Width vs Via Pitch (w=4mm, d=0.4mm)')
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('siw_weff_comparison.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、2 つの経験式は同じ傾向(ピッチ $p$ が大きいほど目減りが減り、$w_{\text{eff}}$ が物理間隔 $w$ に近づく)を示すこと、そして設計範囲($p = 0.5\sim0.8$ mm)では両者の差が数十マイクロメートル程度と小さいことが読み取れます。簡易式でも実用上は十分な精度ですが、ビアが太く($d$ が大きく)なるほど高精度版との差が開くため、ミリ波の上の方の周波数で寸法精度がシビアになる場合は高精度版を使うのが安全です。いずれの式でも、$w_{\text{eff}}$ が $w$ より一貫して小さい点は共通しており、ビアの離散性が必ず実効幅を縮める方向に働くことが確認できます。
ビア間隔と漏洩損失のトレードオフ
次に、ビア間隔 $p$ を変えると漏洩損失がどう変わるかを可視化します。漏洩損失の厳密な計算は周期構造の固有値問題を解く必要がありますが、ここでは設計則の物理(隙間 $p$ が管内波長に対して大きいほど急激に漏れが増える)を反映した、定性的な漏洩損失モデルを使ってトレードオフの傾向を示します。漏れは「規格化ピッチ $p/\lambda_g$」が大きいほど指数関数的に増えると考えられます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
c0 = 2.99792458e8
def guided_wavelength(f, fc, eps_r):
lam = c0 / (f * np.sqrt(eps_r))
return lam / np.sqrt(1 - (fc / f)**2)
# 28 GHz 動作、fc=21 GHz、eps_r=3.55 のSIW
f = 28e9
fc = 21e9
eps_r = 3.55
lam_g = guided_wavelength(f, fc, eps_r)
# ピッチを変化させたときの正規化ピッチと定性的漏洩損失モデル
p_vals = np.linspace(0.3e-3, 2.5e-3, 200)
norm_pitch = p_vals / lam_g
# 定性モデル: 漏れは正規化ピッチに対し指数的に増大 (傾向把握用)
leak_dB = 0.002 * np.exp(norm_pitch / 0.05)
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(p_vals*1e3, leak_dB, lw=2, color='crimson')
plt.axvline(lam_g/5*1e3, ls='--', color='navy',
label=f'p = lambda_g/5 = {lam_g/5*1e3:.2f} mm')
plt.yscale('log')
plt.xlabel('Via pitch p [mm]')
plt.ylabel('Leakage loss [dB/length] (qualitative)')
plt.title('Leakage vs Via Pitch (28 GHz SIW)')
plt.legend()
plt.grid(True, which='both', alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('siw_leakage_tradeoff.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、漏洩損失はピッチ $p$ が小さいうちはほぼ平坦(無視できるレベル)ですが、$p$ が管内波長の 5 分の 1(破線、約 1.6 mm)を超えるあたりから急激に立ち上がることが読み取れます。これがまさに設計則 $p < \lambda_g/5$ の根拠です。破線の左側にピッチを取れば漏れは実用上問題にならず、右側では損失が指数関数的に増えてしまいます。設計者がピッチを破線より十分小さく(たとえば前節の 0.7 mm)取るのは、この急峻な立ち上がりを避け、安全マージンを確保するためです。一方で、ピッチを極端に小さくするとビアの数が増えて製造コストと加工難度が上がるため、破線の手前で適度なマージンを取る位置が最適となります。
遮断周波数より上での群速度と分散
最後に、SIW を伝わる信号の群速度が周波数とともにどう変わるかを可視化します。SIW は中空導波管と同じ分散関係を持つため(誘電体で速度がスケールされるだけ)、信号は分散を受けます。群速度 $v_g = c_{\text{eff}}\sqrt{1 – (f_c/f)^2}$(ここで $c_{\text{eff}} = c/\sqrt{\varepsilon_r}$ は誘電体中の光速)を周波数の関数としてプロットします。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
c0 = 2.99792458e8
fc = 21e9 # 遮断周波数 21 GHz
eps_r = 3.55
c_eff = c0 / np.sqrt(eps_r) # 誘電体中の光速
f = np.linspace(fc*1.001, 4*fc, 400) # 遮断のすぐ上から
vg = c_eff * np.sqrt(1 - (fc / f)**2) # 群速度
vp = c_eff / np.sqrt(1 - (fc / f)**2) # 位相速度
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 5))
ax.plot(f/1e9, vg/c0, label='Group velocity v_g / c', lw=2)
ax.plot(f/1e9, vp/c0, label='Phase velocity v_p / c', lw=2)
ax.axhline(c_eff/c0, ls=':', color='gray',
label=f'c_eff/c = 1/sqrt(eps_r) = {c_eff/c0:.3f}')
ax.axvline(fc/1e9, ls='--', color='red', label=f'fc = {fc/1e9:.0f} GHz')
ax.set_xlabel('Frequency [GHz]')
ax.set_ylabel('Velocity / c')
ax.set_title('SIW Dispersion: Group & Phase Velocity (eps_r=3.55)')
ax.set_ylim(0, 1.0)
ax.legend()
ax.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('siw_group_velocity.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、SIW 特有の分散の様子がよくわかります。遮断周波数 21 GHz のすぐ上では群速度がゼロに近く(信号がほとんど進まない)、周波数が上がるにつれて急速に増加し、高周波では誘電体中の光速 $c_{\text{eff}} = c/\sqrt{\varepsilon_r}$(灰色の点線、$\approx 0.53c$)に漸近します。逆に位相速度は遮断付近で発散的に大きくなり、高周波で同じ $c_{\text{eff}}$ に漸近します。両者が $v_p v_g = c_{\text{eff}}^2$ を満たす様子も読み取れます。実用上の教訓は明確です。遮断周波数のすぐ近くで SIW を使うと群速度が小さく分散が激しいため、動作帯域は遮断周波数から十分離して(典型的には $f_c$ の 1.25〜1.5 倍以上に)設定すべきだということです。前節の設計で動作 28 GHz に対し遮断 21 GHz と置いたのは、この比 $28/21 \approx 1.33$ を確保するためでした。
まとめ
本記事では、基板集積導波路(SIW)の理論と設計を、矩形導波路のカットオフ理論を出発点として解説しました。要点を整理します。
- SIW はビアの柵で中空導波管を基板に埋め込む構造で、安価なプリント基板プロセスで低損失・高Q・大電力の伝送路を実現します。ビア間隔が波長より十分小さければ、ビア列は実効的な金属壁として機能します
- TE$_{10}$ モードに限って動作する理由は、このモードの壁面電流が伝搬方向成分を持たず、ビアの隙間で電流が途切れないためです
- 遮断周波数は誘電体充填により $f_c = c/(2 w_{\text{eff}}\sqrt{\varepsilon_r})$ となり、$1/\sqrt{\varepsilon_r}$ 倍に小型化できます
- 等価幅は経験式 $w_{\text{eff}} = w – d^2/(0.95 p)$ で求まり、ビアの離散性による幅の目減りを補正します
- 放射漏れ抑制の設計則 $p < 2d$ と $p < \lambda_g/5$ を両方満たすことで、漏洩損失を実用上無視できるレベルに抑えられます
- 設計フローは「目標 $f_c$ → 等価幅 $w_{\text{eff}}$ → ビア列間隔 $w$」の 3 段階で、Python 関数として簡潔に実装できます
- 群速度の分散特性から、動作帯域は遮断周波数から十分離して設計すべきことがわかります
SIW がミリ波回路で選ばれる理由は、結局のところ「中空導波管の低損失性能」と「プリント基板の量産性・平面集積性」を両立できる点に尽きます。5G/6G、車載レーダー、衛星端末といったミリ波応用が拡大する中で、SIW は受動回路設計の標準的な選択肢になりつつあります。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。