高周波電力の測定 — 熱型センサ・通過形電力計・方向性結合器による測定原理を解説

テスターを一本持っていれば、乾電池の電圧も、豆電球に流れる電流も測れます。オームの法則が使える世界では、電圧と電流さえ押さえれば電力もすぐ計算できます。ところが、送信機からアンテナへ向かう1GHzの信号の「強さ」を知りたいとき、私たちはテスターを当てて電圧を読む、という素朴な方法をとりません。高周波の世界では、測る対象そのものが電圧・電流から電力へと切り替わります。無線機のスペックに書かれた「送信出力 20 W」も、アンテナの「利得」を測る基準も、すべて電力です。

なぜ高周波だけ扱いが変わるのでしょうか。そして、目に見えず、テスターも当てられない高周波電力を、私たちはいったいどうやって測っているのでしょうか。この記事では次の2つの問いに答えます。

  • なぜ高周波は電圧・電流ではなく電力で測るのか — 分布定数回路では「電圧」が場所によって変わってしまい、一つの値に定まりません。一方で電力は保存量として素直に扱えます。
  • どうやって測るのか — 熱に変えて測る終端形電力計(熱電対・ボロメータ・ダイオード)と、線路を流れる電力をそのまま測る通過形電力計(方向性結合器)の原理を、順を追って解きほぐします。

この知識は、無線送信機の出力調整、アンテナの整合状態の把握、増幅器やフィルタの特性評価など、無線・高周波を扱うあらゆる場面の土台になります。国家資格の無線工学でも頻出のテーマですが、丸暗記ではなく「なぜその測り方になるのか」を理解すれば、測定器のカタログ値の意味まで一気に見通せるようになります。

本記事の内容

  • 高周波で電力測定が主役になる理由(定在波と保存量)
  • dBm・dB の体系と、50Ω系での電力と電圧の換算
  • 終端形電力計3方式(熱電対形・ボロメータ形・ダイオード検波形)の原理と使い分け
  • 通過形電力計と方向性結合器による進行波・反射波の分離
  • CW電力・平均電力・ピーク電力とデューティ比の関係
  • 整合誤差(ミスマッチ不確かさ)と結合器の方向性の限界

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

まず、通過形電力計がやっていることの全体像を1枚の絵で押さえておきましょう。

通過形電力計と方向性結合器による進行波・反射波の分離の模式図

信号源から負荷(アンテナ)へ向かう線路の途中に、方向性結合器という部品を挿入します。この結合器は、右向きに進む波(進行波電力 $P_f$)と、負荷で反射して左向きに戻る波(反射波電力 $P_r$)を別々のポートに取り出せます。取り出したそれぞれをセンサで測れば、負荷が実際に受け取る正味電力は $P = P_f – P_r$ として求まります。この記事の後半で、この結合器の中身と、$P_f$・$P_r$ を測るセンサの原理を詳しく見ていきます。

なぜ高周波は電力で測るのか

低周波の回路では、回路のどこで電圧を測っても(配線の抵抗を無視すれば)同じ値になります。導線の長さが波長に比べて圧倒的に短いので、線路上のすべての点がほぼ同時に同じ電位で振動するからです。これを集中定数回路の世界と呼びます。ここではテスターを一点に当てて電圧を読めば、それが回路全体を代表する値になります。

ところが周波数が上がると事情が変わります。たとえば1GHzの信号の波長は自由空間で約30cmです。基板上の配線やケーブルが数cm〜数十cmあれば、それはもう波長と同じオーダーです。こうなると、線路上の場所によって電圧の振幅が変わってしまいます。負荷で反射した波が、進んできた波と重なり合い、場所ごとに強め合ったり弱め合ったりする定在波が立つからです。これが分布定数回路の世界です。

定在波が立っているとき、「この線路の電圧はいくつですか」という問いには一意に答えられません。ある場所では電圧が最大、そこから4分の1波長離れれば最小、というように、測る位置で答えが変わってしまうのです。次の図で、反射の大きさを変えたときに線路上の電圧の大きさがどう分布するかを見てみましょう。

分布定数回路の定在波と保存量である正味電力

上のグラフは、負荷を $z=0$ とし、そこから信号源側へ向かう線路上での電圧の大きさ $|V(z)|$ を、反射係数 $|\Gamma|$ の3通りについて描いたものです。整合がとれて反射がない($|\Gamma|=0$)ときは、電圧はどこでも一定です。しかし反射があると、$|\Gamma|=0.5$ で山と谷が現れ、$|\Gamma|=0.8$ ではその起伏がさらに大きくなります。つまり「電圧を測って強さを知る」という方法は、測る場所しだいで答えが変わる不安定なやり方だということです。下のグラフは、同じ状況で正味電力(負荷へ流れ込む電力)を描いたもので、こちらは線路上のどこで測っても一定です。電圧のように場所で暴れることがありません。

電力が場所によらず一定になるのは、無損失の線路ではエネルギーが保存するからです。線路の途中でエネルギーが湧いたり消えたりしないので、どの断面を通り抜ける正味の電力も同じ値になります。この「保存量である」という性質こそが、高周波で電力を測定の基準に据える最大の理由です。電圧は場所で変わるが、電力は変わらない。だから電力で測る、というわけです。

高周波電力を測るとき、私たちは値の大小を桁で扱うことが多く、そのために対数の単位を使います。次はその単位系を整理しておきましょう。

dBm・dB・dBμV の体系

高周波電力は、送信機の数百ワットから受信機に届く1兆分の1ワット(ピコワット)まで、途方もなく広い範囲にわたります。この幅を素直な数値で書くと桁がバラバラで扱いにくいので、対数の単位を使います。基準を1mW(ミリワット)にとった対数電力がdBmです。定義は次のとおりです。

$$ \begin{equation} P_{\mathrm{dBm}} = 10 \log_{10}\!\left(\frac{P}{1\,\mathrm{mW}}\right) \end{equation} $$

この式のうれしいところは、掛け算が足し算になる点です。増幅器で電力が10倍になれば $+10$ dB、100倍なら $+20$ dB、2倍なら約 $+3$ dB。逆に半分になれば $-3$ dB です。基準の1mWそのものは $0$ dBm になります。実際に代入してみると、$0$ dBm $=1$ mW、$10$ dBm $=10$ mW、$20$ dBm $=100$ mW、$30$ dBm $=1$ W、と10dBごとにきれいに10倍ずつ増えていきます。

一方、dB(デシベルそのもの)は基準を持たないの単位です。「増幅器の利得は $20$ dB」といえば電力が100倍になるという意味で、それ自体は電力の絶対値を表しません。dBm が絶対量、dB が相対量、という区別が肝心です。電圧の比を基準1μVでとった dBμV も受信機の分野で使われ、こちらは電圧の対数なので係数が20になります。

$$ \begin{equation} V_{\mathrm{dB\mu V}} = 20 \log_{10}\!\left(\frac{V}{1\,\mu\mathrm{V}}\right) \end{equation} $$

電力と電圧で係数が10と20に分かれるのは、電力が電圧の2乗に比例するからです。$P \propto V^2$ なので $\log$ をとると2が前に出て、$10 \times 2 = 20$ になる、と理解しておけば取り違えません。

50Ω系での電力と電圧の換算

高周波の測定系はほとんどが特性インピーダンス $50\,\Omega$ で統一されています。抵抗 $R=50\,\Omega$ に実効電圧 $V_{\mathrm{rms}}$ がかかっているときの電力は、交流電力の基本式そのままで次のように書けます。

$$ \begin{equation} P = \frac{V_{\mathrm{rms}}^2}{R} \end{equation} $$

これを電圧について解けば、電力から電圧を逆算できます。両辺に $R$ を掛けて平方根をとると、

$$ V_{\mathrm{rms}} = \sqrt{P R} $$

となります。ここに $P=1$ mW $=10^{-3}$ W と $R=50\,\Omega$ を代入すると、

$$ V_{\mathrm{rms}} = \sqrt{10^{-3} \times 50} = \sqrt{0.05} \approx 0.2236\ \mathrm{V} $$

が得られます。つまり50Ω系では $0$ dBm はちょうど約 0.224 V(実効値) に対応します。この一点を覚えておくと、dBm と電圧の間の行き来が速くなります。実際の数値の対応を図で確かめましょう。

dBmとmWの対応および50Ω系での電力と電圧の換算

左のグラフは dBm と mW の対応を対数軸で描いたものです。$0,10,20,30$ dBm がそれぞれ $1,10,100,1000$ mW に対応し、10dBごとに10倍になる関係が直線として現れています。右のグラフは同じ電力を50Ω系での実効電圧に換算したもので、$0$ dBm が約 0.224 V に対応することが読み取れます。電力が対数で $10$ dB 増えるあいだに、電圧は $\sqrt{10}\approx 3.16$ 倍にしかならない点が、電力と電圧で係数が違うことの現れです。

単位系が整理できたところで、いよいよ本題の測定原理に入ります。高周波電力の測り方は大きく2つに分かれます。ひとつは信号を丸ごと吸収して測る「終端形」、もうひとつは線路を流れる電力をのぞき見する「通過形」です。まずは終端形から見ていきましょう。

終端形電力計 — 信号を吸収して測る

終端形電力計は、測りたい信号を $50\,\Omega$ の整合抵抗で受けきって(終端して)、その抵抗に吸収されたエネルギーを測る方式です。ポイントは、高周波の電圧や電流を直接読むのではなく、電力を別の物理量に変換してから測るところにあります。変換先の代表が「熱」です。抵抗に吸収された電力は必ず熱になるので、その熱の量を測れば、周波数がどれだけ高くても電力がわかります。この方式には熱電対形・ボロメータ形・ダイオード検波形の3つがあり、それぞれ特徴が異なります。

熱電対形センサ

熱電対形は、高周波電力を整合抵抗で受けて発熱させ、その温度上昇を熱電対で電圧に変える方式です。熱電対とは、異種金属を接合すると接合部の温度に応じた起電力(ゼーベック効果による熱起電力)が生じる素子のことです。仕組みを図で見てみましょう。

熱電対形電力センサの原理模式図

図のように、高周波電力はまず整合抵抗に吸収され、ジュール熱 $P = I^2 R$ として発熱します。この熱で接合部の温度が上がり、熱電対が温度に比例した直流起電力を出します。抵抗での発熱は瞬時電力 $p(t)=i(t)^2 R$ の時間平均、すなわち

$$ \begin{equation} P_{\mathrm{avg}} = \frac{1}{T}\int_0^T i(t)^2 R\, dt = I_{\mathrm{rms}}^2 R \end{equation} $$

に等しくなります。ここで大切なのは、熱は波形の細かい形によらず、2乗の平均だけで決まるという点です。熱電対はこの平均発熱をそのまま拾うので、正弦波でも、変調された複雑な波形でも、雑音のような信号でも、区別なく真の平均電力を測れます。この「波形を選ばない」性質が熱電対形の最大の長所で、変調信号の平均電力を正確に知りたい用途で重宝します。短所は熱を介するため応答が遅く、微小電力では温度上昇がわずかで感度が足りないことです。

熱を電圧に変えるもう一つの道が、抵抗そのものの温度変化を利用するボロメータ形です。次に見ていきましょう。

ボロメータ形(サーミスタ・バレッタ)

ボロメータ形は、温度で抵抗値が変わる素子を検出体に使います。代表格が、温度が上がると抵抗が下がるサーミスタと、細い金属線で温度が上がると抵抗が上がるバレッタです。この素子に高周波電力を吸収させると発熱して抵抗値が変わります。ただし、抵抗の変化をそのまま読むのではなく、置換電力法という巧妙な方法で測るのが特徴です。

ボロメータ形電力計のブリッジと置換電力法

図はホイートストンブリッジの一辺にサーミスタ $R_b$ を組み込んだ回路です。まず高周波を加えない状態で、直流バイアスだけをサーミスタに流して発熱させ、ブリッジが平衡する(検流計Gの振れがゼロになる)ように調整しておきます。次に高周波電力を加えると、サーミスタはさらに発熱して抵抗が変わり、ブリッジの平衡が崩れます。そこで直流バイアスを減らして、ふたたびブリッジが平衡するように戻します。

ここがこの方式の核心です。ブリッジが平衡するということは、サーミスタの抵抗値が、したがって発熱量(=素子に吸収されている総電力)が元に戻ったことを意味します。総電力が一定なら、

$$ \begin{equation} P_{\mathrm{DC,\,before}} = P_{\mathrm{DC,\,after}} + P_{\mathrm{RF}} \end{equation} $$

が成り立ちます。つまり、減らした直流電力 $P_{\mathrm{DC,before}} – P_{\mathrm{DC,after}}$ が、加えた高周波電力 $P_{\mathrm{RF}}$ にちょうど等しいのです。測りにくい高周波電力を、正確に測れる直流電力の差に「置き換えて」測る——これが置換電力法です。直流電力は電圧と電流を精密に測れば求まるので、非常に高い確度が得られます。標準器(電力の基準)として使われるのはこの方式です。弱点は、扱える電力範囲が狭く、微小電力専用である点です。

熱を介する2方式は正確ですが応答が遅く、感度にも限界があります。もっと速く、もっと弱い信号まで測りたいときに登場するのが、ダイオードを使う検波形です。

ダイオード検波形

ダイオード検波形は、高周波信号をダイオードで整流し、得られた直流成分から電力を求める方式です。熱を介さないので応答がきわめて速く、感度も高いので、ピコワット級の微小電力まで測れます。しかし、この方式には測れる電力の範囲によって性格が変わるという、原理上の重要な注意点があります。

ダイオードの電流電圧特性は指数関数です。加わる電圧が小さい範囲では、この指数関数をテイラー展開して2次まで残すと、検波される直流出力は入力電圧の2乗に比例します。

$$ \begin{equation} V_{\mathrm{out}} \propto V^2 \propto P \end{equation} $$

電圧の2乗は電力に比例するので、この領域では出力が電力に正比例します。これを自乗検波領域と呼びます。自乗検波領域では、熱電対形と同じように波形によらず真の平均電力が測れます。ところが入力電圧が大きくなると、指数関数の高次の項が効いてきて、やがて出力は電圧に比例する直線検波領域に移ります。ここでは出力が電圧(振幅)に比例するため、波形しだいで読みが変わり、平均電力を正しく測れません。この移り変わりを図で見てみましょう。

ダイオード検波の自乗検波領域と直線検波領域

グラフは検波出力を入力電力に対して両対数で描いたものです。おおむね $-20$ dBm より小さい弱い入力では、実際の出力(青)が自乗検波の漸近線(オレンジの破線)に沿っています。この領域では出力が電力に比例し、真の平均電力が測れます。一方、$0$ dBm を超える強い入力では、出力が直線検波の漸近線(緑の破線)に近づき、電力ではなく電圧に比例するようになります。この直線領域では、変調のかかった信号の平均電力を測ろうとすると誤差が出ます。

このため、ダイオード検波形で変調波の平均電力を正確に測りたいときは、入力を自乗検波領域に収まるよう十分に小さくして使うのが原則です。強い信号や複雑な変調波を測るときは、無変調の連続波(CW)に限って使うか、平均電力を正しく測れる熱型センサや、内部で自乗特性を補正した測定器を使います。まとめると、熱電対形は遅いが波形を選ばず正確、ボロメータ形は標準器級の確度だが微小電力専用、ダイオード検波形は高速・高感度だが自乗検波領域を外れると波形依存になる、という住み分けです。

ここまでは信号を吸収してしまう終端形でした。しかし送信中のアンテナに流れる電力を、信号を止めずに測りたい場面も多くあります。そこで使うのが通過形電力計です。

通過形電力計と方向性結合器

通過形電力計は、線路を流れる電力のごく一部だけを取り出して測る方式です。信号の大部分はそのまま負荷へ通すので、送信機を動かしたまま出力をモニタできます。その中心にあるのが、記事の冒頭でも登場した方向性結合器です。この部品は、同じ線路を流れていても進む向きが違う波を分離できるという、一見不思議な働きをします。

方向性結合器は、主線路に沿ってもう1本の副線路を近づけた構造をしています。2本の線路は電界(容量結合)と磁界(誘導結合)の両方で結合しており、この2つの結合を適切に設計すると、進行波に対しては2つの結合が一方のポートで強め合い、もう一方では打ち消し合います。反射波に対しては逆になります。結果として、進行波のエネルギーは片方の結合ポートだけに、反射波のエネルギーはもう片方のポートだけに現れます。原理の詳細は方向性結合器の設計に譲りますが、ここで押さえるべきは「向きで分けられる」という性質です。

結合器の性能は、次の3つの量で表されます。まず結合度 $C$ は、主線路の進行波電力 $P_1$ に対して結合ポートに現れる電力 $P_3$ がどれだけ小さいかを表す量で、

$$ \begin{equation} C = 10 \log_{10}\!\left(\frac{P_1}{P_3}\right)\ [\mathrm{dB}] \end{equation} $$

と定義されます。$C=20$ dB なら、主線路の電力の $1/100$ が結合ポートに取り出される、という意味です。次にアイソレーション $I$ は、進行波を流したときに「反射波用のポート」に漏れてしまう電力の小ささを表します。理想的には進行波は反射波用ポートには一切出てこないはずですが、現実には少し漏れます。そして両者の差が方向性 $D$ です。

$$ \begin{equation} D = I – C\ [\mathrm{dB}] \end{equation} $$

方向性は、結合器が進行波と反射波をどれだけきれいに分離できるかを表す、最も重要な指標です。方向性が高いほど、進行波の測定に反射波が混じらず、反射波の測定に進行波が混じりません。これらの量が周波数によってどう変わるかを見てみましょう。

方向性結合器の結合度とアイソレーション・方向性の周波数特性

左のグラフは結合度とアイソレーションの周波数特性のイメージです(縦軸は下ほど大きいdB値で描いています)。結合度は設計中心から離れるとゆるやかに変化し、アイソレーションは中心付近で最も深くなります。右のグラフはその差である方向性で、実用上は $20$ dB 以上が一つの目安です。方向性が高い帯域でこそ、進行波と反射波の分離が信頼できます。結合度が周波数で変動することは、そのまま測定確度に影響するので、使用帯域で結合度がどれだけ平坦かは通過形電力計を選ぶ際の要点になります。

分離できた進行波電力 $P_f$ と反射波電力 $P_r$ がわかると、負荷が実際に受け取る電力が計算できます。次にその関係を整理しましょう。

進行波・反射波・正味電力と VSWR

負荷のインピーダンスが線路の特性インピーダンス $Z_0$ と一致していなければ、進行波の一部が負荷で反射して戻ってきます。反射の度合いを表すのが反射係数 $\Gamma$ で、その大きさの2乗 $|\Gamma|^2$ が「進行波電力のうち反射される割合」を表します。したがって反射波電力は

$$ \begin{equation} P_r = |\Gamma|^2 P_f \end{equation} $$

と書け、負荷が実際に受け取る正味電力は進行波から反射波を引いた

$$ \begin{equation} P = P_f – P_r = P_f\left(1 – |\Gamma|^2\right) \end{equation} $$

になります。通過形電力計が $P_f$ と $P_r$ を別々に測れるのは、まさにこの正味電力を知るためです。反射がゼロ(整合)なら $P=P_f$ で、送り出した電力がまるごと負荷に入ります。反射が大きいほど、負荷に届く電力は減ってしまいます。

反射の大きさは、現場では電圧定在波比 VSWR という量でも表されます。定在波の電圧の最大値と最小値の比で、反射係数とは

$$ \begin{equation} \mathrm{VSWR} = \frac{1 + |\Gamma|}{1 – |\Gamma|}, \qquad |\Gamma| = \frac{\mathrm{VSWR}-1}{\mathrm{VSWR}+1} \end{equation} $$

の関係で結ばれます。VSWR が1なら反射ゼロ(完全整合)、値が大きいほど反射が大きいことを表します。VSWR と反射電力、そして負荷が受け取れずに損する電力(整合損失)の関係を見てみましょう。

VSWRと反射係数・反射電力・整合損失の関係

左のグラフは VSWR に対する反射係数 $|\Gamma|$ と反射電力割合 $|\Gamma|^2$ です。VSWR $=1.5$ で反射係数は $0.2$、反射電力は進行波の $4.0\%$。VSWR $=2.0$ で反射係数 $0.333$、反射電力 $11.1\%$。VSWR $=3.0$ では反射係数 $0.5$ で、実に $25\%$ もの電力が跳ね返されます。右のグラフはこの反射によって負荷に届かない分を dB で表した整合損失で、$-10\log_{10}(1-|\Gamma|^2)$ で計算されます。VSWR $=2.0$ で約 $0.51$ dB、VSWR $=3.0$ で約 $1.25$ dB の損失です。VSWR が2程度までなら損失は0.5dB足らずですが、3を超えると無視できない大きさになることが読み取れます。

反射のことがわかると、測定にひそむ厄介な誤差の話が避けて通れません。反射は負荷だけでなく、測定器の側でも起こるからです。次にこの整合誤差を見ていきましょう。

整合誤差(ミスマッチ不確かさ)

高周波電力測定で最大の誤差要因は、しばしば整合誤差(ミスマッチ不確かさ)です。これは、信号を送り出す側(発生器)と、それを受けるセンサ側の両方が、完全な $50\,\Omega$ ではなく少しずつ反射を持っているために生じます。発生器から出た波はセンサでいくらか反射し、その反射波が発生器でまた反射してセンサに戻り……と多重反射が起こります。この多重反射が強め合うか弱め合うかは両者の反射の位相関係で決まり、位相は周波数やケーブル長で変わるため、私たちには予測できないのです。

発生器側の反射係数を $\Gamma_g$、センサ側を $\Gamma_l$ とすると、多重反射をすべて足し合わせた結果、センサに実際に届く電力は、理想の場合に対して次の因子だけ変動します。

$$ \begin{equation} \left|\frac{1}{1 – \Gamma_g \Gamma_l}\right|^2 \end{equation} $$

$|\Gamma_g \Gamma_l|$ は普通1よりずっと小さいので、$\dfrac{1}{1-x}\approx 1+x$ の近似(幾何級数の1次近似)を使って展開できます。分母の $\Gamma_g\Gamma_l$ を $x$ とみなすと、

$$ \left|\frac{1}{1 – \Gamma_g \Gamma_l}\right|^2 \approx \left|1 + \Gamma_g \Gamma_l\right|^2 \approx 1 + 2\,\mathrm{Re}(\Gamma_g \Gamma_l) $$

となります。ここで位相は未知なので、$\mathrm{Re}(\Gamma_g\Gamma_l)$ は最も強め合う場合の $+|\Gamma_g||\Gamma_l|$ から、最も弱め合う場合の $-|\Gamma_g||\Gamma_l|$ までの範囲をとりえます。したがって測定値は真値に対して

$$ \begin{equation} 1 \pm 2|\Gamma_g||\Gamma_l| \end{equation} $$

の幅で不確かになります(電圧反射の1次まででは $1\pm|\Gamma_g||\Gamma_l|$ と表す流儀もあり、以下の図はこの標準的な表し方で描いています)。大切なのは、これが符号のわからない不確かさであって、校正で引き算して消せる系統誤差ではない点です。この不確かさが反射係数の大きさでどう広がるかを見てみましょう。

ミスマッチ不確かさの幅

グラフは発生器側の反射を $|\Gamma_g|=0.2$ に固定し、センサ側 $|\Gamma_l|$ を横軸にとったときの、測定値のずれ $10\log_{10}(1\pm|\Gamma_g||\Gamma_l|)$ を dB で描いたものです。$|\Gamma_l|=0.2$ でおよそ $\pm 0.17$ dB、$|\Gamma_l|=0.33$(VSWR2相当)で約 $\pm 0.28$ dB、$|\Gamma_l|=0.5$ で $+0.41 / -0.46$ dB と、両者の反射が大きいほど不確かさの帯が広がることが読み取れます。この誤差を小さくする唯一の方法は、発生器とセンサの両方をできるだけ $50\,\Omega$ に近づける、すなわち $|\Gamma|$ を下げることです。センサの前に良質なアッテネータ(減衰器)を入れると、センサ側の実効的な反射が下がるため、この不確かさを抑えられます。

整合誤差のほかにも、通過形では方向性結合器の方向性が有限であることが誤差になります。少しだけ触れておきましょう。

方向性の有限性による反射波測定の誤差

方向性が無限大でない結合器では、反射波を測るポートに進行波がわずかに漏れ込みます。反射がもともと小さいときほど、この漏れ込みが相対的に大きくなり、反射波の測定誤差が拡大します。

有限の方向性による反射波測定誤差

グラフは、真の反射係数 $|\Gamma|$(横軸)を測るときに、方向性が有限であることで生じる誤差を dB で表したものです。方向性 $20$ dB の結合器では、小さな反射(左側)ほど誤差の帯が大きく広がっています。方向性を $30$ dB、$40$ dB と上げていくと、同じ反射でも誤差がぐっと小さくなります。小さな反射(良好な整合状態)を正確に測りたいほど、高い方向性の結合器が必要になる、という関係が読み取れます。

ここまでは信号が途切れなく続く連続波を前提にしてきました。最後に、レーダーのようにパルス状にオン・オフする信号の電力について整理します。

CW電力・平均電力・ピーク電力

ここまで扱ってきた無変調の連続波をCW(Continuous Wave)電力と呼びます。CW では信号の強さが時間的に一定なので、平均電力とピーク電力を区別する必要がありません。ところがレーダーのように信号を短いパルスにして送る場合、話が変わります。パルスが出ている瞬間の電力(ピーク電力)はとても大きいのに、休んでいる時間が長ければ、時間で均した平均電力はずっと小さくなります。この2つを取り違えると、機器の定格を大きく読み違えます。

両者を結ぶのがデューティ比 $D$ です。パルス幅を $\tau$、繰り返し周期を $T$ とすると、$D = \tau/T$ で定義され、1周期のうち信号が出ている時間の割合を表します。矩形パルスの平均電力は、ピーク電力を出ている時間の割合だけ薄めたものなので、

$$ \begin{equation} P_{\mathrm{avg}} = P_{\mathrm{peak}} \cdot D = P_{\mathrm{peak}} \cdot \frac{\tau}{T} \end{equation} $$

という単純な比例関係になります。逆に、平均電力とデューティ比がわかればピーク電力は $P_{\mathrm{peak}} = P_{\mathrm{avg}} / D$ で求まります。図で具体的に見てみましょう。

パルス電力におけるピーク電力・平均電力とデューティ比

グラフは、ピーク電力 $100$ W のパルスをデューティ比 $D=0.3$ で送る様子です。信号は周期 $T$ のうち $\tau = 0.3T$ の間だけ $100$ W で出ており、残りは休んでいます。この間の平均電力(緑の破線)は $100 \times 0.3 = 30$ W です。ピーク電力とはこれほど大きな開きがあることが一目でわかります。ここで注意したいのは、熱電対形やボロメータ形の電力計は、熱の平均を測るので平均電力を返す点です。ピーク電力を知りたければ、平均電力の測定値をデューティ比で割るか、ピーク電力に対応した専用の測定器を使う必要があります。測定器が返しているのが平均かピークかを意識することが、パルス信号を扱ううえで欠かせません。

Pythonで確かめる

ここまでの関係を、Pythonでまとめて数値と図で確かめてみましょう。dBm換算、VSWRと反射電力・整合損失、ミスマッチ不確かさ、デューティ比の4つを一度に計算します。まずはdBmと50Ω系での電圧換算です。

import numpy as np

R = 50.0  # 特性インピーダンス [Ω]

def dbm_to_watt(p_dbm):
    return 10 ** ((p_dbm - 30) / 10)

for p in [0, 10, 20, 30]:
    Pw = dbm_to_watt(p)
    Vrms = np.sqrt(Pw * R)
    print(f"{p:3d} dBm = {Pw*1e3:7.1f} mW,  Vrms = {Vrms:.4f} V")

このコードを実行すると、$0$ dBm $=1.0$ mW($V_{\mathrm{rms}}=0.2236$ V)、$10$ dBm $=10.0$ mW($0.7071$ V)、$20$ dBm $=100.0$ mW($2.2361$ V)、$30$ dBm $=1000.0$ mW($7.0711$ V)と出力されます。10dBごとに電力が10倍、電圧が $\sqrt{10}\approx3.16$ 倍になっていること、そして $0$ dBm がちょうど約 0.224 V に対応することが数値で確認できます。

次に、VSWR から反射電力の割合と整合損失を計算します。

import numpy as np

def vswr_to_gamma(vswr):
    return (vswr - 1) / (vswr + 1)

for vswr in [1.5, 2.0, 3.0]:
    g = vswr_to_gamma(vswr)
    refl = g ** 2                       # 反射電力の割合
    match_loss = -10 * np.log10(1 - refl)  # 整合損失 [dB]
    print(f"VSWR={vswr}: |Γ|={g:.3f}, 反射={refl*100:5.2f}%, 整合損失={match_loss:.3f} dB")

出力は、VSWR $=1.5$ で反射 $4.00\%$・整合損失 $0.177$ dB、VSWR $=2.0$ で反射 $11.11\%$・損失 $0.512$ dB、VSWR $=3.0$ で反射 $25.00\%$・損失 $1.249$ dB となります。本文の図で示した値と一致しており、VSWR が2を超えたあたりから損失が急に効いてくる様子が数値からも読み取れます。

続いて、ミスマッチ不確かさとデューティ比を計算します。

import numpy as np

# ミスマッチ不確かさ(発生器側 |Γg|=0.2 に固定)
Gg = 0.2
for Gl in [0.2, 0.33, 0.5]:
    up = 10 * np.log10(1 + Gg * Gl)   # 最も強め合う場合
    lo = 10 * np.log10(1 - Gg * Gl)   # 最も弱め合う場合
    print(f"|Γl|={Gl}: +{up:.3f} dB / {lo:.3f} dB")

# デューティ比とピーク/平均電力
P_peak = 100.0  # W
for D in [0.1, 0.3, 0.5]:
    P_avg = P_peak * D
    print(f"デューティ比 D={D}: 平均電力={P_avg:.1f} W (ピーク {P_peak:.0f} W)")

ミスマッチ不確かさは、$|\Gamma_l|=0.2$ で $+0.170/-0.177$ dB、$|\Gamma_l|=0.33$ で $+0.278/-0.297$ dB、$|\Gamma_l|=0.5$ で $+0.414/-0.458$ dB となり、反射が大きいほど不確かさの帯が広がることが数値で確認できます。デューティ比のほうは、$D=0.3$ でピーク $100$ W に対し平均 $30.0$ W と、$P_{\mathrm{avg}}=P_{\mathrm{peak}}\cdot D$ の関係がそのまま現れています。図で見た関係が、すべて単純な式から出てくることが確かめられました。

まとめ

本記事では、高周波電力の測定について、なぜ電力で測るのかという動機から、具体的な測定原理までを解説しました。

  • 高周波は電力で測る — 分布定数回路では定在波のため電圧が場所によって変わり一意に定まらないが、電力は保存量として線路上のどこでも一定になる。だから電力を測定の基準に据える。
  • dBmの体系 — 1mWを基準とした対数電力。掛け算が足し算になり、広いダイナミックレンジを扱いやすい。50Ω系では $0$ dBm が約 0.224 V に対応する。
  • 終端形電力計 — 信号を吸収して測る。熱電対形は波形を選ばず真の平均電力を測れるが遅い。ボロメータ形は置換電力法で標準器級の確度を出すが微小電力専用。ダイオード検波形は高速・高感度だが、自乗検波領域を外れると波形依存になる。
  • 通過形電力計 — 方向性結合器で進行波電力 $P_f$ と反射波電力 $P_r$ を分離し、正味電力 $P=P_f-P_r=P_f(1-|\Gamma|^2)$ を求める。結合器の性能は結合度・アイソレーション・方向性で表される。
  • 測定誤差 — 最大の要因は符号のわからないミスマッチ不確かさ $1\pm|\Gamma_g||\Gamma_l|$。発生器とセンサの整合を良くする($|\Gamma|$ を下げる)ことでしか小さくできない。結合器の有限な方向性も、小さな反射の測定で誤差になる。
  • 平均電力とピーク電力 — パルス信号ではデューティ比 $D$ を介して $P_{\mathrm{avg}}=P_{\mathrm{peak}}\cdot D$。熱型センサが返すのは平均電力である点に注意。

これらは無線工学の資格試験でも頻出のテーマですが、「電力は保存量だから測りやすい」「熱に変えれば周波数によらず測れる」「向きで分ければ正味電力がわかる」という3つの筋を押さえておけば、個々の測定器の仕組みも自然につながって見えてきます。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。