自動車には車検があり、排ガスの濃度やブレーキの効き、騒音の大きさが基準値に収まっているかを定期的にチェックされます。もし誰もが好き勝手に改造した車で走れば、道路は排ガスと騒音であふれ、事故も増えるでしょう。無線の世界にも、これとまったく同じ発想の「車検」があります。送信機が出す電波が、決められた数値基準の中に収まっているかを問うのです。
なぜそこまで厳しく数値を決めるのでしょうか。電波は、道路のように誰か一人が独占できるものではありません。空間を自由に飛び交い、遠く離れた受信機にも届きます。ある送信機が指定された周波数から少しずれた電波を出したり、目的の帯域からはみ出した電波を撒き散らしたりすると、隣のチャンネルを使っている無線局に混信を与えてしまいます。だからこそ、電波を出すすべての機器に「これ以上はみ出してはいけない」という共通のルールが課されているのです。
このルールが、電波法が定める無線設備の技術基準、とりわけ「電波の質」です。この記事で扱う内容は、無線工学を学ぶ大学生から第一級陸上無線技術士などの資格を目指す人にとって、法規と工学の両科目にまたがる橋渡しになります。周波数の許容偏差がなぜ ppm という単位で語られるのか、占有周波数帯幅の「99%」とは何なのか、スプリアスと帯域外発射はどう違うのか——数式と図で一つずつ腹落ちさせていきましょう。
この技術基準を理解すると、次のような場面で役に立ちます。
- 無線機器の設計・評価: 送信機に載せる基準発振器(水晶・TCXO・OCXO など)をどこまで高精度にすべきか、フィルタでどこまで不要発射を抑えるべきかが、技術基準から逆算できます。
- 無線従事者資格・アマチュア無線: 電波法規と無線工学の試験で頻出のテーマです。用語の定義と数値感覚を押さえておくと、両科目を貫く理解につながります。
本記事の内容
- 「電波の質」(電波法第28条)が定める3要素の全体像
- 周波数の許容偏差、占有周波数帯幅、スプリアス発射・不要発射、空中線電力の定義と考え方
- ppm→Hz の換算や占有帯域幅を、Python の計算例と図で確認
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
「電波の質」とは — 送信機に課される3つの数値基準
電波法の第28条には、おおよそ次のような趣旨の条文があります。「送信設備に使用する電波の周波数の偏差及び幅、高調波の強度等電波の質は、総務省令で定めるところに適合するものでなければならない」。ここで言う電波の質が、無線設備の技術基準の中核です。
「質」というと、音の良し悪しのような感覚的なものを想像するかもしれません。しかし電波法が言う「質」は、送信機が出す電波が周波数の面でどれだけ行儀よく振る舞うかを指します。人が声を出すときに、決められた大きさで、割り当てられた話す順番を守り、隣の人の話をかき消さないように配慮するのと似ています。電波の質とは、電波の「マナー」を数値で規定したものだと考えるとイメージしやすいでしょう。
この「電波の質」は、具体的には次の3つの要素から成ります。

この図が示すように、電波の質は「周波数の許容偏差」「占有周波数帯幅の許容値」「スプリアス発射・不要発射の強度の許容値」という3本柱で構成されます。1本目は電波が正しい位置(周波数)にいるか、2本目は電波が決められた幅に収まっているか、3本目は電波が余計な場所に漏れていないかを問うものです。この3つがすべて総務省令の許容値に適合してはじめて、混信のない電波利用が成り立ちます。
3要素はいずれも「周波数軸上での振る舞い」を規定している点で共通しています。まずは電波が正しい位置にいるかを問う「周波数の許容偏差」から見ていきましょう。
周波数の許容偏差 — 電波が正しい位置にいるか
ラジオのダイヤルを「82.5 MHz」に合わせたのに、放送局が実際には 82.6 MHz で送信していたら、目的の放送はまともに聞こえません。周波数の許容偏差とは、送信機が「割り当てられた周波数(指定周波数)から、実際にどれだけずれてよいか」の上限を定めたものです。
イメージとしては、駐車場の白線に対して車を停めるときの「はみ出してよい余白」に近いものです。ぴったり中央に停められれば理想ですが、多少のずれは許される。ただし、その余白は白線ごと(=周波数帯や無線局の種類ごと)に厳しさが違います。
ppm という単位 — なぜ絶対値の Hz で決めないのか
周波数の許容偏差は、多くの場合 ppm(parts per million、百万分率) で表されます。ppm は「100万分のいくつか」を表す割合で、$1\,\text{ppm} = 10^{-6}$ です。許容偏差 $\Delta f$ は、指定周波数 $f_0$ に対して次式で Hz に換算できます。
$$ \begin{equation} \Delta f\,[\text{Hz}] = f_0\,[\text{Hz}] \times \frac{\text{偏差}[\text{ppm}]}{10^6} \end{equation} $$
なぜ「何 Hz まで」という絶対値ではなく、割合で決めることが多いのでしょうか。それは、発振器の精度が本質的に割合で決まるからです。水晶発振器の周波数が温度でずれる量は、発振周波数そのものに比例します。100万分の1という「相対的な狂いやすさ」は、低い周波数でも高い周波数でも似た値になるため、割合で規定するほうが物理的に自然なのです。
その一方で、割合で決めると次のような性質が生まれます。同じ ppm でも、周波数が高くなるほど許容される Hz は大きくなります。

この図は、一律に 20 ppm の許容偏差を仮定したとき、搬送波周波数ごとに許される Hz を計算したものです。1.9 MHz なら約 38 Hz しか許されませんが、5.6 GHz では約 11.2 万 Hz(112 kHz)まで許されます。同じ「100万分の20」でも、土台となる周波数が3000倍違えば、Hz の絶対量も3000倍になるわけです。だからこそ、実際の総務省令では周波数帯や局種ごとに許容偏差の数値が細かく定められています。
ppm→Hz の換算を計算してみる
具体的な換算を Python で確かめてみましょう。次のコードは、いくつかの周波数と許容偏差の組み合わせで、Hz 単位の偏差と、その周波数のときの実際の許容周波数の上下限を計算します。
def ppm_to_hz(f0_hz, ppm):
"""指定周波数 f0[Hz] と許容偏差[ppm] から偏差[Hz]を返す"""
return f0_hz * ppm / 1e6
cases = [
("中波放送", 1_000e3, 10),
("短波帯", 7_000e3, 20),
("VHF", 145e6, 3.0),
("UHF", 435e6, 1.5),
("マイクロ波", 2_400e6, 0.5),
]
print(f"{'区分':<8}{'周波数':>12}{'偏差[ppm]':>10}{'偏差[Hz]':>12}")
for name, f0, ppm in cases:
dev = ppm_to_hz(f0, ppm)
print(f"{name:<8}{f0/1e6:>10.3f}MHz{ppm:>10}{dev:>10.1f}Hz")
このコードを実行すると、たとえば中波放送(1 MHz, 10 ppm)では偏差が 10 Hz、VHF(145 MHz, 3 ppm)では約 435 Hz、マイクロ波(2.4 GHz, 0.5 ppm)でも約 1200 Hz になります。ここで示した ppm の値はあくまで説明のための代表例であり、実際の局種ごとの正確な数値は総務省令・告示を確認してください。読み取れるのは、「高精度が求められる高い周波数帯ほど、要求される ppm は小さくなる傾向がある」という点です。中心周波数を式(1)に代入すると、その局に許される Hz の余白が一意に決まります。
許容偏差を実際の電波で見る
許容偏差を「白線と車」のイメージから、実際のスペクトルに重ねてみましょう。

この図では、公称周波数(水色の破線)を中心に、緑色の帯が許容範囲(±偏差)を表します。実際の発振がグレーの山のように少し低めにずれても、それが緑の帯の中に収まっていれば技術基準は満たされます。逆に、帯の外まで山がはみ出せば基準違反となり、隣接する無線局への混信リスクが高まります。許容偏差とは、この「緑の帯の幅」を数値で決める規定なのです。
許容偏差を支える基準発振器
では、送信機はどうやってこの厳しい許容偏差を守るのでしょうか。その答えは、送信機の心臓部にある基準発振器の安定度にあります。周波数の狂いの多くは、発振器の温度変化や電源変動、経年変化から生じます。したがって、より高精度が要求される用途ほど、より安定した発振器が使われます。

この図は、代表的な基準発振器の安定度を対数目盛で比較したものです。無補償の水晶発振器は数十 ppm 程度ですが、温度補償を加えた TCXO で約 1 ppm、恒温槽に入れた OCXO で 0.01 ppm 台、原子の遷移周波数を使うルビジウム発振器では 0.001 ppm を下回る精度に達します。棒が右へ行くほど(=下へ行くほど)安定度が高く、より厳しい許容偏差を満たせます。要求される許容偏差が小さい業務ほど、コストのかかる高安定発振器が必要になる、という設計上のトレードオフがここに現れています。基準発振器そのものの仕組みは水晶振動子の記事や発振回路の記事で詳しく扱っています。
電波が「正しい位置」にいることを確認したら、次に問うべきは「その電波がどれだけの幅を占めているか」です。占有周波数帯幅の話に移りましょう。
占有周波数帯幅の許容値 — 電波が決められた幅に収まっているか
一人の話し声には、ある程度の音量の広がりがあります。ささやき声なら周囲にほとんど漏れませんが、大声で叫べば隣の部屋まで届きます。電波も同じで、変調をかけると搬送波の周波数を中心に、ある幅を持ってエネルギーが広がります。この幅が広すぎると、隣のチャンネルにはみ出して混信を起こします。そこで、電波が占める幅にも上限が定められています。それが占有周波数帯幅の許容値です。
99% 電力という定義
問題は、「電波の幅」をどう測るかです。スペクトルの裾は理論上どこまでも薄く広がるので、「端」を厳密に決められません。そこで国際的に採用されているのが、全放射電力の 99% が収まる帯域の幅という定義です。上下の裾をそれぞれ 0.5%(合わせて 1%)だけ切り捨てて、残る 99% が入る幅を「占有周波数帯幅」とします。

この図は、あるスペクトルについて、下側 0.5% と上側 0.5% を切り捨て、中央の 99%(オレンジの領域)が収まる幅 $B$ を占有周波数帯幅として示したものです。裾を完全に無視するのではなく「99% を確保する幅」と決めることで、測定者によってばらつかない、再現性のある値になります。占有周波数帯幅の具体的な測定手順は、別記事占有周波数帯幅とスプリアスの測定で詳しく扱います。ここでは定義と考え方を押さえておきましょう。
数式で書くと、占有周波数帯幅 $B = f_2 – f_1$ は、次の2つの条件を満たす下限 $f_1$ と上限 $f_2$ で決まります。全電力を $P_{\text{total}} = \int_{-\infty}^{\infty} S(f)\,df$($S(f)$ は電力スペクトル密度)とすると、
$$ \begin{equation} \int_{-\infty}^{f_1} S(f)\,df = 0.005\,P_{\text{total}}, \qquad \int_{f_2}^{\infty} S(f)\,df = 0.005\,P_{\text{total}} \end{equation} $$
つまり、$f_1$ より下に全体の 0.5%、$f_2$ より上に 0.5% が残るように上下限を取ります。累積電力が 0.5% に達する点を $f_1$、99.5% に達する点を $f_2$ とすればよい、というわけです。
占有周波数帯幅を計算してみる
実際に電力スペクトルから 99% 帯域を求めてみましょう。次のコードは、あるスペクトル密度に対して累積電力を計算し、0.5% と 99.5% の点を探して占有帯域幅を求めます。
import numpy as np
# 電力スペクトル密度(単位は任意) : 主ローブ+わずかな裾
f = np.linspace(-15, 15, 30001)
psd = np.sinc(f / 4) ** 2 + 0.02 * np.exp(-((np.abs(f) - 9) ** 2) / 4)
psd = np.clip(psd, 0, None)
# 累積電力と全電力
df = f[1] - f[0]
cum = np.cumsum(psd) * df
total = cum[-1]
# 下側0.5% と 上側0.5%(=累積99.5%) の周波数
f1 = f[np.searchsorted(cum, 0.005 * total)]
f2 = f[np.searchsorted(cum, 0.995 * total)]
print(f"全電力 = {total:.3f}")
print(f"下限 f1 = {f1:.3f}")
print(f"上限 f2 = {f2:.3f}")
print(f"占有周波数帯幅 B = {f2 - f1:.3f}")
このコードを実行すると、下限・上限が中心付近から左右対称に取られ、占有周波数帯幅 $B$ が求まります。全電力のうち中央 99% が収まる区間だけを抜き出すので、遠くに小さく漏れている裾成分(この例では ±9 付近の副ローブ)は帯域幅の外側にはじき出されます。占有周波数帯幅は「主要なエネルギーが集中している幅」を代表する量だ、と読み取れます。
電波型式と必要周波数帯幅
占有周波数帯幅は、どんな変調をかけるかで大きく変わります。同じ音声を伝えるのでも、AM(振幅変調)と FM(周波数変調)では必要な幅がまるで違います。

この図は、代表的な電波型式ごとの必要周波数帯幅のイメージを比較したものです。SSB 電話(J3E)は搬送波と片側の側波帯だけを送るので約 3 kHz と最も狭く、両側波帯と搬送波を送る AM 電話(A3E)は約 6 kHz、周波数偏移の大きい FM 電話(F3E)は約 16 kHz と広くなります。デジタル伝送(G1D など)は伝送速度に応じてさらに広い幅を要します。ここに示した幅はあくまで代表的なイメージであり、実際の値は変調度や伝送速度で変わります。「音質や情報量を上げようとすると帯域を食う」という基本的なトレードオフが読み取れます。
電波型式記号の3文字構造
いま登場した A3E、J3E、F3E、G1D といった記号は、でたらめな符号ではなく、主搬送波の変調型式・信号の性質・伝送情報の型式という3つの情報を1文字ずつ表す体系的な記号です。

この図が示すように、電波型式記号は3つの文字で構成されます。1文字目は主搬送波の変調の型式(A=振幅、F=周波数、J=SSB、G=位相、P=パルスなど)、2文字目は変調する信号の性質(0=無変調、1=副搬送波を用いないデジタル、2=副搬送波を用いるデジタル、3=アナログ)、3文字目は伝送情報の型式(N=なし、A=電信、D=データ、E=電話、W=複合など)を表します。たとえば F3E は「周波数変調・アナログ信号・電話」、つまり私たちがよく知る FM 音声通信を意味します。記号を分解して読めるようになると、初めて見る型式でも中身が推測できます。
この3文字構造を主な例で整理すると、次のようになります。
| 電波型式 | 変調型式 | 信号の性質 | 伝送情報 | 用途の例 |
|---|---|---|---|---|
| A3E | 振幅変調(両側波帯) | アナログ | 電話 | AM ラジオ放送 |
| J3E | 振幅変調(SSB) | アナログ | 電話 | 短波の SSB 通信 |
| F3E | 周波数変調 | アナログ | 電話 | FM 音声通信 |
| A1A | 振幅変調 | デジタル(副搬送波なし) | 電信(聴覚) | モールス電信 |
| G1D | 位相変調 | デジタル(副搬送波なし) | データ | デジタルデータ伝送 |
| F1B | 周波数変調 | デジタル(副搬送波なし) | 電信(自動) | 無線テレタイプ |
型式記号を読めば、その電波がどんな幅を占めるかの見当がつきます。ここまでで「電波が正しい位置にいて、決められた幅に収まっている」ことを確認しました。次は、「目的の帯域の外に、余計な電波が漏れていないか」を問う番です。
スプリアス発射と帯域外発射 — 余計な電波が漏れていないか
どんなに良い送信機でも、目的の電波だけをきれいに出すことはできません。増幅回路の非線形性や発振の不完全さから、目的外の周波数にも必ず多少のエネルギーが漏れます。これは、楽器を演奏したときに主音以外の倍音や雑音がわずかに混じるのと似ています。この「余計な放射」を野放しにすると、遠く離れた別の無線業務にまで混信をばらまくことになります。そこで、目的外の放射の強度にも上限が課されます。
不要発射 = 帯域外発射 + スプリアス発射
ここで用語を正確に区別しておきましょう。目的外の放射を総称して不要発射(unwanted emissions)と呼び、これは帯域外発射とスプリアス発射の2つに分けられます。

この図が示すように、不要発射という大きな枠の中に、帯域外発射とスプリアス発射が含まれます。両者の違いは「どこに現れるか」です。帯域外発射は、必要周波数帯幅のすぐ外側(帯域外領域)に、変調に伴って生じる裾のような放射です。スプリアス発射は、それよりさらに離れた場所(スプリアス領域)に生じる、高調波・低調波・混変調・寄生発射などです。おおまかに言えば、帯域外発射は「本来の電波のはみ出し」、スプリアス発射は「まったく別の場所に湧く余計な成分」と捉えると区別しやすいでしょう。
スプリアス領域と帯域外領域の境界
では、帯域外領域とスプリアス領域はどこで区切られるのでしょうか。境界は、必要周波数帯幅の中心から一定の周波数だけ離れた点に設定されます。

この図は、送信スペクトルを対数(dB)で表し、周波数軸を3つの領域に色分けしたものです。中央の水色が必要周波数帯幅、その外側のオレンジが帯域外領域、さらに外側の赤がスプリアス領域です。帯域外領域では変調に伴う裾が支配的で、スプリアス領域では基本波の整数倍に現れる高調波(この図では ±5.5 付近の小さな山)などが支配的になります。境界の位置は必要周波数帯幅に基づいて定められ、それぞれの領域で異なる考え方の許容値が適用されます。
許容値の考え方 — 基本波に対する減衰量
不要発射の強度は、多くの場合基本周波数の平均電力に対する相対的な減衰量(何 dB 下か)で規定されます。たとえば「基本波の平均電力より 50 dB 以上低いこと」「$50\,\mu\text{W}$ 以下、かつ基本波より 40 dB 低いこと」といった形です。$X$ dB の減衰は電力比で
$$ \begin{equation} \frac{P_{\text{spurious}}}{P_{\text{carrier}}} = 10^{-X/10} \end{equation} $$
を意味します。この式に $X=50$ を代入すると $10^{-5}$、すなわち基本波の10万分の1以下ということです。相対値(dB)で決めるのは、周波数の許容偏差を ppm で決めたのと同じ発想で、送信電力の大小によらず「本来の電波に対してどれだけ小さく抑えられているか」を問うためです。ただし、微弱な小電力機でも一定の絶対値(μW など)を超えないように、絶対量の上限が併記されることもあります。正確な減衰量・絶対値は無線設備規則および関連告示で局種・周波数帯ごとに定められているので、実務では必ず最新の条文を確認してください。
不要発射の強度を計算例で確認してみましょう。
import numpy as np
carrier_dbm = 40.0 # 基本波(搬送波)の電力 = 40 dBm = 10 W
for atten_db in [40, 50, 60, 70]:
spur_dbm = carrier_dbm - atten_db # dBで引き算
spur_w = 10 ** (spur_dbm / 10) / 1000 # dBm -> W
ratio = 10 ** (-atten_db / 10) # 電力比
print(f"減衰 {atten_db} dB : スプリアス {spur_dbm:5.1f} dBm "
f"= {spur_w*1e6:10.3f} uW (基本波比 {ratio:.1e})")
このコードを実行すると、10 W(40 dBm)の送信機で 50 dB の減衰があれば、スプリアスは $-10$ dBm = 0.1 mW = 100 μW にまで抑えられていることがわかります。60 dB なら 10 μW、70 dB なら 1 μW です。減衰量が 10 dB 増えるごとにスプリアス電力は10分の1になり、基本波に対する比も式(3)どおり一桁ずつ小さくなります。「dB での減衰量」という規定の仕方が、送信電力によらず漏れの少なさを一定の基準で評価できる合理的な方法であることが読み取れます。
電波の位置・幅・漏れという3要素を押さえたので、次はこれらと密接に関わる「電波の強さ」——空中線電力の話に進みましょう。
空中線電力 — 電波の「強さ」の測り方
空中線電力とは、アンテナ(空中線)に供給される高周波電力、平たく言えば「電波の強さ」です。強すぎれば遠くの局に混信を与え、弱すぎれば必要な通信ができません。だから免許では「空中線電力○○ W」と指定され、その許容偏差も定められています。ここで少し厄介なのは、変調された電波の電力は時間とともに刻々と変化するため、「電力」といっても測り方が何通りもあることです。
電力の4つの種類

この図は、変調された電波(細い波)とその包絡線(太いオレンジ線)を描いたものです。電力の測り方には、主に次の種類があります。
- 平均電力: 変調時における一定期間の電力を平均したもの。FM のように包絡線がほぼ一定の電波で使われます。
- 尖頭電力(尖頭包絡線電力, PEP): 変調の包絡線が最大になる瞬間(図の赤い破線の頂点)の電力。SSB のように振幅が大きく変動する電波で使われます。
- 搬送波電力: 変調をかけていないときの搬送波1周期の平均電力(図の水色の点線に対応)。AM のように搬送波が常に存在する電波で使われます。
- 規格電力: 送信増幅器の終段の真空管や半導体に、規格上加えることのできる電力を基準にしたもの。
図から読み取れるように、同じ1つの電波でも「どの瞬間・どの状態を測るか」で電力の値は大きく変わります。SSB のように振幅が激しく変動する電波では、平均電力と尖頭電力は数倍も違います。だからこそ、電波型式ごとに「どの電力で規定するか」が決められているのです。
空中線電力の許容偏差
空中線電力にも許容偏差があります。指定された値に対して「上限は○○%、下限は○○%」という形で、上下非対称に定められるのが特徴です。上振れ(強すぎ)は混信を招くので厳しく、下振れ(弱すぎ)は自局の通信が不便になるだけなので比較的緩い、という考え方です。ここでも正確な数値は局種ごとに省令で定められています。
電波の質と電力の測り方を押さえたところで、送信機や受信機そのものに課される、より一般的な条件にも触れておきましょう。
送信装置・受信設備の一般的条件
技術基準は、電波の質だけでなく、それを生み出す装置の構造や動作にも及びます。
送信装置の一般的条件
送信装置には、たとえば次のような一般的条件が求められます。
- 周波数安定のための条件: 周囲の温度や湿度の変化があっても、また電源電圧が変動しても、発振周波数が許容偏差内に保たれること。これはまさに、前述の基準発振器の安定度(TCXO・OCXO など)で担保される部分です。移動する無線局のように電源が不安定になりやすい環境では、より厳しい安定化が求められます。
- 変調の条件: 音声などで変調する送信装置は、変調が 100% を超えない(過変調にならない)ようにする措置が求められます。過変調は、包絡線がひずんで不要発射(スプリアス)を増やす原因になります。ここで、周波数の質(不要発射)と装置の条件(変調特性)がつながります。
受信設備の条件 — 副次的に発する電波
意外に思われるかもしれませんが、受信機にも技術基準があります。受信機の内部にも局部発振器があり、そこから微弱な電波が外部に漏れ出すことがあるからです。これを副次的に発する電波と呼び、他の無線設備の機能に支障を与えない限度(たとえば $4\,\text{nW}$ 以下といった非常に小さな値)が定められています。受信するだけの設備でも、他者に迷惑をかけないマナーが求められる、というわけです。
装置単体の条件を押さえたら、最後に、これらの技術基準を社会全体で効率よく担保する仕組み——技適の制度を見ておきましょう。
技術基準適合証明・工事設計認証(技適)の趣旨
ここまで見てきた技術基準を、すべての無線機について一台ずつ役所が検査していたら、時間もコストも膨大になり、無線機器の普及の妨げになります。そこで用意されているのが、技術基準適合証明および工事設計認証、いわゆる「技適」の制度です。

この図は、技適制度の大まかな流れを示したものです。メーカーが無線設備を設計・製造し、国に登録された証明機関がその設備の技術基準への適合を審査します。適合が確認されると技適マークの表示が認められ、そのマークが付いた機器を使うユーザーは、免許手続きの簡素化や個別検査の省略といった恩恵を受けられます。技術基準適合証明は個々の機器を対象とし、工事設計認証は同一設計で量産される機器を対象とする、という違いがあります。
この仕組みの狙いは、「混信を防ぐための技術基準」と「無線機器を手軽に普及させたいという要請」を両立させることにあります。あらかじめ基準を満たすと保証された機器だけが市場に出回るようにすることで、一台ずつの検査なしに電波の質を担保しているのです。街で売られている無線機器や Wi-Fi 機器に技適マークが付いているのは、この記事で学んだ技術基準をクリアしている証なのだと理解できます。
まとめ
本記事では、無線設備の技術基準、とりわけ「電波の質」について解説しました。
- 電波の質(電波法第28条)は、周波数の許容偏差・占有周波数帯幅の許容値・スプリアス発射(不要発射)の強度の許容値という3要素からなります。
- 周波数の許容偏差は ppm で規定されることが多く、$\Delta f = f_0 \times \text{ppm}/10^6$ で Hz に換算できます。同じ ppm でも高い周波数ほど Hz の余白は大きくなり、要求される安定度は水晶・TCXO・OCXO・ルビジウムと段階的に高精度になります。
- 占有周波数帯幅は「全放射電力の 99% が収まる幅」と定義され、電波型式(3文字記号)によって必要な幅が変わります。
- 不要発射は帯域外発射とスプリアス発射の総称で、必要帯域幅からの距離で領域が分かれ、許容値は基本波に対する減衰量(dB)で規定されます。
- 空中線電力には平均・尖頭・搬送波・規格電力の別があり、電波型式ごとに使い分けられます。
- 技適の制度は、技術基準を効率よく担保しつつ機器の普及を促す仕組みです。
なお、本記事で示した ppm・帯域幅・減衰量などの数値は、理解を助けるための代表例です。実際に適用される正確な最新の数値は、電波法・無線設備規則・総務省告示を必ず確認してください。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。