マイクロ波回路の基板を見たことがある人は、配線の途中に突然現れる「扇形(ピザのひと切れのような)の銅パターン」に気づいたことがあるかもしれません。これはラジアルスタブ(radial stub)と呼ばれる部品で、増幅器のバイアス供給回路、ミキサのローカル信号注入部、フィルタの不要モード抑制など、GHz 帯の回路のいたるところで使われています。直線的なオープンスタブで済むところを、わざわざ扇形にするのはなぜでしょうか。実は、この扇形の幾何学にこそ「広い周波数範囲で安定して仮想的な短絡を作る」という、直線スタブでは得られない強力な性質が隠れています。
ラジアルスタブの動作を理解すると、以下のような実務的な設計の見通しが一気に開けます。
- 増幅器のバイアスティー(給電点の RF 絶縁): トランジスタのドレインに DC を供給しつつ、RF 信号がバイアスラインに漏れるのを防ぎたいとき、ラジアルスタブで給電点を「RF 的に接地」します。広帯域動作する増幅器ほど、広帯域な仮想短絡が必要になります
- ハーモニック・ターミネーション: 高効率増幅器(class-F など)では、基本波は通しつつ 2 次・3 次高調波を特定のポイントで短絡または開放したい場面があり、ラジアルスタブの周波数特性が活躍します
- フィルタ・分波器の付加素子: 不要な共振を抑える「広帯域な接地点」を作る目的でラジアルスタブが挿入されます
本記事の内容
- スタブ整合の復習と「仮想短絡」という考え方
- 直線オープンスタブの $\tan\beta\ell$ 振る舞いと、その帯域の狭さ
- ラジアルスタブを半径方向に分布するキャパシタンスとして捉える直感
- 扇形領域のテレグラファー方程式(ベッセル方程式)の導出
- 入力アドミタンスがなぜ広帯域で大きくなるかの定量的な説明
- Python による入力インピーダンスのスミスチャート軌跡と反射係数の可視化、帯域幅の読み取り
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 伝送線路理論 — 特性インピーダンスと反射の基礎
- スタブ整合回路 — 線路の途中で反射を打ち消す
- スミスチャートの基礎 — 反射係数とインピーダンスを一枚の図で読む
- L型整合回路でインピーダンスを合わせる
スタブ整合と「仮想短絡」とは
スタブ整合の復習
マイクロ波回路では、信号源と負荷のインピーダンスがぴったり一致していないと、境界面で電力の一部が反射して戻ってきます。この反射を打ち消すために、伝送線路の途中に短い線路を枝として接続する手法がスタブ整合です。スタブの先端を開放(オープン)または短絡(ショート)し、その長さを調整することで、線路から見た枝のアドミタンス(サセプタンス)を自在に作り出し、もとの線路のサセプタンスをちょうど打ち消す、というのが基本的な発想でした。
スタブには大きく分けて 2 種類の使い方があります。1 つは「整合用」で、負荷のサセプタンスを相殺して反射をゼロにする用途。もう 1 つが本記事の主役で、ある特定の点を「RF 的に接地する」、すなわち仮想的な短絡を作る用途です。
仮想短絡とは何か
「仮想短絡」という言葉は少し不思議に聞こえるかもしれません。物理的にはどこにもグラウンドにつながっていないのに、高周波から見るとあたかも短絡されているように振る舞う点のことです。
身近なたとえで言うと、長い廊下の突き当たりに音を出すと、突き当たりの壁では音波が反射して定在波ができ、ある位置では空気の振動が常にゼロになる「節」が現れます。電気的なスタブも同じで、先端を開放した線路は、ある長さのところで電圧の腹(最大)あるいは電流の腹(最大・電圧の節)を作ります。先端開放のスタブを四分の一波長($\lambda/4$)にすると、根元では電圧がゼロ=インピーダンスがゼロ、つまり物理的に開放しているのに根元では短絡として見える、という不思議な状態になります。
このとき、根元に接続された主線路から見ると、その点は「RF 的にグラウンドに落ちている」のと等価です。DC(直流)に対しては開放のままなので、DC バイアスは素通しできる。これが、増幅器のバイアス供給で「DC は通すが RF は接地する」という都合のよい性質を実現するからくりです。
ここで自然な疑問が生まれます。$\lambda/4$ という長さは特定の周波数でしか成り立たないのではないか、ということです。周波数が変われば波長も変わり、$\lambda/4$ の条件が崩れて短絡から外れてしまいます。この「帯域の狭さ」をまず直線スタブで定量的に確認し、それを克服する仕掛けとしてラジアルスタブを導入していきましょう。
直線オープンスタブの帯域の狭さ
入力インピーダンスの式
特性インピーダンス $Z_0$、長さ $\ell$ の無損失伝送線路の先端を開放(負荷インピーダンス $Z_L \to \infty$)したとき、根元から見た入力インピーダンスは伝送線路理論から次のように与えられます。
$$ Z_{\text{in}} = -j Z_0 \cot(\beta \ell) $$
ここで $\beta = 2\pi / \lambda = 2\pi f / v_p$ は位相定数($v_p$ は線路上の位相速度)です。逆数をとった入力アドミタンスは、
$$ Y_{\text{in}} = \frac{1}{Z_{\text{in}}} = j Y_0 \tan(\beta \ell) $$
となります($Y_0 = 1/Z_0$ は特性アドミタンス)。先端開放スタブは純粋なサセプタンス $B = Y_0 \tan(\beta\ell)$ を提供する素子だとわかります。つまり、抵抗成分を一切持たず、無効電力だけをやりとりするリアクタンス素子として振る舞います。スタブの長さ $\ell$ を変えるだけで、容量性から誘導性まで好きなサセプタンスを作り出せるのが、スタブが整合素子として重宝される理由です。
ここで注意したいのは、この式は「特定の 1 周波数」で長さを決めるという考え方に立っている点です。設計周波数 $f_0$ で都合のよいサセプタンスや短絡条件が得られるよう $\ell$ を選ぶのですが、周波数が変わると $\beta = 2\pi f/v_p$ も変わるため、同じ $\ell$ でも $\beta\ell$ の値が動いてしまいます。狭帯域なら問題ありませんが、広帯域動作させたい回路では、この周波数依存性がそのまま帯域の制約として効いてきます。
なぜ「広帯域」になりにくいのか
仮想短絡を作るには $Z_{\text{in}} = 0$、すなわち $\cot(\beta\ell) = 0$ が必要で、これは $\beta\ell = \pi/2$(つまり $\ell = \lambda/4$)のときに実現されます。問題は、この条件のまわりで $\cot(\beta\ell)$ がどれだけ急峻に変化するかです。
$\beta\ell = \pi/2$ の近傍で $\beta\ell = \pi/2 + \delta$ と置いて展開してみましょう。$\cot$ は $\pi/2$ で零点を持ち、その近くでは
$$ \cot\!\left(\frac{\pi}{2} + \delta\right) = -\tan(\delta) \approx -\delta $$
と近似できます。$\delta = (\beta\ell) – \pi/2$ は周波数のずれに比例する量なので、$Z_{\text{in}} \approx j Z_0 \delta$ は周波数からのずれに線形に比例して急速に立ち上がることがわかります。
具体的に数値で見てみましょう。設計周波数 $f_0$ で $\ell = \lambda_0 / 4$ にしたスタブを考えます。周波数が $f_0$ から 20% ずれて $f = 1.2 f_0$ になると、$\beta\ell = (\pi/2)\times 1.2 = 0.6\pi$ となり、
$$ |Z_{\text{in}}| = Z_0 |\cot(0.6\pi)| = Z_0 \times 0.325 $$
特性インピーダンス $Z_0 = 50\,\Omega$ なら $|Z_{\text{in}}| \approx 16\,\Omega$ にもなってしまいます。理想的にはゼロであってほしい仮想短絡が、わずか 20% の周波数ずれで 16 Ω もの有限値を持ってしまう。これでは「広帯域な接地」とは到底言えません。
直線スタブの帯域が狭い根本原因は、$\cot(\beta\ell)$ という関数が零点のまわりで傾きが急なこと、言い換えると、線路の幅(したがって特性インピーダンス)が長さ方向に一定なため、各微小区間が同じ「位相の進み」を周波数に応じて一斉に変化させてしまう点にあります。すべての区間が同じ位相条件で共鳴するので、共鳴は鋭く、帯域は狭くなります。
ここに突破口が見えてきます。もし、スタブの各部分が少しずつ違う「共鳴のしかた」をするように作れば、ある部分が条件から外れても別の部分が補い、全体としてなだらかで広帯域な応答が得られるはずです。この「各部分を少しずつ違わせる」幾何学的な工夫こそ、扇形に広げるラジアルスタブの正体です。
ラジアルスタブとは — 分布キャパシタンスの直感
扇形を「少しずつ太くなる線路」と見る
ラジアルスタブは、給電点を扇の要(中心)とし、そこから角度 $\phi_0$ の扇形に金属パターンを広げた構造です。要から半径方向に $\rho$ だけ進むと、その位置での扇形の「幅」は弧長 $\rho \phi_0$ に比例して大きくなります。
伝送線路の特性インピーダンスは、おおざっぱには「導体幅が広いほど低く、狭いほど高い」という関係にあります。マイクロストリップでもコプレーナでも、幅が広い線路は単位長さあたりのキャパシタンスが大きく、特性インピーダンスが下がります。すると、ラジアルスタブは「中心では幅が狭く(高インピーダンス)、外周に行くほど幅が広い(低インピーダンス)テーパー線路」だと見なせます。
直線スタブが「どこも同じ太さの線路」だったのに対し、ラジアルスタブは「半径方向に連続的に太さ(=キャパシタンス)が変化する線路」なのです。この連続的な変化こそが、共鳴を 1 点に集中させず、広い周波数にわたって分散させる鍵になります。
なぜキャパシタンスが分布すると広帯域になるのか
直感的なイメージを言葉にしておきましょう。直線スタブでは、根元で短絡を作るのに「線路全体が一斉に $\lambda/4$ の位相回転を起こす」必要がありました。周波数がずれると、全区間が同時に条件から外れます。
ラジアルスタブでは、外周ほどキャパシタンスが大きく、内周ほど小さい。先端(外周)の大きなキャパシタンスは「すでにかなり低インピーダンスな終端」として働き、そこから内側へ向かうにつれて分布したキャパシタンスが少しずつ位相を回していきます。半径ごとに実効的な電気長が異なるため、ある周波数で内側の区間が条件を満たさなくても外側の区間がそれを補う。結果として、要(給電点)から見た入力インピーダンスは、広い周波数範囲にわたって低い値(仮想短絡に近い状態)を維持します。
スミスチャートの言葉で言えば、直線スタブは周波数を掃引すると外周($|\Gamma|=1$ の円)に沿って大きく動き回りますが、ラジアルスタブは短絡点(チャート左端)の近くに軌跡が密集して、なかなか離れないのです。
もう一つの見方として、テーパー(先細り・先太り)の効果を思い出すと理解が深まります。インピーダンスが急に変わる境界では強い反射が起きますが、インピーダンスがなだらかに変化する区間では反射が弱く、しかもその「弱い反射」が広い周波数にわたって似たように振る舞います。アンテナの整合や広帯域トランスでテーパー線路(指数テーパーやクロップフェンシュタイン・テーパー)が使われるのと同じ原理で、ラジアルスタブの半径方向のインピーダンス勾配は、共鳴を鋭くせず緩やかにする働きをします。扇形という形は、製造しやすい平面パターンで自然にこのテーパーを実現する巧妙な手段なのです。
この直感を数式で裏づけるために、扇形領域でマクスウェル方程式(あるいはテレグラファー方程式)を立て、半径 $\rho$ を変数とする微分方程式を導いていきましょう。
扇形領域のテレグラファー方程式の導出
モデルの設定
ラジアルスタブを、基板の上に角度 $\phi_0$ で広がる扇形の金属(上部導体)と、その下のグラウンド面(下部導体)からなる平行平板的な構造として理想化します。電磁界は主として TM モード(電界が基板に垂直、$z$ 方向)で、半径方向 $\rho$ に伝搬すると仮定します。基板の厚さを $h$、比誘電率を $\varepsilon_r$ とします。
このモデルでは、電圧 $V(\rho)$ を上部導体とグラウンド間の電位差、電流 $I(\rho)$ を半径 $\rho$ の円弧を横切る全電流とします。扇形なので、半径 $\rho$ における「線路の幅」は弧長 $w(\rho) = \rho \phi_0$ です。
単位長さあたりの L と C
平行平板線路では、幅 $w$、基板厚 $h$ の区間について、単位長さあたりのキャパシタンスとインダクタンスは次のように書けます。
$$ C'(\rho) = \frac{\varepsilon w(\rho)}{h} = \frac{\varepsilon \phi_0}{h}\,\rho, \qquad L'(\rho) = \frac{\mu h}{w(\rho)} = \frac{\mu h}{\phi_0}\,\frac{1}{\rho} $$
ここで $\varepsilon = \varepsilon_0 \varepsilon_r$、$\mu = \mu_0$ です。重要なのは、キャパシタンス $C’$ は半径 $\rho$ に比例して増加し、インダクタンス $L’$ は $1/\rho$ で減少することです。これがまさに「外周ほどキャパシタンスが分布して大きくなる」という先ほどの直感の数学的表現です。
積 $L’C’ = \mu\varepsilon$ は $\rho$ によらず一定であることに注意してください。これは線路上の位相速度 $v_p = 1/\sqrt{L’C’} = 1/\sqrt{\mu\varepsilon}$ がどこでも同じであることを意味し、後でベッセル方程式の波数 $k$ がきれいに定義できる根拠になります。
テレグラファー方程式
無損失線路のテレグラファー方程式は、電圧と電流について次の連立式で書けます(時間依存性 $e^{j\omega t}$ を仮定したフェーザ表示)。
$$ \frac{dV}{d\rho} = -j\omega L'(\rho)\, I, \qquad \frac{d}{d\rho}\big(w(\rho)\,J\big) = -j\omega C'(\rho)\, V $$
ここで少し丁寧に扱う必要があります。扇形では断面(円弧の長さ)が $\rho$ に依存するため、電流の連続則は「半径 $\rho$ の円弧を通る全電流 $I(\rho)$」で書くのが自然です。$C'(\rho) = \varepsilon\phi_0 \rho / h$ と $L'(\rho) = \mu h/(\phi_0 \rho)$ を代入し、$I$ を消去して $V$ の 2 階微分方程式にまとめます。
まず第 1 式を $I$ について解きます。
$$ I = -\frac{1}{j\omega L'(\rho)}\frac{dV}{d\rho} = -\frac{\phi_0 \rho}{j\omega \mu h}\frac{dV}{d\rho} $$
これを第 2 式(電流保存則)に代入します。扇形では半径 $\rho$ を通る全電流が $I(\rho)$ であり、その半径方向の発散が容量性電流 $j\omega \cdot (\text{微小扇形の容量})\cdot V$ に等しい、という保存則は
$$ \frac{dI}{d\rho} = -j\omega C'(\rho)\, V = -j\omega \frac{\varepsilon \phi_0 \rho}{h} V $$
と書けます。先ほどの $I$ の表式を $\rho$ で微分して代入すると、
$$ \frac{d}{d\rho}\!\left(-\frac{\phi_0 \rho}{j\omega\mu h}\frac{dV}{d\rho}\right) = -j\omega \frac{\varepsilon\phi_0\rho}{h} V $$
左辺の定数 $-\phi_0/(j\omega\mu h)$ を外に出し、両辺に $-j\omega\mu h/\phi_0$ を掛けて整理すると、
$$ \frac{d}{d\rho}\!\left(\rho \frac{dV}{d\rho}\right) = -\omega^2 \mu\varepsilon\, \rho\, V $$
ここで波数 $k = \omega\sqrt{\mu\varepsilon} = \omega/v_p$ を導入します。左辺の微分を展開すると $\rho V” + V’$ なので、
$$ \rho \frac{d^2 V}{d\rho^2} + \frac{dV}{d\rho} + k^2 \rho\, V = 0 $$
両辺を $\rho$ で割ると、
$$ \frac{d^2 V}{d\rho^2} + \frac{1}{\rho}\frac{dV}{d\rho} + k^2 V = 0 $$
ベッセル方程式への帰着
この式は、よく知られた0 次のベッセル方程式に他なりません。変数を $u = k\rho$ と置けば、
$$ \frac{d^2 V}{du^2} + \frac{1}{u}\frac{dV}{du} + V = 0 $$
となり、標準形そのものです。直線スタブでは電圧が $\cos(\beta z)$, $\sin(\beta z)$ という三角関数になりましたが、扇形では半径方向の「広がり」の効果で、解がベッセル関数 $J_0(k\rho)$ と $Y_0(k\rho)$(第 1 種・第 2 種)の組み合わせになるのです。
$$ V(\rho) = A\, J_0(k\rho) + B\, Y_0(k\rho) $$
ベッセル関数は、三角関数のように振動しますが、振幅が $\rho$ とともに減衰していく「歪んだ正弦波」です。この振幅の減衰こそが、共鳴を 1 点に固定せず広い周波数に分散させる効果を生みます。三角関数(一定振幅で振動)とベッセル関数(減衰しながら振動)の違いが、直線スタブとラジアルスタブの帯域差の数学的な源泉なのだと押さえておきましょう。
電流についても、$I \propto \rho\, dV/d\rho$ と $\frac{d}{du}J_0(u) = -J_1(u)$ の関係を使うと、1 次のベッセル関数で書けます。
$$ I(\rho) \propto \rho\big[A\, J_0′(k\rho) + B\, Y_0′(k\rho)\big] = -\rho\big[A\, J_1(k\rho) + B\, Y_1(k\rho)\big] $$
ベッセル方程式まで来れば、あとは境界条件を入れて係数 $A, B$ を決め、入力インピーダンスを求めるだけです。次節でそれを実行しましょう。
入力アドミタンスの導出と広帯域性
境界条件
ラジアルスタブの幾何を半径方向に整理します。要(給電点)から内半径 $\rho_i$ までは細い給電線で、$\rho_i$ から外半径 $\rho_o$ までが扇形に広がる本体です。先端(外周 $\rho = \rho_o$)は開放されているので、そこを流れ出す電流はゼロ、すなわち
$$ I(\rho_o) = 0 \quad\Longrightarrow\quad A\, J_1(k\rho_o) + B\, Y_1(k\rho_o) = 0 $$
という条件が課されます。この条件から係数比 $B/A$ が決まります。
$$ \frac{B}{A} = -\frac{J_1(k\rho_o)}{Y_1(k\rho_o)} $$
入力インピーダンスと入力アドミタンス
入力(内半径 $\rho_i$ の位置)でのインピーダンスは、電圧と電流の比として計算できます。扇形における特性インピーダンス的な係数を $\eta = \sqrt{L’/C’} \cdot (\text{形状因子})$ とまとめると、入力インピーダンスは次の形に書けます。
$$ Z_{\text{in}} = \frac{V(\rho_i)}{I(\rho_i)} = j\, Z_c(\rho_i)\, \frac{J_0(k\rho_i) Y_1(k\rho_o) – Y_0(k\rho_i) J_1(k\rho_o)}{J_1(k\rho_i) Y_1(k\rho_o) – Y_1(k\rho_i) J_1(k\rho_o)} $$
ここで $Z_c(\rho_i)$ は内半径での局所的なインピーダンス係数で、平行平板近似では
$$ Z_c(\rho_i) = \frac{\eta_0 h}{\phi_0 \rho_i \sqrt{\varepsilon_r}} $$
のように、$\rho_i$ に反比例する量です($\eta_0 = \sqrt{\mu_0/\varepsilon_0} \approx 377\,\Omega$)。実用上は、薄い基板で扇形角度が大きい場合、$Z_c$ は小さく、入力インピーダンスの絶対値も小さくなります。
この式は一見複雑ですが、本質は分子・分母にベッセル関数の組み合わせが入っているという点だけ押さえれば十分です。先端開放(電流ゼロ)の境界条件が $Y_1(k\rho_o)$ と $J_1(k\rho_o)$ の比として埋め込まれ、入力位置でのベッセル関数の値と組み合わさって、入力インピーダンスが定まっています。
広帯域性が現れる仕組み
なぜこの式が広帯域な仮想短絡($Z_{\text{in}} \approx 0$)を与えるのか、直線スタブの $\cot(\beta\ell)$ と比較しながら見ましょう。
直線スタブでは、$Z_{\text{in}} = -jZ_0\cot(\beta\ell)$ の零点は $\beta\ell = \pi/2$ の 1 点だけで、しかもその近傍で急峻に立ち上がるのでした。
ラジアルスタブの入力インピーダンスの分子に現れる組み合わせ
$$ N(k) = J_0(k\rho_i) Y_1(k\rho_o) – Y_0(k\rho_i) J_1(k\rho_o) $$
が零(または小さい値)になる条件を考えます。ベッセル関数 $J_0, Y_0$ は半径 $\rho$ が大きいほど振幅が $1/\sqrt{k\rho}$ で減衰するため、外半径 $\rho_o$ での寄与は内半径 $\rho_i$ での寄与より小さくなります。さらに、$\rho_i$ から $\rho_o$ にかけて連続的にキャパシタンスが増えていく効果で、$N(k)$ の零点近傍での傾きは $\cot$ の零点ほど急峻ではなくなります。
定性的にまとめると次の通りです。
- 位相の分散: 半径ごとに実効電気長が異なるため、$\beta\ell = \pi/2$ という単一の鋭い共鳴条件が、広い周波数範囲に「ばらけた」共鳴に置き換わる
- 終端の低インピーダンス化: 外周の大きなキャパシタンスがすでに低インピーダンス終端として働くため、入力から見たインピーダンスは設計周波数から外れても低い値にとどまりやすい
- 振幅減衰: ベッセル関数の $1/\sqrt{k\rho}$ 減衰により、入力インピーダンスの周波数応答がなだらかになる
これらが合わさって、ラジアルスタブはおおむね設計中心周波数の上下に渡って $Z_{\text{in}}$ を小さく保ち、直線スタブの数倍の帯域で仮想短絡を提供します。設計の経験則として、扇形角度 $\phi_0$ を大きく(典型的には 60〜90 度程度)するほど帯域は広がる傾向があります。これは角度が大きいほど外周のキャパシタンスが増し、終端の低インピーダンス化が強まるためです。
ベッセル関数を使った解析は厳密ですが、設計の現場では「実効的な等価回路」で捉えることもよく行われます。ラジアルスタブは、要から見ると小さな直列インダクタンスと大きな並列キャパシタンスが半径方向に連続して並んだ「分布定数の低域通過構造」と見なせます。低域通過フィルタが高い周波数を地に逃がすのと同じように、ラジアルスタブは中心周波数以上の広い帯域で RF を効率よく接地へ導きます。直線スタブが「単一の共振器(鋭い LC 共振)」だとすれば、ラジアルスタブは「多段の分布共振器」であり、共振が分散しているぶん帯域が広い、というアナロジーで理解しておくと、実際の回路設計でも見通しがよくなります。
なお、ここで導いたモデルは平行平板近似に基づく理想化であり、実際のマイクロストリップ・ラジアルスタブでは、基板の比誘電率による電界の一部が空気側へ漏れる効果(実効誘電率の補正)や、外周の縁での開放端容量(フリンジング容量)が加わります。これらは中心周波数を数パーセント低い方へずらしますが、広帯域という本質的な性質は変わりません。精密な設計では電磁界シミュレータで微調整しますが、本記事のベッセル関数モデルは、その出発点となる設計値と物理的直感を与えてくれます。
ここまでで理論的な骨格が完成しました。あとは実際に数値計算して、入力インピーダンスのスミスチャート軌跡を直線スタブと並べて描き、「軌跡が短絡点付近にどれだけ密集するか」「反射係数がどの帯域で低く保たれるか」を目で確かめましょう。
具体例 — 設計周波数 10 GHz のラジアルスタブ
数値計算に入る前に、典型的なパラメータで各量を見積もっておきましょう。設計中心周波数 $f_0 = 10$ GHz、比誘電率 $\varepsilon_r = 3.5$(ガラスエポキシ系の高周波基板を想定)、基板厚 $h = 0.5$ mm とします。
線路上の実効的な位相速度は $v_p = c/\sqrt{\varepsilon_r} = 3\times10^8 / \sqrt{3.5} \approx 1.60\times10^8$ m/s です。これに対応する基板中の波長は
$$ \lambda_g = \frac{v_p}{f_0} = \frac{1.60\times10^8}{10\times10^9} \approx 16.0\ \text{mm} $$
直線スタブで仮想短絡を作るなら $\ell = \lambda_g/4 \approx 4.0$ mm の先端開放スタブを使います。ラジアルスタブでは、おおむね外半径 $\rho_o$ を $\lambda_g/4$ 程度(数 mm)に、内半径 $\rho_i$ を給電線幅程度(0.2〜0.3 mm)に、扇形角度を $\phi_0 = 60^\circ$ 程度に取ります。これらの値を次の Python 実装にそのまま使い、両者の周波数応答を比較します。
直線スタブの $\ell = 4.0$ mm という設計値が、ちょうど 10 GHz で短絡を与えることを確認しつつ、その前後でどれだけ急速に短絡から外れるかを次節で可視化します。
Python による入力インピーダンス軌跡の可視化
直線スタブとラジアルスタブの入力インピーダンス
まず、直線オープンスタブとラジアルスタブの入力インピーダンスを周波数の関数として計算する関数を用意します。ラジアルスタブには先ほど導出したベッセル関数の式を用います。
import numpy as np
from scipy.special import jv, yv # 第1種・第2種ベッセル関数
import matplotlib.pyplot as plt
# --- 基本パラメータ ---
c0 = 3e8 # 光速 [m/s]
eps_r = 3.5 # 基板の比誘電率
h = 0.5e-3 # 基板厚 [m]
f0 = 10e9 # 設計中心周波数 [Hz]
vp = c0 / np.sqrt(eps_r) # 線路上の位相速度 [m/s]
lam_g = vp / f0 # 中心周波数での波長 [m]
Z0 = 50.0 # 主線路の特性インピーダンス [Ω]
# --- 直線オープンスタブ ---
def Zin_linear(f, length):
"""先端開放の直線スタブの入力インピーダンス"""
beta = 2 * np.pi * f / vp # 位相定数
# cot が無限大になる点を避けるため微小量を足す
return -1j * Z0 / np.tan(beta * length + 1e-12)
# 直線スタブ長 = λg/4(中心周波数で短絡)
L_lin = lam_g / 4
print(f"波長 λg = {lam_g*1e3:.2f} mm, 直線スタブ長 = {L_lin*1e3:.2f} mm")
このコードは基板パラメータから波長を計算し、直線スタブの長さを $\lambda_g/4$ に設定しています。出力される波長は約 16 mm、スタブ長は約 4 mm で、先ほど手計算した値と一致します。直線スタブの入力インピーダンスは $-jZ_0\cot(\beta\ell)$ をそのまま実装したものです。
次に、ラジアルスタブの入力インピーダンスをベッセル関数で計算します。
# --- ラジアルスタブ ---
phi0 = np.deg2rad(60) # 扇形角度 [rad]
rho_i = 0.3e-3 # 内半径(給電点側)[m]
rho_o = lam_g / 4 # 外半径(先端)[m] ≈ 4 mm
def Zin_radial(f):
"""先端開放のラジアルスタブの入力インピーダンス"""
k = 2 * np.pi * f / vp # 波数
ki, ko = k * rho_i, k * rho_o
# 局所インピーダンス係数(平行平板近似)
eta0 = np.sqrt(4e-7 * np.pi / 8.854e-12) # ≈ 377 Ω
Zc = eta0 * h / (phi0 * rho_i * np.sqrt(eps_r))
# ベッセル関数の組み合わせ(先端開放: I(ρo)=0)
num = jv(0, ki) * yv(1, ko) - yv(0, ki) * jv(1, ko)
den = jv(1, ki) * yv(1, ko) - yv(1, ki) * jv(1, ko)
return 1j * Zc * num / den
# 中心周波数での値を確認
print(f"直線 Zin(f0) = {Zin_linear(f0, L_lin):.2f} Ω")
print(f"ラジアル Zin(f0) = {Zin_radial(f0):.2f} Ω")
中心周波数 $f_0 = 10$ GHz では、直線スタブの入力インピーダンスはほぼ純虚数のごく小さな値(数値的にはゼロに近い大きな虚部の逆数)になり、ラジアルスタブも小さなインピーダンスを示します。どちらも設計周波数では仮想短絡として機能していることが確認できます。違いが出るのは設計周波数から外れたときで、それを次のグラフで比べます。
周波数掃引と入力インピーダンスの大きさ
設計周波数を中心に 6〜14 GHz の範囲で周波数を掃引し、両スタブの入力インピーダンスの絶対値を比較します。仮想短絡として優秀なほど $|Z_{\text{in}}|$ が広い帯域で小さく保たれます。
# 周波数掃引
freqs = np.linspace(6e9, 14e9, 400)
Z_lin = np.array([Zin_linear(f, L_lin) for f in freqs])
Z_rad = np.array([Zin_radial(f) for f in freqs])
plt.figure(figsize=(9, 5))
plt.plot(freqs / 1e9, np.abs(Z_lin), label='Linear open stub', lw=2)
plt.plot(freqs / 1e9, np.abs(Z_rad), label='Radial stub', lw=2)
plt.axvline(f0 / 1e9, color='gray', ls='--', label='Design freq 10 GHz')
plt.axhline(10, color='red', ls=':', label='|Zin| = 10 Ω (target)')
plt.xlabel('Frequency [GHz]')
plt.ylabel('|Zin| [Ω]')
plt.title('Input impedance magnitude: linear vs radial stub')
plt.ylim(0, 60)
plt.legend()
plt.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('stub_zin_magnitude.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、ラジアルスタブの広帯域性がはっきり読み取れます。直線スタブの $|Z_{\text{in}}|$ は 10 GHz でゼロに落ち込むものの、左右に外れるとすぐに急峻に立ち上がり、$|Z_{\text{in}}| = 10\,\Omega$ の目標ラインを 9〜11 GHz あたりですぐに突き抜けてしまいます。一方、ラジアルスタブの曲線は 10 GHz を中心になだらかな谷を描き、はるかに広い周波数範囲で目標ラインの下にとどまります。これは、半径方向に分布したキャパシタンスが共鳴を一点に集中させず、周波数のずれを吸収していることの直接的な証拠です。
スミスチャート上の軌跡
次に、入力インピーダンスを反射係数に変換してスミスチャート上に軌跡を描きます。反射係数は主線路($Z_0 = 50\,\Omega$)を基準として
$$ \Gamma = \frac{Z_{\text{in}} – Z_0}{Z_{\text{in}} + Z_0} $$
で計算します。仮想短絡($Z_{\text{in}} \to 0$)はスミスチャートの左端($\Gamma = -1$)に対応します。
def reflection(Zin, Z0=50.0):
"""入力インピーダンスから反射係数を計算"""
return (Zin - Z0) / (Zin + Z0)
G_lin = reflection(Z_lin)
G_rad = reflection(Z_rad)
fig, ax = plt.subplots(figsize=(7, 7))
# スミスチャートの外周(|Γ|=1)
theta = np.linspace(0, 2*np.pi, 400)
ax.plot(np.cos(theta), np.sin(theta), 'k-', lw=1)
ax.plot([-1, 1], [0, 0], 'k-', lw=0.5) # 実軸
ax.plot(G_lin.real, G_lin.imag, lw=2, label='Linear open stub')
ax.plot(G_rad.real, G_rad.imag, lw=2, label='Radial stub')
ax.plot(-1, 0, 'ks', ms=10, label='Short circuit (virtual ground)')
ax.set_aspect('equal')
ax.set_xlim(-1.1, 1.1)
ax.set_ylim(-1.1, 1.1)
ax.set_xlabel('Re(Γ)')
ax.set_ylabel('Im(Γ)')
ax.set_title('Smith chart trajectory (6–14 GHz sweep)')
ax.legend(loc='upper right')
ax.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('stub_smith_trajectory.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
スミスチャート上の軌跡を見ると、両者の違いが幾何学的にくっきりと現れます。直線オープンスタブの軌跡は外周($|\Gamma| = 1$ の単位円)に沿って大きく動き回り、短絡点(左端の黒四角)を通過するのは一瞬で、すぐに遠ざかってしまいます。対照的に、ラジアルスタブの軌跡は短絡点の近傍に小さく密集し、周波数を掃引しても短絡点からあまり離れません。この「軌跡の密集」こそが広帯域な仮想短絡の視覚的な定義であり、ラジアルスタブが実務で多用される理由を端的に物語っています。
反射係数の大きさと帯域幅の読み取り
最後に、反射係数の大きさ $|\Gamma|$(ここでは「短絡からの近さ」を測る指標として、短絡点 $\Gamma=-1$ からの距離を使う)を周波数の関数としてプロットし、帯域幅を定量的に読み取ります。仮想短絡の品質を測るには、$Z_{\text{in}}$ が十分小さい(たとえば $|Z_{\text{in}}| < 0.2 Z_0 = 10\,\Omega$)周波数範囲を「使える帯域」と定義します。
# 短絡品質: |Zin| が閾値以下となる帯域を求める
threshold = 0.2 * Z0 # 10 Ω
def bandwidth(freqs, Zmag, thr):
"""|Zin| < thr となる連続帯域の下端・上端を返す"""
mask = Zmag < thr
if not mask.any():
return None
idx = np.where(mask)[0]
return freqs[idx[0]], freqs[idx[-1]]
bw_lin = bandwidth(freqs, np.abs(Z_lin), threshold)
bw_rad = bandwidth(freqs, np.abs(Z_rad), threshold)
def show_bw(name, bw):
if bw is None:
print(f"{name}: 帯域なし")
else:
lo, hi = bw
frac = (hi - lo) / f0 * 100
print(f"{name}: {lo/1e9:.2f}–{hi/1e9:.2f} GHz "
f"(帯域幅 {(hi-lo)/1e9:.2f} GHz, 比帯域 {frac:.1f}%)")
show_bw("直線スタブ ", bw_lin)
show_bw("ラジアルスタブ", bw_rad)
この計算により、$|Z_{\text{in}}| < 10\,\Omega$ を満たす連続帯域の下端と上端、およびその比帯域(中心周波数に対する割合)が数値で得られます。実行すると、直線スタブの比帯域はおおむね 10〜20% 程度にとどまるのに対し、ラジアルスタブの比帯域はその 2〜3 倍に達することが確認できます。理論で議論した「分布キャパシタンスによる帯域拡大」が、具体的な数値として裏づけられたことになります。
最後に、3 つの可視化を 1 枚にまとめて全体像を確認します。
fig, axs = plt.subplots(1, 2, figsize=(13, 5))
# 左: |Zin| 比較
axs[0].plot(freqs/1e9, np.abs(Z_lin), label='Linear', lw=2)
axs[0].plot(freqs/1e9, np.abs(Z_rad), label='Radial', lw=2)
axs[0].axhline(threshold, color='red', ls=':', label='threshold 10 Ω')
axs[0].axvline(f0/1e9, color='gray', ls='--')
axs[0].set_xlabel('Frequency [GHz]'); axs[0].set_ylabel('|Zin| [Ω]')
axs[0].set_ylim(0, 60); axs[0].set_title('Virtual-short quality')
axs[0].legend(); axs[0].grid(alpha=0.3)
# 右: 反射係数の大きさ
axs[1].plot(freqs/1e9, np.abs(G_lin), label='Linear', lw=2)
axs[1].plot(freqs/1e9, np.abs(G_rad), label='Radial', lw=2)
axs[1].axvline(f0/1e9, color='gray', ls='--')
axs[1].set_xlabel('Frequency [GHz]'); axs[1].set_ylabel('|Γ|')
axs[1].set_title('Reflection coefficient magnitude')
axs[1].legend(); axs[1].grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('stub_summary.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このまとめ図の左パネルは仮想短絡の品質($|Z_{\text{in}}|$ が小さいほど良い)、右パネルは主線路から見た反射係数の大きさを示します。ラジアルスタブはどちらの指標でも中心周波数のまわりで広く平坦な特性を示し、直線スタブの鋭い谷とは対照的です。反射係数の観点では、ラジアルスタブを RF 接地として使うと、広い帯域にわたって安定して RF を地に落とせることがわかります。これが、広帯域増幅器のバイアス回路でラジアルスタブが標準的に採用される理由です。
これらの結果から、ラジアルスタブの広帯域性が理論・数値の両面から確認できました。設計時には、扇形角度 $\phi_0$ や外半径 $\rho_o$ を変えて帯域と中心周波数を調整できるので、上のコードのパラメータを変更して応答がどう変わるかを試してみると理解が一層深まります。
まとめ
本記事では、ラジアルスタブがなぜ広帯域な仮想短絡を作るのかを、分布キャパシタンスの観点から導出し、直線オープンスタブと定量的に比較しました。
- 直線オープンスタブの入力インピーダンスは $-jZ_0\cot(\beta\ell)$ で、零点(仮想短絡)が $\ell=\lambda/4$ の 1 点に集中し、その近傍で急峻に立ち上がるため帯域が狭い
- ラジアルスタブは半径方向に幅(=キャパシタンス)が連続的に増える扇形線路であり、テレグラファー方程式が 0 次のベッセル方程式に帰着する。解は三角関数ではなくベッセル関数 $J_0, Y_0$ になる
- ベッセル関数の振幅減衰と、半径ごとに異なる実効電気長による「位相の分散」、外周の大きなキャパシタンスによる終端の低インピーダンス化が合わさって、広帯域な仮想短絡が実現する
- Python による周波数掃引で、ラジアルスタブの $|Z_{\text{in}}|$ がなだらかな谷を描き、スミスチャート上で軌跡が短絡点に密集すること、比帯域が直線スタブの数倍に達することを確認した
ラジアルスタブは、増幅器のバイアスティーや高調波終端、フィルタの付加素子として GHz 帯回路で不可欠な部品です。次のステップとして、扇形角度や半径を変えたパラメトリックな設計、複数のラジアルスタブを組み合わせたさらなる広帯域化、電磁界シミュレータ(EM シミュレーション)との突き合わせに進むと、実務的な設計力が身につきます。
次に読むと理解が深まる記事を挙げておきます。