パッチアンテナとは?動作原理から設計式・Pythonによる設計計算までわかりやすく解説

スマートフォンやGPS受信機、IoTセンサ端末を分解しても、昔のラジオのような「棒状のアンテナ」はどこにも見当たりません。代わりに見つかるのは、基板の上に印刷された四角い銅箔です。この「ただの銅箔にしか見えない四角形」こそがパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)です。プリント基板の製造工程でそのまま作れるため、量産品のワイヤレス機器ではもっともよく使われるアンテナのひとつです。

パッチアンテナを理解すると、次のような実務的な問いに自分で答えられるようになります。

  • 2.4 GHzのBLEモジュール用パッチは何mm角にすればよいのか?
  • 同じ周波数なのに、製品によってアンテナの大きさが違うのはなぜか?(答えは基板の誘電率です)
  • IoT端末にパッチアンテナを載せたら共振周波数がずれた。何が起きているのか?

応用先も豊富です。GPS/GNSS受信機のアンテナはほぼすべてセラミックパッチですし、衛星通信端末や車載レーダーのフェーズドアレイも、素子1個1個はパッチアンテナです。LPWA(920 MHz帯)やWi-Fi/BLE(2.4 GHz帯)のIoT機器でも、コストと薄さの要求からパッチアンテナが選ばれます。

本記事の内容

  • パッチアンテナの構造と動作原理(フリンジ電界・キャビティモデル)
  • 実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$・フリンジング長 $\Delta L$・共振周波数 $f_r$ の設計式とその導出
  • 給電方式4種類の比較と、インセットフィードによるインピーダンス整合
  • Pythonの設計計算関数(周波数と基板を入れると寸法が出る)と 2.4 GHz / 5.8 GHz / 920 MHz の設計例
  • 放射パターンの計算と可視化、帯域幅・利得の目安
  • IoT機器に実装するときの注意点(筐体・グランドプレーン・円偏波化)

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

パッチアンテナの構造 — 基板上の3層構造

パッチアンテナの構造は驚くほど単純です。プリント基板の表面に四角い銅箔(パッチ)を残し、裏面全体を銅箔(グランドプレーン)にする。それだけです。まずは構造を図で確認しましょう。

パッチアンテナの基本構造(上面図と側面図の模式図)

上面図と側面図から、パッチアンテナが次の3層でできていることがわかります。給電線の方向(図の縦方向)がパッチ長 $L$ で、この方向に電流が往復して共振します。$L$ と直交する方向がパッチ幅 $W$ で、こちらは共振には直接関与せず、主に放射のしやすさ(後述する放射コンダクタンス)を決めます。

  1. 放射パッチ: 基板表面の金属箔。長さ $L$、幅 $W$ の矩形が基本
  2. 誘電体基板: 比誘電率 $\varepsilon_r$、厚さ $h$。FR-4(ガラスエポキシ)やRogers社の高周波基板が定番
  3. 接地導体(グランドプレーン): 裏面全体の金属箔。反射板として働き、放射を表側だけに向ける

特徴を整理しておきます。

利点:

  • 薄型・軽量で、基板製造プロセスでそのまま作れる(追加部品ゼロ)
  • 量産時のコストが極めて低く、寸法精度も高い
  • アレイ化が容易(フェーズドアレイの素子として最適)
  • 機器の表面に沿わせて実装できる(コンフォーマル実装)

欠点:

  • 帯域幅が狭い(典型的に1〜5%)
  • 利得が単体では低め(5〜8 dBi程度)
  • 誘電体損・導体損があり、表面波の励起で効率が下がることがある

「銅箔の四角形がなぜ電波を放つのか」は、構造を見ただけでは想像がつきません。次に、この疑問に答える動作原理を見ていきましょう。

動作原理の直感 — フリンジ電界が放射のもとになる

キャビティモデルで考える

パッチとグランドプレーンに挟まれた薄い空間を想像してください。上下は金属(電気壁)で塞がれ、側面は開放されています。この空間は、電磁波を閉じ込める共振器(キャビティ)として振る舞います。これがキャビティモデルの出発点です。

ギターの弦が両端を固定されて特定の音程で振動するように、このキャビティも特定の周波数の電磁界だけが安定に存在できます。もっとも基本的な振動パターンが TM$_{010}$モードで、パッチの長さ $L$ 方向にちょうど半波長分の電界の濃淡(定在波)が立ちます。

ただし、完全に閉じた共振器なら電磁波は外に出られず、アンテナになりません。パッチアンテナがアンテナとして機能する鍵は、側面が金属で塞がれていないことにあります。パッチの端では、電気力線が基板の中に収まりきらず、外の空気中へふくらむようにはみ出します。これをフリンジ電界(fringing field)と呼びます。

パッチ端のフリンジ電界と実効長の概念図

この断面図には2つの重要な情報が描かれています。第一に、基板内部の電界(青矢印)は両端で最大・中央でゼロになり、しかも両端で向きが逆です。第二に、パッチの端からはみ出したフリンジ電界(オレンジの弧)が存在し、その水平成分が空間へ電波として放射されます。つまりパッチアンテナの実体は、パッチの両端にできた2本の「放射スロット」なのです。

定在波の分布を確認する

TM$_{010}$モードの電圧(電界)と電流の分布を、パッチ上の位置に対してプロットすると次のようになります。

TM010モードの定在波分布(電界と電流)

この図から3つのことが読み取れます。まず、電圧はパッチの両端(開放端)で最大、中央でゼロになります。これは「開放端では電流が流れられないので電荷が溜まり、電圧が高くなる」という伝送線路の定在波と同じ振る舞いです。次に、電流はその逆で中央が最大です。最後に、給電位置を端から中央へずらすと電圧と電流の比、すなわち入力インピーダンスが連続的に変わることがわかります。この性質は後でインピーダンス整合に活用します。

ここで「両端の電界は逆向きなのに、放射が打ち消し合わないのか?」という疑問が浮かぶかもしれません。鋭い疑問です。基板に垂直な電界成分は確かに逆向きですが、フリンジ電界の水平成分は両端で同じ向きになります。このため2つのスロットからの放射は基板の真上方向で同相となり、強め合います。パッチアンテナの最大放射方向が基板の真上(ブロードサイド)になるのはこのためです。

動作の仕組みがイメージできたところで、次は設計の核心である「共振周波数を決める式」を組み立てていきます。そのためにまず、フリンジ電界がもたらす2つの補正 — 実効誘電率と実効長 — を定量化する必要があります。

実効誘電率 — 電気力線は基板と空気の両方を通る

なぜ補正が必要か

パッチの下の電気力線の大部分は誘電体基板($\varepsilon_r$)の中を通りますが、フリンジ電界の部分は空気(比誘電率1)の中を通ります。電磁波の伝搬速度は媒質の誘電率で決まるので、「波が感じる誘電率」は基板そのものの $\varepsilon_r$ より少し小さくなります。これを実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ と呼びます。

実効誘電率の計算式

$W/h \geq 1$ の条件下で、実効誘電率は次の近似式(Hammerstadの式)で求められます。

$$ \varepsilon_{\text{eff}} = \frac{\varepsilon_r + 1}{2} + \frac{\varepsilon_r – 1}{2} \cdot \frac{1}{\sqrt{1 + 12h/W}} $$

この式は2つの項の意味を考えると覚えやすくなります。

  • 第1項 $\dfrac{\varepsilon_r + 1}{2}$: 誘電体($\varepsilon_r$)と空気($1$)の算術平均。「電気力線が半分ずつ通る」極限に対応します
  • 第2項: $W/h$ による補正項。パッチ幅 $W$ が基板厚 $h$ に比べて大きいほど電気力線は基板内に集中し、$\varepsilon_{\text{eff}}$ は $\varepsilon_r$ に近づきます

極限を確認すると式の構造が見えてきます。$W/h \to \infty$ では平方根の項が1になり $\varepsilon_{\text{eff}} \to \varepsilon_r$(電界が完全に基板内に閉じ込められる)、$W/h \to 0$ では平方根の項が0に近づき $\varepsilon_{\text{eff}} \to (\varepsilon_r + 1)/2$(空気と基板を半々に感じる)となります。

実効誘電率とW/h比の関係

このグラフから、どの基板でも $W/h$ が大きくなるにつれて実効誘電率が基板の $\varepsilon_r$(点線)へ漸近していくことが確認できます。典型的なパッチアンテナは $W/h$ が10〜50程度なので、$\varepsilon_{\text{eff}}$ は $\varepsilon_r$ より1割弱小さい値になります。たとえばFR-4($\varepsilon_r = 4.4$)の2.4 GHz設計では $\varepsilon_{\text{eff}} \approx 4.09$ です。「基板の誘電率をそのまま使うと共振周波数が数%ずれる」 — この数%が、帯域幅1〜5%しかないパッチアンテナでは致命的になるため、この補正は省略できません。

フリンジング長 — パッチは物理寸法より「電気的に長い」

フリンジ電界にはもうひとつの効果があります。電界がパッチの端より外側まで広がっているため、共振器としての実効的な長さが物理的な長さ $L$ より少し長く見えるのです。この延長分をフリンジング長 $\Delta L$ と呼び、Hammerstadの経験式で見積もります。

$$ \Delta L = 0.412 \, h \cdot \frac{(\varepsilon_{\text{eff}} + 0.3)(W/h + 0.264)}{(\varepsilon_{\text{eff}} – 0.258)(W/h + 0.8)} $$

係数の意味を細かく覚える必要はありませんが、「$\Delta L$ は基板厚 $h$ にほぼ比例し、おおよそ $0.3h$〜$0.5h$ 程度」という感覚は持っておくと便利です。パッチの両端それぞれでフリンジングが生じるため、実効長 $L_{\text{eff}}$ は次のようになります。

$$ L_{\text{eff}} = L + 2\Delta L $$

これで2つの補正が揃いました。「波が感じる誘電率は $\varepsilon_{\text{eff}}$」「波が感じる長さは $L + 2\Delta L$」。この2つを使って、いよいよ共振周波数の式を導きます。

共振周波数の導出

伝送線路モデルで半波長共振を立式する

ゴールを先に宣言します。「パッチ寸法と基板パラメータから共振周波数 $f_r$ を求める式」を導きます。

伝送線路モデルでは、矩形パッチを長さ $L$ のマイクロストリップ伝送線路と見なします。両端は開放端なので、電圧の腹が両端に来る定在波 — すなわち半波長共振が起きます。基本モード(TM$_{010}$)の共振条件は、実効長がちょうど線路内波長(ガイド波長)$\lambda_g$ の半分になることです。

$$ L_{\text{eff}} = \frac{\lambda_g}{2} $$

次に $\lambda_g$ を周波数で表します。誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ の媒質中では電磁波の速度が $v = c/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ に低下するので、ガイド波長は自由空間波長 $\lambda_0$ より短くなります。

$$ \lambda_g = \frac{v}{f} = \frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} = \frac{\lambda_0}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} $$

この $\lambda_g$ を共振条件 $L_{\text{eff}} = \lambda_g/2$ に代入すると、

$$ L + 2\Delta L = \frac{c}{2f_r\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} $$

これを $f_r$ について解けば、パッチアンテナの設計でもっとも重要な式が得られます。

$$ \boxed{f_r = \frac{c}{2L_{\text{eff}}\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} = \frac{c}{2(L + 2\Delta L)\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}}} $$

導出は以上です。得られた式は「パッチが半波長共振器であること」「誘電体の中では波長が $\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ 倍短くなること」の2点だけから組み立てられており、物理的な見通しのよい結果になっています。分母に $\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ がある — つまり誘電率の高い基板を使うほど同じ周波数のパッチを小さくできる — ことが、GPSアンテナにセラミック基板($\varepsilon_r = 20$〜90)が使われる理由です。

設計手順(逆問題) — 周波数から寸法を決める4ステップ

実際の設計では「周波数が与えられて寸法を求める」逆問題を解きます。ところが $\varepsilon_{\text{eff}}$ も $\Delta L$ も $W$ に依存するため、先に $W$ を決める必要があります。手順は次の4ステップです。

Step 1: パッチ幅 $W$ を決めます。放射効率と帯域のバランスがよいとされる推奨値は

$$ W = \frac{c}{2f_r}\sqrt{\frac{2}{\varepsilon_r + 1}} $$

です。これは「自由空間の半波長を、空気と基板の平均誘電率 $(\varepsilon_r+1)/2$ で縮めた長さ」と読めます。$W$ は共振条件には直接入らないので多少変えても周波数はずれませんが、広くすると放射コンダクタンスが増えて帯域と効率が改善し、狭くすると小型になります。

Step 2: 決めた $W$ を使って実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ を計算します。

Step 3: フリンジング長 $\Delta L$ を計算します。

Step 4: 共振周波数の式を $L$ について解き、パッチ長を求めます。

$$ L = \frac{c}{2f_r\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} – 2\Delta L $$

このように $W \to \varepsilon_{\text{eff}} \to \Delta L \to L$ の順に一方向で計算でき、反復計算は不要です。後ほどこの手順をそのままPython関数にします。

寸法が決まったら、次の問題は「どうやって高周波電力をパッチに送り込むか」です。給電方式の選択は、製造コスト・帯域幅・整合のとりやすさを大きく左右します。

給電方式の比較 — 4つの定番構造

パッチアンテナの給電方式は大きく4つあります。まず模式図で全体像をつかみましょう。

パッチアンテナの4つの給電方式の比較模式図

図の(a)〜(d)それぞれに一長一短があります。(a)(b)は同一面で完結する手軽さ、(c)は給電線が放射面に出ない、(d)は広帯域化しやすい、というのが要点です。各方式を整理します。

給電方式 構造 長所 短所
(a) マイクロストリップライン給電 パッチの縁に線路を直結 同一面・同一工程で作れる。最も簡単 端部インピーダンスが高く整合が難しい。線路自体が不要放射する
(b) インセットフィード パッチに切り込みを入れて内側で給電 切り込み深さだけで50Ω整合が可能。追加部品不要 切り込みがパターンを乱し交差偏波がやや増える
(c) 同軸給電(プローブ給電) 裏面から同軸の芯線を貫通 給電位置を自由に選べる。放射面に線路が出ない 穴あけ・はんだ工程が必要。厚い基板ではプローブのインダクタンスが問題に
(d) アパーチャ結合給電 グランドのスロット越しに電磁結合 広帯域化しやすい。給電回路と放射面を分離できる 多層基板が必要でコスト高。スロットからの背面放射

量産のIoT機器では、追加工程が不要な(a)(b)が圧倒的に多く使われます。特に(b)のインセットフィードは「なぜ切り込みを入れると整合がとれるのか」という面白い物理が背後にあります。次のセクションで、その仕組みを定量的に見ていきましょう。

入力インピーダンスとインセット位置

パッチ端部のインピーダンスは高すぎる

パッチの端は電圧最大・電流最小の点でした。インピーダンスは電圧と電流の比なので、端部の入力インピーダンスは必然的に高くなります。定量的には、パッチの一辺を放射スロットと見なしたときの放射コンダクタンス $G_1$ で決まります。$W \ll \lambda_0$ の場合の近似式は次の通りです。

$$ G_1 = \frac{1}{90}\left(\frac{W}{\lambda_0}\right)^2 $$

パッチには2つのスロットがあり並列に見えるので、スロット間の相互コンダクタンス $G_{12}$ を含めて端部の入力抵抗は

$$ R_{\text{in}}(\text{edge}) = \frac{1}{2(G_1 + G_{12})} $$

となります。典型的な値は $150 \sim 500\ \Omega$ で、$50\ \Omega$ の給電系とは大きく不整合です。このままでは電力の多くが反射してしまいます。

インセットフィード — 給電点を内側にずらして整合する

そこで思い出したいのが、先ほどの定在波の図です。電圧分布は $\cos(\pi x/L)$、電流分布は $\sin(\pi x/L)$ に従うので、端から $y_0$ だけ内側の点では電圧が $\cos(\pi y_0/L)$ 倍、電流が逆に増えます。インピーダンスは電圧の2乗に比例して下がるため、

$$ R_{\text{in}}(y_0) = R_{\text{in}}(\text{edge}) \cdot \cos^2\left(\frac{\pi y_0}{L}\right) $$

という関係が得られます。$50\ \Omega$ に整合させたいなら、この式を $y_0$ について解けばよいだけです。

$$ y_0 = \frac{L}{\pi}\cos^{-1}\sqrt{\frac{50}{R_{\text{in}}(\text{edge})}} $$

インセット給電位置と入力抵抗の関係

このグラフは2.4 GHz・FR-4設計の実例です。端部では486Ωと高すぎる入力抵抗が、給電点を内側に移すにつれて $\cos^2$ カーブで滑らかに下がり、$y_0/L \approx 0.40$ で50Ωと交差します。中央($y_0/L = 0.5$)では電圧がゼロになるため0Ωです。つまり0Ωから486Ωまでの任意のインピーダンスが、切り込みの深さだけで選べる — これがインセットフィードが部品追加なしで整合できる理由です。

理論が揃ったので、ここからは設計式をPythonコードに落とし込み、実際の周波数帯で寸法を計算してみましょう。

Pythonで作る設計計算機

設計関数の実装

4ステップの設計手順をそのまま関数にします。目標周波数 $f_r$、基板の比誘電率 $\varepsilon_r$、基板厚 $h$ を入れると、パッチ寸法・実効誘電率・端部抵抗・インセット位置・帯域幅の目安まで一括で返します。

import numpy as np

def patch_design(f_r, eps_r, h):
    """矩形パッチアンテナの設計計算。

    Parameters
    ----------
    f_r : float    目標共振周波数 [Hz]
    eps_r : float  基板の比誘電率
    h : float      基板の厚さ [m]
    """
    c = 3e8
    lam0 = c / f_r  # 自由空間波長

    # Step 1: パッチ幅 W(放射効率のよい推奨値)
    W = c / (2 * f_r) * np.sqrt(2 / (eps_r + 1))

    # Step 2: 実効誘電率
    eps_eff = (eps_r + 1) / 2 + (eps_r - 1) / 2 / np.sqrt(1 + 12 * h / W)

    # Step 3: フリンジング長 ΔL(Hammerstadの式)
    delta_L = 0.412 * h * ((eps_eff + 0.3) * (W / h + 0.264)) / \
                           ((eps_eff - 0.258) * (W / h + 0.8))

    # Step 4: パッチ長 L
    L = c / (2 * f_r * np.sqrt(eps_eff)) - 2 * delta_L
    L_eff = L + 2 * delta_L

    # 端部入力抵抗(G12は簡略化して無視)
    G1 = (W / lam0)**2 / 90
    R_edge = 1 / (2 * G1)

    # 50Ω整合のインセット深さ
    y0 = L / np.pi * np.arccos(np.sqrt(50 / R_edge))

    # 帯域幅の目安 [%](VSWR<=2)
    BW_pct = 16 / (3 * np.sqrt(2)) * (eps_r - 1) / eps_r**2 * (h / lam0) * 100

    return {'W': W, 'L': L, 'L_eff': L_eff, 'eps_eff': eps_eff,
            'delta_L': delta_L, 'lam0': lam0, 'R_edge': R_edge,
            'y0': y0, 'BW_pct': BW_pct}

関数の設計判断をひとつ補足します。相互コンダクタンス $G_{12}$ は厳密にはベッセル関数を含む積分で求めますが、値は $G_1$ の2〜3割程度で、整合設計の初期値としては無視しても実用上問題ありません(最終的には電磁界シミュレータで微調整するのが普通です)。

設計例 — 2.4 GHz / 5.8 GHz / 920 MHz

IoTでよく使う3つの周波数帯で実際に寸法を計算してみます。

designs = [
    ('2.4 GHz Wi-Fi/BLE', 2.4e9,  4.4,  1.6e-3),    # FR-4
    ('5.8 GHz帯',          5.8e9,  3.38, 0.813e-3),  # Rogers RO4003C
    ('920 MHz LPWA',       0.92e9, 4.4,  1.6e-3),    # FR-4
]
print(f"{'設計例':<16}{'W[mm]':>8}{'L[mm]':>8}{'εeff':>7}"
      f"{'ΔL[mm]':>8}{'R_edge[Ω]':>10}{'y0[mm]':>8}{'BW[%]':>7}")
for name, f, er, h in designs:
    r = patch_design(f, er, h)
    print(f"{name:<16}{r['W']*1e3:>8.2f}{r['L']*1e3:>8.2f}"
          f"{r['eps_eff']:>7.2f}{r['delta_L']*1e3:>8.3f}"
          f"{r['R_edge']:>10.1f}{r['y0']*1e3:>8.2f}{r['BW_pct']:>7.2f}")

実行結果を表に整理すると次のようになります。

設計例 基板 $W$ [mm] $L$ [mm] $\varepsilon_{\text{eff}}$ $\Delta L$ [mm] $R_{\text{edge}}$ [Ω] $y_0$ [mm] BW [%]
2.4 GHz Wi-Fi/BLE FR-4(4.4, 1.6 mm) 38.04 29.44 4.09 0.74 486 11.66 0.85
5.8 GHz帯 RO4003C(3.38, 0.813 mm) 17.48 13.81 3.14 0.39 394 5.30 1.23
920 MHz LPWA FR-4(4.4, 1.6 mm) 99.23 77.54 4.26 0.75 486 30.71 0.32

この結果から実務上重要な3点が読み取れます。第一に、2.4 GHzのパッチは約38 mm × 29 mmで、小型IoT基板にぎりぎり載るサイズです。第二に、920 MHzでは約99 mm × 78 mmと名刺サイズを超えてしまい、LPWA端末に普通のパッチアンテナはまず載らないことがわかります(実際の920 MHz帯機器でチップアンテナや逆Fアンテナが多いのはこのためです)。第三に、5.8 GHzでは寸法精度の要求が厳しくなります。$\Delta L$ が0.4 mm程度なので、エッチング誤差0.1 mmが共振周波数を約0.7%動かします。帯域幅1.2%のアンテナにとって無視できないずれです。

設計チャートで全体を俯瞰する

パッチ長・基板・周波数の関係をひと目で見られるように、設計チャートを描いておきます。

パッチ長と共振周波数の設計チャート

このチャートからは、同じ周波数の水平線と各曲線の交点を読むことで必要なパッチ長がわかります。たとえば2.4 GHzの線では、FR-4($\varepsilon_r = 4.4$)なら約30 mm、発泡材($\varepsilon_r \approx 1$)なら約58 mmです。誘電率を上げるほど小型化できる一方、後述するように帯域幅と効率は犠牲になります。パッチアンテナ設計は「サイズ・帯域・効率」の三すくみのトレードオフだということを、このチャートを見ながら覚えておいてください。

寸法が決まったら、次に気になるのは「この四角い銅箔は、どの方向にどれくらい電波を飛ばすのか」です。放射パターンを計算してみましょう。

放射パターンの計算と可視化

2スロットモデルでパターンを導く

放射パターンは、パッチ両端の2本のスロットを「間隔 $L_{\text{eff}}$ で並んだ2素子アレイ」と見なすと計算できます。等価磁流の考え方を使うと、スロットの電界 $\bm{E}_a$ は等価磁流 $\bm{M}_s = -2\hat{n} \times \bm{E}_a$(係数2はグランドプレーンの鏡像効果)で置き換えられ、各面のパターンは次のようになります。

E面(共振方向を含む面)は2素子の干渉(アレイファクタ)で決まります。

$$ F_E(\theta) = \cos\left(\frac{k_0 L_{\text{eff}}}{2}\sin\theta\right) $$

$\theta = 0$(真上)では2スロットからの経路差がゼロで同相加算、斜め方向では経路差 $L_{\text{eff}}\sin\theta$ の分だけ位相がずれて弱まる、という素直な2波干渉の式です。

H面(幅方向を含む面)は、幅 $W$ のスロットが連続的な波源として働くため、一様開口の回折パターン(sinc関数)に素子の傾き依存 $\cos\theta$ が掛かった形になります。

$$ F_H(\theta) = \frac{\sin\left(\frac{k_0 W}{2}\sin\theta\right)}{\frac{k_0 W}{2}\sin\theta}\cos\theta $$

Pythonで計算する

2.4 GHz・FR-4の設計値を使ってE面・H面パターンを描きます。

import matplotlib, matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

res = patch_design(2.4e9, 4.4, 1.6e-3)
W, L_eff, lam0 = res['W'], res['L_eff'], res['lam0']
k0 = 2 * np.pi / lam0
theta = np.linspace(-np.pi/2, np.pi/2, 1001)

# E面: 2スロットのアレイファクタ
F_E = np.abs(np.cos(k0 * L_eff / 2 * np.sin(theta)))
# H面: 一様開口のsincパターン × cosθ
xH = k0 * W / 2 * np.sin(theta)
F_H = np.abs(np.sinc(xH / np.pi) * np.cos(theta))  # np.sinc(x)=sin(πx)/(πx)

P_E = (F_E / F_E.max())**2
P_H = (F_H / F_H.max())**2

fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(12, 4.8))
axes[0].plot(np.degrees(theta), P_E, 'b-', lw=2, label='E面(共振方向の面)')
axes[0].plot(np.degrees(theta), P_H, 'r--', lw=2, label='H面(幅方向の面)')
axes[0].set_xlabel('天頂角 θ [度](0°が真上)'); axes[0].set_ylabel('正規化電力')
axes[0].set_title('電力パターン(リニア表示)'); axes[0].legend(); axes[0].grid(alpha=0.3)
for P, c, name in [(P_E, 'b-', 'E面'), (P_H, 'r--', 'H面')]:
    axes[1].plot(np.degrees(theta), 10*np.log10(np.clip(P, 1e-6, None)), c, lw=2, label=name)
axes[1].axhline(-3, color='gray', ls=':')
axes[1].set_xlabel('天頂角 θ [度]'); axes[1].set_ylabel('相対利得 [dB]')
axes[1].set_title('電力パターン(dB表示)'); axes[1].legend()
axes[1].grid(alpha=0.3); axes[1].set_ylim(-30, 0)
plt.tight_layout(); plt.show()

パッチアンテナのE面H面放射パターン

このグラフから読み取れることを整理します。まず、E面・H面とも最大放射は $\theta = 0$、つまり基板の真上です。理論で予想した「2スロットが真上方向で同相加算する」結果と一致しています。次に、H面の半値幅(−3 dB幅)は約82°で、これは幅 $W \approx 0.3\lambda_0$ の開口としては妥当な広がりです。一方E面はさらに広く、この簡易モデルでは $\theta = \pm 90°$ でも−3 dBを下回りません(実際には有限のグランドプレーンの回折で水平方向は落ちます)。要するにパッチアンテナ単体は「上半球をふわっとカバーする、ゆるい指向性のアンテナ」です。

極座標で見ると、このアンテナの性格がさらに直感的にわかります。

極座標で見たパッチアンテナの放射パターン

極座標プロットの最大の特徴は、下半球(グランドプレーンの裏側)への放射がほぼゼロなことです。グランドプレーンが反射板として働くため、電力はすべて上半球に向かいます。同じ入力電力でも放射が半球に絞られるぶん利得が稼げるわけで、これがパッチアンテナの利得(後述、5〜8 dBi)が半波長ダイポール(2.15 dBi)より高い理由です。衛星からの電波を受けるGPSアンテナにパッチが使われるのも、「上だけ向いていればよい」用途と指向性が完璧に噛み合っているからです。

放射の形がわかったところで、最後に残った性能指標 — 帯域幅と利得 — の目安を押さえましょう。

帯域幅と利得の目安

帯域幅 — パッチアンテナ最大の弱点

パッチアンテナの帯域幅(VSWR $\leq 2$)は、Q値 $Q_T$ を使って

$$ BW \approx \frac{3.77(\varepsilon_r – 1)}{Q_T \, \varepsilon_r^2} \times 100 \quad [\%] $$

と書けますが、設計初期にはより実用的な次の近似式が便利です。

$$ BW \approx \frac{16}{3\sqrt{2}} \cdot \frac{\varepsilon_r – 1}{\varepsilon_r^2} \cdot \frac{h}{\lambda_0} \times 100 \quad [\%] $$

式の形から、帯域幅は基板厚 $h$ に比例し、誘電率 $\varepsilon_r$ が高いほど狭くなる($(\varepsilon_r-1)/\varepsilon_r^2$ は $\varepsilon_r \geq 2$ で単調減少)ことがわかります。グラフで確認しましょう。

基板厚と比帯域幅の関係

このグラフの読み方はシンプルです。薄いFR-4基板($h/\lambda_0 \approx 0.013$ at 2.4 GHz)では帯域幅は1%弱しかなく、Wi-Fiチャネル全体(2.40〜2.48 GHz、比帯域3.4%)をカバーできません。帯域を広げたければ「基板を厚く」「誘電率を低く」が基本方針ですが、どちらも小型化と逆行します。先ほどの「三すくみ」がここでも顔を出します。

帯域幅をさらに広げたい場合の定番テクニックも表にまとめておきます。

方法 効果 トレードオフ
基板を厚くする BW増大 表面波が増え効率低下、プローブ給電が難しくなる
低誘電率基板(発泡材など) BW増大 パッチサイズ増大
U字スロット入りパッチ 二重共振で10%超も可能 設計パラメータが増え複雑
積層(スタック)パッチ 多重共振で広帯域化 多層構造でコスト増
アパーチャ結合給電 BW増大 多層基板・背面放射

利得の目安

矩形パッチ単体の利得は、誘電体損・導体損込みで5〜8 dBiが目安です。内訳のイメージは「半球に絞ることで約3 dB+開口の指向性で2〜4 dB−損失で0.5〜2 dB」です。低損失基板(Rogers系)で7〜8 dBi、損失の大きいFR-4では5〜6 dBiに落ちると考えておくと、リンクバジェットの初期見積もりに使えます。より高い利得が必要なら、パッチを並べてアレイ化します(アレイアンテナとビームフォーミングの理論を解説)。

ここまでは「教科書通りの理想条件」での設計です。しかし実際のIoT機器では、アンテナの周りに筐体・電池・人の手といった「教科書にない物体」があります。最後に、実装現場で頻発する問題と対策を見ておきましょう。

IoT機器での実装上の注意

筐体と周囲の誘電体によるデチューニング

パッチアンテナの共振周波数は $\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ に反比例します。つまり、パッチの近くに樹脂筐体・ポッティング材・人体などの誘電体が近づくと、実効誘電率が上がって共振周波数が下にずれます。帯域幅1〜2%のアンテナでは、数%のずれで整合が完全に崩れます。対策の基本は次の3つです。

  • 筐体を被せた最終形態で周波数を測定・調整する(パッチ長を短めに作っておき、ずれ込みを見込む)
  • パッチと筐体の間に数mm以上のクリアランスを確保する
  • 量産でばらつく場合は、トリミング用のパターン(切って周波数を上げる調整代)を用意しておく

グランドプレーンの確保

シミュレーションでは無限大と仮定されるグランドプレーンも、実機では基板サイズで打ち切られます。グランドが小さい、あるいはパッチが基板の端に寄っていると、フリンジ電界がグランドの縁で乱れて共振周波数のずれ・利得低下・パターンの乱れ(背面放射の増加)を招きます。

IoT実装の要点:グランドプレーン設計と円偏波化

図(a)が示すように、目安としてパッチの周囲にガイド波長の1/4($\lambda_g/4$)以上のグランドを確保します。2.4 GHz・FR-4なら周囲に15 mm程度です。また、グランドプレーン上の他の部品(電池・シールドケース・コネクタ)はフリンジ電界の領域を避けて配置します。

円偏波化・両偏波化 — 「端末の向き」が決まらない問題への答え

固定設備と違い、IoT端末やハンドヘルド機器はどんな向きで使われるかわかりません。直線偏波のパッチ同士で偏波が90°ずれると、理論上は通信が完全に切れます(偏波不整合損失が無限大)。この問題への定番の答えが、図(b)の円偏波化です。

ほぼ正方形のパッチの対角コーナーを切り欠く(または微小な寸法差をつける)と、直交する2つのモードがわずかに異なる周波数で共振し、中心周波数で互いに90°の位相差を持って励振されます。その結果、放射される電界ベクトルが回転する円偏波になります。摂動量 $\Delta a$ の設計条件は

$$ \frac{\Delta a}{a} = \frac{1}{2Q_T} $$

で、Q値の高い(帯域の狭い)パッチほど小さな切り欠きで済みます。1点給電のままで円偏波が得られるため、GPS受信アンテナのほぼ標準構造になっています。詳しい設計理論と軸比の計算は円偏波パッチアンテナの設計理論と軸比を実装する、偏波そのものの基礎は円偏波アンテナの理論と設計で解説しています。

もうひとつの選択肢が、垂直・水平の2つの給電点を持つ両偏波(デュアル偏波)化です。2系統の偏波を切り替え・合成することで、向きの不整合だけでなくマルチパスフェージングにも強くなります(偏波ダイバーシティ)。フェージング対策の全体像はマルチパスフェージングとダイバーシティ完全ガイドを参照してください。

まとめ

本記事では、パッチアンテナの動作原理から設計式、Pythonでの設計計算、実装上の注意点までを解説しました。

  • パッチアンテナはパッチ両端のフリンジ電界(2本の放射スロット)から電波を放つ。キャビティモデルのTM$_{010}$モードが基本動作
  • フリンジ電界の補正として実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$フリンジング長 $\Delta L$ を導入し、共振周波数は $f_r = c / \{2(L+2\Delta L)\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}\}$ で決まる
  • 設計は $W \to \varepsilon_{\text{eff}} \to \Delta L \to L$ の4ステップ。2.4 GHz・FR-4で約38 mm × 29 mm、920 MHzでは約99 mm × 78 mmと大型化する
  • 端部入力抵抗は数百Ωと高く、インセットフィードの $\cos^2(\pi y_0/L)$ 則で50Ωに整合できる
  • 放射は上半球のブロードサイド指向性で、利得の目安は5〜8 dBi、帯域幅は1〜5%
  • IoT実装では筐体によるデチューニング・グランドプレーン不足・端末の向き問題(円偏波化で対策)に注意

パッチアンテナは「1素子の理解」がそのままフェーズドアレイや円偏波設計の土台になります。次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。