光ファイバーのカタログを開くと、必ず「カットオフ波長 1260 nm 以下」「モードフィールド径 9.2 µm(1310 nm)」という2つの数字が並んでいます。なぜ 1260 nm なのでしょうか。なぜコア直径が 8.2 µm なのに、光が広がる幅は 9.2 µm と、コアより太いのでしょうか。そして、同じファイバーに 850 nm のレーザーを入れると、なぜ波形が崩れてしまうのでしょうか。
これらの疑問は、すべて Vパラメータ(規格化周波数) というたった1つの無次元数に集約されます。コア半径 $a$、波長 $\lambda$、コアとクラッドの屈折率 $n_1, n_2$ という4つの設計量は、独立にファイバーの性質を決めるのではありません。それらは
$$ V = \frac{2\pi a}{\lambda}\sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
という組み合わせでしか効きません。$V$ が 2.405 を下回れば光の通り道はただ1つ(シングルモード)、$V$ が大きければ $V^2/2$ 個ものモードが同時に走ります。この 2.405 という数字は、実はベッセル関数 $J_0$ の第1零点そのものです。ガラスの糸の設計と、19世紀の特殊関数論が直結している — この記事ではその経路を、円筒座標のヘルムホルツ方程式から一歩も省略せずに辿ります。

左は細いコア(または長い波長)でVが小さい場合で、コアの中を通れる光の道は軸に沿った1本しかありません。右は太いコア(または短い波長)でVが大きい場合で、いろいろな角度でジグザグに反射しながら進む道が何本も同時に成立しています。右では道ごとに実際の道のりが違うため、同時に送り出したパルスが受信端でばらけて広がってしまう — これがモード分散です。Vという1つの数字が、この左右の違いを完全に決めています。
Vパラメータを理解すると、次のような場面で設計判断ができるようになります。
- 光通信システムの設計: 使用波長でファイバーがシングルモードか多モードかを即座に判定できます。多モードならモード分散が伝送距離を制限するため、リンクバジェットの前提が変わります。曲げ損失に強い光ファイバーを選ぶ、融着接続の損失を見積もる、といった実務判断もすべて $V$ 経由です
- 光デバイス・センサの設計: 光導波路型の変調器やAWG、ファイバーブラッググレーティングを使ったひずみ・温度センサでは、モードフィールド径とコアへの光の閉じ込め率が感度や結合効率を直接支配します
- 宇宙・航空機搭載機器: 衛星間光通信の受信部では、望遠鏡で集めた光をシングルモードファイバーに結合します。このときの結合効率はモードフィールドの重なり積分そのもので、$V$ の値が効率を決めます
本記事の内容
- 円筒座標のヘルムホルツ方程式を変数分離し、コア内 $J_m$・クラッド内 $K_m$ の解を得る
- 境界条件から固有値方程式を立て、$u^2 + w^2 = V^2$ という円の拘束を導く
- カットオフ条件 $J_{l-1}(V) = 0$ を導き、LP11 の $V = 2.405$ がシングルモード条件を与えることを示す
- 多モード領域のモード数 $M \approx V^2/2$ を位相空間の議論で導出する
- モードフィールド径のマーカス近似 $w/a \approx 0.65 + 1.619V^{-1.5} + 2.879V^{-6}$ と、接続損失への応用
- Pythonで固有値方程式の数値解・モード分散曲線 $b(V)$・モード強度分布・カットオフ波長・接続損失を計算する
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
特に、全反射と開口数 $\mathrm{NA} = \sqrt{n_1^2-n_2^2}$ の意味、そして電磁波が波動方程式に従うことは前提にします。ベッセル関数については、この記事の中で必要な性質(漸近形・零点・微分の漸化式)をその都度説明しますので、初見でも読み進められます。
Vパラメータとは — 30秒でわかる要点
先に結論を書きます。Vパラメータとは、「ファイバーの断面が波長何個分の大きさに見えるか」を屈折率差で重みづけした無次元数です。
光線光学の描像では、ファイバーは「臨界角より浅い角度で入った光を全反射で閉じ込める管」でした。この描像だと、閉じ込められる光線の角度は $0$ から $\theta_{\max} = \arcsin(\mathrm{NA}/n_1)$ まで連続的に存在するように見えます。ところが実際には、光は波です。管の中を斜めに往復する波は、往復するたびに自分自身と干渉します。位相が合わないと打ち消し合って消えてしまうので、生き残れる伝搬角度は飛び飛びの値に限られます。この「生き残った光の通り道」がモードです。
そうすると自然に、次の問いが出てきます。管が太いほど、あるいは波長が短いほど、生き残れる角度の選択肢は増えるはずです。では何本増えるのか。その「選択肢の多さ」を測る唯一の量が $V$ です。
$$ \begin{equation} V = k_0 a \sqrt{n_1^2 – n_2^2} = \frac{2\pi a}{\lambda}\,\mathrm{NA} \end{equation} $$
ここで $k_0 = 2\pi/\lambda$ は真空中の波数、$a$ はコア半径、$\mathrm{NA}$ は開口数です。$V$ が小さいほどモードの選択肢は少なく、$V < 2.405$ になると選択肢はついに1つ(正確には偏光の自由度を除いて1つ)だけになります。これがシングルモードです。
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| $V$ は何を表す? | コア半径が「実効的な波長」の何倍か。$V = 2\pi a \,\mathrm{NA}/\lambda$ |
| なぜ2.405? | クラッド側の解が非局在化する極限が $J_0(V)=0$ となり、その第1零点が 2.405 |
| モードは何本? | $V$ が大きいとき $M \approx V^2/2$(偏光・向きの縮退込み) |
| $V$ を下げるには? | コアを細く、屈折率差を小さく、波長を長く |
| 光はコアに何%? | $V=2.405$ で約 83%、$V=1.5$ では 54% しかコアに無い |
| モードフィールド径は? | $V\approx 2.3$ でコア径の 1.13 倍。コアより太く広がる |
この表の各行を、以下で数式と数値で埋めていきます。まずは「なぜモードという離散的なものが現れるのか」を、波動方程式のレベルから見直しましょう。
なぜ「モード」が離散化するのか — 固有値問題としての導波路
太鼓の皮を叩くと、どんな叩き方をしても出てくる音の周波数は決まった値の集合に限られます。皮の縁が固定されているという境界条件が、振動の形を選別するからです。導波路のモードもこれとまったく同じ構造をしています。違うのは「縁が固定」ではなく「外側で指数関数的に減衰しなければならない」という境界条件である点だけです。
もう少し丁寧に言いましょう。ファイバーの中を $z$ 方向に進む光を考えます。断面($x$-$y$ 面、あるいは $r$-$\varphi$ 面)の形が $z$ によらず一定なので、解を
$$ \begin{equation} \bm{E}(r,\varphi,z,t) = \bm{e}(r,\varphi)\, e^{\,i(\omega t – \beta z)} \end{equation} $$
の形で探せます。$\beta$ は伝搬定数です。ここでの主役は $\beta$ です。$\beta$ が決まれば、断面の場の形 $\bm{e}(r,\varphi)$ も一意に決まります。逆に言えば、「断面の形が物理的に許される(原点で発散せず、無限遠で減衰する)」という要求が、$\beta$ の値を選別します。モードの離散性とは、$\beta$ の許容値が離散的だということです。
$\beta$ には物理的な上限と下限があります。上限は、コアの中を $z$ 方向にまっすぐ進む波の位相定数 $n_1 k_0$ です。斜めに進めば $z$ 方向の位相の進みは遅くなるので、$\beta \le n_1 k_0$ です。下限は $n_2 k_0$ で、これを下回るとクラッド側でも波が振動できてしまい、光は横方向に逃げます。つまり導波モードの条件は
$$ n_2 k_0 < \beta < n_1 k_0 $$
です。この狭い窓の中に、いくつの離散的な $\beta$ が入るか — それがモード数です。窓の幅は $(n_1 – n_2)k_0$ に比例し、$\beta$ の間隔はコア半径 $a$ に反比例します。したがってモード数はおおよそ $a k_0 (n_1-n_2)$ のオーダー、すなわち $V$ のオーダーになる — この見積もりが後で $M \approx V^2/2$ として正確な形になります。

$V=8$ のファイバー($n_1=1.4682$、$n_2=1.4635$)について、固有値方程式を実際に解いて求めた実効屈折率 $n_{\mathrm{eff}}=\beta/k_0$ を並べたものです。窓の幅はわずか 0.0047 しかないのに、その中に 10 本のLPモードが飛び飛びに収まっています。窓の右端(コア屈折率側)に近いほど閉じ込めが強い基本モード LP$_{01}$ で、左端(クラッド屈折率側)に近づくほど高次モードで、カットオフ間際の弱い閉じ込めになっていることが読み取れます。灰色の領域は $\beta$ が取れない禁止帯で、そこに落ちた光は横方向へ放射されて失われます。
では、$\beta$ の許容値を実際に決める方程式を立てましょう。次のセクションで、円筒座標のヘルムホルツ方程式に取り組みます。
円筒座標のヘルムホルツ方程式
屈折率が場所によって変わらない領域では、マクスウェル方程式から電場の各成分がヘルムホルツ方程式に従うことが導けます(詳しい導出は電磁波の導出と伝搬特性を参照してください)。
$$ \begin{equation} \nabla^2 \psi + n^2 k_0^2 \psi = 0 \end{equation} $$
ここで $\psi$ は電場(または磁場)の1成分、$n$ はその領域の屈折率です。ステップ型ファイバーでは
$$ n(r) = \begin{cases} n_1 & (r < a) \quad \text{コア} \\ n_2 & (r > a) \quad \text{クラッド} \end{cases} $$
と、$r = a$ で不連続に変わります。屈折率が場所によるので、厳密には各成分が独立にヘルムホルツ方程式を満たすわけではありません。$\nabla \cdot (n^2 \bm{E}) = 0$ から $\nabla \cdot \bm{E} = -\bm{E}\cdot\nabla(\ln n^2)$ という結合項が出るためです。ただし通信用ファイバーでは比屈折率差
$$ \Delta \equiv \frac{n_1^2 – n_2^2}{2n_1^2} \approx \frac{n_1 – n_2}{n_1} $$
が 0.3% 程度と極めて小さく、$\nabla(\ln n^2)$ の効果は $\Delta$ の1次で効きます。そこで $\Delta \ll 1$ の弱導波近似(weakly guiding approximation)を採り、結合項を落として各直交成分をスカラー的に扱います。この近似のもとで得られるモードが LPモード(Linearly Polarized mode、直線偏波モード) です。厳密なベクトルモードとの関係は後のセクションで整理します。
さて、$\psi = \psi(r,\varphi)e^{-i\beta z}$ を代入します。円筒座標のラプラシアンは
$$ \nabla^2 = \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r} + \frac{1}{r^2}\frac{\partial^2}{\partial \varphi^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2} $$
です。$z$ 微分は $\partial^2/\partial z^2 \to -\beta^2$ を与えるので、これを代入すると $z$ が消えて2次元の方程式になります。
$$ \begin{equation} \frac{\partial^2 \psi}{\partial r^2} + \frac{1}{r}\frac{\partial \psi}{\partial r} + \frac{1}{r^2}\frac{\partial^2 \psi}{\partial \varphi^2} + \left(n^2k_0^2 – \beta^2\right)\psi = 0 \end{equation} $$
$(n^2k_0^2 – \beta^2)$ という組み合わせが現れました。これは横方向の波数の2乗、つまり「断面内で波がどれだけ細かく振動するか」を表します。コアでは $n = n_1$ かつ $\beta < n_1k_0$ なのでこれは正、クラッドでは $n = n_2$ かつ $\beta > n_2 k_0$ なので負です。同じ形の方程式なのに、係数の符号がコアとクラッドで逆転する — この符号の違いが、「コアでは振動、クラッドでは減衰」という解の性質を生みます。
方程式が立ったので、次はこれを変数分離で解きます。
変数分離と径方向の方程式
方程式 (4) は $r$ と $\varphi$ の両方を含みますが、係数が $\varphi$ を含まないので変数分離ができます。
$$ \psi(r,\varphi) = R(r)\,\Phi(\varphi) $$
と置いて代入し、全体に $r^2/(R\Phi)$ を掛けます。
$$ \frac{r^2 R” + rR’}{R} + \left(n^2k_0^2-\beta^2\right)r^2 = -\frac{\Phi”}{\Phi} $$
左辺は $r$ だけの関数、右辺は $\varphi$ だけの関数です。両者が全領域で等しいには、両辺が同じ定数でなければなりません。その定数を $l^2$ と置きます(後で $l$ が整数になるので、あらかじめ2乗の形にしておくと見通しが良くなります)。
$\varphi$ 側の方程式は単振動の式です。
$$ \Phi” + l^2 \Phi = 0 \quad \Rightarrow \quad \Phi(\varphi) = \cos(l\varphi + \varphi_0) $$
ここで物理からの要求が入ります。$\varphi$ と $\varphi + 2\pi$ は同じ点なので、$\Phi$ は周期 $2\pi$ を持たねばなりません。したがって
$$ l = 0, 1, 2, 3, \dots $$
と、$l$ は整数に限られます。これが1つ目の離散化です。$l$ は「断面を1周する間に場が何回振動するか」を表す方位角モード次数で、$l = 0$ なら円対称、$l=1$ なら1周で1周期(2つのローブ)、$l=2$ なら4つのローブになります。
$r$ 側の方程式は次の形です。
$$ \begin{equation} r^2 \frac{d^2R}{dr^2} + r\frac{dR}{dr} + \left[\left(n^2k_0^2 – \beta^2\right)r^2 – l^2\right]R = 0 \end{equation} $$
これはベッセルの微分方程式そのものです。ただし係数 $(n^2k_0^2-\beta^2)$ の符号によって、解の性質がまったく変わります。そこで次のように2つの規格化パラメータを定義します。
$$ \begin{equation} u \equiv a\sqrt{n_1^2k_0^2 – \beta^2}, \qquad w \equiv a\sqrt{\beta^2 – n_2^2 k_0^2} \end{equation} $$
$u$ は「コア内での横方向波数 × コア半径」、$w$ は「クラッド内での減衰率 × コア半径」です。導波モードの条件 $n_2k_0 < \beta < n_1k_0$ のもとで、$u$ も $w$ も実の正数になります。$u$ が大きいほどコア内で場が細かく振動し、$w$ が大きいほどクラッドで急速に減衰する — つまり$w$ は閉じ込めの強さを表す量です。
この $u, w$ を使うと径方向方程式は、コア($r
$$
r^2 R” + rR’ + \left(\frac{u^2}{a^2}r^2 – l^2\right)R = 0
$$ クラッド($r>a$)で $$
r^2 R” + rR’ – \left(\frac{w^2}{a^2}r^2 + l^2\right)R = 0
$$ となります。前者は $x = ur/a$ と変数変換すれば標準形のベッセル方程式、後者は $x = wr/a$ で変形ベッセル方程式になります。符号ひとつで、振動する解と減衰する解に分かれるわけです。 $u$ と $w$ の間には、実は隠れた拘束があります。次にそれを見ましょう。 定義 (6) の2式をそれぞれ2乗して足します。 $$
u^2 + w^2 = a^2\left(n_1^2k_0^2 – \beta^2\right) + a^2\left(\beta^2 – n_2^2k_0^2\right)
$$ 右辺で $\beta^2$ の項が見事に打ち消し合います。残るのは $$
u^2 + w^2 = a^2k_0^2\left(n_1^2 – n_2^2\right)
$$ です。この右辺は $\beta$ を含まない、つまりモードによらずファイバーの構造と波長だけで決まる定数です。そこでこれを $V^2$ と定義します。 $$
\begin{equation}
V \equiv a k_0 \sqrt{n_1^2 – n_2^2} = \frac{2\pi a}{\lambda}\sqrt{n_1^2-n_2^2} = \frac{2\pi a}{\lambda}\mathrm{NA}
\end{equation}
$$ これがVパラメータ(規格化周波数、normalized frequency)です。導出から明らかなように、$V$ は「$u$ と $w$ を成分とする点が乗る円の半径」に他なりません。 $$
u^2 + w^2 = V^2
$$ この幾何学的描像は非常に強力です。あるモードを求めるとは、半径 $V$ の円周上で、固有値方程式も同時に満たす点 $(u, w)$ を1つ見つけることにほかなりません。円が小さければ($V$ が小さければ)交点は少なく、円が大きければ交点はたくさんある — モード数が $V$ で決まる理由が、この段階ですでに見えてきます。 $V$ の物理的な読み方も押さえておきましょう。$V = 2\pi a\,\mathrm{NA}/\lambda$ は、コア半径 $a$ を「$\lambda/\mathrm{NA}$」という長さで測った量の $2\pi$ 倍です。$\lambda/\mathrm{NA}$ は、開口数 $\mathrm{NA}$ の光学系が分解できる最小スポットのスケールですから、$V$ は要するに「コアの中に、光が区別できる独立な場所がいくつあるか」を測っています。独立な場所が1つしかなければ光の分布のしかたも1通り(シングルモード)、たくさんあれば分布のしかたも多数(マルチモード)です。 $V$ の枠組みができたので、いよいよ具体的な解の形を書き下します。 ベッセル方程式の一般解は第1種 $J_l(x)$ と第2種 $Y_l(x)$(ノイマン関数)の線形結合です。しかし $Y_l(x)$ は $x \to 0$ で対数的あるいはべき的に発散します。ファイバーの中心 $r=0$ は物理的に何の特異性もない普通の点ですから、そこで場が発散するのは許されません。したがって $Y_l$ は捨てて、 $$
R(r) = A\, J_l\!\left(\frac{ur}{a}\right) \qquad (r < a)
$$ とします。$J_l$ は原点から離れるにつれて振動しながら緩やかに減衰する関数で、$l$ が大きいほど原点付近で押さえつけられた($J_l(x)\sim x^l$)形になります。方位角方向の振動が速いモードほど中心から離れた場所に場が寄る、というのは直感にも合います。 変形ベッセル方程式の一般解は $I_l(x)$ と $K_l(x)$ の線形結合です。$I_l(x)$ は $x\to\infty$ で $e^{x}/\sqrt{2\pi x}$ のように指数的に発散します。無限に広がるクラッドの中で場が発散するのは論外なので $I_l$ を捨て、 $$
R(r) = B\, K_l\!\left(\frac{wr}{a}\right) \qquad (r > a)
$$ とします。$K_l(x)$ は大きい $x$ で $\sqrt{\pi/2x}\,e^{-x}$ と指数減衰します。つまりクラッド内の場は $e^{-wr/a}$ で消えていく エバネッセント場です。 ここで重要な事実を1つ。クラッド内の場はゼロではありません。光は完全にコアに閉じ込められているのではなく、必ずクラッド側に染み出しています。$w$ が小さいほど染み出しは遠くまで及び、$w \to 0$ の極限では染み出しが無限に広がって、もはや「導波されている」とは言えなくなります。この $w \to 0$ こそがカットオフです。この視点は後で決定的に効きます。 まとめると、LPモードの場の分布は $$
\begin{equation}
\psi(r,\varphi) = \cos(l\varphi)\times
\begin{cases}
A\,J_l\!\left(\dfrac{ur}{a}\right) & (r \le a)\\[2mm]
B\,K_l\!\left(\dfrac{wr}{a}\right) & (r > a)
\end{cases}
\end{equation}
$$ です。あとは $r=a$ での接続条件を課すだけで、$u$ と $w$ の関係、すなわち固有値方程式が決まります。 左のパネルで、$J_l$ が振動しながらゆっくり減衰するのに対し、$K_l$ が原点近くで発散して外側では急激に消えていく様子が対比できます。方程式の係数 $(n^2k_0^2-\beta^2)$ の符号が反転するだけで、解の性質がここまで変わるわけです。右のパネルは実際に固有値方程式を解いて $u$ と $w$ を求め、$r=a$ で値と傾きが連続になるように継いだ LP$_{01}$ の分布です。$V=6$ では境界のすぐ外で場がほぼゼロになるのに対し、$V=1.5$ では $r=3a$ まで行ってもまだ 1 割近い振幅が残っています。$V$ が小さいと $w$ も小さくなり、染み出しが遠方まで届くことが目で確認できます。 弱導波近似では $\psi$ は電場の横成分そのものと見なせ、$r=a$ で $\psi$ と $\partial\psi/\partial r$ の両方が連続でなければなりません。これは2階の微分方程式の解を滑らかにつなぐ、という素朴な要求です。 まず値の連続から $$
A\,J_l(u) = B\,K_l(w) \tag{i}
$$ 次に微分の連続です。$dR/dr$ を計算するとき、コア側は $x=ur/a$ の連鎖律で $u/a$ が、クラッド側は $w/a$ が前に出ます。 $$
A\,\frac{u}{a}J_l'(u) = B\,\frac{w}{a}K_l'(w) \tag{ii}
$$ (ii) を (i) で辺々割ると、未知の振幅 $A, B$ が消えます。これが固有値方程式です。 $$
\begin{equation}
\frac{u\,J_l'(u)}{J_l(u)} = \frac{w\,K_l'(w)}{K_l(w)}
\end{equation}
$$ このままでも良いのですが、ベッセル関数の漸化式を使って微分を消すと、後の解析(特にカットオフ)が格段に楽になります。使うのは次の2本です。 $$
J_l'(x) = J_{l-1}(x) – \frac{l}{x}J_l(x), \qquad K_l'(x) = -K_{l-1}(x) – \frac{l}{x}K_l(x)
$$ 左辺に第1式を代入します。$u J_l'(u)/J_l(u) = u J_{l-1}(u)/J_l(u) – l$ となります。右辺に第2式を代入すると $w K_l'(w)/K_l(w) = -wK_{l-1}(w)/K_l(w) – l$ です。両辺に共通の $-l$ があるので消えて、 $$
u\frac{J_{l-1}(u)}{J_l(u)} = -\,w\frac{K_{l-1}(w)}{K_l(w)}
$$ を得ます。移項して、最終形にしておきましょう。 $$
\begin{equation}
u\frac{J_{l-1}(u)}{J_l(u)} + w\frac{K_{l-1}(w)}{K_l(w)} = 0, \qquad u^2+w^2 = V^2
\end{equation}
$$ この2本の式がLPモードのすべてを決めます。 上の式が「滑らかにつながれ」という条件、下の式が「エネルギー保存的な拘束($V$ という円)」です。$V$ を与えると、円周上で上式を満たす点 $(u,w)$ が有限個だけ見つかり、その1つ1つがモードになります。$l$ を固定したとき、解は $u$ の小さいほうから順に $m = 1, 2, 3, \dots$ と番号を振り、モードを LP$_{lm}$ と呼びます。 $K_{l-1}(w)/K_l(w)$ は $w>0$ で常に正なので、式 (10) が成り立つには $J_{l-1}(u)/J_l(u)$ が負でなければなりません。つまり解 $u$ は「$J_{l-1}$ の零点と $J_l$ の零点に挟まれた区間」にしか存在しません。この事実は数値解を求めるときの区間設定にそのまま使えます(後のPython実装で利用します)。 左のパネルが $u^2+w^2=V^2$ という拘束の幾何学的な意味です。$V=2$ の円には LP$_{01}$ の1点しか乗りませんが、$V=5$ では4点、$V=8$ では10点に増えます。円が大きくなるほど交点が増える — モード数が $V$ だけで決まる理由がここに見えています。右のパネルは同じことを別の切り口で描いたもので、固有値方程式の左辺(実線、$J$ の極の間で $-\infty$ から立ち上がる枝)と右辺(破線、$K$ から来るなだらかな曲線)の交点が1つのモードに対応します。実線の枝が $u$ 軸上に何本現れるかが $V$ で決まり、枝の本数がそのままモードの本数になっていることが確認できます。 なお、厳密なベクトル解析を行うと固有値方程式はもっと複雑な形 $$
\left[\frac{J_m'(u)}{uJ_m(u)}+\frac{K_m'(w)}{wK_m(w)}\right]\left[\frac{n_1^2J_m'(u)}{uJ_m(u)}+\frac{n_2^2K_m'(w)}{wK_m(w)}\right] = m^2\left(\frac{1}{u^2}+\frac{1}{w^2}\right)\left(\frac{n_1^2}{u^2}+\frac{n_2^2}{w^2}\right)
$$ になり、解は HE / EH / TE / TM といったベクトルモードに分類されます。しかし $n_1 \to n_2$ の極限を取ると左辺の2つの括弧が同じものになり、この式は式 (10) と(符号違いの分岐を含めて)一致します。弱導波近似のLPモードは、ほぼ縮退した複数のベクトルモードの重ね合わせなのです。対応関係は次の通りです。 $l=0$ のモードは円対称なので「向き」の自由度がなく、偏光の2状態だけで縮退度2。$l \ge 1$ では $\cos l\varphi$ と $\sin l\varphi$ の2つの向きがあり、それぞれに2偏光で縮退度4です。この数え方は、後でモード数を数えるときに使います。 固有値方程式が手に入ったので、次はその極限——モードが消える瞬間——を調べましょう。ここに 2.405 が現れます。 あるモードが「かろうじて導波されている」状態を考えます。$\beta$ が下限 $n_2k_0$ に近づいた状態、すなわち $w \to 0$ です。前に述べたように、$w$ はクラッド内の減衰率ですから、$w\to 0$ は染み出しが無限に広がることを意味します。この瞬間にモードは導波されなくなる — これがカットオフです。 カットオフでは $w=0$ なので、拘束 $u^2+w^2=V^2$ から $u = V$ です。したがって固有値方程式 (10) の $w\to 0$ 極限を評価すれば、そのモードが存在できる最小の $V$(カットオフV値、$V_c$)が求まります。 必要なのは $K$ の小引数漸近形です。 $$
K_0(w) \simeq -\ln w \;(w\to 0), \qquad K_\nu(w) \simeq \frac{1}{2}\Gamma(\nu)\left(\frac{2}{w}\right)^\nu \;(\nu \ge 1)
$$ $K_0$ は対数的に、$K_\nu$ は $w^{-\nu}$ でそれぞれ発散します。発散の速さが違うことが、以下の場合分けの本質です。 (a) $l \ge 2$ の場合。 $K_{l-1}$ と $K_l$ の両方にべき乗の漸近形を使います。 $$
w\frac{K_{l-1}(w)}{K_l(w)} \simeq w\cdot\frac{\tfrac12\Gamma(l-1)(2/w)^{l-1}}{\tfrac12\Gamma(l)(2/w)^{l}} = w\cdot\frac{\Gamma(l-1)}{\Gamma(l)}\cdot\frac{w}{2} = \frac{w^2}{2(l-1)}
$$ ここで $\Gamma(l)=(l-1)\Gamma(l-1)$ を使いました。$w\to0$ でこれは $0$ に収束します。 (b) $l=1$ の場合。 $K_0/K_1 \simeq (-\ln w)/(1/w) = -w\ln w$ なので $$
w\frac{K_0(w)}{K_1(w)} \simeq -w^2 \ln w \;\longrightarrow\; 0
$$ 対数があっても $w^2$ に勝てず、やはり $0$ に収束します。 (c) $l=0$ の場合。 $K_{-1}=K_1$ なので $wK_1(w)/K_0(w) \simeq w\cdot(1/w)/(-\ln w) = -1/\ln w \to 0$ です。 つまり どの $l$ でも、$w\to 0$ で第2項は消えます。したがってカットオフ条件は式 (10) の第1項がゼロになること、すなわち $$
\begin{equation}
J_{l-1}(V_c) = 0
\end{equation}
$$ です(ただし $J_l(V_c)\ne 0$)。驚くほど簡潔な結果です。モードのカットオフは、1つ次数の低いベッセル関数の零点で決まる。 具体的に零点を並べてみましょう。 ここに2つの決定的な事実が読み取れます。 1つ目。LP$_{01}$ のカットオフは $V_c = 0$ です。 $l=0$ の条件 $J_1(V)=0$ の最小の根は $V=0$ だからです。つまり基本モードは、$V$ をどれだけ小さくしても(コアをどれだけ細くしても、波長をどれだけ長くしても)決して遮断されません。原理的にはあらゆる波長で伝わります。ただし $V$ が小さいと $w$ も小さく、光の大部分がクラッドに染み出すため、曲げにきわめて弱くなります。「切れないが、実用にならない」状態です。 2つ目。2番目に低いモード LP$_{11}$ のカットオフは $J_0$ の第1零点 $V_c = 2.4048\ldots$ です。 したがって $$
\boxed{\;V < 2.405 \;\Longrightarrow\; \text{LP}_{01}\text{(HE}_{11}\text{)のみが伝搬 = シングルモード}\;}
$$ これがシングルモード条件です。カタログの 1260 nm も、シングルモードファイバーのコア径が 8〜10 µm しかないことも、すべてこの1つの不等式に由来しています。 なお $l=0$ の欄で $J_{-1} = -J_1$ を使いました。これはベッセル関数の対称性 $J_{-n}(x)=(-1)^nJ_n(x)$($n$ は整数)から従います。符号は方程式全体に掛かるだけなので零点の位置には影響しません。 上段の丸印がベッセル関数の零点で、これがそのままモードのカットオフV値になります。$J_0$ の第1零点である 2.4048 に赤い破線を引くと、それより左には他のどのモードのカットオフも存在しないことがわかります。下段の数直線がその帰結で、$V<2.405$ の緑の領域には LP$_{01}$ しか居ません。$V$ を増やしていくと 2.405 で LP$_{11}$、3.832 で LP$_{21}$ と LP$_{02}$ が同時に、5.136 で LP$_{31}$ …と、ベッセル関数の零点が現れるたびに新しいモードが1本ずつ(あるいは同時に2本)加わっていきます。3.832 や 7.016 のように2つのモードが同じ値でカットオフするのは、$J_1$ の零点が $l=0$ 系列と $l=2$ 系列の両方に効くためです。 カットオフの条件が出たところで、これを波長の言葉に翻訳しましょう。 $V$ は波長に反比例するので、$V<2.405$ という条件は「波長がある値より長ければシングルモード」と読み替えられます。$V = 2\pi a\,\mathrm{NA}/\lambda = 2.405$ を $\lambda$ について解くと、 $$
\begin{equation}
\lambda_c = \frac{2\pi a\,\mathrm{NA}}{2.405} = \frac{2\pi a\sqrt{n_1^2-n_2^2}}{2.405}
\end{equation}
$$ これがカットオフ波長です。$\lambda > \lambda_c$ でシングルモード、$\lambda < \lambda_c$ で LP$_{11}$ も伝わってしまいます。 具体例を計算しましょう。標準的な通信用シングルモードファイバー(ITU-T G.652 相当)を模して とします。まず開口数は $$
\mathrm{NA} = \sqrt{1.4682^2 – 1.4635^2} = \sqrt{(1.4682+1.4635)(1.4682-1.4635)} = \sqrt{2.9317 \times 0.0047} = 0.1174
$$ 比屈折率差は $\Delta = (n_1^2-n_2^2)/(2n_1^2) = 0.0032$、つまり 0.32% です。わずか 0.3% の屈折率差で光を閉じ込めているわけで、弱導波近似が良い理由がよくわかります。 カットオフ波長は $$
\lambda_c = \frac{2\pi \times 4.1\ \mu\mathrm{m}\times 0.1174}{2.405} = 1.257\ \mu\mathrm{m} = 1257\ \mathrm{nm}
$$ 実際の G.652 規格ではケーブル化後のカットオフ波長 $\lambda_{cc} \le 1260$ nm と規定されており、この計算値はぴったり整合します。実際のファイバーではコアの屈折率分布が完全な階段ではないこと、そして曲げによって高次モードが優先的に漏れるため、規格上のカットオフはこの理論値よりやや短波長側になります。 各波長での $V$ を並べると次のようになります。 $V$ は波長に反比例するので、横軸を波長に取ると単調に下がる双曲線になります。この曲線が $V=2.405$ の赤い破線を横切る波長がカットオフ波長 1257 nm で、そこを境に左(短波長側)が2モード領域、右(長波長側)がシングルモード領域です。850 nm の点は $V=3.558$ で、LP$_{21}$ のカットオフ 3.832 にはまだ届かないため、ちょうど2モードだけが走る中途半端な状態にあることが読み取れます。1260 nm の点が破線のほぼ真上に乗っているのが、G.652 規格の設計意図そのものです。 この表は、実務でしばしば遭遇するトラブルの説明にもなっています。「シングルモードファイバーに 850 nm の光源をつないだら、波形が二重に見える」という現象は、850 nm では $V=3.56 > 2.405$ で LP$_{11}$ も走ってしまい、2つのモードの群速度差(モード間分散)でパルスが割れるからです。逆に「1625 nm の監視光だけ曲げに弱い」のは、$V$ が小さくクラッドへの染み出しが大きいためです。 多モードファイバーの側も計算してみましょう。コア径 50 µm($a=25\ \mu$m)、$\mathrm{NA}=0.2$ のファイバーを 850 nm で使うと $$
V = \frac{2\pi \times 25\ \mu\mathrm{m}\times 0.2}{0.85\ \mu\mathrm{m}} = 37.0
$$ となり、シングルモードの 2.4 に対して桁違いに大きな値です。この場合、いったい何本のモードが走るのでしょうか。次のセクションで数えます。 $V$ が大きいとき、いちいち固有値方程式を解いてモードを数えるのは大変です。ありがたいことに、$V \gg 1$ では非常に簡単な近似式が成り立ちます。 $$
\begin{equation}
M \approx \frac{V^2}{2}
\end{equation}
$$ この式を、位相空間(phase space)の数え上げで導きましょう。量子力学で「箱の中の状態数 = 位相空間体積 / $h^3$」を数えるのとまったく同じ論法です。 導波モードは、コア断面内に局在し、横方向の波数ベクトル $\bm{\kappa} = (\kappa_x, \kappa_y)$ を持つ波として近似できます。定義より $\kappa = \sqrt{n_1^2k_0^2-\beta^2} = u/a$ です。導波される条件 $\beta > n_2k_0$ は $$
\kappa < \sqrt{n_1^2k_0^2 - n_2^2k_0^2} = k_0\,\mathrm{NA} = \frac{V}{a}
$$ つまり $\bm\kappa$ 空間で半径 $V/a$ の円の内側に入ることです。 一方、場が広がれる実空間の領域はコア断面、面積 $\pi a^2$ です。2次元の実空間と2次元の波数空間を合わせた4次元位相空間で、1つのモードが占める体積は $(2\pi)^2$ です(1次元あたり $2\pi$、これは周期境界条件から出る標準的な結果)。したがってモードの本数は $$
M = g\times \frac{(\text{実空間面積})\times(\bm\kappa\text{空間面積})}{(2\pi)^2} = g \times \frac{\pi a^2 \cdot \pi (V/a)^2}{4\pi^2}
$$ $a^2$ が約分され、$\pi^2/(4\pi^2)=1/4$ なので $$
M = g\times\frac{V^2}{4}
$$ ここで $g$ は偏光の自由度で $g=2$ です。よって $$
M \approx \frac{V^2}{2}
$$ が得られました。LPモードの本数だけを数えるなら $V^2/4$、偏光と向きの縮退まで含めた独立な伝搬状態の数なら $V^2/2$ という関係になります。 この近似の精度を、厳密なカットオフ表による数え上げと比べてみましょう(後のPythonコードで実際に数えます)。 $V=8$ では 34 対 32 と 6% ほどずれますが、$V=40$ では 810 対 800 で 1.2% まで縮みます。位相空間の数え上げは境界の扱いが粗いため、$V$ が小さいと誤差が残るわけです。 左のパネルでは、カットオフ表から1本ずつ数え上げた厳密値が階段状に増えていくのに対し、$V^2/2$ の滑らかな放物線がその階段をきれいに貫いています。LPモードの本数(縮退を数えない)は $V^2/4$ に乗っており、偏光と向きの縮退が全体でちょうど平均2倍に効いていることも確認できます。右のパネルの誤差棒グラフを見ると、$V=4$ では +33% と近似はまったく使い物になりませんが、$V=8$ で +5.9%、$V=20$ で +4.8%、$V=40$ で +1.2% と急速に良くなります。位相空間の数え上げは「境界の効果が全体に対して無視できる」大きな系でこそ正しい、という統計力学的な近似の性格がそのまま出ています。 先ほどの $V=37.0$ の多モードファイバーなら $M \approx 37.0^2/2 \approx 683$ 本。シングルモードファイバーの1本に対して、実に700倍近い数の光路が同時に存在します。それぞれの光路は伝搬定数 $\beta$ が違うので群速度も違い、同時に送り出したパルスが受信端でばらけます。これがモード分散で、多モードファイバーの伝送距離を数百 m 程度に制限する主因です。屈折率をコア中心から放物線状に下げるグレーデッドインデックス型にすると群速度差が大幅に補償され、さらにモード数も $M\approx V^2/4$ と半減します。 モードの本数がわかったので、次は1本1本のモードが「どんな $\beta$ を持つか」を規格化された形で見ていきます。 $\beta$ の値そのものは屈折率や波長に依存して扱いにくいので、$n_2k_0 \le \beta \le n_1k_0$ の窓の中での相対位置を表す無次元量を定義します。 $$
\begin{equation}
b \equiv \frac{\beta^2/k_0^2 – n_2^2}{n_1^2-n_2^2} \approx \frac{\beta/k_0 – n_2}{n_1-n_2}
\end{equation}
$$ (右側の近似は $n_1\approx n_2$ のときに $\beta^2-n_2^2k_0^2 = (\beta+n_2k_0)(\beta-n_2k_0)\approx 2n_2k_0(\beta-n_2k_0)$ を使ったものです。) $b$ は 0 から 1 の値を取ります。$b=0$ はカットオフ($\beta = n_2k_0$、光がクラッドと同化)、$b=1$ は完全にコアに閉じ込められた極限($\beta = n_1k_0$)です。定義から直ちに $$
w^2 = a^2(\beta^2 – n_2^2k_0^2) = V^2 b, \qquad u^2 = V^2(1-b)
$$ がわかります。つまり $b$ は「$V$ という円の上で、$w$ 側にどれだけ寄っているか」を表す量です。 $b$ を $V$ の関数としてプロットしたものがモード分散曲線($b$-$V$ ダイアグラム)で、ファイバー設計の最重要チャートです。実際に固有値方程式を数値的に解くと、たとえば LP$_{01}$ について次の値が得られます。 この $b$-$V$ ダイアグラムからは3つのことが読み取れます。第一に、LP$_{01}$ の曲線だけが $V=0$ から立ち上がっており、他のすべてのモードは有限のカットオフVを持ちます。基本モードに遮断がないという理論的結論が視覚的に確認できます。第二に、$V=2.405$ の破線より左には LP$_{01}$ の曲線しか存在せず、この緑の領域がシングルモード領域そのものです。第三に、どのモードもカットオフ直後は $b$ の立ち上がりが急で、その後 1 に向かって飽和します。カットオフ直上のモードは閉じ込めが弱く、少し曲げただけで放射モードになって消えるという性質が、この傾きに現れています。 $b$ が大きいほど閉じ込めが強い、と読みます。$V=1.5$ では $b=0.23$ しかなく、実効屈折率 $n_{\mathrm{eff}} = \beta/k_0$ はほとんどクラッドの屈折率です。この状態の光は「かろうじてコアに引っかかっている」だけで、ファイバーを少し曲げれば簡単に漏れます。 実効屈折率も計算しておきましょう。$n_{\mathrm{eff}} = \sqrt{n_2^2 + b(n_1^2-n_2^2)}$ より、上の G.652 相当ファイバーでは $n_1 = 1.4682$ と $n_2=1.4635$ の間にきちんと収まり、波長が長いほどクラッド寄りになる様子が見えます。この $n_{\mathrm{eff}}$ の波長依存性こそが導波路分散の源です。材料分散(ガラスの屈折率の波長依存性)と合わせて、1310 nm 付近でゼロ分散になるように設計されています。定量的には $V\,d^2(Vb)/dV^2$ という量が導波路分散に比例することが知られており、$b$-$V$ 曲線の2階微分が直接デバイス性能につながります。 $b$ が閉じ込めの強さを表すなら、「光の何割がコアの中にあるか」も $V$ で決まるはずです。実際に数値積分すると、LP$_{01}$ モードのコア閉じ込め率 $\Gamma$ は次のようになります。 $V=2.405$ でも 17% の光はクラッドを通っています。$V=1.0$ に至っては、光の 83% はコアの外です。「コアが光を運び、クラッドは単なる覆い」という素朴なイメージは正確ではありません。 クラッドの純度や損失がファイバー性能に効くのは、このためです。 左のパネルは数値積分で求めた閉じ込め率です。$V=1$ 付近で 17% しかなかった $\Gamma$ が $V=2$ で 74%、$V=4$ で 95% へと急激に立ち上がり、$V=6$ 以降はほぼ 98% で頭打ちになります。$V=2$ から $V=3$ のあたりが最も感度の高い領域で、ここに実用ファイバーの動作点があることは偶然ではありません。右のパネルは同じことを空間分布で見たもので、縦軸が対数なのでクラッド内の直線の傾きがそのまま減衰率 $2w/a$ を表します。$V=1$ の赤い線はほとんど寝ており、$r=4a$ でもまだ 7% の強度が残っています。この状態のファイバーを曲げると、遠くまで届いた場が簡単に外へ逃げていきます。 閉じ込め率の話が出たので、次は「光は結局どのくらいの太さに広がっているのか」という、最も実務的な量に進みます。 シングルモードファイバーどうしを融着接続するとき、あるいはレーザーの光をファイバーに入れるとき、効率を決めるのは「コア径」ではなく「光が実際に広がっている幅」です。前節で見たとおり光の一部はクラッドに染み出しているので、この幅はコア径より大きくなります。 LP$_{01}$ の場の分布は正確には「コア内は $J_0$、クラッド外は $K_0$」という継ぎはぎ関数ですが、$V$ が 1.5〜2.5 の実用範囲では、驚くほどガウス関数でよく近似できます。 $$
\begin{equation}
\psi(r) \approx \exp\left(-\frac{r^2}{w_0^2}\right)
\end{equation}
$$ この $w_0$ をモードフィールド半径、$2w_0$ を モードフィールド径(MFD, Mode Field Diameter) と呼びます。強度は $|\psi|^2 = \exp(-2r^2/w_0^2)$ なので、$w_0$ は「振幅が $1/e$ に、強度が $1/e^2$ に落ちる半径」です。 ガウス近似の重なり積分を最大化して $w_0$ を決めると、$V$ の関数として次の経験式が得られます(D. Marcuse, 1977)。 $$
\begin{equation}
\frac{w_0}{a} \approx 0.65 + 1.619\,V^{-3/2} + 2.879\,V^{-6}
\end{equation}
$$ 適用範囲はおおよそ $0.8 \lesssim V \lesssim 2.8$ です。式の構造を読むと理解が深まります。第1項の定数 0.65 は「$V$ が大きい極限でも、モードはコア半径の 0.65 倍程度には縮まる」ことを表します($V\to\infty$ で $J_0$ の中心ローブに収束するため)。第2項 $V^{-3/2}$ が実用領域での主役で、$V$ が小さくなると急速にフィールドが広がることを表します。第3項 $V^{-6}$ は $V<1.2$ あたりで急激に効き始め、カットオフ近傍でのフィールドの爆発的な広がりを再現します。 数値を入れましょう。先ほどの G.652 相当ファイバー($a=4.1\ \mu$m)では 1310 nm($V = 2.308$): $$
\frac{w_0}{a} = 0.65 + \frac{1.619}{2.308^{1.5}} + \frac{2.879}{2.308^{6}} = 0.65 + 0.4617 + 0.0189 = 1.1306
$$ $$
w_0 = 1.1306\times 4.1\ \mu\mathrm{m} = 4.64\ \mu\mathrm{m}, \qquad \mathrm{MFD} = 9.27\ \mu\mathrm{m}
$$ 1550 nm($V = 1.951$): $$
\frac{w_0}{a} = 0.65 + \frac{1.619}{1.951^{1.5}} + \frac{2.879}{1.951^{6}} = 0.65 + 0.5940 + 0.0518 = 1.2962
$$ $$
w_0 = 5.32\ \mu\mathrm{m}, \qquad \mathrm{MFD} = 10.63\ \mu\mathrm{m}
$$ 実際の標準シングルモードファイバーのカタログ値は「MFD 9.2 µm @1310 nm、10.4 µm @1550 nm」です。ステップ型を仮定した単純なモデルと経験式だけで、実測値を 2〜3% の精度で再現できました。実ファイバーの屈折率分布は完全な階段ではない(製造上、中心にディップが出たり境界がなだらかになったりする)ため、この程度のずれは自然です。 左のパネルで、経験式の3つの項がどう効いているかが分かります。$V\gtrsim 2$ では第1項+第2項(緑の破線)だけでほぼ本体(青の実線)に一致しますが、$V<1.3$ になると $V^{-6}$ の第3項が急に効き始め、青と緑が大きく離れます。カットオフ近傍でフィールドが爆発的に広がる挙動は、この第3項が担っているわけです。1310 nm と 1550 nm の動作点はどちらも $w_0/a>1$ の側にあり、光がコア半径より太く広がっていることが一目で確認できます。右のパネルでは計算した MFD がカタログ値(赤い四角)をほぼ通っており、単純なステップ型モデルでも実測を数%の精度で再現できていることがわかります。全域でコア直径 8.2 µm の灰色の点線を上回っている点にも注目してください。 コア径 8.2 µm に対して MFD 9.27 µm — 冒頭の疑問への答えがここにあります。光はコアより 13% 太く広がっており、その分だけクラッドを通っています。そして波長を 1310 nm から 1550 nm へ伸ばすと $V$ が下がり、MFD は 15% も膨らみます。この「長波長ほど光が太る」性質が、L帯(1565–1625 nm)で曲げ損失が増える理由です。 MFD がわかると、光を「つなぐ」ときの損失が計算できます。次にそれを見ましょう。 異なる2本のファイバー(MFD 半径 $w_1$ と $w_2$)を軸ずれなく突き合わせたとき、どれだけの光が通るでしょうか。答えはモードフィールドの重なり積分で決まります。 結合効率は $$
\eta = \frac{\left|\displaystyle\int \psi_1\psi_2^*\,dA\right|^2}{\displaystyle\int|\psi_1|^2dA \int|\psi_2|^2dA}
$$ です。$\psi_i = \exp(-r^2/w_i^2)$ を代入して、$dA = 2\pi r\,dr$ で積分します。分子の積分は $$
\int_0^\infty e^{-r^2(1/w_1^2+1/w_2^2)}2\pi r\,dr = \frac{\pi}{1/w_1^2+1/w_2^2} = \frac{\pi w_1^2w_2^2}{w_1^2+w_2^2}
$$ ($\int_0^\infty e^{-\alpha r^2}2\pi r\,dr = \pi/\alpha$ を使いました。)分母の各因子は $w_2\to w_1$ とした同じ式で、$\int|\psi_1|^2dA = \pi w_1^2/2$ です。したがって $$
\eta = \frac{\left(\dfrac{\pi w_1^2w_2^2}{w_1^2+w_2^2}\right)^2}{\dfrac{\pi w_1^2}{2}\cdot\dfrac{\pi w_2^2}{2}} = \frac{4w_1^2w_2^2}{(w_1^2+w_2^2)^2}
$$ きれいな形にまとまりました。 $$
\begin{equation}
\eta = \left(\frac{2w_1w_2}{w_1^2+w_2^2}\right)^2, \qquad L\,[\mathrm{dB}] = -10\log_{10}\eta = -20\log_{10}\frac{2w_1w_2}{w_1^2+w_2^2}
\end{equation}
$$ この式は相加平均と相乗平均の関係そのもので、$w_1 = w_2$ のときだけ $\eta=1$(損失ゼロ)、離れるほど効率が落ちます。しかも2乗の形で緩やかに落ちるのがポイントです。数値を並べます。 MFD が 10% ずれても損失はわずか 0.04 dB。20% ずれても 0.14 dB です。MFD 不一致には意外なほど寛容なのです。実務でいえば、MFD 9.27 µm のファイバーと 10.4 µm のファイバー(比 1.12)を突き合わせても損失は 0.06 dB しかありません。一方、MFD 9.2 µm の伝送用ファイバーと MFD 4.0 µm の高非線形ファイバー(比 0.43)を直結すると 2.7 dB も失われ、こちらは無視できません。この場合はテーパやモードフィールド変換器が必要になります。 なお、軸ずれ $d$ がある場合の効率は $\eta_d = \eta\exp\left(-2d^2/(w_1^2+w_2^2)\right)$ となり、こちらは指数関数なので急激に悪化します。$w\approx 4.6\ \mu$m に対して軸ずれ $1\ \mu$m でも約 0.2 dB です。融着接続では MFD 不一致より軸ずれのほうがはるかに厳しい — この定量的な感覚が実務では効きます。 左のパネルの損失曲線は比 1.0 を底とする非常に浅い谷で、比 1.2 まで広げても 0.144 dB にしかなりません。1310 nm 用と 1550 nm 用の MFD 差(緑の星、比 1.12)が 0.057 dB に収まる一方、高非線形ファイバーとの直結(紫の星、比 0.43)は 2.72 dB に跳ね上がり、この曲線の裾の急峻さがそのまま実務判断の分かれ目になっています。右のパネルは同じ損失を軸ずれの言葉に翻訳したもので、わずか 1.0 µm のずれで 0.20 dB、2.0 µm で 0.81 dB です。1 µm のずれが MFD 比 1.24 相当、2 µm のずれが MFD 比 1.5 を超える損失に匹敵することが、破線との交点から読み取れます。融着機に高精度なコア軸合わせ機構が必要な理由がここにあります。 理論が一通り揃いました。ここからは、これまでの主張をすべてPythonで検証していきます。 まず、固有値方程式 (10) を数値的に解いて $b$-$V$ 曲線を描きます。前に述べたとおり、LP$_{lm}$ の解 $u$ は $J_{l-1}$ の第 $m$ 零点と $J_l$ の第 $m$ 零点の間にあります。この性質を使って、根の探索区間を確実に切り分けます。 根の探索を $u$ ではなく $w$ の対数格子で行っているのには理由があります。カットオフのすぐ上では $w$ が指数関数的に小さくなるため、$u$ の等間隔格子では解を取り逃がすからです。出力は $V=1.5$ で $b=0.2292$、$V=1.951$(1550 nm)で $b=0.4000$、$V=2.308$(1310 nm)で $b=0.5065$、$V=2.405$ で $b=0.5313$、$V=8$ で $b=0.9288$ となり、本文の表と一致します。注目すべきは $V$ が 1.951 から 2.405 へ 23% 増えるだけで $b$ が 0.40 から 0.53 へ 33% も上がる点です。閉じ込めは $V$ に対して敏感で、だからこそ長波長側で曲げ損失が急に悪化します。また $V=2.405$ ちょうどでも LP$_{01}$ の $b$ は 0.53 止まりで、光の半分近くは「クラッド寄り」の実効屈折率を持っています。 次に、この関数を使って $b$-$V$ ダイアグラムを描きます。 この図から3つのことが読み取れます。第一に、LP$_{01}$ の曲線だけが $V=0$ から立ち上がっており、他のすべてのモードは有限のカットオフ $V$ を持ちます。基本モードに遮断がないという理論的結論が視覚的に確認できます。第二に、$V=2.405$ の破線より左の領域には LP$_{01}$ の曲線しか存在せず、これがシングルモード領域そのものです。第三に、どのモードもカットオフ直後は $b$ の立ち上がりが急で、その後 1 に向かって飽和します。カットオフ直上のモードは閉じ込めが弱く、少し曲げただけで放射モードになって消えるという性質が、この傾きに現れています。 $b$-$V$ 曲線が描けたので、次はモードの空間的な形そのものを見てみます。 $V$ を変えたときに、コアの中の光の形がどう変わるかを直接プロットします。$V=1.5$(シングルモードだが閉じ込め弱)、$V=2.4$(シングルモード限界)、$V=8$(多モード)の3ケースを比べます。 格子を用意しました。$r>a$ 側で 6つの図を見比べると、Vパラメータの意味が一目でわかります。$V=1.5$ の LP$_{01}$ は白破線(コア境界)を大きくはみ出しており、コア内のパワーは 54% しかありません。$V=2.4$ になると分布はコアの内側にほぼ収まり(閉じ込め率 83%)、コア境界のすぐ外で急速に減衰します。そして $V=8$ では LP$_{01}$ に加えて LP$_{11}$(2つのローブ)、LP$_{21}$(4つのローブ)、LP$_{02}$(同心円状の二重リング)が同時に存在し、これらがすべて別々の速度で伝わることでモード分散が生じます。$l$ が方位角方向のローブ対の数、$m$ が動径方向の輪の数に対応していることも視覚的に確認できます。 分布が見えたので、今度は実際のファイバーの設計値からカットオフ波長を計算してみます。 波長を掃引して $V$ とモード数がどう変わるかを追い、カットオフ波長とモードフィールド径を同時に求めます。 出力は $\mathrm{NA}=0.11738$、$\Delta = 0.320\%$、カットオフ波長 1257.4 nm となります。850 nm では $V=3.558$ で LP$_{01}$ と LP$_{11}$ の 2本、1260 nm で $V=2.400$ とぎりぎり 1本、1310 nm 以上では確実に 1本です。「G.652 のカットオフ波長は 1260 nm 以下」という規格値が、コア半径 4.1 µm と屈折率差 0.32% から理論的に再現できたわけです。設計者はこの逆をやっています。すなわち「1260 nm でシングルモードにしたい」という要求から $a\cdot\mathrm{NA}$ の積を決め、そのうえで曲げ損失や分散の要求で $a$ と $\mathrm{NA}$ の配分を決めるのです。 続いてモードフィールド径です。 計算値は 1310 nm で MFD 9.27 µm、1550 nm で 10.63 µm。カタログ値 9.2 µm / 10.4 µm に対してそれぞれ +0.8% / +2.2% の誤差で、ステップ型という単純なモデルとしては十分な精度です。グラフを見ると MFD は波長に対してほぼ線形に増加し、全域でコア直径 8.2 µm を上回っています。光は常にコアからはみ出しており、長波長ほどはみ出し量が増える — 曲げ損失が長波長で悪化する理由が、この1本の曲線に凝縮されています。 最後に、この MFD の違いが接続損失にどう効くかを計算します。 MFD 不一致による損失の式 (17) を、比の関数としてプロットします。 グラフは比 1.0 を底とする浅い谷になります。比 1.1 で 0.039 dB、比 1.2 でも 0.144 dB と、実用上の目安 0.1 dB 前後に収まります。実例の計算では、1310 nm 用と 1550 nm 用の MFD 差(9.27 µm 対 10.4 µm)による損失はわずか 0.057 dB でした。一方、伝送用ファイバーと高非線形ファイバー(MFD 4.0 µm)を直結すると 2.72 dB も失われます。MFD 比が 1.5 を超えるあたりから損失が実務的に無視できなくなる — この閾値の感覚が、モードフィールド変換器を入れるかどうかの判断基準になります。 なお、軸ずれを加味すると話は変わります。ずれ $d$ に対する追加損失は $\exp(-2d^2/(w_1^2+w_2^2))$ で効くので、$w\approx 4.6\ \mu$m のファイバーで $d=1\ \mu$m のずれがあると約 0.20 dB。MFD が 20% 違う(0.14 dB)より、軸が 1 µm ずれるほうが痛いのです。融着機の高精度なコア軸合わせ機構が不可欠な理由がここにあります。 本記事では、光ファイバーのVパラメータとモード数について、円筒座標のヘルムホルツ方程式から出発して一貫した導出を行いました。 $V$ という無次元数1つに、コア半径・波長・屈折率差という設計自由度がすべて畳み込まれている点が、この理論の美しさです。$V$ を知ればモード数がわかり、閉じ込め率がわかり、フィールド径がわかり、接続損失も曲げ損失の傾向もわかります。次にファイバーのデータシートを見るときは、まず $V$ を計算してみてください。カタログの数字が理論から出てくる感覚がつかめるはずです。 次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。$u^2+w^2=V^2$ — Vパラメータの正体
コア内の $J_l$ とクラッド内の $K_l$

境界条件から固有値方程式へ

LPモード
構成するベクトルモード
縮退度(偏光・向き込み)
LP$_{01}$
HE$_{11}$
2
LP$_{11}$
TE$_{01}$, TM$_{01}$, HE$_{21}$
4
LP$_{21}$
EH$_{11}$, HE$_{31}$
4
LP$_{02}$
HE$_{12}$
2
カットオフ条件 $J_{l-1}(V)=0$ の導出
$l$
条件
零点
対応するモードとカットオフ $V_c$
0
$J_{-1}(V)=-J_1(V)=0$
0, 3.8317, 7.0156
LP$_{01}$: 0、LP$_{02}$: 3.832、LP$_{03}$: 7.016
1
$J_0(V)=0$
2.4048, 5.5201, 8.6537
LP$_{11}$: 2.405、LP$_{12}$: 5.520
2
$J_1(V)=0$(非零根)
3.8317, 7.0156
LP$_{21}$: 3.832、LP$_{22}$: 7.016
3
$J_2(V)=0$
5.1356, 8.4172
LP$_{31}$: 5.136

カットオフ波長とシングルモード設計
波長
$V$
状態
850 nm
3.558
LP$_{01}$ + LP$_{11}$ の2モード(LP$_{21}$のカットオフ 3.832 未満)
1260 nm
2.400
ぎりぎりシングルモード
1310 nm
2.308
シングルモード
1550 nm
1.951
シングルモード(閉じ込めは弱まる)
1625 nm
1.861
シングルモード(曲げ損失が増える帯域)

多モード領域のモード数 $M \approx V^2/2$
$V$
LPモード数(厳密)
総状態数(厳密)
$V^2/2$
8
10
34
32.0
10
15
54
50.0
20
56
210
200.0
40
209
810
800.0

規格化伝搬定数 $b$ とモード分散曲線
$V$
$u$
$w$
$b$
1.500
1.3169
0.7182
0.229
1.951(1550 nm)
1.5112
1.2339
0.400
2.308(1310 nm)
1.6213
1.6426
0.507
2.405(カットオフ)
1.6466
1.7529
0.531
3.000
1.7711
2.4214
0.652
8.000
2.1346
7.7100
0.929

$V$
1.0
1.5
2.0
2.405
3.0
4.0
6.0
$\Gamma$(コア内パワー比)
0.172
0.539
0.741
0.828
0.897
0.949
0.982

モードフィールド径とマーカス近似

MFD 不一致による接続損失
MFD 比 $w_2/w_1$
結合効率 $\eta$
損失 [dB]
1.00
1.000
0.00
1.05
0.998
0.010
1.10
0.991
0.039
1.20
0.968
0.144
1.50
0.852
0.695
2.00
0.640
1.94

Pythonで固有値方程式を解く
import numpy as np
from scipy.special import jv, kv, jn_zeros
from scipy.optimize import brentq
def lp_char(w, V, l):
"""固有値方程式の左辺。u = sqrt(V^2 - w^2) を代入して w だけの関数にした"""
w = np.asarray(w, dtype=float)
u = np.sqrt(np.maximum(V**2 - w**2, 0.0))
return u * jv(l - 1, u) / jv(l, u) + w * kv(l - 1, w) / kv(l, w)
def cutoff_V(l, m):
"""LP_{lm} のカットオフV値: J_{l-1}(V)=0 の第m零点"""
if l == 0:
# J_{-1} = -J_1 なので J_1 の零点。その第1零点は V=0(LP01は遮断なし)
return 0.0 if m == 1 else jn_zeros(1, m - 1)[m - 2]
return jn_zeros(l - 1, m)[m - 1]
def solve_lp(V, l, m=1):
"""LP_{lm} モードの (u, w, b) を返す。導波されない場合は None"""
if V <= cutoff_V(l, m) + 1e-9:
return None
j_l = jn_zeros(l, m)[m - 1] # u の上端(J_l の第m零点)
w_hi = np.sqrt(V**2 - max(cutoff_V(l, m), 0.0)**2) # u が下端のときの w
# V が J_l の零点より小さければ w は 0 まで到達しうる
w_lo = 1e-9 if V < j_l else np.sqrt(V**2 - (j_l * (1 - 1e-9))**2)
ws = np.logspace(np.log10(w_lo), np.log10(w_hi), 800) # 対数格子で微小wも解像
vals = lp_char(ws, V, l)
sgn = np.where(vals[:-1] * vals[1:] < 0)[0] # 符号反転を探す
if len(sgn) == 0:
return None
w = brentq(lp_char, ws[sgn[0]], ws[sgn[0] + 1], args=(V, l))
return np.sqrt(V**2 - w**2), w, w**2 / V**2 # b = w^2/V^2
# 代表的なVでの LP01 を確認
for V in [1.5, 1.951, 2.308, 2.405, 3.0, 8.0]:
u, w, b = solve_lp(V, 0, 1)
print(f"V={V:5.3f} u={u:.4f} w={w:.4f} b={b:.4f}")
import numpy as np
import matplotlib, matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
modes = [(0, 1, "LP01"), (1, 1, "LP11"), (2, 1, "LP21"),
(0, 2, "LP02"), (3, 1, "LP31"), (1, 2, "LP12")]
Vs = np.linspace(0.8, 9.0, 300)
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
for l, m, name in modes:
bs = []
for V in Vs:
r = solve_lp(V, l, m)
bs.append(np.nan if r is None else r[2])
plt.plot(Vs, bs, lw=2, label=f"{name}(カットオフ V={cutoff_V(l, m):.3f})")
plt.axvline(2.405, color="crimson", ls="--", lw=1.5)
plt.text(2.45, 0.05, "V=2.405\nここより左はシングルモード", color="crimson", fontsize=10)
plt.xlabel("規格化周波数 V")
plt.ylabel("規格化伝搬定数 b(0=カットオフ, 1=完全閉じ込め)")
plt.title("ステップ型光ファイバーのモード分散曲線")
plt.legend(fontsize=9); plt.grid(alpha=0.3); plt.ylim(0, 1); plt.xlim(0, 9)
plt.tight_layout(); plt.show()
Pythonでモード強度分布を可視化する
import numpy as np
from scipy.special import jv, kv
def lp_field(V, l, m, R, PHI, a=1.0):
"""LP_{lm} モードの規格化された場 psi(r, phi) を2次元格子上で返す"""
r = solve_lp(V, l, m)
if r is None:
return None
u, w, _ = r
core = jv(l, u * R / a) # r<a: ベッセル J_l
B = jv(l, u) / kv(l, w) # r=a で連続になる係数
clad = B * kv(l, np.clip(w * R / a, 1e-6, 60)) # r>a: 変形ベッセル K_l
psi = np.where(R <= a, core, clad)
return psi * np.cos(l * PHI)
# 極座標格子(半径3aまで)
rr = np.linspace(1e-4, 3.0, 400)
pp = np.linspace(0, 2 * np.pi, 400)
R, PHI = np.meshgrid(rr, pp)
X, Y = R * np.cos(PHI), R * np.sin(PHI)
np.clip を使っているのは、$K_l$ の引数が大きくなりすぎるとアンダーフローするためです。物理的には十分遠方でゼロと見なせる範囲です。import matplotlib.pyplot as plt
cases = [(1.5, [(0, 1)]), (2.4, [(0, 1)]), (8.0, [(0, 1), (1, 1), (2, 1), (0, 2)])]
n_panel = sum(len(c[1]) for c in cases)
fig, axes = plt.subplots(1, n_panel, figsize=(3.1 * n_panel, 3.6))
k = 0
for V, mlist in cases:
for (l, m) in mlist:
psi = lp_field(V, l, m, R, PHI)
ax = axes[k]; k += 1
ax.pcolormesh(X, Y, psi**2, shading="gouraud", cmap="inferno")
th = np.linspace(0, 2 * np.pi, 200)
ax.plot(np.cos(th), np.sin(th), "w--", lw=1.2) # コア境界 r=a
ax.set_title(f"V={V} LP{l}{m}", fontsize=11)
ax.set_aspect("equal"); ax.set_xticks([]); ax.set_yticks([])
axes[0].set_ylabel("強度分布(白破線=コア境界)")
plt.suptitle("Vパラメータとモード強度分布(白破線の内側がコア)")
plt.tight_layout(); plt.show()

Pythonでカットオフ波長とMFDを計算する
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 標準的なシングルモードファイバー(G.652相当)のパラメータ
a = 4.1e-6 # コア半径 [m]
n1, n2 = 1.4682, 1.4635
NA = np.sqrt(n1**2 - n2**2)
Delta = (n1**2 - n2**2) / (2 * n1**2)
print(f"NA = {NA:.5f}, Delta = {Delta*100:.3f} %")
def V_of(lam):
return 2 * np.pi * a / lam * NA
lam_c = 2 * np.pi * a * NA / 2.405 # カットオフ波長
print(f"カットオフ波長 = {lam_c*1e9:.1f} nm")
for lam_nm in [850, 1260, 1310, 1550, 1625]:
V = V_of(lam_nm * 1e-9)
n_mode = sum(1 for l in range(6) for m in range(1, 5)
if cutoff_V(l, m) < V) # 導波されるLPモードの本数
print(f"{lam_nm} nm : V = {V:.3f} LPモード数 = {n_mode}")
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def mfd_radius_over_a(V):
"""マーカスの経験式(0.8 <= V <= 2.8 で有効)"""
return 0.65 + 1.619 * V**-1.5 + 2.879 * V**-6
lams = np.linspace(1.2e-6, 1.7e-6, 300)
Vs = V_of(lams)
mfd = 2 * mfd_radius_over_a(Vs) * a * 1e6 # MFD [um]
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(lams * 1e9, mfd, lw=2, label="MFD(マーカス近似)")
plt.axhline(2 * a * 1e6, color="gray", ls=":", label=f"コア直径 {2*a*1e6:.1f} µm")
for lam_nm, spec in [(1310, 9.2), (1550, 10.4)]:
plt.plot(lam_nm, spec, "o", ms=9, label=f"カタログ値 {spec} µm @{lam_nm} nm")
print(f"{lam_nm} nm : V={V_of(lam_nm*1e-9):.3f} "
f"MFD={2*mfd_radius_over_a(V_of(lam_nm*1e-9))*a*1e6:.2f} µm")
plt.xlabel("波長 [nm]"); plt.ylabel("モードフィールド径 MFD [µm]")
plt.title("モードフィールド径の波長依存性(コアより太く、長波長ほど広がる)")
plt.legend(); plt.grid(alpha=0.3); plt.tight_layout(); plt.show()
Pythonで接続損失を評価する
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def splice_loss_db(w1, w2):
"""MFD不一致による接続損失 [dB](軸ずれなし、ガウス近似)"""
return -20 * np.log10(2 * w1 * w2 / (w1**2 + w2**2))
ratios = np.linspace(0.4, 2.5, 400)
loss = splice_loss_db(1.0, ratios)
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(ratios, loss, lw=2, label="MFD不一致による損失")
for r in [1.1, 1.2, 1.5, 2.0]:
plt.plot(r, splice_loss_db(1.0, r), "o")
plt.annotate(f"比{r}: {splice_loss_db(1.0, r):.2f} dB",
(r, splice_loss_db(1.0, r)), textcoords="offset points",
xytext=(6, 8), fontsize=9)
plt.axhline(0.1, color="gray", ls=":", label="実用上の目安 0.1 dB")
plt.xlabel("モードフィールド径の比 $w_2/w_1$")
plt.ylabel("接続損失 [dB]")
plt.title("モードフィールド径の不一致と接続損失(軸ずれなしの理想接続)")
plt.legend(); plt.grid(alpha=0.3); plt.tight_layout(); plt.show()
# 実例
print(f"9.27µm vs 10.4µm : {splice_loss_db(9.27, 10.4):.3f} dB")
print(f"9.2µm vs 4.0µm : {splice_loss_db(9.2, 4.0):.3f} dB")
まとめ