スマートフォンのケースをそっと開けてみると、内部に小さな金属片が貼り付いているのが見えることがあります。あのシンプルな金属片こそ、世界中の無線機器に搭載されているモノポールアンテナ(またはそれを変形した形式)の正体です。カーナビのルーフアンテナ、Wi-Fiルータの外付けアンテナ棒、電車の中の携帯基地局 — すべてに共通する基本原理があります。
なぜこれほど普及しているのでしょうか。答えは「半波長ダイポールが長すぎる問題を、グランドプレーンを使って半分の長さで解決する」という巧妙なトリックにあります。たとえば 2.4 GHz の Wi-Fi では、半波長ダイポールは約 6.2 cm になります。しかし λ/4 モノポールなら半分の約 3.1 cm で済み、基板や筐体に収めやすくなります。それだけではありません。グランドプレーンを使って放射を上半球に集中させることで、利得をダイポールより +3 dB 改善するというボーナスまで得られます。
モノポールアンテナを理解すると、次のような分野に直結します。
- 携帯端末・IoT 設計: スマートフォンの内蔵アンテナ、Wi-Fi モジュールのパターンアンテナは、モノポールの縮小・変形形態です。グランドプレーンの大きさと形状がそのまま性能に効きます
- 車載・船舶・航空通信: 車体や機体・海面という大きな導体をグランドプレーンとして活用し、電波を効率よく放射する設計に、鏡像原理の深い理解が不可欠です
本記事の内容
- ダイポールアンテナとモノポールアンテナの本質的な違い
- 完全導体グランド面が「鏡像」を作る仕組みの厳密な理解
- λ/4 モノポールが λ/2 ダイポールと等価になる導出(上半空間の放射)
- 入力インピーダンスが 36.5 Ω になる理由(ダイポール73Ωの半分)
- 指向性利得が +3 dB になる理由の導出
- グランドプレーンの有限サイズが放射パターンに与える影響
- Python による電流分布・放射パターン・インピーダンス・有限GNDの可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

概念図から、モノポールはダイポールの「上半分+グランドプレーン」として構成されていることがひと目で分かります。右側の破線で描かれた下向きの素子は実際には存在せず、グランドプレーンが電磁気的に「作り出す」仮想の鏡像です。給電点のインピーダンスがダイポールの 73 Ω に対してモノポールは 36.5 Ω となっていることも、既にこの図に示されています。
ダイポールとモノポール — 何が違うのか
ダイポールアンテナ は、給電点を中心に上下対称に伸びる 2 本の素子から構成され、全長 λ/2 のときに共振します。放射パターンは全球にわたる「ドーナツ型」で、指向性利得は約 2.15 dBi です。
モノポールアンテナはこのダイポールを「垂直に立てて下半分を切り取り、切り口に完全導体の面(グランドプレーン)を置き換えた」ものです。素子の長さは λ/4 となります。
一見、半分しか使っていないのに損な設計に思えます。ところがグランドプレーンが電磁気的に「下半分」の役割を担ってくれるため、放射特性の多くがダイポールと等価になります。さらにダイポールでは上下に分散していた放射エネルギーが、グランドプレーンによって上半球だけに集中されるため、単位立体角あたりのエネルギーが倍になる — これが利得+3dBの直感です。
この「グランドプレーンが下半分を代替する」仕組みを厳密に説明するのが鏡像原理(image theory)です。次のセクションで掘り下げましょう。
鏡像原理 — 完全導体面が「下半分」を作る
完全導体面の境界条件
完全導体(理想的な金属)の表面では、電界の接線成分がゼロでなければなりません。これはマクスウェル方程式から導かれる境界条件です。
$$ \bm{E}_{\text{tan}}\big|_{\text{surface}} = 0 $$
直感的には「完全導体の中には電界が侵入できないので、表面に接線方向の電界が残ることはできない」と言えます。
鏡像電荷・鏡像電流の登場
点電荷 $+q$ が完全導体平面から高さ $h$ の位置にあるとき、この境界条件を満たす解は次の方法で構成できます。
「完全導体面を除いて、平面の反対側に $-q$ の鏡像電荷(image charge)が高さ $h$ に存在するとしたとき、平面上での電界の接線成分がゼロになる」
これが鏡像の原理です。元の電荷と鏡像電荷が平面上で作る電界の接線成分が打ち消し合うのです。
電流に対しても同様の議論が成立します。グランドプレーン面($z = 0$)に垂直な方向($z$ 軸)の電流 $I(z)$ に対して、鏡像は同じ $z = -|z|$ の位置に同方向の電流が流れる鏡像電流として現れます(電荷の鏡像とは異なり、電流は符号が反転しません — 電流はベクトルで、鏡像でも同じ $z$ 方向を向くからです)。

この図で重要な点は、グランドプレーン以下に描かれた破線の鏡像は物理的には存在しないということです。完全導体面が境界条件を満たすための「数学的な等価表現」として機能します。グランドプレーン以上の空間(上半球)では、モノポール+鏡像の組み合わせが作る電磁界は、全長 λ/2 のダイポールが作る電磁界と完全に一致します。
等価性のまとめ
鏡像原理から以下のことが言えます。
- グランドプレーン上方($z > 0$)の空間では、モノポール(長さ λ/4)の放射は λ/2 ダイポールの放射と完全に等価
- グランドプレーン下方($z < 0$)には放射が存在しない(完全導体面の向こう側には電磁波が届かない)
- したがってモノポールの放射は上半球だけに限定され、同じ放射電力でも半分の立体角に集中する
この等価性が分かれば、入力インピーダンスや指向性の関係も自然に導けます。次はその導出を追います。
λ/4 モノポールと λ/2 ダイポールの等価性
電流分布の比較
ダイポールの電流分布は、ダイポールアンテナの記事 で示したように、両端でゼロになる正弦波状です。
$$ I_{\text{dip}}(z) = I_0 \cos(kz), \quad |z| \leq \frac{\lambda}{4} $$
モノポールでは、グランドプレーン($z = 0$)が電気的な「短絡点」として機能し、素子の先端($z = \lambda/4$)で電流がゼロになります。これはダイポールの上半分と全く同じ境界条件です。
$$ I_{\text{mono}}(z) = I_0 \cos(kz), \quad 0 \leq z \leq \frac{\lambda}{4} $$
鏡像原理により、グランドプレーン下方には同じ電流分布の鏡像電流が生じます。結果として $z \in [-\lambda/4, \lambda/4]$ の範囲でダイポールと全く同じ電流分布が完成します。

左パネルはダイポールの電流分布で、給電点 $z=0$ で最大となり上下対称に先端へ向かって正弦波状に減衰しています。右パネルはモノポールで、グランドプレーン($z=0$)から上向きに素子が伸びており、上半分は完全にダイポールと一致します。破線の鏡像電流は実際には存在しませんが、グランドプレーンが電磁気的に「見せかける」ダイポールの下半分です。
遠方界の等価性
鏡像原理により、グランドプレーン上方の遠方界は λ/2 ダイポールの遠方界と同じです。
$$ E_\theta^{\text{mono}} = E_\theta^{\text{dip}} = \frac{j\eta_0 I_0}{2\pi r} e^{-jkr} \cdot \frac{\cos\!\left(\dfrac{\pi}{2}\cos\theta\right)}{\sin\theta}, \quad 0 \leq \theta \leq \frac{\pi}{2} $$
ここで $\theta = 0$ が鉛直上方、$\theta = \pi/2$ がグランドプレーン面(水平方向)です。グランドプレーン以下($\pi/2 < \theta \leq \pi$)では電界はゼロです。
放射パターンを確認しましょう。

橙色の点線がダイポール(全球)、緑色の実線がモノポール(上半球)です。グランドプレーン面(水平方向 = 90°)で電界が最大になり、上方に向かうにつれて減衰します。グランドプレーンの下半球(灰色の領域)にはモノポールからの放射は届きません。上半球で見れば、モノポールとダイポールのパターン形状は完全に一致しています。
電流分布と遠方界の等価性が確認できました。次はここから入力インピーダンスと利得がどう変わるかを導きます。
入力インピーダンス — なぜダイポールの半分になるか
放射電力の比較
全放射電力を計算します。モノポールはグランドプレーン上方のみに放射するため、積分範囲が変わります。
ダイポールの全放射電力は全球積分です。
$$ P_{\text{dip}} = \int_0^{2\pi}\int_0^{\pi} \frac{|E_\theta|^2}{2\eta_0} r^2 \sin\theta \, d\theta \, d\phi = \frac{\eta_0 |I_0|^2}{4\pi} \int_0^{\pi} \frac{\cos^2\!\left(\frac{\pi}{2}\cos\theta\right)}{\sin\theta} d\theta $$
ダイポールの記事で示した通り、この積分は数値的に約 1.2188 となり、放射抵抗 $R_{r,\text{dip}} \approx 73.1 \; \Omega$ が得られます。
モノポールは上半球のみに放射します。ここが決定的な違いです。
$$ P_{\text{mono}} = \int_0^{2\pi}\int_0^{\pi/2} \frac{|E_\theta|^2}{2\eta_0} r^2 \sin\theta \, d\theta \, d\phi = \frac{\eta_0 |I_0|^2}{4\pi} \int_0^{\pi/2} \frac{\cos^2\!\left(\frac{\pi}{2}\cos\theta\right)}{\sin\theta} d\theta $$
上半球の積分は、被積分関数が $\theta = \pi/2$ に対称なため、ちょうど全球積分の半分になります。
$$ \int_0^{\pi/2} \frac{\cos^2\!\left(\frac{\pi}{2}\cos\theta\right)}{\sin\theta} d\theta = \frac{1}{2} \int_0^{\pi} \frac{\cos^2\!\left(\frac{\pi}{2}\cos\theta\right)}{\sin\theta} d\theta \approx \frac{1.2188}{2} = 0.6094 $$
したがって、
$$ P_{\text{mono}} = \frac{1}{2} P_{\text{dip}} $$
放射抵抗が半分になる理由
放射抵抗 $R_r$ は、放射電力を給電点電流の二乗で割ったものです。
$$ P = \frac{1}{2} |I_0|^2 R_r \quad \Rightarrow \quad R_r = \frac{2P}{|I_0|^2} $$
ここで重要なのは、モノポールの給電点電流 $I_0$ はダイポールと同じということです。モノポールの給電点(グランドプレーン面)での電流は、ダイポールの中央給電点の電流と等しく $I_0$ です。
したがって、
$$ R_{r,\text{mono}} = \frac{2 P_{\text{mono}}}{|I_0|^2} = \frac{2 \cdot \frac{1}{2} P_{\text{dip}}}{|I_0|^2} = \frac{P_{\text{dip}}}{|I_0|^2} = \frac{1}{2} R_{r,\text{dip}} $$
$$ \boxed{R_{r,\text{mono}} = \frac{R_{r,\text{dip}}}{2} \approx \frac{73.1}{2} \approx 36.5 \; \Omega} $$
電圧・電流・電力の関係で直感的に理解する
もう少し直感的な説明も加えておきましょう。「電圧が同じ、電流が同じなのに電力が半分」というのは矛盾しているように聞こえます。しかし回路として考えると納得できます。
ダイポールは給電点の上下両側に素子があり、電流が上下両方に流れます。一方モノポールは給電点から上向きにしか素子がなく、電流は上向きの素子にのみ流れます。見かけ上は同じ電流 $I_0$ が流れていますが、その電流が作用する素子の長さ(したがって放射に寄与する電荷変位)はダイポールの半分です。放射電力が半分になるのは、この「作用距離の半分化」によるものです。
等価回路として見れば、モノポールの入力インピーダンスはダイポールの半分の抵抗と同じ構造になります。これが $R_{r,\text{mono}} \approx 36.5 \; \Omega$ という数値の本質です。

左パネルの棒グラフで、36.5 Ω と 50 Ω の差(13.5 Ω)が一目瞭然です。この残差のリアクタンス分は実際のアンテナでは整合回路で補正します。右パネルは等価回路で、「電圧 $V_0$・電流 $I_0$ が同じでも、放射に寄与する素子は上半分だけ(= 半分の長さ)」という構造的な理由が分かります。
ここまでで入力インピーダンスの由来が分かりました。次は「エネルギーが上半球に集中する」ことによる指向性利得の上昇を定量的に導きましょう。
指向性利得 — 上半球集中で +3 dB
指向性の定義
指向性 $D$ は次のように定義されます。
$$ D = \frac{4\pi U_{\max}}{P_{\text{rad}}} $$
ここで $U_{\max}$ は最大放射強度(W/sr)、$P_{\text{rad}}$ は全放射電力です。
ダイポールの指向性
ダイポールアンテナの記事 で示した通り、λ/2 ダイポールの最大放射強度は $\theta = 90°$(水平方向)で生じ、
$$ U_{\max}^{\text{dip}} = \frac{\eta_0 |I_0|^2}{8\pi^2} $$
全放射電力は $P_{\text{dip}} = \frac{\eta_0 |I_0|^2}{4\pi} \times 1.2188$ なので、
$$ D_{\text{dip}} = \frac{4\pi \cdot \frac{\eta_0 |I_0|^2}{8\pi^2}}{\frac{\eta_0 |I_0|^2}{4\pi} \cdot 1.2188} = \frac{2}{1.2188} \approx 1.641 \quad (2.15 \; \text{dBi}) $$
モノポールの指向性
モノポールの最大放射強度は $\theta = 90°$(グランドプレーン面に平行な方向)で、ダイポールと同じ値です。
$$ U_{\max}^{\text{mono}} = U_{\max}^{\text{dip}} = \frac{\eta_0 |I_0|^2}{8\pi^2} $$
しかし全放射電力はダイポールの半分です。$P_{\text{mono}} = P_{\text{dip}} / 2$ を代入すると、
$$ D_{\text{mono}} = \frac{4\pi \cdot \frac{\eta_0 |I_0|^2}{8\pi^2}}{\frac{1}{2} \cdot \frac{\eta_0 |I_0|^2}{4\pi} \cdot 1.2188} = 2 \times \frac{2}{1.2188} \approx 3.282 \quad (5.16 \; \text{dBi}) $$
$$ \boxed{D_{\text{mono}} = 2 \times D_{\text{dip}} \approx 3.28 \quad (5.16 \; \text{dBi})} $$
+3 dB の物理的な意味
dBの差を計算すると、
$$ \Delta D = 10\log_{10}\!\left(\frac{D_{\text{mono}}}{D_{\text{dip}}}\right) = 10\log_{10}(2) \approx 3.01 \; \text{dB} $$
これは「同じ電力でダイポールより 2 倍の距離まで届く」ことを意味します。もしくは逆に「ダイポールと同じ通信距離を半分の電力で実現できる」とも言えます。この 3 dB の改善は、エネルギーの集中によって自動的に得られるものです。

左パネルのダイポールは上下に広がる「ドーナツ型」パターンを全球に放射しています(D=1.64, 2.15 dBi)。右パネルのモノポールでは、グランドプレーン(水平線)以下への放射がゼロとなり、同じエネルギーが上半球に押し込められています。パターンの形は同じですが、単位立体角あたりのエネルギー密度が 2 倍になるため D=3.28(5.15 dBi)を達成しています。
指向性と入力インピーダンスの理論的な関係が分かりました。実際の設計では「グランドプレーンが無限に広くない」という現実への対処が不可欠です。次はその有限グランドの影響を見ます。
グランドプレーンの役割と有限サイズの影響
理想グランドプレーンとは
これまでの導出は無限に広い完全導体グランドプレーンを仮定していました。この条件下では鏡像原理が完全に成立し、放射は上半球だけに限定されます。
実際の設計では、グランドプレーンは有限サイズです。スマートフォンならプリント基板(数 cm 角)、自動車なら車体(1〜数 m)、基地局アンテナなら専用の反射板(数十 cm)が「グランドプレーン」の役割を果たします。
有限グランドによるパターンの「持ち上がり」
グランドプレーンが有限サイズになると、グランド端から電波が回折します。この回折波がグランドプレーン以下の空間($\theta > 90°$)にも漏れ出し、放射パターンに変化をもたらします。
主な影響は2点です。
- パターンの「持ち上がり」(tilt-up): 最大放射方向が水平(θ=90°)より上方に傾く。グランドが小さいほど持ち上がりが顕著
- 下半球への漏れ: グランドが小さいほど下方への不要放射が増え、実効的な利得が低下する
グランドプレーンが少なくとも λ/4 以上の半径を持てば、パターンの持ち上がりは 5〜10° 程度に抑えられます。λ 以上では無限グランドと実質的に変わらなくなります。

青色(無限GND)のパターンは完全に上半球だけに限定されていますが、GNDサイズが小さくなるにつれて最大放射方向が上方に傾き(橙色・赤色)、下半球への漏れが増加します。0.25λ × 0.25λ という極端に小さいGNDでは、パターンが大きく変形して利得が著しく低下します。実際の設計では少なくとも 0.5λ 以上のGNDサイズを確保することが推奨されます。
接地ラジアル線 — 大地を「擬似GND」にする
移動通信の基地局や車に搭載しない固定局のアンテナでは、グランドプレーンとしてラジアル線(radial wires)を使います。中心の給電点から放射状に、長さ λ/4 の導線を複数本(最低4本、理想は多いほど良い)水平に張ることで、有限面積の擬似グランドプレーンを作ります。
ラジアル線の本数 $N$ と放射パターンの間には次の経験則があります。
- $N = 4$ 本: 損失が大きく、パターンが不均一
- $N = 16$ 本: 一般的な実用レベル
- $N = 32〜64$ 本: 無限GNDに近い特性
- $N \to \infty$: 無限GNDと等価(理論的極限)
実際のアマチュア無線や船舶通信の垂直アンテナでは、λ/4 のラジアル線を 60〜120 本程度埋設することで高効率を実現します。

左パネルは上から見た配置図です。中心のモノポール素子(緑)から8本のラジアル線(灰色)が放射状に伸びており、それぞれの先端(橙点)が λ/4 の位置です。右パネルは側面図で、ラジアル線の群が作る「仮想GND面」(破線)の上方に放射が集中し、電流は上向きに流れる様子が示されています。4本以上のラジアルがあれば方位角方向のパターンはほぼ均一(全方向性)になります。
グランドプレーンの物理的な仕組みが分かったところで、放射抵抗の数値を Python で厳密に検証し、本文の主張と一致することを確かめましょう。
Python による理論検証と可視化
ここでは鏡像原理・電流分布・インピーダンス・放射パターン・有限GNDをPythonで実装し、本文で導出した数値(36.5 Ω・+3 dB 等)が再現されることを確認します。
放射抵抗の数値計算
まず放射抵抗の数値を厳密に求め、36.5 Ω という値を確認します。
import numpy as np
from scipy import integrate
eta0 = 120 * np.pi # 自由空間波動インピーダンス [Ω]
def integrand_Prad(theta):
"""放射電力の被積分関数: cos²(π/2 cosθ)/sinθ"""
if np.abs(np.sin(theta)) < 1e-10:
return 0.0
return np.cos(np.pi / 2 * np.cos(theta))**2 / np.sin(theta)
# ダイポール: 0 〜 π の全球積分
result_dip, _ = integrate.quad(integrand_Prad, 1e-9, np.pi - 1e-9)
Rr_dip = eta0 * result_dip / (2 * np.pi)
# モノポール: 0 〜 π/2 の上半球積分 (鏡像原理により下半球は除外)
result_mono, _ = integrate.quad(integrand_Prad, 1e-9, np.pi / 2 - 1e-9)
Rr_mono = eta0 * result_mono / (2 * np.pi)
# 指向性 D = 2 / 積分値
D_dip = 2 / result_dip
D_mono = 2 / result_mono
print(f"ダイポール 放射抵抗: {Rr_dip:.2f} Ω, 指向性: {D_dip:.4f} ({10*np.log10(D_dip):.2f} dBi)")
print(f"モノポール 放射抵抗: {Rr_mono:.2f} Ω, 指向性: {D_mono:.4f} ({10*np.log10(D_mono):.2f} dBi)")
print(f"放射抵抗の比: {Rr_dip / Rr_mono:.4f} (理論値: 2.000)")
print(f"指向性の比: {D_mono / D_dip:.4f} (理論値: 2.000 = +3.01 dB)")
実行結果:
ダイポール 放射抵抗: 73.13 Ω, 指向性: 1.6409 (2.15 dBi)
モノポール 放射抵抗: 36.56 Ω, 指向性: 3.2818 (5.16 dBi)
放射抵抗の比: 2.0000 (理論値: 2.000)
指向性の比: 2.0000 (理論値: 2.000 = +3.01 dB)
計算結果はダイポール 73.13 Ω とモノポール 36.56 Ω の比が 2.0000 と、理論値 2 を数値誤差以下の精度で再現しています。指向性についても比が 2.0000(= +3.01 dB)と確認できました。上半球積分が下半球積分とちょうど等しいことが、被積分関数の対称性から保証されています。

左パネルは放射電力の被積分関数のグラフです。θ=90° を挟んで上半球(緑)と下半球(橙)の面積が正確に等しく(各 0.6094)、全球積分がちょうどその 2 倍(1.2188)になることが確認できます。右パネルは放射抵抗の棒グラフで、73.13 Ω と 36.56 Ω の比が 2.000 と表示されており、理論の予測と完全に一致しています。
電流分布の可視化
λ/4 モノポールの電流分布と、鏡像電流がどのように現れるかを可視化します。
import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
BG, FG, CYAN, AMBER, RED, GREEN, GRAY = (
"#0d1117", "#e6edf3", "#39c5cf", "#f0a500", "#ff6b6b", "#7ee787", "#484f58"
)
lam = 1.0
k = 2 * np.pi / lam
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(10, 6), facecolor=BG)
# --- λ/2 ダイポール ---
ax = axes[0]
ax.set_facecolor(BG)
z_dip = np.linspace(-lam/4, lam/4, 500)
I_dip = np.cos(k * z_dip)
ax.fill_betweenx(z_dip / lam, 0, I_dip, color=AMBER, alpha=0.35)
ax.plot(I_dip, z_dip / lam, color=AMBER, linewidth=2.5)
ax.axvline(0, color=GRAY, linewidth=0.8, linestyle='--')
ax.plot(0, 0, 'o', color=RED, markersize=8, zorder=5)
ax.set_xlabel(r"電流 $I(z)/I_0$")
ax.set_ylabel(r"高さ $z/\lambda$")
ax.set_title("半波長ダイポール", color=AMBER)
ax.grid(True, color=GRAY, alpha=0.3)
# --- λ/4 モノポール ---
ax = axes[1]
ax.set_facecolor(BG)
z_mono = np.linspace(0, lam/4, 500)
I_mono = np.cos(k * z_mono) # 実素子: z >= 0
ax.fill_betweenx(z_mono / lam, 0, I_mono, color=GREEN, alpha=0.35)
ax.plot(I_mono, z_mono / lam, color=GREEN, linewidth=2.5, label='実素子')
# 鏡像電流 (実際には存在しない)
z_img = np.linspace(-lam/4, 0, 500)
I_img = np.cos(k * np.abs(z_img))
ax.fill_betweenx(z_img / lam, 0, I_img, color=GREEN, alpha=0.12)
ax.plot(I_img, z_img / lam, color=GREEN, linewidth=1.5, linestyle='--', alpha=0.5, label='鏡像電流')
ax.axhline(0, color=FG, linewidth=2, alpha=0.8) # GND面
ax.fill_between([-0.2, 1.3], [-0.3, -0.3], [0, 0], color=GRAY, alpha=0.2)
ax.plot(0, 0, 'o', color=RED, markersize=8, zorder=5)
ax.legend(facecolor=BG, edgecolor=GRAY, labelcolor=FG)
ax.set_xlabel(r"電流 $I(z)/I_0$")
ax.set_ylabel(r"高さ $z/\lambda$")
ax.set_title(r"$\lambda/4$ モノポール", color=GREEN)
ax.grid(True, color=GRAY, alpha=0.3)
fig.suptitle("電流分布の比較", color=FG)
plt.tight_layout()
plt.savefig("/tmp/current_dist.png", dpi=150, bbox_inches='tight', facecolor=BG)
plt.close()
print("電流分布の図を保存しました")
グラフを見ると、ダイポールの電流分布(橙色)は給電点 $z=0$ で最大($I_0$)となり、上下対称に先端に向かって $\cos(kz)$ で滑らかに減衰していきます。モノポール(緑色の実線)は $z \geq 0$ の上半分だけが「実際の素子」で、その電流分布はダイポール上半分と完全に一致します。破線の鏡像電流はグランドプレーンが「見せかける」仮想の電流であり、これが鏡像原理の本質です。
放射パターンの可視化と比較
极座標でモノポールとダイポールの放射パターンを比較します。
import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
BG, FG, CYAN, AMBER, GREEN, GRAY = (
"#0d1117", "#e6edf3", "#39c5cf", "#f0a500", "#7ee787", "#484f58"
)
theta = np.linspace(0, np.pi, 1000)
# λ/2 ダイポール (全球)
F_dip = np.abs(np.cos(np.pi/2 * np.cos(theta)) / (np.sin(theta) + 1e-12))
F_dip /= F_dip.max()
# λ/4 モノポール (上半球のみ)
F_mono = np.zeros_like(theta)
mask = theta <= np.pi / 2
F_mono[mask] = F_dip[mask] # 上半球はダイポールと同じ形状
# 下半球はゼロ (グランドプレーン以下)
# 全周に対称拡張
theta_full = np.concatenate([theta, 2*np.pi - theta[::-1]])
F_dip_full = np.concatenate([F_dip, F_dip[::-1]])
F_mono_full = np.concatenate([F_mono, F_mono[::-1]])
fig = plt.figure(figsize=(8, 6), facecolor=BG)
ax = fig.add_subplot(111, projection='polar', facecolor=BG)
ax.plot(theta_full, F_dip_full, color=AMBER, linewidth=2, linestyle='--', label='半波長ダイポール')
ax.plot(theta_full, F_mono_full, color=GREEN, linewidth=2.5, label='λ/4 モノポール')
ax.set_theta_zero_location("N")
ax.set_theta_direction(-1)
ax.set_title("放射パターン比較 (正規化電力)", color=FG, pad=20)
ax.legend(loc='lower right', facecolor=BG, edgecolor=GRAY, labelcolor=FG)
plt.tight_layout()
plt.savefig("/tmp/pattern_compare.png", dpi=150, bbox_inches='tight', facecolor=BG)
plt.close()
print("放射パターン図を保存しました")
放射パターンのグラフから、モノポール(緑)はグランドプレーン面(θ=90°)で最大となり、それ以下の方向(θ>90°)への放射がゼロになっていることが確認できます。ダイポール(橙点線)と上半球でのパターン形状が完全に一致しており、鏡像原理による等価性が視覚的に明快に示されています。
インピーダンスの周波数特性
モノポールの入力インピーダンスが周波数に対してどう変化するかを可視化します。共振周波数 $f_0$(素子長がちょうど λ/4 になる周波数)で X=0 となり、抵抗分が 36.5 Ω に近くなります。
import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
BG, FG, AMBER, GREEN, RED, CYAN, GRAY = (
"#0d1117", "#e6edf3", "#f0a500", "#7ee787", "#ff6b6b", "#39c5cf", "#484f58"
)
# 正規化周波数 f/f0
f_ratio = np.linspace(0.5, 2.0, 500)
# 放射抵抗の近似周波数依存性
Rr_f = 36.5 * np.abs(np.cos(np.pi / 2 * f_ratio))**0.5
# リアクタンスの近似 (共振近傍でのタンジェント近似)
X_f = 21.25 * np.tan(np.pi / 2 * (f_ratio - 1))
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(11, 5), facecolor=BG)
for ax in axes:
ax.set_facecolor(BG)
ax.tick_params(colors=FG)
for sp in ax.spines.values():
sp.set_edgecolor(GRAY)
# 抵抗分
ax = axes[0]
ax.plot(f_ratio, Rr_f, color=GREEN, linewidth=2)
ax.axhline(36.5, color=GRAY, linewidth=1, linestyle=':', alpha=0.7)
ax.axvline(1.0, color=RED, linewidth=1.5, linestyle='--', alpha=0.8)
ax.text(1.02, 40, "共振点 $f_0$", color=RED, fontsize=9)
ax.set_xlabel(r"正規化周波数 $f/f_0$", color=FG)
ax.set_ylabel("抵抗分 R [Ω]", color=FG)
ax.set_title("入力抵抗の周波数特性", color=FG)
ax.grid(True, color=GRAY, alpha=0.3)
# リアクタンス分
ax = axes[1]
ax.plot(f_ratio, X_f, color=AMBER, linewidth=2)
ax.axhline(0, color=FG, linewidth=1, alpha=0.5)
ax.axvline(1.0, color=RED, linewidth=1.5, linestyle='--', alpha=0.8)
ax.fill_between(f_ratio, X_f, 0, where=(X_f < 0), color=CYAN, alpha=0.2, label='容量性')
ax.fill_between(f_ratio, X_f, 0, where=(X_f >= 0), color=AMBER, alpha=0.2, label='誘導性')
ax.set_xlabel(r"正規化周波数 $f/f_0$", color=FG)
ax.set_ylabel("リアクタンス X [Ω]", color=FG)
ax.set_title("リアクタンスの周波数特性", color=FG)
ax.legend(facecolor=BG, edgecolor=GRAY, labelcolor=FG)
ax.grid(True, color=GRAY, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig("/tmp/impedance_freq.png", dpi=150, bbox_inches='tight', facecolor=BG)
plt.close()
print("インピーダンス周波数特性図を保存しました")

左パネルの抵抗分は共振周波数 $f_0$ で約 36.5 Ω となり、右パネルのリアクタンスは $f_0$ でゼロを横断します(電気的共振の定義そのものです)。$f < f_0$ では素子が電気的に「短すぎる」ため容量性(青)、$f > f_0$ では「長すぎる」ため誘導性(橙)になります。実際の設計では、整合回路を使って共振周波数でのリアクタンスゼロを確保し、VSWR が 2 以下になるように帯域を設定します。
モノポールアンテナの実用例と設計指針
理論を学んだところで、現実の設計で λ/4 モノポールがどのように応用されているか具体的に見てみましょう。

各分野での具体的な応用を整理します。
スマートフォン内蔵アンテナでは、プリント基板そのものがグランドプレーンになります。周波数は 0.7〜2.6 GHz と広帯域にまたがるため、λ/4 モノポールをベースに PIFA(Planar Inverted-F Antenna)や折り返し構造で短縮・広帯域化するのが一般的です。
車載アンテナでは、ルーフやトランクリッドに搭載し、金属製の車体がほぼ無限の GND として機能します。AM/FM ラジオ(0.5〜108 MHz)に必要な λ/4 の長さは最大 150 m にも達するため、ローディングコイルで電気長を延長した短縮型が使われます。
Wi-Fi ルータの外付けアンテナは 2.4 GHz 対応なら λ/4 ≈ 3.1 cm、5 GHz 対応なら λ/4 ≈ 1.5 cm です。プラスチックケースの中に金属素子が入っており、基板と接続された金属シールドがGND面を形成します。
基地局アンテナでは、λ/4 モノポールを垂直に並べた「コリニアアレイ」が定番です。同位相で電流を給電した複数素子を積み重ねることで、放射が水平面に集中し利得が +6 dBi 程度まで向上します。
設計の要点チェックリスト
モノポールアンテナを設計する際の基本チェックポイントをまとめます。
素子長: $L = \lambda/4 = c/(4f)$。空気中では光速 $c = 3 \times 10^8$ m/s。プリント基板などの誘電体上では比誘電率 $\varepsilon_r$ を考慮し $L = c/(4f\sqrt{\varepsilon_r})$ で短縮されます。
グランドプレーンのサイズ: 少なくとも λ/4 の半径(直径 λ/2)を確保する。大きいほどパターンが水平に近づき、理論値 36.5 Ω に収束します。
給電インピーダンスの整合: 共振時の理論値は 36.5 Ω(純抵抗)。50 Ω システムとの整合には L 型マッチング回路や λ/4 変成器が有効です。整合損失を加味した実効利得を確認すること。
ラジアル線(接地無し設置の場合): 最低 4 本、できれば 16 本以上。長さは λ/4。水平面または地中埋設のどちらも有効です。
まとめ
本記事では、λ/4 モノポールアンテナの原理を、鏡像原理からスタートして入力インピーダンスと指向性利得まで一貫して導出しました。
- 鏡像原理: 完全導体グランドプレーンは「下半分のダイポール」を電磁気的に作り出す。グランドプレーン以上の空間では、モノポールの電磁界は λ/2 ダイポールと完全に等価
- 入力インピーダンス: 給電点電流は同じ $I_0$ でも、上半球のみの積分により放射電力が半分になるため、放射抵抗は 36.5 Ω(ダイポール 73 Ω の半分)
- 指向性利得 +3 dB: 同じエネルギーを上半球(半球 = 全球の半分の立体角)に集中させることで、指向性は 3.28(5.16 dBi)= ダイポールの 2 倍。これは「+3 dB 相当の無料のゲイン」
- 有限グランドの影響: GND サイズが λ/4 を下回るとパターンが上向きに傾き、下半球への漏れが増加。少なくとも λ/4 半径の GND を確保することが基本設計指針
- Python 検証: 放射抵抗の比 2.0000(理論値 2.000)と指向性の比 2.0000(理論値 2.000 = +3.01 dB)を数値誤差以下の精度で再現した
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。