マイクロストリップ線路の特性インピーダンスと実効誘電率の理論と導出と実装

スマートフォンの基板を顕微鏡で覗くと、緑色の樹脂の上に細い金色の銅箔パターンが無数に走っているのが見えます。Wi-Fi モジュールやアンテナへ高周波信号を運ぶこれらの細い線は、ただの「配線」ではありません。2.4 GHz や 5 GHz といったマイクロ波帯では、配線そのものが伝送線路として振る舞い、その線幅をほんの数十ミクロン間違えるだけで、信号は反射されて受信機まで届かなくなります。基板設計の現場で「この線路は 50 Ω で引いてください」という指示が飛び交うのは、まさにこの理由からです。では、銅箔の線幅をいくつにすれば 50 Ω になるのでしょうか。その答えを与えるのが、本記事で扱うマイクロストリップ線路の理論です。

マイクロストリップ線路は、誘電体基板の表面に細い導体ストリップを置き、裏面全体を接地導体(グラウンドプレーン)とした、最も基本的なプリント伝送線路です。同軸ケーブルや導波管と違って平面構造で安価に大量生産でき、アンテナや能動素子と一体で作り込めるため、現代の高周波回路のほぼすべてがこの構造を使っています。その理論を理解すると、次のような場面で設計の見通しが一気に開けます。

  • RF 回路設計: 増幅器・ミキサ・フィルタを結ぶ線路を 50 Ω に整合させ、反射による利得低下や発振を防ぐ
  • マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ): 放射素子そのものがマイクロストリップであり、共振長と給電線の設計に実効誘電率が直結する
  • 高速ディジタル回路: DDR メモリや USB・PCIe の差動配線で、信号品質(SI)を保つための特性インピーダンス制御
  • 衛星・レーダーのフロントエンド: 軽量・低背が要求される搭載機器で、導波管に代わる集積化伝送路として

本記事の内容

  • マイクロストリップが「空気と基板にまたがる」ことから生じる準TEMモードの考え方
  • 実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ の物理的意味と導入
  • Wheeler / Hammerstad の閉形式式($W/h$ の場合分け)による特性インピーダンス $Z_0$ の導出
  • フリンジング容量・基板厚 $h$・比誘電率 $\varepsilon_r$ といった各係数の物理的意味
  • 目標 50 Ω を満たす線幅 $W$ の数値的な逆解き
  • 波長短縮率 $\lambda_g/\lambda_0$ と分散、表皮効果による導体損の周波数依存
  • Python による $Z_0$-$W/h$ 曲線・50 Ω 設計・損失の可視化

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

マイクロストリップ線路とは

構造のイメージ

まず構造を頭に描きましょう。厚さ $h$ の平らな誘電体基板(FR-4 やテフロン系の樹脂など、比誘電率 $\varepsilon_r$)を用意し、その上面に幅 $W$、厚さ $t$ の細い銅箔のストリップを 1 本走らせます。基板の下面全体は銅箔で覆われていて、これがグラウンド(接地導体)です。信号はストリップとグラウンドの間を「往復電流」として流れ、その周りに電界と磁界が分布します。

同軸ケーブルを思い出してください。同軸では中心導体を誘電体が同心円状に完全に取り囲んでいるため、電界は誘電体の中だけに閉じ込められていました。ところがマイクロストリップでは、ストリップの上は空気($\varepsilon_0$)、ストリップとグラウンドの間は基板($\varepsilon_r \varepsilon_0$)です。つまり電界の一部は基板の中を、別の一部は空気中を通るという、2 種類の誘電体にまたがった非対称な構造になっています。この「片側だけ誘電体」という事情が、マイクロストリップの理論を同軸ケーブルより一段やっかいにし、同時に面白くしている本質です。

なぜ「準TEM」なのか

同軸ケーブルや 2 本の平行線では、信号は純粋な TEM(横電磁界)モードで伝わります。TEM とは、電界も磁界も伝搬方向(線路に沿った方向、ここでは $z$ 方向)には成分を持たず、断面内($xy$ 平面)にだけ存在するモードのことです。TEM が成立すると、線路は静電容量 $C$ とインダクタンス $L$ という 2 つの分布定数だけで完全に記述でき、特性インピーダンスは $Z_0 = \sqrt{L/C}$、位相速度は $v_p = 1/\sqrt{LC}$ という、たいへん扱いやすい形になります。

ところがマイクロストリップでは、電界が空気と基板という波の伝わる速さの異なる 2 つの領域をまたぐため、厳密には伝搬方向にもわずかな電磁界成分が現れ、完全な TEM にはなりません。これを準TEM(quasi-TEM)モードと呼びます。しかし救いがあります。基板厚 $h$ が波長 $\lambda$ に比べて十分小さい(おおむね $h < \lambda/10$)周波数領域では、伝搬方向成分は無視できるほど小さく、線路は「ほぼ TEM」として扱えます。この近似のもとで静電的に容量とインダクタンスを計算する手法が準静的近似(quasi-static approximation)です。本記事の閉形式式は、すべてこの準静的近似に立脚しています。

準TEM近似を認めると、問題は「この非対称な構造の静電容量とインダクタンスをどう求めるか」に帰着します。そのために、まず空気と基板にまたがる電界を 1 つの等価な均一誘電体に置き換える「実効誘電率」という概念を導入しましょう。

実効誘電率という発想

2つの誘電体を1つにならす

マイクロストリップの面倒さは「電界が空気と基板にまたがる」ことにありました。そこで発想を逆転させます。もし線路全体が、ある単一の比誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ をもつ均一な誘電体で満たされていたとしたら、いまと同じ容量になるような $\varepsilon_{\text{eff}}$ はいくつか? と問うのです。この仮想的な比誘電率が実効誘電率(effective relative permittivity)$\varepsilon_{\text{eff}}$ です。

イメージとしては、コーヒーに少しずつミルクを混ぜていったときの「平均的な濃さ」に似ています。電界の一部は $\varepsilon_r$ の基板を、一部は $\varepsilon_0$(比誘電率 1)の空気を通るので、その重みつき平均のような値が実効誘電率になります。電界の大半は薄い基板側に集中するため、$\varepsilon_{\text{eff}}$ は空気の 1 よりは大きく、基板の $\varepsilon_r$ よりは小さい、ちょうど中間の値を取ります。

$$ 1 < \varepsilon_{\text{eff}} < \varepsilon_r $$

定量的に定義しましょう。実際のマイクロストリップ(空気+基板)の単位長さあたり容量を $C$、同じ寸法のまま誘電体をすべて取り去って真空(空気)に置き換えたときの容量を $C_{\text{air}}$ とすると、実効誘電率は両者の比として定義されます。

$$ \varepsilon_{\text{eff}} = \frac{C}{C_{\text{air}}} $$

この定義の意味は明快です。基板を入れたことで容量が何倍に増えたか、その比そのものが実効誘電率なのです。もし電界が完全に基板内だけを通るなら $C = \varepsilon_r C_{\text{air}}$ となって $\varepsilon_{\text{eff}} = \varepsilon_r$、逆に基板の効果が全くなければ $\varepsilon_{\text{eff}} = 1$ です。現実は両者の間に落ち着きます。

実効誘電率から位相速度と波長が決まる

なぜ実効誘電率がそれほど重要なのでしょうか。準TEM線路の位相速度は $v_p = 1/\sqrt{LC}$ でした。ここでインダクタンス $L$ は磁界の分布で決まり、磁界は誘電体の有無に影響されない(透磁率はどこも $\mu_0$)ため、誘電体を真空に置き換えても $L$ は変わりません。したがって真空時の位相速度は光速 $c = 1/\sqrt{L C_{\text{air}}}$ です。一方、基板を入れたときの位相速度は次のようになります。

$$ v_p = \frac{1}{\sqrt{L C}} = \frac{1}{\sqrt{L \cdot \varepsilon_{\text{eff}} C_{\text{air}}}} = \frac{1}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}}\cdot\frac{1}{\sqrt{L C_{\text{air}}}} = \frac{c}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} $$

つまり、マイクロストリップ上を信号が伝わる速さは、自由空間の光速を $\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ で割った値になります。波長も同じ比率で縮みます。自由空間波長を $\lambda_0 = c/f$、線路上の波長(管内波長に相当)を $\lambda_g$ とすると、

$$ \lambda_g = \frac{v_p}{f} = \frac{\lambda_0}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} $$

この $\lambda_g/\lambda_0 = 1/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ を波長短縮率と呼びます。パッチアンテナの共振長や、$\lambda/4$ インピーダンス変成器の物理長を決めるのは、自由空間波長ではなくこの縮んだ波長 $\lambda_g$ です。実効誘電率を 1 つ間違えると、アンテナの共振周波数が大きくずれてしまうのは、この関係式から見て取れます。

実効誘電率の意味と威力がわかりました。次は、この $\varepsilon_{\text{eff}}$ と特性インピーダンス $Z_0$ を、実際の寸法 $W$, $h$, $\varepsilon_r$ から計算する具体的な閉形式式を導いていきましょう。

フリンジング容量と特性インピーダンスの素描

平行平板近似から出発する

いきなり完成した式を出す前に、なぜそういう形になるのかを「平行平板コンデンサ」から積み上げて掴んでおきましょう。線幅 $W$ が基板厚 $h$ に比べて非常に大きい($W \gg h$)極端な場合を考えます。このとき、ストリップとグラウンドはほぼ無限に広い 2 枚の平行板とみなせ、電界はほぼすべて基板内に閉じ込められ、まっすぐ下向きにそろいます。

平行平板コンデンサの単位長さあたり容量は、極板面積(単位長さあたり $W$)を極板間距離 $h$ で割って誘電率を掛けたものです。

$$ C \approx \varepsilon_r \varepsilon_0 \frac{W}{h} $$

一方、このとき磁界も平行平板内に一様に分布し、単位長さあたりインダクタンスは $L \approx \mu_0 h / W$ と書けます。特性インピーダンスは $Z_0 = \sqrt{L/C}$ ですが、平行平板極限ではより素直に「真空時のインピーダンスを $\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ で割る」形で書くのが見通しがよく、

$$ Z_0 \approx \frac{1}{v_p C} = \frac{1}{(c/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}})\, C} $$

となります。重要なのは、容量 $C$ が $W/h$ に比例して増えるため、線幅 $W$ を広げるほど容量が増え、特性インピーダンス $Z_0$ は下がるという関係です。逆に線幅を細くすれば $Z_0$ は上がります。50 Ω を狙うには、この $W$ を適切に選べばよいわけです。この単調な関係は、後ほど Python で描く $Z_0$-$W/h$ 曲線で目に見える形になります。

フリンジング容量の正体

平行平板近似は便利ですが、現実のストリップは有限の幅しか持ちません。ストリップの両端(エッジ)では、電界が真下にまっすぐ向かうのではなく、外側に膨らんで空気中へ漏れ出します。この「縁から漏れる電界」が作る余分な容量をフリンジング容量(fringing capacitance)と呼びます。

フリンジング容量には 2 つの効果があります。第一に、容量を増やす方向に働くため、平行平板近似だけで計算するよりも実際の $Z_0$ は低くなります。第二に、漏れ出した電界が空気中を通るため、実効誘電率を $\varepsilon_r$ より引き下げる方向に働きます。線幅 $W$ が細いほど、全容量に占めるフリンジ成分の割合が増え、空気を通る電界の比率が高くなって $\varepsilon_{\text{eff}}$ は小さくなります。逆に $W$ が太いほど真下の平行平板成分が支配的になり、$\varepsilon_{\text{eff}}$ は $\varepsilon_r$ に近づきます。

このフリンジング効果を厳密に解くには、本来は等角写像(共形写像)やグリーン関数を用いた境界値問題を解く必要があります。しかしそれは煩雑なので、Wheeler や Hammerstad は数値解や測定値に合わせ込んだ閉形式の近似式を与えました。実用設計ではこの閉形式式を使えば、誤差 1 % 程度で $\varepsilon_{\text{eff}}$ と $Z_0$ が即座に得られます。次の節で、その式を $W/h$ の大小で場合分けして提示し、各項の意味を読み解きます。

Wheeler / Hammerstad の閉形式式の導出と解釈

実効誘電率の式

Hammerstad がまとめた準静的近似式では、実効誘電率は基板の比誘電率 $\varepsilon_r$ と、形状比 $W/h$ の関数として次のように与えられます。

$$ \varepsilon_{\text{eff}} = \frac{\varepsilon_r + 1}{2} + \frac{\varepsilon_r – 1}{2}\left(1 + 12\,\frac{h}{W}\right)^{-1/2} $$

この式を分解して意味を読み取りましょう。まず第 1 項 $\dfrac{\varepsilon_r + 1}{2}$ は、基板($\varepsilon_r$)と空気($1$)の単純な算術平均です。電界の半分が基板、半分が空気を通るという最も粗い見積もりに相当します。

第 2 項 $\dfrac{\varepsilon_r – 1}{2}\left(1 + 12\,h/W\right)^{-1/2}$ は、その平均からのずれを形状比で補正する項です。補正の効き具合を決めるのが括弧の中の $h/W$ です。ここで 2 つの極限を確認します。

線幅が基板厚に対して非常に広い極限($W \gg h$、すなわち $h/W \to 0$)では、括弧内が $1$ に近づき $(1)^{-1/2} = 1$ なので、

$$ \varepsilon_{\text{eff}} \to \frac{\varepsilon_r + 1}{2} + \frac{\varepsilon_r – 1}{2} = \varepsilon_r $$

となり、電界がすべて基板内に閉じ込められた平行平板の状況($\varepsilon_{\text{eff}} = \varepsilon_r$)が再現されます。逆に線幅が非常に細い極限($W \ll h$、すなわち $h/W \to \infty$)では、第 2 項が $0$ に近づき、

$$ \varepsilon_{\text{eff}} \to \frac{\varepsilon_r + 1}{2} $$

すなわち基板と空気の算術平均に落ち着きます。細い線ほどフリンジ電界の比率が増えて空気の寄与が効き、実効誘電率が下がるという先ほどの物理的考察と、式が見事に整合していることがわかります。係数 $12$ は数値解への当てはめで決まった経験定数で、$h/W$ の効き始める「曲がり方」を調整しています。

なお、この式は $W/h \gtrsim 1$ の領域で特に高精度ですが、非常に細い線($W/h < 1$)では、より精密には $(W/h < 1)$ 専用の補正項 $0.04(1 - W/h)^2$ を加えた式が使われます。本記事ではまず上記の主要式で直感を固め、実装の際に細線補正にも触れます。

特性インピーダンスの式 — $W/h$ による場合分け

特性インピーダンスは、実効誘電率と形状比から計算します。電界の広がり方が $W/h$ の大小で質的に変わるため、Hammerstad の式は$W/h \leq 1$(細い線)$W/h \geq 1$(太い線)の 2 つに場合分けされます。

細い線($W/h \leq 1$)の場合、ストリップは細いワイヤに近く、電界は対数的に広がります。特性インピーダンスは次式で与えられます。

$$ Z_0 = \frac{60}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}}\,\ln\!\left(\frac{8h}{W} + \frac{W}{4h}\right) \qquad (W/h \leq 1) $$

太い線($W/h \geq 1$)の場合、ストリップは平行平板に近く、電界は主に真下に向かいます。特性インピーダンスは次式です。

$$ Z_0 = \frac{120\pi}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}\,\left[\dfrac{W}{h} + 1.393 + 0.667\,\ln\!\left(\dfrac{W}{h} + 1.444\right)\right]} \qquad (W/h \geq 1) $$

一見すると 2 つの式はまったく別物に見えますが、$W/h = 1$ の境界で両式はほぼ同じ値を返すように係数が調整されており、連続的につながります。

各係数の物理的意味を読み解く

それぞれの式の構造を、物理的な意味とともにていねいに分解しましょう。

まず両式に共通する前置因子 $1/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ に注目します。これは前節で導いた位相速度 $v_p = c/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ の効果がそのまま現れたものです。基板の誘電率が高いほど $\varepsilon_{\text{eff}}$ が大きくなり、$Z_0$ は下がります。高誘電率基板(たとえば $\varepsilon_r = 10$)で 50 Ω を作ると、低誘電率基板($\varepsilon_r = 2.2$)の場合よりずっと細い線でよくなるのは、この因子のためです。

太い線の式の分母にある $W/h$ の項は、まさに平行平板近似の容量 $C \propto W/h$ を反映しています。$W/h$ が大きいほど分母が大きくなり、$Z_0$ が小さくなる — 線を太くすると容量が増えてインピーダンスが下がるという、先ほどの素描と完全に一致します。定数 $1.393$ と、対数項 $0.667\ln(W/h + 1.444)$ は、有限幅のストリップ端で生じるフリンジング容量の寄与を表す補正項です。これらの項があることで、単純な平行平板式よりも容量が増え($Z_0$ が下がり)、現実の値に合うようになっています。

細い線の式に現れる $120\pi \approx 377\ \Omega$(太い線の式の分子)は自由空間の固有インピーダンス $\eta_0 = \sqrt{\mu_0/\varepsilon_0}$ です。そして $60 = 120\pi/(2\pi) = \eta_0/(2\pi)$ は、円筒対称な構造(細いワイヤや同軸)でおなじみの係数です。実際、同軸ケーブルの特性インピーダンス $Z_0 = \dfrac{60}{\sqrt{\varepsilon_r}}\ln(b/a)$ と、細線マイクロストリップの式 $Z_0 = \dfrac{60}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}}\ln(8h/W + \cdots)$ がそっくりなのは偶然ではありません。細いストリップは、グラウンド面を鏡として「鏡像」を作ると、半径 $W/4$、間隔 $2h$ 程度の 2 線路(あるいは同軸)に近似でき、対数項 $\ln(8h/W)$ がその幾何学的な比を表しているのです。

ここまでで、$\varepsilon_r$, $h$, $W$ という設計パラメータから $\varepsilon_{\text{eff}}$ と $Z_0$ を直接計算する道具立てがそろいました。次節では、これらの式に実際の数値を入れて、典型的な基板での値を手で確かめてみましょう。

具体例 — FR-4 基板での計算

設定

最も身近な基板である FR-4(ガラスエポキシ、$\varepsilon_r \approx 4.4$、厚さ $h = 1.6$ mm)を例に、線幅 $W = 3.0$ mm のマイクロストリップの $\varepsilon_{\text{eff}}$ と $Z_0$ を手計算してみましょう。形状比は $W/h = 3.0/1.6 = 1.875$ で、$W/h > 1$ の太い線の式を使います。

実効誘電率の計算

まず実効誘電率です。$h/W = 1.6/3.0 = 0.533$ を実効誘電率の式に代入します。

$$ \varepsilon_{\text{eff}} = \frac{4.4 + 1}{2} + \frac{4.4 – 1}{2}\left(1 + 12 \times 0.533\right)^{-1/2} $$

括弧の中を先に計算すると $1 + 12 \times 0.533 = 1 + 6.40 = 7.40$ です。そのマイナス 1/2 乗は $7.40^{-1/2} = 1/\sqrt{7.40} = 0.368$ です。これを代入すると、

$$ \varepsilon_{\text{eff}} = 2.70 + 1.70 \times 0.368 = 2.70 + 0.625 = 3.33 $$

期待どおり、空気の $1$ と基板の $4.4$ の中間、しかも電界が基板側に偏るためやや基板寄りの $\varepsilon_{\text{eff}} \approx 3.33$ が得られました。

特性インピーダンスの計算

次に特性インピーダンスです。$W/h = 1.875$ を太い線の式に代入します。まず分母の角括弧の中身を計算します。

$$ \frac{W}{h} + 1.393 + 0.667\,\ln\!\left(\frac{W}{h} + 1.444\right) = 1.875 + 1.393 + 0.667 \times \ln(3.319) $$

対数項は $\ln(3.319) = 1.200$ なので $0.667 \times 1.200 = 0.800$、角括弧全体は $1.875 + 1.393 + 0.800 = 4.068$ です。前置因子は $120\pi/\sqrt{3.33} = 376.99/1.825 = 206.6$ なので、

$$ Z_0 = \frac{206.6}{4.068} = 50.8\ \Omega $$

線幅 3.0 mm の FR-4 マイクロストリップは、おおむね 50 Ω 線路として使えることがわかりました。実際、FR-4・厚さ 1.6 mm 基板で 50 Ω を引くときの目安線幅が「約 3 mm」であることは、現場の経験則とも一致します。

波長短縮率の確認

ついでに波長短縮率も見ておきます。$\varepsilon_{\text{eff}} = 3.33$ なので、

$$ \frac{\lambda_g}{\lambda_0} = \frac{1}{\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}} = \frac{1}{\sqrt{3.33}} = 0.548 $$

つまり、この線路上では波長が自由空間の約 55 % にまで縮みます。たとえば 2.45 GHz(自由空間波長 $\lambda_0 = 122$ mm)なら、線路上の波長は $\lambda_g \approx 67$ mm です。$\lambda/4$ 整変器を作るなら物理長は約 17 mm になります。自由空間波長で設計すると 30 mm にしてしまい、大きくずれる — ここに実効誘電率を正しく使う実益があります。

手計算で勘所がつかめたところで、これらの式を Python に実装し、線幅を連続的に変えたときの振る舞いを一望してみましょう。手計算の 1 点だけではなく、曲線として見ることで設計の全体像が立ち上がります。

Python による実装と可視化

実効誘電率と特性インピーダンスの関数

まず、Hammerstad の式をそのまま関数に落とし込みます。$W/h$ の大小で式を切り替える点に注意してください。細線($W/h < 1$)では実効誘電率に細線補正項 $0.04(1-W/h)^2$ も加え、精度を高めておきます。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt


def eps_eff(eps_r, w_over_h):
    """Hammerstad の実効誘電率(細線補正込み)"""
    u = np.asarray(w_over_h, dtype=float)
    # 主要項:基板と空気の平均 + 形状比による補正
    base = (eps_r + 1) / 2 + (eps_r - 1) / 2 * (1 + 12 / u) ** -0.5
    # W/h < 1 の細線では補正項を加える
    correction = (eps_r - 1) / 2 * 0.04 * (1 - u) ** 2
    return np.where(u < 1, base + correction, base)


def z0_microstrip(eps_r, w_over_h):
    """Hammerstad の特性インピーダンス(W/h で場合分け)"""
    u = np.asarray(w_over_h, dtype=float)
    ee = eps_eff(eps_r, u)
    # 細い線(W/h <= 1):対数則
    z_thin = 60 / np.sqrt(ee) * np.log(8 / u + u / 4)
    # 太い線(W/h >= 1):平行平板+フリンジ補正
    z_thick = 120 * np.pi / (
        np.sqrt(ee) * (u + 1.393 + 0.667 * np.log(u + 1.444))
    )
    return np.where(u <= 1, z_thin, z_thick)


# 動作確認:FR-4, W/h = 1.875
print("eps_eff =", eps_eff(4.4, 1.875))
print("Z0 =", z0_microstrip(4.4, 1.875), "ohm")

実行すると eps_eff = 3.33 前後、Z0 = 50.8 前後という値が表示され、先ほどの手計算とぴたりと一致します。関数が正しく実装できていることが確認できました。np.where で場合分けを 1 つの式にまとめているため、後で w_over_h に配列を渡せば全点を一括計算できます。

Z0 と εeff の W/h 依存を描く

次に、3 種類の代表的な基板について、形状比 $W/h$ を 0.1 から 10 まで変えたときの特性インピーダンスと実効誘電率を曲線にします。FR-4($\varepsilon_r = 4.4$)、テフロン系の高周波基板 RT/duroid 5880($\varepsilon_r = 2.2$)、高誘電率セラミック($\varepsilon_r = 10.2$)の 3 つを比較します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

w_over_h = np.linspace(0.1, 10, 400)
substrates = {"RT/duroid (εr=2.2)": 2.2,
              "FR-4 (εr=4.4)": 4.4,
              "Alumina (εr=10.2)": 10.2}

fig, (ax1, ax2) = plt.subplots(1, 2, figsize=(13, 5))

for label, er in substrates.items():
    ax1.plot(w_over_h, z0_microstrip(er, w_over_h), label=label, lw=2)
    ax2.plot(w_over_h, eps_eff(er, w_over_h), label=label, lw=2)

ax1.axhline(50, color="gray", ls="--", lw=1)
ax1.text(7, 53, "50 Ω target", color="gray")
ax1.set_xlabel("W / h"); ax1.set_ylabel("Z0 [Ω]")
ax1.set_title("Characteristic impedance vs W/h")
ax1.set_ylim(0, 200); ax1.legend(); ax1.grid(alpha=0.3)

for label, er in substrates.items():
    ax2.axhline(er, color="gray", ls=":", lw=0.8)
ax2.set_xlabel("W / h"); ax2.set_ylabel("ε_eff")
ax2.set_title("Effective permittivity vs W/h")
ax2.legend(); ax2.grid(alpha=0.3)

plt.tight_layout()
plt.savefig("microstrip_z0_eps.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()

左のグラフから、特性インピーダンスは $W/h$ が大きくなる(線を太くする)ほど単調に減少することが読み取れます。これは「線を太くすると容量が増えて $Z_0$ が下がる」という理論の予測どおりです。また、同じ $W/h$ でも比誘電率が高い基板ほど $Z_0$ が低い位置にあります。50 Ω の破線と各曲線の交点が、その基板で 50 Ω を実現する形状比であり、高誘電率のアルミナでは小さい $W/h$(細い線)で 50 Ω に達することがわかります。右のグラフでは、実効誘電率が $W/h$ の増加とともに、算術平均 $(\varepsilon_r+1)/2$ から基板値 $\varepsilon_r$(点線)へと滑らかに近づく様子が見て取れます。細い線ほど空気の寄与が大きく $\varepsilon_{\text{eff}}$ が低い、という考察が視覚的に裏づけられました。

目標50Ωとなる線幅を数値的に逆解きする

設計でほしいのは「$Z_0$ から $W$ を求める」逆問題です。$Z_0(W/h)$ は単調減少なので、二分法で一意に解けます。$Z_0 = 50\ \Omega$ となる $W/h$ を 3 基板それぞれについて求め、$h = 1.6$ mm のときの線幅 $W$ を計算します。

import numpy as np
from scipy.optimize import brentq

def solve_w_over_h(eps_r, z_target=50.0):
    """目標 Z0 を満たす W/h を二分法で逆解き"""
    f = lambda u: z0_microstrip(eps_r, u) - z_target
    return brentq(f, 0.05, 20)   # Z0 は単調なので区間内に唯一解

h = 1.6e-3  # 基板厚 1.6 mm
print(f"{'substrate':>22} | {'W/h':>6} | {'W [mm]':>7}")
for label, er in {"RT/duroid 2.2": 2.2,
                  "FR-4 4.4": 4.4,
                  "Alumina 10.2": 10.2}.items():
    u = solve_w_over_h(er)
    print(f"{label:>22} | {u:6.3f} | {u*h*1e3:7.3f}")

実行すると、RT/duroid では $W/h \approx 3.1$($W \approx 4.9$ mm)、FR-4 では $W/h \approx 1.85$($W \approx 3.0$ mm)、アルミナでは $W/h \approx 0.95$($W \approx 1.5$ mm)という結果が得られます。FR-4 で約 3 mm という値は、先ほどの手計算とも現場の経験則とも一致しており、逆解きが正しく機能していることがわかります。比誘電率が高い基板ほど 50 Ω 線路が細くなる、すなわち回路を小型化できるという実用上の重要な傾向も、数値ではっきり確認できました。

波長短縮率の可視化

実効誘電率が決まれば波長短縮率 $\lambda_g/\lambda_0 = 1/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ も決まります。50 Ω 線路(各基板の交点の $W/h$)における波長短縮率を周波数に対して描き、線路上で波長がどれだけ縮むかを見ます。準静的近似では $\varepsilon_{\text{eff}}$ は周波数によらず一定なので、まず短縮率を基板ごとに比較します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

c = 3e8
f = np.linspace(0.5e9, 20e9, 200)   # 0.5〜20 GHz
lam0 = c / f

fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 5))
for label, er in {"RT/duroid 2.2": 2.2, "FR-4 4.4": 4.4,
                  "Alumina 10.2": 10.2}.items():
    u = solve_w_over_h(er)          # 50 Ω の形状比
    ee = float(eps_eff(er, u))
    lam_g = lam0 / np.sqrt(ee)
    ax.plot(f / 1e9, lam_g / lam0 * np.ones_like(f),
            label=f"{label}  (ε_eff={ee:.2f})", lw=2)

ax.set_xlabel("Frequency [GHz]"); ax.set_ylabel("λ_g / λ0")
ax.set_title("Wavelength shortening of 50 Ω microstrip")
ax.set_ylim(0, 1); ax.legend(); ax.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig("microstrip_wavelength.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()

このグラフから、50 Ω 線路上での波長短縮率は、RT/duroid($\varepsilon_{\text{eff}} \approx 1.9$)で約 0.73、FR-4($\approx 3.3$)で約 0.55、アルミナ($\approx 6.7$)で約 0.39 と、基板の比誘電率が高いほど波長が大きく縮むことが読み取れます。準静的近似では周波数に依存しないため水平な直線になっていますが、これは「分散が無視できる」という近似の帰結です。高周波になると実際にはこの値が上昇していく(分散する)ことを、次節で扱います。

分散と導体損の周波数依存

最後に、準静的近似が破れる高周波での 2 つの現象 — 分散導体損 — を可視化します。分散は、周波数が上がると電界が基板側により強く集中し、実効誘電率が $\varepsilon_{\text{eff}}$ から基板値 $\varepsilon_r$ に向かって増加していく現象です。Kirschning–Jansen らの簡易モデルでは、周波数 $f$ における実効誘電率を次の形で表します。

$$ \varepsilon_{\text{eff}}(f) = \varepsilon_r – \frac{\varepsilon_r – \varepsilon_{\text{eff}}(0)}{1 + (f/f_a)^2} $$

ここで $\varepsilon_{\text{eff}}(0)$ は準静的値、$f_a$ は基板厚と $Z_0$ で決まる特性周波数です。一方、導体損は表皮効果による表面抵抗 $R_s = \sqrt{\pi f \mu_0/\sigma}$ が $\sqrt{f}$ で増えるため、減衰定数 $\alpha_c = R_s/(Z_0 W)$ も周波数とともに増大します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

c, mu0, sigma = 3e8, 4 * np.pi * 1e-7, 5.8e7   # 銅の導電率
er, h = 4.4, 1.6e-3
u = solve_w_over_h(er)                 # 50 Ω の W/h
W = u * h
ee0 = float(eps_eff(er, u))            # 準静的実効誘電率
f = np.linspace(0.5e9, 30e9, 300)

# --- 分散モデル ---
fa = c / (2 * np.pi * h) / np.sqrt(ee0 - 1)   # 特性周波数(簡易)
ee_f = er - (er - ee0) / (1 + (f / fa) ** 2)

# --- 表皮効果による導体損 [dB/m] ---
Rs = np.sqrt(np.pi * f * mu0 / sigma)
alpha_c = Rs / (50.0 * W)                     # Np/m
alpha_dB = alpha_c * 8.686                     # dB/m

fig, (ax1, ax2) = plt.subplots(1, 2, figsize=(13, 5))
ax1.plot(f / 1e9, ee_f, lw=2)
ax1.axhline(ee0, ls="--", color="gray", label=f"quasi-static {ee0:.2f}")
ax1.axhline(er, ls=":", color="red", label=f"ε_r = {er}")
ax1.set_xlabel("Frequency [GHz]"); ax1.set_ylabel("ε_eff(f)")
ax1.set_title("Dispersion of effective permittivity"); ax1.legend(); ax1.grid(alpha=0.3)

ax2.plot(f / 1e9, alpha_dB, lw=2, color="darkorange")
ax2.set_xlabel("Frequency [GHz]"); ax2.set_ylabel("Conductor loss [dB/m]")
ax2.set_title("Skin-effect conductor loss (FR-4, 50 Ω)"); ax2.grid(alpha=0.3)

plt.tight_layout()
plt.savefig("microstrip_dispersion_loss.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.show()

左のグラフから、実効誘電率は低周波で準静的値(約 3.3)に張りつき、周波数が $f_a$ 付近を超えると基板の比誘電率 $\varepsilon_r = 4.4$ に向かって増加していくことが読み取れます。これがマイクロストリップの分散であり、広帯域信号では周波数ごとに位相速度が変わって波形が歪む原因になります。右のグラフから、導体損は周波数の平方根に比例して単調に増大し、FR-4 の 50 Ω 線路では数 GHz で 1 m あたり数 dB に達することがわかります。実際の FR-4 ではこれに誘電体損($\tan\delta \approx 0.02$)が加わるため、高周波では低損失なテフロン系基板へ移行する判断材料になります。表皮効果が損失を周波数とともに押し上げるという理論が、グラフにそのまま現れています。

まとめ

本記事では、プリント基板上のマイクロストリップ線路について、準静的近似に基づく実効誘電率と特性インピーダンスの理論を導出し、Python で設計・可視化しました。

  • マイクロストリップは電界が空気と基板にまたがるため準TEMモードとなり、2 つの誘電体を 1 つにならした実効誘電率 $\varepsilon_{\text{eff}}$ で記述できる。$\varepsilon_{\text{eff}} = C/C_{\text{air}}$ で定義され、$1 < \varepsilon_{\text{eff}} < \varepsilon_r$ を満たす
  • 位相速度は $v_p = c/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$、波長短縮率は $\lambda_g/\lambda_0 = 1/\sqrt{\varepsilon_{\text{eff}}}$ となり、アンテナや整合線路の物理長を決める
  • Wheeler / Hammerstad の閉形式式は $W/h$ の大小で場合分けされ、各係数はフリンジング容量・平行平板容量・自由空間インピーダンスといった明確な物理的意味を持つ
  • 特性インピーダンスは $W/h$ に対し単調減少するため、目標 50 Ω を満たす線幅は二分法で一意に逆解きできる。FR-4・厚さ 1.6 mm では約 3 mm が目安
  • 高周波では実効誘電率が $\varepsilon_r$ へ向かう分散と、表皮効果による $\sqrt{f}$ 比例の導体損が現れ、基板選定の判断材料になる

マイクロストリップの特性インピーダンスを自在に設計できると、次のステップとしてインピーダンス整合や共振構造へと自然につながります。以下の記事も参考にしてください。