地球を周回する衛星から地上に届く電波は、惑星間の途方もない距離を旅してくるあいだに薄まりきっており、受信アンテナの端子に現れる電力は $10^{-15}$ W、すなわちフェムトワットのオーダーしかありません。これは家庭の電球が消費する電力の 1000 兆分の 1 という、想像を絶する微弱さです。この信号をスマートフォンやレーダー、電波望遠鏡で「聞き取る」ためには増幅が欠かせませんが、ここに大きな落とし穴があります。どんな増幅器も、信号を増幅すると同時に自分自身が発生させる雑音を信号に上乗せしてしまうのです。微弱な信号に対して増幅器の雑音が大きすぎれば、信号は雑音の海に沈み、もう二度と取り出せません。
受信系の入り口に置かれ、「いかに雑音を足さずに増幅するか」だけを追求して設計される増幅器が 低雑音増幅器(Low Noise Amplifier, LNA) です。LNA は受信機の感度を決定づける最重要部品であり、その良し悪しはシステム全体の通信距離やデータレートに直結します。
LNA と雑音指数の理論を理解すると、以下のような分野で設計の見通しが格段によくなります。
- 衛星通信・深宇宙通信: 受信系雑音温度を 1 K でも下げれば、同じ送信電力でより遠くと通信できます。LNA の雑音指数はリンクバジェットの中心的なパラメータです
- レーダー: 受信感度がターゲット検出距離を決めます。微弱な反射波を捉えるには初段 LNA の雑音性能が決定的です
- 携帯電話・無線 LAN: スマートフォンの受信感度はバッテリー寿命やスループットに影響し、LNA の設計が通信品質を左右します
- 電波天文: 宇宙からの極微弱な信号を検出するため、冷却 LNA で雑音温度を数 K まで下げます
本記事の内容
- 雑音指数 $F$ と雑音温度 $T_e$ の定義と直感
- Friis のカスケード雑音指数式の導出と「初段支配の原理」
- トランジスタの 4 雑音パラメータ($F_{\min}$, $R_n$, $\Gamma_{\text{opt}}$)の意味
- 雑音指数の等高線(雑音円)のスミスチャート平面での導出
- 雑音整合と電力(利得)整合のトレードオフ
- Python 実装: 雑音円の描画、最小雑音指数点、カスケード系雑音指数の数値計算
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
雑音指数とは
信号対雑音比という物差し
増幅器の良し悪しを語るとき、出力信号がどれだけ大きいかだけを見ても意味がありません。なぜなら、信号を 100 倍に増幅しても雑音も 100 倍になっていれば、信号の「聞き取りやすさ」は何も変わらないからです。本当に大事なのは、信号と雑音の比率、すなわち 信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio, SNR) がどう変化するかです。
たとえば、騒がしいパーティー会場で友人と会話する場面を想像してください。あなたの声(信号)と周囲のざわめき(雑音)の比率が会話の聞き取りやすさを決めます。ここで拡声器を使うと、あなたの声は大きくなりますが、拡声器自身がジーというハム音(増幅器の雑音)を出すなら、せっかくの会話が逆に聞き取りにくくなることもあります。理想的な拡声器は、声もざわめきもそのまま大きくし、余計な雑音を一切足しません。
増幅器がこの「余計な雑音をどれだけ足してしまうか」を表すのが雑音指数です。入力での SNR と出力での SNR の比として定義されます。
$$ F = \frac{\text{SNR}_{\text{in}}}{\text{SNR}_{\text{out}}} $$
理想的な(雑音を一切足さない)増幅器なら入力と出力の SNR は等しく $F = 1$ ですが、現実の増幅器は必ず雑音を足すため SNR は劣化し、$F > 1$ となります。デシベル表記では雑音指数 $\text{NF} = 10\log_{10} F$ と書き、こちらは Noise Figure と呼びます。$F$ そのものを「雑音係数(noise factor)」、デシベル値を「雑音指数(noise figure)」と区別することもありますが、本記事では文脈に応じて両方を雑音指数と呼びます。
標準雑音温度という約束事
雑音指数の定義には実は隠れた前提があります。入力 SNR の「雑音」とは何を指すのでしょうか。これは信号源(典型的にはアンテナや前段の出力抵抗)が発生させる熱雑音です。抵抗が発する熱雑音の電力は温度に比例するため、雑音指数を比較可能にするには温度を統一しておく必要があります。そこで、IEEE は信号源温度を 標準温度 $T_0 = 290$ K(およそ室温 17 ℃)と定めています。
抵抗が発生する熱雑音(ジョンソン・ナイキスト雑音)の利用可能雑音電力は、帯域幅 $B$ に対して、
$$ N = k_B T B $$
で与えられます。ここで $k_B = 1.38 \times 10^{-23}$ J/K はボルツマン定数です。$T = T_0 = 290$ K のとき、$k_B T_0 = 4.00 \times 10^{-21}$ W/Hz であり、これをデシベル換算すると $-174$ dBm/Hz という、無線工学で頻出する基準値になります。
ここまでで雑音指数が「SNR の劣化度」を表すことがわかりました。次に、この劣化を「増幅器が足した雑音」という別の視点から捉え直すと、雑音温度という非常に扱いやすい量が見えてきます。
雑音温度と雑音指数の関係
増幅器の雑音を温度で表す
増幅器が足す雑音を直接 W で書くと帯域や利得に依存して扱いにくいので、「もし入力にこの温度の抵抗をつないだら同じだけの出力雑音が出る」という等価入力雑音温度 $T_e$ で表現します。これは、増幅器内部のあらゆる雑音源(トランジスタのショット雑音、熱雑音、フリッカ雑音など)を、入力端に置かれた架空の抵抗の温度に押し込めて表現する考え方です。
利得 $G$ の増幅器を考えましょう。入力に温度 $T_s$ の信号源をつなぐと、出力に現れる全雑音電力は「信号源雑音の増幅分」と「増幅器自身の雑音」の和になります。
$$ N_{\text{out}} = G k_B T_s B + G k_B T_e B $$
第 1 項は入力雑音 $k_B T_s B$ が利得倍されたもの、第 2 項は等価入力雑音温度 $T_e$ の雑音が同じく利得倍されたものです。両者をまとめると $N_{\text{out}} = G k_B (T_s + T_e) B$ となり、増幅器の雑音はあたかも信号源温度を $T_e$ だけ押し上げたかのように働くことがわかります。
雑音指数と雑音温度をつなぐ
雑音指数の定義に立ち返り、信号源温度を標準温度 $T_0$ として SNR の比を計算しましょう。入力 SNR と出力 SNR はそれぞれ次のように書けます。
$$ \text{SNR}_{\text{in}} = \frac{S_{\text{in}}}{k_B T_0 B}, \quad \text{SNR}_{\text{out}} = \frac{G S_{\text{in}}}{G k_B (T_0 + T_e) B} $$
入力 SNR は信号 $S_{\text{in}}$ を信号源雑音で割ったもの、出力 SNR は増幅された信号 $G S_{\text{in}}$ を出力全雑音 $G k_B (T_0 + T_e) B$ で割ったものです。これらの比をとると、$G$, $S_{\text{in}}$, $k_B$, $B$ がすべて約分されて、
$$ F = \frac{\text{SNR}_{\text{in}}}{\text{SNR}_{\text{out}}} = \frac{k_B (T_0 + T_e) B}{k_B T_0 B} = 1 + \frac{T_e}{T_0} $$
という非常に簡潔な関係が得られます。すなわち、
$$ \boxed{F = 1 + \frac{T_e}{T_0}, \quad T_e = (F – 1) T_0} $$
この式は LNA 設計の実務で頻繁に使います。たとえば $F = 1.26$(NF = 1.0 dB)の LNA は等価雑音温度 $T_e = 0.26 \times 290 = 75.4$ K に相当します。衛星受信で「雑音温度 75 K」と言われたら、それは NF 1 dB の LNA だと即座に翻訳できるわけです。雑音温度は加算的に扱えるため、複数段やアンテナ・伝送路を含む系全体の雑音を見積もるのに便利です。
ここまでで単体の増幅器の雑音を 2 つの等価な指標で表せるようになりました。しかし実際の受信機は増幅器・ミキサ・フィルタが数珠つなぎになっています。次に、この連なり全体の雑音指数がどう決まるかを導出しましょう。これが LNA がなぜ「初段」に置かれるのかの答えになります。
Friis のカスケード雑音指数式の導出
2 段システムから始める
受信機は典型的に「LNA → ミキサ → IF 増幅器 → …」と複数の段が縦列接続(カスケード)されています。各段が雑音を足すので、系全体の雑音指数は各段の雑音指数の単純な和ではありません。ここで効いてくるのが「前段の利得が後段の雑音を相対的に小さく見せる」という効果です。
まず 2 段の場合を考えます。第 1 段は利得 $G_1$、雑音指数 $F_1$(等価雑音温度 $T_{e1}$)、第 2 段は利得 $G_2$、雑音指数 $F_2$(等価雑音温度 $T_{e2}$)とします。雑音温度で考えると見通しがよいので、まず温度で計算しましょう。
入力に温度 $T_0$ の信号源をつなぎます。第 1 段の出力に現れる雑音電力は、入力雑音の増幅分と第 1 段自身の雑音の和です。
$$ N_1 = G_1 k_B (T_0 + T_{e1}) B $$
この $N_1$ が第 2 段の入力になります。第 2 段は入力雑音を $G_2$ 倍に増幅し、さらに自身の雑音 $G_2 k_B T_{e2} B$ を足します。
$$ N_2 = G_2 N_1 + G_2 k_B T_{e2} B = G_1 G_2 k_B (T_0 + T_{e1}) B + G_2 k_B T_{e2} B $$
第 1 項は信号源雑音と第 1 段雑音が両段で増幅されたもの、第 2 項は第 2 段自身の雑音が第 2 段だけで増幅されたものです。ここで、第 2 段の雑音は第 1 段では増幅されていない点が重要です。全体の利得は $G_1 G_2$ なので、$N_2$ を $G_1 G_2$ でくくり出してみましょう。
$$ N_2 = G_1 G_2 k_B B \left( T_0 + T_{e1} + \frac{T_{e2}}{G_1} \right) $$
第 2 段の雑音温度 $T_{e2}$ が $G_1$ で割られている点に注目してください。前段の利得 $G_1$ が大きいほど、第 2 段の雑音の寄与が縮小されるのです。
系全体の等価雑音温度
系全体を 1 つのブラックボックスとみなすと、その出力雑音は $N_2 = G_1 G_2 k_B B (T_0 + T_{e,\text{sys}})$ と書けるはずです。先ほどの式と見比べると、系全体の等価雑音温度が読み取れます。
$$ T_{e,\text{sys}} = T_{e1} + \frac{T_{e2}}{G_1} $$
これを雑音指数に変換します。$T_e = (F – 1) T_0$ の関係を各段に適用すると、$T_{e1} = (F_1 – 1)T_0$, $T_{e2} = (F_2 – 1)T_0$ なので、
$$ (F_{\text{sys}} – 1)T_0 = (F_1 – 1)T_0 + \frac{(F_2 – 1)T_0}{G_1} $$
両辺を $T_0$ で割り、左辺の $-1$ を移項して整理すると、
$$ F_{\text{sys}} = F_1 + \frac{F_2 – 1}{G_1} $$
これが 2 段の Friis 公式です。第 2 段の雑音指数の「過剰分」$F_2 – 1$ が、第 1 段の利得 $G_1$ で割り引かれていることがはっきりわかります。
N 段への一般化
同じ論法を 3 段、4 段と繰り返すと、第 $k$ 段の雑音は手前のすべての段の利得の積で割り引かれることがわかります。$N$ 段のカスケードに対する一般式は次のようになります。
$$ \boxed{F_{\text{sys}} = F_1 + \frac{F_2 – 1}{G_1} + \frac{F_3 – 1}{G_1 G_2} + \cdots + \frac{F_N – 1}{G_1 G_2 \cdots G_{N-1}}} $$
この Friis のカスケード雑音指数式 は受信系設計の根幹をなす公式です。第 $k$ 段の雑音への寄与は、それより前の段の利得の積 $G_1 G_2 \cdots G_{k-1}$ で割り引かれます。
初段支配の原理
Friis 式から、設計上きわめて重要な「初段支配の原理」が導かれます。式をよく見ると、第 1 段の雑音指数 $F_1$ だけが割り引きを受けずにそのまま全体に効いています。一方、第 2 段以降は前段利得で割られるため、第 1 段の利得 $G_1$ を十分大きく(たとえば 20 dB = 100 倍)しておけば、第 2 段の過剰雑音 $F_2 – 1$ は 100 分の 1 に縮小されます。
これが、受信機の最前段に「高利得かつ低雑音」の LNA を置く理由です。LNA の雑音指数が系全体をほぼ決定し、後段の雑音設計は相対的に緩くてよいのです。逆に言えば、LNA の前に損失のあるもの(長いケーブルやフィルタ)を入れると致命的です。損失 $L$ の受動部品は利得 $G = 1/L < 1$、雑音指数 $F = L$ なので、それが初段になると系の雑音指数に $L$ がそのまま乗ってしまい、しかも後段の雑音もこの損失で増幅されないため割り引きが効きません。だからこそ LNA はアンテナのできるだけ近く、損失要素より前に配置されます。
具体的な数値で初段支配を実感してみましょう。LNA($F_1 = 1.26$ で NF 1 dB、$G_1 = 100$ で 20 dB)の後にミキサ($F_2 = 10$ で NF 10 dB)を置く場合、
$$ F_{\text{sys}} = 1.26 + \frac{10 – 1}{100} = 1.26 + 0.09 = 1.35 $$
NF に直すと約 1.30 dB です。ミキサ単体は NF 10 dB という劣悪な雑音性能ですが、LNA を前置するだけで系全体は 1.3 dB に収まります。もし LNA がなくミキサが初段なら系の NF は 10 dB を超え、感度は約 8.7 dB も悪化します。これは受信可能距離にして約 2.7 倍の差に相当し、いかに初段 LNA が決定的かがわかります。
ここまで「雑音指数の小さい LNA を初段に置けばよい」とわかりました。では、その LNA の雑音指数はどうやって最小化するのでしょうか。実はトランジスタの雑音指数は、入力につなぐ信号源インピーダンスに強く依存します。次に、この依存性を記述する 4 雑音パラメータを導入します。
トランジスタの 4 雑音パラメータ
雑音指数は信号源インピーダンスで変わる
ここからが LNA 設計の核心です。同じトランジスタを使っても、入力につなぐ信号源インピーダンスを変えると雑音指数が大きく変わります。直感的には、トランジスタ内部の雑音電圧源と雑音電流源が信号源インピーダンスを通じて相関を持ちながら入力に現れるため、ある特定のインピーダンスで雑音の打ち消し合いが最も効果的になるのです。
このことは、最大電力を取り出す「電力整合」(信号源インピーダンスを入力インピーダンスの複素共役に合わせる)が、必ずしも雑音を最小化しないことを意味します。電力整合点と雑音最小点は一般にずれており、このずれをどう扱うかが LNA 設計の腕の見せどころになります。
4 雑音パラメータの定義式
トランジスタの雑音性能は、信号源の反射係数 $\Gamma_s$(または信号源アドミタンス $Y_s = G_s + jB_s$)の関数として、わずか 4 つのパラメータで完全に記述できます。これが 4 雑音パラメータ です。アドミタンス表示の標準形は次の通りです。
$$ F = F_{\min} + \frac{R_n}{G_s}\left| Y_s – Y_{\text{opt}} \right|^2 $$
ここで各記号の意味は次の通りです。
- $F_{\min}$: そのトランジスタが達成しうる 最小雑音指数。バイアス点と周波数で決まる固有値
- $Y_{\text{opt}} = G_{\text{opt}} + jB_{\text{opt}}$: 雑音を最小にする最適信号源アドミタンス。これに整合したときだけ $F = F_{\min}$ となる
- $R_n$: 等価雑音抵抗。$Y_s$ が $Y_{\text{opt}}$ からずれたとき、雑音指数がどれだけ急激に悪化するかの「感度」を表す
- $G_s$: 信号源アドミタンスの実部(コンダクタンス)
この式の構造を読み解きましょう。第 2 項 $\frac{R_n}{G_s}|Y_s – Y_{\text{opt}}|^2$ は必ず非負であり、$Y_s = Y_{\text{opt}}$ のときだけゼロになります。つまり $F$ は $Y_s = Y_{\text{opt}}$ で最小値 $F_{\min}$ をとり、そこからアドミタンスが離れるほど 2 次関数的に増大します。$R_n$ が大きいトランジスタは、最適点から少しずれただけで雑音が急増する「神経質な」素子であり、$R_n$ が小さいトランジスタは整合の許容範囲が広い「おおらかな」素子です。
反射係数表示への変換
実際の RF 設計ではアドミタンスよりも反射係数(スミスチャート)で考えるほうが便利です。信号源アドミタンス $Y_s$ を基準アドミタンス $Y_0 = 1/Z_0$(通常 $Z_0 = 50\ \Omega$)で正規化し、反射係数 $\Gamma_s$ に変換します。アドミタンスと反射係数の関係は、
$$ Y_s = Y_0 \frac{1 – \Gamma_s}{1 + \Gamma_s} $$
です。これを 4 雑音パラメータの式に代入して整理すると(途中の代数は煩雑なので結果を示すと)、雑音指数は反射係数 $\Gamma_s$ の関数として次のように書けます。
$$ F = F_{\min} + \frac{4 R_n / Z_0 \, \left| \Gamma_s – \Gamma_{\text{opt}} \right|^2}{\left(1 – |\Gamma_s|^2\right)\left|1 + \Gamma_{\text{opt}}\right|^2} $$
ここで $\Gamma_{\text{opt}}$ は最適信号源アドミタンス $Y_{\text{opt}}$ に対応する反射係数で、雑音を最小化する点です。この式が、スミスチャート上で雑音指数の等高線を描くための基礎方程式になります。$r_n = R_n / Z_0$ を正規化等価雑音抵抗と呼びます。
これでトランジスタの雑音指数を $\Gamma_s$ の式で書けました。次に、この式を「ある一定の雑音指数を与える $\Gamma_s$ の集合」という観点で解き直すと、スミスチャート上に円が現れます。これが雑音円です。
雑音円の導出
雑音指数パラメータの定義
「NF を 0.5 dB 以下にしたい」というとき、それを満たす信号源反射係数 $\Gamma_s$ の領域を知りたくなります。ある目標雑音指数 $F$ を与えたとき、それを実現する $\Gamma_s$ の集合がスミスチャート上で円を描くことを示しましょう。これが 雑音円(noise circle) です。
まず、雑音指数の式から $\Gamma_s$ に関する部分を取り出すため、雑音指数パラメータ $N$ を定義します。
$$ N = \frac{F – F_{\min}}{4 r_n} \left| 1 + \Gamma_{\text{opt}} \right|^2 $$
ここで $r_n = R_n / Z_0$ です。この $N$ は、目標雑音指数 $F$ がどれだけ $F_{\min}$ より大きいかを正規化した量です。$F = F_{\min}$ なら $N = 0$、$F$ が大きいほど $N$ も大きくなります。
反射係数の方程式を円の方程式に変形する
先の雑音指数の式を $N$ を使って書き直すと、
$$ N = \frac{\left| \Gamma_s – \Gamma_{\text{opt}} \right|^2}{1 – |\Gamma_s|^2} $$
という簡潔な関係になります。この式を $\Gamma_s$ について整理して円の方程式の形に持ち込みます。まず分母を払うと、
$$ \left| \Gamma_s – \Gamma_{\text{opt}} \right|^2 = N \left( 1 – |\Gamma_s|^2 \right) $$
左辺を展開します。複素数の絶対値の 2 乗は $|\Gamma_s – \Gamma_{\text{opt}}|^2 = |\Gamma_s|^2 – \Gamma_s \Gamma_{\text{opt}}^* – \Gamma_s^* \Gamma_{\text{opt}} + |\Gamma_{\text{opt}}|^2$ なので、
$$ |\Gamma_s|^2 – \Gamma_s \Gamma_{\text{opt}}^* – \Gamma_s^* \Gamma_{\text{opt}} + |\Gamma_{\text{opt}}|^2 = N – N |\Gamma_s|^2 $$
$|\Gamma_s|^2$ の項を左辺に集めると、左辺は $(1 + N)|\Gamma_s|^2$ となります。
$$ (1 + N)|\Gamma_s|^2 – \Gamma_s \Gamma_{\text{opt}}^* – \Gamma_s^* \Gamma_{\text{opt}} + |\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N = 0 $$
全体を $(1 + N)$ で割って $|\Gamma_s|^2$ の係数を 1 にそろえます。
$$ |\Gamma_s|^2 – \frac{\Gamma_s \Gamma_{\text{opt}}^* + \Gamma_s^* \Gamma_{\text{opt}}}{1 + N} + \frac{|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N}{1 + N} = 0 $$
ここで複素平面における円の標準形 $|\Gamma_s – C|^2 = R^2$、すなわち $|\Gamma_s|^2 – \Gamma_s C^* – \Gamma_s^* C + |C|^2 – R^2 = 0$ と係数を比較します。第 2・第 3 項の比較から、円の中心 $C_F$ は、
$$ C_F = \frac{\Gamma_{\text{opt}}}{1 + N} $$
であることがわかります。中心が $\Gamma_{\text{opt}}$ の方向にあり、$N$ が大きいほど原点に近づくことに注意してください。
雑音円の半径
半径を求めるため、定数項を比較します。円の標準形の定数項 $|C|^2 – R^2$ が、上で整理した式の定数項 $\frac{|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N}{1 + N}$ に等しいので、
$$ R_F^2 = |C_F|^2 – \frac{|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N}{1 + N} $$
$|C_F|^2 = \frac{|\Gamma_{\text{opt}}|^2}{(1+N)^2}$ を代入し、第 2 項を通分のため分母を $(1+N)^2$ にそろえると、
$$ R_F^2 = \frac{|\Gamma_{\text{opt}}|^2}{(1+N)^2} – \frac{(|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N)(1 + N)}{(1 + N)^2} $$
分子を展開して整理します。$|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – (|\Gamma_{\text{opt}}|^2 – N)(1 + N) = |\Gamma_{\text{opt}}|^2 – |\Gamma_{\text{opt}}|^2 – |\Gamma_{\text{opt}}|^2 N + N + N^2 = N + N^2 – |\Gamma_{\text{opt}}|^2 N$ となり、$N$ でくくると $N(1 + N – |\Gamma_{\text{opt}}|^2)$ です。したがって半径は、
$$ \boxed{R_F = \frac{\sqrt{N(1 + N – |\Gamma_{\text{opt}}|^2)}}{1 + N}} $$
これで雑音円が完全に決まりました。目標雑音指数 $F$ ごとに $N$ を計算し、中心 $C_F = \Gamma_{\text{opt}}/(1+N)$、半径 $R_F$ の円を描けば、その円周上のどの $\Gamma_s$ を選んでも雑音指数はちょうど $F$ になります。円の内側を選べば $F$ より小さく、外側なら大きくなります。
特に $F = F_{\min}$($N = 0$)のとき、$C_F = \Gamma_{\text{opt}}$, $R_F = 0$ となり、円は 1 点 $\Gamma_{\text{opt}}$ に縮みます。これは「最小雑音指数はただ 1 点でしか達成できない」という事実の幾何学的表現です。$F$ を大きくするほど円は広がり、許容される $\Gamma_s$ の範囲が広がっていきます。
この雑音円の性質は、設計の現場で「許容度(マージン)」を読み取るのに直結します。たとえば製造ばらつきや温度変化、整合回路の誤差によって実際の $\Gamma_s$ は設計値からどうしてもずれます。目標 NF をぴったり $F_{\min}$ に設定すると円が 1 点なので、わずかなずれで雑音性能が崩れてしまいます。そこで実務では、$F_{\min}$ より少しだけ高い目標 NF を設定し、その雑音円の内側に十分な余裕をもって $\Gamma_s$ を配置します。円が広いほど($R_n$ が小さい素子ほど)このマージンを大きく取れるため、$R_n$ の小ささは「整合のロバストさ」という設計価値として効いてきます。
また、雑音円の中心 $C_F = \Gamma_{\text{opt}}/(1+N)$ が $N$ とともに原点($\Gamma_s = 0$、すなわち信号源インピーダンスが $50\ \Omega$)へ向かって移動する点も実用的に重要です。目標 NF を緩めていくと、雑音円はやがて $50\ \Omega$ 点を含むほど広がります。これは「ある程度の雑音劣化を許せば、特別な整合回路なしの $50\ \Omega$ 直結でも目標 NF を満たせる」ことを意味し、整合回路を省略してよいかどうかの判断材料になります。
ここまでで雑音指数を最小化する $\Gamma_s$ がスミスチャート上のどこにあるかを描けるようになりました。しかし設計者は雑音だけでなく利得も欲しいはずです。次に、雑音整合と電力整合がなぜ食い違うのかを見ていきます。
雑音整合と利得整合のトレードオフ
2 つの整合点
LNA を設計するとき、入力整合回路で信号源インピーダンスをトランジスタに「見せたい値」に変換します。ここで 2 つの目標が競合します。
- 雑音整合: 信号源反射係数を $\Gamma_s = \Gamma_{\text{opt}}$ に合わせる。これで雑音指数が最小 $F_{\min}$ になる
- 利得(電力)整合: 信号源を入力インピーダンスの複素共役に合わせる、すなわち $\Gamma_s = \Gamma_{\text{in}}^*$(単方向近似では $\Gamma_s = S_{11}^*$)。これで入力で反射が起きず、最大の電力がトランジスタに伝達され、利得が最大になる
問題は、$\Gamma_{\text{opt}}$ と $S_{11}^*$ が一般に 一致しない ことです。物理的には、雑音を最小にする信号源インピーダンスと、電力伝達を最大にする信号源インピーダンスが別物だからです。雑音整合点に合わせると入力に反射が生じて利得が下がり、利得整合点に合わせると雑音指数が $F_{\min}$ より悪化します。
妥協点としての設計
実用的な LNA 設計では、この 2 点のあいだで妥協します。一般的な戦略は次の通りです。
- 超低雑音が最優先の受信初段(衛星受信、電波天文など): 雑音整合を優先し、$\Gamma_s$ を $\Gamma_{\text{opt}}$ に近づける。利得の低下は後段で補う
- 利得と雑音の両立が必要な場合: 雑音円と利得円(一定利得を与える $\Gamma_s$ の集合。これも円になる)の交点近傍を選び、両者を許容範囲に収める
- インダクティブソースデジェネレーション: ソースに小さなインダクタを入れると、$\Gamma_{\text{opt}}$ と $S_{11}^*$ を近づけられる回路技法。これにより雑音整合と利得整合を同時に近似できる。CMOS LNA で広く使われます
このトレードオフを定量的に把握するには、雑音円と利得円を同じスミスチャートに重ねて描き、両者のバランスのよい $\Gamma_s$ を視覚的に選ぶのが定石です。次の Python 実装で、実際に雑音円を描き、$\Gamma_{\text{opt}}$ と利得整合点のずれを可視化してみましょう。
Python による雑音円と整合点の可視化
雑音指数のスミスチャート分布
まず、与えられた 4 雑音パラメータに対して、スミスチャート平面($\Gamma_s$ 平面、単位円の内側)全体で雑音指数 $F$ を計算し、カラーマップとして描画します。あわせて代表的な雑音指数の雑音円を重ねます。ここでは典型的な低雑音 GaAs HEMT を想定した値を使います。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# --- トランジスタの4雑音パラメータ(典型的な低雑音HEMTの例)---
Fmin_dB = 0.5 # 最小雑音指数 [dB]
Fmin = 10 ** (Fmin_dB / 10) # 真値に変換
Rn = 15.0 # 等価雑音抵抗 [ohm]
Z0 = 50.0 # 基準インピーダンス [ohm]
rn = Rn / Z0 # 正規化等価雑音抵抗
# 最適信号源反射係数(大きさと位相で指定)
Gopt_mag = 0.45
Gopt_ang = 65.0 # [deg]
Gopt = Gopt_mag * np.exp(1j * np.deg2rad(Gopt_ang))
# --- Γs 平面のグリッド(単位円の内側のみ)---
N = 500
re = np.linspace(-1, 1, N)
im = np.linspace(-1, 1, N)
RE, IM = np.meshgrid(re, im)
Gs = RE + 1j * IM
inside = np.abs(Gs) < 1.0 # 受動信号源は |Γs|<1
# --- 反射係数表示の雑音指数 F(Γs) ---
num = 4 * rn * np.abs(Gs - Gopt) ** 2
den = (1 - np.abs(Gs) ** 2) * np.abs(1 + Gopt) ** 2
F = Fmin + num / den
NF = 10 * np.log10(F) # dB
NF_masked = np.where(inside, NF, np.nan)
このコードは、信号源反射係数 $\Gamma_s$ を単位円内で 500×500 に離散化し、各点での雑音指数 $F$ を反射係数表示の式で計算してデシベルに変換しています。inside マスクで受動信号源($|\Gamma_s| < 1$)の領域だけを残しているのは、それ以外は物理的に意味がないためです。続いてこの分布を描画し、雑音円を重ねます。
# --- 雑音円の中心と半径を計算する関数 ---
def noise_circle(F_target, Fmin, rn, Gopt):
"""目標雑音指数 F_target に対する雑音円の中心と半径を返す"""
Ni = (F_target - Fmin) / (4 * rn) * np.abs(1 + Gopt) ** 2
C = Gopt / (1 + Ni) # 中心
R = np.sqrt(Ni * (1 + Ni - np.abs(Gopt) ** 2)) / (1 + Ni) # 半径
return C, R
# --- 描画 ---
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 8))
pc = ax.pcolormesh(RE, IM, NF_masked, cmap='viridis', shading='auto')
plt.colorbar(pc, ax=ax, label='Noise Figure [dB]')
# 単位円(スミスチャートの外周)
theta = np.linspace(0, 2 * np.pi, 400)
ax.plot(np.cos(theta), np.sin(theta), 'k-', lw=1.5)
# 代表的な雑音指数の雑音円を重ねる
for F_dB in [0.6, 0.8, 1.0, 1.5, 2.0]:
C, R = noise_circle(10 ** (F_dB / 10), Fmin, rn, Gopt)
circ = C + R * np.exp(1j * theta)
ax.plot(circ.real, circ.imag, 'w--', lw=1.0)
ax.text(C.real + R, C.imag, f'{F_dB} dB', color='w', fontsize=9)
# 最適点 Γopt(雑音最小点)
ax.plot(Gopt.real, Gopt.imag, 'r*', markersize=18, label=r'$\Gamma_{opt}$ (min NF)')
ax.set_xlabel(r'Re($\Gamma_s$)')
ax.set_ylabel(r'Im($\Gamma_s$)')
ax.set_title('Noise Figure over the Source Reflection Plane')
ax.set_aspect('equal')
ax.legend(loc='lower left')
plt.tight_layout()
plt.savefig('noise_circles.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、いくつかの重要な特徴が読み取れます。第 1 に、雑音指数は赤い星印 $\Gamma_{\text{opt}}$ で最小($F_{\min} = 0.5$ dB)となり、そこから離れるほど色が明るく(雑音指数が大きく)なります。第 2 に、白い破線で描いた雑音円は、すべて $\Gamma_{\text{opt}}$ を内側に含む同心円状ではない円群として現れ、目標雑音指数が大きいほど円が大きくなって許容範囲が広がります。第 3 に、解析で導いたとおり $F = F_{\min}$ に近い円ほど 1 点に収束していく様子が確認でき、雑音円の数式が正しく機能していることがわかります。
雑音整合点と利得整合点のずれ
次に、雑音最小点 $\Gamma_{\text{opt}}$ と、利得を最大にする整合点 $S_{11}^*$ がスミスチャート上でどれだけずれるかを可視化します。S パラメータを与えて、両者の位置と、利得整合点での雑音指数のペナルティを計算します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# --- トランジスタのSパラメータ(入力反射のみ使用、単方向近似)---
S11_mag = 0.6
S11_ang = -160.0 # [deg]
S11 = S11_mag * np.exp(1j * np.deg2rad(S11_ang))
Gamma_gain = np.conj(S11) # 利得整合点 Γs = S11*
# 4雑音パラメータ(前と同じHEMT)
Fmin = 10 ** (0.5 / 10)
rn = 15.0 / 50.0
Gopt = 0.45 * np.exp(1j * np.deg2rad(65.0))
# --- 任意の Γs での雑音指数を返す関数 ---
def noise_figure(Gs, Fmin, rn, Gopt):
num = 4 * rn * np.abs(Gs - Gopt) ** 2
den = (1 - np.abs(Gs) ** 2) * np.abs(1 + Gopt) ** 2
return Fmin + num / den
# 各整合点での雑音指数
NF_noise = 10 * np.log10(noise_figure(Gopt, Fmin, rn, Gopt))
NF_gain = 10 * np.log10(noise_figure(Gamma_gain, Fmin, rn, Gopt))
print(f"雑音整合点 Γopt = {Gopt:.3f} -> NF = {NF_noise:.3f} dB")
print(f"利得整合点 S11* = {Gamma_gain:.3f} -> NF = {NF_gain:.3f} dB")
print(f"利得整合を選んだ場合の雑音ペナルティ = {NF_gain - NF_noise:.3f} dB")
print(f"2点間のスミスチャート上の距離 = {np.abs(Gopt - Gamma_gain):.3f}")
このコードを実行すると、雑音整合点では NF が最小値 0.5 dB ちょうどになる一方、利得整合点 $S_{11}^*$ を選ぶと NF が 0.5 dB より悪化することが数値で示されます。出力される「雑音ペナルティ」は、利得を優先したときに支払う雑音の代償を定量化したものです。2 点間の距離が大きいほどトレードオフが厳しく、ソースデジェネレーションなどでこの距離を縮める設計の重要性が浮き彫りになります。続いて、この 2 点を雑音円とともにスミスチャートに重ねて視覚的に確認しましょう。
# --- 雑音円と2つの整合点を重ねて描画 ---
theta = np.linspace(0, 2 * np.pi, 400)
def noise_circle(F_target, Fmin, rn, Gopt):
Ni = (F_target - Fmin) / (4 * rn) * np.abs(1 + Gopt) ** 2
C = Gopt / (1 + Ni)
R = np.sqrt(Ni * (1 + Ni - np.abs(Gopt) ** 2)) / (1 + Ni)
return C, R
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 8))
ax.plot(np.cos(theta), np.sin(theta), 'k-', lw=1.5) # 単位円
for F_dB in [0.6, 0.8, 1.0, 1.5]:
C, R = noise_circle(10 ** (F_dB / 10), Fmin, rn, Gopt)
circ = C + R * np.exp(1j * theta)
ax.plot(circ.real, circ.imag, 'b--', lw=1.0)
ax.text(C.real + R, C.imag, f'{F_dB} dB', color='b', fontsize=9)
ax.plot(Gopt.real, Gopt.imag, 'r*', markersize=18, label=r'$\Gamma_{opt}$ (noise match)')
ax.plot(Gamma_gain.real, Gamma_gain.imag, 'gD', markersize=12,
label=r'$S_{11}^*$ (gain match)')
ax.annotate('', xy=(Gamma_gain.real, Gamma_gain.imag),
xytext=(Gopt.real, Gopt.imag),
arrowprops=dict(arrowstyle='->', color='gray', lw=1.5))
ax.set_xlabel(r'Re($\Gamma_s$)')
ax.set_ylabel(r'Im($\Gamma_s$)')
ax.set_title('Noise Match vs. Gain Match on the Smith Plane')
ax.set_aspect('equal')
ax.set_xlim(-1.1, 1.1)
ax.set_ylim(-1.1, 1.1)
ax.legend(loc='lower left')
plt.tight_layout()
plt.savefig('noise_vs_gain_match.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフから、雑音整合点(赤い星、$\Gamma_{\text{opt}}$)と利得整合点(緑のひし形、$S_{11}^*$)が明確に離れた位置にあることがわかります。灰色の矢印が両者のずれを示しており、設計者はこの線分上のどこかで妥協点を選ぶことになります。利得整合点が大きな雑音円の上に乗っているほど、利得を取ると雑音が悪化することが視覚的に理解できます。逆に、もし両点が近ければ雑音と利得を同時に満たせる「都合のよい」素子・回路だと判断できます。
Friis 式によるカスケード系雑音指数の計算
最後に、Friis のカスケード雑音指数式を使って、LNA を初段に置く効果と、初段の利得・雑音が系全体を支配することを数値で確認します。複数段の構成を変えて系全体の NF を計算します。
import numpy as np
def cascade_nf(nf_db_list, gain_db_list):
"""Friis式で系全体の雑音指数[dB]を計算する。
nf_db_list, gain_db_list は各段のNF[dB]と利得[dB]。"""
F = 10 ** (np.array(nf_db_list) / 10) # 各段の雑音指数(真値)
G = 10 ** (np.array(gain_db_list) / 10) # 各段の利得(真値)
F_sys = F[0]
gain_product = 1.0
for k in range(1, len(F)):
gain_product *= G[k - 1] # 手前の段までの利得積
F_sys += (F[k] - 1) / gain_product
return 10 * np.log10(F_sys)
# 各段: [LNA, ミキサ, IFアンプ]
nf_stages = [1.0, 10.0, 3.0] # NF [dB]
gain_stages = [20.0, -6.0, 30.0] # 利得 [dB] (ミキサは変換損)
# ケース1: LNAを初段に置く(正しい設計)
nf1 = cascade_nf(nf_stages, gain_stages)
print(f"ケース1 (LNA初段) 系NF = {nf1:.3f} dB")
# ケース2: LNAを外してミキサが初段(LNAなし)
nf2 = cascade_nf(nf_stages[1:], gain_stages[1:])
print(f"ケース2 (LNAなし・ミキサ初段) 系NF = {nf2:.3f} dB")
# ケース3: LNA前に1dBの損失(ケーブル)が入る
nf3 = cascade_nf([1.0] + nf_stages, [-1.0] + gain_stages)
print(f"ケース3 (LNA前に1dB損失) 系NF = {nf3:.3f} dB")
# 初段LNAの利得を振って系NFの感度を見る
print("\n--- 初段LNA利得を変えたときの系NF ---")
for g1 in [6, 10, 15, 20, 25]:
nf = cascade_nf(nf_stages, [g1] + gain_stages[1:])
print(f" LNA利得 {g1:2d} dB -> 系NF = {nf:.3f} dB")
この出力から、初段支配の原理が数値ではっきり確認できます。ケース 1 では LNA を初段に置くことで系全体の NF が初段 LNA の 1.0 dB をわずかに上回る程度に収まり、後段のミキサの劣悪な NF(10 dB)がほとんど効いていません。一方ケース 2 のように LNA を外すと系 NF は一気に悪化し、受信感度が大幅に劣化します。ケース 3 は LNA の前にわずか 1 dB の損失を入れただけで系 NF が約 1 dB 増える様子を示しており、LNA をアンテナ直近に配置すべき理由を裏づけます。最後のループでは、初段 LNA の利得を増やすほど後段雑音の割り引きが効いて系 NF が単調に下がり、ある利得を超えるとほぼ初段 NF に飽和することがわかります。これは Friis 式の $1/G_1$ 依存性そのものです。
まとめ
本記事では、低雑音増幅器(LNA)の雑音指数と整合の理論を、定義から雑音円の導出、整合のトレードオフまで一気通貫で解説しました。要点を振り返ります。
- 雑音指数 $F$ は SNR の劣化度として定義され、等価雑音温度と $F = 1 + T_e/T_0$ で結ばれます。標準温度は $T_0 = 290$ K です
- Friis のカスケード雑音指数式 $F_{\text{sys}} = F_1 + (F_2-1)/G_1 + (F_3-1)/(G_1 G_2) + \cdots$ により、初段の雑音指数と利得が系全体を支配することが導かれます。これが LNA を初段かつアンテナ直近に置く理由です
- トランジスタの雑音は 4 雑音パラメータ($F_{\min}$, $R_n$, $\Gamma_{\text{opt}}$)で完全に記述され、雑音指数は信号源反射係数 $\Gamma_s$ に依存します
- 一定雑音指数を与える $\Gamma_s$ の集合はスミスチャート上で 雑音円 を描き、中心 $C_F = \Gamma_{\text{opt}}/(1+N)$、半径 $R_F = \sqrt{N(1+N-|\Gamma_{\text{opt}}|^2)}/(1+N)$ で表されます
- 雑音整合点 $\Gamma_{\text{opt}}$ と 利得整合点 $S_{11}^*$ は一般に一致せず、両者のトレードオフが LNA 設計の核心です。ソースデジェネレーション等でこのずれを縮める技法があります
雑音指数と整合の理論は、受信機設計のあらゆる場面に顔を出します。次のステップとして、信号源インピーダンスを $\Gamma_{\text{opt}}$ に変換する整合回路の設計(スタブ・集中定数)、一定利得を与える利得円との同時設計、そして S パラメータと安定性($K$ ファクタ)を踏まえた総合設計へと学習を進めると、実際に動く LNA を設計できるようになります。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。