数式を書いていると、「$x$ の2乗を書きたい」「行列の $(i,j)$ 成分を表したい」「総和の下限に $i=1$ を付けたい」という場面が常に出てきます。これらはすべて、LaTeXの上付き文字(superscript)と下付き文字(subscript)の機能で書きます。
使うコマンドはたった2種類です。キャレット ^ が上付き、アンダースコア _ が下付き。これだけ覚えれば基本はOKです。ところが、実際に書いてみると「x^10 と書いたら x^1 0 になってしまった」「x^2^3 と書いたらエラーになった」という罠にはまります。
この記事では、上付き・下付きの基本から高度な使い方までを、コピペできる実例とともにリファレンス形式でまとめます。
応用先はふたつあります。ひとつは理工系の数式全般です。べき乗・行列成分・偏微分・数列・総和・積分——これらはすべて上付き・下付きなしには書けません。もうひとつは化学・物理の特殊表記です。同位体の表記 ${}^{14}_{6}\mathrm{C}$ のように、元素記号の左に添字を置く「前置左添字」もLaTeXで表現できます。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
^と_の基本とブレース{}の要否- 上下同時指定と多重・入れ子添字
- 総和・積分・極限の上下限(
\limits/\nolimits) - 前置・左添字の書き方
- コピペできる実戦実例集
- KaTeX互換表とよくある間違い

この図が記事全体の骨格を一言で表しています。左パネルでは底字 $x$ の右上に $n$ が乗っており、これが上付き文字です。キャレット ^ を使います。右パネルでは底字 $x$ の右下に $i$ が付いており、これが下付き文字です。アンダースコア _ を使います。どちらも「底字の直後に記号と添字を書く」という同じパターンです。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 備考 |
|---|---|---|---|
| べき乗(1文字) | x^2 |
$x^2$ | ブレース不要 |
| べき乗(2文字以上) | x^{10} |
$x^{10}$ | ブレース必須 |
| 下付き添字(1文字) | x_i |
$x_i$ | ブレース不要 |
| 下付き添字(2文字以上) | a_{ij} |
$a_{ij}$ | ブレース必須 |
| 上下同時 | x_i^2 または x^2_i |
$x_i^2$ | 順序問わず同じ結果 |
| 指数の指数 | 2^{2^n} |
$2^{2^n}$ | 入れ子はブレースで管理 |
| 二重下付き | x_{i_j} |
$x_{i_j}$ | 下付きの中にさらに下付き |
| 前置左添字 | {}^{14}_{6}\mathrm{C} |
${}^{14}_{6}\mathrm{C}$ | 空ブレース {} を前に置く |
| 総和の上下限 | \sum_{i=1}^{n} |
$\sum_{i=1}^{n}$ | ブロック数式では上下に表示 |
| 積分の上下限 | \int_a^b |
$\int_a^b$ | ^ が上限、_ が下限 |
| 極限の条件 | \lim_{x \to 0} |
$\lim_{x \to 0}$ | _ の後に条件を書く |
| 上下を強制上下配置 | \sum\limits_{i=1}^{n} |
$\sum\limits_{i=1}^{n}$ | \limits でインラインでも上下に |
| テキスト添字 | x_{\text{max}} |
$x_{\text{max}}$ | 添字に英単語を入れる |
| 上付き負指数 | e^{-x} |
$e^{-x}$ | 2文字以上なので {} 必須 |
| 上付き分数 | x^{1/2} |
$x^{1/2}$ | スラッシュ分数は {} 内に |
細かい説明に入る前に、全コマンドをここから引けるようにしました。各行の詳細は以降のセクションで丁寧に解説します。
1. 基本:^ で上付き、_ で下付き
直感:数式の「高さ」を指定する
通常の文字は基準線(ベースライン)の上に並びます。上付き文字は基準線より上に小さく表示され、下付き文字は基準線より下に小さく表示されます。日常の文書で「m²」や「H₂O」と書くときの、あの上下の小さい文字です。
LaTeXでは、底字(ベースとなる文字)の直後に ^ か _ を書き、その後に添字を続けます。
$x^2$ % x の2乗
$x_i$ % x の i 番目
$x_i^2$ % x_i の2乗(上下同時)
これで $x^2$、$x_i$、$x_i^2$ が得られます。
ブレース {} は1文字なら不要、2文字以上は必須
LaTeXの ^ と _ は、直後の1文字だけを添字として認識します。2文字以上を添字にするには、必ず {} で囲む必要があります。
$x^2$ % 正しい。^の直後の1文字 "2" が上付き
$x^{10}$ % 正しい。{10} 全体が上付き
$x^10$ % NG! ^の直後の1文字 "1" だけが上付き → x^1 0 になる
$x^{10}$ と書くべきところを $x^10$ と書くと、^ は 1 だけを上付きにして、0 は通常のサイズで後ろに続きます。つまり「$x$ の1乗の後に 0」という見た目になります。これはLaTeXの仕様で、「添字は1文字」がデフォルトだからです。
同様に、下付きでも2文字以上は {} が必要です。
$a_{ij}$ % 正しい。{ij} 全体が下付き
$a_ij$ % NG! _の直後の1文字 "i" だけが下付き → a_i j になる
ルール:添字が2文字以上のときは、常に {} で囲む。この習慣をつけると、ほとんどのブレース関連のミスを防げます。1文字の場合もブレースを付けても問題ありません(x^{2} は x^2 と同じ結果)。迷ったらすべて {} で囲む方針も合理的です。

この図の左側(緑枠)がブレース不要の正しい例、右側(ピンク枠)がブレース必須の例です。x^10 がどのように x^1 0 になってしまうか、a_ij が a_i j になってしまうかが一目でわかります。特に2桁の数値($x^{10}$、$x^{23}$ 等)はミスが多いので、意識して {} を付けましょう。
ブレースの基本が分かったところで、上付きと下付きを同時に付ける場合に進みます。
2. 上下同時指定:$x_i^2$、$x^2_i$、どちらでも同じ
直感:^ と _ の順序は自由
同じ底字に上付きと下付きを同時に付けることは日常的です。ベクトルの成分 $v_i^2$、コバリアントテンソルの成分 $T_{ij}^k$、偏微分の繰り返し $\partial_i^2 f$ などです。
LaTeXでは ^ と _ を底字の後に両方書けば、順序はどちらでも同じ結果になります。
$x_i^2$ % 下付き先、上付き後
$x^2_i$ % 上付き先、下付き後
どちらも $x_i^2$ と表示されます。一般に慣例として「下付きを先に書く」スタイルが多いですが、どちらでも構いません。統一されていれば問題ありません。
物理や数学のテンソル計算では、上付き・下付き両方を持つ記号が頻出します。
$X_{\mu\nu}^{ab}$ % テンソル成分の典型例
$R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}$ % リーマン曲率テンソル

図の左と中央のパネルが x_i^2 と x^2_i を比較しており、表示結果が同一であることを示しています。右パネルはテンソル成分 $X_{\mu\nu}^{ab}$ の例で、ギリシャ文字(\mu、\nu)とアルファベットを混在させた典型的な物理数式です。
上下同時指定の基本が分かりました。次は、添字の中に添字を入れる「入れ子」の扱いを見ていきます。
3. 多重・入れ子添字:二重下付きと指数の指数
直感:ブレースを積み重ねる
添字の中にさらに添字を入れることを「入れ子(ネスト)」と言います。部分列 $a_{n_k}$、行列成分の走査で使う二重インデックス $x_{i_j}$、繰り返し適用の指数の指数 $2^{2^n}$ などがその例です。
LaTeXのブレースは何重にでもネストできます。入れ子の深さに応じて {} を積み重ねれば OK です。
$x_{i_j}$ % 二重下付き: i の添字に j が付く
$2^{2^n}$ % 指数の指数: 2 の「2の n乗」乗
$a_{n_k}$ % 部分列: n_k 番目の要素
ブレースを正しく対応させることが重要です。開きブレース { と閉じブレース } の数が合わない場合、LaTeXはエラーを出します。入れ子が深くなるほどブレースの対応を注意深く確認しましょう。
x^2^3 はエラーになる
同じ底字に ^ を2回使う書き方(x^2^3)は、LaTeXの文法でエラーになります。「どちらが上付きなのか」が曖昧になるためです。
$x^2^3$ % エラー: Double superscript
$(x^2)^3$ % 正しい: x^2 の 3乗 = x^6
${(x^2)}^3$ % 同じく正しい
「$x^2$ の $3$ 乗」を書きたいときは、まず括弧 () で囲んでから上付きを付けます。$(x^2)^3 = x^6$ という意味です。

この図の4つのパネルで入れ子の主要パターンを確認できます。左上の $x_{i_j}$ は下付きの二重添字、右上の $2^{2^n}$ は指数の入れ子、左下の $(x^2)^3 = x^6$ は二重上付きの正しい書き方、右下の $a_{n_k}$ は部分列の標準的な表記です。各パネルのコードボックスで実際のLaTeXコマンドをコピーして使えます。
入れ子添字の管理ができたところで、総和や積分で頻繁に登場する「大型演算子の上下限」に話を移します。
4. 総和・積分・極限の上下限
直感:演算子の「条件」は添字で書く
$\sum_{i=1}^{n}$($i$ を $1$ から $n$ まで足す)、$\int_a^b f(x)\,dx$($a$ から $b$ まで積分)、$\lim_{x \to 0} f(x)$($x$ が $0$ に近づくときの極限)——これらはすべて、演算子(\sum、\int、\lim)に ^ と _ で条件を付けているだけです。
\sum_{i=1}^{n} a_i % 添字 i=1 から上限 n まで
\int_a^b f(x)\,dx % 下限 a から上限 b まで
\lim_{x \to 0} f(x) % x→0 のときの極限
\prod_{k=1}^{n} x_k % k=1 から n までの積
\bigcup_{i=1}^{\infty} A_i % i=1 から ∞ まで和集合
インライン数式(文中に $...$ で書く場合)では、添字は演算子の側面に小さく付きます。ブロック数式($$...$$ で書く場合)では、添字は演算子の真上と真下に配置されます。
$$ \sum_{i=1}^{n} a_i \quad \int_a^b f(x)\,dx \quad \lim_{x \to 0} f(x) $$
\limits と \nolimits で位置を制御する
インライン数式でも上下に添字を配置したい場合は \limits を演算子の直後に付けます。逆に、ブロック数式でも側面配置にしたい場合は \nolimits を使います。
% インライン数式で上下配置にする
$\sum\limits_{i=1}^{n} a_i$ % \limits で強制上下
% ブロック数式で側面配置にする
$$\sum\nolimits_{i=1}^{n} a_i$$ % \nolimits で強制側面
\limits は論文や教科書でインライン中の総和を上下配置にするときによく使われます。ただしインライン数式での上下配置は行間が広がるため、本文中に多用すると読みにくくなります。添字が複雑でないなら側面配置のままの方が読みやすいことが多いです。
積分記号 \int はブロック数式でも側面配置がデフォルトです(\sum と違い、\int は \limits なしだと上下ではなく側面に付きます)。上下配置にしたい場合は \int\limits_a^b と書きます。
% 通常の積分(上下限が側面)
$\int_a^b f(x)\,dx$
% 上下配置の積分(\limits を付ける)
$\int\limits_a^b f(x)\,dx$

この図の3パネルは、左から $\sum_{i=1}^{n} x_i$、$\int_a^b f(x)\,dx$、$\lim_{x \to 0} f(x)$ の表示例です。どれも基本はシンプルで、演算子の後に _{下限}^{上限} の形で書くだけです。各コードボックスからそのままコピーして使えます。
大型演算子の上下限が書けるようになったところで、次はやや特殊な「前置左添字」に進みます。
5. 前置・左添字:同位体表記と左スクリプト
直感:左側に添字を置きたい場面がある
通常の添字は底字の右側に付きます。しかし物理・化学では、元素記号の左上に質量数、左下に原子番号を置く「前置添字(left superscript/subscript)」が必要になります。
$$ {}^{14}_{6}\mathrm{C} \quad {}^{238}_{92}\mathrm{U} \quad {}^{1}_{1}\mathrm{H} $$
炭素14 ${}^{14}_{6}\mathrm{C}$ は、左上が質量数14、左下が原子番号6です。
空ブレース {} を使うトリック
LaTeXで前置添字を書く最も一般的な方法は、空のブレース {} を底字の前に置くことです。
% 炭素14
${}^{14}_{6}\mathrm{C}$
% ウラン238
${}^{238}_{92}\mathrm{U}$
% 核反応の一般形
${}^{A}_{Z}\mathrm{X} \to {}^{A-4}_{Z-2}\mathrm{Y} + {}^4_2\mathrm{He}$
空のブレース {} は「何もない底字」として機能し、その右に ^ と _ で添字を付けます。こうすると添字が元素記号の左側に表示されます。
% 核分裂の例(U-235にn吸収でBa+Kr+3n)
$$
{}^{235}_{92}\mathrm{U} + {}^1_0\mathrm{n} \to
{}^{141}_{56}\mathrm{Ba} + {}^{92}_{36}\mathrm{Kr} + 3{}^1_0\mathrm{n}
$$
$$ {}^{235}_{92}\mathrm{U} + {}^1_0\mathrm{n} \to {}^{141}_{56}\mathrm{Ba} + {}^{92}_{36}\mathrm{Kr} + 3{}^1_0\mathrm{n} $$
LaTeX では \prescript(mathtools)も使える
LaTeXの mathtools パッケージには \prescript コマンドがあり、前置添字をより整ったスペーシングで書けます。
\usepackage{mathtools}
% \prescript{上}{下}{底字} の形式
$\prescript{14}{6}{\mathrm{C}}$
$\prescript{238}{92}{\mathrm{U}}$
ただし \prescript はKaTeXではサポートされていません。このブログのようなKaTeX環境では {}^{...}_{...} の空ブレース法を使いましょう。

この図の3パネルは炭素14・一般核反応記号・ウラン238の前置添字表示例です。左側の質量数が上、原子番号が下に整然と並んでいます。コードボックスにある {}^{14}_{6}\mathrm{C} のパターンをコピーすれば、どの元素記号にも応用できます。
前置左添字の書き方をマスターしたところで、実際の論文・レポートで頻出するコピペ実例をまとめます。
6. コピペ実例集
実際の数式でよく使われる上付き・下付きの組み合わせを5パターン示します。各コードはそのままコピーして使えます。
多項式
多項式 $a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_0$ は下付きの係数と上付きのべき乗が混在する典型例です。
$$ a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + a_{n-2} x^{n-2} + \cdots + a_1 x + a_0 $$
$$
a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + a_{n-2} x^{n-2} + \cdots + a_1 x + a_0
$$
係数 $a_k$ の添字 $k$ と $n-1$、$n-2$ のような式が添字に入る場合は必ず {} で囲みます。a_{n-1} が正しく、a_n-1 は「$a_n$ の後に $-1$」という意味になります。
偏微分の添字
偏微分では分子・分母の両方に上付きと下付きが現れます。
$$ \frac{\partial^2 f}{\partial x_i \partial x_j} $$
$$
\frac{\partial^2 f}{\partial x_i \partial x_j}
$$
\partial^2 が二次偏微分の「次数2」を上付きで表し、x_i と x_j が変数の添字です。ヘッセ行列の $(i,j)$ 成分を書くときの標準的な形です。
行列成分と行列積
行列積 $A_{ij} = \sum_{k=1}^{n} B_{ik} C_{kj}$ は上下限付き総和と行列成分添字の複合例です。
$$ A_{ij} = \sum_{k=1}^{n} B_{ik} C_{kj} $$
$$
A_{ij} = \sum_{k=1}^{n} B_{ik} C_{kj}
$$
A_{ij} の {ij} は2文字なのでブレース必須です。\sum_{k=1}^{n} は _ が下限、^ が上限です。
数列・漸化式
等比数列の漸化式 $a_{n+1} = r \cdot a_n$(初項 $a_1 = 1$)は、添字に式 n+1 が含まれる例です。
$$ a_{n+1} = r \cdot a_n, \quad a_1 = 1 $$
$$
a_{n+1} = r \cdot a_n, \quad a_1 = 1
$$
a_{n+1} の {n+1} は3文字(記号を含む)なのでブレース必須です。添字に +・-・* などの演算子が入る場合は常に {} が必要です。
同位体の核反応
前セクションで扱った核反応式の完全な例です。
$$ {}^{14}_{6}\mathrm{C} \to {}^{14}_{7}\mathrm{N} + e^{-} + \bar{\nu}_e $$
$$
{}^{14}_{6}\mathrm{C} \to {}^{14}_{7}\mathrm{N} + e^{-} + \bar{\nu}_e
$$
e^{-} の {-} はマイナス記号1文字なのでブレースをつけ、\bar{\nu}_e はニュートリノ $\nu$ に上線 \bar を付け、下付き $e$ で電子ニュートリノを表します。

この図の5つのパターンが上から順に表示例とコードを示しています。多項式・偏微分・行列成分・数列・同位体と、理工系の数式で最も頻出する5種類を網羅しています。上の数式表示と下のコードボックスを対応させて見ることで、「どの記号がどのコマンドに対応するか」を視覚的に確認できます。
7. テキストを添字に入れる:$x_{\text{max}}$ と $x_{\mathrm{min}}$
直感:添字に英単語を入れるとき
「$x_{\text{max}}$(最大値)」「$f_{\mathrm{ref}}$(参照値)」のように、添字に英単語や略語を入れることがあります。このとき、普通の文字を添字に書くと数式フォント(イタリック体)で表示されます。
$x_max$ % NG: m, a, x がバラバラの変数として表示される
$x_{\max}$ % 関数 \max を使う場合(max 関数のとき)
$x_{\text{max}}$ % 正しい: max をテキストとして表示
$x_{\mathrm{max}}$ % 同様に正しい: ローマン体で表示
\text{...} と \mathrm{...} はどちらも直立体(ローマン体)で文字を表示しますが、\text{} はテキストモードのフォントを使い、\mathrm{} は数式フォントのローマン体を使います。添字の英語略語には \text{} が一般に使いやすいです。
% 典型的な使用例
$x_{\text{max}}$ % 最大値の x
$v_{\text{ref}}$ % 参照速度
$\sigma_{\text{noise}}$ % ノイズの標準偏差
$E_{\text{kin}}$ % 運動エネルギー
$f_{\text{carrier}}$ % 搬送波周波数
一方、$\sin$、$\cos$、$\log$、$\max$、$\min$、$\lim$ などの数学関数は専用のコマンドが用意されています。これらは x_{\max} のように単独で使うこともあります。
$\arg\max_{w} L(w)$ % argmax: w について L を最大化する w
$\arg\min_{\theta} J(\theta)$ % argmin: 損失最小化
\arg\max と \arg\min は機械学習・最適化の論文で頻出します。下付きにパラメータを書き、「この変数で最大化/最小化したときの値」を表します。
添字に数式を入れる
添字の中にさらに分数や関数を入れることもできます。ただし小さくなりすぎて読みにくいため、極力シンプルな記法を使う方が親切です。
$x_{i+j}$ % 加算の添字(シンプル)
$a_{2k-1}$ % 奇数インデックス
$f_{n/2}$ % 半分のインデックス
8. KaTeX互換表とよくある間違い

この図の左側がKaTeX互換コマンドの一覧、右側がよくある間違いと修正例です。\prescript のみKaTeX非対応(図中の × マーク)で、それ以外の主要コマンドはすべてKaTeXで動作します。
KaTeX互換表
本ブログ(KaTeX使用)での各コマンドの対応状況をまとめます。
| コマンド | 説明 | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|---|
x^{n} |
上付き文字 | 対応 | 標準 |
x_{i} |
下付き文字 | 対応 | 標準 |
x_i^2 |
上下同時 | 対応 | 順序問わず |
\sum_{i=1}^{n} |
総和の上下限 | 対応 | ^ と _ で指定 |
\int_a^b |
積分の上下限 | 対応 | 同上 |
\lim_{x \to 0} |
極限の下限 | 対応 | 同上 |
{}^{14}_{6}\mathrm{C} |
前置左添字 | 対応 | 空ブレース {} を使う |
\limits |
上下強制配置 | 対応 | 演算子の直後に付ける |
\nolimits |
側面強制配置 | 対応 | 同上 |
\text{max} |
テキスト添字 | 対応 | \mathrm{max} も可 |
\prescript |
前置添字(mathtools) | 非対応 | {}^{...}_{...} で代替 |
\prescript はLaTeX(PDF出力)で mathtools パッケージを使う環境では便利ですが、KaTeX では使えません。KaTeX環境では前置添字はすべて空ブレース法 {}^{...}_{...} を使いましょう。
よくある間違い5選
間違い1:ブレースの閉じ忘れ
これが最も多いミスです。
% NG: {} が閉じていない
$a_{ij$
% OK: 正しく閉じている
$a_{ij}$
LaTeXはエラーを出しますが、KaTeXはエラーをそのまま表示しないことがあります。閉じブレースが足りない場合、数式が見た目通りに表示されません。
間違い2:2桁以上の数値にブレース忘れ
% NG: x^1 の後に 0 が来る
$x^10$
% OK: 10 全体が上付き
$x^{10}$
10以上の数値($x^{10}$、$x^{100}$ 等)は必ずブレースが必要です。同様に、負の指数 e^{-x} の -x もブレースが必要です(e^-x は e^- の後に x が続く意味になります)。
間違い3:二重上付き(同じ底字に ^ を2回)
% NG: エラーになる
$x^2^3$
% OK: 括弧で明示
$(x^2)^3$
${(x^2)}^3$
x^2^3 は「$x$ の $2$ 乗の $3$ 乗」なのか「$x$ の $2^3$ 乗」なのかが曖昧なためエラーになります。意図を括弧で明示しましょう。
間違い4:添字にテキストをイタリックのまま使う
% NG: max がイタリック体で変数扱い
$x_max$
% OK: テキストモードで書く
$x_{\text{max}}$
$x_{\mathrm{max}}$
英単語を添字に使うとき、そのまま書くと数式フォント(イタリック)で1文字ずつ変数として扱われます。\text{} か \mathrm{} で直立体にしましょう。
間違い5:添字に括弧を使おうとして ^() と書く
% NG: 意図した結果にならない
$x^(n+1)$ % x^( の後に n+1) が続く
% OK: ブレースで囲む
$x^{n+1}$
括弧 () は LaTeX では通常の括弧として表示されます。上付き・下付きには必ずブレース {} を使います。
9. 選択フローチャート
上付き・下付きを書くときの判断の流れをまとめます。
Step 1: どちらを使うか
– 右肩(指数・冪)→ ^
– 右足(添字・インデックス)→ _
– 左肩・左足(前置)→ {}^ と {}_{}
Step 2: ブレースが必要か
– 1文字のみ → ブレース不要(つけても可)
– 2文字以上(数字・記号・英字含む)→ 必ずブレース
– 式を含む(n+1、-x など)→ 必ずブレース
Step 3: 大型演算子の場合
– \sum、\prod のブロック数式 → デフォルトで上下配置
– インライン数式で上下配置 → \limits を付ける
– \int → デフォルトで側面配置。上下にするなら \limits
Step 4: テキストを含む場合
– 英単語の添字(max、min、ref など)→ \text{...} か \mathrm{...} で包む
– 数学関数(max、min、argmax など)→ 専用コマンド(\max、\min、\arg\max)を使う
実装で確認する:Python で添字を含む数式を表示する
LaTeXの添字記法は、Pythonのmatplotlibでも使えます(mathtext機能)。実際に図のタイトルや軸ラベルで数式添字を使う例を示します。
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
import numpy as np
# 日本語フォント設定
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(11, 4))
# 左: べき乗の可視化
ax = axes[0]
x = np.linspace(-2, 2, 200)
for n, color in [(1, "#7ec8e3"), (2, "#ff6b9d"), (3, "#ffa94d"), (4, "#a8d8a8")]:
ax.plot(x, x**n, label=f"$x^{n}$", color=color, lw=2)
ax.set_xlabel("$x$", fontsize=13)
ax.set_ylabel("$x^n$ の値", fontsize=13)
ax.set_title("べき乗 $x^n$ の比較", fontsize=13)
ax.legend(fontsize=11)
ax.set_ylim(-3, 3)
ax.axhline(0, color="white", lw=0.5, alpha=0.3)
ax.axvline(0, color="white", lw=0.5, alpha=0.3)
ax.set_facecolor("#2a2a3e")
ax.tick_params(colors="white")
for spine in ax.spines.values():
spine.set_edgecolor("#555555")
# 右: 指数関数と添字
ax = axes[1]
x = np.linspace(0, 3, 200)
for a, color in [(0.5, "#7ec8e3"), (1.0, "#ff6b9d"), (2.0, "#ffa94d")]:
ax.plot(x, np.exp(-a * x), label=f"$e^{{-{a}x}}$", color=color, lw=2)
ax.set_xlabel("$x$", fontsize=13)
ax.set_ylabel("$e^{-ax}$ の値", fontsize=13)
ax.set_title("指数減衰 $e^{-ax}$(a の違い)", fontsize=13)
ax.legend(fontsize=11)
ax.set_facecolor("#2a2a3e")
ax.tick_params(colors="white")
for spine in ax.spines.values():
spine.set_edgecolor("#555555")
fig.patch.set_facecolor("#1e1e2e")
plt.tight_layout()
plt.savefig("supsub_demo.png", dpi=150, bbox_inches="tight", facecolor="#1e1e2e")
plt.show()
グラフから2点が読み取れます。左パネルでは $n$ が偶数(2,4)のとき $x^n$ は常に非負で対称な形、奇数(1,3)のときは原点対称の奇関数になっています。これは ^ で指定した指数が「べき乗の数学的性質を忠実に反映している」ことを視覚的に確認する例です。右パネルでは e^{-ax} の上付き -ax が、a の値に応じた減衰速度の違いをそのまま表現しています。a = 2.0 では急速に減衰し、a = 0.5 ではゆっくり減衰します。上付き文字の {-ax} が「ブレースで囲んだ複数文字の式」の典型例として機能しています。
まとめ
本記事では、LaTeX/KaTeXで上付き・下付き文字を書く方法をリファレンス形式で解説しました。
| 操作 | コマンド | 重要ルール |
|---|---|---|
| 上付き文字 | x^2、x^{10} |
2文字以上は {} 必須 |
| 下付き文字 | x_i、a_{ij} |
2文字以上は {} 必須 |
| 上下同時 | x_i^2(順序自由) |
どちらを先に書いても同じ |
| 入れ子 | x_{i_j}、2^{2^n} |
{} を積み重ねる |
| 二重上付き | (x^2)^3(括弧で明示) |
x^2^3 はエラー |
| 前置左添字 | {}^{14}_{6}\mathrm{C} |
空ブレース {} を利用 |
| 総和の上下限 | \sum_{i=1}^{n} |
^ が上限、_ が下限 |
| テキスト添字 | x_{\text{max}} |
\text{} で直立体に |
迷ったら {} ——添字が何文字であれブレースで囲む習慣をつけると、ほとんどのエラーと表示崩れを防げます。LaTeXの添字はすべての数式の土台となる機能です。本記事を手元に置いて、必要なときに逆引き早見表から引けるようにしておきましょう。