数式を書いていると、「掛け算の記号は $\times$ と $\cdot$ とどちらを使えばいいのか」「割り算は $\div$ よりも分数のほうがよいのか」という疑問は誰でも一度は持ちます。さらに「アルファベットの x を掛け算に使ってしまい、変数 $x$ と見分けがつかない」という失敗は、LaTeX を書き始めたときに非常によく起こるミスです。
この記事では、四則演算の記号 $\times$、$\div$、$\cdot$、$\pm$ を中心に、LaTeX/KaTeX での正確な書き方をリファレンス形式でまとめます。記号ごとの使い分けの原則から、コピペできる実例まで、一気通貫で整理します。
なぜこれを学ぶのかを二点で示します。ひとつは論文・レポートの数式品質です。 $2 \times 3$ を 2 x 3 と書いてしまうと、変数 $x$ との区別がつかず読者に混乱を与えます。もうひとつはKaTeX ブログや Markdown 環境での数式表示です。環境によって対応コマンドが異なるため、「動くコード」と「動かないコード」を事前に把握しておく必要があります。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
- 掛け算の 3 流派($\times$ / $\cdot$ / 並置)と使い分け
- 割り算:$\div$・分数・スラッシュの使い分け
- プラスマイナス:$\pm$(pm)と $\mp$(mp)の実戦例
- ドット・点の種類($\cdot$, $\bullet$, $\circ$, $\ast$)の比較
- 比・約:$\propto$, $\approx$, コロン比
- コピペ実例:解の公式・速度・信頼区間・次元解析
- KaTeX 互換表とよくある間違い

この図が記事全体の地図です。掛け算($\times$ / $\cdot$ / 並置)・割り算($\div$ / $\frac{a}{b}$ / /)・プラスマイナス($\pm$ / $\mp$)・ドット類・大型演算子・比と約の 6 グループに分けて整理しています。以降のセクションで各グループを詳しく見ていきます。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 条件・備考 |
|---|---|---|---|
| 数値の掛け算 $2 \times 3$ | \times |
$\times$ | KaTeX 対応。数値・物理量に |
| 変数の積(中黒) | \cdot |
$\cdot$ | KaTeX 対応。変数・ベクトル内積に |
| 変数の積(並置) | ab(そのまま並べる) |
$ab$ | 代数式では最多 |
| 割り算 $a \div b$ | \div |
$\div$ | KaTeX 対応。初等的な表記 |
| 分数 $\frac{a}{b}$ | \frac{a}{b} |
$\frac{a}{b}$ | KaTeX 対応。論文・教科書の標準 |
| インライン分数 $a/b$ | a/b |
$a/b$ | 素の /。本文中の軽い表記に |
| プラスマイナス $\pm$ | \pm |
$\pm$ | KaTeX 対応。二次方程式・誤差に |
| マイナスプラス $\mp$ | \mp |
$\mp$ | KaTeX 対応。三角関数加法定理に |
| 中黒点(演算) | \cdot |
$\cdot$ | ベクトル内積・変数の積 |
| 黒丸 | \bullet |
$\bullet$ | 箇条書き・二項演算 |
| 白丸(写像合成) | \circ |
$\circ$ | $(f \circ g)$ の合成 |
| アスタリスク | \ast |
$\ast$ | 畳み込み・複素共役 |
| 比 $a:b$ | a : b |
$a : b$ | 素のコロン |
| 比例 $\propto$ | \propto |
$\propto$ | KaTeX 対応 |
| 近似 $\approx$ | \approx |
$\approx$ | KaTeX 対応 |
| 総乗 $\prod$ | \prod |
$\prod$ | KaTeX 対応。大型演算子 |
細かい説明に入る前に、全コマンドをここから引けるようにしました。各行の詳細は以降のセクションで順に解説します。
1. 掛け算の 3 流派:\times / \cdot / 並置
掛け算の書き方には大きく 3 つの流派があります。どれを使うかは「何と何を掛けるか」によって決まります。この原則を理解すると、論文や教科書の数式が一気に読みやすくなります。

図の 3 枚のカードが流派の違いを整理しています。左が \times(数値同士)、中央が \cdot(変数や内積)、右が並置(代数式一般)です。それぞれの使い分けを見ていきます。
流派 1:\times(掛け算記号)
\times は「×」という見た目の掛け算記号です。数値同士や物理量の単位を掛けるときに使います。
$$ 3 \times 4 = 12 $$
$$ F = 10 \times 9.8 \quad [\mathrm{N}] = [\mathrm{kg}] \times [\mathrm{m/s}^2] $$
$3 \times 4 = 12$
$[\mathrm{N}] = [\mathrm{kg}] \times [\mathrm{m/s}^2]$
ポイントは「数値が出てきたら \times」という原則です。「$2x$」と書いたとき、これは「2 と $x$ の積」ですが、$2 \times x$ とは書きません。理由は次の流派で説明します。
なお、\times はベクトルの外積(クロス積)にも使います。
$$ \bm{a} \times \bm{b} = |\bm{a}||\bm{b}|\sin\theta \, \hat{n} $$
数値の掛け算と外積の両方を \times で表すのが標準的な慣習です。
流派 2:\cdot(中黒点)
\cdot は「·」(中黒点)です。変数同士の積やベクトルの内積に使います。
$$ f(x) \cdot g(x) = f(x)g(x) $$
$$ \bm{a} \cdot \bm{b} = |\bm{a}||\bm{b}|\cos\theta $$
$f(x) \cdot g(x)$
$\bm{a} \cdot \bm{b} = |\bm{a}||\bm{b}|\cos\theta$
\cdot は「内積はドットで書く」という慣習に従う場合に特に重要です。$\bm{a} \cdot \bm{b}$ と書くと内積であることが一目でわかり、$\bm{a} \times \bm{b}$(外積)と区別できます。
流派 3:並置(記号を並べる)
代数式で最も多く使われるのが、記号を並べるだけの並置です。
$$ xy, \quad f(x)g(x), \quad 2n, \quad abc $$
$xy$, $f(x)g(x)$, $2n$, $abc$
LaTeX は数式モード内で「隣り合う記号は積」と解釈します。$xy$ と書けば $xy$($x$ と $y$ の積)として自動的に表示されます。代数式では並置が最もシンプルで標準的な書き方です。
3 流派の使い分けをまとめると、「数値や単位には \times」「内積など二項演算子の意味を明示したいときは \cdot」「それ以外の代数的な積は並置」が原則です。次に、最もよくある間違いである「アルファベット x の誤用」を見ます。
2. ×(times)と x(アルファベット)の混同に注意
LaTeX を使い始めた人が最もよくやるミスが、掛け算にアルファベットの x を使うことです。

図の左(NG)では 2 x 3 = 6 とアルファベット x を使っています。これは変数 $x$ と見分けがつかないため、読者は「$2x$ という式が 3 に等しい」と解釈してしまいます。図の右(OK)では \times を使って $2 \times 3 = 6$ と書いており、掛け算記号であることが明確です。
% NG: アルファベット x を掛け算に使っている
$2 x 3 = 6$ % 変数 x と区別できない
% OK: \times コマンドを使う
$2 \times 3 = 6$ % 掛け算記号であることが明確
「x と \times は見た目が似ているから大丈夫では?」と思うかもしれませんが、LaTeX の数式モードでは x は斜体の変数として表示され、\times は立体の掛け算記号として表示されます。レンダリング後の見た目は全く異なります。
特に注意が必要な場面は二つあります。一つ目は「$3x = 9$」のような方程式を書くとき、3 x 9 と誤記すると式の意味が変わります。二つ目は「マトリクスのサイズ表記」で、「$3 \times 3$ 行列」を 3 x 3 行列 と書くと変数が混じった式に見えます。
$$ A = 3 \times 3 \text{ 行列} \quad \longrightarrow \quad \texttt{\$3 \backslash times 3\$} $$
この原則は単純です。「掛け算には必ず \times か \cdot か並置を使い、x は変数専用にする」と決めれば混乱が防げます。
掛け算を正しく書ける準備が整いました。次は割り算の記号に進みます。
3. 割り算:\div・分数・スラッシュの使い分け
割り算には $\div$(div)、分数 $\frac{a}{b}$(frac)、スラッシュ / の 3 通りがあります。使う場面が明確に分かれているので整理します。

図の左が \div、右が \frac です。どちらも同じ割り算を意味しますが、論文・教科書での使用頻度は大きく異なります。
\div(÷ 記号)
\div は日本の小学校で習う「÷」の記号です。
$$ 6 \div 2 = 3 $$
$6 \div 2 = 3$
\div は KaTeX でも LaTeX でも問題なく使えます。ただし、大学レベル以上の数式では ÷ が論文に登場することは稀です。理由は単純で、$\frac{a}{b}$ の方が分子と分母が視覚的に明確だからです。「速度 = 距離 ÷ 時間」と書くより「$v = \frac{d}{t}$」と書く方が構造が一目でわかります。
\div の実用的な用途は「一般向けの説明文」や「初等的な計算の強調」に限られます。
\frac(分数)
論文・教科書では \frac が割り算の標準形です。
$$ v = \frac{d}{t}, \qquad \bar{x} = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} x_i $$
$v = \frac{d}{t}$
$\bar{x} = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} x_i$
インライン数式(本文の途中)で \frac を使うと文字が小さくなることがあります。このときは \dfrac(displaystyle frac)を使うと分数を大きく表示できます。
$$ \text{インライン:} \quad v = \tfrac{d}{t} \qquad \text{ディスプレイ:} \quad v = \dfrac{d}{t} $$
% 小さい(テキストサイズ)
$v = \tfrac{d}{t}$
% 大きい(ディスプレイサイズ)
$v = \dfrac{d}{t}$
% ブロック数式(\frac で自動的に大きくなる)
$$v = \frac{d}{t}$$
ブロック数式($$...$$)の中では \frac でも自動的に大きく表示されます。\dfrac が必要なのはインライン数式で大きく表示したい場合だけです。
スラッシュ /
本文中の軽い表記に使います。
$$ a/b, \quad m/s^2, \quad \sin(\theta)/(2\pi) $$
$a/b$, $m/s^2$
スラッシュは「分子/分母」が一行に収まる程度の単純な分数、または単位の表記に使います。複雑な分数は \frac を使う方が読みやすくなります。
使い分けの原則は「初等的な説明や強調には \div」「論文・教科書の分数には \frac」「単位や軽い表記にはスラッシュ /」です。次はプラスマイナスに進みます。
4. プラスマイナス:\pm と \mp の実戦例
$\pm$ と $\mp$ は「2 つの場合をまとめて 1 行で書く」ときに使います。一見地味なコマンドですが、使いこなすと数式が大幅にすっきりします。

図の 4 枚のカードが主要な実戦例を示しています。左上が最も有名な二次方程式の解の公式、右上が誤差表記、下段が三角関数の加法定理です。
\pm(±, プラスマイナス)
$$ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a} $$
$$
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}
$$
二次方程式の解の公式は $\pm$ の最も有名な使い方です。「$+$ の場合の解」と「$-$ の場合の解」を一つの式でまとめています。読む側は「$\pm$ が現れたら 2 通りの場合がある」と解釈します。
誤差表記でも頻出します。
$$ \mu \pm \sigma \quad \text{(平均 ± 標準偏差)} $$
$\mu \pm \sigma$
測定値の誤差範囲を表すときに「値 $\pm$ 誤差」の形で使います。機械学習の実験結果の表でも「$0.823 \pm 0.015$」のような形でよく見ます。
\mp(∓, マイナスプラス)
\mp は \pm の「符号が逆」のバリアントです。三角関数の加法定理で登場します。
$$ \sin(\alpha \pm \beta) = \sin\alpha\cos\beta \pm \cos\alpha\sin\beta $$
$$ \cos(\alpha \pm \beta) = \cos\alpha\cos\beta \mp \sin\alpha\sin\beta $$
$\sin(\alpha \pm \beta) = \sin\alpha\cos\beta \pm \cos\alpha\sin\beta$
$\cos(\alpha \pm \beta) = \cos\alpha\cos\beta \mp \sin\alpha\sin\beta$
上の行の $\pm$ が「+のとき」なら、下の行の $\mp$ は「−のとき」になります。この対応を複号同順・複号異順と呼びます。
- 複号同順:$\pm$ が揃って動く(sin の公式の両辺は
\pmで同じ) - 複号異順:$\pm$ と $\mp$ が逆に動く(cos の公式の上下が入れ替わる)
\pm を「plus-minus の頭文字」、\mp を「minus-plus の頭文字」と覚えると混乱しません。pm のコマンド名はそのまま記憶できます。
$\pm$ と $\mp$ を押さえたところで、次は見た目が似ていて混同しやすい「ドット・点の仲間たち」を整理します。
5. ドット・点の種類:\cdot, \bullet, \circ, \ast の違い
LaTeX には「点」や「丸」を表すコマンドがいくつかあり、それぞれ用途が異なります。見た目は似ていますが使う場面は全く違うので整理します。

図の 5 枚のカードで各記号の外観と用途が一覧になっています。左から \cdot、\bullet、\circ、\ast、\star の順です。
\cdot(·, 中黒点)— 演算子
\cdot は変数や式の積を表す中黒点です。前述のとおりベクトルの内積や変数の積に使います。
$$ f \cdot g, \quad \bm{a} \cdot \bm{b}, \quad 2 \cdot 3 $$
重要な注意:\cdot(1 点)と \cdots(3 点リーダ)は別物です。
$$ a_1 \cdot a_2 \quad \text{(積)} \qquad a_1, a_2, \cdots, a_n \quad \text{(省略)} $$
$a_1 \cdot a_2$ % 積
$a_1, a_2, \cdots, a_n$ % 省略(3点リーダ)
省略の 3 点には \cdots(中段)または \ldots(下段)を使います。\cdot を 3 つ書いてもスペーシングが崩れます。
\bullet(•, 黒丸)
\bullet は塗りつぶされた丸です。箇条書きの記号として使われることもありますが、数式中では任意の二項演算子を表すために使われます。
$$ a \bullet b \quad \text{(抽象的な演算)} $$
\circ(○, 白丸)— 写像の合成
\circ は白丸で、写像の合成を表す演算子として使います。
$$ (f \circ g)(x) = f(g(x)) $$
$(f \circ g)(x) = f(g(x))$
$f \circ g$ は「まず $g$ を適用してから $f$ を適用する」写像の合成です。関数解析や圏論では必須の記号です。
\ast(∗, アスタリスク)
\ast は asterisk(アスタリスク)で、主に畳み込みと複素共役に使います。
$$ (f * g)(t) = \int_{-\infty}^{\infty} f(\tau) g(t – \tau) \, d\tau \quad \text{(畳み込み)} $$
$$ z^* = a – bi \quad \text{(複素共役)} $$
$(f * g)(t) = \int f(\tau) g(t-\tau) d\tau$
$z^* = a - bi$
キーボードの * をそのまま数式モードで使うと、LaTeX では上付き文字のアスタリスクとして扱われる場合があります。演算子として使うときは \ast の方が明示的です。
各ドット記号の使い分けを整理できたところで、「比」と「約」に関する記号に進みます。
6. 比・約・比例:コロン比・\propto・\approx
掛け算・割り算と関係の深い「比・約・比例」の記号も一緒に押さえます。
コロン比 a:b
$a:b$ という比の表記は、素のコロン : を使います。
$$ 1 : 2 : 3, \quad m : n $$
$1 : 2 : 3$
$m : n$
KaTeX/LaTeX ともにコロンは「コロン(句読点)」として扱われるため、前後のスペーシングが少し詰まります。比の表記として使う場合は \mathrel{:} で関係演算子として扱うと左右が均等になります。
$$ a \mathrel{:} b $$
$a \mathrel{:} b$
ただし、日常的な比の表記では素の : でも十分に通用します。
\propto(∝, 比例)
$$ y \propto x^2 \quad \Leftrightarrow \quad y = kx^2 \; (\exists k \neq 0) $$
$y \propto x^2$
「$y$ は $x^2$ に比例する」という関係を表します。比例定数を省いて構造だけ示したいときに便利です。機械学習のベイズ推定では頻出します。
$$ P(\theta | \mathcal{D}) \propto P(\mathcal{D} | \theta) \, P(\theta) $$
$P(\theta | \mathcal{D}) \propto P(\mathcal{D} | \theta) P(\theta)$
「比例定数を $P(\mathcal{D})$ として省略した」ことを $\propto$ が示しています。
\approx(≈, 近似)
$$ \pi \approx 3.14159, \quad e \approx 2.718 $$
$\pi \approx 3.14159$
「近似的に等しい」を表します。テイラー展開の打ち切りや数値計算の結果に使います。
$$ \sin\theta \approx \theta \quad (\theta \ll 1) $$
$\sin\theta \approx \theta \quad (\theta \ll 1)$
なお、定義記号 $:=$ や恒等式の $\equiv$ については別記事(latex-definition-symbols)で詳しく解説しています。
比・約の記号を押さえたところで、大型演算子($\prod$ など)への橋渡しをします。
7. 大型演算子版:\prod(総乗)への橋渡し
掛け算の「大型演算子版」が \prod(総乗、総積)です。総和 $\sum$ の掛け算版と考えると直感的です。
$$ \prod_{i=1}^{n} a_i = a_1 \cdot a_2 \cdot a_3 \cdots a_n $$
$$
\prod_{i=1}^{n} a_i = a_1 \cdot a_2 \cdots a_n
$$
\prod はブロック数式($$...$$)の中では大きな $\prod$ として表示され、上下に添字が付きます。インライン数式では小さく表示されます。
確率論での代表例が尤度関数です。
$$ L(\theta) = \prod_{i=1}^{n} P(x_i | \theta) $$
$$
L(\theta) = \prod_{i=1}^{n} P(x_i | \theta)
$$
$n$ 個の観測値が独立であるという仮定のもと、各確率の積が尤度になります。総和 $\sum$ の掛け算版として自然に理解できます。
テンソル積($\otimes$)や直和($\oplus$)など「記号がついた大型演算子」については、テンソル積・直和記事(latex-tensor-product)で詳しく解説しています。
また総和 $\sum$ の詳細な使い方は総和・総乗記事(latex-sum-product)を参照してください。
大型演算子の存在を確認できたところで、すべての記号を使ったコピペ実例を見ます。
8. コピペ実例:解の公式・速度・信頼区間・次元解析
これまで学んだ記号を組み合わせた、実際に使える 4 つの実例です。このまま LaTeX/KaTeX にコピペして確認できます。

図の 4 枚が実例の一覧です。左上から順に解説します。
実例 1:二次方程式の解の公式
$$ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a} $$
$$
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}
$$
使われている記号:\frac(分数)、\pm(プラスマイナス)、\sqrt(平方根)。$\pm$ が「2 つの解を 1 行でまとめる」役割を担っています。$a > 0$ なら判別式 $b^2 – 4ac$ の正負によって解の個数が決まります。
実例 2:速度 = 距離 ÷ 時間
$$ v = \frac{d}{t} $$
$$
v = \frac{d}{t}
$$
日常語では「速度 = 距離 ÷ 時間」と書きますが、数式では \frac で分数として表します。$\div$ を使って $v = d \div t$ とも書けますが、$\frac{d}{t}$ の方が分子・分母が明確で論文水準の記法です。
実例 3:標準偏差による信頼区間
$$ \bar{x} \pm z_{\alpha/2} \cdot \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
$$
\bar{x} \pm z_{\alpha/2} \cdot \frac{\sigma}{\sqrt{n}}
$$
使われている記号:\pm(信頼区間の範囲)、\cdot(掛け算の中黒)、\frac(分数)。1 つの数式の中で \pm と \cdot と \frac が共存する典型例です。$z_{\alpha/2}$ は正規分布の上側 $\alpha/2$ 点です。
実例 4:次元解析の掛け算
$$ F = m \times a \qquad [\mathrm{N}] = [\mathrm{kg}] \times [\mathrm{m/s}^2] $$
$$
F = m \times a \qquad [\mathrm{N}] = [\mathrm{kg}] \times [\mathrm{m/s}^2]
$$
物理量の単位を掛け合わせるときに \times を使います。$F = ma$ の変数式は並置でもよいですが、次元の組み合わせを示す場合は \times を明示すると読者にとって明確です。
4 つの実例が整理できたところで、この記事で登場した記号の KaTeX 互換表を確認します。
9. KaTeX 互換表
本ブログ(KaTeX 使用)での各記号の対応状況をまとめます。
| コマンド | 表示 | KaTeX 対応 | 備考 |
|---|---|---|---|
\times |
$\times$ | 対応 | 掛け算・外積 |
\cdot |
$\cdot$ | 対応 | 中黒点・内積 |
\div |
$\div$ | 対応 | 割り算記号 |
\frac{a}{b} |
$\frac{a}{b}$ | 対応 | 分数(標準) |
\dfrac{a}{b} |
$\dfrac{a}{b}$ | 対応 | 分数(インライン大) |
\tfrac{a}{b} |
$\tfrac{a}{b}$ | 対応 | 分数(テキストサイズ) |
\pm |
$\pm$ | 対応 | プラスマイナス |
\mp |
$\mp$ | 対応 | マイナスプラス |
\bullet |
$\bullet$ | 対応 | 黒丸 |
\circ |
$\circ$ | 対応 | 白丸(写像合成) |
\ast |
$\ast$ | 対応 | アスタリスク |
\star |
$\star$ | 対応 | 星型 |
\propto |
$\propto$ | 対応 | 比例 |
\approx |
$\approx$ | 対応 | 近似 |
\prod |
$\prod$ | 対応 | 総乗 |
\cdots |
$\cdots$ | 対応 | 3 点リーダ(中段) |
\ldots |
$\ldots$ | 対応 | 3 点リーダ(下段) |
この表から、この記事で扱った記号はすべて KaTeX で問題なく表示されることがわかります。LaTeX(PDF 出力)でも同様に、amsmath や amssymb などの一般的なパッケージがあれば全て使えます。
10. よくある間違いと修正
間違い 1:アルファベット x を掛け算に使う
これが最も多い間違いです。
% NG: 変数 x と区別できない
$2 x 3 = 6$
$3 x 3 行列$
% OK: \times を使う
$2 \times 3 = 6$
$3 \times 3 行列$
掛け算には必ず \times か \cdot か並置を使い、x は変数専用に取っておきましょう。
間違い 2:÷ を論文に多用する
% 初等的な表記(一般向けの説明なら OK)
$v = d \div t$
% 論文・教科書では分数を使う
$v = \frac{d}{t}$
$\div$ 自体は間違いではありませんが、大学レベル以上の数式では \frac を使う方が標準的で読みやすくなります。
間違い 3:\cdot と \cdots(3 点リーダ)の混同
% 積(1点)
$a_1 \cdot a_2$
% 省略(3点)
$a_1, a_2, \cdots, a_n$ % 中段に揃う
$a_1, a_2, \ldots, a_n$ % 下段に揃う
\cdot は 1 点で演算子、\cdots と \ldots は 3 点で省略です。「$a_1 \cdot a_2 \cdot a_n$」と書くつもりが \cdots を使ってしまうと意味が変わります。
間違い 4:* をそのまま演算子として使う
数式モードで * を単独で書くと、環境によっては上付き文字のアスタリスクとして扱われます。
% 注意: 環境依存
$f * g$ % 一部の環境では上付き扱い
% 明示的に演算子として書く
$f \ast g$ % \ast を使う
畳み込みや複素共役に使う場合は \ast を明示した方が安全です。
間違い 5:\pm と \mp の混同(三角関数の加法定理)
% 間違い: cos の公式で pm を揃えてしまう
$\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha\cos\beta + \sin\alpha\sin\beta$ % これは展開
$\cos(\alpha - \beta) = \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta$ % これも展開
% 正しい: \pm と \mp で同時に表現
$\cos(\alpha \pm \beta) = \cos\alpha\cos\beta \mp \sin\alpha\sin\beta$
$\cos$ の加法定理では符号が入れ替わる(複号異順)ことに注意します。\pm と \mp の違いを意識することが重要です。
11. 使い分けフローチャート
「どの掛け算記号を使えばよいか」は以下のフローチャートで一瞬で判断できます。

フローチャートの読み方は次のとおりです。「どちらかが純粋な数値(2, 3, kg など)か?」という第一の問いで \times か否かが分かれます。数値でなければ「ベクトルの内積か?」という第二の問いで \cdot か否かが分かれます。それ以外の一般的な代数的積は並置(記号を並べる)が最もシンプルです。そして底部の注意書きにあるように、「アルファベット x を掛け算に使わない」という原則が大前提です。
まとめ
本記事では、LaTeX/KaTeX での四則演算記号の書き方をリファレンス形式で解説しました。
| 記号 | コマンド | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| $\times$ | \times |
数値の積・物理量・外積 |
| $\cdot$ | \cdot |
変数の積・ベクトル内積 |
| 並置 | なし | 代数式一般(最も多い) |
| $\div$ | \div |
初等的な割り算(論文では稀) |
| $\frac{a}{b}$ | \frac{a}{b} |
論文・教科書の分数(標準) |
| $\pm$ | \pm |
複号・誤差表記 |
| $\mp$ | \mp |
複号異順(三角関数等) |
| $\cdot$ | \cdot |
演算の中黒点 |
| $\circ$ | \circ |
写像の合成 |
| $\ast$ | \ast |
畳み込み・複素共役 |
| $\propto$ | \propto |
比例 |
| $\approx$ | \approx |
近似 |
まとめ 3 原則:
- 掛け算は「数値なら
\times」「変数や内積なら\cdot」「代数なら並置」で迷わない - 割り算は「論文・教科書なら
\frac」「説明文なら\divも可」 \pm/\mpは「2 つの場合をまとめる」ためのツール