【LaTeX】絶対値・ノルムの書き方 — |x|, \lvert, \|x\| とスペーシング

レポートやスライドで $|x|$ をきれいに書きたい。誤差 $|y – \hat{y}|$ や複素数の大きさ $|z|$ をLaTeXで打ちたい。ところが縦線 | をそのまま2本打つと、なぜか間隔が詰まったり、分数を囲んだときに縦線だけ短くなったりします。「| で囲むだけでしょ?」と思って書き始めると、意外と落とし穴の多いのが絶対値です。

この記事では、まず絶対値を中心に、つまずきやすいポイントを一つずつ潰していきます。

  • 素の | を使う方法と、推奨される \lvert x \rvert の違い
  • || のように縦線を直接2本打つと間隔が崩れる問題と、その回避法
  • 分数を囲むときの \left| \right| による自動サイズ調整
  • \big \Big \bigg \Bigg による手動サイズ指定
  • 複素数の絶対値、集合の濃度、床関数・天井関数・行列式など「縦線が出てくる」紛らわしい記法

そのうえで、絶対値の自然な拡張であるノルム \|x\|(二重縦線)、$L^1$/$L^2$/$L^\infty$ などの p-ノルム、行列ノルムまで進みます。絶対値はスカラーの大きさ、ノルムはベクトルや行列の大きさ。同じ「大きさを測る道具」でも縦線の本数が違う、という関係を押さえれば一気に整理できます。

絶対値とノルムは、機械学習の正則化($\|\bm{w}\|_2^2$ や $\|\bm{w}\|_1$)、信号処理の誤差評価、最適化の収束条件など、理工系のあらゆる場面で登場します。正しく書けるとレポートの見栄えが一段上がります。

絶対値とノルムの違いの概念図

この図が記事全体の地図です。左の絶対値は縦線1本でスカラーの大きさ、右のノルムは縦線2本でベクトル・行列の大きさを表します。どちらも「素の縦線」と「開き・閉じを区別する正式記法(\lvert\rvert / \lVert\rVert)」の2通りの書き方がある、という構造を頭に入れて読み進めてください。

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く

細かい解説の前に、よく使うパターンを一覧にまとめます。「とりあえずこれをコピペしたい」場合はこの表だけで足りることも多いはずです。各行の詳細は後続のセクションで解説します。

やりたいこと LaTeXコマンド 表示
絶対値(素の縦線) |x| $\lvert x \rvert$
絶対値(正式・推奨) \lvert x \rvert $\lvert x \rvert$
差の絶対値 \lvert a - b \rvert $\lvert a-b \rvert$
分数を囲む(自動サイズ) \left| \frac{a}{b} \right| $\left\lvert \frac{a}{b} \right\rvert$
ノルム(二重縦線) \|\bm{x}\| $\lVert \bm{x} \rVert$
ノルム(正式・推奨) \lVert \bm{x} \rVert $\lVert \bm{x} \rVert$
$L^1$ / $L^2$ / $L^\infty$ ノルム \|\bm{x}\|_1,\ \|\bm{x}\|_2,\ \|\bm{x}\|_\infty $\lVert \bm{x} \rVert_1,\ \lVert \bm{x} \rVert_2,\ \lVert \bm{x} \rVert_\infty$
ノルムの2乗 \|\bm{x}\|^2 $\lVert \bm{x} \rVert^2$
行列式(縦線) \det(A) または |A| $\det(A)$
集合の濃度 |S| $\lvert S \rvert$
床関数・天井関数 \lfloor x \rfloor,\ \lceil x \rceil $\lfloor x \rfloor,\ \lceil x \rceil$

ポイントは「縦線1本=絶対値(スカラーの大きさ)、縦線2本=ノルム(ベクトル・行列の大きさ)」という対応です。そして素の | より、開き・閉じを区別する \lvert\rvert / \lVert\rVert を使うのが正式、という2点を押さえれば大半の場面に対応できます。以下で一つずつ丁寧に見ていきましょう。

絶対値とは — 数直線上の距離

絶対値は、実数から符号を取り除いた「大きさ」です。$+3$ も $-3$ も大きさは $3$。式で書けば

$$ |x| = \begin{cases} x & (x \geq 0) \\ -x & (x < 0) \end{cases} $$

ですが、もっと直感的なのは「数直線上で原点からどれだけ離れているか」というイメージです。$|-3| = 3$ は「$-3$ は原点から $3$ だけ離れている」、$|5| = 5$ は「$5$ は原点から $5$ だけ離れている」という意味になります。だから絶対値は常に $0$ 以上です。

絶対値は数直線上の原点からの距離

図のように、$-3$ も $5$ も矢印の「長さ」だけを見るのが絶対値です。向き(符号)は捨てて距離だけを残す、と捉えると、後で出てくるノルム(ベクトルの長さ)への拡張が自然につながります。

この「距離」という見方は応用でも効いてきます。たとえば差の絶対値 $|a – b|$ は「$a$ と $b$ がどれだけ離れているか」、すなわち2点間の距離そのものです。誤差 $|y – \hat{y}|$ が小さいほど予測が正解に近い、というのも同じ発想です。

距離としての意味がわかったところで、これをLaTeXでどう書くかを見ていきましょう。

絶対値の書き方

いちばん素直な書き方:素の縦線 |

いちばん手軽なのは、縦線 | で式を囲む方法です。

$$ |x|, \quad |{-3}| = 3, \quad |a – b| $$

$$
|x|, \quad |{-3}| = 3, \quad |a - b|
$$

数式モードでは | はそのまま縦線として表示されます。中身が単純な変数や短い式なら、これで十分きれいに出ます。$|-3|$ のように負号を直接囲むと間隔が広がりすぎることがあるので、|{-3}| と中括弧 {} でまとめると安定します。

中身が単純なうちはこれで問題ありません。ただ、| には「開き括弧か閉じ括弧か」という情報がない、という弱点があります。これが次に説明する \lvert \rvert を使う理由になります。

きちんと書くなら \lvert x \rvert

() のように、絶対値にも「開き」と「閉じ」を区別する専用コマンドがあります。それが \lvert(left vertical、開き)と \rvert(right vertical、閉じ)です。

$$ \lvert x \rvert, \quad \lvert a – b \rvert $$

$$
\lvert x \rvert, \quad \lvert a - b \rvert
$$

見た目は素の |x| とほとんど同じですが、\lvert は開き括弧、\rvert は閉じ括弧として扱われるため、LaTeXが前後の余白(スペーシング)を正しく計算します。とくに絶対値の中に演算子が混じる式や、\left でサイズ調整するときに差が出ます。論文や教科書では \lvert\rvert を使うのが正式とされています。

縦線を直接2本打つと間隔が崩れる

ここが最大のつまずきポイントです。「ノルムは縦線2本だから」と ||x|| のように | を直接2本打つと、縦線どうしがくっついて間隔が詰まってしまいます。これは | が「演算子の縦線」として扱われ、隣り合うと不自然な間隔になるためです。

素の縦線とlvert・rvertのスペーシング比較

図の上2行が絶対値です。素の |x| でも単純な中身なら問題ありませんが、開き・閉じを区別したい場面では \lvert x \rvert を使うと余白が正しく入ります。下2行はノルムで、||x||(縦線2本)ではなく、二重縦線専用の \|x\|、あるいは \lVert x \rVert を使うのが正解です。縦線を素のまま2本以上打つのは避ける、と覚えておきましょう。

なぜ間隔が崩れるかというと、| は左右どちらの括弧でもない「中立な記号」なので、LaTeXは前後にどれだけ余白を入れるか判断できないからです。\lvert(開き)と \rvert(閉じ)なら役割が明示されるので、適切な余白が入ります。

中身が単純な式での書き方を押さえました。次は、分数のように「縦に大きい」中身を囲むときの問題を見ます。

分数を囲むとき:\left| \right| で自動サイズ調整

分数や総和など縦に大きい式を絶対値で囲むと、縦線が中身より短くなって不格好になります。そんなときは \left|\right| で囲むと、中身の高さに合わせて縦線が自動で伸びます。

$$ \left| \frac{a}{b} \right| $$

$$
\left| \frac{a}{b} \right|
$$

\left\right は必ずペアで使います。比較のため、自動調整しないとどうなるかを並べてみましょう。

$$ \left| \frac{a}{b} \right| \quad \text{と} \quad |\frac{a}{b}| $$

leftrightによる自動サイズ調整の有無の比較

図の左が \left| \right| を使わない場合で、縦線が分数より短く中途半端に見えます。右が \left| \right| を使った場合で、縦線が分数の高さに合わせて伸び、きちんと囲めています。中身に分数・総和・積分などが入ったら \left| \right| を使うのが鉄則です。

手動でサイズを指定する:\big \Big \bigg \Bigg

\left \right の自動調整がうまく決まらない場合や、あえてサイズを揃えたい場合は、手動でサイズを指定できます。小さい順に \big\Big\bigg\Bigg の4段階です。

$$ |x|, \quad \big| x \big|, \quad \Big| x \Big|, \quad \bigg| x \bigg|, \quad \Bigg| x \Bigg| $$

$$
|x|, \quad \big| x \big|, \quad \Big| x \Big|, \quad \bigg| x \bigg|, \quad \Bigg| x \Bigg|
$$

bigからBiggまでの手動サイズ指定

図のように、左の「通常」から右の \Bigg に向かって縦線が段階的に大きくなります。たとえば $\big| \cdot \big|$ は数式中の小さな括弧の入れ子で、外側と内側のサイズを変えて見やすくしたいときに便利です。中身に合わせて自動で決めたいなら \left| \right|、自分で段階を選びたいなら \big 系、と使い分けます。

複素数の絶対値

複素数 $z = a + bi$ の絶対値(modulus、モジュラス)は、実部・虚部からの距離として書きます。

$$ |z| = |a + bi| = \sqrt{a^2 + b^2} $$

$$
|z| = |a + bi| = \sqrt{a^2 + b^2}
$$

表記そのものは実数の場合と同じ |...| ですが、意味は「複素平面上で原点からの距離」です。実数の絶対値が数直線上の距離だったのと同じ発想を、平面に拡張したものと見ると自然です。中身に $\sqrt{\ }$ や分数が入って縦に大きくなる場合は、ここでも \left| \right| を使いましょう。

集合の濃度・行列式など「縦線が出てくる」紛らわしい記法

縦線は絶対値以外でも使われます。代表的なのが、集合 $S$ の要素数(濃度)を表す $|S|$ と、行列の行列式 $|A|$ です。

$$ |S| = 5, \qquad \det(A) = |A| $$

$$
|S| = 5, \qquad \det(A) = |A|
$$

行列式は $|A|$ とも書けますが、ノルム $\|A\|$ と紛らわしいので、誤解を避けたいときは \det(A) と書くのが安全です。縦線1本は絶対値・濃度・行列式、縦線2本はノルム、という対応を意識しておくと混同しません。

絶対値の書き方を一通り押さえました。次は、ベクトルの「大きさ」を表すノルムへ進みます。絶対値が数直線上の距離だったのを、空間内の距離へ拡張するイメージです。

ベクトルノルムの書き方

ノルムとは — 空間内のベクトルの長さ

ノルムは、絶対値を「ベクトルの大きさ」へ拡張した概念です。絶対値が数直線上の距離(1次元の大きさ)だったのに対し、ノルムは空間内のベクトルの長さ(多次元の大きさ)を測ります。

たとえば2次元ベクトル $\bm{x} = (3, 4)$ の長さは、三平方の定理から $\sqrt{3^2 + 4^2} = 5$ です。これがいちばん標準的なノルム($L^2$ ノルム)です。

ノルムはベクトルの長さ

図のように、原点から伸びる矢印の長さがノルムです。1次元だと絶対値、2次元以上だとノルム、と考えれば、絶対値とノルムは地続きの概念だとわかります。実際、1次元のノルム $\|x\|$ は絶対値 $|x|$ に一致します。

基本的な書き方:二重縦線 \|

ノルムは二重の縦線で囲みます。LaTeXでは \| という専用コマンドで二重縦線を1記号として出せます。

$$ \|\bm{x}\| $$

$$
\|\bm{x}\|
$$

\|\Vert の短縮形で、どちらも同じ二重縦線 $\|$ を出力します。これが絶対値の単一縦線 | との最も重要な違いです。

きちんと書くなら \lVert x \rVert

絶対値に \lvert\rvert があったように、ノルムにも開き・閉じを区別する \lVert(大文字 V、開き)と \rVert(閉じ)があります。

$$ \lVert \bm{x} \rVert, \quad \lVert \bm{x} – \bm{y} \rVert $$

$$
\lVert \bm{x} \rVert, \quad \lVert \bm{x} - \bm{y} \rVert
$$

\| でも \lVert\rVert でも見た目はほぼ同じですが、開き・閉じが明示される \lVert\rVert のほうがスペーシングが安定し、正式とされます。なお、||x|| のように素の縦線を2本打つのは絶対にやめましょう。先ほどの図で見たとおり、縦線がくっついて間隔が崩れます。二重縦線は必ず \|\lVert\rVert で書きます。

サイズ調整

ノルムでも \left\|\right\|(または \big\| 系)で中身の高さに合わせて二重縦線を伸ばせます。

$$ \left\| \frac{\bm{a}}{\|\bm{a}\|} \right\| = 1 $$

$$
\left\| \frac{\bm{a}}{\|\bm{a}\|} \right\| = 1
$$

入れ子になったノルムでは、外側を \left\| \right\| でサイズ調整し、内側はそのままにすると見やすくなります。この式は「ベクトルを自分のノルムで割ると長さ1の単位ベクトルになる(正規化)」ことを表しています。

各種ノルムの表記

ノルムにはいくつかの種類があり、下付き文字で区別します。

ノルム LaTeX 定義 名称
$\|\bm{x}\|_1$ \|\bm{x}\|_1 $\sum_{i}\|x_i\|$ $L^1$ ノルム(マンハッタン距離)
$\|\bm{x}\|_2$ \|\bm{x}\|_2 $\sqrt{\sum_{i} x_i^2}$ $L^2$ ノルム(ユークリッド距離)
$\|\bm{x}\|_p$ \|\bm{x}\|_p $\left(\sum_{i} \|x_i\|^p\right)^{1/p}$ $L^p$ ノルム
$\|\bm{x}\|_\infty$ \|\bm{x}\|_\infty $\max_{i} \|x_i\|$ $L^\infty$ ノルム(最大値ノルム)

それぞれのノルムを数式で書くと次のようになります。

$$ \|\bm{x}\|_1 = \sum_{i=1}^{n} |x_i| $$

$$ \|\bm{x}\|_2 = \sqrt{\sum_{i=1}^{n} x_i^2} = \sqrt{\bm{x}^\mathrm{T}\bm{x}} $$

$$ \|\bm{x}\|_p = \left(\sum_{i=1}^{n} |x_i|^p\right)^{1/p} $$

$$ \|\bm{x}\|_\infty = \max_{1 \leq i \leq n} |x_i| $$

$$
\|\bm{x}\|_p = \left(\sum_{i=1}^{n} |x_i|^p\right)^{1/p}
$$

添字がない場合($\|\bm{x}\|$)は、文脈から明らかなノルム(多くの場合は $L^2$ ノルム)を指します。下付き文字は \|\bm{x}\|_2 のように _\| の閉じの直後に付けます。$L^\infty$ ノルムの無限大は \infty で出します。

これら $p$ の値ごとにノルムは性格が変わります。違いを直感的に掴むために、「長さがちょうど1になる点の集合」(単位ノルムの集合)を $p$ ごとに描いてみましょう。

L1・L2・L∞ノルムの単位ボール

$\|\bm{x}\|_p = 1$ を満たす点の集合は、$L^1$ では菱形、$L^2$ ではおなじみの円、$L^\infty$ では正方形になります。同じ「長さ1」でも測り方(どの $p$ か)によって形がこれだけ変わる、というのがノルムの面白いところです。$L^1$ の菱形が軸上に尖っているのは、後で触れる Lasso($L^1$ 正則化)が「成分を0にしやすい」性質と直結しています。

$p$ を連続的に変えると、菱形から円、そして正方形へと滑らかに移り変わります。

pを連続的に変えた単位ボールの変形

$p = 1$ の菱形から $p = 2$ の円を経て、$p \to \infty$ で正方形に近づいていく様子が見て取れます。$p$ が大きいほど「いちばん大きい成分」だけが効くようになり、極限の $L^\infty$ では最大成分そのものになる、という式 $\|\bm{x}\|_\infty = \max_i |x_i|$ の意味が図からも納得できます。

機械学習での応用:正則化

機械学習では、過学習を防ぐためにノルムを正則化項として使います。

$$ \mathcal{L}(\bm{w}) = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \ell(y_i, f(\bm{x}_i; \bm{w})) + \lambda \|\bm{w}\|_2^2 $$

$$
\mathcal{L}(\bm{w}) = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \ell(y_i, f(\bm{x}_i; \bm{w})) + \lambda \|\bm{w}\|_2^2
$$

$\|\bm{w}\|_2^2$ は重みベクトルの $L^2$ ノルムの2乗(Ridge正則化)、$\|\bm{w}\|_1$ は $L^1$ ノルム(Lasso正則化)に対応します。

ベクトルノルムの書き方がわかりました。次に、行列に対するノルムの書き方を見ていきましょう。

行列ノルムの書き方

行列ノルムとは

行列のノルムは、行列の「大きさ」を1つの数値で表すものです。数値解析で行列の条件数を評価するとき、制御工学でシステムのゲインを測るときなどに使います。

フロベニウスノルム

行列のすべての要素の2乗和の平方根です。

$$ \|\bm{A}\|_F = \sqrt{\sum_{i=1}^{m} \sum_{j=1}^{n} |a_{ij}|^2} = \sqrt{\mathrm{tr}(\bm{A}^\mathrm{T}\bm{A})} $$

$$
\|\bm{A}\|_F = \sqrt{\sum_{i=1}^{m} \sum_{j=1}^{n} |a_{ij}|^2}
$$

添字の $F$ はフロベニウス(Frobenius)の頭文字です。

作用素ノルム

行列の作用素ノルム(induced norm)は、ベクトルに作用したときの最大の拡大率です。

$$ \|\bm{A}\|_p = \sup_{\bm{x} \neq \bm{0}} \frac{\|\bm{A}\bm{x}\|_p}{\|\bm{x}\|_p} $$

$$
\|\bm{A}\|_p = \sup_{\bm{x} \neq \bm{0}} \frac{\|\bm{A}\bm{x}\|_p}{\|\bm{x}\|_p}
$$

\sup は上限を表す演算子です。

特によく使われるのはスペクトルノルム($p = 2$ の場合)で、最大特異値に等しくなります。

$$ \|\bm{A}\|_2 = \sigma_{\max}(\bm{A}) $$

核ノルム

核ノルム(nuclear norm)は特異値の和で、低ランク行列の近似で使われます。

$$ \|\bm{A}\|_* = \sum_{i=1}^{\min(m,n)} \sigma_i(\bm{A}) $$

$$
\|\bm{A}\|_* = \sum_{i=1}^{\min(m,n)} \sigma_i(\bm{A})
$$

添字の $*$ はアスタリスクです。

行列ノルムの書き方を理解しました。次に、ノルムに関連するその他の記号を紹介します。

関連する記号

内積との関係

$L^2$ ノルムは内積から定義されます。

$$ \|\bm{x}\|_2 = \sqrt{\langle \bm{x}, \bm{x} \rangle} $$

$$
\|\bm{x}\|_2 = \sqrt{\langle \bm{x}, \bm{x} \rangle}
$$

\langle\rangle は角括弧で内積を表します。

距離

2つのベクトル間の距離はノルムで定義されます。

$$ d(\bm{x}, \bm{y}) = \|\bm{x} – \bm{y}\| $$

$$
d(\bm{x}, \bm{y}) = \|\bm{x} - \bm{y}\|
$$

コーシー・シュワルツの不等式

ノルムと内積に関する重要な不等式です。

$$ |\langle \bm{x}, \bm{y} \rangle| \leq \|\bm{x}\| \cdot \|\bm{y}\| $$

$$
|\langle \bm{x}, \bm{y} \rangle| \leq \|\bm{x}\| \cdot \|\bm{y}\|
$$

この式は、絶対値とノルムが同じ式の中に共存する好例です。左辺の内積 $\langle \bm{x}, \bm{y} \rangle$ はスカラーなので縦線1本の絶対値で囲み、右辺のベクトルの大きさは縦線2本のノルムで囲みます。

コーシー・シュワルツの不等式に絶対値とノルムが共存

図のとおり、左辺の縦線1本(スカラーの絶対値)と右辺の縦線2本(ベクトルのノルム)を取り違えると、意味がまったく変わってしまいます。同じ式に両方出てきたら、「中身がスカラーか、ベクトルか」で本数を判断すると確実です。

三角不等式

ノルムの基本的な性質の一つです。

$$ \|\bm{x} + \bm{y}\| \leq \|\bm{x}\| + \|\bm{y}\| $$

床関数・天井関数など縦線・角ばった括弧の仲間

縦線の仲間として、整数に丸める床関数 $\lfloor x \rfloor$(切り捨て)と天井関数 $\lceil x \rceil$(切り上げ)も覚えておくと便利です。絶対値の \lvert\rvert と名前が似ていて混同しがちですが、別物です。

$$ \lfloor 3.7 \rfloor = 3, \qquad \lceil 3.2 \rceil = 4 $$

$$
\lfloor 3.7 \rfloor = 3, \qquad \lceil 3.2 \rceil = 4
$$

ここまで出てきた「縦線・括弧系」の記法を一覧にまとめます。

床関数・天井関数・行列式など関連記法の一覧

表のように、縦線1本は絶対値・集合の濃度・行列式、二重縦線はノルム、床は \lfloor \rfloor、天井は \lceil \rceil と対応します。コマンド名の頭の l/r は left/right、floor/ceil は床/天井を表すので、覚えやすいはずです。

関連記号をまとめたところで、KaTeXでの互換性について確認しましょう。

LaTeX vs KaTeX の注意点

コマンド KaTeX対応 備考
| 対応 単一縦線(絶対値)
\lvert ... \rvert 対応 絶対値の開き・閉じ(推奨)
\| / \Vert 対応 二重縦線(ノルム)
\lVert ... \rVert 対応 ノルムの開き・閉じ(推奨)
\left\| ... \right\| 対応 サイズ自動調整
\big\| ... \big\| 対応 手動サイズ指定
\lfloor ... \rfloor 対応 床関数
\lceil ... \rceil 対応 天井関数
\langle ... \rangle 対応 角括弧(内積)
\sup 対応 上限

絶対値・ノルムに関するコマンドは、当ブログで使っているKaTeXでも標準のLaTeXでも同じように使えます。\lvert \lVert 系まで含めてサポートされているので、安心して正式な記法を使えます。

よくある間違いとTips

間違い1:絶対値とノルムの区別

絶対値は |...|(単一の縦線)、ノルムは \|...\|(二重の縦線)です。

% 絶対値(スカラー)
$|x|$

% ノルム(ベクトル)
$\|\bm{x}\|$

スカラーには絶対値、ベクトルや行列にはノルムを使いましょう。

間違い2:|| を使ってノルムを書く

||(素の縦線2本)と \|(二重縦線)は見た目が似ていますが、スペーシングがまったく違います。素の縦線を2本並べると、縦線どうしがくっついて間隔が崩れます。

% NG: || を使う(縦線がくっつき間隔が崩れる)
$||x||$

% OK: \| を使う
$\|\bm{x}\|$

% さらにきちんと書くなら開き・閉じを区別
$\lVert \bm{x} \rVert$

\|\lVert ... \rVert は二重縦線として正しいスペーシングが適用されます。常にこちらを使いましょう。同様に、絶対値も中身が複雑なら素の |...| より \lvert ... \rvert のほうが安全です。

間違い3:サイズ調整の不足

分数や総和を含むノルムでは、必ずサイズ調整を行いましょう。

% 見づらい(縦線が小さい)
$\|\frac{\bm{x}}{\|\bm{x}\|}\|$

% 見やすい(サイズ調整済み)
$\left\|\frac{\bm{x}}{\|\bm{x}\|}\right\|$

Tips:ノルムのマクロ定義

ノルムを頻繁に使う場合は、LaTeXのプリアンブルでマクロを定義すると便利です。

% プリアンブルで定義(開き・閉じを区別する記法で組むのが安全)
\newcommand{\norm}[1]{\left\lVert #1 \right\rVert}
\newcommand{\abs}[1]{\left\lvert #1 \right\rvert}

% 本文で使う
$\norm{\bm{x}}$    % → ‖x‖
$\abs{a - b}$      % → |a - b|

マクロの中身を \lvert\rvert \lVert\rVert で組んでおくと、呼び出すだけで常に正しいスペーシングになります。ただし、KaTeXでは \newcommand のサポートが限定的な場合があるため、ブログ記事に直接書くときは \left\lvert ... \right\rvert\left\| ... \right\| のように毎回書くのが確実です。

Tips:ノルムの2乗

ノルムの2乗は上付き文字を \| の外側に付けます。

$$ \|\bm{x}\|^2 = \bm{x}^\mathrm{T}\bm{x} = \sum_{i=1}^n x_i^2 $$

$$
\|\bm{x}\|^2 = \bm{x}^\mathrm{T}\bm{x}
$$

\|^2 のように直接上付き文字を付けるだけです。

まとめ

本記事では、LaTeXで絶対値とノルムを書く方法を解説しました。

  • 絶対値: 縦線1本。素の |x| でも書けるが、開き・閉じを区別する \lvert x \rvert が正式
  • || は使わない: 素の縦線を2本並べると間隔が崩れる。二重縦線は \|x\|\lVert x \rVert
  • サイズ調整: 分数などを囲むときは \left| ... \right| / \left\| ... \right\| で自動調整。\big 系で手動指定も可
  • ノルム: 縦線2本。ベクトル・行列・関数の大きさ。$L^1$/$L^2$/$L^\infty$ は下付き文字 \|x\|_1 などで区別
  • 使い分け: 中身がスカラーなら絶対値(縦線1本)、ベクトル・行列ならノルム(縦線2本)

迷ったら「中身がスカラーかベクトルか」で縦線の本数を決める、と覚えておけば、コーシー・シュワルツのように両方が混じる式でも取り違えません。正しい絶対値・ノルム表記は、数値解析・最適化・機械学習の文書で特に効いてきます。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。

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