LaTeX数式記法 完全ガイド — 工学・理学のための実用チートシート

論文の締切前夜、共著者から「数式番号がずれている」「行列の括弧が角括弧と丸括弧で混ざっている」と指摘されて慌てた経験はないでしょうか。あるいは技術ブログで KaTeX を使い始めて、$\widehat{ABC}$ にしたかったのに $\hat{ABC}$ と書いて見栄えが崩れた、ということもあるでしょう。LaTeX の数式記法は、いったん身につけてしまえば一生もののスキルになる一方、最初の数か月はコマンド名の暗記とトラブル対処に時間を取られがちです。

本記事はそんな読者のために、工学・理学の現場で実際に頻出する LaTeX 数式記法だけ を一気に俯瞰する実用チートシートです。網羅性を取りつつも、ただのコマンド辞書にならないよう、各セクションで「コマンド → 出力される見た目」を必ず対照し、論文・レポート・技術ブログそのまま使える例を載せます。さらに掘り下げて学びたい記号については、ピンポイントで詳細記事へのリンクカードを置きました。困ったときに戻ってこられる、ハブとしてのページを目指しています。

ここで学んだ記法は、たとえば次のような場面で即座に役立ちます。1つ目は 学術論文・修論・卒論の執筆。線形代数や微分方程式の式変形を、等号で揃え、適切な括弧で囲み、数式番号を引用しながら書く一連の作業がスムーズになります。2つ目は 技術ブログ・Qiita・Zenn 記事の作成。これらのプラットフォームの多くは KaTeX (LaTeX のブラウザ実装) で数式をレンダリングしているため、本記事のコマンドはほぼそのまま動きます。3つ目は Jupyter Notebook での研究ノート。Markdown セルに $...$ を埋めるだけで、計算過程を清書しながら残せます。

本記事の内容

  • LaTeX 数式の基本構造 (インライン $...$ / ブロック $$...$$、KaTeX と MathJax の違い)
  • 行列・ベクトル・上下添字・分数・根号・大型演算子といった頻出記法
  • アクセント記号 (ハット・チルダ・バー)、集合・論理記号、ギリシャ文字
  • align による複数行整列、cases による場合分け、数式番号とラベル参照
  • argmin/argmax などの最適化記法、物理単位の書き方
  • よくある詰まりポイントと解決法

各章のレイアウトはすべて「コマンド → レンダリング結果 → 短い用例」の三段構造で統一しているので、目次から必要な記号にダイレクトに飛んで、見て真似して、戻ってくる、という使い方を想定しています。

前提知識: TeX/KaTeX とは何か

LaTeX (ラテック / ラテフ) を一言で説明すると、数式と論文組版に特化した「マークアップ言語 + 組版エンジン」 です。HTML が「文書の構造」を記述する言語であるのに対し、LaTeX は「数式の構造」を記述するのが大きな特徴です。たとえば「分子が $a$、分母が $b$ の分数」を表すには \frac{a}{b} と構造を直接書くだけで、組版エンジンが自動的に横線を引き、上下のフォントサイズを調整してくれます。

歴史的には、まず Donald Knuth が 1978 年に TeX という低レベルの組版言語を開発し、その上に Leslie Lamport が高レベルなマクロ集として LaTeX を作りました。さらに数式関連のマクロを大幅に強化した amsmath パッケージが追加され、今日の数学・工学論文の標準になっています。本記事で扱うのは、この LaTeX + amsmath レベルの記法です。

一方、Web ブラウザ上で動くものとしては KaTeXMathJax の 2 つが主流です。それぞれの特徴を整理します。

項目 LaTeX (本家) KaTeX MathJax
動作環境 TeX Live などのローカル環境 ブラウザ (JavaScript) ブラウザ (JavaScript)
速度 コンパイルに数秒 数十ミリ秒で即時描画 やや遅め
機能の網羅性 完全 LaTeX のサブセット (90% 程度) LaTeX とほぼ同等
主な用途 論文・書籍 ブログ・Qiita・Zenn Wikipedia など複雑な数式
amsmath パッケージ宣言要 デフォルト有効 デフォルト有効

本ブログ (disassemble-channel.com) は KaTeX を採用しています。論文では使えても KaTeX では動かないコマンドがいくつかあるため、本記事の各章で「KaTeX 対応」を都度メモしています。たとえば \nicefrac\bordermatrix は KaTeX では動かないので、代替策を覚えておく必要があります。

LaTeX と KaTeX の関係がつかめたところで、まずは数式を「文中に埋め込む」か「ブロックで独立させる」かという最も基本的な選択肢から見ていきましょう。

LaTeX 数式の基本構造

インラインとブロック

LaTeX で数式を書くモードは、大きく分けて 2 つだけです。文中に小さく埋め込むインライン (text style) と、独立した行に大きく表示するブロック (display style) です。

モード 区切り 用途 表示
インライン $...$ 文中の変数や短い式 行高に収まる小さなサイズ
ブロック $$...$$ 重要な式・複数行 独立行で大きなサイズ

実際に書くと次のようになります。

速度ベクトルを $\bm{v} = (v_x, v_y, v_z)$ と書きます。

運動エネルギーは
$$
K = \frac{1}{2} m \|\bm{v}\|^2
$$
で計算できます。

レンダリング結果は次のとおりです。

速度ベクトルを $\bm{v} = (v_x, v_y, v_z)$ と書きます。

運動エネルギーは

$$ K = \frac{1}{2} m \|\bm{v}\|^2 $$

で計算できます。

ポイント: インラインの $...$ は行の流れに溶け込ませる、ブロックの $$...$$ は読者の視線を止めて式を「読む」ためのもの、と使い分けます。重要な定義式や導出の各ステップは、迷わずブロックにしましょう。

LaTeX (論文) と KaTeX (ブログ) の書き分け

論文形式の LaTeX では、本来は \[ ... \]\begin{equation} ... \end{equation} を使うのが正式です。$$ ... $$ は古い記法とされ、amsmath のドキュメントでも非推奨とされています。一方、KaTeX や Markdown ベースのブログでは $$ ... $$ が事実上の標準で、ほとんどのレンダラがこの記法を解釈します。

% 論文 (LaTeX) で推奨
\[
E = mc^2
\]

\begin{equation}
E = mc^2 \label{eq:einstein}
\end{equation}

% ブログ (Markdown + KaTeX) で標準
$$
E = mc^2
$$

本記事のサンプルはすべて KaTeX 前提で書きますが、$$ ... $$\[ ... \] に置き換えれば論文用 LaTeX でもそのまま動きます。

文字スタイルの基本コマンド

数式中で文字種を切り替える主要コマンドを、まとめて把握しておきましょう。

コマンド 出力 用途
\mathrm{...} $\mathrm{ABC}$ ローマン体 (立体)。単位や略号
\mathbf{...} $\mathbf{ABC}$ 太字立体。定数行列・特殊なベクトル
\bm{...} $\bm{ABC}$ 太字斜体。ベクトル・行列 (推奨)
\mathit{...} $\mathit{ABC}$ 斜体。変数 (デフォルト)
\mathcal{...} $\mathcal{ABC}$ カリグラフィー。集合族・作用素
\mathbb{...} $\mathbb{R}$ 黒板太字。数の集合
\mathfrak{...} $\mathfrak{g}$ フラクトゥール。リー代数
\text{...} $\text{ABC}$ 通常テキスト。数式内の日本語・英文

数式中で複数文字の関数名 (例: $\sin x$) を書くときは、\sin のような組み込みコマンドを使うか、なければ \mathrm{sgn}(x) のように \mathrm を被せるのが正解です。素のまま sin(x) と書くと、$sin(x)$ のように各文字が変数として斜体になり、$s \cdot i \cdot n \cdot x$ の積のように見えてしまうので注意してください。

数式の入れ物が用意できたところで、いよいよ最も使用頻度の高い「行列」から具体的な記法に入っていきます。

行列とベクトル (matrix 族)

線形代数の演算は理工系のほぼ全分野で登場します。連立方程式の係数、座標変換、最小二乗法、機械学習の重み更新——どれも行列で書けることが多く、まず最初に押さえたい記法です。

括弧の種類で 6 つの環境を使い分ける

LaTeX の matrix 環境ファミリーは、囲む括弧の種類だけが違う 6 兄弟になっています。

環境 括弧
matrix なし $\begin{matrix} a & b \\ c & d \end{matrix}$
pmatrix $($ $)$ $\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$
bmatrix $[$ $]$ $\begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix}$
Bmatrix $\{$ $\}$ $\begin{Bmatrix} a & b \\ c & d \end{Bmatrix}$
vmatrix $|$ $|$ $\begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix}$
Vmatrix $\|$ $\|$ $\begin{Vmatrix} a & b \\ c & d \end{Vmatrix}$

ソースコードは次のとおりです。

$$
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
\qquad
\begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix}
\qquad
\begin{vmatrix}
a & b \\
c & d
\end{vmatrix}
$$

レンダリング結果。

$$ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \qquad \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \qquad \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} $$

選択の指針: 行列そのものを書くなら工学系では pmatrix (丸括弧)、線形代数の教科書なら bmatrix (角括弧) が定番です。vmatrix行列式 (スカラー量) の意味になるので、行列そのものと混同しないよう注意します。

大型行列とドット記号

$n \times n$ のような一般的なサイズの行列を書くときは、3 種類のドット記号を組み合わせます。

コマンド 出力 方向
\cdots $\cdots$ 水平
\vdots $\vdots$ 垂直
\ddots $\ddots$ 斜め (対角)

これらを組み合わせて、一般的な行列を次のように書けます。

$$
\bm{A} = \begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn}
\end{pmatrix}
$$

レンダリング結果。

$$ \bm{A} = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} $$

\ddots を対角に置くことで「同じパターンが対角方向に続く」というニュアンスが視覚的に伝わるのがポイントです。対角行列・三重対角行列・単位行列のような構造を持つ行列でも、この組み合わせを応用できます。

拡大係数行列と smallmatrix

ガウスの消去法で使う 拡大係数行列 には、array 環境で | を入れて縦線を引く方法を使います。

$$
\left(\begin{array}{ccc|c}
1 & 2 & 3 & 4 \\
5 & 6 & 7 & 8 \\
9 & 10 & 11 & 12
\end{array}\right)
$$

$$ \left(\begin{array}{ccc|c} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 5 & 6 & 7 & 8 \\ 9 & 10 & 11 & 12 \end{array}\right) $$

また、文中に小さな行列を埋め込みたいときは smallmatrix を使います。たとえば「行列 $\left(\begin{smallmatrix} a & b \\ c & d \end{smallmatrix}\right)$ の行列式は $ad – bc$」のように書けば、行高を乱さずに済みます。

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LaTeX 行列の書き方完全ガイド
bmatrix/pmatrix/vmatrix の使い分け、大型行列の省略記号、ブロック行列、拡大係数行列、smallmatrix まで。線形代数で書きたい行列パターンを徹底解説。

行列を扱えるようになると、自然と「ベクトル」を太字で表記したくなります。次に、ベクトル特有の表記法を見ていきます。

ベクトルの太字・矢印

太字 vs 矢印 — どちらが正解?

ベクトルを表記する方法は、大きく分けて 太字矢印 の 2 つです。

表記 主な使用場面
太字斜体 $\bm{v}$ 国際的な学術論文 (ISO 規格)
太字立体 $\mathbf{v}$ 一部の物理学・工学教科書
矢印 $\vec{v}$ 高校・大学 1, 2 年の教科書

結論から言うと、論文・技術ブログでは \bm{v} を使うのが最も無難です。理由は 3 つあります。

  1. ISO 80000-2 がベクトルを「太字イタリック」と規定している
  2. ギリシャ文字 ($\bm{\alpha}$, $\bm{\nabla}$) にもそのまま適用できる
  3. 添字付き ($\bm{v}_i$) や複雑な式の中でも視認性が高い

書き方は単純で、\bm{文字} を覚えるだけです。

$$
\bm{x} = (x_1, x_2, \dots, x_n)^\top, \quad
\bm{F} = m \ddot{\bm{r}}, \quad
\bm{\nabla} \times \bm{B} = \mu_0 \bm{J}
$$

$$ \bm{x} = (x_1, x_2, \dots, x_n)^\top, \quad \bm{F} = m \ddot{\bm{r}}, \quad \bm{\nabla} \times \bm{B} = \mu_0 \bm{J} $$

矢印ベクトルが必要な場面

幾何学で「点 $A$ から点 $B$ へのベクトル」を表すときは、太字ではなく長い矢印が自然です。\overrightarrow{AB} を使います。

$$
\overrightarrow{AB} = \bm{B} - \bm{A}, \quad
\overrightarrow{OP} = (x, y, z)
$$

$$ \overrightarrow{AB} = \bm{B} – \bm{A}, \quad \overrightarrow{OP} = (x, y, z) $$

\vec{a} は 1 文字用、\overrightarrow{AB} は 2 文字以上用、と覚えておけば困りません。

単位ベクトルとベクトル演算

単位ベクトル (大きさ 1) はハット \hat{} を被せます。物理の座標系でよく見る $\hat{\bm{e}}_x$, $\hat{\bm{e}}_y$, $\hat{\bm{e}}_z$ のような表記です。

ベクトル演算の主要記号も一覧で押さえます。

演算 LaTeX 出力
内積 \bm{a} \cdot \bm{b} $\bm{a} \cdot \bm{b}$
内積 (角括弧) \langle \bm{a}, \bm{b} \rangle $\langle \bm{a}, \bm{b} \rangle$
外積 \bm{a} \times \bm{b} $\bm{a} \times \bm{b}$
ノルム \|\bm{x}\| $\|\bm{x}\|$
$L^p$ ノルム \|\bm{x}\|_p $\|\bm{x}\|_p$
テンソル積 \bm{a} \otimes \bm{b} $\bm{a} \otimes \bm{b}$
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LaTeX でベクトルの太字・矢印を書く
bm・mathbf・boldsymbol の違い、vec・overrightarrow の使い分け、単位ベクトル、列/行ベクトル、内積/外積/ノルムの表記まで網羅。

ベクトルの表記が固まったら、次は数式の細部を支配する「上下添字・累乗」の書き方に進みます。これは行列・ベクトル以前に、ほぼ全ての数式に登場する基本中の基本です。

上付き・下付き・累乗

^_ の基本

上付き文字 (superscript) は ^、下付き文字 (subscript) は _ で書きます。これらは LaTeX の最も基本的な構文の 2 つです。

$$
x^2, \quad x_1, \quad a_{ij}, \quad e^{i\pi}, \quad x^{2n+1}
$$

$$ x^2, \quad x_1, \quad a_{ij}, \quad e^{i\pi}, \quad x^{2n+1} $$

最重要ルール: 添字や指数が 2 文字以上のときは、必ず波括弧 {} で囲みます。

% NG: 意図と違う結果になる
x^10   % → x^1 0 (10 ではなく 1 と 0)
a_ij   % → a_i j (ij ではなく i と j)

% OK: 必ず波括弧で囲む
x^{10}
a_{ij}

上下を同時に書く

同じ文字に上下両方を付けるときは、^_ を続けて書きます。順序は問いません。

$$
x_i^2, \quad x^2_i, \quad a_{ij}^{(k)}, \quad T^{\mu\nu}_{\phantom{\mu\nu}\rho}
$$

$$ x_i^2, \quad x^2_i, \quad a_{ij}^{(k)}, \quad T^{\mu\nu}_{\phantom{\mu\nu}\rho} $$

最後の例は一般相対性理論などで使うテンソルの「位置揃え」です。\phantom{...} で「見えないけど幅は確保する」スペースを作り、上下の添字の位置をずらしています。

限界記号 (上下に乗る) と通常の添字

積分・和・極限のような 大型演算子 は、添字が記号の上下に乗ります (ディスプレイモード時)。

$$
\sum_{i=1}^{n} x_i, \quad
\prod_{k=0}^{N} a_k, \quad
\int_{0}^{\infty} f(x)\, dx, \quad
\lim_{n \to \infty} a_n
$$

$$ \sum_{i=1}^{n} x_i, \quad \prod_{k=0}^{N} a_k, \quad \int_{0}^{\infty} f(x)\, dx, \quad \lim_{n \to \infty} a_n $$

積分の dx の前にはスペース \, を入れると、被積分関数と微分要素の間隔が美しくなります。これは論文の組版品質に直結する小ワザです。

\sum\int の挙動の違いに注意してください。\sum はデフォルトで添字が上下に来ますが、\int は右側に並ぶのがデフォルトです。これは慣習として「積分は横に長くなりやすいから」とされています。明示的に上下に乗せたいときは \sum\limits / \int\limits を使います。

$$
\int\limits_{0}^{1} f(x)\, dx
$$

\operatorname と組み込み関数名

$\sin$, $\cos$, $\log$ などの組み込み関数は、頭にバックスラッシュを付けるだけで立体表記になります。

カテゴリ コマンド例
三角関数 \sin, \cos, \tan, \sec, \csc, \cot
逆三角関数 \arcsin, \arccos, \arctan
双曲線関数 \sinh, \cosh, \tanh
対数 \log, \ln, \exp
その他 \det, \dim, \min, \max, \sup, \inf, \lim, \gcd

これらに含まれない自作の関数名 (sgn, tr, vec 等) は \operatorname{...} で定義します。

$$
\operatorname{sgn}(x), \quad
\operatorname{tr}(\bm{A}), \quad
\operatorname{rank}(\bm{A})
$$

$$ \operatorname{sgn}(x), \quad \operatorname{tr}(\bm{A}), \quad \operatorname{rank}(\bm{A}) $$

上下添字と限界記号を押さえたら、次は分数・根号・大型演算子といった「分母分子で構造を作る」記法に進みます。

分数・根号・大型演算子

分数 — \frac を中心に

LaTeX で分数を書く中心コマンドは \frac{分子}{分母} です。これだけは絶対に覚えておきましょう。

$$
\frac{a}{b}, \quad \frac{1}{2}, \quad \frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1}
$$

$$ \frac{a}{b}, \quad \frac{1}{2}, \quad \frac{x^2 + 2x + 1}{x + 1} $$

\frac はスタイル (ディスプレイ/テキスト) によって自動でサイズが変わります。インラインに大きく出したいときは \dfrac、ブロックでも小さくしたいときは \tfrac を使います。

コマンド サイズ 使いどころ
\frac 自動 通常の分数
\dfrac 常に大 インラインで目立たせたい
\tfrac 常に小 ブロックで小さくしたい
\cfrac 連分数用 入れ子の分数を均一に

連分数 (continued fraction) では \cfrac が威力を発揮します。

$$
\phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}}
$$

$$ \phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}} $$

\frac を入れ子にすると内側がどんどん小さくなって読めなくなりますが、\cfrac なら各段が均一のサイズに保たれます。

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LaTeX で分数を書く (frac/dfrac/cfrac)
frac の基本から、dfrac/tfrac のサイズ制御、cfrac による連分数、スラッシュ表記の使い分け、二次方程式の解の公式・ガウス分布などの実践例まで。

根号 — \sqrt

平方根は \sqrt{...}、$n$ 乗根は \sqrt[n]{...} です。オプション引数の [n] で乗根の階数を指定します。

$$
\sqrt{2}, \quad \sqrt{a^2 + b^2}, \quad \sqrt[3]{x}, \quad \sqrt[n]{x}
$$

$$ \sqrt{2}, \quad \sqrt{a^2 + b^2}, \quad \sqrt[3]{x}, \quad \sqrt[n]{x} $$

ガウス分布の規格化因子 $1 / \sqrt{2\pi\sigma^2}$ のような形は、論文で日常的に登場します。

大型演算子 (sum, prod, int, oint)

総和・総積・積分などは、それぞれ専用のコマンドが用意されています。下添字に下限、上添字に上限を書くだけで完成します。

$$
\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}, \quad
\prod_{k=1}^{n} k = n!, \quad
\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} dx = \sqrt{\pi}
$$

$$ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}, \quad \prod_{k=1}^{n} k = n!, \quad \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} dx = \sqrt{\pi} $$

積分系のバリエーションも押さえておきましょう。

コマンド 出力 用途
\int $\int$ 通常の積分
\iint $\iint$ 2 重積分
\iiint $\iiint$ 3 重積分
\oint $\oint$ 周回積分 (線積分)
\oiint 二重周回積分 閉曲面積分 (KaTeX 非対応)

電磁気学のマクスウェル方程式 (積分形) を例にすると、

$$
\oint_{\partial S} \bm{E} \cdot d\bm{\ell} = -\frac{d}{dt}\int_{S} \bm{B} \cdot d\bm{S}
$$

$$ \oint_{\partial S} \bm{E} \cdot d\bm{\ell} = -\frac{d}{dt}\int_{S} \bm{B} \cdot d\bm{S} $$

のように、\oint (周回積分) と通常の \int を組み合わせて書けます。

括弧のサイズ自動調整

分数や行列を括弧で囲むと、デフォルトの括弧では小さすぎることがあります。\left\right を使うと、中身に応じて自動でサイズが調整されます。

$$
\left( \frac{a}{b} \right)^2 = \frac{a^2}{b^2}, \quad
\left[ \sum_{i=1}^{n} x_i \right]^2
$$

$$ \left( \frac{a}{b} \right)^2 = \frac{a^2}{b^2}, \quad \left[ \sum_{i=1}^{n} x_i \right]^2 $$

\left(\right) は必ずペアで使います。片方だけにしたいときは、もう片方を \left. または \right. (見えない括弧) にします。

分数・根号・積分を押さえたら、次は数式中に頻出する「アクセント記号」をまとめて学びます。これがあると、推定値・平均・微分が手早く書けるようになります。

ハット/チルダ/バー (アクセント記号)

主要なアクセント一覧

文字の上に乗せる記号 (アクセント) は、種類が多いので一覧で整理します。

出力 コマンド 主な意味
$\hat{a}$ \hat{a} 推定値、単位ベクトル
$\tilde{a}$ \tilde{a} フーリエ変換、近似値
$\bar{a}$ \bar{a} 平均、共役複素数
$\dot{a}$ \dot{a} 1 階時間微分
$\ddot{a}$ \ddot{a} 2 階時間微分
$\vec{a}$ \vec{a} ベクトル
$\check{a}$ \check{a} 反転ハット
$\breve{a}$ \breve{a} ブレーベ

統計の \hat{\theta} (推定値)、力学の \ddot{\bm{r}} (加速度)、ニュートン記法の \dot{x} (速度) など、分野ごとに定番の使い方があります。

$$
\hat{\theta} = \arg\min_\theta L(\theta), \quad
m \ddot{\bm{r}} = \bm{F}, \quad
\bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} x_i
$$

$$ \hat{\theta} = \arg\min_\theta L(\theta), \quad m \ddot{\bm{r}} = \bm{F}, \quad \bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} x_i $$

短いアクセント vs 長いアクセント

通常の \hat, \tilde, \bar は 1 文字用です。複数文字に被せると、記号が短すぎて不自然に見えます。

$$
\hat{xy} \text{ vs } \widehat{xy}, \quad
\tilde{AB} \text{ vs } \widetilde{AB}, \quad
\bar{xy} \text{ vs } \overline{xy}
$$

$$ \hat{xy} \text{ vs } \widehat{xy}, \quad \tilde{AB} \text{ vs } \widetilde{AB}, \quad \bar{xy} \text{ vs } \overline{xy} $$

1 文字用 複数文字用 用途
\hat{} \widehat{} ハット
\tilde{} \widetilde{} チルダ
\bar{} \overline{} バー / 上線

判断のルール: 中身が 1 文字 (添字含む) なら短い版、2 文字以上なら長い版、と覚えればまず外しません。たとえば「最尤推定量」を $\widehat{\theta_{\text{ML}}}$ と書くなら、中身が長いので \widehat 一択です。

アクセントの重ね合わせ

カルマンフィルタの更新式のように、ハットの上にドットを重ねるパターンもあります。

$$
\dot{\hat{\bm{x}}} = \bm{A}\hat{\bm{x}} + \bm{K}(\bm{y} - \bm{C}\hat{\bm{x}})
$$

$$ \dot{\hat{\bm{x}}} = \bm{A}\hat{\bm{x}} + \bm{K}(\bm{y} – \bm{C}\hat{\bm{x}}) $$

内側から \bm{x}\hat{...}\dot{...} の順にネストすれば、太字 + ハット + ドットの三層が組み上がります。3 層を超えると表示が崩れることが多いので、実用上は 2〜3 層までに収めるのが安全です。

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LaTeX のアクセント記号 (ハット・チルダ・バー)
hat/tilde/bar/dot のコマンド一覧、widehat/widetilde/overline との使い分け、統計・物理・信号処理での慣用、アクセントの重ね合わせまで。

アクセントを使えるようになれば、確率変数の推定値や状態量の微分が自由自在に書けます。次は記号を多用する分野である「集合と論理」の表記へ進みます。

集合と論理記号

集合論の記号は、数学だけでなく、確率論・機械学習・形式言語など多くの分野で頻出します。ベン図のイメージと記号を結びつけて覚えるのが近道です。

帰属と部分集合

出力 コマンド 意味
$\in$ \in 属する
$\notin$ \notin 属さない
$\subset$ \subset 部分集合
$\subseteq$ \subseteq 部分集合 (等号含む)
$\subsetneq$ \subsetneq 真部分集合
$\supset, \supseteq$ \supset, \supseteq 上位集合
$$
3 \in \mathbb{N}, \quad
-1 \notin \mathbb{N}, \quad
\mathbb{N} \subseteq \mathbb{Z} \subseteq \mathbb{Q} \subseteq \mathbb{R} \subseteq \mathbb{C}
$$

$$ 3 \in \mathbb{N}, \quad -1 \notin \mathbb{N}, \quad \mathbb{N} \subseteq \mathbb{Z} \subseteq \mathbb{Q} \subseteq \mathbb{R} \subseteq \mathbb{C} $$

\subset は教科書によって「等号を含む」「真部分集合」と意味が違うことがあるため、意図が大事なら \subseteq\subsetneq で明示する のが安全です。

集合演算 — 和・共通部分・差・直積

出力 コマンド 意味
$\cup$ \cup 和集合
$\cap$ \cap 共通部分
$\bigcup_{i=1}^n$ \bigcup_{i=1}^n 多数の和
$\bigcap_{i=1}^n$ \bigcap_{i=1}^n 多数の共通
$\setminus$ \setminus 差集合
$\times$ \times 直積
$A^c$ A^c 補集合

確率論の加法定理を集合記号で書くと、

$$
P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)
$$

$$ P(A \cup B) = P(A) + P(B) – P(A \cap B) $$

のように、和集合と共通部分が同時に登場します。

数の集合 (黒板太字)

自然数 $\mathbb{N}$、整数 $\mathbb{Z}$、実数 $\mathbb{R}$ などは \mathbb{...} で書きます。

集合 コマンド 意味
$\mathbb{N}$ \mathbb{N} 自然数
$\mathbb{Z}$ \mathbb{Z} 整数
$\mathbb{Q}$ \mathbb{Q} 有理数
$\mathbb{R}$ \mathbb{R} 実数
$\mathbb{C}$ \mathbb{C} 複素数
$\mathbb{R}^n$ \mathbb{R}^n $n$ 次元実数空間

機械学習で \bm{x} \in \mathbb{R}^d のように書く例は無数にあります。

内包記法と論理記号

集合の内包記法は、波括弧と \mid (条件区切り) を組み合わせて書きます。

$$
A = \{ x \in \mathbb{R} \mid x^2 < 4 \}
$$

$$ A = \{ x \in \mathbb{R} \mid x^2 < 4 \} $$

論理記号も主要なものを押さえておきましょう。

出力 コマンド 意味
$\forall$ \forall 任意
$\exists$ \exists 存在
$\Rightarrow$ \Rightarrow 含意
$\Leftrightarrow$ \Leftrightarrow 同値
$\land$ \land かつ
$\lor$ \lor または
$\neg$ \neg 否定
$\therefore$ \therefore ゆえに
$\because$ \because なぜなら
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LaTeX で集合記号を書く (∈/⊂/∪/∩)
帰属・部分集合・和集合・共通部分・差集合・直積、空集合と数の集合 (R, Z など)、内包記法、KaTeX 対応一覧まで。集合論で必要な記号を網羅。

集合と論理記号が揃ったら、次は実際に複数行の数式を書くときの「整列」のテクニックに進みます。導出を読みやすく見せるための必須技能です。

整列 (align 環境) と複数行数式

align 環境の基本

導出を等号で揃えて並べるのが align 環境です。& で整列ポイント、\\ で改行を指定します。

$$
\begin{align}
f(x) &= (x + 1)^2 \\
&= x^2 + 2x + 1 \\
&= (x + 1)(x + 1)
\end{align}
$$

$$ \begin{align} f(x) &= (x + 1)^2 \\ &= x^2 + 2x + 1 \\ &= (x + 1)(x + 1) \end{align} $$

& を等号の直前に置くだけで、全行の等号が縦に揃います。各行の意図がつかみやすくなり、論文の品質が一段上がります。

条件付きの揃え

導出に「理由」を併記したいときは、& を増やして 2 列構成にします。

$$
\begin{align}
\|\bm{x} + \bm{y}\|^2 &= (\bm{x} + \bm{y})^\top(\bm{x} + \bm{y})
  & &\text{(ノルムの定義)} \\
&= \bm{x}^\top\bm{x} + 2\bm{x}^\top\bm{y} + \bm{y}^\top\bm{y}
  & &\text{(展開)} \\
&= \|\bm{x}\|^2 + 2\langle \bm{x}, \bm{y} \rangle + \|\bm{y}\|^2
  & &\text{(内積の定義)}
\end{align}
$$

$$ \begin{align} \|\bm{x} + \bm{y}\|^2 &= (\bm{x} + \bm{y})^\top(\bm{x} + \bm{y}) & &\text{(ノルムの定義)} \\ &= \bm{x}^\top\bm{x} + 2\bm{x}^\top\bm{y} + \bm{y}^\top\bm{y} & &\text{(展開)} \\ &= \|\bm{x}\|^2 + 2\langle \bm{x}, \bm{y} \rangle + \|\bm{y}\|^2 & &\text{(内積の定義)} \end{align} $$

数式の右端に \text{...} で日本語の補足を添えると、各変形の根拠が明確になり、原則 5 (数式変形にガイドを添える) を自然に守れます。

cases 環境による場合分け

ReLU 関数や絶対値関数のような piecewise な定義は、cases 環境を使います。

$$
\operatorname{ReLU}(x) = \begin{cases}
x & (x > 0) \\
0 & (x \leq 0)
\end{cases}
$$

$$ \operatorname{ReLU}(x) = \begin{cases} x & (x > 0) \\ 0 & (x \leq 0) \end{cases} $$

& の左側に値、右側に条件を書きます。左側に大きな波括弧が自動で付くのが cases の便利なところです。クロネッカーのデルタ $\delta_{ij}$ や符号関数 $\operatorname{sgn}(x)$ も同じパターンで書けます。

alignedgathered — 他の式に埋め込む

align は単独でしか使えませんが、別の式の中に複数行式を埋め込みたいときは aligned (整列) や gathered (中央揃え) を使います。

$$
f(x) = \left\{\begin{aligned}
x^2 &\quad (x \geq 0) \\
-x^2 &\quad (x < 0)
\end{aligned}\right.
$$

cases よりも整列のカスタマイズ性が高いのが aligned の特徴です。

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LaTeX で数式を揃える・整列する (align)
align の基本、複数整列ポイント、cases による場合分け、gathered/aligned、\text によるテキスト挿入、KaTeX 対応一覧まで。複数行数式を読みやすく書くテクニック。

複数行の数式を扱えるようになったら、次は最適化問題で頻出する argmin/argmax の専用記法を見ていきます。機械学習・制御工学では避けて通れない表記です。

argmin / argmax と最適化記法

最適化問題の標準形

統計・機械学習・制御工学の論文では、損失関数を最小化するパラメータを \arg\min で表すパターンが頻出します。

$$
\hat{\theta} = \mathop{\mathrm{arg\,min}}\limits_{\theta \in \Theta} L(\theta)
= \mathop{\mathrm{arg\,min}}\limits_{\theta} \sum_{i=1}^{n} \bigl(y_i - f(x_i; \theta)\bigr)^2
$$

$$ \hat{\theta} = \mathop{\mathrm{arg\,min}}\limits_{\theta \in \Theta} L(\theta) = \mathop{\mathrm{arg\,min}}\limits_{\theta} \sum_{i=1}^{n} \bigl(y_i - f(x_i; \theta)\bigr)^2 $$

argmin を書く方法はいくつかありますが、推奨される書き方は以下のいずれかです。

% 方法1: \arg\min と \arg\max (組み込み)
\arg\min_{\theta} L(\theta)
\arg\max_{\theta} L(\theta)

% 方法2: \operatorname* + \limits で確実に下に乗せる
\operatorname*{arg\,min}_{\theta} L(\theta)

% 方法3: \mathop{\mathrm{...}} + \limits (古いスタイル)
\mathop{\mathrm{arg\,min}}\limits_{\theta} L(\theta)

% 方法4: \underset と \operatorname の組み合わせ
\underset{\theta}{\operatorname{arg\,min}} L(\theta)

KaTeX では \argmin / \argmax が直接サポート されているので、ブログでは単純に

$$
\hat{\theta} = \argmin_{\theta} L(\theta)
$$

と書くのが最もシンプルです。論文 LaTeX で \argmin が使えない場合は、プリアンブルに以下を追加して自作コマンドにするのが定番です。

\DeclareMathOperator*{\argmin}{arg\,min}
\DeclareMathOperator*{\argmax}{arg\,max}

* 付きの DeclareMathOperator を使うことで、ディスプレイモード時に下添字が下に乗る挙動になります。

minargmin の違い

混同しやすいですが、$\min$ と $\arg\min$ は意味がまったく違います。

記号 意味 出力
$\min_{\theta} L(\theta)$ $L$ の最小値 (スカラー) スカラー値
$\arg\min_{\theta} L(\theta)$ $L$ を最小にする $\theta$ (引数) 点 (引数値)

たとえば、$L(\theta) = (\theta - 3)^2$ なら $\min L = 0$ ですが $\arg\min L = 3$ です。論文では適切に使い分けてください。

\underset\overset

\arg\min のように記号の下に添字を置きたいときには \underset も使えます。汎用的なコマンドで、任意の記号の上下に文字を配置できます。

$$
\underset{\theta}{\operatorname{argmin}} \, f(\theta), \quad
\overset{!}{=}, \quad
X \overset{d}{\sim} N(\mu, \sigma^2)
$$

$$ \underset{\theta}{\operatorname{argmin}} \, f(\theta), \quad \overset{!}{=}, \quad X \overset{d}{\sim} N(\mu, \sigma^2) $$

「定義により等しい」を表す $\overset{\text{def}}{=}$ や、「分布の意味で従う」を表す $\overset{d}{\sim}$ などは、論文で頻出する慣用表現です。

LaTeX で argmin・argmax を表現する
argmin/argmax の書き方 (operatorname/underset/DeclareMathOperator)、min と argmin の意味の違い、最適化記法の慣用表現まで解説。

最適化記法までで、数式の「演算」を表す主要なパーツが揃いました。次は数式に登場する「文字そのもの」の話、つまりギリシャ文字や物理単位など、特殊文字の入力法をまとめていきます。

ギリシャ文字・特殊文字・物理単位

ギリシャ文字一覧

ギリシャ文字は LaTeX の最大の見せ場の 1 つです。基本ルールは単純で、英語名にバックスラッシュを付けるだけ。大文字は最初の文字を大文字にします。

% 小文字
\alpha, \beta, \gamma, \delta, \epsilon, \zeta, \eta, \theta,
\iota, \kappa, \lambda, \mu, \nu, \xi, \omicron, \pi, \rho,
\sigma, \tau, \upsilon, \phi, \chi, \psi, \omega

% 大文字
\Alpha (= A), \Beta (= B), \Gamma, \Delta, \Theta, \Lambda,
\Xi, \Pi, \Sigma, \Phi, \Psi, \Omega

レンダリング結果。

$\alpha, \beta, \gamma, \delta, \epsilon, \zeta, \eta, \theta, \iota, \kappa, \lambda, \mu, \nu, \xi, \pi, \rho, \sigma, \tau, \upsilon, \phi, \chi, \psi, \omega$

$\Gamma, \Delta, \Theta, \Lambda, \Xi, \Pi, \Sigma, \Phi, \Psi, \Omega$

一部の文字には 異体字 があり、\var を頭に付けて書きます。

通常 異体字 コマンド (異体字)
$\epsilon$ $\varepsilon$ \varepsilon
$\theta$ $\vartheta$ \vartheta
$\pi$ $\varpi$ \varpi
$\rho$ $\varrho$ \varrho
$\sigma$ $\varsigma$ \varsigma
$\phi$ $\varphi$ \varphi
$\emptyset$ $\varnothing$ \varnothing

特に物理学では、空集合 $\varnothing$、誤差 $\varepsilon$、ファイ $\varphi$ などで異体字を使うことが多いです。

矢印・関係記号

出力 コマンド 用途
$\to$ \to 関数の写像
$\rightarrow$ \rightarrow 矢印 (同上)
$\Rightarrow$ \Rightarrow 含意
$\leftrightarrow$ \leftrightarrow 双方向
$\mapsto$ \mapsto 写像「→」(縦棒付き)
$\xrightarrow{P}$ \xrightarrow{P} 上に文字付き
$\leq, \geq$ \leq, \geq 不等号
$\approx$ \approx ほぼ等しい
$\sim$ \sim 同程度・分布
$\propto$ \propto 比例
$\equiv$ \equiv 合同・恒等

物理単位の書き方

物理量の単位は 立体 で書くのが ISO 規格の決まりです。たとえば、$10\,\text{m/s}$ は次のように書きます。

$$
v = 10\,\text{m/s}, \quad
E = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}, \quad
T = 300\,\text{K}
$$

$$ v = 10\,\text{m/s}, \quad E = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}, \quad T = 300\,\text{K} $$

数値と単位の間には \, (薄いスペース) を入れます。さらに正式には siunitx パッケージの \SI{10}{\meter\per\second} を使う方法もありますが、KaTeX では使えないので、Web 記事では \text{m/s} で書くのが現実解です。

微分の記号バリエーション

微分の表記は流派が複数あります。場面に応じて使い分けます。

出力 コマンド 表記法
$\frac{dy}{dx}$ \frac{dy}{dx} ライプニッツ
$\frac{\partial f}{\partial x}$ \frac{\partial f}{\partial x} 偏微分
$\dot{x}$ \dot{x} ニュートン
$y'$ y' ラグランジュ
$\nabla f$ \nabla f 勾配
$\Delta f$ \Delta f ラプラシアン

ベクトル解析では、

$$
\nabla \cdot \bm{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}, \quad
\nabla \times \bm{B} = \mu_0 \bm{J} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \bm{E}}{\partial t}
$$

$$ \nabla \cdot \bm{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}, \quad \nabla \times \bm{B} = \mu_0 \bm{J} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \bm{E}}{\partial t} $$

のように、$\nabla$ を中心とした演算子が活躍します。マクスウェル方程式の組版は LaTeX の華と言える場面の 1 つです。

ギリシャ文字と特殊文字を一通り押さえたら、次は論文で必ず必要になる「数式番号と参照」の仕組みを見ていきます。

数式番号付与とラベル参照

equation 環境と \label

論文 LaTeX では、equation 環境を使うと数式に自動で番号が振られます。さらに \label を付けておくと、本文中から \eqref または \ref で参照できます。

ニュートンの運動方程式は
\begin{equation}
m\ddot{\bm{r}} = \bm{F}
\label{eq:newton}
\end{equation}
と書ける。\eqref{eq:newton} の右辺は外力を表す。

\eqref は番号を (1) のように括弧付きで出力し、\ref は単に 1 と数字だけを出力します。番号付き数式は本文から参照する前提なので、\eqref を使うのが慣例です。

align での番号と非番号

align 環境は 各行ごとに番号 を振ります。番号を抑制したい行には \nonumber\notag を付けます。

\begin{align}
f(x) &= x^2 + 2x + 1 \nonumber \\
&= (x + 1)^2 \label{eq:expand}
\end{align}

すべての行で番号を抑制したいなら、align* (アスタリスク付き) を使います。

\begin{align*}
E &= mc^2 \\
F &= ma
\end{align*}

KaTeX (ブログ) の場合

KaTeX には \tag{...} という強力な機能があります。任意の文字列を数式番号にできます。

$$
\begin{align}
E &= mc^2 \tag{1.1} \\
F &= ma \tag{1.2}
\end{align}
$$

$$ \begin{align} E &= mc^2 \tag{1.1} \\ F &= ma \tag{1.2} \end{align} $$

ただし KaTeX の \eqref はサポートが限定的で、\label で付けた番号への自動参照はあまり期待できません。ブログでは「式 (1.1) のとおり〜」と本文に直接書く方が確実です。

数式番号の仕組みがわかれば、論文を書く準備はおおむね整います。最後に、初心者が陥りやすい詰まりポイントとその解決法をまとめておきます。

よくある詰まりポイントと解決法

詰まり 1: 「Undefined control sequence」

最も頻出するエラーが「Undefined control sequence \xxx」です。原因は次のいずれか。

  1. コマンドのタイプミス (例: \fac と書いた → \frac の typo)
  2. パッケージの読み込み忘れ (例: \bm を使うのに \usepackage{bm} がない)
  3. KaTeX が対応していないコマンド (例: \nicefrac, \bordermatrix)

KaTeX で使えるコマンドの完全なリストは KaTeX 公式ドキュメント で確認するのが最も確実です。

詰まり 2: 数式が崩れる・はみ出す

数式が右マージンからはみ出すときは、align で改行するか、\left( ... \right) を使った括弧を少しずつ短くするのが基本対応です。

% 長い式は align で改行
$$
\begin{align}
f(x) &= a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + a_3 x^3 \\
&\quad + a_4 x^4 + a_5 x^5 + \cdots
\end{align}
$$

\quad で 2 行目の頭をインデントすると、続きであることが視覚的に伝わります。

詰まり 3: 添字の波括弧忘れ

複数文字の添字を書くときに波括弧を忘れると、最初の 1 文字だけが添字になります。これは LaTeX 初心者あるあるです。

% NG
x^10   % → x^1 0  (期待: x の 10 乗)
a_ij   % → a_i j  (期待: 添字 ij)

% OK
x^{10}
a_{ij}

詰まり 4: 関数名がイタリックになる

sin(x) と書くと、$sin(x) = s \cdot i \cdot n \cdot x$ に見えます。必ず \sin(x) のように組み込みコマンドを使うか、未定義の関数名は \operatorname{...} で囲みましょう。

詰まり 5: 括弧のサイズが分数に合わない

分数や行列を括弧で囲むときに、デフォルトの ( ) だと括弧が中身に対して小さすぎます。\left(\right) で自動調整します。

% NG: 括弧が小さい
$( \frac{a}{b} )^2$

% OK: 括弧が分数の高さに合う
$\left( \frac{a}{b} \right)^2$

詰まり 6: KaTeX 非対応コマンドの代替

ブログで動かないコマンドの代替策をまとめておきます。

動かないコマンド 代替策
\nicefrac{a}{b} a/b または \frac{a}{b}
\bordermatrix \array で自前で書く
\intertext{...} 環境を一度閉じてテキストを挟む
\SI{10}{m} 10\,\text{m}
\hdotsfor{n} \cdots を該当セルに個別配置

KaTeX は LaTeX のサブセットなので「動くものから選ぶ」発想で書くと、ハマる頻度がぐっと下がります。

詰まりポイントを押さえれば、ほとんどのトラブルは初動で解決できるようになります。最後に、本記事全体を学習ロードマップとしてまとめます。

まとめ — 学習ロードマップ

本記事では、工学・理学の論文・技術ブログで日常的に使う LaTeX 数式記法をカタログ形式で一気に俯瞰しました。要点を改めて整理します。

  • 基本構造: インライン $...$ とブロック $$...$$、KaTeX と LaTeX (論文) の違い
  • 行列・ベクトル: pmatrix / bmatrix / vmatrix の使い分け、\bm による太字ベクトル
  • 添字・累乗: ^ / _ の波括弧ルール、\sum / \int などの大型演算子
  • 分数・根号: \frac / \dfrac / \cfrac の使い分け、\sqrt[n]{}
  • アクセント: \hat / \widehat\bar / \overline の 1 文字/複数文字ルール
  • 集合・論理: \in / \subseteq / \cup / \cap / \mathbb{R} / \forall / \exists
  • 整列: align / cases / aligned で複数行数式を組み立てる
  • 最適化: \argmin / \argmax / \underset / \overset の慣用パターン
  • ギリシャ文字・特殊文字: 英語名前置の規則と異体字 (\var...)
  • 番号と参照: equation 環境 + \label + \eqref、KaTeX の \tag

学習の優先順位 (おすすめ)

LaTeX を 0 から覚えるなら、以下の順番が最も効率的です。

  1. インライン/ブロックの切り替え ($...$ / $$...$$) — まずここから
  2. 添字と累乗 (^, _) — 必ず波括弧で囲む癖をつける
  3. 分数 (\frac{a}{b}) — もっとも頻出
  4. ギリシャ文字 (\alpha, \theta 等) — 暗記不要、引きながら使う
  5. 総和・積分 (\sum, \int) — 大型演算子の挙動を把握
  6. 行列 (pmatrix, bmatrix) — 工学系では必須
  7. ベクトル (\bm{x}) — 慣れたら他の太字は不要
  8. align 環境 — 導出を書き始めると即必要になる
  9. アクセント (\hat, \dot, \bar) — 統計・物理・信号処理で頻出
  10. \argmin / \argmax — 機械学習・制御工学で必要

このうち、最初の 6 ステップまで来ると、教科書の数式の 8 割は自前で清書できるようになります。残りは「足りなくなったら都度引く」というスタイルで十分です。

このページの使い方

このページ自体は、本棚に置いておくチートシートのイメージで作りました。普段は他のサイトで作業しつつ、コマンドを忘れたときに目次から該当章へジャンプして「コマンド → 出力」を確認する、という使い方を想定しています。さらに詳しく知りたい記号は、各章のリンクカードから子記事に進めば、より深い議論と豊富な例に出会えます。

子記事への入口 (まとめ)

最後に、各テーマの詳細記事へのリンクを再掲します。本記事で概要をつかんだあと、必要な記号についてはこちらから詳細を参照してください。

LaTeX の道具箱は、最初こそ大きく見えますが、本記事のように「使うパーツだけ」を絞り込めば思いのほかコンパクトです。気になる記号があれば該当の子記事を 1 本ずつ読み進め、3 か月後には「数式を書くために手を止める時間ゼロ」を目指してみてください。

LaTeX数式記法シリーズ:記事一覧

線形代数

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LaTeXで行列を書く(pmatrix・転置・逆行列)
pmatrix・bmatrix・拡大係数行列の全パターン
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LaTeXで太字ベクトル(bm・boldsymbol・vec)
bm・vec・内積・外積・ノルムの書き方
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LaTeXで内積・外積(langle・cdot・times)
langleとcdotの使い分けを解説
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LaTeXで絶対値・ノルム(|x|・lVert)
lVert・縦線のサイズ調整まで網羅

微積分

LaTeXで勾配∇・ベクトル解析記号
nabla・div・rotの記法を解説
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LaTeXで偏微分・全微分
frac partial と dのスタイル解説
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LaTeXで積分(定積分・重積分・線積分)
oint・iint・重積分の限界表記
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LaTeXで極限 lim
to infty・下付き添字の配置ルール
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LaTeXで総和Σ・総乗Π
displaystyleでの添字位置の制御

文字・記号

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LaTeXでギリシャ文字一覧
alpha・theta・nablaの英語名と異体字
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LaTeXで矢印記号(→ ⇒ ↔ ↦)
implies・leftrightarrow・mapstoの使い分け
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LaTeXでアクセント記号(hat tilde bar vec)
widehat・dot・barの使い分けと幅制御
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LaTeXで波括弧の注釈(underbrace overbrace)
数式の注釈を下付き・上付きで入れる方法

レイアウト

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LaTeXで数式の揃え・複数行(align)
align・cases・alignedで導出を整列
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LaTeXで分数(frac・dfrac・連分数)
dfracとcfracのサイズ制御を解説
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LaTeXで場合分け(cases)
波括弧付き場合分けの正しい書き方
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LaTeXで括弧のサイズ調整(left right big)
left・right・middleで背の高い括弧を自動調整
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LaTeXで数式中にテキスト(text mathrm)
textとmathrm・operatornameの使い分け
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LaTeXで数式に色をつける・ハイライト
colorboxとtextcolorで重要箇所を強調

確率・集合

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LaTeXで集合記号(∈ ⊂ ∪ ∩ ∖ ∅ ℝ) 完全ガイド コピペ可
帰属・部分集合・集合演算・数の集合を網羅
画像なし
LaTeXで確率記号P(X)・期待値E[X]をマスター 完全ガイド コピペ可
確率論と統計学の数式には、独特の記号体系があります。確率 $P(A)$、期待値 ...

をマスター 完全ガイド コピペ可" description="確率・期待値・分散・ベイズの定理の記法"]

LaTeXで条件付き独立を表す記号 完全ガイド コピペ可
二重垂直線記号の作り方とnewcommand登録

関数・物理

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LaTeXで対数log・指数expを書く 完全ガイド コピペ可
log・ln・exp・底の指定まで網羅
LaTeXでargmin・argmaxを書く 完全ガイド コピペ可
operatorname・DeclareMathOperatorの使い方
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LaTeXでマクスウェル方程式を書く 完全ガイド コピペ可
微分形・積分形・ベクトル解析記号を解説