数学の証明や論理学の授業で「すべての実数 $x$ に対して…」「ある $y$ が存在して…」という文を書きたいとき、普通の日本語では冗長になります。そこで活躍するのが 論理記号 です。$\forall$(全称量化子)・$\exists$(存在量化子)・$\land$(かつ)・$\lor$(または)・$\lnot$(でない)・$\Rightarrow$(ならば)・$\Leftrightarrow$(同値)といった記号を使うと、同じ内容を簡潔かつ正確に表現できます。
しかしいざ LaTeX/KaTeX で書こうとすると「\forall のあとにスペースが必要?」「\Rightarrow と \implies の違いは何?」「\land(∧)と集合の \cap(∩)はどう違うの?」といった疑問が次々と浮かびます。この記事では、よく使う論理記号のコマンドを 逆引き早見表 で引けるようにまとめ、それぞれの直感的な意味・書き方の注意点・コピペできる実例まで丁寧に解説します。
応用先はふたつあります。 ひとつは 数学の証明。ε-δ論法やド・モルガンの法則を数式として書く場面で、論理記号がなければ文章が長くなりすぎます。もうひとつは プログラムの仕様記述・形式検証。命題論理・述語論理の記号は、アルゴリズムの前提条件や不変条件を厳密に記述するためにも使われます。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
- 結合子 $\land$(かつ)・$\lor$(または)・$\lnot$(でない)の書き方と真理値表
- 含意・同値: $\Rightarrow$(ならば)・$\Leftrightarrow$(同値)、
\impliesvs\Rightarrowの違い - 量化子: $\forall$(すべての)・$\exists$(ある)・$\nexists$(存在しない)の書き方と束縛変数の記法
- その他の記号: $\therefore$(ゆえに)・$\because$(なぜなら)・$\top$(真)・$\bot$(偽)・$\models$・$\vdash$
- コピペ実例3点(ε-δ論法・ド・モルガン・述語論理式)
- KaTeX互換表 と よくある間違い($\land$ と $\cap$ の混同、
\forall後のスペース)

この図が記事全体の地図です。論理記号は大きく「結合子(∧・∨・¬)」「含意・同値(⇒・⇔)」「量化子(∀・∃)」の3グループに分かれ、さらに補助記号として「ゆえに(∴)・なぜなら(∵)・真(⊤)・偽(⊥)」があります。それぞれのグループを順番に見ていきましょう。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 備考 |
|---|---|---|---|
| P かつ Q | \land または \wedge |
$P \land Q$ | 論理積 |
| P または Q | \lor または \vee |
$P \lor Q$ | 論理和 |
| P でない | \lnot P または \neg P |
$\lnot P$ | 否定 |
| P ならば Q | P \implies Q |
$P \implies Q$ | 含意(推奨) |
| P ならば Q(矢印系) | P \Rightarrow Q |
$P \Rightarrow Q$ | \implies と同義 |
| P と Q は同値 | P \iff Q |
$P \iff Q$ | 双条件(推奨) |
| P と Q は同値(矢印系) | P \Leftrightarrow Q |
$P \Leftrightarrow Q$ | \iff と同義 |
| 関数の矢印 | f \colon X \to Y |
$f \colon X \to Y$ | 写像の定義域・値域 |
| すべての x で | \forall x |
$\forall x$ | 全称量化子 |
| ある x が存在する | \exists x |
$\exists x$ | 存在量化子 |
| x は存在しない | \nexists x |
$\nexists x$ | 否定存在量化子 |
| ゆえに | \therefore |
$\therefore$ | 結論の前に置く |
| なぜなら | \because |
$\because$ | 理由の前に置く |
| 真(矛盾なし) | \top |
$\top$ | トートロジー |
| 偽・矛盾 | \bot |
$\bot$ | 矛盾命題 |
| 意味論的帰結 | \models |
$\models$ | モデル論 |
| 証明可能 | \vdash |
$\vdash$ | 証明論 |
| x は集合 S に属さない | x \notin S |
$x \notin S$ | \not\in でも可 |
| 等しくない | \neq |
$\neq$ | \not= より推奨 |
この表から目的のコマンドを探し、以降のセクションで詳細を確認してください。それぞれに直感的説明・書き方のコツ・コピペできる数式例を添えています。
1. 結合子: ∧(かつ)・∨(または)
直感: 日常言語の「かつ」「または」を記号にする
数学や論文で「条件 A が成り立ち、かつ 条件 B も成り立つとき」という表現は頻出します。これを毎回日本語で書くのは冗長で、翻訳によって意味がぶれることもあります。そこで「かつ」を $\land$(ランド)、「または」を $\lor$(ロー)という記号で表します。
$\land$ は英語の AND に、$\lor$ は OR に対応します。プログラミングの && や || と同じ概念です。
LaTeX コマンド
% かつ(論理積)
$P \land Q$ % 推奨
$P \wedge Q$ % \land と同義(wedge = くさび形)
% または(論理和)
$P \lor Q$ % 推奨
$P \vee Q$ % \lor と同義(vee = V字形)
\land と \wedge は完全に同義です。\land のほうがタイプ数が少ないので、論理の文脈では \land を使う著者が多い傾向があります。同様に \lor と \vee も同義です。
真理値表で確認する

真理値表から 2つの重要な事実 が読み取れます。
- $P \land Q$(かつ)は両方が真のときだけ真 — P が偽、または Q が偽のとき、P かつ Q は偽です。「りんごが赤い、かつ、空が青い」は両方正しければ真ですが、片方でも間違いなら全体として偽になります。
- $P \lor Q$(または)は少なくとも一方が真なら真 — 両方とも偽のときだけ偽です。日常語の「または」には排他的な意味合い(どちらか一方だけ)がありますが、数学の $\lor$ は包含的な「または」(両方でも真)です。
複合命題の書き方
複数の命題を組み合わせるときは、丸括弧 \left( ... \right) で優先順位を明示するのが慣習です。
% ド・モルガンの法則(先取り)
$$
\lnot (P \land Q) \iff (\lnot P) \lor (\lnot Q)
$$
% 条件式での使用例
$$
x > 0 \land y > 0 \implies x + y > 0
$$
結合子の基本を押さえたところで、「でない」を表す否定記号に進みましょう。否定は一見単純ですが、\lnot・\neg・\not の3種類があり使い分けが必要です。
2. 否定: ¬(でない)
直感: 真偽を反転する
「P でない」とは、P が真なら偽に、P が偽なら真に反転することです。電気回路のNOTゲートと同じ働きです。
LaTeX コマンドの種類と使い分け

否定には3種類の書き方があります。
① \lnot(論理否定の専用コマンド)
$\lnot P$ % 推奨:命題の否定
\lnot は logical not の略で、命題の否定を表す専用コマンドです。スペーシングが適切に調整されるので、命題の否定には \lnot を使うのが最も無難です。
② \neg(同義)
$\neg P$ % \lnot と同義。どちらでもよい
\neg も \lnot と同じ記号を出力します。TeX の古い文書や論理学の教科書では \neg を使う著者もいます。どちらを選ぶかは好みの問題ですが、一つの文書で統一しましょう。
③ \not(汎用の斜線コマンド)
$\not=$ % ≠(不等号)
$\not\in$ % ∉(属さない)
$\not\subset$ % 部分集合でない
\not は次の記号に斜線を引く汎用コマンドです。命題の否定には使いません。「$P \not$」のように命題に直接付けると崩れた表示になるので注意してください。命題の否定は必ず \lnot か \neg を使います。
二重否定と \nexists
否定を二重に使うと元に戻ります(二重否定律)。
$$
\lnot (\lnot P) \iff P
$$
「存在しない」を表す \nexists は \not\exists と同義ですが、専用コマンドのほうがスペーシングが安定します。
$\nexists x \in \mathbb{R},\; x^2 = -1$
% 「x^2 = -1 となる実数 x は存在しない」
否定の使い方を理解したところで、命題をつなぐ「ならば」と「同値」に進みます。これらは証明の流れを記述する骨格となる記号です。
3. 含意・同値: ⇒(ならば)と ⇔(同値)
直感: 証明の「流れ」を記号にする
数学の証明で最もよく使う構造は「A ならば B」(仮定から結論を導く)と「A であることと B であることは同値」(互いに必要十分条件)です。前者を 含意($\Rightarrow$)、後者を 同値($\Leftrightarrow$)と呼びます。
LaTeX コマンドと選択指針
% 含意(ならば)
$P \implies Q$ % 推奨:意図が明確
$P \Rightarrow Q$ % 同義。古典的な書き方
% 同値
$P \iff Q$ % 推奨:意図が明確
$P \Leftrightarrow Q$ % 同義。古典的な書き方
% 片方向の矢印(写像・関数用)
$f \colon X \to Y$ % \to は → で、写像に使う
\implies と \Rightarrow は同じ記号 $\Rightarrow$ を出力しますが、意味的な示唆が異なります。\implies は「論理的含意」を明示的に示すコマンドなので、命題論理の文脈では \implies を使うほうが読者に意図が伝わりやすいです。\Rightarrow は矢印記号としての意味合いが強く、写像の記述にも使われるため混同が起きやすいことがあります。
% 推奨する書き方(命題論理)
$$
x > 2 \implies x^2 > 4
$$
% 避けるべき混同
$$
f \Rightarrow g % f が g を暗示する? f が g に写像する? —— 不明確
$$
真理値表と「嘘をついた」解釈

含意 $P \Rightarrow Q$ の真理値表でもっとも意外に感じるのが「P が偽のとき常に真」という性質です。これは 「嘘つきは約束を破らない」 という解釈で理解できます。「月は地球より大きい(偽)ならば、空は青い(真)」という命題は、P が偽なので前提が崩れており、全体として「約束違反をした」とは言えない——つまり真です。論理学ではこれを 空虚な真(vacuous truth) と呼びます。
同値 $P \Leftrightarrow Q$ は「P ならば Q、かつ Q ならば P」の両方向の含意が成り立つことを意味します。つまり
$$ (P \iff Q) \iff (P \implies Q) \land (Q \implies P) $$
と表せます。「P と Q は必要十分条件」という表現と完全に一致します。
真理値表から 2点 が読み取れます。第一に、$P \Rightarrow Q$ は「P=真かつQ=偽」のときのみ偽で、残り3通りは真です。第二に、$P \Leftrightarrow Q$ は P と Q の真偽が一致するとき(両方真または両方偽)のみ真で、食い違うとき偽です。
\implies と \to の使い分け早見表
| 記号 | コマンド | 主な用途 |
|---|---|---|
| $\Rightarrow$ | \implies / \Rightarrow |
論理的含意(命題論理) |
| $\Leftrightarrow$ | \iff / \Leftrightarrow |
同値(必要十分条件) |
| $\rightarrow$ | \to または \rightarrow |
写像・極限($x \to \infty$)・含意の代替 |
| $\mapsto$ | \mapsto |
写像の元と像の対応($x \mapsto x^2$) |
\to は命題の含意に使われることもありますが、「$x \to \infty$」のような極限記法とかぶるため、含意の意味には \implies を明示的に使う書き方が増えています。
含意と同値の仕組みが理解できたところで、いよいよ記事の核心——「すべての」と「ある…が存在する」を表す量化子に進みましょう。
4. 量化子: ∀(すべての)・∃(ある…が存在する)
直感: 「どこで」「どのくらい」成り立つかを表す
結合子や含意は命題(真/偽の値を持つ文)同士の関係を表しました。量化子は一歩進んで、「変数 $x$ をいくつか持ってきたとき、命題がどのくらい成り立つか」 を表現します。
- 全称量化子 $\forall$(フォーオール): 「すべての $x$ に対して」
- 存在量化子 $\exists$(エグジスツ): 「ある $x$ が存在して」
∀(全称量化子)の書き方

この図が示すように、全称量化子は定義域の全要素を走り、どれひとつ例外なく P が成り立つことを要求します。
% 基本形
$\forall x \in \mathbb{R},\; x^2 \geq 0$
% 「すべての実数 x に対して x^2 >= 0」
% ブロック数式
$$
\forall \varepsilon > 0,\; \exists \delta > 0,\; |x - a| < \delta \implies |f(x) - L| < \varepsilon
$$
スペーシングのコツ: \forall x の後には \,(小さいスペース)または \;(中くらいのスペース)を入れると読みやすくなります。\forall x のあとに何もつけないと記号と変数が密着しすぎる場合があります。
% スペーシングあり(推奨)
$\forall x \in \mathbb{R},\; P(x)$
% スペーシングなし(やや詰まった印象)
$\forall x\in\mathbb{R},P(x)$
∃(存在量化子)の書き方

この図が示すように、存在量化子は定義域の中に「これ!」という要素が少なくとも1つ見つかれば、命題全体が真になります。
% 基本形
$\exists x \in \mathbb{R},\; x^2 = 2$
% 「x^2 = 2 となる実数 x が存在する(x = sqrt(2) など)」
% 「存在して一意である(ただ一つ存在する)」
$\exists! x \in \mathbb{R},\; x + 5 = 0$
% \exists! で「一意存在」を表す。KaTeX対応
一意存在 \exists!: 「ちょうど1つだけ存在する」ことを強調するときは \exists! と書きます。これは KaTeX でも表示されます。
∄(存在しない): \nexists
$\nexists x \in \mathbb{R},\; x^2 = -1$
% 「x^2 = -1 となる実数 x は存在しない」
% 同義の書き方
$\not\exists x \in \mathbb{R},\; x^2 = -1$
\nexists は KaTeX 対応です。\not\exists よりスペーシングが安定するので、専用コマンドを使う方が無難です。
量化子の順序と意味の違い
量化子は並べる順序によって意味が変わります。これは論理学の重要な注意点です。
$$ \forall x \in \mathbb{R},\; \exists y \in \mathbb{R},\; y > x $$
「どんな実数 $x$ に対しても、$x$ より大きい実数 $y$ が存在する」——これは真です($y = x + 1$ をとればよい)。
$$ \exists y \in \mathbb{R},\; \forall x \in \mathbb{R},\; y > x $$
「すべての実数 $x$ より大きい実数 $y$ が存在する」——これは偽です(実数の上限は存在しないため、そのような $y$ はありません)。
2つの命題の唯一の違いは $\forall$ と $\exists$ の順序だけですが、意味が正反対に変わります。証明を書くとき・読むときは量化子の順序に細心の注意を払いましょう。
束縛変数の正しい書き方
量化子に続く変数は 束縛変数(bound variable) と呼ばれ、量化子のスコープ内でのみ意味を持ちます。記法の慣習を整理します。
% ∈ で定義域を明示する(推奨)
$\forall x \in \mathbb{R},\; P(x)$
% 「such that(s.t.)」を使う記法
$\exists y \in \mathbb{R} \text{ s.t. } y > x$
% : を「s.t.」の代わりに使う記法(集合論でよく見る)
$\{x \in \mathbb{R} : x^2 > 1\}$ % 内包表記
% \mid で縦棒を使う(集合の内包表記)
$\{x \in \mathbb{R} \mid x^2 > 1\}$ % \mid が推奨(\| より細い)
量化子と束縛変数の関係を押さえたところで、補助的に使われる記号群を見ていきましょう。
5. その他の論理記号: ∴・∵・⊤・⊥・⊨・⊢
∴(ゆえに)と ∵(なぜなら)
黒板や手書きの証明で頻繁に使われる2つの記号です。
$\therefore$ % ∴(ゆえに)
$\because$ % ∵(なぜなら)
証明の流れを記述する例を示します。
$$
x^2 = 4 \quad \because x = 2
$$
$$
\therefore \quad x = 2 \text{ または } x = -2
$$
ただし学術論文や教科書では、$\therefore$ や $\because$ よりも「したがって」「なぜなら」を英語で書いたり、含意記号 $\Rightarrow$ を使ったりする文化もあります。分野や指導教員の方針に合わせて使ってください。
⊤(真)と ⊥(偽・矛盾)
$\top$ % ⊤(トップ):常に真の命題
$\bot$ % ⊥(ボトム):常に偽の命題・矛盾
これらは 命題定数 として使われます。
% ⊤の使い方:トートロジー(恒真式)
$$
P \lor \lnot P \equiv \top
$$
% 「P またはでないP は常に真」
% ⊥の使い方:矛盾(恒偽式)
$$
P \land \lnot P \equiv \bot
$$
% 「P かつ でないP は常に偽」
% 矛盾から任意の命題が導ける(爆発律)
$$
\bot \implies Q
$$
\top と \bot は KaTeX で正しく表示されます。
⊨(意味論的帰結)と ⊢(統語論的証明可能)
これらは記号論理学・形式証明論で使う記号です。
$\Gamma \models \varphi$ % Γ は φ を意味論的に帰結する
$\Gamma \vdash \varphi$ % Γ から φ が証明可能である
意味論的帰結 $\models$: 「前提 $\Gamma$ のすべてのモデル(解釈)において $\varphi$ が真」ということです。数学の標準的な証明でも使われます。
$$
P \land Q \models P
$$
% 「P ∧ Q が成り立てば P も成り立つ(モデル論的に正しい)」
証明論的証明可能 $\vdash$: 「公理 $\Gamma$ と推論規則から $\varphi$ を導出できる(形式的な証明が存在する)」ということです。
$$
P \vdash P \lor Q
$$
% 「P が公理として与えられれば、P ∨ Q が証明可能」
健全性定理(soundness)と完全性定理(completeness)によって、通常の命題論理では $\Gamma \vdash \varphi \Leftrightarrow \Gamma \models \varphi$ が成り立ちます。一般的な数学の文章では $\models$ と $\vdash$ を厳密に区別せずに使うことも多いですが、証明論・モデル論の教科書では区別が重要です。
補助記号の整理ができました。次は実際の数式でこれらの記号を組み合わせて使う実戦例を見ていきましょう。
6. コピペできる実戦例 3 選
例1: ε-δ 論法(極限の厳密定義)
分析学で最も有名な論理記号の使用例です。「$\lim_{x \to a} f(x) = L$」の ε-δ 定義を論理記号で書きます。
$$
\lim_{x \to a} f(x) = L
\;\overset{\text{def}}{\iff}\;
\forall \varepsilon > 0,\;
\exists \delta > 0,\;
0 < |x - a| < \delta \implies |f(x) - L| < \varepsilon
$$
上の数式が表すのは次のことです。「どんな小さな誤差幅 $\varepsilon$ を指定されても、それに応じた $\delta$ を必ず見つけることができ、$x$ が $a$ から $\delta$ 以内にあれば $f(x)$ は $L$ から $\varepsilon$ 以内に収まる」——この構造が $\forall \varepsilon > 0,\; \exists \delta > 0$ という量化子の順序で表現されています。$\forall$ と $\exists$ の順序を逆にすると意味が変わってしまうことは先述した通りです。
例2: ド・モルガンの法則
否定・論理積・論理和の美しい関係を示す法則です。
% ド・モルガンの法則(命題論理)
$$
\lnot (P \land Q) \iff (\lnot P) \lor (\lnot Q)
$$
$$
\lnot (P \lor Q) \iff (\lnot P) \land (\lnot Q)
$$
日常的な例で確認すると「『コーヒーでもなくお茶でもない』は『コーヒーではない、かつお茶ではない』と同じ意味」——これが第2式です。集合論のド・モルガン($\overline{A \cup B} = \bar{A} \cap \bar{B}$)とアナロジーがあります。\land と \cap、\lor と \cup は対応していますが、操作する対象(命題 vs 集合の要素)が違います(次セクションで詳述)。
例3: 述語論理式(公理系)
数学の公理を述語論理で書く例です。ペアノの自然数の公理の一部を示します。
% すべての自然数 n に対して、0 ≠ S(n)(後者関数の像は 0 にならない)
$$
\forall n \in \mathbb{N},\; 0 \neq S(n)
$$
% 異なる n, m の後者は異なる(後者関数の単射性)
$$
\forall n, m \in \mathbb{N},\; S(n) = S(m) \implies n = m
$$
% 帰納法の公理(述語 P について)
$$
\bigl[ P(0) \land \forall k \in \mathbb{N},\; (P(k) \implies P(k+1)) \bigr]
\implies \forall n \in \mathbb{N},\; P(n)
$$
最後の帰納法の公理は「P(0) が真で、かつ k で成り立てば k+1 でも成り立つ、ならば全ての自然数で成り立つ」という構造を、\land・\implies・\forall を組み合わせて表しています。
実戦例でコマンドの組み合わせ方を確認できました。次は初学者がよく混同する \land と \cap の違いを集中的に整理します。
7. ∧ と ∩ の混同に注意
見た目が似ているが意味は全く異なる
これは LaTeX を学び始めた人が最もよく陥るミスです。\land($\land$)と \cap($\cap$)は形が似ていますが、操作する対象が根本的に違います。

図から 2つの決定的な違い が読み取れます。
\landの操作対象は命題(真/偽): $P \land Q$ は「P が真かつ Q も真か」という真偽値の演算で、結果は真または偽のどちらかです。\capの操作対象は集合(要素の集まり): $A \cap B$ は集合 A と集合 B の両方に属する要素の集まりで、結果は集合です。
% NG例:集合の共通部分に \land を使ってはいけない
$A \land B$ % 間違い(A, B が集合なら \cap を使う)
% OK例:正しい使い分け
$A \cap B$ % 集合の共通部分(\cap = \bigcap の二項版)
$P \land Q$ % 命題の論理積(\land = \wedge)
対応する組み合わせを並べると次のようになります。
| 論理記号 | コマンド | 集合記号 | コマンド |
|---|---|---|---|
| $\land$(かつ) | \land |
$\cap$(共通部分) | \cap |
| $\lor$(または) | \lor |
$\cup$(和集合) | \cup |
| $\lnot$(でない) | \lnot |
$\bar{A}$(補集合) | \bar{A} |
ド・モルガンの法則がこの対応を橋渡しします。命題版 $\lnot(P \land Q) \iff \lnot P \lor \lnot Q$ と集合版 $\overline{A \cap B} = \bar{A} \cup \bar{B}$ は構造が同型です。
8. KaTeX 互換表
本ブログ(KaTeX 使用)での各論理記号の対応状況をまとめます。

| コマンド | 表示 | KaTeX | 備考 |
|---|---|---|---|
\land |
$\land$ | 対応 | \wedge と同義 |
\lor |
$\lor$ | 対応 | \vee と同義 |
\lnot |
$\lnot$ | 対応 | \neg と同義 |
\implies |
$\implies$ | 対応 | \Rightarrow より語義明確 |
\iff |
$\iff$ | 対応 | \Leftrightarrow と同義 |
\to |
$\to$ | 対応 | \rightarrow と同義 |
\forall |
$\forall$ | 対応 | 全称量化子 |
\exists |
$\exists$ | 対応 | 存在量化子 |
\nexists |
$\nexists$ | 対応 | \not\exists と同義 |
\exists! |
$\exists!$ | 対応 | 一意存在量化子 |
\therefore |
$\therefore$ | 対応 | ゆえに |
\because |
$\because$ | 対応 | なぜなら |
\top |
$\top$ | 対応 | 真・トートロジー |
\bot |
$\bot$ | 対応 | 偽・矛盾 |
\models |
$\models$ | 対応 | 意味論的帰結 |
\vdash |
$\vdash$ | 対応 | 統語論的証明可能 |
表から、このブログで使う論理記号は全て KaTeX で問題なく表示されることがわかります。なお一部の特殊な記号(例: ベクトル型の否定記号など)は KaTeX で豆腐になることがあります。そのような場合は対応するコマンドを Unicode 文字で代替するか、記号の使用を別の表現に変えましょう。
9. よくある間違いと修正
間違い1: \forall の後のスペースを忘れる
% NG: \forall と x が密着する
$\forall x \in \mathbb{R}$ % ← これは OK に見えるが...
% \forall の後に \; を入れると読みやすくなる(推奨)
$\forall x \in \mathbb{R},\; P(x)$
% カンマと \; の組み合わせで量化子全体が読みやすくなる
$\forall \varepsilon > 0,\; \exists \delta > 0,\; |x - a| < \delta$
\; は数式中の「中程度のスペース」で、量化子の後や条件の区切りに使うと数式が格段に読みやすくなります。
間違い2: \land と \cap を混同する
前のセクションで詳述しましたが、再確認です。
% NG: 集合に論理記号を使う
$A \land B = \{x \mid x \in A \text{ かつ } x \in B\}$ % 間違い
% OK: 集合には \cap
$A \cap B = \{x \mid x \in A \land x \in B\}$ % 正しい
% (内包表記の中の条件部分には \land を使う)
内包表記 \{x \mid ...\} の中の条件部分では \land を使います(条件は命題なので)。集合の演算記号($\cap$・$\cup$)と命題の結合子($\land$・$\lor$)を使う場所を間違えないようにしましょう。
間違い3: \implies と \to を混用して曖昧にする
% 曖昧な書き方(\to が含意か写像か不明)
$x > 0 \to x^2 > 0$ % 意図不明
% 明確な書き方
$x > 0 \implies x^2 > 0$ % 含意(論理的命題)
$f : x \mapsto x^2$ % 写像の対応(元から像)
$f \colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}$ % 写像の型
\to は極限記法($x \to \infty$)でも使うため、含意の意図で使うと文脈が混乱することがあります。含意には \implies を使う習慣をつけましょう。
間違い4: \neg を命題以外に使う
% NG: \neg を集合の補集合に使うのは非標準
$\neg A$ % A が集合なら \bar{A}、\overline{A}、A^c などを使う
% OK: \neg / \lnot は命題の否定に限定する
$\lnot P$ % 命題 P の否定
$\bar{A}$ % 集合 A の補集合
$\overline{A \cup B}$ % A∪B の補集合
Tips: 長い論理式の改行
複数行にわたる論理式は \begin{align} と \\ で改行し、& で揃えます。
$$
\begin{align}
&\forall \varepsilon > 0,\; \exists N \in \mathbb{N}, \\
&\quad \forall n > N,\; |a_n - L| < \varepsilon
\end{align}
$$
\quad は大きめのスペース(全角スペース相当)で、インデントに使います。
まとめ
本記事では、LaTeX/KaTeX で論理記号を書く方法をリファレンス形式で解説しました。
| グループ | 記号 | コマンド | 一言説明 |
|---|---|---|---|
| 結合子 | $\land$ | \land |
かつ(論理積) |
| 結合子 | $\lor$ | \lor |
または(論理和) |
| 結合子 | $\lnot$ | \lnot |
でない(否定) |
| 含意 | $\implies$ | \implies |
ならば(含意) |
| 同値 | $\iff$ | \iff |
同値(双条件) |
| 量化子 | $\forall$ | \forall |
すべての(全称) |
| 量化子 | $\exists$ | \exists |
存在する(存在) |
| 量化子 | $\nexists$ | \nexists |
存在しない |
| 補助 | $\therefore$ | \therefore |
ゆえに |
| 補助 | $\because$ | \because |
なぜなら |
| 補助 | $\top$ | \top |
真 |
| 補助 | $\bot$ | \bot |
偽・矛盾 |
覚えておくべき3点を整理します。第一に \land(論理積)と \cap(集合の共通部分)は見た目が似ていますが全く別物——集合には \cap、命題には \land を使いましょう。第二に含意には \to でなく \implies を使うと意図が明確になります。第三に量化子 \forall・\exists の後は \; でスペースを入れると数式が読みやすくなります。
関連記事:LaTeX数式記法シリーズ
