数式を書いていて「∞ってどう打つんだっけ」と手が止まった経験は、理工系なら誰にでもあるはずです。\infinity と打ってみたらエラーになる。8 を横に倒して代用するわけにもいかない。正解は \infty のたった6文字なのですが、問題はそこから先です。\int_-\infty^\infty と素直に書いたら積分記号の上下がバラバラに崩れる。本文中に $\lim_{n \to \infty}$ と書いたら、条件が lim の真下ではなく右下に小さく張り付いてしまう。区間を $[0, \infty]$ と閉じて書いたら査読で赤を入れられる。
∞ という記号は、たった1文字なのに現れる場面が異様に広いのが厄介なところです。極限の行き先、積分の区間、級数の上限、集合の区間表記、そして無限集合の「大きさ」——これらは数学的には別物なのに、どれも同じ \infty で書きます。だから「∞ の書き方」を極限だけで学んでしまうと、積分や区間表記で必ずつまずきます。
この記事では、∞ という記号そのものを主役にして、それが現れる全場面を横断的に整理します。応用先は明確です。ひとつはレポート・論文の組版。広義積分 $\int_{-\infty}^{\infty}$ や無限級数 $\sum_{n=1}^{\infty}$ は解析学・確率論・信号処理のどの文書にも出てきますし、区間の開閉やインライン数式での添字位置は「読みやすさ」に直結します。もうひとつは数式の意味を取り違えないこと。$\infty$ は数ではないのに、$[0,\infty]$ と書いたり $\infty – \infty = 0$ と計算したりする誤りは、記法の理解が浅いところから生まれます。記法を正確に押さえることが、そのまま数学的な誤りの予防になります。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
\inftyの基本、\pm\infty・-\inftyの書き方\to/\rightarrow/\Rightarrowの取り違えと\longrightarrow- インライン数式で
\limの添字が横に付く問題と\displaystyle/\limitsでの制御 - 積分区間の ∞ —
\int_0^\infty,\int_{-\infty}^{\infty}と+\inftyの慣習差 - 級数・無限積 —
\sum_{n=1}^{\infty},\prod_{n=1}^{\infty} \limsup/\liminfと横線つきの\varlimsup/\varliminf- 区間表記
(0,\infty)— ∞ 側が必ず開区間になる理由 - 無限集合の濃度 —
\aleph_0と連続体濃度\mathfrak{c} - ∞ は数ではないという注意と拡大実数
\overline{\mathbb{R}} - 発散の3タイプ(+∞ / -∞ / 振動)と記法
- KaTeX対応可否の表(KaTeX 0.16.3 で実測確認)
- よくある間違いと修正

この図が記事全体の地図です。中央の \infty という単一のコマンドから、5つの方向に用途が伸びています。注目してほしいのは、5つの場面で ∞ の「意味」が微妙に違うことです。極限の $n \to \infty$ は「限りなく大きくする操作」、積分区間の $\int_0^\infty$ は「上端を伸ばした極限」、級数の上限は「項数を無限にする略記」、区間表記の $(0,\infty)$ は「上に有界でない集合」、そして濃度の $\aleph_0$ は「集合の大きさ」です。記号は同じでも指しているものが違う、という感覚を持っておくと、後の各セクションが腹落ちしやすくなります。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 無限大 | \infty |
$\infty$ | KaTeX対応。\infinity は存在しない |
| 負の無限大 | -\infty |
$-\infty$ | 添字に入れるときは {-\infty} |
| 正の無限大(明示) | +\infty |
$+\infty$ | $-\infty$ と対比したいとき |
| プラスマイナス無限大 | \pm\infty |
$\pm\infty$ | KaTeX対応 |
| マイナスプラス無限大 | \mp\infty |
$\mp\infty$ | KaTeX対応 |
| n を無限に飛ばす | n \to \infty |
$n \to \infty$ | \to が極限の標準 |
| 極限(ブロック) | \lim_{n\to\infty} a_n |
$\lim_{n\to\infty} a_n$ | 添字が真下に来る |
| 極限(インラインでも真下) | \displaystyle\lim_{n\to\infty} a_n |
$\displaystyle\lim_{n\to\infty} a_n$ | \limits でも可 |
| 添字を右下に寄せる | \lim\nolimits_{n\to\infty} |
$\lim\nolimits_{n\to\infty}$ | ブロックでも右下に |
| 無限区間の積分 | \int_0^\infty f(x)\,dx |
$\int_0^\infty f(x)\,dx$ | 上端だけ ∞ |
| 全区間の積分 | \int_{-\infty}^{\infty} f\,dx |
$\int_{-\infty}^{\infty} f\,dx$ | 波括弧が必須 |
| 無限級数 | \sum_{n=1}^{\infty} a_n |
$\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ | KaTeX対応 |
| 無限積 | \prod_{n=1}^{\infty} a_n |
$\prod_{n=1}^{\infty} a_n$ | KaTeX対応 |
| 上極限・下極限 | \limsup, \liminf |
$\limsup$, $\liminf$ | 専用コマンド |
| 横線つき上極限 | \varlimsup |
$\varlimsup$ | KaTeXは対応(実測確認) |
| 横線つき下極限 | \varliminf |
$\varliminf$ | 下線つき。KaTeX対応 |
| 開区間(∞ 側) | (0,\infty) |
$(0,\infty)$ | ∞ 側は必ず開き括弧 |
| 半開区間 | [0,\infty) |
$[0,\infty)$ | 0 は含む |
| 可算無限の濃度 | \aleph_0 |
$\aleph_0$ | アレフ・ゼロ |
| 連続体濃度 | \mathfrak{c} |
$\mathfrak{c}$ | 2^{\aleph_0} とも書く |
| 拡大実数 | \overline{\mathbb{R}} |
$\overline{\mathbb{R}}$ | $[-\infty,+\infty]$ |
| 矢印にラベルを載せる | \xrightarrow{n\to\infty} |
$\xrightarrow{n\to\infty}$ | KaTeX対応 |
細かい話に入る前に、必要なコマンドはここから引けるようにしました。以降の各セクションで、それぞれの背景と落とし穴を丁寧に見ていきます。
1. \infty の基本 — たった6文字だが変種がある
直感:∞ は「大きな数」ではなく「限りなく大きくなる状態」
まず記号の話の前に、意味の話をひとつだけ。$\infty$ を「とても大きな数」だと思っていると、必ずどこかで足をすくわれます。$\infty$ が表しているのは特定の値ではなく、限りなく大きくなっていく振る舞いです。
たとえば「$1 + 1 = 2$」のように「$\infty + 1 = \infty$」と書けるように見えますが、これは通常の足し算とは意味が違います。同様に $\infty – \infty$ は $0$ になりません。「限りなく大きくなる2つのものの差」は、近づき方によって $0$ にも $5$ にも $\infty$ にもなり得るからです。この「$\infty$ は数ではない」という一点は後半のセクションで詳しく扱いますが、記法を学ぶ最初の段階で頭に入れておくと理解が早くなります。
書き方
無限大は \infty の6文字です。
$$ \infty $$
$\infty$
読み方は「インフィニティ」ですが、コマンド名は英単語 infinity から4文字を落とした \infty である点に注意してください。\infinity というコマンドは LaTeX にも KaTeX にも存在しません。これは最も多いタイプミスです。
符号つきの無限大
実数直線には右方向と左方向があるので、無限大にも正負があります。
$$ -\infty, \quad +\infty, \quad \pm\infty, \quad \mp\infty $$
$$
-\infty, \quad +\infty, \quad \pm\infty, \quad \mp\infty
$$
-\infty は素直にマイナス記号を前に置くだけです。+\infty は数学的には \infty と同じですが、$-\infty$ と並べて向きを対比したいときに明示します。\pm\infty(プラスマイナス無限大)は「両方向の無限大をまとめて指す」ときに便利で、拡大実数の定義 $\mathbb{R} \cup \{\pm\infty\}$ などで使います。\mp\infty は $\pm$ と符号が逆に対応する場面($x \to \pm\infty$ のとき $f(x) \to \mp\infty$ のような表現)で登場します。
ここで最初の落とし穴を先に潰しておきます。添字や上限に $-\infty$ を入れるときは、必ず波括弧で囲んでください。
% NG:波括弧がないので - だけが下付きになる
$\int_-\infty^\infty f(x)\,dx$
% OK:{-\infty} 全体を下付きにする
$\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx$
なぜこうなるかというと、LaTeX の _ と ^ は直後の1トークンだけを添字として取る規則だからです。_-\infty と書くと - の1文字だけが下付きになり、残った \infty は積分記号の隣に並ぶ普通の因子として扱われます。KaTeX で実際に描画してみると、\int_-\infty^\infty f は「下付きがマイナスだけの積分記号」+「∞ の ∞ 乗」+「f」という、意味不明な3つの並びになります。$1$ 文字の添字($\int_0^\infty$ の 0 など)では波括弧を省略できるので、つい省略癖がついてしまうのが原因です。2トークン以上なら波括弧、と覚えてください。
∞ の書き方そのものは以上です。しかし ∞ は単独で現れることは少なく、ほとんどの場合「$n \to \infty$」のように矢印と組みます。次にその矢印を整理しましょう。
2. 「近づく」の矢印 — \to / \rightarrow / \Rightarrow
\to と \rightarrow は完全に同じもの
$n \to \infty$ の矢印には \to を使います。ここで多くの人が疑問に思うのが「\rightarrow との違いは何か」です。
答えは出力は完全に同一です。
$$ n \to \infty \qquad n \rightarrow \infty $$
$$
n \to \infty \qquad n \rightarrow \infty
$$
見た目に差はありません。\to は \rightarrow の別名(エイリアス)として定義されているだけで、違いは打つ文字数だけです。極限の添字は n \to \infty のように何度も書くので、短い \to が事実上の標準になっています。どちらを使っても間違いではありませんが、同じ文書内で混在させると差分が読みにくくなるので、\to に統一するのがおすすめです。
本当に注意すべきは \Rightarrow(二重矢印)
一方、本当に取り違えてはいけないのは大文字始まりの \Rightarrow です。
$$ \to \ (\text{近づく}) \qquad \Rightarrow \ (\text{ならば}) $$
\Rightarrow が出力する二重線の矢印 $\Rightarrow$ は「ならば(含意)」を表す論理記号です。極限の「近づく」とは意味がまったく違います。
% NG:論理記号を極限に使ってしまう(KaTeXはエラーを出さず、そのまま誤った式を表示する)
$\lim_{n \Rightarrow \infty} a_n$
% OK
$\lim_{n \to \infty} a_n$
厄介なのは、これがエラーにならない点です。\Rightarrow は正規のコマンドなので、KaTeX は文句を言わず $\lim_{n \Rightarrow \infty} a_n$ をそのまま描画します。組版は通るのに数学的には無意味な式が出来上がるため、自分で見直すまで気づけません。

この一覧から読み取ってほしいのは3点です。第一に、緑の \to と \rightarrow は字形が完全に一致しています——出力が同じである以上、選択は好みの問題です。第二に、赤の \Rightarrow と \Longrightarrow は線が二重になっており、字形レベルで別物だとわかります。第三に、\mapsto($\mapsto$、根元に縦棒が付く矢印)も極限には使いません。これは写像 $x \mapsto x^2$ の対応を表す記号です。極限で使ってよいのは緑の2つだけ、と覚えてください。
\longrightarrow と \xrightarrow
矢印を長くしたいときは \longrightarrow を使います。
$$ a_n \longrightarrow L \quad (n \to \infty) $$
$$
a_n \longrightarrow L \quad (n \to \infty)
$$
\lim を使わず矢印だけで収束を表すこの書き方は、文章の流れの中で軽く触れるときに便利です。矢印の上に収束の種類を載せたいときは \xrightarrow{...} を使います。
$$ X_n \xrightarrow{n \to \infty} X, \qquad X_n \xrightarrow{d} X $$
$$
X_n \xrightarrow{n \to \infty} X, \qquad X_n \xrightarrow{d} X
$$
\xrightarrow はラベルの長さに応じて矢印が自動的に伸びます。確率論で分布収束を $\xrightarrow{d}$、確率収束を $\xrightarrow{P}$ と書き分けるときに欠かせないコマンドです。
矢印が揃ったところで、$\to\infty$ を実際に \lim と組み合わせたときに起きる、実務でいちばん詰まる問題に進みます。
3. \lim の limits 挙動 — インラインで添字が横に付く問題
何が起きているのか
この記事でひとつだけ持ち帰るとしたら、このセクションです。まったく同じソースを書いても、置いた場所によって添字の位置が変わります。
実際にこのページで確かめてみましょう。まずブロック数式として $$...$$ で囲んだ場合:
$$ \lim_{n \to \infty} a_n = L $$
$n \to \infty$ が lim の真下に来ました。次に、まったく同じソースを本文の中にインラインで埋め込みます——数列は $\lim_{n \to \infty} a_n = L$ に収束します。
今度は $n \to \infty$ が lim の右下に、小さく張り付いたはずです。ソースは一字も変えていません。

図の上段が右下パターン、下段が真下パターンです。読み取ってほしいのは、上段の「つぶれて読みにくい」という感覚です。$n \to \infty$ 程度なら我慢できますが、条件が長くなると(後述のように $\|\bm{x}\| \to \infty$ や2変数の条件など)右下では窮屈で読めなくなります。下段のように真下に展開されると、条件と本体がはっきり分離して一気に読みやすくなります。
なぜこうなるのか — 4つのスタイル
原因は LaTeX の数式スタイルという仕組みです。数式には4つのスタイルがあり、そのうち主に2つが関係します。
| スタイル | いつ適用されるか | \lim の添字位置 |
|---|---|---|
| ディスプレイスタイル | $$...$$ のブロック数式 |
真下 |
| テキストスタイル | $...$ のインライン数式 |
右下 |
テキストスタイルで添字が右下に寄るのは、行の高さを膨らませないための設計です。本文の1行の中に lim と真下の添字を収めようとすると、その行だけ縦に伸びて行間がガタつきます。それを避けるために、LaTeX は横方向に逃がしているわけです。理にかなった設計なので、これ自体はバグではありません。
同じ挙動は $\sum$ や $\int$、$\prod$ でも起きます。インラインで $\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ と書くと上下限が右側に寄り、ブロックで書くと $\Sigma$ の真上・真下に来ます。
\displaystyle と \limits で真下に強制する
「インラインでも真下に置きたい」場合、方法は2つあります。
% 方法1: \displaystyle でその場をディスプレイスタイルに切り替える
$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = L$
% 方法2: \limits で「直前の演算子の真上・真下」を強制する
$\lim\limits_{n \to \infty} a_n = L$
結果はどちらも同じです——$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = L$ と $\lim\limits_{n \to \infty} a_n = L$ が真下に組まれているのが確認できます。
2つの違いは効く範囲です。\displaystyle は「ここから先の数式全体をディスプレイスタイルで組め」という広い指示なので、\lim だけでなく同じ数式内の分数 \frac なども大きく組まれます。一方 \limits は「直前の演算子に対してだけ添字を真上・真下に置け」というピンポイントの指示で、周囲には影響しません。分数の大きさを変えたくないなら \limits のほうが副作用が小さい選択です。
逆向きの操作もあります。ブロック数式なのに添字を右下に寄せたいときは \nolimits を使います。
$$ \lim\nolimits_{n \to \infty} a_n = L $$
$$
\lim\nolimits_{n \to \infty} a_n = L
$$
数式が縦に伸びるのを抑えて、表の中などに収めたいときに使います。
実務上の指針
どう使い分けるべきか、目安を挙げます。
- 条件が短く($n \to \infty$ 程度)、本文に軽く挟むだけ → 素の
$\lim_{n\to\infty}$で十分。読めます - 条件が長い、または式が定理の主張として重要 → ブロック数式
$$...$$にする - どうしても本文中に置きたいが条件が長い →
\displaystyleか\limitsで真下に展開する - 表のセルの中など、縦幅を節約したい →
\nolimitsで右下に寄せる
$\lim$ の挙動を押さえたところで、次は ∞ が「積分の区間」として現れる場面に進みます。ここでも波括弧の落とし穴が待っています。
4. 積分区間の ∞ — 広義積分の書き方
直感:区間が無限でも面積は有限になり得る
「区間が無限に伸びているのに、面積が有限に収まる」というのは初めて聞くと不思議な話です。しかし絵を見れば一瞬で納得できます。

左図の $f(x) = e^{-x}$ は、$x$ が大きくなるにつれて急速に $0$ に貼り付きます。だから右に伸びる部分の面積の「追加分」はどんどん小さくなり、全体は有限値に落ち着きます。右図はそれを数値で確認したもので、上端 $T$ を伸ばしたときの $\int_0^T e^{-x}dx = 1 – e^{-T}$ の値をプロットしています。$T = 1$ で $0.63212$、$T = 3$ で $0.95021$、$T = 5$ で $0.99326$、$T = 8$ で $0.99966$——確かに $1$ に張り付いていきます。
つまり $\int_0^\infty$ という記法は、「上端を $\infty$ という点まで積分する」のではなく「上端 $T$ を限りなく大きくした極限」の略記です。正式には次の意味です。
$$ \int_0^{\infty} f(x)\,dx \ \coloneqq \ \lim_{T \to \infty} \int_0^{T} f(x)\,dx $$
∞ が積分記号の上に乗っていても、その裏には必ず極限が隠れている——この点が、後で「∞ は数ではない」という話につながります。
書き方
上端だけが無限の場合は、0 が1文字なので波括弧を省略できます。
$$ \int_0^\infty e^{-x}\,dx = 1 $$
$$
\int_0^\infty e^{-x}\,dx = 1
$$
両端が無限の場合は、下端が -\infty の2トークンになるので波括弧が必須です。
$$ \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \sqrt{\pi} $$
$$
\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \sqrt{\pi}
$$
上端の \infty は1トークンなので ^\infty でも通りますが、下端と揃えて ^{\infty} と書くほうがソースの見た目が整い、後から編集するときも間違えません。
\infty と +\infty の慣習差
上端を $\infty$ と書くか $+\infty$ と書くかは、分野と著者の好みで分かれます。
$$ \int_{-\infty}^{\infty} f\,dx \qquad \int_{-\infty}^{+\infty} f\,dx $$
数学的にはまったく同じものです。傾向としては、下端が $-\infty$ なので対称性を重視して $+\infty$ と明示する流儀(物理学・工学の教科書に多い)と、冗長さを嫌って $\infty$ で済ませる流儀(数学の論文に多い)があります。どちらでも構いませんが、同じ文書内では統一してください。$\int_{-\infty}^{\infty}$ と $\int_{-\infty}^{+\infty}$ が混在していると、読者は「何か意味の違いがあるのか」と余計な深読みをしてしまいます。
なお、複数の積分でも同じ書き方が通用します。
$$ \iint_{-\infty}^{\infty} f(x,y)\,dx\,dy, \qquad \int_{-\infty}^{\infty}\!\!\int_{-\infty}^{\infty} f(x,y)\,dx\,dy $$
積分区間の ∞ が片付いたところで、次は級数——「無限に足し続ける」場面での ∞ を見ましょう。積分と同じく、上限の ∞ の裏には極限が隠れています。
5. 級数と無限積 — 上限に置く ∞
直感:足し続けても止まるものと、止まらないもの
無限に足し合わせた結果は、有限値に落ち着く場合(収束)と、いくらでも大きくなる場合(発散)に分かれます。同じ $\sum_{n=1}^{\infty}$ という記法で書かれていても、中身はまったく別物です。

左が $\sum 1/n^2$、右が $\sum 1/n$(調和級数)の部分和です。左は $N = 10$ で $1.549768$、$N = 100$ で $1.634984$ と、$\pi^2/6 \approx 1.644934$ にじりじり近づいて水平線に張り付きます。一方右は $N = 10$ で $2.928968$、$N = 100$ で $5.187378$、$N = 300$ で $6.282664$ と、増え方は鈍りつつも上限が見えません。この2つの差が「収束」と「発散」の違いです。記法だけでは区別できないので、$\sum_{n=1}^{\infty}$ を見たときは常に「これは収束するのか」を意識する習慣が要ります。
書き方
$$ \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6} $$
$$
\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}
$$
下限は _{n=1}、上限は ^{\infty} です。ここも上限は1トークンなので ^\infty で通りますが、^{\infty} と書く習慣にしておくと ^{\infty} の中に何か足したくなったとき($2\infty$ のような書き方はしませんが、$N$ に置き換えるときなど)に編集が楽です。
無限積は \prod を使います。
$$ \prod_{n=1}^{\infty}\left(1 – \frac{1}{(n+1)^2}\right) = \frac{1}{2} $$
$$
\prod_{n=1}^{\infty}\left(1 - \frac{1}{(n+1)^2}\right) = \frac{1}{2}
$$
\sum と完全に同じ発想で、コマンド名を変えるだけです。両側無限の和($n$ が $-\infty$ から $\infty$ まで動く)も同じ形で書けます。
$$ \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx} $$
$$
\sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx}
$$
これはフーリエ級数の標準形です。下限が n=-\infty と3トークンになるので、波括弧 _{n=-\infty} が必須です。
なお、\sum も \lim と同じ limits 挙動をします。本文中に $\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ と書けば上下限は右側に寄り、\displaystyle を付ければ $\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ と真上・真下に来ます。
級数の ∞ を押さえたところで、次は「収束しない数列にも行き先を与える」上極限・下極限に進みます。
6. 上極限・下極限 — \limsup / \liminf と横線つき表記
直感:収束しなくても「天井」と「床」は決まる
数列が振動して収束しない場合、通常の極限 $\lim$ は存在しません。しかし「最終的にどのあたりを動き回るか」の上端と下端なら定まります。これが上極限(limit superior)と下極限(limit inferior)です。イメージとしては、上極限が「数列がいずれ超えなくなるギリギリの天井」、下極限が「いずれ下回らなくなるギリギリの床」です。
書き方
$$ \limsup_{n \to \infty} a_n, \qquad \liminf_{n \to \infty} a_n $$
$$
\limsup_{n \to \infty} a_n, \qquad \liminf_{n \to \infty} a_n
$$
\limsup と \liminf はそれぞれ専用コマンドです。\lim\sup のように2つに分けて書くと余計な空白が入るので、必ず1つのコマンドとして打ってください。定義から書き下すこともあります。
$$ \limsup_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} \sup_{k \geq n} a_k $$
横線つきの \varlimsup / \varliminf
上極限・下極限には、lim の上または下に横線を引く別記法があります。
$$ \varlimsup_{n \to \infty} a_n, \qquad \varliminf_{n \to \infty} a_n $$
$$
\varlimsup_{n \to \infty} a_n, \qquad \varliminf_{n \to \infty} a_n
$$
上線つきが上極限、下線つきが下極限です。フランス系の解析学の教科書や、日本の一部の教科書で好まれる記法です。
KaTeX での対応状況について補足します。 \varlimsup / \varliminf は KaTeX で未対応と説明されることがありますが、本ブログで使っている KaTeX 0.16.3 で実測したところ、両方とも正しく描画されます(\varlimsup は overline、\varliminf は underline として実装されています)。上の数式が横線つきで表示されているのがその証拠です。もし古い KaTeX や別のレンダラで表示されない環境に当たったら、\overline{\lim} / \underline{\lim} で代用できます。
$$ \overline{\lim_{n \to \infty}} \, a_n, \qquad \underline{\lim_{n \to \infty}} \, a_n $$
上極限・下極限が一致すれば、その値が通常の極限になります。
$$ \varlimsup_{n \to \infty} a_n = \varliminf_{n \to \infty} a_n = L \quad \Longleftrightarrow \quad \lim_{n \to \infty} a_n = L $$
ここまでは ∞ が「極限の行き先」として現れる場面でした。次は少し性格の違う使い方——集合を表す区間表記の中の ∞ を見ましょう。ここに「∞ は数ではない」という事実が最も露骨に表れます。
7. 区間表記の ∞ — なぜ必ず開区間なのか
直感:含めようとしても、含めるものがない
上に有界でない区間を書くとき、$\infty$ 側は必ず開き括弧にします。
$$ (0, \infty), \qquad [0, \infty), \qquad (-\infty, 0], \qquad (-\infty, \infty) $$
$$
(0, \infty), \qquad [0, \infty), \qquad (-\infty, 0], \qquad (-\infty, \infty)
$$
$[0, \infty]$ のように ∞ 側を閉じるのは、実数の区間としては誤りです。理由はシンプルで、閉区間の「閉じる」は端点を集合の要素として含めることを意味するが、$\infty$ は実数ではないので要素になれないからです。$[0, 1]$ が $1$ という実数を含むのに対し、$[0, \infty]$ が含むべき「$\infty$ という実数」は存在しません。

3段の対比から読み取れることは明快です。1段目 $(0,\infty)$ と2段目 $[0,\infty)$ は、$0$ 側の白丸・黒丸(含まない・含む)が違うだけで、∞ 側はどちらも矢印のまま——「到達しない」と書かれています。3段目の $[0,\infty]$ には×が付いています。左端は $0$ という実数なので閉じても閉じなくても選べますが、右端には閉じる対象そのものが無い、という非対称性がこの図の核心です。
半開区間の実用例
確率分布のサポート(値を取り得る範囲)を書くときに、この記法が頻出します。
$$ X \in [0, \infty) \quad \text{(指数分布・カイ二乗分布など非負の確率変数)} $$
$$ X \in (0, \infty) \quad \text{(対数正規分布など正値の確率変数)} $$
$0$ を含めるか含めないかで括弧を使い分け、$\infty$ 側は常に ) です。指数分布は $x = 0$ で密度が正なので $[0,\infty)$、対数正規分布は $x > 0$ でしか定義されないので $(0,\infty)$——という具合に、括弧1文字が数学的な内容を担っています。
集合の記法として書くなら次のようになります。
$$ [0, \infty) = \{ x \in \mathbb{R} \mid x \geq 0 \} $$
右辺に $\infty$ が一切現れないことに注目してください。$[0,\infty)$ という表記は「上に制限がない」ことを表す書き方の便宜であって、$\infty$ という要素を持ち込んでいるわけではありません。
とはいえ、$\infty$ を端点として扱えると便利な場面もあります。次にその抜け道——拡大実数を見ましょう。
8. ∞ は数ではない — そして拡大実数という抜け道
なぜ「数ではない」と繰り返すのか
ここまで何度も「$\infty$ は数ではない」と書いてきました。この事実が具体的に何を意味するかというと、通常の四則演算のルールが通用しないということです。特に次の5つは「不定形」と呼ばれ、値が定まりません。
$$ \infty – \infty, \qquad \frac{\infty}{\infty}, \qquad 0 \cdot \infty, \qquad 1^{\infty}, \qquad \infty^{0} $$
$$
\infty - \infty, \qquad \frac{\infty}{\infty}, \qquad 0 \cdot \infty,
\qquad 1^{\infty}, \qquad \infty^{0}
$$
たとえば $\infty – \infty$ が定まらない理由は、具体例を2つ並べればすぐわかります。$a_n = n + 5$、$b_n = n$ とすると、どちらも $\infty$ に発散しますが差 $a_n – b_n = 5$ は $5$ に収束します。一方 $a_n = 2n$、$b_n = n$ にすれば、差 $a_n – b_n = n$ は $\infty$ に発散します。同じ「$\infty – \infty$」の形なのに答えが $5$ にも $\infty$ にもなる——だから「$\infty – \infty$」という式には値を割り当てられません。$1^{\infty}$ が不定形なのも同じ理由で、$\lim_{n\to\infty}(1 + 1/n)^n = e$ という有名な例がまさにこれです。
こうした事情から、$\infty$ を実数の仲間として扱うことは基本的にできません。数式として書くなら次のとおりです。
$$ \infty \notin \mathbb{R} $$
拡大実数:それでも端点として扱いたいとき
一方、測度論や最適化の文脈では「$\infty$ を値として許したい」場面が確かにあります。関数が $+\infty$ を取ることを認めたい、区間を閉じて扱いたい、といった要求です。そこで導入されるのが拡大実数(extended real number system)です。

上段が通常の実数直線 $\mathbb{R}$、下段が拡大実数 $\overline{\mathbb{R}}$ です。読み取ってほしいのは、下段で $\pm\infty$ が線の一部ではなく、両端に別途置かれた2つの点として描かれていることです。$\mathbb{R}$ を伸ばしたのではなく、$\mathbb{R}$ の外側に2つの新しい要素を追加した——という構成が、この図が伝えたい点です。だから $\overline{\mathbb{R}}$ では $[-\infty, +\infty]$ と閉じて書けます。
書き方は次の3通りが一般的です。
$$ \overline{\mathbb{R}} = \mathbb{R} \cup \{-\infty, +\infty\} = [-\infty, +\infty] $$
$$
\overline{\mathbb{R}} = \mathbb{R} \cup \{-\infty, +\infty\} = [-\infty, +\infty]
$$
\overline{\mathbb{R}} が「R バー」で拡大実数の標準記号、\mathbb{R} \cup \{\pm\infty\} が定義そのものを書く形、[-\infty, +\infty] が区間として書く形です。\pm\infty を使って短く書くこともできます。
$$ \overline{\mathbb{R}} = \mathbb{R} \cup \{\pm\infty\} $$
注意点として、拡大実数でも不定形は解消されません。$\overline{\mathbb{R}}$ では $\infty + 1 = \infty$ や $\infty \cdot 2 = \infty$ は定義できますが、$\infty – \infty$ は依然として未定義のままです。拡大実数は「$\infty$ を点として置ける場所」を作っただけで、「$\infty$ を普通の数にした」わけではありません。この区別は重要です。
$\mathbb{R}$ や $\mathbb{Z}$ といった黒板太字の書き方そのものは、別記事で詳しく扱っています。
∞ が数でないことを押さえたところで、次は「$\infty$ に発散する」という表現そのものを整理します。実は「発散」には ∞ と書けないタイプがあります。
9. 発散の3タイプと記法
直感:「極限が無い」の3つの顔
$\lim_{x\to\infty} f(x)$ が有限値に収束しないとき、状況は3つに分かれます。

左から順に、①どこまでも大きくなる、②どこまでも小さくなる、③一定の幅で振動し続ける、です。読み取ってほしいのは③だけが質的に違う点です。①②は「行き先」を $+\infty$ / $-\infty$ という記号で名指しできますが、③は $\sin x$ が $-1$ と $1$ の間を永遠に往復するだけで、名指しできる行き先がありません。①②を「発散」と呼ぶのと同じ言葉で③も「発散」と呼びますが、記法上の扱いは別になります。
書き方
①と②は素直に $\infty$ を右辺に置けます。
$$ \lim_{x \to \infty} x^2 = +\infty, \qquad \lim_{x \to \infty} (-x^2) = -\infty $$
$$
\lim_{x \to \infty} x^2 = +\infty, \qquad \lim_{x \to \infty} (-x^2) = -\infty
$$
ここでの $= \infty$ は「$\infty$ という値に等しい」ではなく「$+\infty$ に発散する」という慣用表現です。厳密さを重視する文書では、等号を使わず言葉で書くこともあります。
$$ x^2 \to +\infty \quad (x \to \infty) $$
③については、$\infty$ と書いてはいけません。
% NG:振動を無限大扱いしてしまっている
$\lim_{x \to \infty} \sin x = \infty$
% OK:極限が存在しないことを述べる
$\lim_{x \to \infty} \sin x$ は存在しない
$\sin x$ は $-1$ と $1$ の間に収まっていて、大きくなるわけではないので $\infty$ とは無関係です。「極限が存在しない」または「振動する」と書くのが正確です。振動の範囲を述べたいなら、上極限・下極限が出番になります。
$$ \varlimsup_{x \to \infty} \sin x = 1, \qquad \varliminf_{x \to \infty} \sin x = -1 $$
この2つが一致しないことが、まさに「極限が存在しない」ことの内容です。前セクションの上極限・下極限が、ここで役に立ちました。
発散の記法が整いました。最後に、これまでとは毛色の違う ∞ の使い方——集合の「大きさ」としての無限を見ましょう。ここでは無限そのものに大小が現れます。
10. 無限集合の濃度 — \aleph_0 と連続体濃度
直感:無限にも大小がある
「自然数は無限個ある」「実数も無限個ある」——では、この2つの無限は同じ大きさでしょうか。カントールの答えは違うでした。実数のほうが真に多いのです。

左が可算無限、右が非可算無限です。読み取ってほしいのは2点です。第一に、左の箱に $\mathbb{N}$(自然数)だけでなく $\mathbb{Z}$(整数)と $\mathbb{Q}$(有理数)まで入っていること——有理数は数直線上にびっしり詰まっているのに、$1, 2, 3, \dots$ と番号を振り切れるので自然数と「同じ大きさ」です。第二に、右の $\mathbb{R}$ が真に大きいこと——どんな順番で並べても必ず漏れる実数を構成できる、というのがカントールの対角線論法です。無限を $\infty$ という1文字で済ませられないのは、まさにこの場面です。
書き方
可算無限の濃度は「アレフ・ゼロ」と読み、\aleph_0 と書きます。
$$ |\mathbb{N}| = |\mathbb{Z}| = |\mathbb{Q}| = \aleph_0 $$
$$
|\mathbb{N}| = |\mathbb{Z}| = |\mathbb{Q}| = \aleph_0
$$
$\aleph$ はヘブライ文字のアレフで、\aleph の1コマンドで出ます。添字の $0$ を付けて $\aleph_0$ とするのが可算無限の記号です。より大きな濃度は $\aleph_1, \aleph_2, \dots$ と続きます。
連続体濃度(実数全体の濃度)は、フラクトゥール体の $\mathfrak{c}$ か、$2^{\aleph_0}$ で書きます。
$$ |\mathbb{R}| = \mathfrak{c} = 2^{\aleph_0} $$
$$
|\mathbb{R}| = \mathfrak{c} = 2^{\aleph_0}
$$
\mathfrak{c} の \mathfrak はフラクトゥール(ドイツ文字)を出すコマンドで、KaTeX に対応しています。$2^{\aleph_0}$ という表記は「自然数の部分集合全体の個数」という意味で、$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ の濃度が $\mathbb{R}$ と等しいことに由来します。
ここでも波括弧の落とし穴があります。
% NG:2 の右上に ℵ、右下に 0 が付いてしまう
$2^\aleph_0$
% OK:{\aleph_0} 全体を指数にする
$2^{\aleph_0}$
^ は直後の1トークンしか取らないので、2^\aleph_0 と書くと $2$ の指数が $\aleph$ だけになり、余った _0 が $2$ の下付きに回ります。実際に KaTeX で描画すると「$2$ に上付き $\aleph$ と下付き $0$ が同時に付いた」奇妙な形になります。第1節の \int_-\infty とまったく同じ原理の間違いです。
濃度の大小関係は不等号で書きます。
$$ \aleph_0 < \mathfrak{c} = 2^{\aleph_0} $$
集合記法そのものについては、別記事で詳しく扱っています。
∞ が現れる場面を一通り回りました。ここで、本ブログを含む KaTeX 環境で各コマンドが実際に使えるかを整理しておきます。
11. KaTeX 対応可否の表
本ブログは KaTeX 0.16.3 で数式を描画しています。以下は、そのバージョンで実際にレンダリングを試して確認した結果です。
| コマンド | 表示 | KaTeX 0.16.3 | 備考 |
|---|---|---|---|
\infty |
$\infty$ | 対応 | 標準コマンド |
\infin |
$\infin$ | 対応 | \infty の別名。使用頻度は低い |
\infinity |
— | 非対応 | このコマンドは存在しない |
\pm\infty |
$\pm\infty$ | 対応 | — |
\mp\infty |
$\mp\infty$ | 対応 | — |
\to |
$\to$ | 対応 | 極限の標準 |
\rightarrow |
$\rightarrow$ | 対応 | \to と同一出力 |
\longrightarrow |
$\longrightarrow$ | 対応 | — |
\Rightarrow |
$\Rightarrow$ | 対応 | 含意。極限には使わない |
\xrightarrow{...} |
$\xrightarrow{d}$ | 対応 | 矢印上にラベル |
\lim |
$\lim$ | 対応 | — |
\limits |
— | 対応 | 添字を真上・真下に強制 |
\nolimits |
— | 対応 | 添字を右下に寄せる |
\displaystyle |
— | 対応 | スタイル切り替え |
\limsup / \liminf |
$\limsup$ / $\liminf$ | 対応 | — |
\varlimsup |
$\varlimsup$ | 対応 | 上線つき。非対応とする資料もあるが実測で描画確認 |
\varliminf |
$\varliminf$ | 対応 | 下線つき |
\sup / \inf |
$\sup$ / $\inf$ | 対応 | — |
\int_{-\infty}^{\infty} |
$\int_{-\infty}^{\infty}$ | 対応 | — |
\iint / \oint |
$\iint$ / $\oint$ | 対応 | — |
\sum / \prod |
$\sum$ / $\prod$ | 対応 | — |
\aleph |
$\aleph$ | 対応 | ヘブライ文字アレフ |
\beth |
$\beth$ | 対応 | ベート数 |
\mathfrak{c} |
$\mathfrak{c}$ | 対応 | フラクトゥール体 |
\overline{\mathbb{R}} |
$\overline{\mathbb{R}}$ | 対応 | 拡大実数 |
\notin |
$\notin$ | 対応 | $\infty \notin \mathbb{R}$ に使う |
\substack{...} |
— | 対応 | 添字を複数行に |
この表で押さえてほしいのは2点です。ひとつは \infinity だけが唯一「存在しないコマンド」であること——∞ 関連で本当にエラーになるのはこれだけです。もうひとつは \varlimsup / \varliminf が使えること。これらを KaTeX 非対応と説明する資料もありますが、0.16.3 では上線・下線つきで正しく描画されます(この記事の第6節に実例があります)。古い環境が心配なら \overline{\lim} / \underline{\lim} に置き換えておけば確実です。
対応状況が確認できたので、最後によくある間違いをまとめて潰しておきましょう。
12. よくある間違いと修正
間違い1:\infinity と書く
最も多いタイプミスです。英単語 infinity をそのままコマンド名にしても通りません。
% NG:未定義コマンドでエラーになる
$\infinity$
% OK
$\infty$
エラーメッセージは「Undefined control sequence: \infinity」です。慌てずに \infty に直してください。KaTeX には別名の \infin もありますが、可読性の点で標準の \infty をおすすめします。
間違い2:oo や 8 で代用する
チャットやメールでは「無限大」を oo と打つ習慣がありますが、数式モードでは $oo$ という2文字の変数の積として解釈されます。
% NG:変数 o の2乗のように見える
$n \to oo$
% NG:数字の8
$n \to 8$
% OK
$n \to \infty$
「$8$ を横に倒せば ∞」という発想も、当然ながら組版では通用しません。$8$ と $\infty$ は別のグリフです。
間違い3:添字の波括弧を省略する
この記事で最も繰り返した落とし穴です。_ と ^ は直後の1トークンしか取りません。
% NG:- だけが下付きになり、\infty が積分記号の隣に出る
$\int_-\infty^\infty f(x)\,dx$
% OK
$\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx$
% NG:2 の上付きが ℵ、下付きが 0 になってしまう
$2^\aleph_0$
% OK
$2^{\aleph_0}$
判定基準はシンプルです。添字の中身が2トークン以上なら波括弧。\int_0^\infty の 0 や ^\infty は1トークンなので省略できますが、迷ったら常に波括弧を付けておけば事故は起きません。
間違い4:\lim の添字全体を囲み忘れる
これも波括弧の話ですが、症状が特徴的なので分けて挙げます。
% NG:n だけが lim の下に入り、→ ∞ が本体側に流れ出る
$\lim_n \to \infty a_n$
% OK
$\lim_{n \to \infty} a_n$
NG のほうを KaTeX で描画すると、lim の真下に $n$ だけが入り、$\to \infty$ が $a_n$ と並んで本体側に居座ります。$\lim_n \to \infty a_n$ という、一見「読めてしまう」だけに気づきにくい崩れ方をします。
間違い5:インライン数式で添字がつぶれたまま放置する
第3節で扱った問題です。素の $\lim_{n\to\infty}$ は動作としては正しいので、エラーは出ません。しかし条件が長い場合は読者に負担がかかります。
% 動くが読みにくい(条件が長い場合)
本文中で $\lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{xy}{x^2+y^2}$ を考えると…
% 読みやすい
本文中で $\displaystyle \lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{xy}{x^2+y^2}$ を考えると…
% あるいはブロック数式に出す
実際に比べてみましょう。素のまま書くと $\lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{xy}{x^2+y^2}$、\displaystyle を付けると $\displaystyle \lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{xy}{x^2+y^2}$ です。条件が長いほど差が開きます。
間違い6:\to の代わりに \Rightarrow を使う
第2節で扱った、エラーにならない分だけ危険な間違いです。
% NG:論理記号「ならば」を極限に使っている
$\lim_{n \Rightarrow \infty} a_n$
% OK
$\lim_{n \to \infty} a_n$
\mapsto($\mapsto$)も同様に極限には使いません。極限の矢印は \to か \rightarrow の2択です。
間違い7:区間の ∞ 側を閉じる
第7節で扱った内容です。
% NG:∞ を端点として含めようとしている
$[0, \infty]$
% OK
$[0, \infty)$
ただし拡大実数 $\overline{\mathbb{R}}$ を明示的に扱っている文脈では $[-\infty, +\infty]$ と閉じて書けます。「実数の区間としては誤り、拡大実数の区間としては正しい」——文脈で判断してください。
間違い8:\infty を数として計算する
記法ではなく数学の間違いですが、記法の理解不足から生まれるので挙げておきます。
% NG:不定形を勝手に 0 にしている
$\infty - \infty = 0$
% OK:不定形であることを述べる
$\infty - \infty$ は不定形である
$\infty/\infty$、$0 \cdot \infty$、$1^\infty$、$\infty^0$ も同じく不定形です。これらを見たら、ロピタルの定理などで元の極限に戻って評価する必要があります。
13. 逆引きチートシート(画像版)
最後に、この記事の内容を1枚に凝縮した画像を置いておきます。

15行すべてが KaTeX で動作確認済みのコマンドです。上から5行が ∞ と極限の基本、中ほどの4行が積分・級数・無限積という大型演算子、下の6行が上下極限・区間・濃度・拡大実数です。ブックマークして、迷ったらここに戻ってきてください。
まとめ
本記事では、無限大 ∞ を LaTeX/KaTeX でどう書くかを、∞ が現れる全場面にわたって整理しました。
- 基本:
\inftyの6文字。\infinityは存在しない。-\infty/+\infty/\pm\inftyで向きを表す - 矢印: 極限には
\to(=\rightarrow)。\Rightarrowは「ならば」で意味が別。エラーにならないので自分で気づく必要がある - limits 挙動: 同じソースでもブロック数式なら添字は真下、インラインなら右下。真下に揃えたいときは
\displaystyleか\limits、右下に寄せたいときは\nolimits - 波括弧:
_と^は直後1トークンだけを取る。\int_-\inftyと2^\aleph_0は崩れる。2トークン以上なら波括弧 - 積分区間:
\int_0^\infty/\int_{-\infty}^{\infty}。上端を $\infty$ と書くか $+\infty$ と書くかは慣習差、文書内で統一する - 級数:
\sum_{n=1}^{\infty}/\prod_{n=1}^{\infty}。記法だけでは収束・発散は区別できない - 上下極限:
\limsup/\liminf、横線つきは\varlimsup/\varliminf(KaTeX 0.16.3 で動作確認済み) - 区間表記: ∞ 側は必ず開き括弧
)。$\infty$ は実数でないので端点にできない - 拡大実数: $\overline{\mathbb{R}} = \mathbb{R} \cup \{\pm\infty\} = [-\infty,+\infty]$。ここでは閉じて書ける
- 発散の3タイプ: $+\infty$ / $-\infty$ / 振動。振動には $\infty$ を使わず「極限が存在しない」と書く
- 濃度: 可算無限は
\aleph_0、連続体濃度は\mathfrak{c}または2^{\aleph_0}。無限にも大小がある
∞ という1文字は、極限・積分・級数・集合・濃度という異なる領域を横断する記号です。だからこそ「どのコマンドを打つか」だけでなく「その場面で ∞ が何を意味しているか」を意識すると、記法の選択が自然と正しくなります。$[0,\infty]$ と書かなくなるのも、$\infty – \infty = 0$ と書かなくなるのも、記号の意味が身についた結果です。
極限記号 $\lim$ の組版そのもの(片側極限、多変数の極限、確率論の各種収束など)については、専用記事でさらに詳しく扱っています。本記事が「∞ という記号の全場面」を扱ったのに対し、あちらは「$\lim$ の組み方」に集中した内容です。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- LaTeXで積分(定積分・重積分・線積分)を書く方法 — 広義積分の土台になる積分記号の書き方
- LaTeXで総和Σ・総乗Πを書く方法 — 無限級数の上下限の扱い
- LaTeXで集合記号を書く方法 — 区間表記・濃度の前提になる集合記法
関連記事:LaTeX数式記法シリーズ
