数列 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ を書こうとして「点々のコマンドは何だったか」と迷った経験はないでしょうか。あるいは行列の省略表記で点々の高さが揃わず困ったことはないでしょうか。LaTeXには「省略の点々」を表すコマンドが複数あり、\ldots・\cdots・\vdots・\ddots の4種類が基本となります。どれを使うかで数式の見た目が大きく変わります。
特に \ldots(下寄りの …)と \cdots(中央の ⋯)は「3つの点が横に並ぶ」という見た目が似ていますが、高さがまったく違います。コンマ区切りの数列に \cdots を使うと点が浮いて見え、演算子(+ や ×)の列に \ldots を使うと点が沈んで不自然になります。この「高さの使い分け」が省略記号を正しく使うための核心です。
応用先はふたつあります。ひとつは数列・級数の記法—— $1 + 2 + \cdots + n$ のような和の表現は論文・教科書で毎ページ登場します。もうひとつは行列の省略表記—— $n \times n$ 行列を pmatrix 環境で書くとき、\cdots・\vdots・\ddots の組み合わせは必須の知識です。この記事を読めば、どの場面でどのコマンドを使えばよいかが一目でわかるようになります。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
\ldotsと\cdotsの高さ問題と使い分けルール\vdots(縦)・\ddots(斜め)—— 行列で必須の2コマンドamsmathの賢い\dotsと細分コマンド(\dotsc/\dotsb等)\cdot(中点1つ)との関係- 行列での総合的な省略表記例(
pmatrix実例) - コピペ実例4選(数列の和・内積・テイラー展開・ベクトル表記)
- KaTeX互換表 と よくある間違い3選

この図が記事の全体像を示しています。\ldots は文字の下側(ベースライン付近)に並ぶ下寄りの点々、\cdots は文字の中央高さ(x-height)に並ぶ中央の点々です。\vdots は縦方向、\ddots は右下がりの斜め方向で、主に行列の省略に使います。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 条件・備考 |
|---|---|---|---|
| コンマ区切り列の省略($a_1, a_2, \ldots, a_n$) | \ldots |
$\ldots$ | KaTeX対応。下寄り(ベースライン)。最頻出 |
| 演算子列の省略($a_1 + a_2 + \cdots + a_n$) | \cdots |
$\cdots$ | KaTeX対応。中央(x-height)。+ や \times の列に |
| 行列の縦省略(列方向) | \vdots |
$\vdots$ | KaTeX対応。縦に3点 |
| 行列の対角省略 | \ddots |
$\ddots$ | KaTeX対応。右下がり斜め3点 |
| 文脈で高さを自動選択 | \dots |
$\dots$ | amsmathのコマンド。KaTeX対応 |
| コンマ列専用(dotsc) | \dotsc |
(\ldots と同じ) |
amsmath専用。KaTeXでは非対応 |
| 演算子列専用(dotsb) | \dotsb |
(\cdots と同じ) |
amsmath専用。KaTeXでは非対応 |
| 乗算列専用(dotsm) | \dotsm |
(\cdots と同じ) |
amsmath専用。KaTeXでは非対応 |
| 水平の省略(\ldotsと同じ) | \hdots |
$\hdots$ | KaTeX対応。\ldots の別名 |
| 中点1つ(積の演算子) | \cdot |
$\cdot$ | KaTeX対応。省略記号でなく積の記号 |
| 素の3連ピリオド | ... |
NG | 数式モードでは間隔が崩れる。避ける |
細かい説明に入る前に、全コマンドをここから引けるようにまとめました。各行の詳細は以降のセクションで丁寧に解説します。
1. 省略記号の核心:高さ位置の使い分け
省略記号で迷う原因の9割は、\ldots と \cdots の使い分けです。この2つは「点が3つ横に並ぶ」という見た目は似ていますが、高さ位置がまったく違います。どちらを選ぶかで数式の読みやすさに大きな差が出るため、最初にこの違いを徹底的に理解しましょう。
\ldots:下寄り(ベースライン付近)
\ldots は “lowercase dots”(小文字の点々)という意味です。3つの点がテキストのベースライン(文字が乗る基準線)付近に並びます。
ベースラインとは何かを確認しましょう。アルファベットの “a”・”b”・”c” や数字の “1”・”2″・”3″ は、すべてこの基準線の上に乗っています。コンマ , も句読点なのでベースライン付近に配置されます。したがって、コンマ区切りの列では \ldots が自然です。
$$ a_1, a_2, \ldots, a_n $$
a_1, a_2, \ldots, a_n
コンマの後ろで点々の高さが揃っているため、読者が自然に「省略がある」と認識できます。コンマの代わりに \ldots が入っているように見えるのが理想的な状態です。
\cdots:中央(x-height)
\cdots は “centered dots”(中央揃えの点々)という意味です。3つの点が文字の中央高さ(x-height:小文字 “x” の高さ)に並びます。
プラス記号 +、マイナス記号 −、等号 =、乗算記号 \times はいずれも文字の中央付近に配置されています。したがって、演算子が前後に並ぶ列では \cdots が自然です。
$$ a_1 + a_2 + \cdots + a_n $$
a_1 + a_2 + \cdots + a_n
演算子と同じ高さで点々が流れるため、「$+$ が続いている」という視覚的な流れが維持されます。読者は点々を「演算子の省略」として自然に読めます。
高さの違いを視覚で確認する

図の左パネルと右パネルを見比べてください。左の \ldots はベースライン(破線)の近くに点々が配置されており、コンマの高さと揃っています。右の \cdots は文字の中央高さに点々が配置されており、プラス記号の高さと揃っています。この高さの差がわかれば、使い分けは迷いません。
両者の高さの違いは約 $0.3 \sim 0.5$ 文字高ほど(フォントによる)あります。LaTeX の組版エンジンはこの差を正確に計算して配置しているので、コマンドを正しく選ぶだけで自動的に適切な高さに点が置かれます。
使い分けの2つのルール
以下の2つのルールで、日常的な省略記号の9割はカバーできます。
ルール1:「コンマとコンマのあいだ」→ \ldots
$$ (a_1, a_2, \ldots, a_n) $$
コンマ , はもちろん、括弧の中で要素を区切る列ではすべて \ldots です。タプル表記やベクトルの成分列がこれに当たります。集合の表記 $\{a_1, a_2, \ldots, a_n\}$ も同様です。
ルール2:「演算子と演算子のあいだ」→ \cdots
$$ a_1 + a_2 + \cdots + a_n $$
$$ a_1 \times a_2 \times \cdots \times a_n $$
$$ a_1 = a_2 = \cdots = a_n $$
プラス +、マイナス -、掛け算 \times や \cdot、等号 =、不等号 \leq・\geq などの演算子・関係記号が前後にある場合は \cdots です。「等号の列」も演算子列なので \cdots を使います。
このルール2は「等号列」にも当てはまります。数学的帰納法の途中で $a_1 = a_2 = \cdots = a_n$ と書くとき、等号は文字の中央高さにある記号なので \cdots を選びます。
縦と斜めは行列専用と覚えれば、残りの省略場面も自然に解決します。
では、行列で必須の \vdots と \ddots に進みましょう。
2. \vdots と \ddots:行列の省略
行列の大きさを一般化($n \times n$ 行列など)するとき、全要素を書くわけにいきません。そこで登場するのが縦省略の \vdots と対角省略の \ddots です。これらは横方向の \ldots・\cdots と合わせて使い、行列全体の省略構造を表現します。
\vdots:縦方向(列省略)
\vdots は “vertical dots”(縦の点々)の略です。3つの点が縦に並び、列方向(上下方向)の省略を表します。
行列の第1列だけを見せるベクトルで使う例を確認しましょう。
\begin{pmatrix}
a_{11} \\
a_{21} \\
\vdots \\
a_{n1}
\end{pmatrix}
$$ \begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{n1} \end{pmatrix} $$
縦ベクトルの成分列で行が省略されていることが直感的に伝わります。複数の列に渡って縦省略を使う場合は、各列に \vdots を書きます。
\ddots:対角方向(右下がり斜め)
\ddots は “diagonal dots”(対角の点々)の略です。3つの点が右下がりの斜め方向に並び、正方行列の対角方向の省略を表します。\vdots が縦(上下)に並ぶのに対し、\ddots は右下がりに並ぶという違いがあります。
数学的に言うと、\ddots は「行番号と列番号が同時に増えていく」領域の省略を視覚的に表現します。行列の左上から右下へと続く対角ブロックの省略がこれです。
\begin{pmatrix}
a_{11} & \cdots & a_{1n} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & \cdots & a_{nn}
\end{pmatrix}
$$ \begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} $$
中央の \ddots は「行も列も省略されている対角ブロック」の存在を示しています。
$n \times n$ 行列の完全な省略表記
4種(\cdots・\vdots・\ddots・\ldotsは不使用)すべてを組み合わせると、$n \times n$ 行列の一般形をコンパクトに書けます。これは線形代数の教科書で最もよく見る省略表記の形です。
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}
\end{pmatrix}
$$ \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} $$
この表記を読み解くと、各記号の役割が明確です。1行目・2行目の末尾の \cdots は「第 $n$ 列まで同様の要素が続く」という水平省略、第1列・第2列の \vdots は「第 $n$ 行まで同様の要素が続く」という垂直省略、中央の \ddots は「行列の内部が同様の規則で埋まっている」という対角省略です。

図の行列で色分けを確認しましょう。水色(\cdots)が各行の水平省略、オレンジ(\vdots)が各列の垂直省略、紫(\ddots)が対角省略です。右側の注釈が示すように、3種類が規則的に組み合わさって行列全体の省略構造を一目で伝えることができます。
注意点:行列の水平省略は \ldots ではなく \cdots を使います。行の各要素は文字の中央高さで揃っているため、\ldots を使うと点が沈んで行の要素と高さがずれて見えます。これはよくある間違いで、セクション8で詳しく取り上げます。
対角行列・単位行列での応用
特殊な行列でも省略表記は同様です。対角行列の場合、対角以外がゼロなので \ddots と 0 を組み合わせます。
% 対角行列
\begin{pmatrix}
d_1 & 0 & \cdots & 0 \\
0 & d_2 & \cdots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \cdots & d_n
\end{pmatrix}
$$ \begin{pmatrix} d_1 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & d_2 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & d_n \end{pmatrix} $$
単位行列 $\bm{I}_n$ も同様の構造で書けます。\ddots で対角成分が1であることを示し、それ以外はゼロです。
行列の省略表記を押さえたところで、よりスマートな書き方を提供する \dots コマンドに進みます。
3. \dots:文脈で高さを自動判定するコマンド
\ldots と \cdots の使い分けを自動化しようとしたのが、amsmath パッケージの \dots コマンドです。執筆者が毎回「これはコンマ列か演算子列か」を考えなくても済むように設計された「賢い省略記号」です。
\dots の動作
\dots は「前後の記号を見て、適切な高さの省略記号を自動的に選ぶ」コマンドです。LaTeX のトークン列を解析し、直前または直後にコンマがあれば \ldots、演算子があれば \cdots を選択します。
% amsmath の \dots が判断してくれる
$a_1, \dots, a_n$ % → \ldots 相当(コンマの前後)
$a_1 + \dots + a_n$ % → \cdots 相当(+ の前後)
KaTeX でも \dots は対応しています。どちらの環境でも同じ書き方が使えるため、汎用性の高い選択肢です。
ただし、文脈の判定に曖昧な場面では意図通りに動かないことがあります。たとえば「等号の列」では、\dots が前後の等号を演算子と認識して \cdots を選択しますが、入力の順序によってはうまくいかない場合もあります。安全のために \ldots か \cdots を明示的に書く習慣の方が確実です。
amsmathの細分コマンド
amsmath は \dots のほかに、用途別に明示的な細分コマンドを提供しています。文書全体で一貫した省略記号の種類を管理したい場合や、文脈判定が不安な場面で有用です。
| コマンド | 対応する省略 | 用途 | 由来 |
|---|---|---|---|
\dotsc |
\ldots(下寄り) |
コンマの列 | comma |
\dotsb |
\cdots(中央) |
演算子の列 | binary operator |
\dotsm |
\cdots(中央) |
乗算の列 | multiply |
\dotsi |
\cdots(中央) |
積分の繰り返し | integral |
\dotso |
\ldots(下寄り) |
その他の列 | other |
% LaTeX(amsmath)では使えるが、KaTeXでは非対応
$a_1, \dotsc, a_n$ % \ldots 相当(コンマ列)
$a_1 + \dotsb + a_n$ % \cdots 相当(演算子列)
$a_1 \dotsm a_n$ % \cdots 相当(乗算列)
$\int \dotsi \int f$ % \cdots 相当(積分の繰り返し)
コマンド名の末尾1文字が用途を示しています。dotsc(comma)・dotsb(binary)・dotsm(multiply)・dotsi(integral)と覚えると分かりやすいでしょう。

図の一覧表から、各細分コマンドの用途と「KaTeXでは非対応」であることが確認できます。重要な注意点は、\dotsc / \dotsb / \dotsm / \dotsi は KaTeX では使えないということです。本ブログのような KaTeX 環境では \ldots か \cdots を直接使いましょう。
LaTeX(PDF出力)環境では、プリアンブルに \usepackage{amsmath} を追加したうえで \dotsc・\dotsb を使うと、文書全体で一貫した省略記号の管理ができます。特に論文で複数の著者が執筆する場合、細分コマンドを使う規約を決めておくと統一感が保てます。
環境別の推奨コマンド
| 環境 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| KaTeX(ブログ・Jupyter) | \ldots / \cdots |
\dotsc 等は非対応 |
| LaTeX(PDF論文) | \dotsc / \dotsb / \dots |
amsmath で意図が明示できる |
| 手軽に書きたい場合 | \dots |
文脈自動判定で両環境に対応 |
\dots の自動選択を理解したところで、紛らわしい素の「…」との違いを見ておきましょう。
4. 素の「…」(3連ピリオド)はNG
数式モードでキーボードから直接 ... と打ちたくなることがあります。「3つのピリオドを並べれば省略になるだろう」という直感は自然ですが、数式モード内の ... は組版として正しくありません。
なぜ ... がダメなのか
LaTeX の数式モードで . は数学的なデシマルポイント(小数点)として扱われます。3つ並べた ... は「3つの独立した小数点」として組版され、それぞれが独自の前後余白を持ちます。一方、\ldots は「省略を表す1つの記号」として設計されており、3点全体が適切な間隔で配置されます。
% NG:間隔が崩れる(.が3つ独立して組版される)
$a_1, a_2, ..., a_n$
% OK:省略記号として正しく組版される
$a_1, a_2, \ldots, a_n$
具体的に何が違うか:... では各ピリオドの前後にそれぞれ小さな余白が入るため、全体の間隔が広くなりすぎます。また、ピリオドは句読点のカテゴリに属するため、後続文字との間に不自然なスペースが生じます。\ldots はこれを回避し、3点を一塊として適切な幅で描画します。

図の左(NG)と右(OK)を見比べてください。NG(赤)では . が3つ独立して並んでおり、間隔が広く点が均等でありません。OK(緑)では \ldots が省略記号として一塊に描画されており、コンマと高さが揃った自然な見た目になっています。数式を印刷すると差は更に明確になります。
テキストモードの \ldots
数式モードだけでなく、文章中(テキストモード)でも省略記号には \ldots を使います。
% テキストモード(文章中)でも \ldots
これは省略のある文章です\ldots{}
% または独立のコマンドとして
詳細については省略する\ldots
LaTeX のテキストモードで \ldots の後に {} を付けると、後続の空白が保たれます(LaTeX はコマンドの後のスペースを飲み込む仕様があるため)。日本語文書では組版エンジンが自動的に処理するので気にしなくてよい場合が多いですが、英語文書では \ldots{} と書く慣例があります。
KaTeX(ブログ・Webページ)では $...$ 内で \ldots を使えばよく、テキストモードの問題は基本的に発生しません。
UniCode の「…」(三点リーダ)との関係
Unicode には「…」(U+2026, HORIZONTAL ELLIPSIS)という1文字で省略を表す文字があります。これをそのまま LaTeX ソースに書いても多くの環境で表示はできますが、数式モードでの使用は推奨されません。KaTeX は … を数式内でそのまま使うと適切な数学的間隔が付かない場合があります。数式では \ldots か \cdots を使う方が確実です。
素の ... を避ける習慣が身についたところで、実戦でよく使うコピペ実例に進みます。
5. コピペ実例:5つの定番シーン
省略記号の出番として特に頻度が高いシーンをまとめます。コピペしてそのまま使えるよう、コマンドも合わせて掲載します。

図に代表的な例の数式とコマンドが整理されています。以下で各シーンを詳しく説明します。
実例1:数列の和(ガウスの公式)
演算子 + の列なので \cdots を使います。$1$ から $n$ までの整数の和の公式は、省略記号の典型的な使用場面です。
$$ 1 + 2 + \cdots + n = \frac{n(n+1)}{2} $$
$$
1 + 2 + \cdots + n = \frac{n(n+1)}{2}
$$
+ の前後で高さが揃い、「和が続いている」という流れが視覚的に明確になります。これが演算子列に \cdots を使う典型例です。左辺で \ldots を使ってしまうと点が沈んで + の高さとずれ、違和感が生じます。
実例2:一般の数列・コンマ区切り
集合の要素やベクトルの成分列のように、コンマ区切りの列には \ldots を使います。
$$ \{a_1, a_2, \ldots, a_n\} \qquad (x_1, x_2, \ldots, x_n) $$
$$
\{a_1, a_2, \ldots, a_n\}
$$
$$
\bm{x} = (x_1, x_2, \ldots, x_n)
$$
コンマ , の後で点々の高さが揃っているため、「コンマが省略されている部分にも同様に続く」ということが自然に伝わります。
実例3:内積の展開
内積 $\bm{a} \cdot \bm{b}$ を成分で展開すると、掛け算の和の形になります。演算子 + の列なので \cdots です。
$$ \bm{a} \cdot \bm{b} = a_1 b_1 + a_2 b_2 + \cdots + a_n b_n $$
$$
\bm{a} \cdot \bm{b} = a_1 b_1 + a_2 b_2 + \cdots + a_n b_n
$$
$a_1 b_1$ のような暗黙の積(並べて書く掛け算)では \cdot は書かず、その列は + でつながっています。したがって + の列として \cdots を選びます。
実例4:テイラー展開の末尾省略
テイラー展開も + でつながる項の列で、末尾を \cdots で省略します。
$$ f(x) = f(a) + f'(a)(x-a) + \frac{f”(a)}{2!}(x-a)^2 + \cdots $$
$$
f(x) = f(a) + f'(a)(x-a) + \frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2 + \cdots
$$
末尾に + \cdots だけを置いて「無限に続く」ことを表現する書き方です。\ldots で末尾省略するケースも稀に見かけますが、直前が + という演算子なので \cdots が文法的に正確です。
実例5:等号列・不等式列
等号や不等号が並ぶ列も演算子列なので \cdots を使います。
$$ a_1 \leq a_2 \leq \cdots \leq a_n $$
$$ f_1(x) = f_2(x) = \cdots = f_n(x) $$
$$
a_1 \leq a_2 \leq \cdots \leq a_n
$$
$$
f_1(x) = f_2(x) = \cdots = f_n(x)
$$
等号 = も不等号 \leq・\geq も文字の中央高さに配置される記号なので、\cdots を選びます。これを \ldots で書くと点が沈んで不格好になります。
5つの実例を通じて、「コンマ列 → \ldots」「演算子列 → \cdots」の原則が一貫して当てはまることを確認しました。次は紛らわしい \cdot との関係を整理します。
6. \cdot との関係:中点1つと中点3つ
\cdots と見た目が似たコマンドとして \cdot(中点1つ)があります。この2つは「中点の高さで描画される」という共通点はありますが、役割はまったく異なります。混同すると数式の意味が変わってしまうので、明確に区別しましょう。
\cdot:積の演算子(1つの中点)
\cdot は積を表す演算子です。数学の文脈で掛け算を明示したいときに使います。スカラー積(数値の掛け算)、内積、行列の積、関数の積など幅広い場面で使われます。
$$ \bm{a} \cdot \bm{b} \qquad 2 \cdot 3 = 6 \qquad f \cdot g $$
\bm{a} \cdot \bm{b} % 内積
2 \cdot 3 = 6 % スカラー積(\times の代替)
f \cdot g % 関数の積
\cdot の主な役割は「乗算記号 \times の代替として、より数学的・洗練された掛け算の表現」です。特に内積では \times を使わず \cdot を使うのが標準です。
\cdots:省略を表す記号(3つの中点)
一方 \cdots は省略を表す記号であり、積の演算子ではありません。積の列を省略するために使う場合でも、\cdots 自体は「積」を意味するわけではなく「続きがある」という意味です。
$$ a_1 \cdot a_2 \cdots a_n \qquad n! = 1 \cdot 2 \cdots n $$
a_1 \cdot a_2 \cdots a_n % \cdot を明示した積の列
n! = 1 \cdot 2 \cdots n % 階乗の積の展開
p_1 p_2 \cdots p_k % 暗黙の積の列(\cdot 省略)
積の列を省略する場合、前後に \cdot を付けるかどうかは文脈と好みによります。1 \cdot 2 \cdots n のように \cdot を残す書き方と、p_1 p_2 \cdots p_k のように \cdot を省略する書き方の両方が見られます。どちらも数学的に正しい表現です。
\Sigma / \Pi 記法との使い分け
積の省略に \cdots を使う場面は、「展開された形を見せたいとき」です。一般的な積や和は $\sum$・$\prod$ で書くほうがコンパクトで LaTeX の慣習に沿っています。
$$ n! = \prod_{k=1}^{n} k \qquad \text{(} \cdots \text{ の代わりに} \prod \text{ を使う)} $$
$$ \sum_{i=1}^{n} a_i \qquad \text{(} a_1 + \cdots + a_n \text{ の代わりに} \sum \text{ を使う)} $$
省略記号は「先頭と末尾の形を見せて、中間を省く」ことに価値があるとき——例えば $1 + 2 + \cdots + n = n(n+1)/2$ のように式変形を説明するとき——に使い、一般項だけが重要なら $\sum / \prod$ を選ぶという判断が適切です。

図の上段が \cdot(積の演算子、1つの中点)、下段が \cdots(省略記号、3つの中点)の使用例です。\cdot は演算子として前後の項を結合する役割、\cdots は「続きを省略する」という宣言の役割があることが視覚的に確認できます。
\cdot との違いを整理したところで、KaTeX での対応状況を確認しましょう。
7. KaTeX互換表
本ブログ(KaTeX使用)での各省略記号コマンドの対応状況をまとめます。
| コマンド | 表示 | KaTeX対応 | 備考 |
|---|---|---|---|
\ldots |
$\ldots$ | 対応 | 最も汎用的な横省略。下寄り |
\cdots |
$\cdots$ | 対応 | 演算子列の横省略。中央 |
\vdots |
$\vdots$ | 対応 | 縦省略。行列で必須 |
\ddots |
$\ddots$ | 対応 | 対角省略。行列で必須 |
\dots |
$\dots$ | 対応 | amsmathの自動選択 |
\hdots |
$\hdots$ | 対応 | \ldots の別名 |
\dotsc |
— | 非対応 | amsmathの細分。\ldots で代替 |
\dotsb |
— | 非対応 | amsmathの細分。\cdots で代替 |
\dotsm |
— | 非対応 | amsmathの細分。\cdots で代替 |
\dotsi |
— | 非対応 | amsmathの細分。\cdots で代替 |
\cdot |
$\cdot$ | 対応 | 積の演算子(省略記号でない) |
KaTeX では \ldots・\cdots・\vdots・\ddots の4種と \dots・\hdots が使えます。amsmath の細分コマンド(\dotsc 等)は KaTeX では未対応なので、代わりに \ldots か \cdots を直接使います。
8. よくある間違いと修正
間違い1:コンマ列に \cdots を使う
最もよくある間違いです。コンマ区切りの列で \cdots を使うと、点々がコンマより高い位置に浮いて見えます。ベースラインにあるコンマと、中央高さにある \cdots の点々が揃わないためです。
% NG:点々がコンマより浮いて見える
$a_1, a_2, \cdots, a_n$
% OK:点々とコンマの高さが揃う
$a_1, a_2, \ldots, a_n$
$$ a_1, a_2, \cdots, a_n \quad \Rightarrow \quad a_1, a_2, \ldots, a_n $$
覚え方:「コンマはベースラインにある → 点々もベースラインの \ldots」
この間違いは、\cdots を「省略記号の代表コマンド」と覚えてしまうと起きがちです。実際には \ldots と \cdots は用途が違い、コンマ列には \ldots が正解です。
間違い2:演算子列に \ldots を使う
演算子(+、\times、\cdot など)の列で \ldots を使うと、点々が沈んで演算子より低い位置に来ます。中央高さにある演算子と、ベースライン付近の \ldots の点々が揃わないためです。
% NG:点々が演算子より沈む
$a_1 + a_2 + \ldots + a_n$
% OK:点々と演算子の高さが揃う
$a_1 + a_2 + \cdots + a_n$
$$ a_1 + a_2 + \ldots + a_n \quad \Rightarrow \quad a_1 + a_2 + \cdots + a_n $$
覚え方:「演算子は文字の中央にある → 点々も中央の \cdots」
\times(乗算)・-(減算)・\leq(不等号)も同様に文字の中央高さにある記号なので、すべて \cdots です。
間違い3:行列の水平省略に \ldots を使う
行列の水平省略(行の要素列)に \ldots を使うと、点が行の要素よりも低い位置に来て揃いません。行列の各要素は文字の中央高さで揃っているため、行方向の省略は常に \cdots を使います。
% NG:行の要素より低い位置に点が来る
\begin{pmatrix} a_{11} & \ldots & a_{1n} \end{pmatrix}
% OK:行の要素と高さが揃う
\begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \end{pmatrix}
$$ \begin{pmatrix} a_{11} & \ldots & a_{1n} \end{pmatrix} \quad \Rightarrow \quad \begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \end{pmatrix} $$
行列の場合は「水平(行方向)は \cdots、垂直(列方向)は \vdots、対角は \ddots」と3点セットで覚えるのが最も効率的です。

図の3段を見比べると、NG(赤)とOK(緑)の違いが数式として視覚的に確認できます。間違い①のコンマ列・間違い②の演算子列は \cdots と \ldots の誤った互換使用、間違い③は行列に特有の落とし穴です。図の下部にある「覚え方」の一文が要点をコンパクトにまとめています。
その他の注意事項
\hdots と \ldots の違い:\hdots は \ldots の別名として用意されているコマンドで、表示は同一です。一部の LaTeX パッケージで \hdots を「水平省略専用」と位置づけている場合がありますが、実質的な表示差はありません。KaTeX でも両方対応しています。
\reflectbox{\ddots}(左下がり対角省略):\ddots は右下がり(左上→右下)の対角省略です。まれに左下がり(右上→左下)の対角省略が必要になる場合がありますが、KaTeX・標準 LaTeX には専用コマンドがありません。LaTeX では \iddots(mathdots パッケージ)や \reflectbox{\ensuremath{\ddots}}(graphicx パッケージ)で対応できますが、KaTeX では使えません。左下がりが必要な場面は稀なので、行列の構成を工夫して \ddots で表現できる形にするのが現実的な解決策です。
\ldots の後の句点(。):日本語文書で \ldots の後に句点を続けると \ldots。 と詰まった見た目になることがあります。文章末の省略では \ldots の後にスペースを入れるか、和文の「……」を使う方法もあります。ただし数式内では関係ない話です。
9. 選択フローチャートとまとめ表
「どの省略記号を使えばいいか」を素早く判断するためのフローチャートです。
ステップ1:どこに書くか?
- 行列の中 → ステップ2へ
- 数列・式の中 → ステップ3へ
- 文章の中(テキストモード) →
\ldots(確定)
ステップ2:行列内のどの方向の省略か?
- 水平(行の要素列、
&で区切られた方向) →\cdots - 垂直(列の要素列、
\\の方向) →\vdots - 対角(正方行列の内部) →
\ddots
ステップ3:省略の前後にあるのは?
- コンマ
,、括弧(){}[]、セミコロン;の後 →\ldots - 演算子(
+,-,\times,\cdot,\div)の前後 →\cdots - 関係記号(
=,\leq,\geq,\neq,\sim)の前後 →\cdots - 前後が不明確、または自動判定に任せたい →
\dots(KaTeX 対応)
判断に迷ったら:
コンマの後に自然につながる記号なら \ldots、それ以外の数学記号(演算子・関係記号)の流れなら \cdots。行列の水平方向は例外なく \cdots。この3点でほぼすべてカバーできます。
コマンド早見カード
| 場面 | コマンド | 理由 |
|---|---|---|
| $a_1, a_2, \ldots, a_n$(コンマ列) | \ldots |
コンマ = ベースライン |
| $a_1 + a_2 + \cdots + a_n$(加算列) | \cdots |
+ = 中央高さ |
| $a_1 \times a_2 \times \cdots \times a_n$(乗算列) | \cdots |
\times = 中央高さ |
| $a_1 \leq a_2 \leq \cdots \leq a_n$(不等式列) | \cdots |
\leq = 中央高さ |
行列の行方向省略(& の代わり) |
\cdots |
要素 = 中央高さ |
行列の列方向省略(\\ の代わり) |
\vdots |
縦方向専用 |
| 行列の対角省略 | \ddots |
対角方向専用 |
| テキスト文中の「…」 | \ldots |
文章の省略 |
この早見カードを手元に置いておくと、執筆中に迷うことが減ります。
まとめ
本記事では LaTeX の省略記号(点々)を使い分けの核心から実戦例まで解説しました。
| 記号 | コマンド | 一言説明 |
|---|---|---|
| $\ldots$ | \ldots |
下寄り。コンマ区切り列・テキスト |
| $\cdots$ | \cdots |
中央。演算子列・行列の水平省略 |
| $\vdots$ | \vdots |
縦方向。行列の列省略 |
| $\ddots$ | \ddots |
斜め方向。行列の対角省略 |
| $\dots$ | \dots |
文脈自動選択(amsmath / KaTeX) |
覚え方の要点
- コンマとコンマのあいだ →
\ldots(ベースラインに揃える) - 演算子と演算子のあいだ →
\cdots(文字の中央に揃える) - 行列の水平省略は常に
\cdots(要素の高さと揃える) - 行列の縦省略は
\vdots、対角省略は\ddots - KaTeXでは
\dotsc/\dotsbは使えない →\ldots/\cdotsで代替
素の ...(3連ピリオド)は数式モードでは組版が崩れるため、常に専用コマンドを使う習慣をつけましょう。