論文やレポートを書いていると「この変数名を太くしたい」「ギリシャ文字 $\alpha$ を太字にしたいのに効かない」という場面が必ず出てきます。LaTeXの太字コマンドは複数あり、テキスト用と数式用でまったく別の体系になっているため、間違ったコマンドを使っても何も変わらなかったり、斜体が失われたりします。
この記事では、\textbf / \mathbf / \boldsymbol / \bm / \pmb の5つを軸に、「何をどのコマンドで太くすべきか」を一覧で整理します。特に機械学習・物理の論文でよく使うギリシャ文字や記号の太字化に重点を置きます。
応用先の一例として、機械学習論文では ベクトル $\mathbf{x}$、重み行列 $\mathbf{W}$、損失の勾配 $\boldsymbol{\nabla}$ の表記が頻出します。もう一つの応用は物理・工学の教科書で、ISO 80000規格に従い 斜体太字のベクトル $\boldsymbol{F}$ を使う慣習があります。太字コマンドを正しく使いこなすことで、数式の読みやすさが大幅に向上します。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
- テキスト太字と数式太字の根本的な違い
\textbfと\bfseriesの使い分け- 数式太字4兄弟(
\mathbf/\boldsymbol/\bm/\pmb)の徹底比較 - ギリシャ文字を太字にする方法(
\mathbfが効かない罠) - ベクトル・行列の太字慣習(分野別)
- KaTeX互換表(ブログで使える記号の一覧)
- よくある間違いと修正

この図が記事全体の構造を表しています。LaTeXの太字には「テキストモード(文章中)」と「数式モード($...$の中)」という2つの世界があり、それぞれ専用のコマンドを使わなければなりません。この分岐を理解することが、すべての出発点になります。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
| やりたいこと | コマンド | 表示 | 条件・備考 |
|---|---|---|---|
| 文章中の文字を太字にする | \textbf{テキスト} |
テキスト | テキストモード専用 |
| 段落ごと太字(宣言型) | {\bfseries テキスト} |
テキスト | スコープ({})に注意 |
| 数式内の英字・ローマン体を太字に | \mathbf{x} |
$\mathbf{x}$ | ギリシャ文字には不可 |
| 数式内の英字を斜体太字に | \boldsymbol{x} |
$\boldsymbol{x}$ | KaTeX対応 |
| ギリシャ文字を太字に | \boldsymbol{\alpha} |
$\boldsymbol{\alpha}$ | \mathbf{\alpha} は不可 |
| 記号や演算子を太字に | \boldsymbol{\nabla} |
$\boldsymbol{\nabla}$ | \boldsymbol が汎用的 |
| TeX専用で英字・ギリシャ両対応(bmパッケージ) | \bm{x} |
— | KaTeX非対応 |
| 最終手段(重ね打ち)の太字 | \pmb{x} |
$\pmb{x}$ | KaTeX対応、画質が粗い |
| KaTeX専用の太字 | \bold{x} |
$\bold{x}$ | KaTeX拡張コマンド |
| 見出しを太字に(CSS/HTMLの場合) | **見出し** |
見出し | Markdownの場合 |
各行の詳細は以降のセクションで丁寧に解説します。
1. テキスト太字と数式太字は「別の世界」
LaTeXを使い始めたときに最も混乱するのが、この分岐です。
テキストモードは文章を書く場所で、\textbf{...} が支配します。数式モードは $...$ または $$...$$ で囲まれた空間で、ここでは \textbf がまったく機能しない(あるいは誤動作する)コマンドになります。
なぜこうなっているのでしょうか。LaTeXのフォントシステムは「テキスト用フォントファミリー」と「数学用フォントファミリー」を完全に分離して管理しています。テキストモードで使えるボールド(太字)のフォントは、数式モードには存在しない別物です。数式モードには数式専用のフォント(アルファベットの斜体・直立体・記号用フォントなど)が用意されており、それぞれに対応するコマンドがあります。この設計が「同じ太字でもコマンドが違う」という混乱の根本的な原因です。
モードの切り替わりタイミングも重要です。$ の内側に入った瞬間、LaTeXは数式モードに切り替わり、以降は文字を変数として解釈します。そのため数式内では x と書くだけで斜体の変数として表示されます。この「変数は斜体」という慣習は18世紀頃から続く数学の約束事であり、LaTeXはこれを自動的に実現しています。
数式内で \textbf{x} を使うと、LaTeXは「テキスト用の太字フォントで x を出力せよ」と解釈し、結果として斜体のない直立ローマン体の太字になります。変数の斜体が失われるため、読者には「これは変数ではなくラベルや単位のようなもの」と誤解させてしまいます。
具体的に見てみましょう。
% テキストモード(正しい使い方)
これは \textbf{太字のテキスト} です。
% 数式モード(正しい使い方)
ベクトル $\mathbf{x}$ の長さを求める。
% よくある間違い(数式内で \textbf を使う)
ベクトル $\textbf{x}$ の長さ % ← 斜体が消えてしまう
数式モードでは、英字は通常「斜体(イタリック)」で表示されます(変数を表すLaTeXの慣習)。数式内で \textbf を使うと、斜体が失われてローマン体の太字になり、数学的な意味(変数であること)が壊れてしまいます。この違いは意図に大きな影響を与えます。
整理すると、「数式内では数式用コマンドを使う、テキスト内ではテキスト用コマンドを使う」というシンプルな原則を守れば、太字の問題の大半は解決します。テキストモードと数式モードの分岐を押さえたところで、テキスト側のコマンドから詳しく見ていきましょう。
2. テキスト太字:\textbf と \bfseries

テキストモードでの太字には2つのアプローチがあります。引数型(\textbf)と宣言型(\bfseries)です。
\textbf — 引数型(局所的)
最も一般的な使い方です。波括弧の中だけを太字にします。
これは \textbf{太字の部分} だけ太くなります。前後は普通の文字です。
スコープが明確で、「単語1つだけ太くしたい」「文の一部を強調したい」という場面に向いています。
{\bfseries} — 宣言型(段落全体向け)
\bfseries は「以降の文字をすべて太字にする」という宣言コマンドです。グループ({...})内で有効になります。
{\bfseries このグループ内はすべて太字になります。閉じ括弧まで続く。}
ここは通常の文字に戻ります。
段落全体や環境ごと太字にしたいとき、また \begin{..} 環境の中でフォントを切り替えたいときに便利です。
\emph との違い
「強調」には \textbf ではなく \emph{...} を使うのが本来のLaTeXの流儀です。\emph は文脈によって斜体にしたり太字にしたりと、文書クラスのスタイルに従って自動で切り替わります。単なる見た目の変更に \textbf を使いすぎると、スタイルの変更に追随しにくくなります。
% 意味を持つ強調(推奨)
この概念は \emph{特に重要} です。
% 視覚的な太字(明示的な見た目の変更)
\textbf{注意:} この設定を変更しないでください。
セマンティクス(意味)を優先するなら \emph、見た目を明示的に制御したいなら \textbf という使い分けが適切です。
フォントサイズとの組み合わせ
太字はフォントサイズコマンドと組み合わせることもできます。
{\Large \textbf{大きな太字の見出し}}
% または short form
\textbf{\large サイズ変更も同時に}
ただしLaTeXでは、\section{} や \subsection{} といった構造コマンドが自動的にフォントサイズや太字を設定するため、手動で \textbf を見出しに使う必要はほとんどありません。
テキスト側を押さえたので、次はいよいよ数式側の4兄弟に入ります。ここが記事の核心です。
3. 数式の太字4兄弟の徹底比較

図の表を見ると、4つのコマンドの特性が一目でわかります。まず「英字に使えるか」「ギリシャ文字に使えるか」「KaTeXで動くか」の3点で選べばよいことが分かります。詳しく見ていきましょう。
\mathbf — ローマン体太字(英字専用)
$$
\mathbf{x}, \quad \mathbf{A}, \quad \mathbf{W}
$$
$$ \mathbf{x}, \quad \mathbf{A}, \quad \mathbf{W} $$
\mathbf は英字をローマン体(直立体)の太字にします。機械学習論文でベクトルや行列を表すのに最も広く使われているコマンドです。
注意点: \mathbf はギリシャ文字には効きません。\mathbf{\alpha} とすると、直立のローマン体αが出るだけで太字にはなりません(後述の罠)。また、\mathbf は数字も直立太字にできます($\mathbf{0}, \mathbf{1}$)。ただし数字は通常のLaTeXでも直立なので、太字の変化のほうが目立ちます。
\boldsymbol — 斜体太字(英字・ギリシャ・記号対応)
$$
\boldsymbol{x}, \quad \boldsymbol{\alpha}, \quad \boldsymbol{\nabla}
$$
$$ \boldsymbol{x}, \quad \boldsymbol{\alpha}, \quad \boldsymbol{\nabla} $$
\boldsymbol は英字もギリシャ文字も記号も、斜体のまま太字にできる汎用コマンドです。KaTeXでも動作するため、ブログやウェブの数式表示にも安心して使えます。

図の左パネルが \mathbf(直立ローマン体)、右パネルが \boldsymbol(斜体太字)を示しています。英字については似た太さに見えますが、体裁(直立か斜体か)が明確に異なります。ギリシャ文字 $\alpha$ を見ると、\boldsymbol だけが正しく太字斜体になっていることが確認できます。
\mathbf が「英字のローマン体太字」、\boldsymbol が「何でも斜体太字」という対比が重要です。どちらを選ぶかは分野の慣習に依存します(詳しくは §5 のベクトル慣習を参照)。
実際に両者を並べて見ると違いが際立ちます:
$$ \mathbf{x} \quad \text{vs} \quad \boldsymbol{x} $$
左(\mathbf)は直立したローマン体の太字、右(\boldsymbol)は斜体の太字です。機械学習の教科書では左の \mathbf が多く、物理学の教科書では右の \boldsymbol が多い傾向があります。
\bm — bmパッケージ(LaTeX専用・最強だがKaTeX非対応)
% LaTeX(PDFコンパイル)環境のみ
\usepackage{bm} % プリアンブルに追加
$$
\bm{x}, \quad \bm{\alpha}, \quad \bm{\nabla}
$$
\bm はLaTeXの bm パッケージが提供するコマンドで、英字もギリシャ文字も記号も「その文字本来のスタイルを保ったまま太字」にする最強のコマンドです。しかしKaTeXには対応していないため、ブログやウェブ上の数式ではエラーになります。
\bm の優れている点は、フォントの本来のスタイル(斜体か直立かなど)を変えずに太字を付加できることです。たとえば \bm{A} とすると、$A$ が斜体であればそのまま斜体の太字になります。\boldsymbol も似た効果がありますが、\bm のほうが広い文字種に対応しています。
KaTeX環境では \boldsymbol で代替してください。PDF論文執筆で bm パッケージが使える環境では、\bm が最も柔軟で推奨される選択肢です。
\pmb — 重ね打ち(Poor Man’s Bold・最終手段)
$$
\pmb{x}, \quad \pmb{\alpha}
$$
$$ \pmb{x}, \quad \pmb{\alpha} $$
\pmb は「同じ文字をわずかにずらして複数回重ね打ちする」ことで太字に見せるコマンドです。どんなコマンドでも無理やり太字にできる最終手段ですが、印刷物では線が滲んだように見えて画質が粗くなります。KaTeXでは動作しますが、\boldsymbol が使える場合はそちらを優先してください。
\pmb が必要になる典型的なシーンは、「LaTeXの特殊な環境や外部パッケージ経由で、どうしても \boldsymbol が効かない記号を太字にしたいとき」です。たとえば \mathfrak{g} のようなフラクトゥール体の太字や、一部のAMS記号の太字化に使われることがあります。
% 通常では太字化できないフラクトゥール体を pmb で強引に
$\pmb{\mathfrak{g}}$ ← 粗いが太く見える
% 標準的なアルファベット・ギリシャ文字には \boldsymbol を使う
$\boldsymbol{g}$ ← こちらが高品質
数式太字の4兄弟を整理したところで、次は実際に最も間違いが多い「ギリシャ文字の太字」に集中して取り組みます。
4. ギリシャ文字を太字にする方法

図のBefore(NG)とAfter(OK)が核心を示しています。ギリシャ文字の太字化は \mathbf ではうまくいきません。
なぜ \mathbf が効かないのか
\mathbf は「Math Bold Font」の略ですが、実際にはラテン文字(英字)に対してのみ太字フォントを適用する設計です。ギリシャ文字は別のフォントテーブルに属しており、\mathbf{\alpha} としても太字フォントが存在しないため、直立のローマン体αが代わりに表示されるだけです。
これはLaTeXの歴史的な設計に由来します。LaTeXのデフォルト数式フォント(Computer Modern)は英字の太字は持っていますが、ギリシャ文字の太字はデフォルトでは提供していませんでした。そのため \boldsymbol は AMS パッケージ(amsbsy)がその問題を解決するために後から追加されたコマンドです。現在のLaTeXディストリビューションでは標準で利用可能ですが、「\mathbf でギリシャが太くならない」という混乱は今でも頻繁に起きます。
正しい方法:\boldsymbol を使う
% NG:太字にならない(直立のαになるだけ)
$\mathbf{\alpha}$
% OK:ギリシャ文字が正しく太字になる
$\boldsymbol{\alpha}$
$\boldsymbol{\beta}$
$\boldsymbol{\gamma}$
$\boldsymbol{\mu}$
$\boldsymbol{\Sigma}$
$\boldsymbol{\nabla}$
$$ \boldsymbol{\alpha}, \quad \boldsymbol{\beta}, \quad \boldsymbol{\mu}, \quad \boldsymbol{\Sigma}, \quad \boldsymbol{\nabla} $$
上の数式が正しく太字のギリシャ文字として表示されていれば、\boldsymbol が機能している証拠です。ブラウザのKaTeXでも同じ結果が得られます。
よく使うギリシャ文字の太字一覧
論文でよく使うギリシャ文字の太字化コマンドをまとめます。
| 通常 | 太字 | コマンド | 用途例 |
|---|---|---|---|
| $\alpha$ | $\boldsymbol{\alpha}$ | \boldsymbol{\alpha} |
学習率ベクトル |
| $\beta$ | $\boldsymbol{\beta}$ | `\boldsymbol{\beta}$ | 回帰係数ベクトル |
| $\mu$ | $\boldsymbol{\mu}$ | \boldsymbol{\mu} |
平均ベクトル |
| $\sigma$ | $\boldsymbol{\sigma}$ | \boldsymbol{\sigma} |
標準偏差ベクトル |
| $\theta$ | $\boldsymbol{\theta}$ | \boldsymbol{\theta} |
パラメータベクトル |
| $\omega$ | $\boldsymbol{\omega}$ | \boldsymbol{\omega} |
角速度ベクトル |
| $\Sigma$ | $\boldsymbol{\Sigma}$ | \boldsymbol{\Sigma} |
共分散行列 |
| $\Lambda$ | $\boldsymbol{\Lambda}$ | \boldsymbol{\Lambda} |
固有値行列 |
| $\nabla$ | $\boldsymbol{\nabla}$ | \boldsymbol{\nabla} |
勾配演算子 |
すべて \boldsymbol{\...} の形で対応できます。\boldsymbol でギリシャ文字の太字化ができることを確認しました。次は「どのコマンドをベクトル・行列の表記に使うか」という分野別の慣習を整理します。
5. ベクトル・行列の太字慣習(分野別)

図の4列がそれぞれの分野慣習を表しています。ベクトル・行列の太字表記は分野ごとに慣習が異なり、どれが「正しい」というわけではありません。大事なのは一貫性です。
数学一般:\mathbf(直立太字)
数学の教科書の多くでは \mathbf によるローマン体太字を使います。
$$ \mathbf{x}, \quad \mathbf{A}, \quad \mathbf{v} $$
物理・工学(ISO 80000規格):\boldsymbol(斜体太字)
ISO 80000(物理量と単位の国際規格)では、ベクトルは斜体太字で書くよう規定されています。物理や工学の論文・教科書では \boldsymbol が標準です。
$$ \boldsymbol{F} = m\boldsymbol{a}, \quad \boldsymbol{E} = -\nabla V $$
機械学習論文(NeurIPS/ICML等):\mathbf が多数派
主要な機械学習カンファレンスの論文では、\mathbf でローマン体太字にする慣習が広まっています。ただしギリシャ文字($\boldsymbol{\mu}$, $\boldsymbol{\Sigma}$ 等)は \boldsymbol を使います。
\mathbf{x} \sim \mathcal{N}(\boldsymbol{\mu}, \boldsymbol{\Sigma})
$$ \mathbf{x} \sim \mathcal{N}(\boldsymbol{\mu}, \boldsymbol{\Sigma}) $$
統計・確率:\boldsymbol(ギリシャ字が多いため)
統計・確率では平均ベクトル $\boldsymbol{\mu}$ や共分散行列 $\boldsymbol{\Sigma}$ のようにギリシャ文字が頻出します。ギリシャ文字に対応できる \boldsymbol を主として使い、英字にも合わせるために英字もすべて \boldsymbol にする著者も多いです。
実際の論文の例
機械学習の代表的な論文で使われている記法を見てみましょう。
% BERT(Devlin et al. 2018)スタイル
\mathbf{E}_{[CLS]} + \mathbf{E}_{[SEP]}
% GPT スタイルの入力表現
\mathbf{h}_0 = \mathbf{W}_e \mathbf{X} + \mathbf{W}_p
% 確率分布のパラメータ(ギリシャ文字が含まれる場合)
p(\mathbf{x} \mid \boldsymbol{\mu}, \boldsymbol{\Sigma})
= \mathcal{N}(\mathbf{x}; \boldsymbol{\mu}, \boldsymbol{\Sigma})
英字のベクトル・行列には \mathbf、ギリシャ文字のパラメータには \boldsymbol という混在スタイルが多くの論文で採用されています。
なお、既存の記事 LaTeXでベクトル記号の書き方(latex-vector-bold) では、ベクトル専用の表記法(矢印付き、アンダーライン等)も含めて詳しく解説しています。
ベクトル慣習を把握したところで、KaTeX特有の話題——このブログで各コマンドが使えるかどうか——を確認します。
6. KaTeXでの太字(ブログ・ウェブ数式向け)

図の表が示すとおり、\bm を除いたほぼすべての太字コマンドがKaTeXで動作します。
KaTeX 対応コマンドまとめ
| コマンド | 用途 | KaTeX | 備考 |
|---|---|---|---|
\textbf{} |
テキスト太字 | 対応 | テキストモードのみ |
\mathbf{} |
数式英字太字(直立) | 対応 | ギリシャ文字は不可 |
\boldsymbol{} |
数式斜体太字 | 対応 | 英字・ギリシャ・記号OK |
\bm{} |
数式太字(bm pkg) | 非対応 | \boldsymbol で代替 |
\pmb{} |
重ね打ち太字 | 対応 | 画質が粗い、最終手段 |
\bold{} |
KaTeX独自太字 | 対応 | KaTeX専用コマンド |
KaTeX専用コマンド \bold
KaTeXには \bold という独自コマンドがあります。\mathbf と同様に英字を太字にします。
$$ \bold{x}, \quad \bold{A}, \quad \bold{v} $$
$$
\bold{x}, \quad \bold{A}, \quad \bold{v}
$$
\mathbf と表示は同じですが、ギリシャ文字には効かない点も同様です。LaTeX(PDF)環境では使えないため、KaTeX専用記事を書く場合にのみ使うのが安全です。
\bold の詳細
\bold は KaTeX 独自のコマンドです。内部的には \mathbf と同等ですが、KaTeXのドキュメントで明示的に定義されているという点で安心して使えます。ただし、LaTeX(PDFコンパイル環境)では使えない点に注意してください。
% KaTeX専用(LaTeXでは未定義)
$\bold{x} + \bold{A}\bold{y}$
$$ \bold{x} + \bold{A}\bold{y} $$
ブログ記事の数式でのみ使い、LaTeXのソースと共用したい場合は \mathbf を選ぶほうが安全です。
KaTeX対応状況を整理したところで、最後によくある間違いとその直し方を具体例で確認します。
7. よくある間違いと修正

図の4つのパネルが最頻出の間違いをまとめています。それぞれの原因と修正を詳しく見ていきます。
間違い1:数式内で \textbf を使う
これが最も多い間違いです。
% NG:数式内で \textbf を使うと斜体が失われる
$\textbf{x} + y$ → x が直立ローマン体になる
% OK:数式内では \mathbf または \boldsymbol を使う
$\mathbf{x} + y$ → x がローマン体太字
$\boldsymbol{x} + y$ → x が斜体太字
数式内の変数は通常「斜体」で書くのがLaTeXの慣習です。\textbf は斜体を持たないローマン体フォントを適用するため、変数の見た目が壊れます。
間違い2:\mathbf でギリシャ文字を太くしようとする
% NG:\mathbf{\alpha} はαを直立体にするだけ
$\mathbf{\alpha}$ → 直立のα(太字ではない)
% OK:ギリシャ文字には \boldsymbol を使う
$\boldsymbol{\alpha}$ → 斜体太字のα ✓
この間違いは見た目で気づきにくいです。\mathbf{\alpha} が「何かおかしいけどエラーは出ない」という状態になるため、見落としがちです。ギリシャ文字を使うときは必ず \boldsymbol を思い出してください。
間違い3:\bm をKaTeXで使う
% NG:KaTeXでは \bm が未定義
$\bm{x}$ → KaTeXでエラーまたは豆腐文字になる
% OK:\boldsymbol で代替する
$\boldsymbol{x}$ → 斜体太字 ✓
LaTeX(PDF出力)を使う環境で慣れていると、KaTeXでも \bm が使えると思いがちです。ウェブ公開する数式では必ず \boldsymbol に置き換えてください。
間違い4:テキスト太字を数式に持ち込む
% NG:数式モード内に \textbf
$\textbf{F} = ma$ → F がローマン体になりスペーシングも崩れる
% OK:数式内では \mathbf を使う
$\mathbf{F} = ma$ → F がローマン体太字、スペーシング正常
$\boldsymbol{F} = m\boldsymbol{a}$ → 斜体太字
数式内では数式用のコマンドを使う——このシンプルな原則を守るだけで大半の問題は解決します。
間違い5:\mathbf と \boldsymbol を混在させる(一貫性がない)
% NG:同じ文書で混在すると読者が混乱する
$\mathbf{x}$ と $\boldsymbol{A}$ を使って...
% OK:文書全体で一つのスタイルに統一する
% (例:英字は \mathbf、ギリシャ文字は \boldsymbol の組み合わせなら一貫したルールがある)
$\mathbf{x} = \mathbf{A}\mathbf{y} + \boldsymbol{\epsilon}$
% ← ベクトル・行列は \mathbf、パラメータのギリシャ文字は \boldsymbol
技術的には両者を混在させても動作しますが、文書全体で一貫したスタイルを保つことが読みやすさには重要です。論文執筆の際は序文または付録に「本論文ではベクトルを $\mathbf{x}$ で表す」と明示する習慣が望ましいです。
Tips:LaTeXマクロで統一する
論文など長い文書では、マクロを定義して太字コマンドを統一すると後から変更しやすくなります。
% プリアンブルに追記(LaTeX専用)
\usepackage{bm} % bm パッケージ
\newcommand{\vect}[1]{\bm{#1}} % ベクトル用
\newcommand{\mat}[1]{\bm{#1}} % 行列用
% 本文で使用
$\vect{x} = \mat{A}\vect{y}$
KaTeX環境では \bm が使えないため、同様のマクロは \boldsymbol で定義します(ただし KaTeX の \newcommand サポートは限定的)。
8. KaTeX互換表
本ブログ(KaTeX使用)での各コマンドの対応状況をまとめます。
| コマンド | 表示 | KaTeX | LaTeX追加設定 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
\textbf{x} |
x | 対応 | 不要 | テキスト太字 |
\mathbf{x} |
$\mathbf{x}$ | 対応 | 不要 | 数式英字・直立 |
\boldsymbol{x} |
$\boldsymbol{x}$ | 対応 | 不要 | 数式斜体・汎用 |
\boldsymbol{\alpha} |
$\boldsymbol{\alpha}$ | 対応 | 不要 | ギリシャ太字 |
\boldsymbol{\nabla} |
$\boldsymbol{\nabla}$ | 対応 | 不要 | 記号太字 |
\bm{x} |
— | 非対応 | bm pkg 必要 | LaTeX専用 |
\pmb{x} |
$\pmb{x}$ | 対応 | 不要 | 重ね打ち(最終手段) |
\bold{x} |
$\bold{x}$ | 対応 | — | KaTeX専用 |
表から読み取れる最重要ポイントは「\bm だけがKaTeXで動かない」という点です。それ以外は LaTeX と KaTeX でほぼ同じコマンドが使えます。
まとめ
本記事では、LaTeXで太字を書くための全コマンドをリファレンス形式で解説しました。
| コマンド | 一言説明 |
|---|---|
\textbf{} |
テキスト太字の基本。文章中の強調に |
\mathbf{} |
数式の英字を直立太字に。ML論文の標準 |
\boldsymbol{} |
数式の斜体太字。ギリシャ文字・記号にも使える |
\bm{} |
LaTeX専用で最強。KaTeXでは\boldsymbolで代替 |
\pmb{} |
重ね打ちの最終手段。KaTeX対応だが画質が粗い |
判断の指針をまとめると:
- 文章中の太字 →
\textbf{...} - 数式の英字を太字(ローマン体) →
\mathbf{...} - ギリシャ文字・記号を太字 →
\boldsymbol{...} - KaTeX/ブログ環境 →
\bmは使えないので\boldsymbolを選ぶ - PDF論文でLaTeX環境 →
\bmを使うと英字・ギリシャ文字を一括で扱える
「ギリシャ文字が太字にならない」という問題の9割は \mathbf を \boldsymbol に変えるだけで解決します。また「数式の太字が変に見える」という問題の多くは、数式内で \textbf を使っていることが原因です。この2点を覚えておくだけで、LaTeX太字の問題はほぼなくなります。