「LaTeX 矢印」「tex 矢印」で検索してこのページにたどり着いた方の多くは、「極限の $x \to 0$ はどう書くのか」「論理の⇒と普通の→はコマンドが違うのか」「ベクトル $\overrightarrow{AB}$ の上の矢印はどう出すのか」「矢印の上に文字を載せたい」といった具体的な疑問を抱えているのではないでしょうか。本記事はそうした疑問にコピペできる実例で一気に答えるリファレンスです。
矢印は、LaTeXの記号の中でも特に出番が多い割に、種類が多くて混乱しやすい記号です。極限の収束($x \to 0$)、写像の定義($f: A \to B$、$x \mapsto x^2$)、論理の含意($P \Rightarrow Q$)、ベクトルの表記($\vec{a}$、$\overrightarrow{AB}$)、化学反応式($\mathrm{A} + \mathrm{B} \longrightarrow \mathrm{C}$)と、分野ごとに「正しい矢印」が決まっています。一度この使い分けをマスターしておけば、レポート・論文・技術ブログのどの場面でも迷わず数式が書けるようになります。逆に、論理含意に \rightarrow を使ったり、収束に \Rightarrow を使ったりすると、読み手に「分かっていない」印象を与えかねません。
まずは結論を先に知りたい方のために、冒頭に逆引き早見表を置きました。やりたいことから必要なコマンドをすぐ引けます。そのあと、左右の矢印・二重矢印・長い矢印・矢印の上下に文字を載せる方法・写像・ベクトル・上下斜め矢印・極限・化学反応式・可換図式・否定矢印・KaTeX対応状況まで、順番に丁寧に解説していきます。
本記事の内容
- やりたいことから引ける逆引き早見表
- 基本の左右矢印(
\to/\rightarrow/\leftarrow/\gets/\leftrightarrow) - 二重矢印と論理記号(
\Rightarrow/\Leftrightarrow/\implies/\iff)の使い分け - 長い矢印と、矢印の上下に文字を載せる方法(
\xrightarrow[下]{上}/\overset/\underset) - 写像の矢印(
\mapsto/\hookrightarrow/\twoheadrightarrow) - ベクトルの矢印(
\vec/\overrightarrow{AB}) - 上下・斜め矢印、極限・確率収束での矢印
- 化学反応式・可換図式での矢印
- 否定矢印と、KaTeX / MathJax の対応状況
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- LaTeX数式記法 完全ガイド — 工学・理学のための実用チートシート — LaTeX数式全体の俯瞰
- 【LaTeX】極限limをLaTeXで書く — 矢印と最もよく組み合わせる極限記法
なお本記事のサンプルはすべて、Webで数式を表示するKaTeX、および一般的なLaTeX(amsmath環境)の両方で動作することを基準に書いています。一部の例外(mhchemや可換図式パッケージ)はその都度明記します。
逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く
細かい解説に入る前に、よく使うパターンを一覧にまとめます。「とりあえずこれをコピペしたい」という場合はこの表だけで用が足りることも多いはずです。各行の詳細は後続のセクションで解説します。
| やりたいこと | LaTeXコマンド | 表示 |
|---|---|---|
| 右矢印(収束・写像) | \to または \rightarrow |
$\to$ |
| 左矢印(代入) | \gets または \leftarrow |
$\gets$ |
| 双方向の矢印 | \leftrightarrow |
$\leftrightarrow$ |
| 論理の含意(ならば) | \Rightarrow または \implies |
$\Rightarrow$ |
| 論理の同値 | \Leftrightarrow または \iff |
$\Leftrightarrow$ |
| 長い右矢印 | \longrightarrow |
$\longrightarrow$ |
| 矢印の上に文字 | \xrightarrow{f} |
$\xrightarrow{f}$ |
| 矢印の上下に文字 | \xrightarrow[n\to\infty]{a.s.} |
$\xrightarrow[n\to\infty]{a.s.}$ |
| 要素の対応(写像) | x \mapsto x^2 |
$x \mapsto x^2$ |
| 単射の矢印 | \hookrightarrow |
$\hookrightarrow$ |
| 全射の矢印 | \twoheadrightarrow |
$\twoheadrightarrow$ |
| ベクトル(1文字) | \vec{a} |
$\vec{a}$ |
| 2点間ベクトル | \overrightarrow{AB} |
$\overrightarrow{AB}$ |
| 上矢印・下矢印 | \uparrow / \downarrow |
$\uparrow$ / $\downarrow$ |
| 斜め矢印(増加・減少) | \nearrow / \searrow |
$\nearrow$ / $\searrow$ |
| 化学平衡 | \rightleftharpoons |
$\rightleftharpoons$ |
| 否定の矢印(含意しない) | \nRightarrow |
$\nRightarrow$ |
| 波線矢印 | \rightsquigarrow |
$\rightsquigarrow$ |
最初に押さえるべき共通ルールは1つだけです。小文字始まりのコマンド(\rightarrow)は一本線の矢印、大文字始まりのコマンド(\Rightarrow)は二重線の矢印になります。この対応は左右・上下・長短のほぼすべての矢印で一貫しているので、覚えるコマンド数は実質半分で済みます。
それでは、この表の各項目を順番に詳しく見ていきましょう。まずはすべての基本となる左右の矢印からです。
基本の左右矢印:\to・\rightarrow・\leftarrow・\gets
数学で最も頻繁に登場する矢印が、一本線の右矢印 $\to$ です。極限の「近づく」、写像の「定義域から終域へ」、アルゴリズム解説の「次のステップへ」など、あらゆる場面で使います。
$$ x \to 0, \qquad f: \mathbb{R} \to \mathbb{R} $$
$$
x \to 0, \qquad f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}
$$
ここで重要なのは、\to と \rightarrow は完全に同じ記号を出力するということです。\to は \rightarrow の省略形(エイリアス)であり、出力は1ピクセルも違いません。同様に、左矢印 \leftarrow にも \gets という省略形があります。
$$ x \rightarrow 0, \qquad x \leftarrow x + 1 $$
$$
x \rightarrow 0, \qquad x \leftarrow x + 1
$$
使い分けの目安は次のとおりです。
\to/\gets: タイプ数が少なく、ソースが読みやすい。数学の文脈(極限・写像)でよく使われる\rightarrow/\leftarrow: 名前が明示的。上下や斜めの矢印(\uparrowなど)と揃えて書くときに統一感が出る
どちらを使っても間違いではありませんが、1つの文書内ではどちらかに統一するとソースの見通しが良くなります。なお \gets は擬似コードの代入($x \gets x+1$)の表記として定番です。アルゴリズムの解説記事を書く方は覚えておくと便利です。
左右両方向を向いた矢印は \leftrightarrow です。対応関係や「行き来できる」ことを示すときに使います。
$$ A \leftrightarrow B $$
$$
A \leftrightarrow B
$$
ここまでが一本線の矢印の基本です。では、論理学でおなじみの「⇒(ならば)」のような二重線の矢印はどう書くのでしょうか。次のセクションで見ていきます。
二重矢印:\Rightarrow・\Leftrightarrow と論理含意
命題論理で「$P$ ならば $Q$」を表すときに使うのが、二重線の右矢印 $\Rightarrow$ です。コマンドは \Rightarrow で、先頭が大文字になっている点が一本線の \rightarrow との違いです。
$$ P \Rightarrow Q, \qquad P \Leftarrow Q, \qquad P \Leftrightarrow Q $$
$$
P \Rightarrow Q, \qquad P \Leftarrow Q, \qquad P \Leftrightarrow Q
$$
それぞれの意味は次のとおりです。
| コマンド | 表示 | 意味 |
|---|---|---|
\Rightarrow |
$\Rightarrow$ | 含意($P$ ならば $Q$) |
\Leftarrow |
$\Leftarrow$ | 逆向きの含意($Q$ ならば $P$) |
\Leftrightarrow |
$\Leftrightarrow$ | 同値($P$ と $Q$ は必要十分) |
amsmathにはこれらの前後に余白を広めにとったバリエーションとして \implies($\implies$)、\impliedby($\impliedby$)、\iff($\iff$)も用意されています。論理式の導出を行単位で書くときは、こちらのほうが読みやすくなります。
$$ x > 2 \implies x^2 > 4 \qquad x^2 = 4 \iff x = \pm 2 $$
$$
x > 2 \implies x^2 > 4 \qquad x^2 = 4 \iff x = \pm 2
$$
ここで、初学者が最も混同しやすいポイントを整理しておきます。一本線の $\to$ と二重線の $\Rightarrow$ は、分野によって役割が異なります。
- 数学(解析・代数)の慣習: 収束・写像は $\to$(一本線)、命題の含意は $\Rightarrow$(二重線)と使い分ける
- 数理論理学の教科書: 論理結合子としての含意を $\to$、メタレベルの推論(「〜が証明できるならば〜」)を $\Rightarrow$ と書き分ける流儀がある
通常の理工系レポート・論文であれば、「収束と写像は \to、ならばは \Rightarrow」と覚えておけばまず問題ありません。証明の中で「式変形がこう進む」ことを示す矢印も \Rightarrow が標準です。
二重矢印の使い方が分かったところで、次は「矢印が短くて窮屈に見える」ときの解決策、長い矢印を見ていきましょう。
長い矢印:\longrightarrow と \xrightarrow
矢印の上に関数名や条件を載せたいとき、標準の \rightarrow では短すぎて文字がはみ出してしまいます。そこで使うのが long 系の矢印です。コマンド名に long を挟むだけで、約2倍の長さの矢印になります。
$$ \rightarrow \quad \longrightarrow \qquad \Rightarrow \quad \Longrightarrow \qquad \leftrightarrow \quad \longleftrightarrow $$
$$
\rightarrow \quad \longrightarrow \qquad
\Rightarrow \quad \Longrightarrow \qquad
\leftrightarrow \quad \longleftrightarrow
$$
long系には \longrightarrow・\longleftarrow・\longleftrightarrow・\Longrightarrow・\Longleftarrow・\Longleftrightarrow・\longmapsto が揃っています。化学反応式や、写像の合成を強調したいときに使います。
ただし、実務で長い矢印が必要になる場面の9割は「矢印の上に文字を載せたい」ときです。その場合は長さ固定の \longrightarrow よりも、載せる文字の幅に応じて矢印が自動で伸びる \xrightarrow が圧倒的に便利です。
$$ A \xrightarrow{f} B \xrightarrow{\text{連続写像 } g} C $$
$$
A \xrightarrow{f} B \xrightarrow{\text{連続写像 } g} C
$$
\xrightarrow{上に載せる文字} と書くだけで、文字の長さに合わせて矢印が伸縮します。2つ目の矢印が「連続写像 $g$」という長いラベルに合わせて自動で長くなっていることが分かります。左向きには \xleftarrow があります。
さらに、\xrightarrow はオプション引数で矢印の下側にも文字を置けます。書式は \xrightarrow[下の文字]{上の文字} です。角括弧が下、波括弧が上、という順番に注意してください。
$$ \bar{X}_n \xrightarrow[n \to \infty]{P} \mu $$
$$
\bar{X}_n \xrightarrow[n \to \infty]{P} \mu
$$
これは統計学の「確率収束」(大数の弱法則)の標準的な表記です。上に収束のモード($P$)、下に極限操作($n \to \infty$)を載せています。確率論・統計学の論文では頻出するパターンなので、そのままコピペして使ってください。
なお、\xrightarrow を使わずに既存の矢印の上下へ文字を載せる方法として \overset と \underset もあります。これは矢印に限らず任意の記号に使える汎用コマンドです。
$$ A \overset{f}{\to} B, \qquad X_n \overset{d}{\to} N(0, 1), \qquad a \underset{\text{下限}}{\geq} b $$
$$
A \overset{f}{\to} B, \qquad
X_n \overset{d}{\to} N(0, 1), \qquad
a \underset{\text{下限}}{\geq} b
$$
\overset{上}{本体} で本体記号の上に、\underset{下}{本体} で下に小さな文字を載せます。$X_n \overset{d}{\to} N(0,1)$ は「分布収束」の定番表記です。古い文書では \stackrel{f}{\to} という同等のコマンドも見かけますが、現在は \overset の使用が推奨されています。使い分けの目安は、矢印を伸ばしたいなら \xrightarrow、記号の長さを変えずに添えたいだけなら \overset です。
矢印の上下に文字を載せられるようになると、表現の幅が一気に広がります。次は、関数や写像を書くときに必須の矢印を見ていきましょう。
写像の矢印:\mapsto・\hookrightarrow・\twoheadrightarrow
写像(関数)の定義では、2種類の矢印を使い分けます。集合から集合への対応は \to、個々の要素の対応は \mapsto です。\mapsto は矢印の根元に短い縦棒がついた記号で、「この要素がこの要素に移る」ことを表します。
$$ f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, \quad x \mapsto x^2 $$
$$
f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, \quad x \mapsto x^2
$$
この1行は「$f$ は実数から実数への写像で、$x$ を $x^2$ に対応させる」と読みます。定義域・終域のレベル(集合)と要素のレベルを矢印の形で区別するのが数学の流儀です。ラムダ式のような無名関数を表すときにも $x \mapsto x^2$ という書き方をします。長い版の \longmapsto($x \longmapsto x^2$)もあります。
写像の性質を矢印の形で表す記号も覚えておくと、数学書を読むときに役立ちます。
| コマンド | 表示 | 意味 |
|---|---|---|
\hookrightarrow |
$\hookrightarrow$ | 単射・埋め込み(フックつき矢印) |
\twoheadrightarrow |
$\twoheadrightarrow$ | 全射(二重ヘッドの矢印) |
\rightsquigarrow |
$\rightsquigarrow$ | 「自然に導かれる」「変形して得られる」などの非公式な対応 |
$$ \mathbb{Z} \hookrightarrow \mathbb{Q} \twoheadrightarrow \mathbb{Q}/\mathbb{Z} $$
$$
\mathbb{Z} \hookrightarrow \mathbb{Q} \twoheadrightarrow \mathbb{Q}/\mathbb{Z}
$$
$\hookrightarrow$ は「$\mathbb{Z}$ が $\mathbb{Q}$ の中に埋め込まれる(単射がある)」、$\twoheadrightarrow$ は「商集合への全射がある」ことを1つの図式で表現しています。代数学・圏論の文書ではこの2つが頻出します。
写像の話が出たところで、多くの読者が探しているであろう「ベクトルの上の矢印」に進みましょう。
ベクトルの矢印:\vec と \overrightarrow
「latex ベクトル 矢印」で検索される定番の疑問です。結論から言うと、1文字のベクトルには \vec、2文字以上(特に2点間のベクトル)には \overrightarrow を使います。
$$ \vec{a}, \quad \vec{v}, \qquad \overrightarrow{AB}, \quad \overrightarrow{OP} $$
$$
\vec{a}, \quad \vec{v}, \qquad \overrightarrow{AB}, \quad \overrightarrow{OP}
$$
\vec{a} は文字の上に小さな矢印アクセントを載せます。これはあくまで1文字用のアクセント記号なので、\vec{AB} と書くと矢印が $A$ と $B$ の中央に小さく載るだけで、2文字をカバーしてくれません。点 $A$ から点 $B$ へ向かうベクトルを書きたいときは、引数の幅に応じて矢印が伸びる \overrightarrow{AB} を使ってください。
逆向きの \overleftarrow{AB}($\overleftarrow{AB}$)や、双方向の \overleftrightarrow{AB}($\overleftrightarrow{AB}$、直線 $AB$ を表す米国式の記法)もあります。
なお、大学以降の数学・物理・機械学習の文書では、ベクトルを矢印ではなく太字($\boldsymbol{a}$)で書く流儀が主流です。高校数学やベクトルの導入的な説明では矢印、論文・専門書では太字、と使い分けるのが一般的です。太字によるベクトル表記の詳細は 【LaTeX】太字とベクトルの書き方 完全ガイド で解説しているので、あわせて参考にしてください。
左右の矢印を一通りマスターしたので、次は上下・斜め方向の矢印に視野を広げます。
上下矢印と斜め矢印
上下方向の矢印は、極限の単調収束や、数列・関数の増減を示すときに使います。左右の場合と同じく、小文字始まりが一本線、大文字始まりが二重線です。
$$ \uparrow \quad \downarrow \quad \updownarrow \qquad \Uparrow \quad \Downarrow \quad \Updownarrow $$
$$
\uparrow \quad \downarrow \quad \updownarrow \qquad
\Uparrow \quad \Downarrow \quad \Updownarrow
$$
解析学では、$a_n \uparrow a$ で「$a_n$ が単調増加しながら $a$ に収束する」、$a_n \downarrow a$ で「単調減少しながら収束する」を表す慣習があります。測度論の単調収束定理などでよく見かける記法です。
斜め矢印は4方向あります。
| コマンド | 表示 | 主な用途 |
|---|---|---|
\nearrow |
$\nearrow$ | 単調増加(north-east: 右上) |
\searrow |
$\searrow$ | 単調減少(south-east: 右下) |
\nwarrow |
$\nwarrow$ | 左上方向(north-west) |
\swarrow |
$\swarrow$ | 左下方向(south-west) |
コマンド名は方角(north / south / east / west)の頭文字の組み合わせです。「ne = 北東 = 右上」と方位記号で覚えれば、4つまとめて暗記できます。増減表で関数の増加・減少を示すときには \nearrow と \searrow が定番です。
$$ f'(x) > 0 \ \text{のとき} \ f \nearrow, \qquad f'(x) < 0 \ \text{のとき} \ f \searrow $$
$$
f'(x) > 0 \ \text{のとき} \ f \nearrow, \qquad
f'(x) < 0 \ \text{のとき} \ f \searrow
$$
方向のバリエーションが揃ったところで、矢印が最も活躍する場面である「極限」での使い方を確認しておきましょう。
極限・収束での矢印の使い方
極限の表記には2つのスタイルがあります。\lim 演算子を使う書き方と、矢印だけで収束を示す書き方です。
$$ \lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1, \qquad \frac{\sin x}{x} \to 1 \quad (x \to 0) $$
$$
\lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1, \qquad
\frac{\sin x}{x} \to 1 \quad (x \to 0)
$$
\lim の下添字 x \to 0 の矢印にも、本文中の括弧書き $(x \to 0)$ にも、同じ \to を使います。片側極限は x \to 0^{+}(右極限)、x \to 0^{-}(左極限)のように上付きの符号を添えます。
$$ \lim_{x \to 0^{+}} \frac{1}{x} = +\infty, \qquad \lim_{x \to 0^{-}} \frac{1}{x} = -\infty $$
$$
\lim_{x \to 0^{+}} \frac{1}{x} = +\infty, \qquad
\lim_{x \to 0^{-}} \frac{1}{x} = -\infty
$$
確率論・統計学では、収束の「種類」を矢印に注釈して区別します。先ほど紹介した \xrightarrow と \overset がここで活躍します。
$$ X_n \xrightarrow{a.s.} X, \qquad X_n \xrightarrow{P} X, \qquad X_n \xrightarrow{d} X $$
$$
X_n \xrightarrow{a.s.} X, \qquad
X_n \xrightarrow{P} X, \qquad
X_n \xrightarrow{d} X
$$
左から順に、概収束(almost surely)・確率収束・分布収束を表します。極限記法のさらに詳しい解説(limsup・liminf・多変数の極限など)は 【LaTeX】極限limをLaTeXで書く を参照してください。
数学での矢印を押さえたので、今度は分野を変えて、化学と圏論という「矢印が主役」になる2つの応用場面を見てみましょう。
化学反応式の矢印
化学反応式では、反応の進行を長い矢印 \longrightarrow、可逆反応(化学平衡)を \rightleftharpoons で表します。\rightleftharpoons は上下2本の「銛(harpoon、片側だけにヘッドがある矢印)」を組み合わせた記号で、化学平衡の標準表記です。
$$ \mathrm{N_2 + 3H_2 \rightleftharpoons 2NH_3} $$
$$
\mathrm{N_2 + 3H_2 \rightleftharpoons 2NH_3}
$$
化学式はイタリックではなく立体(ローマン体)で書くのが正式なので、全体を \mathrm{} で囲んでいる点にも注意してください。反応条件(加熱・触媒など)を矢印の上に載せたいときは、ここでも \xrightarrow が使えます。
$$ \mathrm{2KClO_3} \xrightarrow{\Delta, \ \mathrm{MnO_2}} \mathrm{2KCl + 3O_2} $$
$$
\mathrm{2KClO_3} \xrightarrow{\Delta, \ \mathrm{MnO_2}} \mathrm{2KCl + 3O_2}
$$
$\Delta$ は「加熱」を表す化学の慣用記号です。本格的に化学の文書を書く場合は、mhchem パッケージの \ce{} コマンド(例: \ce{N2 + 3H2 <=> 2NH3})を使うと、下付き数字や電荷・矢印を自動で組版してくれます。KaTeXでもmhchem拡張が提供されており、MathJaxでも設定で有効化できますが、ブログやドキュメントツールによっては無効になっていることがあるため、動かない環境では本セクションの \mathrm + \rightleftharpoons 方式が確実です。
似た記号として、銛ではなく矢印を上下に重ねた \rightleftarrows($\rightleftarrows$)もあります。こちらは化学平衡ではなく、2つの写像の行き来などに使われます。
化学の次は、現代数学で矢印を最も組織的に使う「可換図式」です。
可換図式での矢印
圏論や代数学では、対象と射(写像)の関係を矢印の図式で表します。本格的な可換図式には tikz-cd パッケージを使うのが定番ですが、これはTikZに依存するためKaTeXやMathJaxでは使えません。Webで表示したい場合は、array 環境と矢印コマンドを組み合わせるのが最も互換性の高い方法です。
$$ \begin{array}{ccc} A & \xrightarrow{f} & B \\ \downarrow & & \downarrow \\ C & \xrightarrow{g} & D \end{array} $$
$$
\begin{array}{ccc}
A & \xrightarrow{f} & B \\
\downarrow & & \downarrow \\
C & \xrightarrow{g} & D
\end{array}
$$
array 環境で3列(ccc)の格子を作り、横方向の射には \xrightarrow{f}、縦方向の射には \downarrow を置いています。簡単な四角形の図式ならこれで十分実用になります。縦矢印にラベルを付けたいときは、\downarrow の代わりに {\scriptstyle h} \downarrow のように小さな文字を添える方法があります。
LaTeX文書(PDF出力)であれば、amscdパッケージの CD 環境(@>>> で右矢印、@VVV で下矢印)や、より高機能な tikz-cd が使えます。Webと紙の両方に出す予定がある場合は、最初から array 方式で書いておくと移植の手間が省けます。
ここまでは「ある」ことを示す矢印でした。最後の仕上げとして、「ない」ことを示す否定矢印と、環境ごとの対応状況を確認します。
否定矢印:含意しない・対応しない
矢印に斜線を重ねて「成り立たない」ことを表す記号です。n を頭に付けるだけで否定形になります。
$$ P \nRightarrow Q, \qquad A \nrightarrow B, \qquad P \nLeftrightarrow Q $$
$$
P \nRightarrow Q, \qquad A \nrightarrow B, \qquad P \nLeftrightarrow Q
$$
| コマンド | 表示 | 意味 |
|---|---|---|
\nrightarrow |
$\nrightarrow$ | 対応しない(一本線の否定) |
\nleftarrow |
$\nleftarrow$ | 左矢印の否定 |
\nRightarrow |
$\nRightarrow$ | 含意しない(「ならば」の否定) |
\nLeftarrow |
$\nLeftarrow$ | 逆含意の否定 |
\nleftrightarrow |
$\nleftrightarrow$ | 双方向の否定 |
\nLeftrightarrow |
$\nLeftrightarrow$ | 同値でない |
これらはamsmathの拡張記号集(amssymb)由来のコマンドです。もし使えない環境に当たった場合は、汎用の否定コマンド \not を重ねて \not\Rightarrow($\not\Rightarrow$)と書く方法もあります。ただし \not は斜線を機械的に重ねるだけなので、専用コマンドのほうが仕上がりはきれいです。
「$x^2 = 4 \nRightarrow x = 2$($x=-2$ かもしれない)」のように、反例の存在を一撃で伝えられる便利な記号です。論理関係の整理には 【LaTeX】集合記号の書き方 完全ガイド も役立ちます。
最後に、ここまで紹介したコマンドがKaTeX・MathJaxでどこまで使えるかをまとめておきます。
KaTeX / MathJax の対応状況
技術ブログ・Qiita・Zenn・Jupyter NotebookなどWebベースの環境では、LaTeXそのものではなくKaTeXまたはMathJaxが数式をレンダリングします。本記事で紹介した矢印コマンドの対応状況は次のとおりです。
| コマンド群 | KaTeX | MathJax | 備考 |
|---|---|---|---|
\to \rightarrow \leftarrow 等の基本矢印 |
対応 | 対応 | 問題なし |
\Rightarrow \iff \implies |
対応 | 対応 | 問題なし |
\xrightarrow[下]{上} \xleftarrow |
対応 | 対応 | amsmath由来。問題なし |
\overset \underset |
対応 | 対応 | 問題なし |
\mapsto \hookrightarrow \twoheadrightarrow |
対応 | 対応 | 問題なし |
\vec \overrightarrow \overleftrightarrow |
対応 | 対応 | 問題なし |
\nearrow \searrow 等の斜め矢印 |
対応 | 対応 | 問題なし |
\nrightarrow \nRightarrow 等の否定矢印 |
対応 | 対応 | amssymb由来だが両者とも組込み済み |
\rightleftharpoons \rightsquigarrow |
対応 | 対応 | 問題なし |
mhchemの \ce{} |
拡張で対応 | 拡張で対応 | サイト側で拡張の読み込みが必要 |
tikz-cd(可換図式) |
非対応 | 非対応 | array + 矢印で代用 |
amscdの CD 環境 |
一部対応 | 対応 | KaTeXは基本的な図式のみ |
結論として、本記事で紹介した矢印はmhchemと可換図式パッケージを除き、KaTeX・MathJaxのどちらでもそのまま動きます。安心してコピペしてください。逆に、ネット上のLaTeXサンプルで \usepackage が必要なもの(tikz-cd や chemfig など)はWeb環境では動かないので、その場合は本記事の代替記法に置き換えるのが実用的です。
まとめ
本記事では、LaTeXの矢印記号を網羅的に解説しました。最後に要点を振り返ります。
- 小文字始まりは一本線(
\rightarrow)、大文字始まりは二重線(\Rightarrow)。この規則は左右・上下・長短すべてに共通 - 収束・写像は
\to、論理の含意は\Rightarrow、同値は\Leftrightarrow(余白広めの\implies/\iffも可) - 矢印の上下に文字を載せるなら
\xrightarrow[下]{上}(矢印が自動で伸びる)か\overset/\underset(長さ固定) - 要素の対応は
\mapsto、単射は\hookrightarrow、全射は\twoheadrightarrow - ベクトルは1文字なら
\vec{a}、2点間なら\overrightarrow{AB}。専門書では太字表記が主流 - 化学平衡は
\rightleftharpoons、反応条件は\xrightarrow{\Delta}で矢印の上に - 否定矢印は
nを頭に付ける(\nRightarrowなど) - mhchemとtikz-cdを除けば、KaTeX / MathJaxでもすべてそのまま動く
矢印を正しく使い分けられるようになると、極限・写像・論理・ベクトルの数式が一段と「それらしく」仕上がります。よく使うパターンは冒頭の逆引き早見表に集約してあるので、執筆中に迷ったらこのページに戻ってきてください。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- LaTeX数式記法 完全ガイド — 工学・理学のための実用チートシート
- 【LaTeX】極限limをLaTeXで書く
- 【LaTeX】太字とベクトルの書き方 完全ガイド(bm・mathbf・boldsymbol・vec)コピペ可
- 【LaTeX】行列の書き方まとめ|pmatrix・転置・逆行列・行列式をコピペ実例で解説
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