【LaTeX】近似記号 ≈ ≒ ∼ ∝ の書き方|approx・fallingdotseq・sim・proptoをコピペ実例で解説

「$\pi$ はおよそ 3.14」と数式で書きたいとき、あなたはどの記号を使いますか。日本の学校で育った人は反射的に $\pi \fallingdotseq 3.14$(≒)と書きます。ところが同じ内容を英語論文に書くと、査読者からは $\pi \approx 3.14$(≈)に直されます。さらに計算量の話をしている場面では $\pi \sim 3$ と書く人までいます。どれも「およそ等しい」ですが、記号を選んだ時点で主張の強さがまったく違うのです。

この違いを知らずに記号を混ぜると、読者に意図とは別の意味が伝わります。たとえば $f(n) \sim n^2$ と書いた瞬間、「$n$ を大きくすると $f(n)/n^2$ が 1 に収束する」という強い主張をしたことになります。「だいたい $n^2$ くらいの大きさ」と言いたかっただけなら、書くべきは $f(n) = \mathcal{O}(n^2)$ でした。

近似記号を使い分けられると、ふたつの場面で効果が出ます。ひとつは論文・レポートの執筆。数値の近似、漸近評価、比例関係、オーダー評価を書き分けることで、査読者に「この人は何を主張して何を捨てたか分かっている」と伝わります。もうひとつは論文や教科書を読むとき。$\approx$、$\simeq$、$\sim$、$\propto$ の違いが分かれば、著者がどこまで踏み込んだ主張をしているかを一目で判定できます。

本記事の内容

  • やりたいことから引ける逆引き早見表
  • $\approx$(\approx)の書き方と使いどころ
  • 日本式 ≒(\fallingdotseq)と国際標準 ≈ の文化差
  • $\simeq$、$\backsim$、$\cong$、$\approxeq$、$\asymp$、$\Doteq$ の描き分け
  • $\sim$ の3つの意味(漸近・分布・同値関係)の切り分け
  • $\propto$(比例)と $\alpha$ の見分け方
  • $\neq$ と否定形の書き方、$\lesssim$・$\gtrsim$(軟不等号)
  • ランダウの $\mathcal{O}$ と漸近同値 $\sim$ の関係
  • チルダ ~ 素打ちの落とし穴とよくある間違い
  • KaTeX対応表(実際に描画して確認したもの)

近似記号の厳密さの階段(=から≈∼∝Oへ情報が落ちるマップ)

この図が記事全体の地図です。上から下へ進むほど、記号が保持している情報が減っていきます。$=$ は値そのものの一致、$\approx$ と ≒ は「小さな誤差を許した一致」、$\simeq$ は「極限で比が 1 になる」、$\sim$ は「定数倍の違いは無視する」、$\propto$ は「比例定数を捨てて形だけ述べる」、$\mathcal{O}(\cdot)$ は「上から抑えられることだけ言う」。つまり記号選びは、自分がどこまで情報を捨てたかの宣言です。


逆引き早見表:やりたいことからコマンドを引く

やりたいこと コマンド 表示 条件・備考
数値がほぼ等しい(国際標準) \approx $\approx$ 最も標準的。論文はこれ
日本式の「ほぼ等しい」 \fallingdotseq $\fallingdotseq$ ≒。LaTeXでは amssymb が必要
≒ の点が逆向きの版 \risingdotseq $\risingdotseq$ ≓。ほぼ使われない
漸近的に等しい・同型 \simeq $\simeq$ 比が1に収束、同型にも使う
同程度/分布に従う/同値 \sim $\sim$ 3つの意味あり。文脈で判断
相似(日本の教科書の ∽) \backsim $\backsim$ 相似は国際的には $\sim$
合同・同型 \cong $\cong$ 幾何の合同、代数の同型
近似かつ等号 \approxeq $\approxeq$ ≊。近似と等号の合成
両側から同オーダー \asymp $\asymp$ ≍。$\Theta$ 記法と同義に使う
上下に点が付く等号 \Doteq $\Doteq$ ≑。\doteqdot も同じ
点が1つの近似等号 \doteq $\doteq$ ≐。近似的な定義に
比例する \propto $\propto$ ∝。比例定数を捨てる
等しくない \neq $\neq$ \ne も同義
おおよそ以下 \lesssim $\lesssim$ ≲。誤差・定数倍を無視
おおよそ以上 \gtrsim $\gtrsim$
近似的に以下(近似記号つき) \lessapprox $\lessapprox$
オーダー(上界) \mathcal{O}(n^2) $\mathcal{O}(n^2)$ ランダウのO記法
近似が成り立たない \not\approx $\not\approx$ \napprox は存在しない

細かい説明の前に、ここから全コマンドを引けるようにしました。以降のセクションでは、この表の各行が「なぜその意味になるのか」を掘り下げていきます。


1. なぜ「およそ等しい」に記号が何種類も要るのか

まず素朴な疑問から始めましょう。「およそ等しい」なら記号は1個で足りるのでは、という疑問です。実際、日常会話なら「だいたい同じ」の一言で済みます。ところが数学や工学の文章では、「だいたい」の中身が場面ごとに違います。

たとえば次の3つを比べてください。

  • $\sqrt{2} \approx 1.41421$ — 有効数字6桁まで一致している。誤差は $10^{-6}$ 程度
  • $n! \simeq \sqrt{2\pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n$ — $n$ が小さいと数割ずれるが、$n \to \infty$ で比が 1 に近づく
  • $T \sim 10^{10}\ \mathrm{K}$ — 桁が合っていればよい。3倍違っても構わない

1番目は「値がほぼ一致」、2番目は「極限での振る舞いが一致」、3番目は「桁が一致」です。求めている精度が3桁ぶん違うのに、同じ記号を使ってしまうと読者は精度を見誤ります。$\sqrt{2} \sim 1.4$ と書かれたら、読者は「1桁の精度しか保証されていないのだろう」と受け取ります。

冒頭の図の階段は、この「捨てた情報の量」で記号を並べたものです。上のほうの記号は主張が強く、証拠(誤差評価)が要ります。下のほうの記号は主張が弱く、その代わり気軽に使えます。強い記号を安易に使うと嘘になり、弱い記号ばかり使うと結果が弱く見える — これが記号選びの本質です。

では、実務でいちばん出番の多い $\approx$ から順に見ていきましょう。


2. \approx(≈):迷ったらこれを使う

直感:波打った等号は「等しさが揺れている」

$\approx$ は等号の2本の横線を波線に置き換えた形です。まっすぐな線が「ぴったり」を表すのに対し、波打った線は「多少ずれている」を表します。この見た目のまま、意味も「値としてほぼ等しい」です。

$$
\pi \approx 3.14159, \qquad e \approx 2.71828, \qquad \sqrt{2} \approx 1.41421
$$

$$ \pi \approx 3.14159, \qquad e \approx 2.71828, \qquad \sqrt{2} \approx 1.41421 $$

コマンドは \approx の一語で、標準の LaTeX(追加パッケージなし)でも KaTeX でも動きます。近似記号の中でいちばん環境依存が少ないのが $\approx$ です。

典型的な使い場面

$\approx$ が活きるのは、数値としての近さを述べる場面です。

場面
数値の丸め $\pi \approx 3.14$
級数・展開の打ち切り $\sin x \approx x – \frac{x^3}{6}$
実験値との比較 $g \approx 9.8\ \mathrm{m/s^2}$
数値計算の結果 $\lambda_{\max} \approx 4.732$
近似アルゴリズムの出力 $q(z) \approx p(z \mid x)$

テイラー展開の打ち切りは典型例です。$x$ が小さいとき、

$$ \sin x \approx x $$

と書きます。ここで $=$ を使うと嘘になり、$\sim$ を使うと「$x \to 0$ で比が 1」という別の(この場合は正しいが弱い)主張になります。「小さい $x$ では値として近い」と言いたいのだから $\approx$ が正解です。

誤差の大きさは記号では伝わらない

注意したいのは、$\approx$ 自体は精度をまったく語らないという点です。$\pi \approx 3$ も $\pi \approx 3.14159265$ も、記号としては同じ $\approx$ です。精度が議論に関わるなら、本文か括弧で明示します。

$$
\pi \approx 3.14 \quad (\text{相対誤差} \ 0.051\%)
$$

$$ \pi \approx 3.14 \quad (\text{相対誤差} \ 0.051\%) $$

$\pi = 3.14159265\ldots$ に対して 3.14 の絶対誤差は 0.00159、相対誤差は 0.051% です。この程度の情報を添えるだけで、読者は近似の質を判断できます。

$\approx$ が万能に見えますが、日本語圏には強力なライバルがいます。中学・高校で習った ≒ です。次のセクションで、この2つの関係を整理します。


3. ≒(fallingdotseq)と ≈ の文化差 — ここが一番の落とし穴

≒(fallingdotseq)と≈(approx)の文化差 日本の教科書と欧米論文

図の左が日本の教科書、右が欧米の論文です。どちらも「$\pi$ はおよそ 3.14」というまったく同じ内容を書いていますが、記号が違います。日本で教育を受けた人は左が自然に見え、国際誌の読者には右しか通じません。この非対称性が、日本語話者が近似記号でつまずく最大の原因です。

≒ のコマンドは \fallingdotseq

≒ は Unicode では U+2252、LaTeX では \fallingdotseq です。

$$
\pi \fallingdotseq 3.14, \qquad \sqrt{2} \fallingdotseq 1.41
$$

$$ \pi \fallingdotseq 3.14, \qquad \sqrt{2} \fallingdotseq 1.41 $$

コマンド名の由来は形そのものです。等号の左上と右下に点が付いていて、点が左上から右下へ「落ちていく(falling)」ように見えます。点の向きが逆、つまり左下から右上へ「上がる」版が \risingdotseq(≓)です。

$$
a \fallingdotseq b \quad \text{(点が下がる)} \qquad
a \risingdotseq b \quad \text{(点が上がる)}
$$

$$ a \fallingdotseq b \quad \text{(点が下がる)} \qquad a \risingdotseq b \quad \text{(点が上がる)} $$

≓ は実務でほぼ見かけません。「≒ を打ちたいのにコマンド名を思い出せない」ときに \risingdotseq を選んでしまう事故があるので、点が下がるほうが日本の ≒ と覚えておきましょう。

どちらを使うべきか:読者で決める

判断基準はシンプルです。読者が誰かで決めます。

書くもの 推奨 理由
国際誌・英語論文 $\approx$ ≒ は国際的にほぼ通じない
学会発表(英語) $\approx$ 同上
日本語の教科書・参考書 ≒ でも $\approx$ でも可 中高生には ≒ が親しみやすい
中学・高校の指導 教科書の表記に揃える
日本語の技術ブログ $\approx$ を推奨 読者に理工系の大人が多い
大学のレポート $\approx$ 専門書は $\approx$ が主流

≒ は日本の数学教育で事実上の標準です。日本語圏(および漢字文化圏の一部)で広く使われている一方、欧米の数学・物理・工学の文献ではまず現れません。国際誌に ≒ を書くと、査読者から「この記号は何か」と質問されるか、$\approx$ に直されます。

逆に、日本の中学生向け教材に $\approx$ だけを使うと、教科書と表記が食い違って読者が戸惑います。相手に合わせるのが唯一の正解です。

環境面の注意:amssymb が要る

技術的な注意点もあります。\fallingdotseqLaTeX 標準ではなく amssymb パッケージの記号です。プリアンブルに次の1行が必要です。

\usepackage{amssymb}   % \fallingdotseq \risingdotseq \approxeq などに必要

% 本文
$\pi \fallingdotseq 3.14$

一方 \approx は標準の LaTeX に入っているので、パッケージなしで動きます。「≒ が Undefined control sequence で出ない」というトラブルの大半は amssymb の読み込み忘れです。KaTeX では両方とも追加設定なしで表示されます(後述の対応表で実測しました)。

記号の選択が決まったところで、次は「そもそもどれだけ近ければ ≈ と書いてよいのか」という定量的な話に進みます。記号の裏には必ず誤差があります。


4. どこまで「≈」と言ってよいのか:絶対誤差と相対誤差

≈ に客観的な基準はない

はっきり言っておくと、$\approx$ が許される誤差の大きさに公式な基準はありません。判断は書き手に委ねられています。だからこそ、自分の中に基準を持つ必要があります。使う道具は絶対誤差と相対誤差の2つです。

近似値を $\tilde{a}$、真の値を $a$ とすると、

$$ \text{絶対誤差} = |\tilde{a} – a|, \qquad \text{相対誤差} = \frac{|\tilde{a} – a|}{|a|} $$

絶対誤差は「何単位ずれたか」、相対誤差は「何割ずれたか」です。桁が大きく動く量では相対誤差のほうが実用的です。地球の質量を $10^{20}\,\mathrm{kg}$ 間違えても相対誤差は 0.002% 以下ですが、人の体重を $10\,\mathrm{kg}$ 間違えたら大問題、という違いを相対誤差は自然に扱えます。

絶対誤差と相対誤差 sin x ≈ x をどこまで許すか

左のグラフは $\sin x \approx x$ という定番の近似です。$x$ が 0 に近いところでは2本の線が重なり、$x$ が 0.6 を超えると赤い塗り(絶対誤差)が目に見えて広がります。右のグラフは相対誤差をパーセントで示したものです。相対誤差 1% を超えるのは $x = 0.244\ \mathrm{rad}$(約 14°)、5% を超えるのは $x = 0.538\ \mathrm{rad}$(約 31°)でした。$x = 1.0\ \mathrm{rad}$ では 18.8% もずれます。

つまり「$\sin x \approx x$」は無条件に正しい式ではありません。振り子の微小振動(振幅 5° 程度)なら相対誤差 0.13% 程度で優秀な近似ですが、振幅 45° の運動に持ち込むと 2 割近く外れます。$\approx$ と書くときは、自分の応用でどれだけの誤差が許されるかを意識しておきましょう。

近似の条件は式に添えて書く

そこで実務では、近似が成り立つ条件を式のそばに書きます。

$$
\sin x \approx x \qquad (|x| \ll 1)
$$

$$
\sqrt{1+x} \approx 1 + \frac{x}{2} \qquad (|x| \ll 1)
$$

$$ \sin x \approx x \qquad (|x| \ll 1) $$

$$ \sqrt{1+x} \approx 1 + \frac{x}{2} \qquad (|x| \ll 1) $$

$\ll$(\ll)は「はるかに小さい」を表す記号です。$|x| \ll 1$ と添えるだけで、「$x$ が 1 に比べて十分小さい範囲でのみ有効」という前提が読者に伝わります。ちなみに $\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2$ の相対誤差は、$x = 0.1$ で 0.11%、$x = 0.3$ で 0.86% です。

誤差の大小という「量」の話をしたところで、次は「質」の違いに移ります。$\approx$ の親戚には、値の近さではなく構造の近さを表す記号たちがいます。


5. ≃ ∽ ≅ ≊ ≍ ≑ の描き分け

$\approx$ に似た記号は驚くほどたくさんあります。まとめて整理しておきましょう。

記号 コマンド 主な意味 使う分野
$\simeq$ \simeq 漸近的に等しい/同型 解析、位相幾何
$\backsim$ \backsim 相似(日本の ∽) 日本の初等幾何
$\cong$ \cong 合同/同型 幾何、代数
$\approxeq$ \approxeq 近似かつ等号 稀。近似の強調
$\asymp$ \asymp 両側から同オーダー 解析的整数論、計算量
$\Doteq$ \Doteq 上下に点の等号 稀。分野依存
$\doteq$ \doteq 近似的な定義 物理、統計

\simeq(≃):波線と直線の組み合わせ

$\simeq$ は上が波線、下が直線です。「近い」と「等しい」の中間というデザインで、意味も中間的です。よく使われるのは次の2つです。

ひとつは漸近同値。$n \to \infty$ で比が 1 に収束することを表します。

$$ n! \simeq \sqrt{2\pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n \qquad (n \to \infty) $$

もうひとつは同型。位相空間や群が構造として同じであることを表します(この用法では $\cong$ と競合します)。

$$ S^1 \times S^1 \simeq T^2 $$

$\approx$ との違いは、$\approx$ が具体的な数値の近さ、$\simeq$ が極限や構造の一致という点です。「$\pi \simeq 3.14$」は不自然で、「$\pi \approx 3.14$」が自然です。

\backsim(∽):日本の「相似」

日本の中学校では、相似を表すのに ∽ を使います。

$$ \triangle ABC \backsim \triangle DEF $$

$$
\triangle ABC \backsim \triangle DEF
$$

これも ≒ と同じく日本ローカルの慣習です。国際的には相似は $\sim$(\sim で書きます。英語の教科書では \triangle ABC \sim \triangle DEF です。ちなみに合同は日本でも国際的にも $\cong$(\cong)で共通です。

\cong(≅):合同と同型

$\cong$ は波線の下に等号(横線2本)が付いた形です。幾何では図形の合同(形も大きさも同じ)、代数では同型(構造が同じ)を表します。

$$ \triangle ABC \cong \triangle DEF, \qquad \mathbb{Z}/6\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} $$

整数論の合同 $a \equiv b \pmod{n}$ とは別物です。$\equiv$ と $\cong$ の混同は初学者に多い間違いなので、「$\pmod{}$ が付くのは $\equiv$」と覚えておくと安全です。

\approxeq(≊)と \asymp(≍)

$\approxeq$ は波線2本の下に横線が付いた形で、「近似的に等しく、かつ等号でもありうる」を表します。使用頻度は低く、$\approx$ で足りる場面が大半です。

$\asymp$(≍)は少し性格が違います。解析的整数論や計算量理論では、上下両方から定数倍で抑えられることを意味します。

$$ f(n) \asymp g(n) \iff \exists c_1, c_2 > 0 : c_1 g(n) \leq f(n) \leq c_2 g(n) $$

これは $f(n) = \Theta(g(n))$ とまったく同じ主張です。$\Theta$ 記法を好むか $\asymp$ を好むかは分野の慣習です。計算量理論では $\Theta$、解析では $\asymp$ が多い印象です。

\Doteq(≑)と \doteq(≐)

$\Doteq$(\Doteq、別名 \doteqdot)は等号の上下に点が付いた記号、$\doteq$(\doteq)は上に点が1つの記号です。どちらも「近似的に等しい」「近似的に定義する」の意味で使われますが、分野依存で意味が揺れます。読者に確実に伝えたいなら $\approx$ を選ぶほうが安全です。

似た記号の家系図が見えてきました。ここで、家系の中でもっとも多義的で厄介な $\sim$ に踏み込みます。


6. \sim(∼)の3つの意味を切り分ける

\simの3つの意味(漸近・分布に従う・同値関係)の使い分け

$\sim$ は近似記号の中で最も多義的です。図の3枚のパネルが示すように、まったく違う3つの意味を同じ記号が担っています。文脈で判断するしかないので、それぞれの見分け方を押さえましょう。

① 同程度・漸近同値

両辺が関数や数値のとき、$\sim$ は「同じオーダー」または「漸近的に等しい」を意味します。厳密な定義は次のとおりです。

$$ f(n) \sim g(n) \iff \lim_{n \to \infty} \frac{f(n)}{g(n)} = 1 $$

比が 1 に収束するので、定数倍の違いは許されません。$3n^2 \sim n^2$ は誤り(比が 3 に収束する)で、$3n^2 + 10n \sim 3n^2$ は正しい、という具合です。

物理では、これより緩い「桁が合っている」という意味でも $\sim$ を使います。

$$ T \sim 10^{10}\ \mathrm{K}, \qquad r \sim 1\ \mathrm{km} $$

フェルミ推定の文脈では、この用法が標準です。厳密な漸近同値と桁の見積りで同じ記号を使うのは混乱の種ですが、慣習として定着しています。数学の論文では前者(比が 1)、物理の見積りでは後者(桁が合う)と読み分けます。

② 分布に従う

右辺が確率分布のとき、$\sim$ は「その分布から生成される」を意味します。

$$ X \sim \mathcal{N}(\mu, \sigma^2), \qquad \varepsilon_i \sim \mathcal{U}(0, 1), \qquad Y \sim \mathrm{Poisson}(\lambda) $$

$$
X \sim \mathcal{N}(\mu, \sigma^2), \qquad \varepsilon_i \sim \mathcal{U}(0, 1)
$$

統計や機械学習の論文では、この用法が圧倒的に多いです。「$X \sim P$」を見たら「$X$ は分布 $P$ に従う」と読みます。ここに近似の意味はまったくありません。右辺が $\mathcal{N}$、$\mathrm{Beta}$、$\mathrm{Dir}$ のような分布名なら、迷わず「従う」と読んでよいでしょう。

なお「独立同一分布に従う」を明示するときは、$\sim$ の上に i.i.d. を載せます。

$$ X_1, \dots, X_n \overset{\text{i.i.d.}}{\sim} \mathcal{N}(0, 1) $$

$$
X_1, \dots, X_n \overset{\text{i.i.d.}}{\sim} \mathcal{N}(0, 1)
$$

③ 同値関係

集合の要素どうしを $\sim$ で結ぶと、同値関係を表します。「$a$ と $b$ は同じ同値類に属する」という意味です。

$$ a \sim b \iff a – b \in H $$

商集合を $X/\sim$ と書くのもこの用法です。群論や位相幾何で「$\sim$ で割る」という表現に出会ったら、同値関係の意味だと判断します。

見分け方のコツ

3つの意味は、両辺に何が置かれているかで判別できます。

右辺 読み方
関数・数値($n^2$、$10^{10}$ など) 漸近同値・同程度
分布名($\mathcal{N}$、$\mathrm{Beta}$ など) 分布に従う
集合の元($a$、$b$ など)で商集合の文脈 同値関係

多義的な $\sim$ を押さえたところで、比例を表す $\propto$ に進みましょう。$\propto$ は $\sim$ よりさらに情報を捨てた記号です。


7. \propto(∝):比例定数を捨てる記号

直感:形だけを述べて定数は忘れる

$y$ が $x^2$ に比例する、つまり $y = kx^2$ が成り立つとき、比例定数 $k$ の値に興味がない場面がよくあります。そんなときに使うのが $\propto$ です。

$$ y \propto x^2 \iff \exists k \neq 0 : y = k x^2 $$

∝(propto)比例の意味 比例定数を変えても比例関係は同じ

左のグラフには $k = 0.5, 1, 2, 4$ の4本の放物線が描かれています。曲線の高さはまるで違いますが、4本すべてが「$y \propto x^2$」というひとつの文で表現されます。右の両対数プロットを見ると事情がはっきりします。4本はすべて傾き 2 の平行な直線になり、比例定数の違いは切片(線の上下位置)にしか現れません。$\propto$ は傾き(指数)だけを主張して切片を捨てる記号なのです。

機械学習で $\propto$ が活きる場面

ベイズ統計では $\propto$ が主役級の働きをします。ベイズの定理を思い出しましょう。

$$ p(\theta \mid D) = \frac{p(D \mid \theta)\, p(\theta)}{p(D)} $$

分母 $p(D)$ は $\theta$ を含みません。$\theta$ の関数として見れば、単なる正規化定数です。そこで分母を捨ててしまいます。

$$ p(\theta \mid D) \propto p(D \mid \theta)\, p(\theta) $$

こう書けば、「事後分布は尤度と事前分布の積に比例する」という構造だけが残ります。計算しにくい $p(D)$ の積分を書かずに議論を進められるので、この記法は変分推論やMCMCの論文で必ず登場します。物理でも、スケーリング則($P \propto V^{-\gamma}$ など)を述べるときに $\propto$ が使われます。

$\propto$ と $\alpha$ を混同しない

$\propto$(∝)とギリシャ文字 $\alpha$(α)は見た目が似ていて、初学者がよく取り違えます。ソースを打つときは絶対に間違えないでください。

$$
y \propto x    % 正しい: 比例(∝)
$$

$$
y \alpha x     % 誤り: ギリシャ文字アルファ(α)が並ぶだけ
$$

$$ y \propto x \quad \text{(比例)} \qquad y\, \alpha\, x \quad \text{(アルファが挟まっただけ)} $$

形の違いは、左側が閉じているかどうかです。$\propto$ は左が閉じたループで右に開いており、$\alpha$ は右下へ伸びる尻尾があります。表示された数式を読むときも、この特徴で判別できます。AMS には縦横比の違う \varpropto($\varpropto$)もありますが、通常は \propto で十分です。

比例・近似と来たので、次は「等しくない」を書く記号を確認しましょう。GSC で「latex not equal」が繰り返し検索されている、需要の高い記号です。


8. \neq(≠)と否定形の書き方

「等しくない」は \neq です。短縮形の \ne も同じ結果になります。

$$
a \neq b, \qquad x \ne 0
$$

$$ a \neq b, \qquad x \ne 0 $$

近似記号にも否定形があります。押さえておきたいのは、専用コマンドがある記号とない記号があるという点です。

意味 コマンド 表示
等しくない \neq $\neq$
同程度でない \nsim $\nsim$
合同・同型でない \ncong $\ncong$
近似が成り立たない \not\approx $\not\approx$

$\nsim$ と $\ncong$ には専用コマンドがありますが、「近似でない」の専用コマンドは存在しません\napprox は amssymb にも KaTeX にも入っていません(この記事の執筆時に KaTeX 0.16 で実際に描画して確認しました)。汎用の \not を前置して代用します。

$$
a \not\approx b        % OK: \not で斜線を重ねる
$$

$$
a \napprox b           % NG: 未定義コマンド
$$

$\not$ は任意の記号に斜線を重ねる汎用コマンドです。専用コマンドがある場合(\nsim\ncong)はそちらのほうが斜線の位置が整うので、専用コマンドを優先しましょう。

否定の話が済んだところで、「厳密な不等号を使いたくない」場面の記号に進みます。近似の考え方を不等号に持ち込んだ記号です。


9. \lesssim(≲)と \gtrsim(≳):おおよその大小

≲(lesssim)と≳(gtrsim)軟不等号の意味 境界がぼやける

図の上段が厳密な $x \leq a$、下段が軟不等号 $x \lesssim a$ です。厳密な不等号では境界が一点でぴたりと決まり、そこを越えた瞬間に成立・不成立が切り替わります。一方の軟不等号では境界がぼやけていて、「このあたりから怪しくなる」という緩い主張になります。測定誤差や定数倍の不定性がある量を扱うとき、この曖昧さがむしろ誠実な表現になります。

コマンドは \lesssim(≲)と \gtrsim(≳)です。不等号の下の横線が波線になっているのが特徴で、「$\leq$ の等号部分を $\sim$ に置き換えた記号」と覚えると忘れません。

$$
m_\nu \lesssim 0.1\ \mathrm{eV}, \qquad \tau_p \gtrsim 10^{34}\ \mathrm{yr}
$$

$$ m_\nu \lesssim 0.1\ \mathrm{eV}, \qquad \tau_p \gtrsim 10^{34}\ \mathrm{yr} $$

素粒子物理や宇宙物理の論文では、観測から得られる上限・下限をこの記号で書きます。「精密には 0.12 eV かもしれないが桁としては 0.1 eV 以下」という主張に $\leq$ を使うと、精度を偽ることになります。

理論計算では、定数倍を無視した不等式評価にも使われます。

$$ \|f\|_{L^2} \lesssim \|\nabla f\|_{L^2} $$

これは「ある定数 $C > 0$ が存在して $\|f\|_{L^2} \leq C\|\nabla f\|_{L^2}$」の略記です。偏微分方程式や調和解析の論文では、定数を追いかけるのが本質でない場面が多く、この記法が定着しています。

近似記号つきの $\lessapprox$(⪅)、$\gtrapprox$(⪆)もありますが、使用頻度は $\lesssim$・$\gtrsim$ のほうが圧倒的です。

$\lesssim$ が「定数倍を無視した不等式」だと分かると、計算量理論のあの記法とつながって見えてきます。次はランダウの $\mathcal{O}$ です。


10. ランダウの O 記法と漸近同値 ∼ の関係

4つの記法の定義を並べる

近似・漸近を扱う記号の総まとめとして、ランダウ記法との関係を整理します。定義を並べると違いが一目でわかります。

$$ f(n) = \mathcal{O}(g(n)) \iff \exists C, n_0 : |f(n)| \leq C\, g(n) \quad (n \geq n_0) $$

$$ f(n) = o(g(n)) \iff \lim_{n \to \infty} \frac{f(n)}{g(n)} = 0 $$

$$ f(n) = \Theta(g(n)) \iff \exists c_1, c_2 : c_1 g(n) \leq f(n) \leq c_2 g(n) $$

$$ f(n) \sim g(n) \iff \lim_{n \to \infty} \frac{f(n)}{g(n)} = 1 $$

上から順に主張が強くなっています。$\mathcal{O}$ は上界だけ、$\Theta$(=$\asymp$)は上下両方の界、$\sim$ は比の値まで指定します。$o$ は「$g$ より真に小さい」という別方向の主張です。

ランダウのO記法と漸近同値∼の関係 比が1に収束するか

左のグラフでは $f(n) = 3n^2 + 10n$(水色)、主要項 $3n^2$(緑)、上からの抑え $5n^2$(赤点線)を描いています。$f$ は $5n^2$ に上から抑えられているので $f(n) = \mathcal{O}(n^2)$ です。右のグラフは比の収束を見たものです。$f(n)/3n^2$(緑)は 1 に収束するので $f(n) \sim 3n^2$ が成り立ちますが、$f(n)/n^2$(赤)は 3 に収束するので $f(n) \sim n^2$ は成り立ちません($n = 100$ で 3.1、$n = 1000$ でも 3.01 です)。橙の点線は $n!$ とスターリング近似の比で、$n = 10$ で 1.0084、$n = 20$ で 1.0042 と 1 に近づいていきます。

この図の要点はひとつです。$\mathcal{O}$ は「定数倍を気にしない上界」、$\sim$ は「比がぴったり 1」。混ぜて使うと主張の強さを誤ります。

スターリング近似で ∼ の使い方を確認する

$\sim$ が活きる代表例がスターリングの近似式です。導出は省きますが、主張は次の形です。

$$ n! \sim \sqrt{2\pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n \qquad (n \to \infty) $$

この式が主張しているのは「両辺の値が近い」ではなく「両辺の比が 1 に収束する」です。実際に比を計算すると、$n = 10$ で 1.0084、$n = 100$ で 1.00083 でした。値そのものは $n = 100$ のとき $10^{157}$ の桁で、絶対誤差は天文学的に大きい。それでも比は 1 に近づくので、$\sim$ が成立します。

ここが $\approx$ との決定的な違いです。絶対誤差が巨大でも $\sim$ は成立し得ます。逆に、$n$ が小さいとき($n = 1$ で比 1.084、つまり 8% ずれ)に $n! \approx \sqrt{2\pi n}(n/e)^n$ と書くのは、精度を主張しすぎている可能性があります。

対数を取って主張を弱める

漸近解析ではよく、両辺の対数を取ります。ここで記号の使い分けが問題になります。まずスターリングの式の両辺の対数を取りましょう。

$$ \log n! = \log\left(\sqrt{2\pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n\right) + \log(1 + \epsilon_n) $$

ここで $\epsilon_n \to 0$ です。右辺を展開すると、

$$ \log n! = n \log n – n + \frac{1}{2}\log(2\pi n) + o(1) $$

さらに $n \to \infty$ では $n\log n$ が支配的です。$n \log n$ で割ってみると、他の項の寄与は 0 に落ちます。

$$ \frac{\log n!}{n \log n} = 1 – \frac{1}{\log n} + \frac{\log(2\pi n)}{2n\log n} + o\!\left(\frac{1}{n\log n}\right) \longrightarrow 1 $$

比が 1 に収束したので、次のように書けます。

$$ \log n! \sim n \log n $$

同じ現象に対して、$n!$ のレベルでは $\sqrt{2\pi n}(n/e)^n$ が必要だったのに、$\log n!$ のレベルでは $n \log n$ だけで $\sim$ が成立します。対数を取ると細かい因子が消えるからです。主張の粒度は記号だけでなく、どのスケールで比較しているかにも依存する — これは漸近解析を読むときの大事な感覚です。

理論の話が続きました。ここからは実際に書くときのつまずきポイントに移ります。最も多い事故はチルダです。


11. よくある間違いと修正

間違い1:チルダ ~ を素打ちする

これが近似記号まわりで最も多い事故です。$\sim$ を出したくて、キーボードの ~ をそのまま打ってしまうパターンです。

数式モードでチルダ~を素打ちする落とし穴とsimでの修正

図の左が失敗例です。$X ~ N(0,1)$ と書くと、表示は「X N(0,1)」になります。チルダが消えて空白になるのです。理由は単純で、TeX 系の処理系において ~ は記号ではなく非改行スペース(改行を禁止した空白)を意味する命令だからです。この記事を書く前に KaTeX 0.16 で実際に描画して確認しました。~ は関係記号ではなく空白として組まれます。

$X ~ N(0,1)$        % NG: チルダが空白になり消える
$X \sim N(0,1)$     % OK: 関係記号として組まれる

修正はいつも同じです。数式モードでは \sim を使います。

$$ X \sim \mathcal{N}(0, 1) $$

見た目が直るだけではありません。\sim は関係記号(rel)として登録されているので、前後に適切な余白が入ります。素打ちの ~ では余白のルールも崩れます。

なお、チルダそのものを文字として表示したい場面(URL やコマンド名の引用)では \textasciitilde を使います。KaTeX では \text{\textasciitilde} の形で表示できます(これも実測で確認しました)。

\textasciitilde        % 文章中でチルダの字形を出す
$\text{\textasciitilde}$  % KaTeXの数式内で出す場合

間違い2:$\approx$ と $\simeq$ を取り違える

$\approx$ と $\simeq$ は形が似ているので混同されがちです。使い分けの原則はこうです。

  • 具体的な数値の近さ → $\approx$(例:$\pi \approx 3.14$)
  • 極限での比の一致・構造の同型 → $\simeq$(例:$n! \simeq \sqrt{2\pi n}(n/e)^n$)

$\pi \simeq 3.14$ は誤りではないものの、読者に「何かの極限の話か」と一瞬考えさせます。数値には $\approx$、と決めておくのが親切です。

間違い3:\fallingdotseq が出ない

「≒ を書いたのに表示されない」というトラブルの原因は、ほぼ次の2つです。

  1. LaTeX で \usepackage{amssymb} を書き忘れている
  2. 数式レンダラが AMS 記号に対応していない

前者はプリアンブルに1行足せば解決します。後者は環境を変えるしかないので、日本語圏以外に届く文書なら $\approx$ に置き換えるのが確実です。KaTeX では \fallingdotseq が標準で使えます。

間違い4:$\propto$ を $\alpha$ で代用する

前述のとおり、$\propto$(比例)と $\alpha$(アルファ)は別の記号です。\alpha を比例の意味で使うと、読者には「アルファという変数が並んでいる」と見えます。比例なら必ず \propto を使いましょう。

間違い5:\napprox を使う

\napprox は存在しません。\not\approx で代用します。同様に「近似でない」を表す記号は分野でもほとんど使われないので、本文で「良い近似にならない」と書くほうが伝わります。

間違い6:$\approx$ を等号の代わりに濫用する

最後は記号の技術ではなく作文の問題です。導出の途中でとりあえず $\approx$ を挟んでおくと、どこで何を捨てたのかが読者に伝わりません。$\approx$ を使ったら、必ず「何を無視したか」を一言添えましょう。

$$
E \approx \frac{1}{2}mv^2 \qquad (v \ll c\ \text{として相対論補正を無視})
$$

この一言があるだけで、式の信頼性が変わります。

つまずきポイントを潰したところで、このブログの描画環境である KaTeX で実際に何が使えるのかを確認しましょう。


12. KaTeX対応表(実測)

近似・比例記号のKaTeX対応状況一覧表

この表は、KaTeX 0.16 に各コマンドを渡して実際に描画が通るかを確認した結果です。図と同じ内容を表にまとめます。

コマンド 表示 KaTeX LaTeX(PDF) 備考
\approx $\approx$ 対応 標準 最も標準的な近似
\fallingdotseq $\fallingdotseq$ 対応 amssymb 日本式の ≒
\risingdotseq $\risingdotseq$ 対応 amssymb 点の向きが逆の版
\simeq $\simeq$ 対応 標準 漸近同値・同型
\sim $\sim$ 対応 標準 同程度・分布・同値
\backsim $\backsim$ 対応 amssymb 相似(日本の ∽)
\cong $\cong$ 対応 標準 合同・同型
\approxeq $\approxeq$ 対応 amssymb 近似かつ等号
\asymp $\asymp$ 対応 標準 両側から同オーダー
\Doteq $\Doteq$ 対応 amssymb \doteqdot も同義
\doteq $\doteq$ 対応 標準 点が1つの近似等号
\propto $\propto$ 対応 標準 比例
\varpropto $\varpropto$ 対応 amssymb 縦横比の違う ∝
\neq $\neq$ 対応 標準 \ne も同義
\nsim $\nsim$ 対応 amssymb 同程度でない
\ncong $\ncong$ 対応 amssymb 合同でない
\lesssim $\lesssim$ 対応 amssymb おおよそ以下
\gtrsim $\gtrsim$ 対応 amssymb おおよそ以上
\lessapprox $\lessapprox$ 対応 amssymb 近似的に以下
\gtrapprox $\gtrapprox$ 対応 amssymb 近似的に以上
\mathcal{O} $\mathcal{O}$ 対応 標準 ランダウのO
\napprox 非対応 非対応 \not\approx で代替

結論はシンプルです。近似・比例まわりの記号は、\napprox を除いてすべて KaTeX でそのまま使えます。一方 LaTeX で PDF を作る場合は、\fallingdotseq\lesssim\approxeq などが amssymb を要求します。ブログでは何も考えず書けて、PDF ではパッケージが要る、という非対称性を覚えておきましょう。

記号が使えることが確認できたので、最後に「どの分野でどれが好まれるか」を整理します。


13. 分野別の慣習ガイド

同じ「およそ」でも、分野ごとに好まれる記号が違います。投稿先や読者に合わせるための早見表です。

分野 よく使う記号 使い方の特徴
数学(解析・整数論) $\sim$, $\asymp$, $\mathcal{O}$, $o$ 漸近評価が主。$\sim$ は「比が1」の厳密な意味
物理学 $\approx$, $\simeq$, $\sim$, $\propto$ $\sim$ は桁の見積り。$\propto$ でスケーリング則
工学(制御・信号処理) $\approx$, $\simeq$ 近似モデル・線形化の記述に $\approx$
機械学習・統計 $\sim$, $\propto$, $\approx$, $\mathcal{O}$ $\sim$ は分布、$\propto$ は事後分布、$\mathcal{O}$ は計算量
計算機科学 $\mathcal{O}$, $\Theta$, $\Omega$, $o$ ランダウ記法が中心。$\asymp$ より $\Theta$
日本の中学・高校 ≒, ∽, $\neq$ 教科書表記。国際的には $\approx$, $\sim$

分野をまたいで文章を書くときは、初出で意味を宣言してしまうのが確実です。

% 論文の記法セクションでの宣言例
本稿では $f \sim g$ を $\lim_{n\to\infty} f/g = 1$ の意味で用いる。

特に $\sim$ は分野をまたぐと意味が変わります。数学者にとっての $\sim$(比が 1)と物理学者にとっての $\sim$(桁が合う)は別物です。曖昧さを避けるために、論文の記法セクションで定義しておくのが安全策です。


まとめ

本記事では、近似・比例・漸近を表す記号を LaTeX/KaTeX でどう書くかをリファレンス形式で整理しました。

近似・比例記号の逆引きチートシート

このチートシートが12個の主要記号の要約です。以下の3点を押さえておけば、記号選びで迷うことはほとんどなくなります。

記号 コマンド 一言説明
$\approx$ \approx 数値がほぼ等しい。迷ったらこれ
$\fallingdotseq$ \fallingdotseq 日本式の ≒。国際的には通じない
$\simeq$ \simeq 漸近的に等しい/同型
$\sim$ \sim 同程度・分布に従う・同値関係の3義
$\propto$ \propto 比例。比例定数を捨てる
$\lesssim$ \lesssim おおよそ以下。定数倍・誤差を無視
$\mathcal{O}$ \mathcal{O} 上界だけを述べるオーダー評価

第一に、迷ったら $\approx$。国際的に通じ、標準 LaTeX で動き、KaTeX でも問題なく表示されます。日本語の中高生向け教材だけは ≒(\fallingdotseq)を選ぶ価値があります。

第二に、$\sim$ は多義的なので文脈を明示する。右辺が分布名なら「従う」、関数なら「漸近同値」、商集合の文脈なら「同値関係」です。論文では初出で意味を宣言しておきましょう。

第三に、チルダ ~ を素打ちしない。数式モードの ~ は非改行スペースで、チルダは消えます。必ず \sim を使ってください。

近似記号は「どこまで情報を捨てたか」の宣言です。$=$ から $\mathcal{O}$ まで並べた冒頭の階段を思い出しながら、自分の主張の強さに合った記号を選んでください。それだけで数式の説得力が変わります。

次のステップとして、以下の記事も参考になります。不等号の体系($\leq$、$\geq$、$\ll$、$\gg$)は本記事の軟不等号と地続きですし、定義記号($\coloneqq$、$\equiv$、$\triangleq$)は「等号に意味を持たせる」という同じテーマの別側面です。


関連記事:LaTeX数式記法シリーズ

画像なし
【LaTeX】不等号 ≦ ≧ ≠ ≒ の書き方
leq・geq・neq・ll・gg の使い分けと、日本式≦と国際標準≤の違い
画像なし
【LaTeX】定義記号 := ≡ ≜ の書き方
coloneqq・equiv・triangleq で「定義する」を明示する方法
LaTeX数式記法 完全ガイド(実用チートシート)
記号・環境・コマンドを一覧で引けるチートシート
画像なし
【LaTeX】極限(lim)の書き方
n→∞ の下付き・片側極限・上極限下極限の書き方
画像なし
LaTeX確率・統計記号の書き方
期待値・分散・sim・propto など確率系の頻出記号
画像なし
LaTeXでアクセント記号を書く方法(hat・tilde・bar・vec)
チルダを文字の上に載せる widetilde との違いも解説
画像なし
【LaTeX】集合記号の書き方
in・subset・cup・cap や集合の内包表記をコピペ実例で
関連タグ: KaTeX 数式 記号 近似