懐中電灯とレーザーポインタを壁に向けてみると、違いは一目瞭然です。懐中電灯の光は数メートル進むだけでぼんやり広がってしまいますが、レーザーポインタの光は数十メートル先でも小さな点のままです。どちらも「電気を光に変える装置」なのに、なぜここまで違うのでしょうか。
答えは「光の作り方」にあります。懐中電灯のフィラメントやLEDは、原子がてんでばらばらのタイミングで光を吐き出します(自然放出)。一方レーザーは、すでに飛んでいる光がきっかけとなって、原子に同じ位相・同じ方向・同じ波長の光を吐き出させます(誘導放出)。同じ号令で一斉に足並みをそろえた行進と、めいめい勝手に歩く雑踏の違いだと思ってください。
ところが、この「誘導放出を主役にする」というのが、実はとても難しい。熱平衡にある普通の物質では、可視光の領域で誘導放出が自然放出に勝つ確率は $10^{-42}$ 程度しかありません。さらに、誘導放出が起きても、それ以上に光が吸収されてしまいます。この二重の困難を突破するために必要なのが反転分布と光共振器であり、そして「どこまでポンプすれば実際に発振が始まるのか」を決めるのがしきい値条件です。
しきい値条件を理解すると、応用の勘所が一気に見えてきます。たとえば宇宙光通信では、送信レーザーの出力を上げるために出力結合鏡の透過率をどう選ぶかがリンクバジェットに直結します。レーザー加工やLiDARでは、パルスを立ち上げた直後に現れる緩和振動というリンギングが、出力波形の暴れやパルス幅の下限を決めます。どちらも、この記事で導く2本のレート方程式から定量的に説明できます。
まずは全体像です。レーザーは「利得媒質」「ポンプ源」「光共振器」の3つでできています。ポンプ源がエネルギーを注ぎ込んで利得媒質に反転分布を作り、そこを通る光が誘導放出で増幅され、2枚の鏡の間を往復するあいだに何度も増幅される。1往復で増える分がロスで減る分を上回った瞬間、光は指数関数的に育ち始めます。これが発振です。この記事では、この一文に含まれるすべての言葉を、数式で埋めていきます。

この絵が記事全体の地図です。ポンプ源(緑)が下から利得媒質にエネルギーを注ぎ、その中を通る光が誘導放出で増幅され、左右の鏡で折り返して何度も同じ媒質を通ります。1往復で光が $R_1R_2e^{2(g-\alpha)L}$ 倍になるので、この値が1を超えるかどうかがすべての分かれ目です。右の鏡だけ少し透過させておくと、そこから漏れた光がレーザービームとして外に出てきます。
本記事の内容
- アインシュタインのA係数・B係数を熱平衡とプランク分布から関係づける
- 反転分布がなぜ必須なのか、誘導放出と自然放出の比から示す
- 3準位系と4準位系のレート方程式を立て、しきい値ポンプ率の桁違いの差を定量化する
- 共振器の往復条件から利得しきい値 $g_{\text{th}} = \alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2}$ を導く
- 縦モード間隔とゲイン帯域からマルチモード発振とモード競合を説明する
- Pythonでレート方程式を数値積分し、入出力特性・緩和振動・モード櫛を可視化する
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 波動光学入門 — 光を波として扱う枠組み。共振器の位相条件で使います
- 半導体の基礎 — 半導体レーザーのポンプ機構(電流注入)の理解に役立ちます
- 宇宙光通信のための光増幅器 — 発振させずに増幅だけ使う応用。本記事の裏返しの視点です
数式としては、1階の常微分方程式と行列の固有値(2×2の特性方程式)が使えれば十分です。量子力学の詳細は不要で、アインシュタインが1917年に使った「レート方程式+熱平衡」という古典的な論法だけで話が進みます。
レーザー発振とは — 3つの要素
「レーザー」は Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation の頭字語です。直訳すると「誘導放出による光の増幅」で、名前のとおり本質は増幅器です。ところが実際のレーザー装置には入力光がありません。ではなぜ光が出てくるのでしょうか。
ここでオーディオのハウリングを思い出してください。マイクとスピーカーを向かい合わせると、ごく小さな雑音がマイクに入り、増幅されてスピーカーから出て、またマイクに入る。この輪を1周するあいだの増幅率が1を超えると、雑音がひとりでに育って「キーン」という音が鳴り出します。レーザーはこれの光版です。増幅器(利得媒質)の出力を鏡で入力に戻す正帰還ループを作り、種になる雑音(自然放出光)を自分で育てる。ループ利得が1を超える点が、まさにしきい値です。
この仕組みを成立させるには、次の3つが同時に必要です。
| 要素 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 利得媒質 | 誘導放出で光を増やす。反転分布が作られていること | Nd:YAG結晶、He-Neガス、InGaAsP半導体 |
| ポンプ源 | 外からエネルギーを注ぎ、反転分布を維持する | 半導体レーザー(LD励起)、フラッシュランプ、放電、電流注入 |
| 光共振器 | 増幅された光を往復させ、正帰還と周波数選択を行う | 2枚の鏡(ファブリ・ペロー)、リング共振器、分布帰還(DFB) |
3つのうち、最初につまずくのが「反転分布」です。これは自然界が普段は絶対にとらない状態で、放っておけば必ず崩れます。なぜそこまでして反転分布が要るのか。その理由は、アインシュタインが100年以上前に導いたA係数・B係数の関係にすべて書いてあります。まずはそこから始めましょう。
光と物質の相互作用:アインシュタインの3過程
2つのエネルギー準位 $E_1 < E_2$ を持つ原子を考えます。準位間のエネルギー差は $E_2 - E_1 = h\nu$ で、この原子は周波数 $\nu$ の光とやりとりをします。準位1にある原子の数密度を $N_1$、準位2にある数密度を $N_2$ とします。
原子と光のあいだで起きることは、たった3種類しかありません。

3つの絵を見比べると違いが一目で分かります。①と③はどちらも入射光子が引き金なので遷移レートに $\rho(\nu)$ が掛かりますが、②だけは引き金なしに起きるので $\rho$ を含みません。そして③でだけ、光子が1個から2個に増えています。レーザーが「増幅器」である理由は、この右端の絵に凝縮されています。
① 誘導吸収:下の準位にいる原子が光子を1個食べて上に上がります。光がなければ起きないので、光の強さ(分光エネルギー密度 $\rho(\nu)$)に比例します。
$$ \left(\frac{dN_2}{dt}\right)_{\text{abs}} = B_{12} N_1 \rho(\nu) $$
② 自然放出:上の準位にいる原子が、誰にも頼まれずに勝手に光子を吐いて下に落ちます。周りに光があろうがなかろうが起きるので、$\rho$ に依存しません。
$$ \left(\frac{dN_2}{dt}\right)_{\text{spon}} = -A_{21} N_2 $$
この $A_{21}$ の逆数が自然放出寿命 $\tau_{sp} = 1/A_{21}$ です。放っておくと $N_2$ が $e^{-t/\tau_{sp}}$ で減る、という意味になります。
③ 誘導放出:上の準位にいる原子のそばを光子が通ると、その光子に「そそのかされて」もう1個の光子を吐き出します。しかも、生まれた光子はきっかけになった光子と同じ周波数・同じ位相・同じ方向・同じ偏光です。これが1個が2個、2個が4個と増えていく増幅の正体です。
$$ \left(\frac{dN_2}{dt}\right)_{\text{stim}} = -B_{21} N_2 \rho(\nu) $$
$A_{21}$、$B_{12}$、$B_{21}$ の3つをアインシュタイン係数と呼びます。アインシュタインの天才的だった点は、この3つが独立ではなく、熱平衡という一般的な条件だけから互いに縛られることを見抜いたところにあります。
A係数とB係数の関係を導く
導出のゴールを最初に宣言します。$B_{12} = B_{21}$(縮退がない場合)と $A_{21}/B_{21} = 8\pi h\nu^3/c^3$ の2つを示すのが目標です。
原子集団を温度 $T$ の空洞(黒体放射で満たされた箱)に入れて、十分待って熱平衡にします。熱平衡では準位間の行き来が釣り合うので、$dN_2/dt = 0$ です。上の3つを足し合わせると
$$ B_{12} N_1 \rho(\nu) = A_{21} N_2 + B_{21} N_2 \rho(\nu) $$
左辺が「上がる速さ」、右辺が「下りる速さ」です。これを $\rho(\nu)$ について解きます。まず右辺の $\rho$ を含む項を左辺に移して
$$ \rho(\nu)\left(B_{12} N_1 – B_{21} N_2\right) = A_{21} N_2 $$
両辺を $(B_{12}N_1 – B_{21}N_2)$ で割り、さらに分母・分子を $N_2$ で割ると
$$ \rho(\nu) = \frac{A_{21} N_2}{B_{12}N_1 – B_{21}N_2} = \frac{A_{21}/B_{21}}{\dfrac{B_{12}}{B_{21}}\dfrac{N_1}{N_2} – 1} $$
ここで熱平衡なので、準位の占有比はボルツマン分布に従うという事実を使います。
$$ \frac{N_1}{N_2} = \exp\left(\frac{E_2 – E_1}{k_B T}\right) = \exp\left(\frac{h\nu}{k_B T}\right) $$
これを代入すると、$\rho(\nu)$ は次の形になります。
$$ \rho(\nu) = \frac{A_{21}/B_{21}}{\dfrac{B_{12}}{B_{21}} \exp\!\left(\dfrac{h\nu}{k_B T}\right) – 1} \tag{1} $$
一方、空洞内の電磁波のエネルギー密度は、プランクの黒体放射則で決まっているはずです。
$$ \rho(\nu) = \frac{8\pi h \nu^3}{c^3} \cdot \frac{1}{\exp\!\left(\dfrac{h\nu}{k_B T}\right) – 1} \tag{2} $$
式(1)と式(2)が任意の温度 $T$ で一致しなければならない、というのが決め手です。$T$ は自由に変えられるので、指数関数の係数と全体の係数がそれぞれ独立に一致する必要があります。分母の指数関数の前の係数を比べると
$$ \frac{B_{12}}{B_{21}} = 1 \quad \Longrightarrow \quad \boxed{B_{12} = B_{21}} $$
つまり吸収と誘導放出は、まったく同じ確率で起こる。これは驚くべき結論です。原子を上に上げる力と下に下ろす力が、光にとっては完全に対等だということになります。
次に分子の係数を比べると
$$ \boxed{\frac{A_{21}}{B_{21}} = \frac{8\pi h \nu^3}{c^3}} \tag{3} $$
が得られます。導出は以上です。念のためもう一度筋道を確認すると、「熱平衡での釣り合い+ボルツマン分布」から作った式(1)と、「プランクの放射則」という別ルートで求めた式(2)を突き合わせただけです。量子電磁力学は一切使っていません。
なお、準位に縮退度 $g_1, g_2$ がある場合は、ボルツマン分布が $N_1/N_2 = (g_1/g_2)\exp(h\nu/k_BT)$ になるので、同じ手順で
$$ g_1 B_{12} = g_2 B_{21} $$
となります。以降は簡単のため $g_1 = g_2$ とし、必要なときだけ縮退を復活させます。
この関係が意味すること
式(3)は $A_{21} \propto \nu^3$ と読めます。周波数が高いほど自然放出が圧倒的に速くなるのです。周波数を1万倍にすると、自然放出係数は $10^{12}$ 倍になります。マイクロ波($\nu \sim 10$ GHz)と可視光($\nu \sim 6\times10^{14}$ Hz)を比べると、$(6\times10^4)^3 \approx 2\times10^{14}$ 倍もの差がつきます。

両対数プロットで直線になり、その傾きが3であることが $A_{21}\propto\nu^3$ の意味です。10 GHz のマイクロ波と 500 nm の可視光のあいだには5桁の周波数差しかありませんが、自然放出の速さでは $2\times10^{14}$ 倍もの差がついてしまいます。可視光の領域では「放っておいても勝手に光る」効果が桁違いに強く、それに打ち勝つ仕掛けなしには増幅器として成立しないことが、この1本の直線から読み取れます。
だからこそ、1954年に先に実現したのはメーザー(マイクロ波)であって、レーザー(可視光)はその6年後まで待たねばなりませんでした。周波数が上がるほど「勝手に光ってしまう」損失が激増するため、それに打ち勝つ工夫が必要になるわけです。
では、その工夫とは何なのか。次のセクションで、誘導放出と自然放出の比を具体的に計算し、なぜ反転分布が避けて通れないのかを見ていきます。
なぜ反転分布が必要なのか
誘導放出は自然放出に勝てるのか
まず「そそのかされて出る光」と「勝手に出る光」の比を計算します。定義から
$$ \frac{R_{\text{stim}}}{R_{\text{spon}}} = \frac{B_{21} N_2 \rho(\nu)}{A_{21} N_2} = \frac{B_{21}}{A_{21}}\rho(\nu) = \frac{c^3}{8\pi h \nu^3}\rho(\nu) $$
ここで熱平衡の $\rho(\nu)$(式(2))を代入すると、係数が見事に打ち消し合って
$$ \frac{R_{\text{stim}}}{R_{\text{spon}}} = \frac{1}{\exp\!\left(\dfrac{h\nu}{k_B T}\right) – 1} \equiv \bar{n} \tag{4} $$
という、驚くほど簡単な式になります。この $\bar{n}$ は「1つの電磁場モードあたりの平均光子数」そのものです。つまり誘導放出が自然放出に勝つかどうかは、そのモードに何個の光子が入っているかで決まる。すでに1個以上の光子がいるモードには、次の光子も入りやすい(ボース統計の集群性)というわけです。
数値を入れてみましょう。波長 500 nm(緑)の可視光、室温 $T = 300$ K では
$$ \frac{h\nu}{k_B T} = \frac{6.626\times10^{-34} \times 5.996\times10^{14}}{1.381\times10^{-23}\times 300} = 95.9 $$
なので $\bar{n} = 1/(e^{95.9}-1) \approx 2.2\times10^{-42}$ です。誘導放出は自然放出の $10^{-42}$ 倍しか起きません。太陽表面(5800 K)でも $h\nu/k_BT = 4.96$、$\bar{n} \approx 7.1\times10^{-3}$ で、まだ自然放出の圧勝です。一方、$\nu = 10$ GHz のマイクロ波・室温では $h\nu/k_BT = 1.6\times10^{-3}$、$\bar{n} \approx 625$。マイクロ波では熱的な光ですら誘導放出が優勢なのです。
これがメーザーが先に実現した理由であり、同時に「可視光では、熱平衡の光に頼っていては絶対に発振しない」という宣告でもあります。
正味の増幅には $N_2 > N_1$ が要る
もう一つ、より根本的な問題があります。誘導放出が起きても、その裏で吸収も起きているという点です。光にとっての正味の増減は
$$ \frac{d}{dt}(\text{光子数}) \propto B_{21}N_2\rho – B_{12}N_1\rho = B_{21}(N_2 – N_1)\rho $$
($B_{12}=B_{21}$ を使いました)。つまり正味で光が増えるための条件は、実にシンプルです。
$$ \boxed{N_2 > N_1} $$
縮退を考慮すると $\dfrac{N_2}{g_2} > \dfrac{N_1}{g_1}$ です。この状態を反転分布(population inversion)と呼びます。「上の準位のほうが混んでいる」という、常識に反した状態です。
熱平衡では絶対にこうなりません。ボルツマン分布 $N_2/N_1 = \exp(-h\nu/k_BT)$ は $T>0$ である限り必ず1未満だからです。無理やり $N_2 > N_1$ になる温度を求めると
$$ T = -\frac{h\nu}{k_B \ln(N_2/N_1)} < 0 $$
となり、形式的には負の温度に対応します。

左と中央が熱平衡です。300 K でも 5800 K でも上準位の棒は目盛りに現れないほど短く、原子はほぼ全員が下準位にいます。この状態に光を通せば、誘導放出より吸収のほうが圧倒的に多いので光は減る一方です。右がポンプで無理やり作った反転分布で、上下の棒の長短が逆転しています。同じ「占有率」というグラフでありながら、左右で光の運命(減衰か増幅か)が正反対になることが分かります。
反転分布が「熱平衡から遠く離れた非平衡状態」であることが、この式からよく分かります。放っておけば $\tau_{sp}$ の時間スケールで熱平衡に戻ってしまうので、外部からエネルギーを注ぎ続けなければ維持できません。これがポンプ源の役割です。
反転分布さえ作れば光は増える、ということが分かりました。では「どれくらい増えるのか」を、光が媒質を進む距離の関数として書き下しましょう。それが利得係数です。
利得係数と誘導放出断面積
強度 $I$ の光が反転分布した媒質中を $z$ 方向に進むとき、単位長さあたりの増加率を利得係数 $\gamma$ で表します。
$$ \frac{dI}{dz} = \gamma I \quad \Longrightarrow \quad I(z) = I(0)e^{\gamma z} $$
$\gamma > 0$ なら増幅、$\gamma < 0$ なら吸収です(吸収の場合は $\gamma = -\alpha$ と書いてランベルト・ベールの法則になります)。
$\gamma$ を微視的な量で書くには、誘導放出断面積 $\sigma_{21}$ を導入すると便利です。断面積というのは「原子1個がどれくらいの面積の的として光をつかまえるか」というイメージの量で、単位は $\mathrm{cm}^2$ です。原子1個あたりの誘導放出レートを、光子束密度 $F = I/(h\nu)$ を使って
$$ W_{21} = \sigma_{21} F = \sigma_{21}\frac{I}{h\nu} $$
と定義します。すると、長さ $dz$ の薄い層で正味に増える光子数から
$$ \boxed{\gamma(\nu) = \sigma_{21}(\nu)\,\Delta N}, \qquad \Delta N \equiv N_2 – \frac{g_2}{g_1}N_1 $$
が得られます。$\Delta N$ を反転分布密度と呼びます。利得は「断面積 × 反転分布密度」という、素直な形をしています。
断面積とアインシュタイン係数の関係
$\sigma_{21}$ もアインシュタイン係数から書けます。導出しておきましょう。まず、実際の遷移は単一周波数ではなく、規格化された線形関数 $g(\nu)$($\int g(\nu)d\nu = 1$)で広がりを持ちます。準単色な光に対する誘導放出レートは
$$ W_{21} = B_{21}\,\rho\, g(\nu) $$
と書けます($\rho$ は光の全エネルギー密度)。屈折率 $n$ の媒質中では光の速さが $c/n$ なので、強度とエネルギー密度は $I = \rho\,(c/n)$ で結ばれます。したがって $\rho = nI/c$ を代入して
$$ W_{21} = B_{21}\frac{nI}{c}g(\nu) $$
これを $W_{21} = \sigma_{21}I/(h\nu)$ と等置すると
$$ \sigma_{21}(\nu) = \frac{h\nu\, n}{c}B_{21}\,g(\nu) $$
最後に $B_{21}$ を $A_{21}$ で書き換えます。屈折率 $n$ の媒質中ではモード密度が $8\pi\nu^2n^3/c^3$ になるので、式(3)は $A_{21}/B_{21} = 8\pi h\nu^3 n^3/c^3$ に修正されます。これを使って $B_{21} = A_{21}c^3/(8\pi h\nu^3n^3)$ とし、代入すると
$$ \sigma_{21}(\nu) = \frac{h\nu n}{c}\cdot\frac{A_{21}c^3}{8\pi h\nu^3 n^3}g(\nu) = \frac{A_{21}c^2}{8\pi \nu^2 n^2}g(\nu) $$
$\lambda = c/\nu$(真空中の波長)と $A_{21} = 1/\tau_{sp}$ を使って整理すれば
$$ \boxed{\sigma_{21}(\nu) = \frac{\lambda^2}{8\pi n^2 \tau_{sp}}g(\nu)} \tag{5} $$
となります。式(5)は実用上とても便利で、「蛍光寿命と線幅が分かれば断面積が見積もれる」ことを意味します。試しに Nd:YAG($\lambda = 1064$ nm、$n=1.82$、$\tau_{sp} = 230\ \mu$s、線幅 $\Delta\nu \approx 120$ GHz、ピークで $g \approx 1/\Delta\nu$)で計算すると $\sigma \approx 5\times10^{-18}\ \mathrm{cm}^2$ となり、実測値 $2.8\times10^{-19}\ \mathrm{cm}^2$ よりおよそ1桁大きく出ます。差の理由ははっきりしていて、$4F_{3/2}$ 準位からの自然放出は 1064 nm 以外の線(946 nm、1319 nm など)にも分岐しており、さらにシュタルク副準位への熱分布で薄まるからです。式(5)の $\tau_{sp}$ を「1064 nm 線だけの放射寿命」に置き換えれば辻褄が合います。桁の見積もりには十分使える、と覚えておいてください。
利得の飽和
もう一つ重要な性質があります。光が強くなると、誘導放出で下の準位に落とされる原子が増えるので、反転分布そのものが減ってしまいます。定常状態で解くと、利得は
$$ \gamma(I) = \frac{\gamma_0}{1 + I/I_s} $$
という形に飽和します。$\gamma_0$ は微弱な光に対する小信号利得、$I_s = h\nu/(\sigma\tau)$ は飽和強度です。

左のグラフでは、光強度が飽和強度 $I_s$ に達したところで利得がちょうど半分に落ちています。$I \ll I_s$ の領域では利得はほぼ一定(小信号利得)ですが、$I$ が $I_s$ を超えると $1/I$ で急速に痩せていきます。右のグラフは、同じ媒質でも反転分布の有無で $I(z)$ が指数増幅にも指数減衰にもなることを示しています。5 cm 進むだけで、利得 0.30/cm なら約4.5倍、吸収 0.30/cm なら約0.22倍と、20倍もの開きがつきます。この飽和が、後で見る「発振後に反転分布がしきい値にクランプされる」現象の物理的な正体になります。増えすぎた光が自分で自分の餌(反転分布)を食い尽くすので、それ以上は増えられないのです。
ここまでで「反転分布があれば利得が生まれる」ことが分かりました。次は、その反転分布をどうやって作るかです。準位の数によって難易度が劇的に変わる、という話をします。
3準位系と4準位系

3枚を並べると、準位を1つ増やすたびに何が解決されるかが見えてきます。左(2準位)はポンプと誘導放出が同じ矢印の往復になってしまい、上準位に原子を溜められません。中央(3準位)はポンプ準位を足して溜め場所を作りましたが、レーザー下準位が基底のままなので、そこに居座る大量の原子が吸収として立ちはだかります(青く塗った部分)。右(4準位)はレーザー下準位を基底から切り離し、そこに落ちた原子を即座に基底へ逃がすので、下準位は常に空です。以下ではこの違いを式で定量化します。
2準位系ではポンプできない
まず、なぜ2準位ではダメなのかを押さえておきます。準位1と2しかない系に周波数 $\nu$ の光を当ててポンプすると、上げる(吸収)と下ろす(誘導放出)が同じ $B$ 係数で起きます。レート方程式は
$$ \frac{dN_2}{dt} = B\rho(N_1 – N_2) – \frac{N_2}{\tau} $$
定常状態でこれを解くと、$N_1 + N_2 = N_t$(総数一定)のもとで
$$ N_2 = \frac{B\rho\,N_t}{2B\rho + 1/\tau} \quad \Longrightarrow \quad \lim_{\rho\to\infty}N_2 = \frac{N_t}{2} $$
どんなに強くポンプしても $N_2 \to N_t/2$、つまり $N_2 = N_1$ が上限で、反転分布は原理的に作れません。これを飽和(saturation)または光ブリーチングと呼びます。だから実際のレーザーは必ず3つ以上の準位を使います。
3準位系(ルビーレーザー型)
3準位系では、ポンプ準位3、上準位2、そして基底準位1を使います。ポイントは、レーザー遷移の下側が基底準位そのものだという点です。
動作は次の流れです。
- ポンプ光が原子を1→3に上げる(レート $R_p$)
- 準位3から準位2へ、無放射で非常に速く緩和する($\tau_{32} \ll \tau_{21}$)
- 準位2は準安定で寿命 $\tau$ が長い。ここに原子が溜まる
- 2→1の誘導放出でレーザー発振
準位3の寿命が非常に短いので $N_3 \approx 0$ とすると、原子はすべて準位1か2にいます。
$$ N_1 + N_2 = N_t $$
反転分布は $\Delta N = N_2 – N_1 = 2N_2 – N_t$ です。$\Delta N > 0$ にするには
$$ N_2 > \frac{N_t}{2} $$
つまり全原子の半分以上を上に持ち上げないと、利得がゼロにすらならない。これが3準位系の宿命です。ルビーレーザー(Cr³⁺:Al₂O₃、メイマンが1960年に世界初のレーザー発振に成功した媒質)がまさにこれで、強力なフラッシュランプでパルス的に叩かなければ発振しません。連続動作は極めて困難です。
しきい値のポンプ率を見積もりましょう。発振しきい値では $\Delta N = \Delta N_{\text{th}}$(後で共振器から決まる値)が必要で、そのとき
$$ N_2 = \frac{N_t + \Delta N_{\text{th}}}{2} $$
定常状態で「ポンプで上がる数=自然放出で落ちる数」が釣り合うので
$$ R_p^{\text{3レベル}} \approx \frac{N_2}{\tau} = \frac{N_t + \Delta N_{\text{th}}}{2\tau} \approx \frac{N_t}{2\tau} $$
最後の近似は $\Delta N_{\text{th}} \ll N_t$(実際そうなります)を使いました。しきい値ポンプ率が媒質の全原子数 $N_t$ で決まってしまうことに注目してください。ドーピング濃度を上げるほどしきい値も上がる、という困った性質です。
4準位系(Nd:YAG型)
4準位系は、レーザー遷移の下側を基底準位から切り離すという一手で、この問題を解決します。
- ポンプ光が原子を0(基底)→3に上げる
- 3→2へ速く緩和(上準位に溜まる、寿命 $\tau$)
- 2→1の誘導放出でレーザー発振
- 1→0へ非常に速く緩和する($\tau_{10} \ll \tau$)
決定的なのはステップ4です。準位1に落ちた原子は瞬時に基底に戻るので、$N_1 \approx 0$ が常に成り立ちます。すると反転分布は
$$ \Delta N = N_2 – N_1 \approx N_2 $$
となり、原子を1個上げれば、その瞬間から反転分布が1増える。しきい値の壁がありません。準位1が基底からエネルギー $\Delta E$ だけ離れていれば、熱平衡での占有率は $\exp(-\Delta E/k_BT)$ で抑えられます。Nd:YAG の 1064 nm 遷移では下準位が基底から約 2000 cm⁻¹ 上にあり、室温での占有率は $e^{-9.6} \approx 7\times10^{-5}$。実質ゼロです。
レート方程式を書きます。発振していない状態では
$$ \frac{dN_2}{dt} = R_p – \frac{N_2}{\tau} $$
定常状態で $N_2 = R_p\tau$。しきい値では $N_2 = \Delta N_{\text{th}}$ なので
$$ R_p^{\text{4レベル}} = \frac{\Delta N_{\text{th}}}{\tau} $$
3準位系との比を取ると
$$ \frac{R_p^{\text{3レベル}}}{R_p^{\text{4レベル}}} = \frac{N_t/(2\tau)}{\Delta N_{\text{th}}/\tau} = \frac{N_t}{2\Delta N_{\text{th}}} $$
具体的な数値を入れます。1 at.% ドープの Nd:YAG では $N_t = 1.38\times10^{20}\ \mathrm{cm}^{-3}$、後で計算するように典型的な共振器で $\Delta N_{\text{th}} = 3.62\times10^{16}\ \mathrm{cm}^{-3}$ です。比を計算すると
$$ \frac{N_t}{2\Delta N_{\text{th}}} = \frac{1.38\times10^{20}}{2\times 3.62\times10^{16}} \approx 1.9\times10^{3} $$
約1900倍。ポンプ密度に直すと、4準位系がおよそ $39\ \mathrm{W/cm^3}$ で発振し始めるのに対し、同じ媒質を3準位的に使うと $7.4\times10^4\ \mathrm{W/cm^3}$ = 74 kW/cm³ が必要になります。連続波では熱で結晶が割れる領域です。「3準位はパルス、4準位は連続波」という現場の常識は、この3桁の差から来ています。

対数目盛にしないと同じ図に描けないほど差が開いています。左の棒グラフでは、しきい値ポンプ率が $1.57\times10^{20}$ に対して $3.00\times10^{23}\ \mathrm{cm^{-3}s^{-1}}$ と約1900倍。右をパワー密度に直すと 38.7 W/cm³ 対 $7.4\times10^{4}$ W/cm³ で、前者は水冷で十分さばける一方、後者は連続的に注げば結晶が熱応力で割れます。同じ Nd:YAG という媒質でも、下準位が基底かどうかだけで運用形態が決まってしまうわけです。
ここまでは媒質の話でした。しかし $\Delta N_{\text{th}}$ の値そのものは、まだ決まっていません。それを決めるのが共振器です。
共振器としきい値条件
往復利得がロスに勝つ条件
長さ $L$ の利得媒質を、反射率 $R_1$、$R_2$ の2枚の鏡ではさんだファブリ・ペロー共振器を考えます。媒質には利得 $g$ のほかに、散乱や吸収による内部損失 $\alpha$ もあります。
強度 $I_0$ の光が鏡1を出発して1往復して戻ってくるまでを追跡します。順を追って掛け算していけばよいだけです。
- 媒質を長さ $L$ 進む:$I_0 \to I_0 e^{(g-\alpha)L}$
- 鏡2で反射:$\times R_2$
- 媒質を逆向きに $L$ 進む:$\times e^{(g-\alpha)L}$
- 鏡1で反射:$\times R_1$

この図の①〜④を順に掛け算するだけで往復利得の式が出ます。往路と復路で同じ媒質を通るので指数の肩が $2L$ になること、鏡での損失が $R_1R_2$ という単純な積で入ることが、絵を見れば納得できるはずです。右側に描いた「透過して外へ」の矢印が、共振器にとっては損失であると同時に、私たちが使うレーザー出力そのものだという二重性にも注意してください。
まとめると、1往復後の強度は
$$ I_{\text{round}} = I_0 R_1 R_2 e^{2(g-\alpha)L} $$
発振が持続する(あるいは自然放出の種が育ち始める)条件は、1往復して元の強度以上になっていることです。
$$ R_1 R_2 e^{2(g-\alpha)L} \geq 1 \tag{6} $$
これを $g$ について解きましょう。両辺の自然対数を取ると
$$ \ln(R_1R_2) + 2(g-\alpha)L \geq 0 $$
$2L$ で割って $\alpha$ を移項すると
$$ g \geq \alpha – \frac{1}{2L}\ln(R_1R_2) = \alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2} $$
等号が成り立つ点がしきい値利得です。
$$ \boxed{g_{\text{th}} = \alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2}} \tag{7} $$
式(7)の読み方はとても素直です。右辺第1項が「媒質の中で吸われる分」、第2項が「鏡から漏れる分」。この2つを合わせたロスを、利得がちょうど補える点がしきい値です。
第2項について補足します。$R_1R_2$ が1に近いとき $\ln(1/R_1R_2) \approx (1-R_1) + (1-R_2)$ と近似でき、「透過率の和を往復長 $2L$ で割ったもの」という直感的な意味になります。$\ln$ が出てくるのは、指数関数的な増幅と対数が対になっているからで、深い意味はありません。
反転分布に直すと、$g_{\text{th}} = \sigma \Delta N_{\text{th}}$ から
$$ \Delta N_{\text{th}} = \frac{g_{\text{th}}}{\sigma} = \frac{1}{\sigma}\left(\alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2}\right) \tag{8} $$
数値を入れてみます。$L = 5$ cm、$R_1 = 1.00$、$R_2 = 0.95$、$\alpha = 0.005\ \mathrm{cm^{-1}}$ とすると
$$ g_{\text{th}} = 0.005 + \frac{1}{10}\ln\frac{1}{0.95} = 0.005 + 0.00513 = 0.01013\ \mathrm{cm^{-1}} $$
$\sigma = 2.8\times10^{-19}\ \mathrm{cm^2}$ を使って
$$ \Delta N_{\text{th}} = \frac{0.01013}{2.8\times10^{-19}} = 3.62\times10^{16}\ \mathrm{cm^{-3}} $$
先ほど3準位系との比較で使った数値は、これです。$N_t = 1.38\times10^{20}$ と比べると、必要な反転分布は全原子の 0.026% にすぎません。4準位系がいかに楽をしているかが分かります。
光子寿命とQ値
しきい値を別の角度から見ると、「共振器に閉じ込めた光子がどれくらい長く生き残るか」という時間の問題に翻訳できます。利得がない状態で、共振器内の光子密度 $\phi$ は
$$ \frac{d\phi}{dt} = -\frac{\phi}{\tau_c} $$
で減衰します。この $\tau_c$ が光子寿命です。光は媒質中を速さ $c/n$ で進み、単位長さあたり $g_{\text{th}}$ の割合で失われるので
$$ \frac{1}{\tau_c} = \frac{c}{n}g_{\text{th}} = \frac{c}{n}\left(\alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2}\right) \tag{9} $$
上の数値例では
$$ \tau_c = \frac{1.82}{3.00\times10^{10}\times 0.01013} = 5.99\times10^{-9}\ \mathrm{s} \approx 6.0\ \mathrm{ns} $$
1往復の時間は $2nL/c = 0.61$ ns なので、6.0 ns というのは光が共振器を約10往復するあいだ生き残るという意味になります。

左のグラフでは、$R_2$ を 0.80 から 0.999 まで上げると光子寿命が 2.2 ns から 11.9 ns へ5倍以上伸びています。$Q = 2\pi\nu\tau_c$ なので $Q$ 値の曲線(赤破線)は $\tau_c$ と相似形になり、$10^7$ 前後の値をとります。右のグラフは利得がないときの減衰の様子で、$R_2 = 0.80$ では 30 ns で $10^{-6}$ まで落ちるのに対し、$R_2 = 0.999$ では同じ時間で $10^{-1}$ 程度しか減りません。鏡の質が「光を何往復ぶん閉じ込められるか」を直接決めていることが読み取れます。
これを使うと、しきい値条件は「利得による増加率が、光子寿命による減少率に勝つこと」と言い換えられます。
$$ \frac{c}{n}\sigma\Delta N \geq \frac{1}{\tau_c} \quad \Longleftrightarrow \quad \Delta N \geq \Delta N_{\text{th}} = \frac{n}{c\,\sigma\,\tau_c} $$
式(8)と同じものです。表現を変えただけですが、この形はレート方程式を書くときに便利なので覚えておいてください。
共振器の $Q$ 値も光子寿命から出ます。定義 $Q = 2\pi\nu\tau_c$ より
$$ Q = 2\pi \times 2.82\times10^{14} \times 5.99\times10^{-9} \approx 1.1\times10^{7} $$
電子回路の共振回路が $Q \sim 100$ 程度であることを思えば、光共振器の $Q$ の高さは異次元です。この高い $Q$ こそが、レーザーの狭いスペクトル線幅の源になります。
さて、式(6)は強度についての条件でしたが、光は波です。位相が1往復で合っていなければ、そもそも干渉で打ち消し合ってしまいます。次はその位相条件を見ましょう。
縦モードとゲイン帯域
位相条件から縦モード間隔を導く
共振器内で光が定常的に存在するには、1往復したときに位相が $2\pi$ の整数倍だけ変化していなければなりません。往復距離は $2L$、媒質中の波数は $k = 2\pi n\nu/c$ なので
$$ 2kL = 2\pi q \quad (q = 1, 2, 3, \dots) $$
$k$ を代入して
$$ \frac{2\cdot 2\pi n \nu L}{c} = 2\pi q $$
両辺を $2\pi$ で割り、$\nu$ について解くと
$$ \boxed{\nu_q = q\frac{c}{2nL}} \tag{10} $$
これが許される共振周波数、縦モードです。隣り合うモードの間隔は
$$ \boxed{\Delta\nu_{\text{FSR}} = \nu_{q+1} – \nu_q = \frac{c}{2nL}} \tag{11} $$
で、自由スペクトル領域(Free Spectral Range, FSR)と呼ばれます。式(11)は「共振器を1往復する時間の逆数」でもあります($\Delta\nu_{\text{FSR}} = 1/(2nL/c)$)。共振器が長いほどモードは密に並ぶわけです。
数値例です。Nd:YAG($n=1.82$、$L=5$ cm)では
$$ \Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{3.00\times10^{8}}{2\times 1.82\times 0.05} = 1.65\ \mathrm{GHz} $$
He-Ne レーザー($n \approx 1$、$L = 30$ cm)では
$$ \Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{3.00\times10^{8}}{2\times 0.30} = 500\ \mathrm{MHz} $$

左は許される定在波の姿です。両端の鏡の位置が必ず節になるので、共振器長に半波長がちょうど整数本 $q$ 入る波だけが生き残ります。右のグラフは式(11)を共振器長の関数として描いたもので、両対数で傾き $-1$ の直線になります。$L = 5$ cm の Nd:YAG で 1.65 GHz、$L = 30$ cm の He-Ne で 500 MHz という本文の数値が、そのまま曲線上の点として乗っています。グレーの破線(Nd:YAG のゲイン帯域 119 GHz)より上に行くには $L$ を 1 mm 以下にする必要があり、これがマイクロチップレーザーが単一縦モードになる理由です。
何本のモードが発振するか
発振するのは「共振器のモードであり、かつゲインがしきい値を超えている」周波数だけです。ゲイン帯域幅 $\Delta\nu_g$ の中に何本の縦モードが入るかを数えれば、おおよその本数が分かります。
$$ N_{\text{mode}} \approx \frac{\Delta\nu_g}{\Delta\nu_{\text{FSR}}} $$
Nd:YAG のゲイン帯域は波長で約 0.45 nm、周波数に直すと $\Delta\nu_g = c\Delta\lambda/\lambda^2 = 119$ GHz です。したがって
$$ N_{\text{mode}} \approx \frac{119\ \mathrm{GHz}}{1.65\ \mathrm{GHz}} \approx 72 $$
70本以上の縦モードが同時に発振しうる、ということになります(実際にはしきい値を超えるのはピーク付近の30〜40本程度)。He-Ne(ドップラー広がり $\Delta\nu_g \approx 1.5$ GHz、$\Delta\nu_{\text{FSR}} = 500$ MHz)なら約3本です。
この「複数モードが同時に立つ」性質は、用途によって毒にも薬にもなります。毒としては、干渉計測やコヒーレント通信でコヒーレンス長が短くなること。多数のモードが混ざると、コヒーレンス長はおよそ $c/\Delta\nu_g$ = 数 mm まで縮みます。薬としては、モードロック(全モードの位相をそろえる)によって超短パルスが作れること。$N$ 本のモードをそろえるとパルス幅は $\sim 1/(N\Delta\nu_{\text{FSR}}) = 1/\Delta\nu_g$ になり、帯域が広いほど短いパルスが得られます。チタンサファイア($\Delta\nu_g \sim 100$ THz)でフェムト秒パルスが作れるのは、この原理です。
モード競合とホールバーニング
複数のモードが1つの利得を奪い合うとき、何が起きるでしょうか。ここは広がりの種類で結果が変わります。
均一広がり(homogeneous broadening):すべての原子が同じ線形関数を持つ場合です(固体の格子振動による広がりなど)。どのモードが光子を消費しても、利得曲線全体が同じように下がります。すると、いちばんゲインの高いモード(ピークに最も近いモード)が真っ先にしきい値に達し、そのモードが利得を食い尽くして他のモードをしきい値以下に押し下げます。これがモード競合で、理想的には単一縦モードだけが生き残ります。「勝者総取り」です。
不均一広がり(inhomogeneous broadening):原子ごとに共鳴周波数がずれている場合です(気体のドップラー広がり、ガラス中のイオンのサイトごとの違いなど)。この場合、周波数 $\nu_q$ のモードは「たまたま $\nu_q$ に共鳴する速度を持った原子」だけを消費します。利得曲線にはそのモードの位置だけ穴が開き、他の場所のゲインは減りません。この現象をスペクトルホールバーニングと呼びます。穴が開いても隣は無傷なので、複数モードが平和共存してマルチモード発振になります。He-Ne が典型例です。

左右で「発振後のゲイン曲線」の形がまるで違うことに注目してください。左(均一広がり)は曲線全体が相似形のまま下がるので、ピークのモードがしきい値に触れた時点で他のモードはすべてしきい値以下に沈み、発振するのは1本だけです。右(不均一広がり)は発振している周波数の位置にだけ細い穴が掘られ、穴と穴のあいだのゲインは発振前のまま(点線と重なっている)です。だから5本が同時に立っていられます。同じ「利得の奪い合い」でも、奪われるのが全体か局所かで結果が正反対になるわけです。
実際には均一広がりの固体レーザーでもマルチモードになることが多く、その主因は空間的ホールバーニングです。定在波の腹の位置では強く反転分布が消費されますが、節の位置では消費されません。節に残った反転分布は、腹の位置がずれている別のモードが利用できてしまいます。リング共振器(進行波で節ができない)や、内部に光アイソレータを入れた単方向リングが単一周波数化に有効なのは、この空間ホールバーニングを消すためです。
ここまでで、定常状態の話はほぼ揃いました。残るのは「時間的にどう振る舞うか」です。ポンプをオンにした瞬間、レーザーは静かに立ち上がるのでしょうか。実は、暴れます。
レート方程式と緩和振動
2本の連立レート方程式
4準位系のレーザーを、反転分布密度 $N$($= \Delta N$)と共振器内の光子密度 $\phi$ の2変数で記述します。
$$ \begin{align} \frac{dN}{dt} &= R_p – \frac{N}{\tau} – \frac{c\sigma}{n}N\phi \tag{12}\\ \frac{d\phi}{dt} &= \frac{c\sigma}{n}N\phi – \frac{\phi}{\tau_c} \tag{13} \end{align} $$
各項の意味を確認しておきましょう。式(12)の右辺は順に「ポンプで供給される分」「自然放出などで失われる分」「誘導放出で消費される分」です。式(13)の右辺は「誘導放出で生まれる光子」「共振器から漏れる光子」で、第1項が式(12)の第3項とちょうど対になっています(原子が1個落ちると光子が1個生まれる)。
以下、$B \equiv c\sigma/n$ と略記します。$B$ は「反転分布密度 × 光子密度」を「単位時間あたりの遷移数」に変換する係数です。
定常解としきい値の折れ曲がり
定常状態($d/dt = 0$)を解きます。まず式(13)から
$$ \phi\left(BN – \frac{1}{\tau_c}\right) = 0 $$
これは $\phi = 0$ か $N = 1/(B\tau_c)$ のどちらかを意味します。後者を $N_{\text{th}}$ と書けば
$$ N_{\text{th}} = \frac{1}{B\tau_c} = \frac{n}{c\sigma\tau_c} $$
で、式(8)と一致します。
しきい値以下($\phi = 0$ の解)では、式(12)から
$$ N = R_p \tau $$
反転分布はポンプ率に比例して素直に増えます。この解が成り立つのは $R_p\tau < N_{\text{th}}$、つまり
$$ R_p < R_{p,\text{th}} \equiv \frac{N_{\text{th}}}{\tau} $$
のあいだだけです。
しきい値以上では、$N = N_{\text{th}}$ に固定されます。ポンプをいくら強めても反転分布はそれ以上増えません。これをゲインクランプ(利得のクランプ)と呼びます。物理的には、先ほど見た利得飽和そのものです。$N$ が $N_{\text{th}}$ を少しでも超えると光子が指数関数的に増え、その光子が誘導放出で $N$ を叩き落とす。この負帰還が $N$ を $N_{\text{th}}$ に釘付けにします。
余ったポンプはどこへ行くのか。式(12)に $N = N_{\text{th}}$ を代入すると
$$ 0 = R_p – \frac{N_{\text{th}}}{\tau} – B N_{\text{th}}\phi = R_p – R_{p,\text{th}} – \frac{\phi}{\tau_c} $$
($BN_{\text{th}} = 1/\tau_c$ を使いました)。$\phi$ について解くと
$$ \boxed{\phi = \tau_c\left(R_p – R_{p,\text{th}}\right)} \tag{14} $$
しきい値を超えた分のポンプが、そっくりそのまま光子に変わる。これが入出力特性の折れ曲がり(キンク)の正体です。しきい値以下では光は出ず(自然放出のごく一部が漏れるだけ)、しきい値を超えた途端に、ポンプ増分に正比例して出力が伸びます。
出力パワーに直しましょう。共振器内の光子は全ロス $g_{\text{th}}$ の割合で失われますが、そのうち出力鏡を透過する分だけが使える光です。その割合は
$$ \eta_{\text{out}} = \frac{\dfrac{1}{2L}\ln\dfrac{1}{R_2}}{g_{\text{th}}} $$
(出力結合効率)。モード体積 $V$ を使って
$$ P_{\text{out}} = h\nu_L\,\frac{\phi V}{\tau_c}\,\eta_{\text{out}} = h\nu_L V \eta_{\text{out}}(R_p – R_{p,\text{th}}) $$
ポンプパワーで書けば $P_p = h\nu_p R_p V$ なので
$$ P_{\text{out}} = \underbrace{\frac{\nu_L}{\nu_p}\eta_{\text{out}}}_{\text{スロープ効率}\ \eta_s}\left(P_p – P_{\text{th}}\right) \tag{15} $$
$\nu_L/\nu_p = \lambda_p/\lambda_L$ は量子欠損による効率で、808 nm でポンプして 1064 nm を出す Nd:YAG では $808/1064 = 0.76$。残りの24%は必ず熱になります(これが熱レンズ効果の原因です)。$\eta_{\text{out}} = 0.506$ とすると、スロープ効率は
$$ \eta_s = 0.759 \times 0.506 = 0.385 $$
38.5%。ポンプを1 W増やすと出力が385 mW増える、ということです。実測でも LD 励起 Nd:YAG のスロープ効率は 35〜50% 程度で、よく合います。
式(15)は設計にそのまま使えます。$R_2$ を下げる(出力鏡を透過させる)と $\eta_{\text{out}}$ は上がりますが、$g_{\text{th}}$ も上がるので $P_{\text{th}}$ が上がる。この綱引きに最適点があり、最適出力結合の設計問題になります。

左のグラフが綱引きの正体です。$R_2$ を下げるほど出力結合効率 $\eta_{\text{out}}$(青)は上がりますが、しきい値パワー(赤破線)も同時に上がります。右はポンプを 5 W に固定して式(15)で出力を計算したもので、$R_2 = 0.938$ で 1.20 W というはっきりした山ができます。鏡を透かしすぎると($R_2 < 0.81$)しきい値がポンプを超えて発振しなくなり、逆に透かさなすぎると($R_2 \to 1$)光を取り出せません。実機の出力鏡の透過率が数%〜十数%という中途半端な値になっているのは、この山の頂上を狙っているからです。
緩和振動を導く
定常解が分かったので、そこからのズレがどう振る舞うかを調べます。ポンプをステップ的にオンにしたときの過渡応答です。
定常解を $(N_s, \phi_s)$ とし、微小なズレを $N = N_s + n’$、$\phi = \phi_s + p’$ と置きます。ここで規格化ポンプ率
$$ r \equiv \frac{R_p}{R_{p,\text{th}}} $$
を導入しておくと式が綺麗になります。定常解は $N_s = N_{\text{th}}$、$\phi_s = \tau_c N_{\text{th}}(r-1)/\tau$ です。
式(12)に代入して、2次の微小量 $n’p’$ を捨てると
$$ \frac{dn’}{dt} = -\frac{n’}{\tau} – B(N_s p’ + \phi_s n’) $$
ここで $B\phi_s$ を計算しておきます。$\phi_s$ の式を代入し、$B\tau_c N_{\text{th}} = 1$ を使うと
$$ B\phi_s = B\tau_c N_{\text{th}}\frac{r-1}{\tau} = \frac{r-1}{\tau} $$
また $BN_s = BN_{\text{th}} = 1/\tau_c$ です。これらを代入すると
$$ \frac{dn’}{dt} = -\left(\frac{1}{\tau} + \frac{r-1}{\tau}\right)n’ – \frac{p’}{\tau_c} = -\frac{r}{\tau}n’ – \frac{p’}{\tau_c} $$
同様に式(13)からは
$$ \frac{dp’}{dt} = B(N_s p’ + \phi_s n’) – \frac{p’}{\tau_c} = \frac{p’}{\tau_c} + \frac{r-1}{\tau}n’ – \frac{p’}{\tau_c} = \frac{r-1}{\tau}n’ $$
$p’$ の項が綺麗に打ち消えた点に注目してください。これが振動を生む鍵です。行列形式でまとめると
$$ \frac{d}{dt}\begin{pmatrix}n’\\p’\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}-\dfrac{r}{\tau} & -\dfrac{1}{\tau_c}\\[2mm] \dfrac{r-1}{\tau} & 0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}n’\\p’\end{pmatrix} $$
固有値 $\lambda$ の特性方程式は $\lambda^2 – (\text{trace})\lambda + \det = 0$ より
$$ \lambda^2 + \frac{r}{\tau}\lambda + \frac{r-1}{\tau\tau_c} = 0 $$
解の公式から
$$ \lambda = -\frac{r}{2\tau} \pm \sqrt{\frac{r^2}{4\tau^2} – \frac{r-1}{\tau\tau_c}} $$
ここで典型的なレーザーでは $\tau \gg \tau_c$(Nd:YAG なら $230\ \mu\mathrm{s}$ 対 $6\ \mathrm{ns}$ で4桁以上の差)なので、根号の中は第2項が圧倒的に大きく、負になります。したがって解は複素共役ペアになり、減衰振動が現れます。
$$ \boxed{\omega_r = \sqrt{\frac{r-1}{\tau\tau_c} – \frac{r^2}{4\tau^2}} \approx \sqrt{\frac{r-1}{\tau\tau_c}}}, \qquad \boxed{\gamma_{\text{damp}} = \frac{r}{2\tau}} \tag{16} $$
これが緩和振動(relaxation oscillation)です。物理的な直感はこうです。反転分布 $N$ と光子数 $\phi$ は、捕食者と被食者の関係にあります。$N$ が増えると(餌が増えると)$\phi$ が増え、増えた $\phi$ が $N$ を食い尽くし、$N$ が減ると $\phi$ も減り、また $N$ が回復する。ロトカ・ヴォルテラ方程式とまったく同じ構造で、位相のずれた振動が生まれるのです。
数値を入れます。$r=2$、$\tau = 230\ \mu$s、$\tau_c = 6.0$ ns では
$$ f_r = \frac{\omega_r}{2\pi} = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{1}{230\times10^{-6}\times 5.99\times10^{-9}}} = 136\ \mathrm{kHz} $$
減衰の時定数は $1/\gamma_{\text{damp}} = 2\tau/r = 230\ \mu$s。振動が収まるまでに $136\ \mathrm{kHz} \times 230\ \mu\mathrm{s} \approx 31$ 周期ほどリンギングする計算になります(後で数値積分すると、最初の数発は周期が長いため実際には27発でした)。
式(16)は実用上とても重要です。$\omega_r \propto \sqrt{r-1}$ なので、ポンプを強くするほど緩和振動の周波数が上がる。半導体レーザーの直接変調帯域の上限がこれで決まります。逆に、緩和振動周波数より速い変調をかけると出力が激しく暴れるため、光通信では緩和振動周波数を上げる($\tau_c$ を短く、$\tau$ を短く)設計が追求されてきました。半導体レーザーは $\tau \sim $ ns、$\tau_c \sim $ ps と両方が短いので $f_r$ が GHz 帯に入り、直接変調で10 Gbps 級が実現できます。Nd:YAG のような固体レーザーでは $f_r$ が数百 kHz どまりなので、高速変調には外部変調器が必要です。

$f_r \propto \sqrt{r-1}$ の平方根則が、しきい値直上で立ち上がる曲線として表れています。しきい値ぎりぎり($r \to 1$)では振動周波数がゼロに近づき、レーザーはゆっくりとしか応答できません。$r = 2$ で 136 kHz、$r = 10$ でも 400 kHz 程度にしかならず、平方根なのでポンプを10倍にしても周波数は3倍しか上がらない点が重要です。固体レーザーの直接変調が MHz 帯すら届かないのは、この平方根則のせいです。
理論は出そろいました。あとは実際に方程式を解いて、目で確かめましょう。
Pythonでの実装
誘導放出と自然放出の比
まず式(4)を可視化して、「なぜ可視光で反転分布が要るのか」を確認します。熱平衡での1モードあたり光子数 $\bar{n}$ を、周波数と温度の関数としてプロットします。
import numpy as np
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
h, c, kB = 6.62607015e-34, 2.99792458e8, 1.380649e-23
nu = np.logspace(9, 15.5, 800) # 1 GHz 〜 3e15 Hz
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
for T, lab in [(300, "300 K(室温)"), (1000, "1000 K"), (5800, "5800 K(太陽表面)")]:
nbar = 1.0 / np.expm1(h * nu / (kB * T)) # 式(4)
plt.loglog(nu, nbar, lw=2, label=lab)
plt.axhline(1.0, color="k", ls="--", lw=1.2)
plt.text(2e9, 1.6, "誘導放出=自然放出", fontsize=10)
plt.axvspan(4.0e14, 7.5e14, color="orange", alpha=0.18)
plt.text(3.0e14, 1e-30, "可視光域", fontsize=10, color="darkorange")
plt.axvline(1e10, color="gray", ls=":", lw=1.2)
plt.text(1.1e10, 1e-30, "マイクロ波\n(10 GHz)", fontsize=9, color="gray")
plt.xlabel("周波数 $\\nu$ [Hz]")
plt.ylabel("誘導放出/自然放出の比 $\\bar{n}$")
plt.title("熱平衡の光では、可視光域で誘導放出は完全に無力")
plt.ylim(1e-45, 1e5)
plt.legend(); plt.grid(alpha=0.3, which="both"); plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフから3つのことが読み取れます。第一に、室温 300 K の曲線は可視光域(オレンジ帯)で $10^{-42}$ まで落ち込みます。熱的な光に頼るかぎり、誘導放出は自然放出に1兆の1兆倍以上の差で負けるということです。第二に、マイクロ波域($10^{10}$ Hz)では室温でも $\bar{n} \approx 625$ と1を大きく超えており、メーザーが先に実現した理由がひと目で分かります。第三に、温度を 5800 K まで上げても可視光では $\bar{n} \approx 7\times10^{-3}$ にしかならず、「加熱では解決しない」ことも分かります。だから熱平衡を捨てて反転分布を作るしかないのです。
しきい値条件と共振器パラメータ
次に、式(7)のしきい値利得が出力鏡の反射率でどう変わるかを見ます。同時に、光が共振器を往復するあいだの強度変化も描いて、しきい値の意味を可視化します。
import numpy as np
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
L, R1, alpha, sigma = 5.0, 1.0, 0.005, 2.8e-19 # cm, -, 1/cm, cm^2
R2 = np.linspace(0.80, 0.999, 300)
g_th = alpha + np.log(1.0 / (R1 * R2)) / (2 * L) # 式(7)
fig, ax = plt.subplots(1, 2, figsize=(12, 4.6))
ax[0].plot(R2, g_th * 100, lw=2, color="C0") # 1/cm -> %/cm
ax[0].axhline(alpha * 100, color="C3", ls="--", lw=1.5, label="内部損失 $\\alpha$ のみ")
ax[0].axvline(0.95, color="gray", ls=":")
ax[0].set_xlabel("出力鏡の反射率 $R_2$"); ax[0].set_ylabel("しきい値利得 $g_{th}$ [%/cm]")
ax[0].set_title("鏡の反射率としきい値利得"); ax[0].legend(); ax[0].grid(alpha=0.3)
# 1往復ごとの強度:しきい値の上下で運命が分かれる
n_rt = np.arange(0, 41)
for g, lab, col in [(0.0080, "利得 < しきい値(消える)", "C3"),
(0.010129, "利得 = しきい値(一定)", "k"),
(0.0125, "利得 > しきい値(発振)", "C2")]:
G = R1 * 0.95 * np.exp(2 * (g - alpha) * L)
ax[1].semilogy(n_rt, G ** n_rt, lw=2, color=col, label=lab)
ax[1].axhline(1.0, color="gray", ls=":")
ax[1].set_xlabel("往復回数"); ax[1].set_ylabel("初期強度に対する比")
ax[1].set_title("往復ごとの強度:しきい値が運命を分ける")
ax[1].legend(); ax[1].grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout(); plt.show()

左のグラフは、出力鏡の反射率を下げるほどしきい値利得が急激に上がることを示しています。$R_2 = 0.999$ ではほぼ内部損失だけ(0.5 %/cm)ですが、$R_2 = 0.80$ では 2.7 %/cm と5倍以上になります。「光をたくさん取り出したい」と「発振させたい」がトレードオフであることが、この曲線に表れています。右のグラフは、利得がしきい値をわずか2割下回るだけで40往復後には強度が $10^{-3}$ 以下に消え、逆に2割上回ると $10^{6}$ 倍以上に爆発することを示します。しきい値付近での振る舞いが極めて鋭い、指数関数的な現象だということです。
入出力特性 — しきい値の折れ曲がりとゲインクランプ
いよいよレート方程式(12)(13)の定常解を求めます。実際のレーザーではしきい値以下でも自然放出の一部が共振器モードに入るので、その寄与を $\beta N/\tau$ という項で加えます($\beta$ は自発放出結合係数)。これがあるとキンクが滑らかになり、対数プロットで挙動が見やすくなります。
import numpy as np
h, c = 6.62607015e-34, 2.99792458e8
sigma, tau, n_r, L = 2.8e-19, 230e-6, 1.82, 5.0 # cm^2, s, -, cm
R1, R2, alpha = 1.0, 0.95, 0.005
c_cm = c * 100.0
g_th = alpha + np.log(1.0 / (R1 * R2)) / (2 * L)
tau_c = n_r / (c_cm * g_th) # 光子寿命 式(9)
B = c_cm * sigma / n_r # 結合係数
N_th = g_th / sigma # しきい値反転分布 式(8)
Rp_th = N_th / tau
beta = 1e-6 # 自発放出結合係数
eta_out = (np.log(1.0 / R2) / (2 * L)) / g_th
hnu_p, hnu_L = h * c / 808e-9, h * c / 1064e-9
V = 0.01 * L # 断面積0.01cm^2 × 長さ5cm
print(f"g_th = {g_th:.5f} 1/cm")
print(f"tau_c = {tau_c*1e9:.2f} ns")
print(f"N_th = {N_th:.3e} cm^-3")
print(f"Rp_th = {Rp_th:.3e} cm^-3 s^-1")
print(f"出力結合効率 = {eta_out:.3f}, スロープ効率 = {(808/1064)*eta_out:.3f}")
print(f"しきい値ポンプパワー = {Rp_th*V*hnu_p:.3f} W")
実行すると g_th = 0.01013 1/cm、tau_c = 5.99 ns、N_th = 3.618e+16 cm^-3、出力結合効率 = 0.506、スロープ効率 = 0.385、しきい値ポンプパワー = 1.933 W が得られます。手計算で求めた値と完全に一致しました。しきい値反転分布 $3.6\times10^{16}\ \mathrm{cm^{-3}}$ は全 Nd イオン数 $1.38\times10^{20}$ の 0.026% にすぎず、4準位系の「軽さ」が数値で確認できます。
定常状態は式(12)(13)に $\beta$ 項を足したものを連立して解けば、$N$ についての2次方程式になります。物理解($N < N_{\text{th}}$ 側の根)を取ります。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def steady_state(Rp):
"""自発放出結合を含む定常解 (N, phi) を解析的に解く"""
A = (1 - beta) * B * tau_c / tau
Bq = -(Rp * B * tau_c + (1 - beta) / tau + beta * tau_c / tau)
C = Rp
N = (-Bq - np.sqrt(Bq**2 - 4 * A * C)) / (2 * A) # 小さい方の根
phi = tau_c * (Rp - (1 - beta) * N / tau)
return N, phi
Pp = np.linspace(0.02, 10.0, 500) # ポンプパワー [W]
Rp = Pp / (V * hnu_p)
N, phi = np.array([steady_state(x) for x in Rp]).T
Pout = hnu_L * phi * V / tau_c * eta_out # 出力パワー [W]
P_th = Rp_th * V * hnu_p
fig, ax = plt.subplots(1, 3, figsize=(15, 4.4))
ax[0].plot(Pp, Pout, lw=2)
ax[0].axvline(P_th, color="C3", ls="--", label=f"しきい値 {P_th:.2f} W")
ax[0].plot(Pp, 0.385 * (Pp - P_th), "k:", lw=1.2, label="スロープ効率 38.5%")
ax[0].set_xlabel("ポンプパワー [W]"); ax[0].set_ylabel("出力パワー [W]")
ax[0].set_title("入出力特性:しきい値で折れ曲がる"); ax[0].set_ylim(0, 3.3)
ax[0].legend(); ax[0].grid(alpha=0.3)
ax[1].semilogy(Pp, np.maximum(Pout, 1e-12), lw=2)
ax[1].axvline(P_th, color="C3", ls="--")
ax[1].set_xlabel("ポンプパワー [W]"); ax[1].set_ylabel("出力パワー [W](対数)")
ax[1].set_title("対数表示:しきい値で急峻に立ち上がる"); ax[1].grid(alpha=0.3, which="both")
ax[2].plot(Pp, N / N_th, lw=2, color="C2")
ax[2].axhline(1.0, color="C3", ls="--", label="$N_{th}$ にクランプ")
ax[2].axvline(P_th, color="C3", ls=":")
ax[2].set_xlabel("ポンプパワー [W]"); ax[2].set_ylabel("$N / N_{th}$")
ax[2].set_title("反転分布:しきい値以降は増えない"); ax[2].legend(); ax[2].grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout(); plt.show()

3枚のグラフが、理論の予測をそのまま再現しています。左のリニア表示では、1.93 W のしきい値まで出力がほぼゼロで、そこから傾き 0.385 の直線に乗ります。黒い点線(理論のスロープ効率)と数値解が完全に重なっていることを確認してください。中央の対数表示では、しきい値をまたぐ狭い範囲で出力が10桁近く跳ね上がります。これが「レーザーが点く」瞬間で、相転移とよく似た鋭さです。右のグラフは、しきい値以降 $N/N_{\text{th}}$ が 1.000 に張り付いて動かないこと(ゲインクランプ)を示しています。ポンプを10 W まで上げても反転分布は 0.0000001% も増えません。余ったポンプはすべて光子になっているわけです。
緩和振動 — ステップポンプへの応答
次は過渡応答です。$t=0$ でポンプを $r=2$(しきい値の2倍)に立ち上げ、レート方程式を時間積分します。$\tau = 230\ \mu$s と $\tau_c = 6$ ns という4桁以上違う時定数が同居する硬い(stiff)方程式なので、LSODA のような剛性対応ソルバを使います。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.integrate import solve_ivp
r = 2.0 # 規格化ポンプ率 Rp / Rp_th
Rp0 = r * Rp_th
def rhs(t, y):
N, p = y
return [Rp0 - N / tau - B * N * p,
B * N * p - p / tau_c + beta * N / tau]
sol = solve_ivp(rhs, [0, 1.2e-3], [0.0, 1.0], method="LSODA",
rtol=1e-9, atol=[1e2, 1e-6], dense_output=True, max_step=1e-6)
t = np.linspace(0, 1.2e-3, 6000)
N_t, phi_t = sol.sol(t)
# 理論値(式16)
f_r = np.sqrt((r - 1) / (tau * tau_c) - r**2 / (4 * tau**2)) / (2 * np.pi)
t_damp = 2 * tau / r
phi_ss = tau_c * (Rp0 - N_th / tau)
print(f"緩和振動周波数(理論) = {f_r/1e3:.1f} kHz")
print(f"減衰時定数(理論) = {t_damp*1e6:.1f} us")
print(f"定常光子密度(理論) = {phi_ss:.3e} cm^-3, 数値解 = {phi_t[-1]:.3e} cm^-3")
出力は 緩和振動周波数(理論) = 135.6 kHz、減衰時定数(理論) = 230.0 us、定常光子密度(理論) = 9.427e+11 cm^-3, 数値解 = 9.545e+11 cm^-3 となります。数値解と定常解が1%以内で一致しており、式(14)が正しいことが確認できました。わずかなズレは自発放出結合 $\beta$ の寄与です。では波形を描いてみましょう。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
i_pk = np.argmax(phi_t) # 最初のスパイク
amp0 = phi_t[i_pk] / phi_ss - 1.0
print(f"最初のスパイク: 定常値の {phi_t[i_pk]/phi_ss:.1f} 倍 @ t = {t[i_pk]*1e6:.1f} us")
fig, ax = plt.subplots(2, 1, figsize=(10, 7), sharex=True)
ax[0].plot(t * 1e6, phi_t / phi_ss, lw=1.5, color="C0")
ax[0].axhline(1.0, color="C3", ls="--", lw=1.2, label="定常値")
env = 1.0 + amp0 * np.exp(-(t - t[i_pk]) / t_damp)
ax[0].plot(t * 1e6, env, "k:", lw=1.2, label=f"減衰包絡線 $\\exp(-t/{t_damp*1e6:.0f}\\mu s)$")
ax[0].set_ylabel("光子密度 $\\phi / \\phi_{ss}$")
ax[0].set_title(f"緩和振動:ステップポンプ($r$={r})に対するリンギング(理論 {f_r/1e3:.0f} kHz)")
ax[0].legend(); ax[0].grid(alpha=0.3)
ax[1].plot(t * 1e6, N_t / N_th, lw=1.5, color="C2")
ax[1].axhline(1.0, color="C3", ls="--", lw=1.2, label="$N_{th}$")
ax[1].set_xlabel("時間 [$\\mu$s]"); ax[1].set_ylabel("反転分布 $N / N_{th}$")
ax[1].set_title("反転分布は光子密度と位相がずれて振動する(捕食者・被食者の関係)")
ax[1].legend(); ax[1].grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout(); plt.show()

上段の光子密度は、しばらく静かなあとで定常値の約9.5倍という猛烈なスパイクを出し($t \approx 165\ \mu$s)、そのあと振動しながら定常値に収束します。周期は一定ではありません。最初の数発は振幅が大きく非線形なので約 10.9 $\mu$s と間延びしており、振幅が小さくなるにつれて線形化理論の値 7.4 $\mu$s(= 1/136 kHz)に漸近します。式(16)はあくまで定常解のまわりで線形化した結果なので、大振幅のスパイク列には直接は当てはまらない、という但し書きが実測から読み取れるわけです。振動が $\exp(-t/230\ \mu\mathrm{s})$ の包絡線に沿って減衰する様子は、式(16)の減衰率 $r/2\tau$ の予測どおりです。
下段の反転分布は、しきい値に達するまでポンプ蓄積で素直に立ち上がり、その後は $N_{\text{th}}$ の近くで小さく振動します。オーバーシュートの大きさは最大でも $N/N_{\text{th}} = 1.018$、つまりわずか1.8%です。この1.8%の超過だけで光子が10桁増えるというのが、しきい値付近の指数関数的な鋭さの正体です。次の拡大図で、$N$ と $\phi$ のピークの前後関係を確かめましょう。

反転分布(緑・右軸)はスケールを1.8%幅まで拡大してあります。$N$ が $N_{\text{th}}$ を超えてピークに達するのが $t = 164.0\ \mu$s、光子密度(青・左軸)がピークに達するのが $t = 165.1\ \mu$s で、約 1 $\mu$s 遅れています。$N$ のピークが $\phi$ のピークより先行しているのがポイントで、「反転分布が溜まる→光子が爆発して食い尽くす→反転分布が枯れる→光子が減る→また溜まる」という捕食者・被食者サイクルが、目に見える形で現れています。最初のスパイクが定常値を1桁近く超える点は実用上も重要で、パルスレーザーの立ち上がりで光学素子を破壊する事故の原因になります(この現象を積極的に使って巨大パルスを取り出すのがQスイッチです)。
ゲイン曲線と縦モード櫛
最後に、周波数領域を見ます。ゲイン曲線と共振器の縦モード櫛(式(11))を重ね描きし、何本のモードがしきい値を超えるかを数えます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
c = 2.99792458e8
n_r, L_m = 1.82, 0.05 # 屈折率、共振器長 [m]
FSR = c / (2 * n_r * L_m) # 式(11)
dnu_g = 1.19e11 # Nd:YAG のゲイン帯域 (FWHM) 119 GHz
g_rel_th = 0.85 # ピーク利得で規格化したしきい値
x = np.linspace(-2.2e11, 2.2e11, 5000)
gain = np.exp(-4 * np.log(2) * (x / dnu_g) ** 2) # ガウス型ゲイン
q = np.arange(-int(2.2e11 / FSR), int(2.2e11 / FSR) + 1) * FSR
gm = np.exp(-4 * np.log(2) * (q / dnu_g) ** 2)
lasing = gm > g_rel_th
plt.figure(figsize=(11, 5))
plt.plot(x / 1e9, gain, lw=2, color="C0", label=f"ゲイン曲線(帯域 {dnu_g/1e9:.0f} GHz)")
plt.axhline(g_rel_th, color="C3", ls="--", lw=1.5, label="しきい値利得")
plt.vlines(q[~lasing] / 1e9, 0, gm[~lasing], color="gray", lw=0.8, alpha=0.6)
plt.vlines(q[lasing] / 1e9, 0, gm[lasing], color="C2", lw=1.4)
plt.plot(q[lasing] / 1e9, gm[lasing], "o", ms=3, color="C2",
label=f"発振する縦モード({lasing.sum()} 本)")
plt.xlabel("中心からの周波数離調 [GHz]"); plt.ylabel("規格化した利得")
plt.title(f"ゲイン曲線と縦モード櫛:モード間隔 {FSR/1e9:.2f} GHz")
plt.ylim(0, 1.15); plt.legend(loc="upper right"); plt.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout(); plt.show()

このグラフから、レーザーのスペクトルがなぜ「線の集まり」になるのかがよく分かります。連続的なゲイン曲線があっても、共振器が許すのは 1.65 GHz 間隔の離散的な周波数だけ(櫛の歯)。そのうちしきい値ラインを超えた 35 本(緑)だけが発振します。ゲイン帯域(FWHM)119 GHz を FSR 1.65 GHz で割った約72本が「帯域内に入る櫛の歯の数」で、そのうち約半分がしきい値を超える計算です。単一周波数化したければ、共振器を短くして FSR をゲイン帯域より広げる(マイクロチップレーザー)か、エタロンなど周波数選択素子を入れて他のモードのロスを増やすか、リング共振器で空間ホールバーニングを消す、といった手を打つことになります。
まとめ
本記事では、レーザー発振の原理としきい値条件を、アインシュタイン係数から緩和振動まで一本の筋道で追いました。
- アインシュタインのA/B係数:熱平衡でのレート釣り合いとプランク分布を突き合わせるだけで、$B_{12}=B_{21}$(吸収と誘導放出は等確率)と $A_{21}/B_{21} = 8\pi h\nu^3/c^3$ が導けます。$A \propto \nu^3$ が「高周波ほど自然放出が優勢」を意味し、メーザーが先に実現した理由になっています
- 反転分布の必然性:熱平衡での誘導放出/自然放出比は1モードあたり光子数 $\bar{n} = 1/(e^{h\nu/k_BT}-1)$ に等しく、可視光・室温では $10^{-42}$。正味の増幅には $N_2 > N_1$、すなわち負温度に相当する非平衡状態が不可欠です
- 3準位系 vs 4準位系:3準位系は全原子の半分を持ち上げないと利得がゼロにならず、しきい値ポンプ率が $N_t/2\tau$ で決まります。4準位系は下準位が空なのでしきい値が共振器ロスだけで決まり、Nd:YAG の例では約1900倍の差がつきます
- しきい値条件:往復利得がロスを上回る条件 $R_1R_2e^{2(g-\alpha)L}\geq 1$ から $g_{\text{th}} = \alpha + \frac{1}{2L}\ln\frac{1}{R_1R_2}$ が導かれ、光子寿命 $\tau_c = n/(cg_{\text{th}})$ と等価です
- 縦モード:位相条件 $2kL = 2\pi q$ からモード間隔 $\Delta\nu = c/2nL$ が決まり、ゲイン帯域との比で発振モード数が決まります。均一広がりならモード競合で単一モード化、不均一広がりならホールバーニングでマルチモード化します
- レート方程式:しきい値以降は反転分布が $N_{\text{th}}$ にクランプされ、余剰ポンプがそのまま光子になる($\phi = \tau_c(R_p-R_{p,\text{th}})$)。これが入出力特性のキンクとスロープ効率 $\eta_s = (\nu_L/\nu_p)\eta_{\text{out}}$ の起源です
- 緩和振動:線形化した2×2系の固有値から $\omega_r \approx \sqrt{(r-1)/\tau\tau_c}$、減衰率 $r/2\tau$ が出ます。Nd:YAG で 136 kHz、半導体レーザーでは GHz 帯に入り、直接変調の帯域限界を決めます
この記事の内容は、レーザーを使うあらゆる場面の土台になります。次のステップとしては、まずQスイッチ(共振器のロスを一時的に大きくして反転分布を溜め込み、一気に解放してジャイアントパルスを得る手法)を学ぶと、緩和振動の理解がそのまま応用に化けます。また、モードロックは本記事の縦モードの議論の延長で、位相をそろえる条件を追いかけることになります。半導体レーザーに進むなら、電流注入という別のポンプ機構と、キャリア寿命が短いことによる高速変調特性がテーマです。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。
- 波動光学入門 — 共振器の位相条件や横モードの理解を深める
- 宇宙光通信のための光増幅器 — 発振させずに増幅だけを使う応用。反転分布と利得飽和の知識がそのまま生きます
- 半導体の基礎 — 半導体レーザーのポンプ機構(電流注入とキャリア再結合)へつなぐ
- 光ファイバー通信の基礎 — レーザー光源をシステムとして使う視点