橋が荷重を受けて少しだけたわんでも元に戻るのはなぜでしょうか。また、航空機の外皮は飛行中に引き伸ばされ、着陸後には元の形に戻ります。これらは材料が「弾性変形」をしているからです。弾性変形の本質をたった一本の式で表したのがフックの法則です。
フックの法則を理解すると、構造解析・有限要素法・熱応力計算など工学の広い分野で「材料がどう変形するか」を計算できるようになります。さらにポアソン比やせん断弾性係数の意味を把握することで、多軸応力が作用する現実の構造物も解析できるようになります。
本記事の内容
- バネのアナロジーから $\sigma = E\varepsilon$ への橋渡し
- 応力・ひずみの基礎の復習
- ポアソン比 $\nu$ の定義と物理的直感
- 3次元の一般化フックの法則(コンプライアンス行列・剛性行列)
- 弾性係数の関係式: $G, K, \lambda, \mu$ の導出
- 熱ひずみ(温度変化と弾性ひずみの重ね合わせ)
- 多軸応力状態での数値例と Python 検証
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
バネから材料へ: フックの法則の直感
フックの法則は 17 世紀にロバート・フックが発見した「変位(伸び)に比例した復元力が生まれる」という観察に始まります。バネを例にとると、バネの自然長からの変位 $x$ に対して復元力 $F$ は
$$ F = -kx $$
と書けます。$k$ はバネ定数で、バネが硬いほど大きな値をとります。

上の図を見ると直感が掴めます。変形なしのとき復元力はゼロ、引っ張ると反対向きの力が生じ、押し縮めると逆方向の力が生じます。この「変位に比例した力」という関係が、材料の弾性変形でもそのまま成立します。
ただし、「バネ定数 $k$」は形状(長さ・断面積)に依存するため、材料固有の性質とは言えません。同じ材料でも太いバネのほうが硬く、長いバネのほうが柔らかくなります。そこで形状の影響を取り除いた「単位面積当たりの力(応力)」と「単位長さ当たりの伸び(ひずみ)」を使うと、材料固有の比例定数が定義できます。それがヤング率 $E$ です。
ここまでで、フックの法則がバネから材料へ自然に拡張されることがわかりました。次は応力とひずみの定義を確認してから、定式化に進みましょう。
応力とひずみの復習
垂直応力とせん断応力
力学では、物体内部の任意の断面に作用する「単位面積当たりの力」を応力と呼びます。断面法線方向の成分が垂直応力 $\sigma$、断面に平行な成分がせん断応力 $\tau$ です。
$$ \sigma = \frac{F_\perp}{A}, \qquad \tau = \frac{F_\parallel}{A} $$
3次元では応力は 9 成分のテンソル $\boldsymbol{\sigma}$ で表されます。
$$ \boldsymbol{\sigma} = \begin{pmatrix} \sigma_{xx} & \tau_{xy} & \tau_{xz} \\ \tau_{yx} & \sigma_{yy} & \tau_{yz} \\ \tau_{zx} & \tau_{zy} & \sigma_{zz} \end{pmatrix} $$
対角成分 $\sigma_{xx}, \sigma_{yy}, \sigma_{zz}$ が垂直応力、非対角成分がせん断応力です。角運動量保存(モーメントの平衡)から $\tau_{ij} = \tau_{ji}$ が成り立つため、独立成分は 6 つです。

上の図では、微小直方体の各面に作用する応力成分を矢印で示しています。赤い矢印が垂直応力(法線方向)、紫の矢印がせん断応力(接線方向)です。3軸各方向に垂直応力が存在し、面と面の間ではせん断応力が対として働きます。
垂直ひずみとせん断ひずみ
ひずみは変形の大きさを無次元化したものです。長さ $L_0$ の棒が $\Delta L$ だけ伸びたとき、垂直ひずみは
$$ \varepsilon = \frac{\Delta L}{L_0} $$
です。せん断変形に対しては工学的せん断ひずみ $\gamma$ を使います。
$$ \gamma_{xy} = \frac{\partial u}{\partial y} + \frac{\partial v}{\partial x} $$
ここで $u, v$ は $x, y$ 方向の変位成分です。工学的せん断ひずみ $\gamma_{xy}$ は、テンソルせん断ひずみ $\varepsilon_{xy}$ の 2 倍に相当します($\gamma_{xy} = 2\varepsilon_{xy}$)。
応力と同様に、ひずみも 6 独立成分 $(\varepsilon_{xx}, \varepsilon_{yy}, \varepsilon_{zz}, \gamma_{yz}, \gamma_{zx}, \gamma_{xy})$ で記述されます。
応力とひずみの定義を確認したところで、これらを結びつけるフックの法則の定式化に進みましょう。
1次元フックの法則とヤング率
最もシンプルな形
弾性域において、垂直応力 $\sigma$ と垂直ひずみ $\varepsilon$ は比例します。
$$ \sigma = E\varepsilon $$
この比例定数 $E$ がヤング率(Young’s modulus, 縦弾性係数)で、単位は Pa(Pascal)です。
$$ E = \frac{\sigma}{\varepsilon} = \frac{F/A}{\Delta L / L_0} $$
分子は「面積当たりの力」、分母は「長さ当たりの変形」ですから、形状によらない材料固有の硬さを表します。

上の応力-ひずみ線図から、弾性域(降伏点より左側)での線形関係が明確に見えます。鋼(青線)はアルミ(赤線)の約 3 倍のヤング率をもつため、同じひずみを与えるのに 3 倍の応力が必要です。傾きがそのままヤング率 $E$ に対応します。
代表的な材料のヤング率
| 材料 | ヤング率 $E$ [GPa] |
|---|---|
| 鋼 | 200 |
| チタン | 110 |
| アルミニウム | 70 |
| 銅 | 120 |
| ガラス | 70 |
| CFRP(繊維方向) | 150 |
| ゴム | 0.01〜0.1 |
鋼のヤング率は約 200 GPa であり、1 mm × 1 mm の断面積の鋼棒を 1 mm 引き伸ばすには(長さ 1 m の場合)200 MPa 、すなわち約 200 kN の力が必要という計算になります。この圧倒的な剛性が鋼を構造材料として不可欠にしている理由です。
1次元のフックの法則は理解できました。しかし実際の構造物ではすべての方向に応力が生じます。次のセクションでは、「横方向にも変形が生じる」というポアソン効果を見ていきます。
ポアソン比: 縦伸び・横縮みの法則
縦伸び横縮みとは
棒を軸方向に引っ張ると、軸方向(縦)には伸びます。しかし同時に、横方向(軸に垂直な方向)には縮みます。この日常的に観察できる現象を定量化したのがポアソン比 $\nu$ です。
$$ \nu = -\frac{\varepsilon_{\text{lateral}}}{\varepsilon_{\text{axial}}} $$
マイナス符号は「縦が正の方向に伸びるとき横は負(縮む)方向に変形する」という符号の慣習を打ち消し、$\nu$ を正の値で定義するためです。

上の図では引張(左)と圧縮(右)を比較しています。引張では縦に伸びて横に縮み、圧縮では縦に縮んで横に広がります。変形量はポアソン比の大小で決まります。
$z$ 方向に引っ張ったとき($\varepsilon_{zz} > 0$)、横方向のひずみは
$$ \varepsilon_{xx} = \varepsilon_{yy} = -\nu\,\varepsilon_{zz} $$
となります。等方性材料では $x$ 方向と $y$ 方向の横収縮が等しいため、両方に同じ $-\nu\,\varepsilon_{zz}$ が加わります。
ポアソン比の範囲
ポアソン比の理論的な範囲は熱力学的な安定条件(ひずみエネルギーが正定値であること)から
$$ -1 \le \nu \le \frac{1}{2} $$
と制限されます。通常の工業材料では $0 \le \nu \le 1/2$ の範囲に収まります。
| 材料 | ポアソン比 $\nu$ | 特徴 |
|---|---|---|
| 鋼 | 0.30 | 最も一般的な構造材料 |
| アルミニウム | 0.33 | 軽量構造材料 |
| ゴム | 0.50 | 非圧縮性(体積変化なし) |
| コルク | ≈ 0 | ワインの栓に最適(横に広がらない) |
| オーセティック材料 | $< 0$ | 引っ張ると横にも広がる特殊材料 |
$\nu = 0.5$ のとき体積変化がゼロになる(非圧縮性)という重要な性質があります。これは後で体積弾性率の導出で確認します。
ポアソン効果を理解したところで、3次元でフックの法則を一般化しましょう。これにより、あらゆる応力状態に対応したひずみの計算が可能になります。
3次元の一般化フックの法則
重ね合わせの原理
等方性弾性材料では、重ね合わせの原理(線形性)が成立します。$x, y, z$ 方向に独立に応力を加えたときの効果を足し合わせることができるのです。
$x$ 方向の垂直ひずみ $\varepsilon_{xx}$ を例に考えます。
- $\sigma_{xx}$ だけ加えたとき: $\varepsilon_{xx} = \sigma_{xx}/E$
- $\sigma_{yy}$ だけ加えたとき: ポアソン効果で $\varepsilon_{xx} = -\nu\,\sigma_{yy}/E$
- $\sigma_{zz}$ だけ加えたとき: ポアソン効果で $\varepsilon_{xx} = -\nu\,\sigma_{zz}/E$
3 つを重ね合わせると
$$ \varepsilon_{xx} = \frac{1}{E}\left[\sigma_{xx} – \nu\left(\sigma_{yy} + \sigma_{zz}\right)\right] $$
同様に $y, z$ 方向も導出できます。
垂直成分の一般化フックの法則
$$ \begin{align} \varepsilon_{xx} &= \frac{1}{E}\left[\sigma_{xx} – \nu(\sigma_{yy} + \sigma_{zz})\right] \\[6pt] \varepsilon_{yy} &= \frac{1}{E}\left[\sigma_{yy} – \nu(\sigma_{xx} + \sigma_{zz})\right] \\[6pt] \varepsilon_{zz} &= \frac{1}{E}\left[\sigma_{zz} – \nu(\sigma_{xx} + \sigma_{yy})\right] \end{align} $$
各式の構造は同じです。自分の軸方向の応力を $E$ で割り(直接効果)、他の 2 軸の応力のポアソン効果($-\nu/E$ 倍)を引きます。
せん断成分
せん断応力とせん断ひずみの関係はせん断弾性係数(横弾性係数)$G$ によって結ばれます。
$$ \gamma_{yz} = \frac{\tau_{yz}}{G}, \qquad \gamma_{zx} = \frac{\tau_{zx}}{G}, \qquad \gamma_{xy} = \frac{\tau_{xy}}{G} $$
等方性材料では 3 方向のせん断成分に同一の $G$ が対応します(異方性材料ではこれが変わります)。
重要なのは、等方性材料の弾性変形では垂直応力はせん断ひずみを生じさせず、せん断応力は垂直ひずみを生じさせないという点です。これはコンプライアンス行列の零ブロック(後述)に対応します。
行列表示: コンプライアンス行列
6 成分をベクトルにまとめると、フックの法則は行列形式で書けます。
$$ \begin{pmatrix} \varepsilon_{xx} \\ \varepsilon_{yy} \\ \varepsilon_{zz} \\ \gamma_{yz} \\ \gamma_{zx} \\ \gamma_{xy} \end{pmatrix} = \underbrace{\frac{1}{E} \begin{pmatrix} 1 & -\nu & -\nu & 0 & 0 & 0 \\ -\nu & 1 & -\nu & 0 & 0 & 0 \\ -\nu & -\nu & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 2(1+\nu) & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 2(1+\nu) & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 2(1+\nu) \end{pmatrix}}_{\text{コンプライアンス行列 } \boldsymbol{S}} \begin{pmatrix} \sigma_{xx} \\ \sigma_{yy} \\ \sigma_{zz} \\ \tau_{yz} \\ \tau_{zx} \\ \tau_{xy} \end{pmatrix} $$

コンプライアンス行列の構造から 2 つの重要な事実が読み取れます。第一に、左上 $3\times 3$ ブロック(赤系)は垂直応力と垂直ひずみの結合を表し、$1/E$ と $-\nu/E$ だけで構成されます。第二に、右下 $3\times 3$ ブロック(緑系)はせん断応力とせん断ひずみの結合で、$1/G = 2(1+\nu)/E$ だけが対角に並びます。非対角ブロックはすべてゼロ、つまり垂直とせん断が互いに独立です。
剛性行列(逆方向: ひずみ → 応力)
コンプライアンス行列 $\boldsymbol{S}$ を逆転させると、ひずみから応力を求める剛性行列 $\boldsymbol{C}$(スティフネス行列)が得られます。
$$ \boldsymbol{\sigma} = \boldsymbol{C}\,\boldsymbol{\varepsilon} $$
等方性材料では
$$ \boldsymbol{C} = \frac{E}{(1+\nu)(1-2\nu)} \begin{pmatrix} 1-\nu & \nu & \nu & 0 & 0 & 0 \\ \nu & 1-\nu & \nu & 0 & 0 & 0 \\ \nu & \nu & 1-\nu & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & \frac{1-2\nu}{2} & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & \frac{1-2\nu}{2} & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \frac{1-2\nu}{2} \end{pmatrix} $$
有限要素法(FEM)では剛性行列を組み立てて解くため、この形が直接現れます。
これで3次元の一般化フックの法則が整いました。次は $E$ と $\nu$ という 2 つのパラメータから、他の弾性係数 $G$・$K$・ラメ定数を導出します。
ポアソン比とヤング率の関係式
ポアソン比・ヤング率から他の係数は全て決まる
等方性材料の弾性挙動は、独立な弾性定数がわずか 2 つで完全に決まります。普通は $E$(ヤング率)と $\nu$(ポアソン比)を選びます。$G$(せん断弾性係数)・$K$(体積弾性率)・ラメ定数 $\lambda, \mu$ はすべて $E$ と $\nu$ から一意に導出されます。これを「等方性弾性体の 2 定数性」と言います。

グラフから、ポアソン比 $\nu$ が大きくなるとせん断弾性係数 $G$(左)が単調に小さくなる一方、体積弾性率 $K$(右)は $\nu \to 0.5$ で急激に発散することが確認できます。これは後述の関係式から直接理解できます。
せん断弾性係数 G の導出
$$ \boxed{G = \frac{E}{2(1+\nu)}} $$
導出の流れ: 純せん断状態($\tau_{xy}$ だけ加えた状態)を 45°回転させると主応力状態になります。このとき主応力は $\pm\tau_{xy}$ であることが知られています。
45° 傾いた方向のひずみを 2 通りで表します。一方は $\gamma_{xy}/2 = \tau_{xy}/(2G)$(回転角の幾何学)、もう一方は主応力に一般化フックの法則を適用した
$$ \varepsilon_{45°} = \frac{1}{E}\left[\tau_{xy} – \nu(-\tau_{xy})\right] = \frac{(1+\nu)\tau_{xy}}{E} $$
の 2 つの式が一致する条件から、上の関係式が得られます。
$\nu = 0.30$ の鋼では $G = 200/(2 \times 1.30) \approx 76.9$ GPa となります。
体積弾性率 K の導出
体積弾性率 $K$ は、等方的な圧力(静水圧)$p = -\sigma_{\rm hydro}$ に対する体積ひずみ $\varepsilon_{\rm vol}$ の比です。
$$ K = \frac{-p}{\varepsilon_{\rm vol}} = \frac{\sigma_{\rm hydro}}{\varepsilon_{\rm vol}/3 \cdot 3} = \frac{\sigma_{\rm hydro}}{\varepsilon_{\rm vol}} $$
静水圧状態では $\sigma_{xx} = \sigma_{yy} = \sigma_{zz} = \sigma_{\rm hydro}$。これを一般化フックの法則に代入すると
$$ \varepsilon_{xx} = \frac{1}{E}\left[\sigma_{\rm hydro} – \nu(2\sigma_{\rm hydro})\right] = \frac{1-2\nu}{E}\sigma_{\rm hydro} $$
体積ひずみは 3 方向の垂直ひずみの和なので
$$ \varepsilon_{\rm vol} = \varepsilon_{xx} + \varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz} = 3 \cdot \frac{1-2\nu}{E}\sigma_{\rm hydro} $$
よって
$$ \boxed{K = \frac{E}{3(1-2\nu)}} $$
$\nu = 0.5$ のとき $K \to \infty$ となり、体積が変化しない(非圧縮性)材料を表します。ゴムはこれに近いため、タイヤを圧縮しても形は変わるものの体積はほぼ一定です。
ラメ定数 λ, μ
弾性論ではラメ定数 $\lambda$(ラムダ)と $\mu$(ミュー)を使う記法もあります。$\mu$ はせん断弾性係数 $G$ そのものです。
$$ \mu = G = \frac{E}{2(1+\nu)} $$
$$ \lambda = \frac{\nu E}{(1+\nu)(1-2\nu)} $$
剛性行列 $\boldsymbol{C}$ の成分は $\lambda$ と $\mu$ で簡潔に書けます。
$$ C_{ijkl} = \lambda\,\delta_{ij}\delta_{kl} + \mu\left(\delta_{ik}\delta_{jl} + \delta_{il}\delta_{jk}\right) $$
$\delta_{ij}$ はクロネッカーのデルタです。ラメ定数は理論解析や数値計算のコードで頻出する表記です。
弾性定数の相互変換表
| 求める係数 | $E, \nu$ から | $G, K$ から |
|---|---|---|
| $G$ | $E/[2(1+\nu)]$ | $G$ |
| $K$ | $E/[3(1-2\nu)]$ | $K$ |
| $E$ | $E$ | $9KG/(3K+G)$ |
| $\nu$ | $\nu$ | $(3K-2G)/[2(3K+G)]$ |
| $\lambda$ | $\nu E/[(1+\nu)(1-2\nu)]$ | $K – 2G/3$ |
実用上最も重要な 2 本の関係式は
$$ G = \frac{E}{2(1+\nu)}, \qquad K = \frac{E}{3(1-2\nu)} $$
の 2 つです。これを記憶しておけば残りはすべて変換できます。
ポアソン比による体積変化の詳細
ポアソン比が体積変化にどう影響するかをより詳しく見ておきましょう。

左のグラフでは、$x$ 方向に 1% のひずみを与えたときの体積ひずみを $\nu$ に対してプロットしています。$\nu = 0$(コルク)では体積ひずみが 1%(軸ひずみと同じ)で最大になり、$\nu = 0.5$(ゴム)では体積ひずみがゼロになります。右の棒グラフでは各材料の体積弾性率 $K$ を比較しており、ゴム($\nu \approx 0.5$)では $K$ が極めて大きくなる(グラフ外)ことを示しています。
体積ひずみの式を確認しておきます。$x$ 方向だけに応力 $\sigma_x$ を加えた場合
$$ \varepsilon_{\rm vol} = \varepsilon_{xx} + \varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz} = \varepsilon_x + (-\nu\varepsilon_x) + (-\nu\varepsilon_x) = (1 – 2\nu)\varepsilon_x $$
$\nu = 0.5$ ならば $(1 – 2 \times 0.5) = 0$ となり体積変化がゼロ、$\nu = 0$ ならば体積ひずみ = 軸ひずみとなります。

上の図では鋼($\nu=0.30$)に一軸引張を加えたときの各方向ひずみをプロットしています。軸ひずみ(青線)が正に増加する一方、横ひずみ(赤破線)はその 0.30 倍だけ負に変化します。体積ひずみ(緑点線)は $(1-2\times0.30) = 0.40$ 倍のひずみで正に増加しており、引張によって体積が増えることが確認できます。
体積変化の理解が深まりました。次は実際の構造物で頻出する「温度変化による熱ひずみ」を弾性ひずみに組み込む方法を解説します。
温度ひずみ(熱ひずみ)との重ね合わせ
熱ひずみの定義
材料が温度変化 $\Delta T$ を受けると、応力なしでも自由に伸縮します。この変形を熱ひずみと呼び
$$ \varepsilon_{\rm th} = \alpha\,\Delta T $$
と書きます。$\alpha$ は線膨張係数(熱膨張係数)で、単位は $1/K$(または $1/°C$)です。代表値として鋼 $\alpha \approx 12 \times 10^{-6}\ \text{K}^{-1}$、アルミ $\alpha \approx 23 \times 10^{-6}\ \text{K}^{-1}$ などがあります。
熱弾性フックの法則
弾性ひずみ(応力が原因)と熱ひずみ(温度変化が原因)の重ね合わせにより、全ひずみは
$$ \varepsilon_{xx}^{\rm total} = \underbrace{\frac{1}{E}\left[\sigma_{xx} – \nu(\sigma_{yy} + \sigma_{zz})\right]}_{\text{弾性ひずみ}} + \underbrace{\alpha\,\Delta T}_{\text{熱ひずみ}} $$
と表されます。同様に $y, z$ 方向にも $\alpha\,\Delta T$ が加わります。せん断成分には熱ひずみは発生しません(等方性材料の場合)。
構造物が変形を拘束されていると(両端が固定されている場合など)、熱膨張しようとしても変形できないため、内部に応力が発生します。これを熱応力と呼びます。具体的には
$$ \sigma_{\rm th} = -E\,\alpha\,\Delta T $$
(一次元・完全拘束の場合)です。マイナス符号は「加熱すると圧縮応力が生じる」ことを意味します。
応用: 異なる材料を接合した場合
金属と CFRP を接合した構造では、線膨張係数の差(金属 $\alpha \approx 12 \times 10^{-6}$ vs CFRP の繊維方向 $\alpha \approx 0 \sim 2 \times 10^{-6}$)から大きな熱応力が界面に生じます。これが複合材料構造の熱疲労や剥離の主な原因となります。
熱ひずみを理解したところで、数値例で一般化フックの法則の使い方を確認しましょう。
数値例: 多軸応力状態でのひずみ計算
問題設定
鋼($E = 200\,\text{GPa}$、$\nu = 0.30$)に以下の応力状態が作用しているとします。
$$ \sigma_{xx} = 150\,\text{MPa}, \quad \sigma_{yy} = -50\,\text{MPa}, \quad \sigma_{zz} = 80\,\text{MPa} $$
$$ \tau_{yz} = 0, \quad \tau_{zx} = 0, \quad \tau_{xy} = 40\,\text{MPa} $$
各ひずみ成分を計算します。
計算手順
まず $G$ を求めます(E, ν から計算)。
$$ G = \frac{E}{2(1+\nu)} = \frac{200}{2(1+0.30)} = 76.9\,\text{GPa} $$
次に一般化フックの法則を適用します。$\varepsilon_{xx}$ の計算から始めます。
$\sigma_{xx}$ による直接効果は $\sigma_{xx}/E = 150/200000 = 7.50 \times 10^{-4}$、$\sigma_{yy}, \sigma_{zz}$ によるポアソン効果を引きます。
$$ \varepsilon_{xx} = \frac{1}{E}\left[\sigma_{xx} – \nu(\sigma_{yy} + \sigma_{zz})\right] = \frac{1}{200000}\left[150 – 0.30 \times (-50 + 80)\right] $$
括弧内は $150 – 0.30 \times 30 = 150 – 9 = 141\,\text{MPa}$ ですので
$$ \varepsilon_{xx} = \frac{141}{200000} = 7.05 \times 10^{-4} \quad (\approx 705\,\mu\varepsilon) $$
同様に $\varepsilon_{yy}$ を求めます。$\sigma_{yy}$ の直接効果から $\sigma_{xx}, \sigma_{zz}$ のポアソン効果を引きます。
$$ \varepsilon_{yy} = \frac{1}{E}\left[\sigma_{yy} – \nu(\sigma_{xx} + \sigma_{zz})\right] = \frac{1}{200000}\left[-50 – 0.30 \times (150 + 80)\right] $$
括弧内は $-50 – 0.30 \times 230 = -50 – 69 = -119\,\text{MPa}$ ですので
$$ \varepsilon_{yy} = \frac{-119}{200000} = -5.95 \times 10^{-4} \quad (\approx -595\,\mu\varepsilon) $$
$\varepsilon_{zz}$ を求めます。
$$ \varepsilon_{zz} = \frac{1}{E}\left[\sigma_{zz} – \nu(\sigma_{xx} + \sigma_{yy})\right] = \frac{1}{200000}\left[80 – 0.30 \times (150 – 50)\right] $$
括弧内は $80 – 30 = 50\,\text{MPa}$ ですので
$$ \varepsilon_{zz} = \frac{50}{200000} = 2.50 \times 10^{-4} \quad (\approx 250\,\mu\varepsilon) $$
最後にせん断ひずみです。
$$ \gamma_{xy} = \frac{\tau_{xy}}{G} = \frac{40}{76923} = 5.20 \times 10^{-4} \quad (\approx 520\,\mu\text{rad}) $$
体積ひずみは
$$ \varepsilon_{\rm vol} = \varepsilon_{xx} + \varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz} = 705 – 595 + 250 = 360\,\mu\varepsilon $$
これは静水圧成分 $\bar{\sigma} = (150 – 50 + 80)/3 = 60\,\text{MPa}$ に対して体積弾性率で求めた値 $\varepsilon_{\rm vol} = \bar{\sigma} \times 3/E \times (1-2\nu) = 60 \times 3/(200000) \times 0.40 = 360\,\mu\varepsilon$ と一致します。
次のセクションでこれを Python で検証し、さらに多様な応力状態に対する計算を可視化します。
Python による検証と可視化
弾性係数の関係式を検証する
一般化フックの法則を NumPy で実装し、コンプライアンス行列を使って先ほどの数値例を検証します。
import numpy as np
# 材料定数(鋼)
E = 200e9 # Pa
nu = 0.30
# せん断弾性係数の計算
G = E / (2 * (1 + nu))
K = E / (3 * (1 - 2 * nu))
lam = nu * E / ((1 + nu) * (1 - 2 * nu)) # ラメ定数 lambda
print(f"ヤング率 E = {E/1e9:.1f} GPa")
print(f"せん断係数 G = {G/1e9:.2f} GPa")
print(f"体積弾性率 K = {K/1e9:.2f} GPa")
print(f"ラメ定数 λ = {lam/1e9:.2f} GPa")
print(f"ラメ定数 μ = {G/1e9:.2f} GPa (= G)")
実行結果は以下のとおりです(実際に検証済み):
ヤング率 E = 200.0 GPa
せん断係数 G = 76.92 GPa
体積弾性率 K = 166.67 GPa
ラメ定数 λ = 115.38 GPa
ラメ定数 μ = 76.92 GPa (= G)
鋼のせん断弾性係数 $G \approx 76.9$ GPa は教科書値と一致します。体積弾性率 $K \approx 166.7$ GPa も文献値に対応しています。
# コンプライアンス行列の構築
def compliance_matrix(E, nu):
"""6x6 コンプライアンス行列 S を返す"""
G = E / (2 * (1 + nu))
S = np.zeros((6, 6))
# 垂直応力-垂直ひずみブロック
S[0, 0] = S[1, 1] = S[2, 2] = 1.0 / E
for i, j in [(0, 1), (0, 2), (1, 0), (1, 2), (2, 0), (2, 1)]:
S[i, j] = -nu / E
# せん断ブロック
S[3, 3] = S[4, 4] = S[5, 5] = 1.0 / G
return S
# 数値例の応力状態 [σxx, σyy, σzz, τyz, τzx, τxy]
sigma = np.array([150e6, -50e6, 80e6, 0.0, 0.0, 40e6])
S = compliance_matrix(E, nu)
eps = S @ sigma
labels = ["εxx", "εyy", "εzz", "γyz", "γzx", "γxy"]
print("ひずみ成分 [μstrain]:")
for lab, e in zip(labels, eps):
print(f" {lab} = {e * 1e6:+.1f}")
print(f"体積ひずみ εvol = {(eps[0]+eps[1]+eps[2])*1e6:.1f} μstrain")
実行結果(検証済み):
ひずみ成分 [μstrain]:
εxx = +705.0
εyy = -595.0
εzz = +250.0
γyz = +0.0
γzx = +0.0
γxy = +520.0
体積ひずみ εvol = 360.0 μstrain
手計算の結果と完全に一致しています。$\varepsilon_{xx} = 705\,\mu\varepsilon$、$\varepsilon_{yy} = -595\,\mu\varepsilon$、体積ひずみ $= 360\,\mu\varepsilon$ という数値が確認できました。
コードから 2 つの重要な点が読み取れます。第一に、圧縮応力 $\sigma_{yy} = -50\,\text{MPa}$ が作用することで、$y$ 方向だけでなくポアソン効果によって $x, z$ 方向のひずみにも影響が出ています。第二に、せん断応力 $\tau_{xy}$ は垂直ひずみには一切影響せず、純粋にせん断ひずみ $\gamma_{xy}$ だけを生じさせます(等方性材料の独立性)。
多軸応力下でのひずみ可視化
さまざまな応力状態(一軸引張・等二軸・静水圧・純せん断)でのひずみを比較します。
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
for cand in ["Hiragino Sans","Yu Gothic","Noto Sans CJK JP","IPAexGothic","Meiryo"]:
if any(cand==f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"]=cand; break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"]=False
S = compliance_matrix(200e9, 0.30)
cases = {
'一軸引張': np.array([100e6, 0, 0, 0, 0, 0]),
'等二軸': np.array([100e6, 100e6, 0, 0, 0, 0]),
'静水圧': np.array([100e6, 100e6, 100e6, 0, 0, 0]),
'純せん断': np.array([0, 0, 0, 0, 0, 100e6]),
}
comp_labels = ['εxx','εyy','εzz','γyz','γzx','γxy']
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 6))
x = np.arange(6)
width = 0.2
colors = ['blue', 'red', 'green', 'purple']
for idx, (label, sigma) in enumerate(cases.items()):
eps = S @ sigma * 1e6 # μstrain
ax.bar(x + idx * width, eps, width, label=label, color=colors[idx], alpha=0.75)
ax.axhline(y=0, color='k', lw=1)
ax.set_xticks(x + width * 1.5)
ax.set_xticklabels(comp_labels, fontsize=12)
ax.set_ylabel('ひずみ [μstrain]')
ax.set_title('多軸応力状態でのひずみ計算 (鋼, 応力 100 MPa)')
ax.legend()
ax.grid(True, alpha=0.3, axis='y')
plt.tight_layout()
plt.show()

グラフから 3 つの重要な点が確認できます。第一に、一軸引張(青)では $\varepsilon_{xx}$ が正(最大)、$\varepsilon_{yy} = \varepsilon_{zz}$ が負(ポアソン効果)になります。第二に、静水圧(緑)では全方向に等しい正のひずみが生じ、体積ひずみが最も大きくなります。第三に、純せん断(紫)では垂直ひずみがゼロで、$\gamma_{xy}$ だけに変形が現れます。各応力状態の独立性が視覚的に確認できます。
材料別の弾性係数を比較する
materials = ['鋼', 'チタン', 'アルミ', '銅', 'ガラス', 'CFRP', 'ナイロン', 'ゴム']
E_vals = [200, 110, 70, 120, 70, 150, 2.5, 0.05] # GPa
nu_vals = [0.30, 0.34, 0.33, 0.34, 0.23, 0.30, 0.40, 0.49]
for mat, E_v, nu_v in zip(materials, E_vals, nu_vals):
G_v = E_v / (2 * (1 + nu_v))
K_v = E_v / (3 * (1 - 2 * nu_v))
print(f"{mat:12s} E={E_v:6.1f} nu={nu_v:.2f} G={G_v:6.2f} K={K_v:7.2f} GPa")
実行結果:
鋼 E= 200.0 nu=0.30 G= 76.92 K= 166.67 GPa
チタン E= 110.0 nu=0.34 G= 41.04 K= 114.58 GPa
アルミ E= 70.0 nu=0.33 G= 26.32 K= 68.63 GPa
銅 E= 120.0 nu=0.34 G= 44.78 K= 125.00 GPa
ガラス E= 70.0 nu=0.23 G= 28.46 K= 43.21 GPa
CFRP E= 150.0 nu=0.30 G= 57.69 K= 125.00 GPa
ナイロン E= 2.5 nu=0.40 G= 0.89 K= 4.17 GPa
ゴム E= 0.05 nu=0.49 G= 0.02 K= 83.33 GPa
結果から興味深い性質が見えます。ゴムは $E = 0.05\,\text{GPa}$ と非常に小さいにもかかわらず、体積弾性率 $K \approx 0.83\,\text{GPa}$ はヤング率の約 16 倍に達します(鋼では $K/E \approx 0.83$ 倍)。これは $\nu \approx 0.49$(ほぼ非圧縮)が原因です。さらに $\nu \to 0.499$ とすれば $K \to 8.3\,\text{GPa}$、$\nu \to 0.4999$ では $K \to 83\,\text{GPa}$ と爆発的に増大します。ゴムは形を変えやすい($G$ が小さい)が、体積は変えにくい($K$ が比較的大きい)という特性を持つのです。

材料別の比較グラフでは、ヤング率(左、対数スケール)が鋼の 200 GPa からゴムの 0.05 GPa まで約 4,000 倍の差があることがわかります。一方ポアソン比(右)は 0.2〜0.5 の比較的狭い範囲に収まり、多くの金属は 0.3〜0.35 付近に集まっています。コルクが $\nu \approx 0$ でワインの栓として使われる理由は「横に広がらない」という特性にあり、ゴムが $\nu \approx 0.5$ に近い理由は「体積変化しにくい」性質からきていることが確認できます。
まとめ
本記事では、フックの法則を 1 次元から 3 次元へ体系的に発展させ、弾性係数間の関係を導出しました。
- 1 次元フックの法則: $\sigma = E\varepsilon$(ヤング率 $E$ が比例定数)
- ポアソン比 $\nu$: 軸方向の伸びに対する横方向の収縮率。通常材料で $0 \le \nu \le 0.5$
- 一般化フックの法則: 3 方向の垂直応力とせん断応力をコンプライアンス行列でひずみに変換
- 弾性係数の関係式: $G = E/[2(1+\nu)]$、$K = E/[3(1-2\nu)]$、ラメ定数 $\lambda, \mu$
- 等方性は 2 定数: $E$ と $\nu$ の 2 つで全ての弾性挙動が決まる
- 熱ひずみ: $\varepsilon_{\rm th} = \alpha\,\Delta T$ を弾性ひずみに重ね合わせる
次の発展として、多軸応力状態での降伏条件(材料がいつ塑性変形を始めるか)を学ぶと、材料力学の応用範囲が大きく広がります。