ヘリカルアンテナとは?ノーマルモード・アキシャルモードと円偏波を図解で解説

電波を受信するとき、受信アンテナと送信アンテナの偏波が食い違うと、受信電力が大きく落ち込みます。これを偏波ミスマッチと呼び、最悪の場合は理論上ゼロになります。では、送信側の姿勢が刻々と変わるケースではどうすればよいのでしょうか。たとえばGPSや気象衛星などでは、送受信の相対的な姿勢が常に変化しますし、ハンディ端末は持ち主が自由な向きで使います。こうした状況で「どんな向きでも安定して受信できる」を実現するのが円偏波(circular polarization)です。円偏波の電界ベクトルはくるくると回転しているため、受信アンテナの向きが変わっても回転するどこかの成分を捉えられ、偏波ミスマッチによる深いフェードが起きにくいのです。

そしてこの円偏波をもっともシンプルに生成できるアンテナが、導線をらせん状に巻くだけのヘリカルアンテナ(helix antenna)です。パッチアンテナが基板上の工夫で円偏波を作るのに対し、ヘリカルアンテナは螺旋という形状そのものが円偏波を生む直感的な美しさを持ちます。1947年にJohn Krausが提案した古典的なアンテナでありながら、現代でもGPS受信や衛星通信のリンクアップ用途で現役で使われています。

本記事ではヘリカルアンテナを次の順で徹底的に解説します。

  • 螺旋の幾何学的パラメータと2つの動作モードが切り替わる仕組み
  • アキシャルモードの設計式(利得・インピーダンス・軸比・ビーム幅)の導出と物理的意味
  • 円偏波と軸比(axial ratio)の定義および偏波品質の評価
  • グランドプレーンと給電の実装上の注意点
  • Pythonによる螺旋3D形状、放射パターン、利得・軸比のN依存、偏波軌跡の可視化

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

ヘリカルアンテナとは — 螺旋が円偏波を生む理由

ヘリカルアンテナ概念図と円偏波の電界回転

左図はヘリカルアンテナの側面概念図です。らせん状の導体がグランドプレーンの中央から立ち上がり、上端の軸方向に円偏波が放射される様子を示しています。右図は放射された電波の横断面を見たもので、電界ベクトルが時刻とともに円を描くように回転しているのがわかります。ヘリカルアンテナの本質は「らせんを伝わる電流が常に少しずつ異なる向きを向いているため、合成された放射が自然と回転する」という点にあります。

ヘリカルアンテナの基本的な動作を直感的にイメージするには、ホースをらせん状に巻くことを思い浮かべてください。まっすぐなホースに流れる電流は一方向にしか電波を放射しません。しかし巻いてある部分では、各ループの電流が90度ずつ向きをずらして流れます。あるループは$x$方向に電流が流れ、その少し後のループは$y$方向に、さらにその後のループは$-x$方向に — という具合です。これらの微小ループを時間的にたどると、放射された電界の合成が自然とくるくると回転する。これがヘリカルアンテナが円偏波を生む直感的な理由です。

ただしこの「自然な回転」が成り立つのには条件があります。螺旋の円周(一周の長さ)$C$ が動作波長 $\lambda$ に近いとき — つまり $C \approx \lambda$ のとき — に限って、軸方向に強い円偏波放射が得られます。それより十分小さい場合($C \ll \lambda$)は、側面方向への放射になり偏波も変わります。この2種類の動作をノーマルモードアキシャルモードと呼びます。次のセクションで幾何パラメータを整理してから、2つのモードの違いを詳しく見ていきましょう。

ヘリカルアンテナの幾何パラメータ

ヘリカルアンテナの幾何パラメータ(1巻き分)

この図はヘリカルアンテナの1巻き分を側面から見た投影図です。橙の曲線がらせん導体の軌跡で、$D$(直径)、$S$(ピッチ)、ピッチ角 $\alpha$ の関係が一目でわかります。

ヘリカルアンテナの形状を決めるパラメータは次の5つです。

直径 $D$(Diameter): らせんの直径。関連する量として一周の長さである円周 $C = \pi D$ がよく使われます。

ピッチ $S$(Pitch): らせんが1周で軸方向に進む距離。ねじのピッチと同じ意味です。

ピッチ角 $\alpha$(Pitch Angle): らせんが軸に対して成す角度で、次の式で定義されます。

$$ \alpha = \arctan\!\left(\frac{S}{\pi D}\right) = \arctan\!\left(\frac{S}{C}\right) $$

ピッチ角が大きいほど螺旋は開いてフラットなコイルに近づき、小さいほど細長く伸びた形状になります。$\alpha = 0$ で平面コイル(リングアンテナ)、$\alpha = 90°$ で直線アンテナ(モノポール)になります。

巻数 $N$(Number of Turns): らせんを何周巻くかです。

全軸長 $L = NS$: アンテナの全体的な長さです。

これらを設計波長 $\lambda$ で規格化した量がよく使われます。

$$ C_\lambda = \frac{C}{\lambda} = \frac{\pi D}{\lambda}, \quad S_\lambda = \frac{S}{\lambda} $$

$C_\lambda$ は規格化円周と呼ばれ、動作モードを決定する最重要パラメータです。$C_\lambda \approx 1$ のときアキシャルモード、$C_\lambda \ll 1$ のときノーマルモードになることは先ほど触れましたが、次のセクションで詳しく掘り下げます。

また、1巻き当たりのらせん導体の長さ(1ターン長)$\ell$ は直角三角形の斜辺として求まります。

$$ \ell = \sqrt{C^2 + S^2} = \sqrt{(\pi D)^2 + S^2} $$

全体の導体長は $L_{\text{wire}} = N\ell$ です。この全長が電磁波の走行時間と位相の揃い方に影響し、モード特性を決定します。

幾何パラメータが整理できたところで、2つの動作モードがどのように生まれるかを見ていきましょう。

2つの動作モード — ノーマルモードとアキシャルモード

ヘリカルアンテナは円周 $C_\lambda$ の値によって、まったく異なる2種類の動作をします。これは設計上の「選択」ではなく、電流の位相構造の変化による物理的な必然です。

ノーマルモード(Normal Mode)

ノーマルモードは $C_\lambda \ll 1$、すなわちアンテナの円周が波長に比べてずっと小さいときの動作です。具体的には $C_\lambda < 0.5$ が目安です。

このとき、各ループは小さなループアンテナとして動作します。小さいループは磁気ダイポールに相当し、ループ面に直交する方向(= アンテナ軸方向)に弱い放射をしつつ、主放射はループ面に沿った方向(側方)に出ます。各ターンを同位相で励振すれば合成パターンは側方が強い形状になり、鉛直方向に置いたアンテナなら地平線方向に電波が飛ぶことになります。

ノーマルモードの特徴をまとめると次のようになります。

  • 放射方向: 軸に垂直な方向(側方放射)— ダイポールに似たパターン
  • 偏波: 軸に垂直な電界成分が支配的で、直線偏波または楕円偏波
  • 利得: 低い(0〜数 dBi 程度)
  • インピーダンス: 一般に低く、マッチングが難しい
  • 典型的用途: アンテナを小型化したい場面。ハンドヘルド無線機の内蔵アンテナに使われることがある

ノーマルモードの物理を少し掘り下げてみましょう。各ターンを「1本の短いダイポール(垂直成分)と1つの小さなループ(水平成分)の組み合わせ」とみなすことができます。ダイポールは電気ダイポールモーメント $Il\cos\alpha$ で、ループは磁気ダイポールモーメント $I(\pi D^2/4)$ で記述されます。これら2つの放射成分が合成されて楕円偏波を形成し、$\alpha$ の選び方によっては円偏波に近くなる設定もありますが、実用的な小型アンテナとしての性能は限定的です。

アキシャルモード(Axial Mode)

アキシャルモードは $C_\lambda \approx 1$、すなわち円周が波長に近いときの動作です。Kraus の研究によると最適な動作領域は:

$$ 0.75 < C_\lambda < 1.33 $$

この範囲では、各ターンを流れる電流が1周分進む間にちょうど $\approx 360°$ の位相が変化します。これは「らせん上の電流がほぼ波長1周期にわたって分布している」ことを意味します。結果として、アンテナ軸方向に放射される電波は各ターンからの寄与が位相の揃った状態で干渉的に強め合い、しかも各ターンが少しずつ異なる偏波方向を向いているため、合成した電界がきれいに回転する円偏波になります。

アキシャルモードの特徴をまとめると次のようになります。

  • 放射方向: アンテナの軸方向(端射型)— 細い主ビームが軸に沿って出る
  • 偏波: 右旋または左旋の円偏波(巻き方向で決まる)
  • 利得: 高い(10〜20 dBi 以上、巻数次第)
  • インピーダンス: $\approx 140\,\Omega$(ほぼ純抵抗、広帯域)
  • 典型的用途: GPS受信、衛星通信、アマチュア無線衛星追尾など円偏波高利得を必要とする用途

アキシャルモードでは進行波モードが成立しています。入力端から進む電流の波がらせんに沿って終端まで進み、ほとんど反射せずに消えていく。これは定在波モードのダイポールとは根本的に異なる動作原理で、広帯域性(通常20〜35%程度の比帯域幅)と安定したインピーダンスをもたらします。

モードの切り替わり

2つのモードの境界は明確ではなく、$0.5 < C_\lambda < 0.75$ の中間領域では複雑な動作になります。

ヘリカルアンテナの動作モードと円周 $C_\lambda$ の関係

この図の横軸が規格化円周 $C_\lambda$ です。左のシアン領域($C_\lambda < 0.75$)がノーマルモード動作領域で、中央の橙色の帯($0.75 < C_\lambda < 1.33$)がアキシャルモード動作領域です。緑の実線 $C_\lambda = 1.0$ が最も安定した性能が得られる最適設計点で、標準的なアキシャルモードアンテナはここを狙って設計されます。$C_\lambda > 1.33$ の右側は高次の放射モードが支配的になり、偏波や放射パターンが複雑になります。

設計上の重要な含意として、$C_\lambda$ を決めることは「動作周波数を決めること」と同等です。使いたい周波数 $f$ に対して $\lambda = c/f$ が決まり、アキシャルモードなら $C_\lambda = 1.0$ すなわち $D = \lambda/\pi \approx 0.318\lambda$ が標準的な直径になります。

ここまでで2つのモードの大まかな違いがわかりました。次は実際の設計で使うアキシャルモードの設計式を詳しく導きます。

アキシャルモードの設計式

ヘリカルアンテナの設計式を系統的にまとめたのが John D. Kraus(1947)です。彼の理論は現代でも実際の設計に使われる実用的な近似で、設計の出発点として広く採用されています。

標準設計条件

アキシャルモードの標準設計では:

$$ C_\lambda = 1.0, \quad \alpha = 12.5°, \quad \text{すなわち} \quad S_\lambda = C_\lambda \tan\alpha \approx 0.226 $$

この $\alpha = 12.5°$ というピッチ角は経験的に最も安定した性能が得られる値として知られています。

利得の近似式

$N$ 巻きのアキシャルモードヘリカルアンテナの利得は次の式で近似されます。

$$ G \approx 15 N C_\lambda^2 S_\lambda $$

この式を分解してみましょう。まず $N$ は巻数で、アンテナ素子数に相当します。通常のアレーアンテナでは素子数 $N$ に比例して利得が増えますが、ここでも同様です。$C_\lambda^2$ の項は各ターンの有効開口を表し、$S_\lambda$ はターン間隔(アレーの素子間距離)に関係します。つまりこの式は「$N$ 素子のアレーで各素子が $C_\lambda^2 S_\lambda$ に比例する利得を持つ」という構造になっています。

$C_\lambda = 1.0$、$S_\lambda = 0.226$ を代入すると:

$$ G \approx 15 \times N \times 1.0 \times 0.226 = 3.39 N $$

$N = 10$ なら線形利得 33.9、これを dBi に変換すると:

$$ G_{\text{dBi}} = 10 \log_{10}(3.39 \times 10) \approx 15.3\,\text{dBi} $$

適用条件は $3 \leq N \leq 15$ 程度で、$N$ が大きすぎると主ビームが細くなりすぎてサイドローブが無視できなくなるため、Kraus 近似の精度が下がります。

入力インピーダンス

アキシャルモードのヘリカルアンテナの入力インピーダンスは、経験的に次の式で近似されます。

$$ Z_{\text{in}} \approx 140 \cdot C_\lambda \quad [\Omega] $$

$C_\lambda = 1.0$ なら $Z_{\text{in}} \approx 140\,\Omega$ です。標準的な $50\,\Omega$ 給電線とは直接マッチしないため、実装では工夫が必要です(後述)。インピーダンスが純抵抗に近い(リアクタンス成分が小さい)ことと、帯域全体でほぼ一定に保たれることがヘリカルアンテナの利点です。

半値ビーム幅

半値ビーム幅(HPBW: Half Power Beam Width)は次の式で近似されます。

$$ \text{HPBW} \approx \frac{52°}{C_\lambda \sqrt{N S_\lambda}} $$

$C_\lambda = 1.0$ を代入すると:

$$ \text{HPBW} \approx \frac{52°}{\sqrt{N S_\lambda}} $$

たとえば $N = 10$、$S_\lambda = 0.226$ なら:

$$ \text{HPBW} \approx \frac{52°}{\sqrt{10 \times 0.226}} = \frac{52°}{\sqrt{2.26}} \approx \frac{52°}{1.50} \approx 34.6° $$

巻数が増えるほどビームが細くなり、利得が上がる — これはアレーアンテナの基本的な性質と完全に一致しています。

アキシャルモード放射パターン

3D螺旋形状(N=6巻き)

この図はアキシャルモードの標準設計($C_\lambda = 1.0$、$S_\lambda = 0.226$)による6巻きの3D螺旋形状です。グランドプレーン(水色の板)の中央から立ち上がった螺旋の上端、つまりアンテナ軸方向($+z$方向)に円偏波が放射されます。螺旋の直径($x$-$y$平面内)と全長($z$方向)のアスペクト比から、設計の全体像が把握できます。

放射パターン比較(ノーマルモード vs アキシャルモード)

左がノーマルモード、右がアキシャルモードの規格化放射パターンです(E面、極座標)。ノーマルモードでは0°(軸方向)に向かってパターンがゼロになり、90°方向(側方)で最大になっています。これはダイポールの $\sin\theta$ パターンと同じ形状です。一方アキシャルモードでは0°方向に強い主ビームが集中しており、巻数が増えるほどこの主ビームが鋭くなっていきます。同じアンテナでも円周の大きさひとつでこれほど異なる放射パターンになることが、ヘリカルアンテナの面白さです。

続いて巻数と性能の関係を定量的に確認していきましょう。

軸比(Axial Ratio)と円偏波品質

アキシャルモードの設計式の中で特に重要なのが軸比(Axial Ratio, AR)です。軸比は偏波の「円らしさ」を表す指標で、完全な円偏波なら AR = 1(0 dB)、完全な直線偏波なら AR = ∞ です。

軸比の定義

電界が楕円偏波を描くとき、楕円の長軸と短軸の長さ比が軸比です。

$$ \text{AR} = \frac{E_{\text{max}}}{E_{\text{min}}} \quad (\geq 1) $$

これを dB 表示すると:

$$ \text{AR}_{\text{dB}} = 20\log_{10}\!\left(\frac{E_{\text{max}}}{E_{\text{min}}}\right) $$

実用的には AR < 3 dB(長軸/短軸 < 1.41)であれば「良好な円偏波」として扱えます。GPS受信アンテナでは AR < 3 dB が一般的な規格要件として設定されています。

Kraus の軸比式

ヘリカルアンテナの軸方向($\theta = 0°$)における軸比は、Kraus の理論によって次のように近似されます。

$$ \text{AR} = \frac{2N + 1}{2N} $$

この式の導出は、$N$ 巻きのヘリカルアンテナの電界を端射アレーの放射として近似し、右旋成分と左旋成分の振幅比を計算するものです。$N = 1$ なら AR = 3/2 = 1.5(3.52 dB)、$N = 10$ なら AR = 21/20 = 1.05(0.42 dB)というように、巻数が増えるほど AR は 1 に近づきます。

$N \to \infty$ の極限で $\text{AR} \to 1$(完全な円偏波)になることは式からも明らかですが、現実には $N \geq 4$ で AR < 3 dB を達成でき、$N \geq 8$ 程度で十分な円偏波品質が得られます。

この「巻数を増やすほど円偏波が純粋になる」という性質は、ヘリカルアンテナの大きな利点です。パッチアンテナの円偏波化では摂動素子の加工精度が軸比に直結しますが、ヘリカルアンテナでは単に巻数を増やすだけで品質が向上します。

Hansen-Woodyard 条件との関係

ヘリカルアンテナのアキシャルモードは端射アレーの特殊なケースとして理解できます。 $N$ 本の等間隔アンテナ素子を軸方向に並べたとき、軸方向に最大放射を得るための素子間位相差は $\delta = -kS$ です($k = 2\pi/\lambda$ は波数)。さらに利得を最大化する条件として、Hansen-Woodyard 条件があります。

$$ \delta = -kS – \frac{\pi}{N} $$

この条件を満たすように設計すると、通常の端射条件より約2倍の利得が得られます。実際のヘリカルアンテナの標準設計($\alpha = 12.5°$、$C_\lambda = 1.0$)は、この Hansen-Woodyard 条件をほぼ満たすように経験的に最適化されています。Kraus の利得式 $G \approx 15 N C_\lambda^2 S_\lambda$ もこの条件を前提として成立しています。

ここまでで利得・インピーダンス・軸比の主要な設計式がそろいました。次は実装の際に不可欠なグランドプレーンと給電の話に移りましょう。

グランドプレーンと給電

グランドプレーンの役割

アキシャルモードヘリカルアンテナには、螺旋の根元にグランドプレーン(導体板)を置くことが必須です。グランドプレーンには2つの重要な役割があります。

まず裏面からの逆方向放射を抑制します。螺旋給電点の直下に放射成分が出ると、軸方向とは逆側(後方)へも電波が出てしまい、単方向性が失われます。グランドプレーンはその画像電流効果で後方放射を鏡像的にキャンセルし、前方(軸方向)への放射を強めます。

次にインピーダンス調整の一部を担います。グランドプレーンの大きさや形状が入力インピーダンスに影響するため、設計パラメータの一つと考える必要があります。

グランドプレーンの最小推奨サイズは一辺(または直径)約 $3\lambda/4$ 以上です。これより小さいとパターンの前後比(F/B比)が悪化します。使用波長によっては非常に大きなグランドプレーンが必要になるため、これがヘリカルアンテナの実装上のネックになることもあります。

グランドプレーンの形状は必ずしも平面でなくてよく、アバネット(前面が開いたカップ形状)や反射板を使ってコンパクト化することもあります。地面や車体などの金属面をグランドプレーンとして利用する設計も実用上よく行われます。

給電とインピーダンスマッチング

標準アキシャルモード設計の入力インピーダンスは $\approx 140\,\Omega$ であるため、$50\,\Omega$ 同軸ケーブルで直接給電するにはマッチング回路が必要です。一般的な解決策をいくつか紹介します。

テーパー付き給電(テーパーバランラン): 螺旋の最初の1/4巻きを徐々に半径を変えながらグランドプレーンに這わせます。こうすることで、グランドプレーン上の螺旋の根元で $50\,\Omega$ に近いインピーダンスが得られるよう徐々に変化させる効果があります。多くの実用的なヘリカルアンテナはこの方法で $50\,\Omega$ マッチングを実現しています。

インピーダンス変換器: 1/4波長トランスフォーマーを使う場合、特性インピーダンス $Z_0 = \sqrt{50 \times 140} \approx 83.7\,\Omega$ の伝送線路を挿入します。

コイル半径の調整: 給電点近傍のコイル直径を少し小さくすることで入力インピーダンスを下げる手法もあります。$C_\lambda = 0.8$ 程度まで小さくすると $Z_{\text{in}}$ が $50\,\Omega$ に近づきますが、軸比特性とのトレードオフがあります。

これらの実装上の工夫を押さえたところで、Python を使った設計計算・可視化に進みましょう。

Python実装

ここでは以下の6つを順番に実装します。

  1. 螺旋の3D形状(基本幾何の確認)
  2. 円周 $C_\lambda$ によるモード遷移と各設計パラメータ
  3. アキシャルモードの放射パターン(巻数 $N$ 変化)
  4. 利得のN依存(Kraus 近似式の検証)
  5. 軸比のN依存(AR = (2N+1)/(2N)の検証)
  6. 偏波軌跡(位相差による偏波の変化)
import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt
from mpl_toolkits.mplot3d import Axes3D

# 日本語フォント設定
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

# ヘリカルアンテナのパラメータ(規格化)
N_turns = 6          # 巻数
C_lambda = 1.0       # 規格化円周(アキシャルモード最適)
alpha_deg = 12.5     # ピッチ角 [度]
alpha_rad = np.radians(alpha_deg)
S_lambda = C_lambda * np.tan(alpha_rad)  # ≈ 0.226
D_lambda = C_lambda / np.pi              # ≈ 0.318 λ

print(f"規格化ピッチ S_lambda = {S_lambda:.4f}")
print(f"規格化直径 D_lambda = {D_lambda:.4f}")
print(f"入力インピーダンス Z_in ≈ {140*C_lambda:.1f} Ω")

このコードを実行すると S_lambda = 0.2217D_lambda = 0.3183Z_in ≈ 140.0 Ω が得られます。標準設計パラメータとして $S_\lambda \approx 0.226$($\alpha = 12.5°$)がよく使われますが、$\tan(12.5°) \approx 0.2217$ は文献値とほぼ一致しています。

放射パターンの可視化

import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt

for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

BG, FG, CYAN, AMB, GRN = "#0d1117", "#e6edf3", "#39c5cf", "#f0a500", "#7ee787"

# アキシャルモードの放射パターン計算(King 近似)
theta = np.linspace(0, 2 * np.pi, 361)
N_vals = [4, 8, 12]
S_l, C_l = 0.226, 1.0

fig, axes = plt.subplots(1, 3, figsize=(15, 5),
                          subplot_kw={"projection": "polar"})
fig.patch.set_facecolor(BG)

for ax_p, N, col in zip(axes, N_vals, [CYAN, AMB, GRN]):
    psi = 2 * np.pi * (S_l + C_l * np.cos(theta) - 1)
    with np.errstate(divide="ignore", invalid="ignore"):
        AF = np.where(np.abs(np.sin(psi / 2)) < 1e-10,
                      N, np.sin(N * psi / 2) / np.sin(psi / 2))
    pat = np.abs(np.cos(theta)) * np.abs(AF)
    pat /= pat.max()

    ax_p.set_facecolor(BG)
    ax_p.plot(theta, pat, color=col, lw=2)
    ax_p.fill(theta, pat, color=col, alpha=0.2)
    ax_p.set_title(f"N = {N} 巻き", color=FG, pad=12)
    ax_p.tick_params(colors=FG)
    ax_p.set_theta_zero_location("N")
    ax_p.set_theta_direction(-1)

    # N別の利得・軸比を計算して表示
    G_lin = 15 * N * C_l**2 * S_l
    G_dBi = 10 * np.log10(G_lin)
    AR = (2*N + 1) / (2*N)
    AR_dB = 20 * np.log10(AR)
    ax_p.set_xlabel(f"G = {G_dBi:.1f} dBi\nAR = {AR_dB:.2f} dB",
                    color=FG, fontsize=9)

fig.suptitle("アキシャルモード放射パターン(巻数 N 変化)", color=FG, fontsize=13)
fig.tight_layout()
plt.savefig("/tmp/helical/hel06_axial_pattern.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.close()

アキシャルモード放射パターン(巻数 N 変化)

3つのパネルは巻数 $N = 4, 8, 12$ に対する規格化放射パターンです(E面、極座標、0°が軸方向)。$N = 4$ ではやや広めの主ビームで、$N = 8$、$N = 12$ と増やすにつれてビームが細くなっていくのがはっきりわかります。それぞれの利得・軸比を計算すると、$N = 4$ で 11.3 dBi / 1.02 dB、$N = 8$ で 14.3 dBi / 0.53 dB、$N = 12$ で 16.1 dBi / 0.35 dB と、巻数とともに利得が上がり軸比(円偏波品質)も改善していることが確認できます。

利得のN依存

import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt

for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

BG, FG, CYAN, AMB, GRAY = "#0d1117", "#e6edf3", "#39c5cf", "#f0a500", "#8b949e"

N_arr = np.arange(3, 21)
C_l, S_l = 1.0, 0.226

# Kraus 近似式: G = 15 * N * C_lambda^2 * S_lambda
G_linear = 15 * N_arr * C_l**2 * S_l
G_dBi = 10 * np.log10(G_linear)

# N=3,6,10,15での具体値を確認
for N in [3, 6, 10, 15]:
    g = 10 * np.log10(15 * N * C_l**2 * S_l)
    print(f"N={N:2d}: G = {g:.2f} dBi")

計算結果は N=3: 10.07 dBi、N=6: 13.08 dBi、N=10: 15.30 dBi、N=15: 17.06 dBi となります。

アキシャルモード利得 vs 巻数 N

横軸が巻数 $N$、縦軸が dBi 表示の利得です。シアンの曲線が Kraus 近似式の予測値で、対数スケールでは $\log N$ に比例する緩やかな増加になっています(線形スケールでは $N$ に比例)。橙の四角プロットは文献に掲載されている典型的な実測値で、Kraus 近似は傾向をよく捉えつつ、実測より若干高め(1〜2 dBi 程度)に出る傾向があることがわかります。この差は Kraus 式が理想的な無損失の場合の近似であることと、実際にはオーミック損失・有限グランドプレーン・製作誤差などが利得を下げるためです。

利得と巻数の関係が把握できたところで、円偏波品質の指標である軸比のN依存を見ていきましょう。

軸比のN依存

import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt

for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

BG, FG, AMB, RED, GRN, GRAY = "#0d1117","#e6edf3","#f0a500","#ff6b6b","#7ee787","#8b949e"

N_ar = np.arange(1, 21)
# Kraus 軸比式: AR = (2N+1)/(2N)
AR_ratio = (2 * N_ar + 1) / (2 * N_ar)
AR_dB    = 20 * np.log10(AR_ratio)

# N=1,3,5,10での具体値
for N in [1, 3, 5, 10]:
    ar = (2*N+1)/(2*N)
    ar_db = 20*np.log10(ar)
    print(f"N={N:2d}: AR = {ar:.4f} ({ar_db:.2f} dB)")

計算結果は N=1: AR=1.5000 (3.52 dB)、N=3: AR=1.1667 (1.34 dB)、N=5: AR=1.1000 (0.83 dB)、N=10: AR=1.0500 (0.42 dB) です。

アキシャルモードの軸比 vs 巻数 N

$N = 1$ での AR = 3.52 dB から始まり、$N$ が増えるにつれて急激に改善し、$N \geq 3$ で AR < 3 dB(緑の「良好な円偏波ゾーン」に入る)、$N \geq 6$ 程度で AR < 1 dB が得られます。赤の破線が一般的な「円偏波品質基準」である 3 dB ラインです。

この式から興味深い物理的解釈ができます。AR = $(2N+1)/(2N)$ = $1 + 1/(2N)$ と変形すると、AR は常に 1 より少し大きく、「 $1/(2N)$ だけ円から外れた楕円偏波」であることがわかります。$N$ が大きいほど、この余分な楕円歪みが小さくなるわけです。実際には巻数を増やすだけでなく設計精度(円周の均一性、ピッチの均一性)も重要で、製作誤差が大きいと式の予測より悪い AR が出ることがあります。

偏波軌跡の可視化

import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt

for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

BG, FG, CYAN, AMB, GRN, GRAY = "#0d1117","#e6edf3","#39c5cf","#f0a500","#7ee787","#8b949e"

# 位相差 delta による偏波軌跡の変化
deltas = [0, np.pi/4, np.pi/2, 3*np.pi/4, np.pi]
labels = ["0°(直線偏波)", "45°(楕円)", "90°(円偏波)", "135°(楕円)", "180°(直線偏波)"]

t = np.linspace(0, 2*np.pi, 300)

fig, axes = plt.subplots(1, 5, figsize=(18, 4))
fig.patch.set_facecolor(BG)
colors = [CYAN, AMB, GRN, AMB, CYAN]

for ax, delta, lb, col in zip(axes, deltas, labels, colors):
    ax.set_facecolor(BG)
    Ex = np.cos(t)
    Ey = np.cos(t + delta)
    ax.plot(Ex, Ey, color=col, lw=2)
    # 初期電界ベクトル
    ax.annotate("", xy=(np.cos(delta), np.sin(delta)),
                xytext=(0, 0),
                arrowprops=dict(arrowstyle='->', color="red", lw=1.5))
    ax.set_xlim(-1.5, 1.5); ax.set_ylim(-1.5, 1.5)
    ax.set_aspect("equal")
    ax.set_xlabel("$E_x$", color=FG); ax.set_ylabel("$E_y$", color=FG)
    ax.set_title(lb, color=FG, fontsize=9)
    ax.tick_params(colors=FG)
    for sp in ax.spines.values():
        sp.set_edgecolor(GRAY)
    ax.axhline(0, color=GRAY, lw=0.5, alpha=0.5)
    ax.axvline(0, color=GRAY, lw=0.5, alpha=0.5)

fig.suptitle("位相差 delta による偏波軌跡の変化(等振幅 $E_x = E_y = 1$)", color=FG, fontsize=12)
fig.tight_layout(pad=2)
plt.savefig("/tmp/helical/hel09_polarization_locus.png", dpi=150, bbox_inches="tight")
plt.close()

位相差 delta による偏波軌跡の変化

5つのパネルは位相差 $\delta = 0°, 45°, 90°, 135°, 180°$ での電界軌跡です。 $\delta = 0°$ と $\delta = 180°$ では直線偏波(一直線の軌跡)、$\delta = 90°$ では完全な円偏波(真円の軌跡)になっています。$\delta = 45°$ と $\delta = 135°$ では楕円偏波で、$135°$ では傾きが逆転しています。ヘリカルアンテナが生成するアキシャルモードの円偏波は、螺旋を伝わる電流が各ターンで90度ずつ向きを変えることで $\delta = 90°$ に相当する位相差を自然に実現しているわけです。

ピッチ角と性能のトレードオフ

import numpy as np
import matplotlib
matplotlib.use("Agg")
import matplotlib.pyplot as plt

for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False

BG, FG, CYAN, AMB, GRN, GRAY = "#0d1117","#e6edf3","#39c5cf","#f0a500","#7ee787","#8b949e"

alpha_deg = np.linspace(5, 25, 200)
alpha_rad = np.radians(alpha_deg)
C_l, N = 1.0, 8
S_l_arr = C_l * np.tan(alpha_rad)

G_dbi = 10 * np.log10(15 * N * C_l**2 * S_l_arr)
HPBW = 52 / (C_l * np.sqrt(N * S_l_arr))
Z_in  = 140 * C_l * np.ones_like(alpha_deg)  # Zはalpha非依存(Cλ固定なら一定)

# 最適ピッチ角での値
alpha_opt = 12.5
S_opt = C_l * np.tan(np.radians(alpha_opt))
G_opt = 10 * np.log10(15 * N * C_l**2 * S_opt)
HPBW_opt = 52 / (C_l * np.sqrt(N * S_opt))
print(f"alpha={alpha_opt}°: G={G_opt:.2f} dBi, HPBW={HPBW_opt:.1f}°, Z_in={140*C_l:.0f} Ω")

計算結果: alpha=12.5°: G=14.33 dBi, HPBW=38.7°, Z_in=140 Ω

ピッチ角と利得・半値ビーム幅(N=8)

左パネルが利得、右パネルが半値ビーム幅と、ピッチ角 $\alpha$ の関係です($N = 8$、$C_\lambda = 1.0$)。緑の破線が推奨設計点 $\alpha = 12.5°$ です。ピッチ角が大きいほど $S_\lambda$ が増えるため Kraus 式の利得は上がりますが、実際には $\alpha > 14°$ を超えると進行波モードの安定性が崩れ、実測利得は式より大きく下回るため注意が必要です。半値ビーム幅は $\alpha$ が大きくなると $S_\lambda$ が増えてアレー全体の軸長が伸び、ビームが細くなります。$\alpha = 12.5°$ での HPBW $\approx 39°$ は、GPS アプリケーションで必要な広めのカバレッジをカバーする値です。

まとめ

本記事では、ヘリカルアンテナの理論と設計法について以下の内容を解説しました。

  • 幾何パラメータ: 直径 $D$、ピッチ $S$、ピッチ角 $\alpha = \arctan(S/C)$、巻数 $N$ の定義。規格化円周 $C_\lambda = \pi D/\lambda$ が動作モードを決定する最重要量
  • 2つのモード: $C_\lambda \ll 1$ のノーマルモード(側方放射・直線偏波)と $C_\lambda \approx 1$ のアキシャルモード(軸方向放射・円偏波)。アキシャルモードの有効領域は $0.75 < C_\lambda < 1.33$
  • アキシャルモード設計式: 利得 $G \approx 15N C_\lambda^2 S_\lambda$、入力インピーダンス $Z_{\text{in}} \approx 140 C_\lambda\,\Omega$、半値ビーム幅 $52°/(C_\lambda\sqrt{NS_\lambda})$、軸比 $\text{AR} = (2N+1)/(2N)$
  • 軸比と円偏波品質: Kraus 式より、$N \geq 3$ で AR < 3 dB(円偏波品質の実用基準)を達成。巻数を増やすだけで品質が改善されるのがヘリカルアンテナの大きな利点
  • Hansen-Woodyard 条件: 標準設計 $\alpha = 12.5°$ はこの最大利得条件をほぼ満足するよう経験的に最適化されている
  • 実装: グランドプレーン(最小 $3\lambda/4$)と $50\,\Omega$ マッチング(テーパー給電など)が必須

ヘリカルアンテナは円偏波を最もシンプルに実現できるアンテナでありながら、巻数・ピッチ角・グランドプレーンのパラメータに複数のトレードオフが存在します。設計の出発点として Kraus 近似式を使い、数値電磁解析(NEC, HFSS, CST など)で詳細を詰めるのが実務的なフローです。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。