周波数カウンタの原理 — 直接計数方式とレシプロカル方式、±1カウント誤差を理解する

長さを測るとき、私たちはものさしを当てて目盛りを読みます。どんなに丁寧に読んでも、せいぜい有効数字3桁か4桁でしょう。電圧計や温度計も同じで、4桁も読めれば上等です。ところが周波数だけは事情がまるで違います。ありふれた卓上の周波数カウンタでも8桁、基準発振器を奢れば10桁や12桁の精度がごく普通に出ます。物理量の中で、周波数(と、その裏返しである時間)は圧倒的に精確に測れる量なのです。

なぜ周波数だけがこれほど精確に測れるのでしょうか。答えは「周波数の測定が、本質的には”数を数える”作業だから」です。目盛りを目分量で読むのではなく、決まった時間の間にパルスが何個来たかを整数で数える。数えるだけなら誤差はたかだか1個です。この単純さが、桁違いの精度を生みます。

この原理を理解すると、無線機の局発周波数の校正、水晶発振器の確度評価、レーダーやドップラー計測の設計、さらには原子時計や標準信号の世界まで、共通の考え方でつながって見えてきます。本記事では次の内容を扱います。

本記事の内容

  • 直接計数方式(ゲート時間の間にパルスを数える)と、避けられない ±1カウント誤差の由来
  • 周期測定方式とレシプロカル方式(入力の1周期を基準クロックで測る)、そして両者のクロスオーバー
  • 相対分解能 $1/(fT)$ を周波数の関数として導出し、どちらが有利かを図示する
  • 基準発振器(水晶・TCXO・OCXO)の確度が支配する系統誤差と、不確かさの合成
  • プリスケーラとヘテロダイン変換によるマイクロ波帯への拡張、トリガ誤差、アラン分散への入口

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

直接計数方式 — 「決まった時間だけ数える」

周波数とは「1秒あたりの振動回数」です。ならば話は単純で、ぴったり1秒の間に入力信号の山が何回来たかを数えればよいはずです。実際、周波数カウンタの最も基本的な動作原理はこれそのものです。

具体的にはこう動きます。まず入力信号を波形整形回路(コンパレータやシュミットトリガ)に通し、きれいな方形パルス列に変換します。次に、基準発振器から作った正確な「ゲート時間 $T$」の間だけ、そのパルスを計数回路(カウンタ)に通します。ゲートが開いている間に数えたパルス数を $N$ とすれば、周波数は

$$ \begin{equation} f = \frac{N}{T} \end{equation} $$

で求まります。ゲート時間 $T$ を1秒に選べば、表示される数 $N$ がそのまま周波数(Hz)になります。まさに「数を数えるだけ」です。

直接計数方式の概念図。ゲート時間Tの間に入力パルスをN個数える

この図は直接計数方式の骨格を表しています。青い縦線が入力パルス、オレンジの窓がゲート時間 $T$ です。ゲートが開いている間に通り抜けたパルスに1, 2, 3, …と番号を振り、その総数 $N$ を $T$ で割れば周波数になります。ゲートの外にあるパルスは数えられないので、測定の精度はひとえに「$T$ をどれだけ正確に作れるか」と「数え落とし・数えすぎがどれだけ起きるか」で決まります。

ゲート時間 $T$ は基準発振器(多くは10MHzの水晶)を分周して作るので、非常に正確です。すると残る誤差源は「数え間違い」だけになります。ここに、周波数カウンタで最も有名な誤差が顔を出します。次にそれを見ていきましょう。

±1カウント誤差 — 非同期がもたらす避けられない1個

ゲート時間 $T$ が完璧に正確でも、数えるパルスの数 $N$ には原理的に ±1個のあいまいさが残ります。理由は「ゲートの開閉タイミングと、入力パルスの到来タイミングが無関係(非同期)」だからです。

イメージしてみましょう。駅の改札に一定間隔で人が並んで通り抜けているとします。あなたは「いまから10秒間、通った人数を数える」と決めてストップウォッチを押します。押した瞬間にちょうど誰かが改札を通過している最中かもしれませんし、次の人まで少し間があるかもしれません。10秒後の締めのタイミングも同じです。人の流れとストップウォッチが同期していない以上、同じ10秒でも数える人数は日によって1人ぶれます。これが ±1カウント誤差の正体です。

±1カウント誤差の由来。ゲート位相のずれで計数が1だけ変わる

上下の2つのパネルは、まったく同じ入力信号を、まったく同じ幅のゲートで測っています。違うのはゲートが掛かり始める位相だけです。それでも、赤く塗ったパルス(=実際に数えられたパルス)の数が上と下で1個違っています。ゲート幅が入力周期の整数倍でない限り、端にかかるパルスを拾うか拾わないかで計数が1だけ変動するのです。これは回路の出来不出来とは無関係な、原理的な限界です。

この ±1のあいまいさが測定値にどう現れるかを、シミュレーションで確かめてみましょう。真の周波数を1000.3Hz、ゲート時間を0.1秒とします。ゲートの位相をランダムに変えながら何度も測定し、得られた $f = N/T$ の分布を描きます。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

f_true = 1000.3   # 真の周波数 [Hz]
T = 0.1           # ゲート時間 [s]
trials = 40000

rng = np.random.default_rng(1)
# ゲート開始位相を1周期ぶんランダムに散らす
t0 = rng.uniform(0, 1.0 / f_true, trials)
# ゲート [t0, t0+T] に入る立ち上がりの数を数える
n_hi = np.floor(f_true * (t0 + T))
n_lo = np.ceil(f_true * t0)
count = (n_hi - n_lo + 1).astype(int)
f_meas = count / T

print(f"分解能 1/T = {1/T:.0f} Hz")
print(f"測定値の平均 = {f_meas.mean():.2f} Hz(真値 {f_true} Hz)")
print(f"測定値の標準偏差 = {f_meas.std():.2f} Hz")

このコードを実行すると、分解能 $1/T = 10$ Hz、測定値の平均は約1000.29Hz、標準偏差は約1.67Hzとなります。ここから3つのことが読み取れます。第一に、測定値は10Hz刻み(=$1/T$刻み)の離散値しか取れません。$N$ が整数なので当然です。第二に、何度も平均すれば真値1000.3Hzにきちんと収束します。誤差はバイアスではなく、位相のばらつきによる揺らぎだからです。第三に、1回の測定では最大で ±10Hz、つまり ±1カウントぶんずれる可能性があります。

分布そのものを図にすると、この離散性がはっきり見えます。

±1カウント誤差のヒストグラム。測定値が真値の周りに離散分布する

測定値は1000Hzと1010Hzという、10Hz離れた2本の柱にしか現れていません。真の周波数1000.3Hzに対して $f \cdot T = 100.03$ なので、ほとんどの回で100個(→1000Hz)を数え、端数0.03ぶんの確率で101個(→1010Hz)を数えます。だから低い柱が高く、高い柱が低くなります。真値は2本の柱の間にあり、直接読むことはできません。これが「1回の測定では ±1カウント」の具体的な姿です。

ここで大事なのは、この誤差が周波数の絶対値ではなく分解能 $1/T$ で決まるという点です。$f=1000$Hzでも $f=100$Hzでも、$T=0.1$sなら分解能は同じ10Hzです。すると相対的な誤差の重みは低い周波数ほど深刻になります。次節でこれを定量化します。

相対分解能 1/(fT) — 低周波で直接計数が破綻する

±1カウントの絶対誤差は $1/T$(Hz)です。これを周波数 $f$ に対する相対値で表すと、直接計数方式の相対分解能は

$$ \begin{equation} \frac{\Delta f}{f} = \frac{1/T}{f} = \frac{1}{fT} \end{equation} $$

となります。この式は周波数カウンタを理解する上で最も重要な関係式です。読み方はこうです。相対精度を上げたければ、$f$(測る対象)か $T$(ゲート時間)を大きくするしかありません。$f$ は測定対象なので勝手に変えられません。したがって直接計数方式ではゲート時間 $T$ を長く取ることだけが精度向上の手段になります。しかしゲート時間を延ばせば1回の測定に時間がかかり、また対象の周波数が測定中に変化してしまうと平均されてぼやけてしまいます。速さと精度はトレードオフの関係にあるわけです。

もう一つ大事な性質があります。この相対分解能はあくまで±1カウントの絶対誤差 $1/T$ が周波数 $f$ に占める割合なので、有効数字の桁数に直せば $\log_{10}(fT)$ です。$fT$ を10倍にするたびに、表示できる有効数字が1桁ずつ増えていく、と読み替えることもできます。高い周波数を長いゲートで測るほど桁が伸びるのは、この対数関係の帰結です。

たとえば $f=10$MHz、$T=1$sなら相対分解能は $1/(10^7 \times 1) = 10^{-7}$、つまり0.1ppmです。7桁の精度が1秒で得られます。ところが $f=10$Hz、$T=1$sだと $1/(10 \times 1) = 0.1$、なんと相対10%もの誤差です。同じゲート時間でも、低い周波数では直接計数方式が完全に破綻することがわかります。10Hzで0.1ppmの精度が欲しければ $T=10^6$秒、実に11日以上ゲートを開け続けねばなりません。現実的ではありません。

この振る舞いを、ゲート時間をパラメータにして図示します。

直接計数方式の相対分解能1/(fT)。低周波ほど悪化する

両対数グラフなので、$1/(fT)$ は右下がりの直線群になります。同じ周波数で比べると、ゲート時間 $T$ を10倍にすれば相対分解能も10倍良くなる(線が下がる)ことが読み取れます。しかしどの線も、周波数が下がるほど右上に伸び、相対誤差が急速に悪化します。灰色の点線で示した1ppm($10^{-6}$)のラインを下回るには、低周波ほど長大なゲート時間が要ることが一目でわかります。低い周波数を高精度で測るには、直接計数とはまったく別の発想が必要です。それが次の周期測定です。

周期測定とレシプロカル方式 — 「1周期を細かいものさしで測る」

低周波の測定が苦手なら、発想を逆転させればよいのです。周波数を直接数える代わりに、入力信号の1周期の時間を測り、その逆数を取るのです。1周期の長さ $T_x$ が測れれば、周波数は $f = 1/T_x$ で求まります。

では1周期の時間はどうやって測るのか。ここでもう一度「数える」戦略を使いますが、今度は数える対象が違います。入力の1周期が始まってから終わるまでの間、高速な基準クロックを数えるのです。基準クロックの周波数を $f_{\text{clk}}$、1周期の間に数えたクロック数を $M$ とすれば、

$$ \begin{equation} T_x = \frac{M}{f_{\text{clk}}}, \qquad f = \frac{1}{T_x} = \frac{f_{\text{clk}}}{M} \end{equation} $$

となります。入力周期を、目盛りの細かい基準クロックという「ものさし」で測っているわけです。

レシプロカル方式の概念図。入力1周期を基準クロックで測る

上段が低周波の入力、下段が高速な基準クロックです。入力の1周期(オレンジの窓)の間に、緑の基準クロックが何発入るかを数えます。入力が10Hzでも、基準クロックが10MHzなら1周期の間に100万発のクロックが入るので、$M$ は100万という大きな数になります。数える対象が大きいほど ±1カウントの相対的な重みは小さくなる——これがミソです。

古典的な「周期測定方式」は、この1周期ぶんのクロック数から周波数を計算します。ただし1周期だけだと ±1カウント誤差の相対値は $1/M = 1/(f_{\text{clk}}/f) = f/f_{\text{clk}}$ となり、これは高周波で悪化します。低周波は得意だが高周波が苦手という、直接計数のちょうど裏返しです。

そこで登場するのがレシプロカルカウンタです。これは「入力の整数個ぶんの周期」をひとまとめにゲートとし、その間の入力周期数と基準クロック数を両方同時に数える方式です。ゲート時間 $T$ の間に入力が $N_x$ 周期、基準クロックが $M$ 発数えられたとすると、

$$ \begin{equation} f = \frac{N_x}{M / f_{\text{clk}}} = f_{\text{clk}} \cdot \frac{N_x}{M} \end{equation} $$

で周波数が求まります。ここでゲートは「入力の立ち上がりに同期して開閉する」ため、入力の計数 $N_x$ には ±1カウント誤差が生じません。誤差は基準クロックの計数 $M$ 側だけに残り、その相対値は $1/M = 1/(f_{\text{clk}} T)$ です。これは入力周波数 $f$ に依存しません。低周波でも高周波でも、ゲート時間 $T$ と基準クロック $f_{\text{clk}}$ だけで分解能が決まる——これがレシプロカル方式の決定的な利点です。

$T=1$s、$f_{\text{clk}}=10$MHzなら、相対分解能は $1/(10^7 \times 1) = 10^{-7}$。10Hzだろうが1MHzだろうが、常に0.1ppmです。直接計数方式が10Hzで10%だったのと比べると、桁違いの改善です。10Hzを測る場面で具体的に比べてみましょう。直接計数で0.1ppmを得るには前述のとおり11日以上のゲートが要りますが、レシプロカルなら1秒のゲートで同じ0.1ppmに到達します。低周波の高精度測定では、両者の差はもはや優劣ではなく「実現できるか否か」のレベルなのです。

なお、実際のレシプロカルカウンタでは、基準クロックの計数 $M$ をさらに細かく測るために、1周期の端で生じるクロックの端数を時間内挿(インターポレーション)で補う技術も併用されます。これにより実効的な基準クロックを見かけ上100倍〜1000倍に高めたのと同じ効果が得られ、短いゲートでも高い分解能が実現します。原理の骨格は変わりませんが、$f_{\text{clk}}$ を大きくすることが分解能に直結するという式(4)の教えがそのまま設計指針になっているわけです。では両者はどこで優劣が入れ替わるのでしょうか。

クロスオーバー周波数 — どちらの方式が有利か

直接計数方式の相対分解能は $1/(fT)$、レシプロカル方式は $1/(f_{\text{clk}}T)$ でした。両者を等しく置くと、優劣が入れ替わるクロスオーバー周波数が求まります。

$$ \frac{1}{fT} = \frac{1}{f_{\text{clk}}T} \quad\Longrightarrow\quad f = f_{\text{clk}} $$

つまり、入力周波数が基準クロック周波数 $f_{\text{clk}}$ に達するまでは、レシプロカル方式のほうが分解能が良い(あるいは同等)ということです。$f_{\text{clk}}=10$MHzなら、10MHz以下のほぼすべての実用領域でレシプロカルが有利になります。

直接計数とレシプロカルの分解能比較とクロスオーバー周波数

青い右下がりの線が直接計数の $1/(fT)$、緑の水平線がレシプロカルの $1/(f_{\text{clk}}T)$ です。緑の水平線は周波数によらず一定で、これがレシプロカルの「周波数に依存しない分解能」を表しています。両者は基準クロック周波数(赤い破線、10MHz)で交わり、それ以下の広い帯域(薄く塗った領域)ではレシプロカルが下側=高分解能です。現代の卓上カウンタがほぼ例外なくレシプロカル方式なのは、この一枚の図が理由を語っています。

もっとも、ここまでの分解能はあくまで「±1カウントに由来する統計的なばらつき」の話でした。何度測っても真値からずれ続ける系統誤差は、まったく別の要因が支配します。それが基準発振器の確度です。

基準発振器の確度 — 系統誤差を支配するもの

ここまでの議論には、実はこっそり「基準クロック $f_{\text{clk}}$ とゲート時間 $T$ は正確」という前提が潜んでいました。しかし現実の基準クロックは水晶発振器で作られており、その周波数は温度・経年・電源電圧でわずかに変動します。基準が0.5ppmずれていれば、測定値も一律に0.5ppmずれます。これは平均しても消えない系統誤差です。

つまり周波数カウンタの最終的な確度は、±1カウント誤差(統計的)と基準発振器の確度(系統的)の合成で決まります。そして高精度域では、後者が支配的になります。基準発振器のグレードによって確度は大きく変わります。

  • 無補償の水晶発振器:ATカットの水晶は温度に対して3次曲線状の周波数偏差を持ち、常温付近でも数十ppm変動します。
  • TCXO(温度補償水晶発振器):温度センサの出力で発振周波数を補正し、偏差を1/50〜1/100に抑えます。±0.5ppm程度が典型です。
  • OCXO(恒温槽付水晶発振器):水晶を一定温度に保つヒータ付きの槽に入れ、温度変化そのものを排除します。±数ppb($10^{-9}$)まで到達します。

基準発振器の温度特性とエージング。水晶・TCXO・OCXOの比較

左が温度特性、右がエージング(経年変化)です。左の図では、無補償水晶(青)が温度とともに大きくうねるのに対し、TCXO(オレンジ)はそれを大幅に平坦化し、OCXO(緑)はほぼ水平です。右の図では、どの発振器も時間とともに周波数が対数的にドリフトしていく様子が見えます。水晶は結晶構造がゆっくり緩和するため、経年で必ず少しずつ周波数が変わります。この2つ——温度とエージング——が、基準発振器の確度を決める二大要因です。だからこそ高精度カウンタは、外部の標準信号(GPS規律発振器やルビジウム基準など)を基準入力に受け付けるようになっています。

系統誤差と統計誤差をどう足し合わせるかを、次に見てみましょう。

不確かさの合成 — 誤差バジェット

±1カウント誤差と基準確度は独立な誤差源なので、合成不確かさは二乗和平方根(RSS)で見積もるのが標準的です。

$$ \begin{equation} \left(\frac{\Delta f}{f}\right)_{\text{total}} = \sqrt{\left(\frac{1}{f_{\text{clk}}T}\right)^2 + \left(\frac{\Delta f_{\text{ref}}}{f_{\text{ref}}}\right)^2} \end{equation} $$

第1項が ±1カウント(レシプロカルなので $1/(f_{\text{clk}}T)$)、第2項が基準発振器の相対確度です。この2項のうち、どちらが効くかはゲート時間で決まります。ゲート時間を長くすれば第1項はいくらでも小さくなりますが、第2項は基準発振器で頭打ちになります。

レシプロカル方式の誤差バジェット。高確度域は基準発振器が支配する

青い破線が ±1カウント項、オレンジの破線が基準確度(0.5ppm)、赤い実線が合成不確かさです。この例では $T=1$sで ±1カウント項が $10^{-7}$(0.1ppm)、基準確度が $5\times10^{-7}$(0.5ppm)なので、合成値は基準確度にほぼ張り付きます。つまりこの設定では、ゲート時間をさらに延ばしても総合精度はほとんど改善しません。基準発振器の確度という「床」に当たっているからです。高精度を突き詰めるとき、良い基準発振器への投資が効くのはこのためです。逆に基準が貧弱なら、いくらゲートを延ばしても無駄になります。

ここまでは「入力パルスがきれいに整形されている」ことを暗黙に仮定してきました。しかし現実の入力にはノイズが乗ります。ノイズは、また別の誤差——トリガ誤差——を生みます。

トリガ誤差 — ノイズがゼロクロスをずらす

波形整形回路は、入力電圧があるしきい値(ふつうはゼロ)を横切る瞬間にパルスの縁を作ります。ところが入力にノイズが乗っていると、この「横切る瞬間」がノイズの分だけ前後にずれます。これがトリガ誤差(トリガジッタ)です。

どれだけずれるかは、波形がしきい値を横切るときの傾きで決まります。傾きが急なら、多少電圧が揺れても横切る時刻はほとんど動きません。逆に傾きが緩ければ、わずかなノイズで時刻が大きくずれます。ノイズ電圧を $V_n$、しきい値付近での波形の傾き(スルーレート)を $dV/dt$ とすれば、時間方向のずれは

$$ \begin{equation} \delta t = \frac{V_n}{\,dV/dt\,} \end{equation} $$

と見積もれます。正弦波 $A\sin(2\pi f t)$ のゼロクロスでの傾きは $2\pi f A$ ですから、振幅が大きく周波数が高いほど(=スルーレートが大きいほど)トリガ誤差は小さくなります。

トリガ誤差。入力ノイズがゼロクロス時刻をずらしスルーレートで決まる

左の図は、しきい値付近を拡大したものです。赤い帯がノイズによる電圧の揺らぎ幅で、それがゼロを横切る時刻に $\delta t = V_n/(dV/dt)$ の幅の不確かさを生みます。波形の傾きが急なほど、同じ電圧揺らぎでも時刻のずれは小さくなります。右の図は、スルーレートを変えながらゼロクロス時刻のばらつき(標準偏差)を測ったシミュレーション結果です。両対数で右下がりの直線になっており、スルーレートが2倍になるとジッタがほぼ半分になる、きれいな反比例の関係が確認できます。式(7)の $\delta t \propto 1/(dV/dt)$ を実測が裏づけています。実務でトリガレベルやフィルタ帯域を適切に設定し、なるべく信号の傾きが急な部分でトリガするのは、このジッタを抑えるためです。

ここまでで低周波から高周波まで測る原理が揃いました。最後に、卓上カウンタの上限(数百MHz)を超えるマイクロ波帯をどう測るかを見ておきましょう。

プリスケーラとヘテロダイン変換 — マイクロ波帯への拡張

計数回路(フリップフロップで組んだカウンタ)が動作できる周波数には上限があります。数百MHzを超える信号をそのまま数えることはできません。そこで2つの前処理が使われます。

1つ目がプリスケーラです。高速なICで入力をあらかじめ $1/P$(たとえば1/256)に分周してから数えます。カウンタは $f/P$ を測るので、表示は $P$ 倍して戻します。回路は単純で数GHz〜十数GHzまで対応できますが、分周によって ±1カウントの重みも $P$ 倍になり、同じ分解能を得るにはゲート時間を $P$ 倍延ばす必要があります。

2つ目がヘテロダイン変換です。入力を既知の高調波 $N f_{\text{ref}}$ と混合(ミキシング)し、差の周波数 $f – N f_{\text{ref}}$ という低い周波数に落としてから、通常のカウンタで精密に測ります。分解能を落とさずに超高周波を測れるのが利点で、マイクロ波周波数カウンタで使われます。

プリスケーラ方式とヘテロダイン変換カウンタのブロック図

上段がプリスケーラ方式、下段がヘテロダイン変換方式のブロック図です。プリスケーラは「まず割ってから数える」ので構成が簡単な反面、分解能が $P$ 倍粗くなります。ヘテロダインは「既知の基準の高調波と混ぜて差を取り、低い周波数に変換してから数える」ので分解能を維持できます。用途と必要精度に応じて使い分けます。ヘテロダイン変換の考え方は受信機の周波数変換とまったく同じ発想で、スーパーヘテロダイン受信機と地続きです。

周波数だけでなく、2つのイベントの時間差(時間間隔)を測るタイムインターバルカウンタも、内部では同じ「基準クロックを数える」原理で動きます。そして、基準発振器そのものの安定度を評価する指標としてアラン分散が登場します。最後にその入口を覗いておきましょう。

アラン分散への入口 — 安定度をどう測るか

基準発振器の「良さ」は、確度(真値からのずれ)だけでは語れません。もう一つ大事なのが安定度、すなわち周波数がどれだけ揺れずに保たれるかです。ところが安定度を普通の標準偏差で測ろうとすると困ったことが起きます。発振器の周波数はランダムウォーク的にゆっくりドリフトするので、測定時間を延ばすほど標準偏差が発散してしまい、意味のある値になりません。

そこで使われるのがアラン分散です。これは「隣り合う平均化区間の周波数差の二乗」を使って揺らぎを測る指標で、ドリフトがあっても発散しません。平均化時間 $\tau$ の関数として

$$ \begin{equation} \sigma_y^2(\tau) = \frac{1}{2}\left\langle (\bar{y}_{k+1} – \bar{y}_k)^2 \right\rangle \end{equation} $$

と定義されます。$\bar{y}_k$ は $k$ 番目の区間で平均した分数周波数偏差です。この $\tau$ 依存性を見ると、発振器がどんな雑音に支配されているかがわかります。

アラン偏差。短期は雑音で改善し長期はドリフトで悪化する

横軸が平均化時間 $\tau$、縦軸がアラン偏差 $\sigma_y(\tau)$ です。短い $\tau$ では、白色周波数雑音が平均化で消えていくため、$\tau^{-1/2}$ の傾き(オレンジの破線)で改善します。長く測るほど良くなる領域です。ところがある $\tau$ で底を打ち、そこから先はランダムウォーク雑音やドリフトが効いて $\tau^{+1/2}$(赤い点線)で悪化に転じます。この谷底が「その発振器を最も安定に使える平均化時間」です。周波数カウンタのゲート時間を選ぶとき、あるいは基準発振器を評価するとき、このカーブが実用的な指針になります。アラン分散は周波数標準・原子時計の世界で標準的な安定度指標であり、周波数計測の議論の自然な到達点です。

まとめ

本記事では、周波数カウンタがなぜ他の物理量より桁違いに精確に測れるのかを、その原理から追いかけました。

  • 周波数測定は本質的に「数を数える」作業であり、目盛りを読む測定と違って整数計数なので極めて高精度になる。
  • 直接計数方式はゲート時間 $T$ の間に入力パルスを数え $f=N/T$ とする。避けられない ±1カウント誤差があり、相対分解能は $1/(fT)$。低周波で急速に悪化する。
  • レシプロカル方式は入力の整数周期を基準クロックで測るため、相対分解能 $1/(f_{\text{clk}}T)$ が入力周波数に依存しない。クロスオーバー周波数 $f_{\text{clk}}$ 以下の広い領域で直接計数より有利。
  • 最終的な確度は ±1カウント(統計)と基準発振器の確度(系統)の合成で決まり、高精度域では水晶(TCXO/OCXO)の温度特性・エージングが支配する。
  • トリガ誤差はノイズとスルーレートの比 $\delta t = V_n/(dV/dt)$ で決まる。プリスケーラヘテロダイン変換でマイクロ波帯へ拡張でき、発振器の安定度はアラン分散で評価する。

周波数と時間の計測は、無線工学Aなどの資格試験でも頻出のテーマですが、暗記ではなく「なぜ数えると精確になるのか」「なぜ低周波はレシプロカルなのか」という原理を押さえておけば、応用問題にも自然に対応できます。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。