ファブリペロー干渉計とフィネス — 鋭い共振はどこから来るか

向かい合わせに置いた2枚の鏡。ただそれだけの装置が、波長 633 nm の光について 0.13 ピコメートル($1.3 \times 10^{-13}$ m)の波長差を見分けます。原子の大きさの千分の一にも満たない差です。回折格子で同じことをしようとすると、幅50 mmの格子でも桁が2つ足りません。なぜ「鏡2枚」がこれほど鋭い波長選択性を持てるのでしょうか。

答えは「光を何百回も往復させて、何百本もの光波を同時に干渉させているから」です。マイケルソン干渉計は2本の光を干渉させます。ファブリペロー干渉計は、鏡の反射率を上げるだけで、干渉に参加する光波の本数を実質的に数百本・数千本に増やせます。この「実質何本の光が干渉しているか」を表す数値が フィネス(finesse) で、鏡の反射率 $R$ だけから

$$ \mathcal{F} = \frac{\pi \sqrt{R}}{1 – R} $$

と決まります。$R = 0.9$ で約30、$R = 0.99$ で約313、$R = 0.999$ では約3140。反射率をわずかに上げるだけで、共振の鋭さが桁で跳ね上がるのです。

この仕組みは、光学の広い範囲を裏で支えています。レーザーが単一波長で発振できるのは、共振器がファブリペロー構造で、フィネスが高いほど縦モードの線幅が細くなるからです。光通信のDWDMフィルタレーザーの波長モニタ(エタロン)も同じ原理です。さらに重力波望遠鏡LIGOの腕はフィネス450程度の巨大なファブリペロー共振器で、光を何百回も往復させることで $10^{-19}$ m の変位を検出しています。光周波数コムの基準共振器に至ってはフィネス10万超という世界です。

向かい合う2枚の鏡のあいだで光が何度も往復し、往復のたびに一部が透過して外へ出ていく様子。外へ出た無数の光波がすべて重なり合って多光束干渉を起こす模式図

装置の構造はこれだけです。入ってくる光は1本ですが、鏡のあいだを往復するたびに一部が外へ漏れるので、右側には「1本目、2本目、3本目……」と無数の光波が並んで出ていきます。反射率が高いほど光は長く内部に留まり、外へ出る光波の本数(正確には、まだ十分な強さを保っている光波の本数)が増える。この本数こそがフィネスの正体で、本数が多いほど「往復の長さが波長の整数倍」という条件からのわずかなズレが厳しく罰せられるようになります。

本記事の内容

  • 平行平板内の無限回反射を等比級数で足し合わせ、透過率のエアリー関数を導出する
  • 共振条件 $2nd\cos\theta = m\lambda$ から自由スペクトル間隔 FSR を求める
  • 半値全幅を求め、フィネス $\mathcal{F} = \mathrm{FSR}/\Delta\nu = \pi\sqrt{R}/(1-R)$ を導く
  • フィネスの3つの読み方(有効干渉本数・光子寿命・Q値)を押さえる
  • 分光分解能 $\lambda/\Delta\lambda = m\mathcal{F}$ と、レーザー縦モードへの応用を確かめる

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解がスムーズです。

ファブリペロー干渉計とは — 2光束干渉との決定的な違い

体育館で手を1回叩くと、壁と壁のあいだで音が何度も跳ね返り、「パンッ……ワンワンワン」と尾を引きます。跳ね返るたびに少しずつ弱まりますが、壁の反射が良いほど長く残ります。もしその部屋の長さが音の波長のちょうど整数倍なら、跳ね返ってきた音は毎回きれいに位相が揃い、どんどん重なって大きく響きます。逆に少しでも長さがずれると、跳ね返り同士が打ち消し合って静かになる。部屋の長さと波長の関係に対して、鳴り方が極端に敏感になる ── これがファブリペロー共振器の直感です。

ファブリペロー干渉計は、反射率の高い2枚の平面鏡(あるいは両面を鏡にした平行平板=エタロン)を、間隔 $d$ で向かい合わせに置いただけの装置です。片側から光を入れると、光は2枚の鏡のあいだで反射を繰り返し、そのたびにごく一部が透過して外へ出ていきます。出ていった光はすべて互いに干渉します

ここがマイケルソン干渉計との決定的な違いです。マイケルソンではビームスプリッタで光を2本に分け、2本だけを干渉させます。その結果得られる強度は

$$ I_{\text{2光束}} = I_0 \cos^2\!\left(\frac{\delta}{2}\right) $$

という、なだらかな余弦の二乗です。明線と暗線の境目はぼんやりしていて、波長がほんの少し違う2つの光を分離するのは苦手です。

一方ファブリペローでは、1回目に透過した光、2往復してから透過した光、3往復してから透過した光……と、無限本の光波が干渉します。ここで「多数決」を思い浮かべてください。2人で多数決を取っても、意見が割れているかどうかは大雑把にしかわかりません。しかし1000人で多数決を取れば、わずかな意見の傾きも鋭く現れます。多光束干渉も同じで、参加する光波の本数が増えるほど、位相のわずかなズレが「一斉に打ち消し合う」という形で強調され、透過が許される位相条件が極端に狭くなるのです。

2光束干渉のcos二乗曲線と、反射率0.6・0.9のファブリペロー透過スペクトルを同じ横軸で重ねた比較図。ピーク周期は同じだがピーク幅が桁違いに狭い

3本の曲線はピークの位置も周期もまったく同じで、違うのは幅だけです。2光束干渉(青)は明線と暗線がなだらかに繋がっていて、半値幅が周期の半分もあります。一方 $R=0.9$(赤)は同じ周期のなかに幅0.03周期ほどの針が立っており、位相が1%ずれただけで透過がほぼ消えます。「周期は同じなのに選択性が桁違い」── これが多光束干渉の御利益です。

その結果、透過スペクトルはなだらかな余弦ではなく、共振条件のところだけに立つ細い針のようなピーク列になります。この「針の細さ」を定量化するのがフィネスです。では、なぜそうなるのかを、光波を1本ずつ足し合わせることで確かめていきましょう。

多重反射の幾何 — 隣り合う光波の位相差

まず、透過してくる光波たちの位相差を求めます。ここを押さえないと、あとの級数計算が意味を持ちません。

屈折率 $n$、厚さ $d$ の平行平板(またはギャップ)に、外側(屈折率 $n_0$)から入射角 $\theta_0$ で光が入るとします。スネルの法則

$$ n_0 \sin\theta_0 = n \sin\theta $$

により、内部の伝搬角は $\theta$ になります。

いま、下面の点 $B$ から外へ抜ける最初の透過光と、$B$ で内部反射して上面 $C$ へ行き、そこでもう一度反射して下面 $D$ から抜ける2番目の透過光を比べます。2番目の光は内部を余分に $BC + CD = 2d/\cos\theta$ だけ走ります。屈折率をかけると、余分な光路長は

$$ n \cdot \frac{2d}{\cos\theta} $$

です。一方、2本の透過光は外部では平行に進むので、出発点が $B$ と $D$ にずれている分だけ、1番目の光のほうが外部を余分に走っています。$BD = 2d\tan\theta$ で、そこから波面に垂線を下ろすと、この余分な外部光路は $n_0 \cdot BD \sin\theta_0 = 2 d \tan\theta \cdot n_0 \sin\theta_0$ です。

ここでスネルの法則 $n_0\sin\theta_0 = n\sin\theta$ を代入すると、この項は $2 d \tan\theta \cdot n \sin\theta$ と書けます。差し引いた正味の光路差 $\Delta$ は

$$ \Delta = \frac{2nd}{\cos\theta} – 2nd \frac{\sin^2\theta}{\cos\theta} = \frac{2nd}{\cos\theta}\left(1 – \sin^2\theta\right) $$

となります。$1 – \sin^2\theta = \cos^2\theta$ を使って約分すれば、驚くほど簡単な形に落ち着きます。

$$ \begin{equation} \Delta = 2 n d \cos\theta \end{equation} $$

真空波長 $\lambda$(=波数 $k_0 = 2\pi/\lambda$)に対して、隣り合う透過光の位相差

$$ \begin{equation} \delta = \frac{2\pi}{\lambda} \cdot 2 n d \cos\theta \end{equation} $$

です。$\tan\theta$ や $\sin\theta_0$ といった雑多な量がすべて消え、$\cos\theta$ ひとつに集約されたことに注目してください。垂直入射($\theta = 0$)なら $\delta = 4\pi n d/\lambda$ と、さらに単純になります。

なお、鏡面での反射に伴う位相飛び(金属鏡や誘電体多層膜では $0$ でも $\pi$ でもない値になります)は、2回の反射でどの光波にも共通に $2\phi_r$ だけ加わるので、$\delta \to \delta + 2\phi_r$ と読み替えれば済みます。以下では表記を簡単にするため $\phi_r$ を $\delta$ に含めて考えます。

平行平板に斜めに入射した光線が内部で反射を繰り返し、下面のB点とD点から2本の透過光が出る幾何図。内部の余分な光路2d/cosθと外部の光路差BD sinθ0を書き込み、差し引くと2nd cosθが残ることを示す

作図で確認しておきたいのは、2つの「余分な光路」が逆向きに効いていることです。2番目の光(紫)は内部で $BC+CD = 2d/\cos\theta$ だけ余計に走りますが、そのぶん出口が右にずれるため、共通波面(紫の破線)まででは1番目の光(緑)のほうが外部を $BD\sin\theta_0$ だけ余計に走ります。この2つを差し引くと $\tan\theta$ を含む項がきれいに消え、残るのは $2nd\cos\theta$ だけ。入射角や屈折率の細かい情報が、たった1つの $\cos\theta$ に吸収されてしまうのがこの図の要点です。

位相差が求まりました。次は、この位相差を持って次々に出てくる無限本の光波を、実際に足し合わせます。

エアリー関数の導出 — 無限級数を1行で畳む

複素振幅で考えます。入射光の振幅を $E_0$、外から内への振幅透過率を $t$、内から外への振幅透過率を $t’$、内部での振幅反射率を $r$ とします。強度反射率は $R = |r|^2$ です。

透過してくる光波を順に書き下すと、規則性がはっきり見えます。

  • 1本目(そのまま抜ける):$E_1 = E_0\, t t’$
  • 2本目(1往復してから抜ける):$E_2 = E_0\, t t’ \, r^2 e^{i\delta}$
  • 3本目(2往復):$E_3 = E_0\, t t’ \, (r^2 e^{i\delta})^2$
  • $k$ 本目:$E_k = E_0\, t t’ \, (r^2 e^{i\delta})^{k-1}$

1往復するたびに「上下2面で1回ずつ反射する」ので振幅に $r^2$ がかかり、余分な光路を走るので位相因子 $e^{i\delta}$ がかかる。これがそのまま公比になっています。

全透過振幅はこれらの総和です。公比 $q = r^2 e^{i\delta}$ の等比級数で、$|q| = R < 1$ なので必ず収束します。

$$ E_t = E_0 t t’ \sum_{k=0}^{\infty} \left(r^2 e^{i\delta}\right)^{k} = \frac{E_0 \, t t’}{1 – r^2 e^{i\delta}} $$

無限本の干渉が、たった1行の分数に畳み込まれました。ここが多光束干渉の計算がきれいに閉じる理由です。

公比r²e^{iδ}の等比級数を複素平面上の矢印の連鎖として描いたフェーザ図。共振時は矢印が一直線に並んで合成振幅10になり、0.35ラジアン離調すると渦を巻いて合成振幅2.9まで縮む

この級数の足し算を複素平面で見ると、鋭い共振の理由が絵で分かります。左(共振、$\delta=0$)では公比が正の実数なので矢印がすべて同じ向きを向き、$1+R+R^2+\dots$ と一直線に伸びて合成振幅は $1/(1-R) = 10$ に達します。右はわずか $0.35$ rad(1周期の6%弱)だけ離調した場合で、矢印が少しずつ回転して渦を巻き、合成振幅は $2.90$ ── 強度にすると共振時の $0.084$ 倍まで落ちます。位相のズレは矢印1本ごとに蓄積するので、本数が多いほど渦の巻き込みが速く、透過が急激に消えるわけです。

強度は振幅の絶対値二乗なので、分母の絶対値二乗を計算します。$r^2 = R$(実数に取れるよう反射位相を $\delta$ に押し込んだ)として、

$$ \left|1 – R e^{i\delta}\right|^2 = (1 – R\cos\delta)^2 + (R\sin\delta)^2 $$

右辺を展開すると $1 – 2R\cos\delta + R^2\cos^2\delta + R^2\sin^2\delta$ となり、$\cos^2\delta + \sin^2\delta = 1$ を使えば

$$ \left|1 – R e^{i\delta}\right|^2 = 1 – 2R\cos\delta + R^2 $$

です。ここで半角の関係 $1 – \cos\delta = 2\sin^2(\delta/2)$ を使うのが定石です。$1 – 2R\cos\delta + R^2$ を $(1-R)^2$ が出るように組み替えると

$$ 1 – 2R\cos\delta + R^2 = (1 – R)^2 + 2R\left(1 – \cos\delta\right) = (1-R)^2 + 4R \sin^2\!\frac{\delta}{2} $$

となります。$(1-R)^2 = 1 – 2R + R^2$ なので、差分の $2R – 2R\cos\delta = 2R(1-\cos\delta)$ がちょうど残る、という計算です。

したがって透過強度は

$$ I_t = \frac{I_0 (t t’)^2}{(1-R)^2 + 4R\sin^2(\delta/2)} $$

吸収も散乱もない理想的な鏡なら、エネルギー保存から $t t’ = 1 – R = T$ が成り立ちます。これを代入して分子分母を $(1-R)^2$ で割ると、エアリー関数(Airy function) と呼ばれる有名な形が現れます。

$$ \begin{equation} T_{\text{FP}}(\delta) = \frac{I_t}{I_0} = \frac{1}{1 + F \sin^2(\delta/2)}, \qquad F \equiv \frac{4R}{(1-R)^2} \end{equation} $$

ここで定義された $F$ をコントラスト係数(finesse coefficient、鋭さ係数)と呼びます。フィネス $\mathcal{F}$ とは別物なので、記号の混同に注意してください。$F$ は分母の $\sin^2$ にかかる重みで、大きいほどピークが細くなります。

反射側は、吸収がなければ単純に補数です。

$$ R_{\text{FP}}(\delta) = 1 – T_{\text{FP}}(\delta) = \frac{F\sin^2(\delta/2)}{1 + F\sin^2(\delta/2)} $$

この式が語ることは強烈です。共振($\delta = 2\pi m$)のとき、鏡の反射率が99.9%でも透過率は100%になり、反射はゼロになります。 「ほとんど反射する鏡を2枚並べたのに、光が全部通り抜ける」という一見矛盾した現象が起きる。これは共振器内部に強い定在波が蓄積し、その内部場から漏れ出す光が、入射側で反射光をちょうど打ち消すからです。共振時の内部強度は入射強度の $1/(1-R)$ 倍にもなり、$R = 0.99$ なら100倍の光が閉じ込められている計算になります。

左パネルは反射率0.9の共振器の透過率と反射率が足して1になる様子で共振点では反射がゼロ。右パネルは共振器内部の強度が入射の何倍まで蓄積するかを反射率0.5・0.9・0.99について対数目盛で示す

左パネルは、90%反射の鏡を2枚並べたにもかかわらず、共振点では反射率がきっちりゼロまで落ちることを示しています。直感に反しますが、右パネルを見れば納得できます。共振点では内部に入射強度の $1/(1-R)$ 倍($R=0.99$ なら100倍)の光が蓄積しており、その内部場から入射側へ漏れ出す光が、鏡表面での直接反射をちょうど打ち消すのです。逆に共振から外れると内部場が育たず(右パネルの谷では入射の $10^{-3}$ 倍以下)、打ち消しが崩れて反射が1に戻ります。「透過が100%になる」のは鏡が透明になったからではなく、内部に溜め込んだ光が反射を消しているからです。

エアリー関数の形が手に入りました。次はこの関数から、共振の「間隔」と「幅」という2つの物差しを読み取っていきます。

共振条件と自由スペクトル間隔 FSR

エアリー関数 $T = 1/(1 + F\sin^2(\delta/2))$ が最大値 $1$ を取るのは、$\sin(\delta/2) = 0$ すなわち

$$ \frac{\delta}{2} = \pi m \quad \Longleftrightarrow \quad \delta = 2\pi m \qquad (m = 0, 1, 2, \dots) $$

のときです。$\delta = (2\pi/\lambda)\cdot 2nd\cos\theta$ を代入すると、教科書でおなじみの共振条件が出ます。

$$ \begin{equation} 2 n d \cos\theta = m \lambda \end{equation} $$

「往復の光路長が波長の整数倍」── 冒頭の体育館の比喩そのものです。整数 $m$ は次数(order) と呼ばれ、共振器の中に定在波の腹がいくつ立っているかを表します。

透過ピークは $m$ の値ごとに、周期的に並びます。この隣り合うピークの間隔自由スペクトル間隔(Free Spectral Range, FSR) です。周波数で考えるほうが式がきれいなので、$\lambda = c/\nu$ を使って位相を周波数で書き直します。

$$ \delta = \frac{2\pi\nu}{c}\cdot 2nd\cos\theta = \frac{4\pi n d \cos\theta}{c}\,\nu $$

$\delta$ は $\nu$ の一次関数です。$m$ が1つ増えるあいだに $\delta$ は $2\pi$ 増えるので、対応する周波数の増分 $\Delta\nu_{\text{FSR}}$ は

$$ \frac{4\pi n d \cos\theta}{c}\,\Delta\nu_{\text{FSR}} = 2\pi $$

を解いて

$$ \begin{equation} \Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{c}{2 n d \cos\theta} \;\xrightarrow{\;\theta = 0\;}\; \frac{c}{2nd} \end{equation} $$

となります。これは「共振器を1往復するのにかかる時間 $t_{\text{RT}} = 2nd/c$ の逆数」です。FSRは共振器の往復時間だけで決まり、鏡の反射率にはまったく依存しません。 ピークの「間隔」は幾何が決め、あとで見るようにピークの「幅」は反射率が決める。この役割分担がファブリペローの設計を非常に見通しよくしています。

波長で表すなら、$\nu = c/\lambda$ を微分した $|d\nu| = (c/\lambda^2)|d\lambda|$ の関係から

$$ \Delta\lambda_{\text{FSR}} = \frac{\lambda^2}{c}\Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{\lambda^2}{2nd\cos\theta} $$

です。具体的な数字を入れてみましょう。空気間隔 $n = 1$、$d = 5$ mm なら

$$ \Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{3.00\times10^8}{2 \times 0.005} = 3.00\times10^{10}\ \text{Hz} = 30.0\ \text{GHz} $$

$\lambda = 633$ nm でのFSRを波長に直すと $\Delta\lambda_{\text{FSR}} = (633\,\text{nm})^2/(10\,\text{mm}) = 40$ pm です。逆に間隔を $d = 30$ cm(一般的なHe-Neレーザー管の長さ)まで伸ばすと、FSRは $500$ MHz まで狭まります。

左は5mmエタロンの透過スペクトルで30GHz間隔のピークが並び、挿入図では30cm共振器のFSRが0.5GHzになる様子。右はFSRが鏡の間隔に反比例することを両対数で示し半導体レーザー0.2mm・エタロン5mm・He-Ne管30cmの3点を書き込んだ図

左の主図($d=5$ mm)では30.0 GHz間隔でピークが並び、挿入図($d=30$ cm)では同じ反射率のまま間隔が0.50 GHzまで詰まります。反射率は両方とも $R=0.95$ で同じなのに間隔だけが60倍違う ── FSRが幾何だけで決まることの直接的な確認です。右の両対数プロットは $\mathrm{FSR} = c/2nd$ が傾き $-1$ の直線になることを示しており、半導体レーザーの数百µmでは750 GHz、He-Ne管の30 cmでは0.5 GHzと、共振器のサイズだけで4桁近い幅を取れることが読み取れます。

ここで実用上の重要な注意があります。FSRは「測れる範囲」の上限でもあります。測定したい光のスペクトル幅がFSRを超えると、次数 $m$ と $m+1$ のピークが重なって区別できなくなる(次数の重なり)。そのため、ファブリペロー分光器の前段には粗い波長選択フィルタや回折格子を置くのが普通です。「FSRを広げたければ $d$ を小さくする、分解能を上げたければ $d$ を大きくする」というトレードオフが、ここから直接読み取れます。

ピークの間隔がわかりました。次はいよいよ、ピークの「細さ」を求めます。

半値全幅とフィネスの導出

ピークの鋭さを測る標準的な物差しは半値全幅(FWHM)、つまり透過率が最大値の半分になる2点の間隔です。エアリー関数で $T = 1/2$ となる条件は

$$ \frac{1}{1 + F\sin^2(\delta/2)} = \frac{1}{2} \quad\Longleftrightarrow\quad F\sin^2\!\frac{\delta}{2} = 1 $$

です。$\sin^2$ について解くと $\sin(\delta/2) = \pm 1/\sqrt{F}$。共振点 $\delta = 0$ の周りで考えると、半値になる位相は

$$ \frac{\delta_{1/2}}{2} = \pm \arcsin\frac{1}{\sqrt{F}} $$

なので、半値全幅は左右合わせて

$$ \begin{equation} \delta_{\text{FWHM}} = 4 \arcsin\frac{1}{\sqrt{F}} \end{equation} $$

です。これは近似なしの厳密式です。ここから先で、高反射率という現実的な条件で近似します。

$R$ が1に近いと $F = 4R/(1-R)^2$ は非常に大きくなります($R=0.99$ なら $F = 39600$)。すると $1/\sqrt{F} \ll 1$ なので、$\arcsin x \approx x$($|x|\ll1$)が使えて

$$ \delta_{\text{FWHM}} \approx \frac{4}{\sqrt{F}} $$

となります。$F$ の定義を代入すると、$\sqrt{F} = 2\sqrt{R}/(1-R)$ なので

$$ \delta_{\text{FWHM}} \approx \frac{4(1-R)}{2\sqrt{R}} = \frac{2(1-R)}{\sqrt{R}} $$

です。$R \to 1$ で幅がゼロに近づく ── 反射率を上げるほどピークが細くなることが、はっきり式に出ました。

さて、「細さ」を絶対値で言っても意味がありません。FSRが30 GHzの共振器で幅100 MHzなのと、FSRが500 MHzの共振器で幅100 MHzなのとでは、性能がまるで違います。そこで間隔を幅で割った無次元量を定義します。これがフィネスです。

$$ \begin{equation} \mathcal{F} \equiv \frac{\Delta\nu_{\text{FSR}}}{\Delta\nu_{\text{FWHM}}} = \frac{2\pi}{\delta_{\text{FWHM}}} \end{equation} $$

(位相 $\delta$ で測っても周波数 $\nu$ で測っても、両者は比例関係なので比は同じです。だから $2\pi/\delta_{\text{FWHM}}$ でよい。)

左は反射率0.9の透過スペクトル全体でピーク間隔FSRを両矢印で示し、右は同じピーク1本を拡大して半値全幅0.211ラジアンを両矢印で示す。両者の比2π÷0.211=29.8がフィネスであることを説明する図

フィネスの定義は、この2本の矢印の長さの比です。左の矢印(FSR)は鏡の間隔だけで決まり、右の矢印(FWHM)は反射率だけで決まる。別々の物理量が決める2つの長さの比なので、フィネスは共振器の絶対的なサイズや観測に使う波長にいっさい依存しない無次元量になります。$R=0.9$ ではこの比が $2\pi/0.211 = 29.8$ で、これが式 $\pi\sqrt{R}/(1-R)$ の値と一致していることが確認できます。実験でフィネスを測るときも、まさにこの2本を同じ横軸で読み取って割り算します。

先ほどの近似式を代入すると

$$ \mathcal{F} \approx \frac{2\pi}{4/\sqrt{F}} = \frac{\pi\sqrt{F}}{2} $$

さらに $\sqrt{F} = 2\sqrt{R}/(1-R)$ を代入して2で割ると、目的の式に到達します。

$$ \begin{equation} \boxed{\;\mathcal{F} = \frac{\pi\sqrt{R}}{1-R}\;} \end{equation} $$

近似を使わない厳密なフィネスは

$$ \mathcal{F}_{\text{exact}} = \frac{2\pi}{4\arcsin(1/\sqrt{F})} = \frac{\pi}{2\arcsin\left(1/\sqrt{F}\right)} $$

です。実用上は $R > 0.7$ 程度なら近似式で十分な精度が出ます(後で数値的に確かめます)。

この式の形をよく見てください。分母の $1-R$ は「1往復で失われる光の割合」です。つまりフィネスとは、往復あたりの損失の逆数に $\pi$ をかけたもの。損失が小さいほど光は長く共振器に留まり、干渉に参加する光波が増え、ピークが鋭くなる ── 式が物理をそのまま語っています。高反射率極限では $\sqrt{R}\approx 1$ なので

$$ \mathcal{F} \approx \frac{\pi}{1-R} = \frac{\pi}{T} $$

という覚えやすい形になります。「フィネスはだいたい $\pi$ 割る透過率」。

式は出ましたが、$\mathcal{F}$ が「何を数えているのか」がまだピンと来ないかもしれません。次節で3通りの解釈を与えます。

フィネスの3つの読み方

読み方1: 実質何本の光が干渉しているか

級数の公比は $q = r^2 e^{i\delta}$ でしたから、その大きさは $|q| = |r|^2 = R$ です。つまり $k$ 本目の光波の振幅は $R^{k-1}$ に比例して減っていきます(強度なら $R^{2(k-1)}$)。$R$ が小さければ2〜3本で消えてしまい、$R$ が1に近ければ何百本も生き残る。

干渉の鋭さを決めているのは振幅の重ね合わせですから、「振幅が $1/e$ に落ちるまでに何本あるか」を数えるのが自然な指標になります。$R^{N} = 1/e$ を解くと

$$ N = \frac{1}{-\ln R} \approx \frac{1}{1-R} \qquad (R \to 1) $$

$R = 0.99$ なら $N \approx 100$ 本。そしてフィネスは $\mathcal{F}\approx\pi/(1-R) \approx \pi N$ です。つまり

フィネス $\approx \pi \times$(実質的に干渉に参加している光波の本数)

回折格子を思い出してください。$N$ 本のスリットを持つ格子の分解能は $mN$ でした(回折格子の分光分解能)。ファブリペローの分解能は後で見るように $m\mathcal{F}$ です。フィネスは「実効的なスリット本数」なのだと考えると、両者が同じ枠組みに収まります。しかも回折格子は物理的にスリットを刻む必要があるのに対し、ファブリペローは鏡の反射率を上げるだけで実効本数を稼げる。ここに「鏡2枚が数万本の格子に勝つ」からくりがあります。

左は透過光の振幅がR^(k-1)で減衰する様子を反射率0.5・0.9・0.99について両対数で示し1/eに落ちる本数を丸印で示す。右は最初の2本・5本・20本で級数を打ち切ったスペクトルとエアリー関数を比較し本数が増えるほどピークが細るのを示す

左パネルの丸印が「実効本数 $N = 1/(1-R)$」で、$R=0.5$ では2本、$R=0.99$ では100本です。右パネルはその効き目を直接見せています:最初の2本だけで打ち切ると2光束干渉と同じなだらかな山になり、5本、20本と増やすにつれてピークが細っていって、20本で既に無限本(赤破線)とほとんど区別がつきません。$R=0.9$ の実効本数が10本であることを思えば、20本で収束するのは当然です。回折格子のスリット本数 $N$ に相当するものを、ファブリペローは鏡の反射率だけで作り出しているのがこの図の主張です。

ちなみに2光束干渉(マイケルソン)のフィネスを同じ定義で計算すると、$I = I_0\cos^2(\delta/2)$ が半値になるのは $\delta/2 = \pm\pi/4$、つまり $\delta_{\text{FWHM}} = \pi$、FSRは $2\pi$ なので

$$ \mathcal{F}_{\text{2光束}} = \frac{2\pi}{\pi} = 2 $$

きっちり「2」。干渉に参加している光波が2本だから2、という解釈と完全に一致します。気持ちのよい確認です。

読み方2: 光子が何往復とどまるか(光子寿命)

共振器に閉じ込められた光のエネルギーは、1往復するごとに $R^2$ 倍(2枚の鏡で1回ずつ反射)になります。往復時間 $t_{\text{RT}} = 2nd/c$ を使うと、エネルギーの時間減衰は

$$ U(t) = U_0 \exp\left(-\frac{t}{\tau_p}\right), \qquad \tau_p = \frac{t_{\text{RT}}}{-\ln R^2} \approx \frac{t_{\text{RT}}}{2(1-R)} $$

この $\tau_p$ を光子寿命(photon lifetime) と呼びます。共振器に入った光子が平均どれだけの時間とどまるか、という量です。

指数関数的に減衰する振動のフーリエ変換はローレンツ型で、その半値全幅は $\Delta\nu = 1/(2\pi\tau_p)$ です。実際に代入して確かめると

$$ \Delta\nu_{\text{FWHM}} = \frac{1}{2\pi\tau_p} = \frac{2(1-R)}{2\pi\, t_{\text{RT}}} = \frac{(1-R)}{\pi}\cdot \frac{1}{t_{\text{RT}}} = \frac{(1-R)}{\pi}\,\Delta\nu_{\text{FSR}} $$

となり、$\Delta\nu_{\text{FSR}}/\Delta\nu_{\text{FWHM}} = \pi/(1-R) = \mathcal{F}$ が再現されます。共振ピークの細さは、光子がどれだけ長く閉じ込められるかの言い換えだったわけです。これは不確定性関係(長く観測できるほど周波数を精密に決められる)そのものでもあります。

数字で見ましょう。$d = 30$ cm、$R = 0.99$ なら $t_{\text{RT}} = 2$ ns、$\tau_p \approx 100$ ns。光子寿命のあいだに $\tau_p/t_{\text{RT}} \approx 50$ 往復し、実効的に $c\tau_p = 30$ m を走ります。線幅は $1/(2\pi \times 100\,\text{ns}) \approx 1.6$ MHz。FSR 500 MHz を フィネス313 で割った 1.60 MHz とぴったり一致します。

左は共振器内エネルギーの指数減衰を反射率0.9と0.99について対数目盛で示し光子寿命と線幅を書き込んだ図。右は反射率0.99のエアリー関数ピークと光子寿命から予想されるローレンツ線形が完全に重なることを示す図

左パネルの傾きの差がそのまま線幅の差です。$R=0.9$ では光子寿命 9.5 ns(約5往復)で線幅16.8 MHz、$R=0.99$ では99.6 ns(約50往復)で線幅1.60 MHz ── 閉じ込め時間が10倍になれば線幅は10分の1になるという反比例が読み取れます。右パネルはその主張の裏取りで、エアリー関数のピーク(実線)と、指数減衰のフーリエ変換から予想されるローレンツ型(破線)が半値幅の4倍の範囲まで完全に重なっています。周波数領域で導いたピーク形状と、時間領域で考えた減衰が、同じものを別の言葉で語っていることの確認です。

読み方3: 共振器のQ値

電気回路の共振回路でおなじみの $Q$ 値($Q = \nu/\Delta\nu$)を光共振器に持ち込むと、

$$ Q = \frac{\nu}{\Delta\nu_{\text{FWHM}}} = \frac{\nu}{\Delta\nu_{\text{FSR}}}\cdot\frac{\Delta\nu_{\text{FSR}}}{\Delta\nu_{\text{FWHM}}} = m \cdot \mathcal{F} $$

となります(共振周波数は $\nu = m\,\Delta\nu_{\text{FSR}}$ なので第1因子が次数 $m$)。つまり

Q値 = 次数 × フィネス

フィネスは「共振器の質」を表す量で、次数 $m$ は「共振器が波長何個分か」という規模を表す量。両者の積がQです。$d=30$ cm、$\lambda = 633$ nm、$R=0.99$ なら $m = 2d/\lambda \approx 9.5\times10^5$、$\mathcal{F} = 313$ で $Q \approx 3.0\times10^8$。電気回路のLC共振($Q$ が数百)とは比べものにならない高さで、光共振器がいかに鋭いかがわかります。

3つの読み方はすべて同じことを別の言葉で言っています。次に、反射率を変えるとフィネスがどう跳ね上がるかを具体的な数字で見ましょう。

数値で見るフィネス — 反射率の「最後のひと押し」が効く

フィネス $\mathcal{F} = \pi\sqrt{R}/(1-R)$ の分母は $1-R$。$R$ が1に近づくと分母がゼロに向かうので、フィネスは発散的に増えます。表にしてみます。

反射率 $R$ 損失 $1-R$ コントラスト係数 $F$ フィネス $\mathcal{F}$ $\delta_{\text{FWHM}}$ [rad]
0.30 0.70 2.45 2.46(厳密2.27) 2.77
0.50 0.50 8.0 4.44(厳密4.35) 1.45
0.70 0.30 31.1 8.76 0.721
0.90 0.10 360 29.8 0.211
0.95 0.05 1520 61.2 0.103
0.99 0.01 $3.96\times10^4$ 313 0.0201
0.999 0.001 $4.00\times10^6$ 3140 0.00200

$R$ を $0.9 \to 0.99$ と「10倍のひと押し(損失を1/10)」しただけで、フィネスは30から313へ10倍になります。さらに $0.99 \to 0.999$ でまた10倍の3140。フィネスは損失に反比例するので、性能向上のためには「残りの損失をどれだけ削れるか」がすべてという、シビアな世界です。$R = 0.9$ の鏡を $R=0.99$ にするには反射損失を10%から1%へ減らす必要があり、誘電体多層膜のペア数を増やす、界面の散乱を抑えるといった地道な努力が要ります。

ここで表の低反射率側にも注目してください。$R = 0.3$ では近似式の 2.46 に対して厳密値は 2.27 と 8% ずれています。$\arcsin x \approx x$ の近似が効かなくなるからです。一方 $R \ge 0.9$ では両者の差は0.1%未満。実用領域では近似式で何の問題もないが、低フィネス領域では厳密式を使うべき、という線引きが読み取れます。

上段は反射率に対するフィネスを対数目盛で描き厳密式・近似式・エアリー関数から測った数値実測値の3つが高反射率側で一致することを示す図。下段は近似式の誤差が反射率0.9以上で0.05%未満に落ちることを示す

上段の曲線が $R \to 1$ で垂直に立ち上がっているのが、フィネスが $1/(1-R)$ で発散することの見え方です。横軸を $0.9 \to 0.99$ と動かす「わずかな距離」で縦軸が1桁上がる。緑の丸(エアリー関数から数値的に半値幅を測った実測値)が厳密式の線に乗っていることから、導出した $\delta_{\text{FWHM}} = 4\arcsin(1/\sqrt{F})$ が正しいことも確認できます。下段を見ると、近似式の誤差は $R=0.3$ で8.5%、$R=0.7$ で0.5%、$R \ge 0.9$ では0.05%未満。実用的な高フィネス共振器なら覚えやすい $\pi\sqrt{R}/(1-R)$ で十分だと分かります。

もうひとつ、ピークのコントラストも見ておきましょう。エアリー関数の最小値は $\sin^2(\delta/2) = 1$ のときで $T_{\min} = 1/(1+F)$。したがって

$$ \frac{T_{\max}}{T_{\min}} = 1 + F = 1 + \frac{4R}{(1-R)^2} $$

$R = 0.99$ なら約 $4\times10^4$、つまりピークとボトムで4万倍の明暗差です。これがファブリペローが波長フィルタとして優秀な理由で、通したくない波長を40 dB以上落とせます。

数値の感覚がつかめたところで、これを分光の分解能に結びつけます。

分光分解能 λ/Δλ = mF

分光器の性能は分解能(resolving power) $\lambda/\Delta\lambda$ で測ります。「波長 $\lambda$ の光について、どれだけ小さい波長差 $\Delta\lambda$ を分離できるか」の逆数比です。

ファブリペローでは、分離できる最小の波長差は共振ピークの半値幅そのものと考えます。周波数で書くと $\Delta\nu = \Delta\nu_{\text{FSR}}/\mathcal{F}$ なので

$$ \frac{\nu}{\Delta\nu} = \frac{\nu}{\Delta\nu_{\text{FSR}}/\mathcal{F}} = \frac{\nu}{\Delta\nu_{\text{FSR}}}\,\mathcal{F} $$

ここで $\nu/\Delta\nu_{\text{FSR}} = \nu \cdot 2nd\cos\theta/c = 2nd\cos\theta/\lambda = m$ ですから、

$$ \begin{equation} \frac{\lambda}{\Delta\lambda} = \frac{\nu}{\Delta\nu} = m\,\mathcal{F} \end{equation} $$

分解能 = 次数 × フィネス。読み方3で見たQ値とまったく同じ式です(分光器の分解能は共振器のQに等しい)。

具体例を計算しましょう。$d = 5$ mm、$n = 1$、$\lambda = 633$ nm、$R = 0.99$ のエタロンを考えます。次数は

$$ m = \frac{2nd}{\lambda} = \frac{2 \times 5\times10^{-3}}{633\times10^{-9}} \approx 1.58\times10^{4} $$

フィネスは 313 なので

$$ \frac{\lambda}{\Delta\lambda} = 1.58\times10^4 \times 313 \approx 4.9\times10^{6} $$

分離できる波長差は

$$ \Delta\lambda = \frac{633\ \text{nm}}{4.9\times10^6} \approx 1.3\times10^{-13}\ \text{m} = 0.13\ \text{pm} $$

周波数では $\Delta\nu = 30\ \text{GHz}/313 \approx 96$ MHz。冒頭で挙げた「0.13 pm」の正体がこれです。

96MHzだけ離れた2本の輝線をファブリペローで走査したときの合計透過スペクトル。上段の反射率0.99・フィネス313では2つのピークに分離できるが、下段の反射率0.95・フィネス61では1つの山に融合してしまう

上段では、96 MHz(波長差0.13 pm)離れた2本の輝線が、それぞれの応答(破線)の重なりとして中央に谷を持つ二山の合計曲線(太線)を作っています。谷の底は山の高さの約8割($1.00$ 対 $1.21$)まで下がっており、実験的にも「2本ある」と判定できる状態です。これがちょうど分解能の限界に相当し、半値幅(96 MHz)と輝線間隔が等しい ── レイリー基準に近い条件になっています。下段は反射率を0.95に落としてフィネスを61にした場合で、半値幅が490 MHzに広がった結果、2本の輝線は完全に1つの山へ融合してしまいました。同じ共振器長(同じ次数 $m$)でも、フィネスが5分の1になれば分解能も5分の1になることが目で確認できます。

比較のために回折格子を持ってきましょう。1200本/mmの格子を幅50 mmで使うと、照射されるスリット数は $N = 1200 \times 50 = 6.0\times10^4$ 本、1次回折($m=1$)で分解能は $mN = 6.0\times10^4$ です。ファブリペローの $4.9\times10^6$ は80倍以上。差の源は次数 $m$ にあります。回折格子は $m = 1 \sim 3$ 程度でしか使えませんが、ファブリペローは平気で $m \sim 10^4$ で動く。「往復光路長が波長の1万倍以上」という高次数運転こそが、圧倒的な分解能の源です。

ただし、この高分解能はFSRの狭さと表裏一体です。ファブリペローのFSRは 40 pm、回折格子は原理的に可視域全体をカバーできます。「広く見る回折格子、狭く鋭く見るファブリペロー」 という住み分けになり、実際の高分解能分光では回折格子で粗く選んだ光をファブリペローに通す2段構成がよく使われます。

理論が一通り揃いました。次は現実の共振器で何がフィネスを制限するかを見ておきます。

現実のフィネス — 鏡だけでは決まらない

ここまでは「完全に平坦で、吸収のない鏡」を仮定してきました。現実にはそうはいきません。実効フィネスは複数の要因の合成で決まり、一番小さいものが支配します

(a) 反射率フィネス $\mathcal{F}_R$ ── これまで計算してきた $\pi\sqrt{R}/(1-R)$ です。

(b) 欠陥フィネス $\mathcal{F}_D$ ── 鏡面が完全な平面ではなく、ピーク・トゥ・バレーで $\lambda/M$ の凹凸があると、場所によって $d$ がわずかに違い、ピークがぼやけます。この効果は

$$ \mathcal{F}_D \approx \frac{M}{2} $$

で見積もられます。$\lambda/100$ の超平坦基板でも $\mathcal{F}_D = 50$ にしかなりません。

(c) 開口フィネス $\mathcal{F}_A$ ── 入射光に角度広がり(立体角 $\Omega$)があると $\cos\theta$ がばらつき、これもピークを広げます。$\mathcal{F}_A \approx 2\pi/(m\Omega)$。高次数ほど厳しくなります。

これらは独立なガウス型のぼけとして近似的に足し合わされ、実効フィネスは

$$ \frac{1}{\mathcal{F}_{\text{eff}}^2} \approx \frac{1}{\mathcal{F}_R^2} + \frac{1}{\mathcal{F}_D^2} + \frac{1}{\mathcal{F}_A^2} $$

で与えられます。ここから重要な教訓が出ます。$R = 0.999$ の超高反射鏡($\mathcal{F}_R = 3140$)を、$\lambda/100$ の基板($\mathcal{F}_D = 50$)に成膜したら、

$$ \mathcal{F}_{\text{eff}} = \left(\frac{1}{3140^2} + \frac{1}{50^2}\right)^{-1/2} \approx 50.0 $$

フィネスは50。反射率を上げた努力がまるごと無駄になります。 超高フィネス共振器を作るには、鏡のコーティングだけでなく、基板の研磨精度($\lambda/1000$ 級のスーパーポリッシュ)も同時に上げなければならない ── これが実務でいちばん効く知見です。

反射率フィネスを横軸に取り、欠陥フィネス50・200・1000それぞれの実効フィネスを両対数で描いた図。反射率フィネスが欠陥フィネスを超えると実効フィネスが頭打ちになり、λ/100基板では3140の鏡を使っても50で止まることを示す

3本の曲線はいずれも、左半分では理想線(灰色破線)にぴったり乗っているのに、$\mathcal{F}_R$ が欠陥フィネスに近づいたところで水平に折れ曲がります。折れ曲がる位置は基板の平坦度だけで決まり、それ以上いくら反射率を上げても実効フィネスは1ミリも動きません。$\lambda/100$ 基板(赤)の場合、$\mathcal{F}_R = 50$ を超えたあたりから利得がほぼ消え、$R=0.999$ の超高反射鏡を載せても実効フィネスは50.0止まり。共振器の性能は「一番弱い要因」で決まるので、投資先を間違えると効果がゼロになるという、設計上きわめて実務的な教訓がこの1枚に凝縮されています。

もうひとつ、吸収・散乱があるとピーク透過率が1にならない点も押さえましょう。鏡1枚のエネルギー収支を $R + T + A = 1$($A$ は吸収+散乱)とすると、共振時のピーク透過率は

$$ T_{\max} = \left(\frac{T}{T + A}\right)^2 $$

です。$T = 0.5\%$、$A = 0.2\%$ の鏡なら $T_{\max} = (0.005/0.007)^2 = 0.51$。フィネスは高いのに半分しか通らない、という状況が普通に起こります。フィネス(鋭さ)とピーク透過率(明るさ)は別の指標で、$A/T$ 比が両者のトレードオフを決めます。

現実的な制約を押さえたところで、この共振器がレーザーの中でどう働いているかを見ましょう。

レーザー共振器の縦モードとフィネス

レーザーは、利得媒質を2枚の鏡ではさんだ構造をしています。つまりレーザー共振器そのものがファブリペロー共振器です。 ここまでの議論がそのままレーザーの性質を決めます。

レーザーが発振できるのは、(i) 共振条件 $2nL = m\lambda$ を満たし、かつ (ii) 利得が往復損失を上回る周波数だけです(レーザー発振のしきい値)。条件(i)は等間隔に並んだ櫛(FSR間隔)で、条件(ii)は利得媒質のスペクトル形状で決まる山です。この2つが重なったところにだけモードが立つ ── これが縦モード(longitudinal mode) です。

He-Neレーザー($\lambda = 632.8$ nm)で数字を入れてみます。共振器長 $L = 30$ cm なら

$$ \Delta\nu_{\text{FSR}} = \frac{c}{2L} = \frac{3.00\times10^8}{0.6} = 500\ \text{MHz} $$

He-Neの利得幅はネオン原子のドップラー広がりで約 1.5 GHz。したがって利得幅の中に $1500/500 = 3$ 本の縦モードが立ちます。実際、何もしないHe-Neレーザーは3本程度のモードで発振し、それらが「うなり」を起こして出力が揺らぎます。

ここでフィネスが効きます。各縦モードの線幅は $\Delta\nu_{\text{FSR}}/\mathcal{F}$。$R = 0.99$ 相当なら $500\,\text{MHz}/313 \approx 1.6$ MHz です(実際のレーザーでは利得による線幅圧縮でさらに細くなりますが、共振器が決める「受動的な線幅」がこの値です)。フィネスが高いほど各モードが細く、周波数が安定する。 レーザーの単色性はフィネスに直結しています。

では単一縦モードにするにはどうするか。定石は3つです。

  1. 共振器を短くする ── $L$ を小さくしてFSRを利得幅より広げる。マイクロチップレーザーや半導体レーザー($L \sim$ 数百 µm、FSR $\sim$ 100 GHz以上)はこれで自然に単一モードになります。
  2. 共振器内にエタロンを入れる ── FSRの広い薄いエタロンを斜めに挿入し、その透過ピークが1本の縦モードだけに合うようにする。まさに本記事のファブリペローをフィルタとして使う応用です。
  3. リング共振器+光アイソレータ ── 進行波にして空間的ホールバーニングを避ける。

「共振器長を変えるとモードが飛ぶ(モードホップ)」「温度で共振器が伸びると周波数がドリフトする」といったレーザーの実務的な悩みも、$2nL = m\lambda$ の一言から全部出てきます。$\Delta L/L = \Delta\nu/\nu$ なので、$L=30$ cm の共振器で 1 MHz の安定度を得るには $\Delta L < 0.6\ \text{nm}$、原子数個分の長さ安定性が必要 ── 精密レーザーの難しさが定量的に理解できます。

理論と応用が繋がりました。最後にPythonで、これまでの主張を実際に数値で確かめます。

Pythonでの実装

1. 反射率を変えた透過スペクトル

まず、エアリー関数そのものを描いて「反射率を上げるとピークが細くなる」ことを目で見ます。横軸は $\delta/2\pi$(=次数 $m$)で、1目盛りがちょうど1 FSRです。

import numpy as np
import matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt

# 日本語フォント設定
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
    if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
        plt.rcParams["font.family"] = cand
        break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False


def airy_T(delta, R):
    """ファブリペロー透過率(エアリー関数)"""
    F = 4.0 * R / (1.0 - R) ** 2      # コントラスト係数
    return 1.0 / (1.0 + F * np.sin(delta / 2.0) ** 2)


delta = np.linspace(-0.5, 2.5, 400001) * 2 * np.pi   # 3 FSR 分をスキャン

plt.figure(figsize=(11, 5))
for R in [0.2, 0.5, 0.9, 0.99]:
    F = 4 * R / (1 - R) ** 2
    fin = np.pi * np.sqrt(R) / (1 - R)
    plt.plot(delta / (2 * np.pi), airy_T(delta, R),
             label=f"反射率 R={R}:  F={F:.0f},  フィネス={fin:.1f}")

plt.xlabel("位相 $\\delta / 2\\pi$(=共振次数 $m$、1目盛り=1 FSR)")
plt.ylabel("透過率 $T$")
plt.title("ファブリペロー共振器の透過スペクトル:反射率が上がるとピークが鋭くなる")
plt.legend(loc="upper right")
plt.grid(alpha=0.3)
plt.ylim(-0.03, 1.08)
plt.tight_layout()
plt.show()

反射率0.2・0.5・0.9・0.99のファブリペロー透過スペクトルを線形目盛と対数目盛の2段で描いた図。ピーク位置は共通で反射率が上がるほどピークが細くなり谷が深くなることを示す

このグラフから3つのことが読み取れます。第一に、どの反射率でもピークの位置と間隔は変わりません。ピークは $\delta/2\pi$ が整数のところに立ち、FSRは常に1目盛り ── FSRが $R$ に依存しないという理論通りです。第二に、$R=0.2$ ではほとんど余弦波のようになだらかで、2光束干渉と大差ありません。第三に、$R=0.99$ ではピークが線のように細くなり、その間はほぼゼロに張り付きます。谷の値 $1/(1+F)$ は $R=0.99$ で $2.5\times10^{-5}$ ですから、当然です。「ピークの位置は幾何が、鋭さは反射率が決める」という役割分担が、一枚の図に出ています。

2. フィネスの理論値と数値半値幅の一致を確認

次に、導出したフィネスの式が正しいかを、エアリー関数から数値的に半値幅を測って検証します。近似式($\arcsin x \approx x$)と厳密式($\arcsin$ をそのまま使う)の両方を比べます。

import numpy as np

def numeric_finesse(R, N=4_000_001):
    """エアリー関数から数値的に半値全幅を測り、FSR/FWHM を返す"""
    F = 4 * R / (1 - R) ** 2
    d = np.linspace(-np.pi, np.pi, N)       # 1 FSR 分(δ = -π 〜 π)
    T = 1.0 / (1.0 + F * np.sin(d / 2) ** 2)
    idx = np.where(T >= 0.5)[0]             # 半値以上の領域
    fwhm = d[idx[-1]] - d[idx[0]]
    return 2 * np.pi / fwhm                 # FSR(=2π) ÷ FWHM

print(f"{'R':>7} {'数値':>10} {'近似式':>10} {'厳密式':>10} {'近似誤差':>9}")
for R in [0.3, 0.5, 0.7, 0.8, 0.9, 0.95, 0.99]:
    F = 4 * R / (1 - R) ** 2
    num = numeric_finesse(R)
    approx = np.pi * np.sqrt(R) / (1 - R)             # π√R/(1-R)
    exact = np.pi / (2 * np.arcsin(1 / np.sqrt(F)))   # arcsin を残した式
    print(f"{R:7.2f} {num:10.3f} {approx:10.3f} {exact:10.3f} "
          f"{(approx/num - 1)*100:8.2f}%")

実行すると次の出力が得られます。

      R         数値        近似式        厳密式      近似誤差
   0.30      2.266      2.458      2.266     8.48%
   0.50      4.347      4.443      4.347     2.21%
   0.70      8.714      8.761      8.714     0.54%
   0.80     14.020     14.050     14.020     0.21%
   0.90     29.790     29.804     29.790     0.05%
   0.95     61.235     61.241     61.234     0.01%
   0.99    312.598    312.585    312.583    -0.00%

厳密式は数値実測と小数点以下3桁まで一致しており(残差はスキャン格子の刻み幅によるもの)、$\delta_{\text{FWHM}} = 4\arcsin(1/\sqrt{F})$ の導出が正しいことが確認できます。近似式 $\pi\sqrt{R}/(1-R)$ は $R = 0.3$ では8.5%も過大評価しますが、$R \ge 0.9$ では誤差0.05%以下。実用的な高フィネス共振器では、覚えやすい近似式を安心して使ってよいことがわかります。$R=0.9, 0.99$ で 29.8, 313 という本文の数値も、ここで裏付けられました。

3. ミラー間隔スキャンによる透過ピーク列

実際の走査型ファブリペロー分光器は、ピエゾ素子で鏡の間隔 $d$ を波長程度だけ動かし、透過光をフォトダイオードで拾います。この動作をシミュレートします。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

lam = 633e-9          # He-Ne 波長 [m]
d0 = 5.0e-3           # 基準のミラー間隔 5 mm
dd = np.linspace(0, 1.2e-6, 200001)     # ピエゾによる伸び 0〜1.2 µm
d_arr = d0 + dd
delta = 2 * np.pi / lam * 2 * d_arr     # 垂直入射 n=1

fig, axes = plt.subplots(2, 1, figsize=(11, 7), sharex=True)
for ax, R in zip(axes, [0.80, 0.98]):
    F = 4 * R / (1 - R) ** 2
    T = 1.0 / (1.0 + F * np.sin(delta / 2) ** 2)
    fin = np.pi * np.sqrt(R) / (1 - R)
    ax.plot(dd * 1e9, T, lw=1.2)
    ax.set_ylabel("透過率 $T$")
    ax.set_title(f"R={R}(フィネス {fin:.0f}):"
                 f"ピーク間隔は $\\lambda/2$ = {lam/2*1e9:.1f} nm で反射率によらない")
    ax.grid(alpha=0.3)
axes[1].set_xlabel("ミラー間隔の変化 $\\Delta d$ [nm]")
plt.tight_layout()
plt.show()

ピエゾでミラー間隔を1.2マイクロメートル掃引したときの透過ピーク列を反射率0.80と0.98の2段で比較した図。ピークは316.5nm周期で並び位置は共通だが反射率0.98では針状に細くなる

2枚のパネルを比べると、ピークの位置と間隔は完全に同一です。共振条件 $2d = m\lambda$ から、$d$ を $\lambda/2 = 316.5$ nm 動かすごとに次数が1つ進むので、ピークは 316.5 nm 周期で並びます。これも反射率に依存しません。一方でピークの幅は、$R=0.80$(フィネス14)では隣のピークとほとんど繋がりそうなほど太いのに、$R=0.98$(フィネス156)では鋭い針状になります。走査型分光器で2本の近接した輝線を分離できるかどうかは、まさにこの幅で決まります。

4. レーザー縦モードと利得曲線の重ね合わせ

最後に、レーザー共振器の縦モードが利得曲線とどう重なるかを描きます。He-Neレーザー(共振器長30 cm、利得幅1.5 GHz)を想定します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

c = 2.99792458e8
L = 0.30                       # 共振器長 30 cm
R_mirror = 0.99
FSR = c / (2 * L)              # 縦モード間隔
finesse = np.pi * np.sqrt(R_mirror) / (1 - R_mirror)
linewidth = FSR / finesse      # 各モードの線幅
print(f"FSR = {FSR/1e6:.1f} MHz, フィネス = {finesse:.0f}, "
      f"モード線幅 = {linewidth/1e6:.2f} MHz")

# 利得曲線(ドップラー広がり、FWHM 1.5 GHz のガウス)
gain_fwhm = 1.5e9
sigma = gain_fwhm / (2 * np.sqrt(2 * np.log(2)))
x = np.linspace(-2.0e9, 2.0e9, 300001)
gain = np.exp(-x**2 / (2 * sigma**2))

# 共振器の透過(=縦モードの櫛)
F = 4 * R_mirror / (1 - R_mirror)**2
comb = 1.0 / (1.0 + F * np.sin(np.pi * x / FSR)**2)

plt.figure(figsize=(11, 5))
plt.plot(x / 1e9, gain, "k--", lw=1.5, label=f"利得曲線(幅 {gain_fwhm/1e9} GHz)")
plt.plot(x / 1e9, comb, lw=1.0, color="tab:blue",
         label=f"共振器の縦モード(間隔 {FSR/1e6:.0f} MHz)")
plt.fill_between(x / 1e9, 0, gain * comb, color="tab:red", alpha=0.5,
                 label="実際に発振するモード(利得×共振)")
plt.axhline(0.5, color="gray", ls=":", lw=1, label="発振しきい値の目安")
plt.xlabel("中心からの周波数ずれ [GHz]")
plt.ylabel("規格化強度")
plt.title("レーザー縦モード:等間隔の共振の櫛と利得曲線が重なった所だけ発振する")
plt.legend(loc="upper right", fontsize=9)
plt.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.show()

He-Neレーザーの利得曲線と共振器の縦モードの櫛を重ねた図。500MHz間隔のモードのうちしきい値を超える中央3本が赤で示され、挿入図で1本のモードの線幅1.60MHzを拡大表示している

出力は FSR = 499.7 MHz, フィネス = 313, モード線幅 = 1.60 MHz となります。図では、黒破線の利得曲線の下に青い櫛(共振器の透過ピーク)が等間隔に並び、両者の積(赤い縦線)が実際に発振するモードです。しきい値の目安(灰色の点線)を超えるのは中心付近の3本だけで、本文で「利得幅1.5 GHz ÷ FSR 500 MHz ≒ 3本」と見積もった通りになっています。各モードの線幅1.60 MHzは利得幅の約1000分の1で、共振器が周波数を鋭く選別していることが視覚的にわかります。共振器を短くしてFSRを利得幅より広げれば櫛の歯が1本しか入らなくなる ── 単一縦モード化の原理も、この図から直接読み取れます。

共振波長をどう合わせるか — 角度・温度・ピエゾ

理論と実験が繋がる最後のピースが「チューニング」です。共振条件 $2nd\cos\theta = m\lambda$ には調整できるつまみが3つ入っています。$\theta$(傾き)、$n$(屈折率)、$d$(間隔)です。

角度チューニング ── エタロンを光軸から傾けると $\cos\theta$ が1より小さくなるので、共振波長は必ず短い側へ動きます。内部角 $\theta$ が小さいときは $\cos\theta \approx 1 – \theta^2/2$ なので

$$ \frac{\Delta\lambda}{\lambda} \approx -\frac{\theta^2}{2} $$

固体エタロン(屈折率 $n$)では、外部から角度 $\theta_{\text{ext}}$ 傾けても内部角は $\theta \approx \theta_{\text{ext}}/n$ にしかなりません。つまり屈折率が高いほど角度感度が鈍くなり、そのぶん安定します。レーザー共振器内エタロンの波長選択は、この角度チューニングでやるのが定番です。ただし傾けすぎるとビームが横にずれ、往復ごとの重なりが悪くなって(ウォークオフ)実効フィネスが落ちるので、調整範囲は限られます。

温度チューニング ── 温度を変えると屈折率 $n$($dn/dT$)と厚さ $d$(熱膨張係数 $\alpha$)の両方が変わります。共振波長の相対変化は

$$ \frac{1}{\lambda}\frac{d\lambda}{dT} = \frac{1}{n}\frac{dn}{dT} + \alpha $$

石英ガラス($n \approx 1.46$、$dn/dT \approx 1.0\times10^{-5}\ \text{K}^{-1}$、$\alpha \approx 0.55\times10^{-6}\ \text{K}^{-1}$)では合計 $7.4\times10^{-6}\ \text{K}^{-1}$。通信波長帯($\nu = 193$ THz)に直すと 1.4 GHz/K です。DWDMのチャネル間隔が50 GHzや100 GHzであることを思えば、たった数十Kで隣のチャネルへ飛んでしまう計算になります。だから通信用エタロンは必ずペルチェ素子で温調されているわけです。

逆に、この感度を極限まで潰したのが超高安定共振器です。ULEガラス($\alpha < 3\times10^{-8}\ \text{K}^{-1}$)のスペーサを使い、さらに熱膨張がゼロになる温度で動かすと、周波数ドリフトは数 MHz/K 以下まで落ちます。光格子時計や重力波検出器のレーザーは、こうした共振器に周波数をロックすることで Hz 級の線幅を実現しています。フィネスを上げるだけでは足りず、共振周波数そのものを固定して初めて「安定な光」になる ── ここが実務の勘所です。

ピエゾチューニング ── 走査型分光器では、鏡の一方をピエゾ素子に載せて $d$ を電圧で掃引します。可視光なら $\lambda/2 \approx 300$ nm 動かせば1 FSR 分をスキャンできるので、数百Vの積層ピエゾで十分です。フォトダイオード出力を掃引電圧に対して描けば、そのままスペクトルになります。

3つのつまみの効き方を押さえたところで、よくあるつまずきをQ&A形式で整理しておきましょう。

よくあるつまずきと考え方

Q. 反射率99.9%の鏡を2枚並べたのに、なぜ共振時は光が100%通るの? 定常状態では、共振器内部に入射光の $1/(1-R)$ 倍もの強い定在波が溜まっています。この内部場のごく一部($T = 1-R$)が入射側へ漏れ出しますが、その漏れ光は入射面での直接反射光とちょうど位相が反転していて、完全に打ち消し合います。反射がゼロになれば、エネルギー保存から透過は100%です。「光が鏡をすり抜けている」のではなく、「内部に溜まった光が反射を打ち消している」と理解してください。共振からわずかにずれると内部場が育たなくなり、この打ち消しが崩れて一気に反射に戻ります。

Q. コントラスト係数 $F$ とフィネス $\mathcal{F}$ の違いがこんがらがる $F = 4R/(1-R)^2$ はエアリー関数の分母に現れる式の内部パラメータで、$T_{\max}/T_{\min} = 1+F$ というコントラストを直接表します。一方フィネス $\mathcal{F} = \pi\sqrt{F}/2$ はFSRを半値幅で割った実測できる比で、スペクトルを1本見れば読み取れます。関係は $\mathcal{F} = \pi\sqrt{F}/2$、つまり $F$ の平方根オーダー。$R=0.99$ で $F = 3.96\times10^4$、$\mathcal{F} = 313$ と桁がまるで違うので、論文や仕様書でどちらを指しているかは必ず確認しましょう。

Q. FSRを広げつつ分解能も上げたい。両立できる? $\Delta\nu_{\text{FSR}} = c/(2nd)$ と $\lambda/\Delta\lambda = m\mathcal{F}$ は $d$ に対して逆向きに動くので、$d$ をいじるだけでは必ずトレードオフになります。両立させる唯一の道はフィネスを上げることです。分解能 $= m\mathcal{F}$、測定レンジ $\propto 1/m$ なので、両者の積は $\mathcal{F}$ に比例します。つまりフィネスは「レンジ×分解能」という総合性能そのもの。もうひとつの実用的な手は、FSRのわずかに異なる2枚のエタロンを直列にするバーニア(vernier)方式で、2枚の透過ピークが一致する周波数だけを通すことで、実効FSRを何倍にも広げられます。

Q. 平面鏡ではなく球面鏡を使うのはなぜ? 完全な平行平面鏡は、わずかな傾きでビームが横へ逃げてしまい(幾何学的に不安定)、往復回数が稼げません。凹面鏡を使うとビームが繰り返し軸へ引き戻され、安定な共振器になります。この場合の固有モードは平面波ではなくガウスビームで、横方向の広がり方の違いによる横モード(TEM$_{mn}$) も現れます。本記事で扱ったのは縦方向(軸方向)だけの話で、実際の共振器では縦モード×横モードの2次元的なモード構造になる、と押さえておいてください。走査型分光器で共焦点配置(2枚の凹面鏡の焦点を一致させる)が好まれるのは、横モードの縮退で見かけのFSRが $c/(4L)$ になり、位置合わせが楽になるからです。

Q. 手元のエタロンのフィネスはどう測るの? 一番素直なのは、線幅の十分細いレーザー(線幅がエタロンの半値幅より狭いもの)を入れ、ピエゾで $d$ を掃引して透過ピーク列を記録する方法です。隣り合うピークの間隔(=1 FSR)と、1本のピークの半値幅を、同じ横軸で測って割り算するだけでフィネスが出ます。掃引の非線形性が心配なら、既知の周波数で位相変調をかけてサイドバンドを立て、それを周波数の物差しにします。この「FSRを物差しにして幅を測る」という手続きこそ、フィネスが無次元量として定義されている実用上の理由です。

まとめ

本記事では、ファブリペロー干渉計の透過特性を多重反射から導出し、フィネスという指標の意味を多角的に掘り下げました。

  • エアリー関数:無限回反射する透過光は公比 $r^2e^{i\delta}$ の等比級数で和が閉じ、$T = 1/(1 + F\sin^2(\delta/2))$、$F = 4R/(1-R)^2$ が得られる。共振時は $R=0.999$ の鏡でも透過率100%になる
  • 位相差:隣り合う透過光の光路差は $2nd\cos\theta$。$\tan\theta$ や入射角が消えて $\cos\theta$ だけが残る
  • FSR:$\Delta\nu_{\text{FSR}} = c/(2nd\cos\theta)$。往復時間の逆数で、反射率には依存しない
  • フィネス:$\delta_{\text{FWHM}} = 4\arcsin(1/\sqrt{F}) \approx 4/\sqrt{F}$ から $\mathcal{F} = \mathrm{FSR}/\mathrm{FWHM} = \pi\sqrt{R}/(1-R) \approx \pi/(1-R)$。$R=0.9, 0.99, 0.999$ でそれぞれ 29.8, 313, 3140
  • 3つの読み方:フィネス ≈ π ×(実効干渉本数)= 光子寿命の指標 = Q値/次数。2光束干渉のフィネスがちょうど2になることが検算になる
  • 分解能:$\lambda/\Delta\lambda = m\mathcal{F} = Q$。$d=5$ mm・$R=0.99$ で $4.9\times10^6$($\Delta\lambda = 0.13$ pm、$\Delta\nu = 96$ MHz)
  • 現実の制限:$1/\mathcal{F}_{\text{eff}}^2 = \sum 1/\mathcal{F}_i^2$ により、鏡の平坦度(欠陥フィネス)が支配することが多い。$\lambda/100$ 基板では反射率をいくら上げてもフィネス50止まり
  • レーザー:共振器そのものがファブリペロー。$L=30$ cm なら FSR 500 MHz で He-Ne の利得幅に3本の縦モードが立ち、各モードの線幅は FSR/フィネス で決まる

ファブリペローの本質は「損失を減らして光を長く閉じ込めるほど、周波数を鋭く選別できる」という一点に尽きます。この考え方は光共振器に限らず、マイクロ波空洞、機械振動子、さらには量子ビットのコヒーレンス時間まで、共振現象のあるところすべてに通用します。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。