スマートフォンの基地局や衛星通信のトランスポンダで使われる電力増幅器(PA: Power Amplifier)は、システム全体の消費電力の大部分を占めます。基地局の運用コストの中でも電気代は無視できない比率であり、PA の効率を数パーセント改善するだけで、年間の電気代と冷却負荷が大きく下がります。ところがここに厄介な事情があります。LTE や 5G、衛星通信で使われる OFDM のような現代の変調方式は、瞬時の振幅が大きく変動する「高 PAPR(Peak to Average Power Ratio、ピーク対平均電力比)」の信号です。平均電力はピーク電力よりも 6〜10 dB も低いところにあります。
ところが、AB 級や B 級といった通常の電力増幅器は、最大出力(飽和点)付近でこそ高効率になりますが、そこから出力を絞った「バックオフ(backoff)」領域では効率がガクッと落ちます。高 PAPR 信号を歪ませずに増幅しようとすると、PA はほとんどの時間を効率の悪いバックオフ領域で動かすことになり、平均効率が悲惨なことになります。この「平均電力が低いところでこそ高効率にしたい」という難題を、回路トポロジーの工夫だけで解決したのが、1936 年に W. H. Doherty が考案したドハティ増幅器(Doherty Power Amplifier)です。
ドハティ増幅器を理解すると、以下のような場面で何が起きているのかが見通せるようになります。
- 携帯基地局の送信機: 4G/5G 基地局の PA はほぼ例外なくドハティ構成です。バックオフ効率を稼ぐことで消費電力を抑えています
- 衛星通信のトランスポンダ: 限られた電力バジェットの中で、マルチキャリア信号を高効率に増幅するためにドハティ系の技術が使われます
- デジタル・プリディストーション(DPD)との組み合わせ: ドハティは非線形性を持つので、DPD で線形化して使うのが定番です。なぜ非線形になるかを理解すると DPD の設計意図もわかります
本記事の内容
- なぜバックオフで効率が落ちるのか(AB 級単体 PA の効率特性)
- 負荷変調(load modulation)という発想と、λ/4 線路によるアクティブ負荷牽引の数式導出
- メイン増幅器とピーク増幅器の役割分担と電流配分
- バックオフ時に効率ピークが 2 つ現れる理由
- AB 級単体とドハティのドレイン効率を OBO(出力バックオフ)に対して比較する Python 実装
- 電流配分の波形(メインが飽和 → ピークが立ち上がる)の可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
なぜバックオフで効率が落ちるのか
ドハティ増幅器の巧妙さを理解するには、まず「通常の増幅器がバックオフでなぜ効率を失うのか」を体感しておく必要があります。ここを押さえないと、ドハティが何を解決しているのかが見えません。
電力増幅器のドレイン効率(drain efficiency)は、直流電源から供給される電力 $P_{DC}$ のうち、どれだけが RF 出力電力 $P_{out}$ に変換されたかの比です。
$$ \eta = \frac{P_{out}}{P_{DC}} $$
B 級増幅器を例に考えましょう。B 級では、トランジスタは入力信号の半分の周期だけ電流を流します(導通角 180 度)。出力電圧の振幅を $V_o$、負荷を $R_L$ とすると、出力電力は次のようになります。
$$ P_{out} = \frac{V_o^2}{2 R_L} $$
一方、B 級の直流電源電流は、出力電圧の振幅 $V_o$ に比例します(半波整流された電流の直流成分が振幅に比例するため)。電源電圧を $V_{DD}$ とすると、
$$ P_{DC} = V_{DD} \cdot \frac{V_o}{\pi R_L} \cdot 2 = \frac{2 V_{DD} V_o}{\pi R_L} $$
ここで係数の $2/\pi$ は、半波整流された正弦波電流の平均値(直流成分)が振幅の $1/\pi$ になることと、プッシュプル構成で 2 倍になることから来ています。これらを効率の定義に代入すると、
$$ \eta = \frac{P_{out}}{P_{DC}} = \frac{V_o^2 / (2 R_L)}{2 V_{DD} V_o / (\pi R_L)} = \frac{\pi}{4} \cdot \frac{V_o}{V_{DD}} $$
最後の式が、バックオフで効率が落ちる理由を端的に示しています。効率は出力電圧の振幅 $V_o$ に比例するのです。$V_o = V_{DD}$(飽和、フルパワー)のときに効率は最大値 $\pi/4 \approx 78.5\%$ に達しますが、出力を半分(電圧で $-6$ dB)に絞ると $V_o = V_{DD}/2$ となり、効率はちょうど半分の $39\%$ に落ちます。

左の図から、単体 B 級の効率が出力電圧振幅に正比例して直線的に下がることがわかります。6 dB バックオフ($V_o/V_{DD}=0.5$)でちょうど効率が半分の $39\%$ まで落ちています。右の図は同じ現象を波形で見たもので、バックオフ時(オレンジ)はドレイン電圧が $V_{DD}$ まで振れず、電流は流れているのに電圧が小さい状態、つまりトランジスタが熱として電力を捨てている時間が増えていることを示しています。
なぜこうなるのか、直感的に言い換えましょう。電源電圧 $V_{DD}$ は固定されています。出力を絞るとは、トランジスタが流す電流を減らすことに相当します。しかし、トランジスタのドレイン電圧の振幅 $V_o$ が小さくなるほど、トランジスタには「電流は流れているのに電圧が振れていない」状態、つまりトランジスタ自身が抵抗のように電力を熱として捨てている時間が増えます。バックオフでは、本来出力に行くべきエネルギーが、トランジスタ内部のロスとして失われているのです。
ここで自然な疑問が生まれます。効率が $V_o / V_{DD}$ に比例するのなら、バックオフでも $V_o$ を $V_{DD}$ 近くに保てれば効率を維持できるのではないでしょうか。出力電力 $P_{out} = V_o^2 / (2 R_L)$ を見ると、$V_o$ を一定に保ったまま出力電力を下げるには、負荷 $R_L$ を大きくすればよいことがわかります。「出力に応じて負荷抵抗を動的に変える」 — これがドハティ増幅器の核心アイデア、負荷変調です。
負荷変調という発想
負荷変調(load modulation)とは、増幅器が見る負荷インピーダンスを、出力電力レベルに応じて能動的に変化させる技術です。普通の増幅器では負荷はアンテナや 50 Ω の固定値ですが、ドハティではこれを動的に動かします。
イメージとしては、自転車のギアに似ています。平地(フルパワー)では軽いギア、坂道(バックオフ)では重いギアに切り替えることで、ペダルを漕ぐ力(トランジスタの電圧振幅 $V_o$)を一定のまま、進む速さ(出力電力)を調整するようなものです。トランジスタの電圧スイングを飽和近くに保ったまま出力を絞れれば、先ほどの効率式 $\eta = (\pi/4)(V_o/V_{DD})$ から、バックオフでも効率を高く維持できます。
問題は「どうやって負荷を動的に変えるか」です。可変抵抗を機械的に動かすわけにはいきません。ドハティは、もう 1 つの増幅器(ピーク増幅器)から電流を注入し、その電流が作る電圧によって、メイン増幅器が見る負荷を電気的に変化させるという離れ業をやってのけます。これをアクティブ負荷牽引(active load-pull)と呼びます。
その鍵を握るのが λ/4 線路(四分の一波長線路)です。次のセクションで、なぜ λ/4 線路が負荷を変調できるのかを、回路方程式から導出していきましょう。
ドハティ増幅器の構成
ドハティ増幅器は、2 つの増幅器から構成されます。
- メイン増幅器(キャリア増幅器、Main / Carrier amplifier): AB 級でバイアスされ、低い入力レベルから常に動作します
- ピーク増幅器(補助増幅器、Peak / Auxiliary amplifier): C 級でバイアスされ、入力レベルが高くなったときだけ動作を始めます
2 つの増幅器の出力は、λ/4 インピーダンス変成器を介して合成され、共通の負荷に接続されます。古典的なドハティの構成を回路図的に整理すると、次のような接続になっています。
メイン増幅器 ──[ λ/4 線路, 特性Z0 ]── 合成点 ── [負荷 R_L]
│
ピーク増幅器 ─────────────────────────────┘
入力側では、ピーク増幅器のパスに λ/4 の遅延線(位相を 90 度遅らせる線路)を挿入し、出力側の λ/4 線路による位相回転を補償します。これにより、2 つの増幅器の出力が合成点で同相になり、正しく電力合成されます。
それぞれの増幅器のバイアスの違いが、ドハティの動作を 2 つの領域に分けます。入力が小さいうちはメイン増幅器だけが動き(低出力領域)、入力が大きくなるとピーク増幅器も加わって両方が動く(高出力領域)という具合です。この境界が、後で出てくる「ターンオン点」です。
なぜわざわざ λ/4 線路を間に挟むのか。ここに負荷変調の魔法が隠れています。次に、λ/4 線路がインピーダンスをどう変換するかを思い出し、それを使ってメイン増幅器が見る負荷がどう変化するかを導出しましょう。
λ/4 線路によるアクティブ負荷牽引の導出
λ/4 線路のインピーダンス変換
まず λ/4 線路の基本性質を確認します。特性インピーダンス $Z_0$、電気長 $\lambda/4$ の伝送線路の入力端から負荷端を見たとき、入力インピーダンス $Z_{in}$ と負荷インピーダンス $Z_L$ の間には次の関係が成り立ちます。
$$ Z_{in} = \frac{Z_0^2}{Z_L} $$
これは λ/4 線路が「インピーダンスの逆数変換器(インピーダンス・インバータ)」として働くことを意味します。負荷が小さいと入力は大きく、負荷が大きいと入力は小さくなります。詳しい導出は λ/4インピーダンス変成器の原理と設計 を参照してください。
しかし、ドハティの負荷変調を理解するには、インピーダンスだけでなく電圧と電流の関係として λ/4 線路を扱うほうが見通しがよくなります。そこで、線路を 2 ポート回路として ABCD 行列で記述します。特性インピーダンス $Z_0$、電気長 $\theta = \beta \ell$ の無損失線路の ABCD 行列は、
$$ \begin{pmatrix} V_1 \\ I_1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \cos\theta & j Z_0 \sin\theta \\ j \sin\theta / Z_0 & \cos\theta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} V_2 \\ I_2 \end{pmatrix} $$
ここで $\theta = \pi/2$(λ/4)を代入すると、$\cos(\pi/2) = 0$、$\sin(\pi/2) = 1$ なので、行列は劇的に簡単になります。
$$ \begin{pmatrix} V_1 \\ I_1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & j Z_0 \\ j / Z_0 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} V_2 \\ I_2 \end{pmatrix} $$
成分を書き下すと、入力端(ポート 1、メイン増幅器側)と出力端(ポート 2、合成点側)の電圧・電流の関係が得られます。
$$ V_1 = j Z_0 I_2, \qquad I_1 = \frac{j}{Z_0} V_2 $$
この 2 本の式が、ドハティの負荷変調をすべて説明します。注目すべきは、入力端の電圧 $V_1$ が出力端の電流 $I_2$ で決まり、入力端の電流 $I_1$ が出力端の電圧 $V_2$ で決まるという「交差した」関係です。電圧と電流が λ/4 線路を通ると役割を入れ替えるのです。
負荷変調の数式
それでは具体的に、ドハティ回路でメイン増幅器が見る負荷インピーダンスを計算しましょう。記号を定義します。
- メイン増幅器の出力電流(λ/4 線路の入力端 = ポート 1 に流し込む電流)を $I_1$
- ピーク増幅器の出力電流(合成点に直接注入する電流)を $I_P$
- 合成点(λ/4 線路のポート 2)の電圧を $V_2$
- 共通負荷を $R_L$
合成点では、λ/4 線路から出てくる電流 $I_2$ とピーク増幅器の電流 $I_P$ が合流して負荷 $R_L$ に流れ込みます。キルヒホッフの電流則より、合成点の電圧は両方の電流の和に負荷をかけたものになります。ここで、メイン側から見て λ/4 線路を出ていく向きを正にとると、合成点に流入する電流の総和が $R_L$ を通って流れ出すので、
$$ V_2 = R_L (I_2 + I_P) $$
が成り立ちます。メイン増幅器が見る負荷インピーダンス $Z_1$ は、ポート 1 の電圧 $V_1$ を電流 $I_1$ で割ったものです。先ほどの λ/4 線路の関係式 $V_1 = j Z_0 I_2$ と $I_1 = j V_2 / Z_0$ を使います。まず $Z_1$ を定義に従って書くと、
$$ Z_1 = \frac{V_1}{I_1} = \frac{j Z_0 I_2}{j V_2 / Z_0} = \frac{Z_0^2 I_2}{V_2} $$
ここに $V_2 = R_L(I_2 + I_P)$ を代入すると、
$$ Z_1 = \frac{Z_0^2 I_2}{R_L (I_2 + I_P)} = \frac{Z_0^2}{R_L} \cdot \frac{I_2}{I_2 + I_P} = \frac{Z_0^2}{R_L} \cdot \frac{1}{1 + I_P / I_2} $$
この式が負荷変調の本質を表しています。ピーク増幅器の電流 $I_P$ がゼロのとき、$Z_1 = Z_0^2 / R_L$ となります。ところがピーク増幅器が電流 $I_P$ を注入し始めると、分母の $1 + I_P/I_2$ が増えていくため、メイン増幅器が見る負荷 $Z_1$ は減少していきます。
ここに注意してください。ピーク増幅器の電流が増えると、メインから見た負荷は「大きい値から小さい値へ」変化します。実際のドハティ設計では、低出力時にメインが大きな負荷を見て(高効率)、高出力時に小さな負荷を見る(大出力)ように、$Z_0$ と $R_L$ を選びます。この $Z_1$ の動的変化こそが、メイン増幅器の電圧スイングを飽和に保ちながら出力を変えることを可能にする、負荷変調の実体です。
一方、ピーク増幅器が見る負荷 $Z_P$ も計算しておきましょう。ピーク増幅器は合成点に直接つながっているので、見る電圧は $V_2$、流す電流は $I_P$ です。
$$ Z_P = \frac{V_2}{I_P} = \frac{R_L (I_2 + I_P)}{I_P} = R_L \left(1 + \frac{I_2}{I_P}\right) $$
ピーク増幅器の負荷は、メインとは逆に「大きい値から小さい値へ」近づいていきます。$I_P$ が小さいうち(立ち上がり直後)は $Z_P$ が大きく、$I_P$ が $I_2$ と同程度まで増えると $Z_P$ は $R_L$ の小さい倍数に落ち着きます。
このように、2 つの増幅器が互いの負荷を動的に引っ張り合う(牽引する)のがアクティブ負荷牽引です。次は、この負荷変調が出力レベルに応じて具体的にどう進行するか、2 つの動作領域に分けて追いかけましょう。
2 つの動作領域とターンオン点
ドハティ増幅器の動作を、入力信号の振幅(normalized してパラメータ $v$、$0 \le v \le 1$、$v = 1$ がフルパワー)で追いかけます。古典的な対称型ドハティ(メインとピークが同じ最大電流を出せる構成)を仮定します。
低出力領域($0 \le v \le 1/2$)
入力振幅が小さいうちは、C 級バイアスのピーク増幅器はまだ導通せず、$I_P = 0$ です。メイン増幅器だけが動きます。このとき、負荷変調の式から $I_P = 0$ を代入して、メインが見る負荷は最大値で一定です。
$$ Z_1 = \frac{Z_0^2}{R_L} \quad (\text{一定}) $$
ドハティでは、この低出力領域でのメインの負荷を、最適負荷 $R_{opt}$ の 2 倍に設定するのが定石です。すなわち $Z_0^2 / R_L = 2 R_{opt}$ となるよう $Z_0$, $R_L$ を選びます。負荷が 2 倍ということは、同じ電圧スイング $V_o$ に対して電流が半分でよいので、メイン増幅器はちょうど半分の出力(電力で $-6$ dB、$v = 1/2$)で電圧スイングが飽和に達します。
メイン増幅器の電流が増えるにつれて電圧スイングも増え、$v = 1/2$ でメインのドレイン電圧スイングが電源電圧いっぱい(飽和)になります。この点でメイン増幅器は効率最大に到達します。これが 1 つ目の効率ピークです。
ターンオン点($v = 1/2$、6 dB バックオフ点)
$v = 1/2$ は、ドハティの設計の中心となる点です。ここでメイン増幅器が飽和し、同時にピーク増幅器が導通を開始します。対称型ドハティでは、この点が飽和出力から見て電力で $-6$ dB のバックオフ点に当たるため、6 dB バックオフ点と呼ばれます。高 PAPR 信号の「平均電力」をちょうどこのあたりに合わせると、平均効率が最大化されます。
高出力領域($1/2 \le v \le 1$)
$v > 1/2$ ではピーク増幅器が導通し、$I_P$ が増加します。すると負荷変調の式から、メインが見る負荷 $Z_1$ は $2 R_{opt}$ から減少を始めます。設計どおりに進むと、$v = 1$(フルパワー)でちょうど $Z_1 = R_{opt}$ に到達します。
$$ Z_1: \ 2 R_{opt} \ \xrightarrow{\ v: 1/2 \to 1\ } \ R_{opt} $$
ここが巧妙なところです。負荷が $2R_{opt}$ から $R_{opt}$ へ下がっていく一方で、メイン増幅器の電流は増え続けます。負荷が下がる効果と電流が増える効果がちょうど釣り合い、メイン増幅器のドレイン電圧スイングは飽和に張り付いたまま保たれます。電圧が飽和に張り付くということは、メイン増幅器はこの領域全体で効率最大の状態を維持し続けるということです。
そして $v = 1$ では、メインとピークの両方が飽和に達し、2 つ目の効率ピークが現れます。
低出力で 1 つ目($v = 1/2$)、フルパワーで 2 つ目($v = 1$)。バックオフ時に効率のピークが 2 つ現れるのがドハティの最大の特徴です。この 2 つのピークの間の領域でも、効率は単体 PA のように落ち込まず、高い値を保ちます。
この「電圧スイングが飽和に張り付く」様子を、モデルから実際に計算してみましょう。

このグラフから、メインのドレイン電圧スイング(青)が $v = 0.5$ のターンオン点で飽和(=1)に達し、その後フルパワーまで $1$ に張り付いたままであることが読み取れます。負荷が $2R_{opt}$ から $R_{opt}$ へ下がる効果と電流が増える効果がちょうど釣り合うため、電圧が飽和に固定されるのです。電圧が飽和に張り付いている間、メイン増幅器は効率最大の状態を維持し続けます。一方ピーク電圧(オレンジ)は $v=0.5$ から立ち上がり、$v=1$ で飽和に達します。次のセクションで、この振る舞いから効率特性を数式で書き下しましょう。
ドレイン効率の数式
理想的な対称型ドハティのドレイン効率を、入力振幅 $v$ の関数として導きます。ここでは各増幅器を理想的な B 級として扱い、解析を見通しよくします(実際の AB/C 級でも本質は同じです)。
メイン増幅器の電流・電圧
メイン増幅器の出力電流の基本波振幅を $i_M$、ドレイン電圧スイングを $v_M$ とします。正規化して、$v = 1$ で電流・電圧とも最大値 1 になるようにとります。低出力領域と高出力領域で、それぞれ次のように振る舞います。
低出力領域($0 \le v \le 1/2$)では、負荷が $2R_{opt}$ で一定なので、電圧は電流に比例して増えます。メイン電流は入力に比例するので $i_M = v$、電圧は負荷が 2 倍なので $v_M = 2v$ です。$v = 1/2$ で $v_M = 1$(飽和)に達します。
高出力領域($1/2 \le v \le 1$)では、電圧 $v_M$ は飽和に張り付いて 1 で一定、電流 $i_M = v$ は増え続けます。
ピーク増幅器の電流
ピーク増幅器は $v = 1/2$ で立ち上がり、$v = 1$ で最大に達します。C 級的に、立ち上がってから入力に比例して直線的に増えるとモデル化すると、
$$ i_P = \begin{cases} 0 & (0 \le v \le 1/2) \\ 2v – 1 & (1/2 \le v \le 1) \end{cases} $$
$v = 1/2$ で $i_P = 0$、$v = 1$ で $i_P = 1$ となり、メインの電流と同じ最大値に達します。
出力電力と直流電力
正規化した出力電力は、メインとピークの基本波電力の合計です。理想的な合成では、両者が同相で足し合わされるので、
$$ P_{out}(v) \propto (i_M v_M + i_P v_P) $$
直流電力は、各増幅器が電源から引く電流の和です。B 級では直流電流は基本波電流振幅に比例する(係数 $2/\pi$)ので、メインとピークそれぞれの直流電流を足します。
$$ P_{DC}(v) \propto \frac{2}{\pi}(i_M + i_P) $$
ドレイン効率はこの比 $\eta = P_{out} / P_{DC}$ です。低出力領域では $i_P = 0$ なので、メイン単独の効率になります。$i_M = v$, $v_M = 2v$ を代入すると、
$$ \eta(v) = \frac{\pi}{4} \cdot \frac{i_M v_M}{i_M} = \frac{\pi}{4} v_M = \frac{\pi}{4} \cdot 2v = \frac{\pi}{2} v \quad (0 \le v \le 1/2) $$
$v = 1/2$ を代入すると $\eta = \pi/4 \approx 78.5\%$ となり、最初の効率ピークに到達します。これは B 級の理論最大効率と同じ値です。注目すべきは、フルパワーの半分(6 dB バックオフ)で、すでに理論最大効率に達していることです。単体 B 級なら同じ点で効率は半分の $39\%$ しかありません。
高出力領域でも効率を計算できますが、両増幅器の電圧・電流の積を丁寧に足す必要があるため、ここからは数値計算に委ねるのが実用的です。次の Python 実装で、単体 PA とドハティの効率曲線を比較し、ピークが 2 つ現れる様子を確かめましょう。
Python によるドハティ効率の可視化
概念図 — 負荷変調の仕組み
最初に、ドハティの構成と負荷変調の概念を図で押さえます。メイン増幅器、ピーク増幅器、λ/4 線路、合成点、共通負荷の関係を模式図にします。
import numpy as np
import matplotlib, matplotlib.pyplot as plt
# 日本語フォント設定
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
fig, ax = plt.subplots(figsize=(9, 4.5))
ax.axis("off")
# ブロックを描く補助関数
def box(x, y, w, h, text, color):
ax.add_patch(plt.Rectangle((x, y), w, h, facecolor=color,
edgecolor="black", lw=1.5))
ax.text(x + w / 2, y + h / 2, text, ha="center", va="center", fontsize=11)
box(0.0, 2.2, 1.8, 1.0, "メイン増幅器\n(AB級)", "#bfe3ff")
box(0.0, 0.2, 1.8, 1.0, "ピーク増幅器\n(C級)", "#ffd9b3")
box(6.5, 1.2, 1.6, 1.0, "負荷 $R_L$", "#d9f2d9")
# メイン → λ/4線路 → 合成点
ax.annotate("", xy=(3.6, 2.7), xytext=(1.8, 2.7),
arrowprops=dict(arrowstyle="-", lw=2))
ax.add_patch(plt.Rectangle((3.6, 2.45), 1.4, 0.5, facecolor="#ffffcc",
edgecolor="black", lw=1.5))
ax.text(4.3, 2.7, "λ/4 線路 $Z_0$", ha="center", va="center", fontsize=10)
ax.annotate("", xy=(5.6, 2.7), xytext=(5.0, 2.7),
arrowprops=dict(arrowstyle="-", lw=2))
# 合成点
ax.plot(5.6, 1.7, "ko", ms=8)
ax.text(5.6, 2.95, "合成点 $V_2$", ha="center", fontsize=10)
ax.plot([5.6, 5.6], [0.7, 2.7], "k-", lw=2) # 縦線
ax.annotate("", xy=(0.0, 0.7), xytext=(5.6, 0.7),
arrowprops=dict(arrowstyle="-", lw=2)) # ピーク → 合成点
ax.annotate("", xy=(6.5, 1.7), xytext=(5.6, 1.7),
arrowprops=dict(arrowstyle="-", lw=2)) # 合成点 → 負荷
ax.text(2.7, 3.0, "電流 $I_1$", ha="center", fontsize=9, color="navy")
ax.text(2.7, 0.45, "電流 $I_P$", ha="center", fontsize=9, color="saddlebrown")
ax.set_xlim(-0.3, 8.4)
ax.set_ylim(-0.2, 3.4)
ax.set_title("ドハティ増幅器の構成と負荷変調")
plt.tight_layout()
plt.show()

この図から、ドハティの 2 つの増幅器がどう接続されるかがわかります。メイン増幅器は λ/4 線路を介して合成点につながり、ピーク増幅器は合成点に直接つながっています。ピーク増幅器が電流 $I_P$ を注入すると、合成点の電圧 $V_2$ が変わり、λ/4 線路を通してメインが見る負荷 $Z_1$ が変調されます。これが負荷変調の物理的な経路です。
メインが見る負荷の変化
次に、ピーク増幅器の電流が増えるにつれて、メイン増幅器とピーク増幅器がそれぞれ見る負荷インピーダンスがどう変化するかを、先ほど導いた式でプロットします。$R_{opt} = 1$ に正規化し、$Z_0^2/R_L = 2$ となるよう設定します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
Ropt = 1.0 # 最適負荷(正規化)
# 低出力でメインが見る負荷 = 2*Ropt になるよう Z0^2/RL = 2
Z0_sq_over_RL = 2.0 * Ropt
# 入力振幅 v: 0〜1。v=1/2 でピークがターンオン
v = np.linspace(0, 1, 400)
iM = v.copy() # メイン基本波電流(正規化)
iP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1) # ピーク基本波電流
# 負荷変調: Z1 = (Z0^2/RL) / (1 + I_P/I_2)。理想ドハティでは I2≈iM
# メインが見る負荷(iM=0 付近の発散を避けて eps を足す)
eps = 1e-9
Z1 = Z0_sq_over_RL / (1 + iP / (iM + eps))
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(v, Z1, lw=2.2, color="navy", label="メインが見る負荷 $Z_1$")
plt.axhline(2 * Ropt, ls=":", color="gray")
plt.axhline(Ropt, ls=":", color="gray")
plt.axvline(0.5, ls="--", color="crimson", label="ターンオン点 (6dBバックオフ)")
plt.text(0.02, 2.04, "$2R_{opt}$", fontsize=11)
plt.text(0.02, 1.04, "$R_{opt}$", fontsize=11)
plt.xlabel("入力振幅 $v$(1=フルパワー)")
plt.ylabel("メインが見る負荷($R_{opt}$ で正規化)")
plt.title("負荷変調:ピーク電流の増加でメインの負荷が下がる")
plt.legend()
plt.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフから、負荷変調の進行がはっきり読み取れます。低出力領域($v < 0.5$)ではピーク電流がゼロなので、メインが見る負荷(青)は $2R_{opt}$ で一定です。ターンオン点($v = 0.5$)を境にピーク増幅器が立ち上がると、メインの負荷は $2R_{opt}$ から減少を始め、フルパワー($v = 1$)でちょうど $R_{opt}$ に到達します。一方、ピークが見る負荷(オレンジ)は立ち上がり直後に非常に大きく、$v$ が増えるにつれて $R_{opt}$ の数倍へと下がってきます。2 つの増幅器が互いの負荷を逆向きに引っ張り合う様子が読み取れます。負荷が半分に下がることで、メインは同じ飽和電圧スイングのまま 2 倍の電流を出せるようになり、出力電力を伸ばせるのです。
電流配分の波形 — メインが飽和、ピークが立ち上がる
ドハティの動作で最も重要なのが、2 つの増幅器の電流配分です。入力振幅 $v$ に対して、メインとピークの基本波電流がどう分担されるかを描きます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
v = np.linspace(0, 1, 400)
iM = v.copy() # メイン電流
iP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1) # ピーク電流
i_total = iM + iP # 合成点での合計電流(出力に寄与)
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(v, iM, lw=2.2, color="navy", label="メイン増幅器 $i_M$")
plt.plot(v, iP, lw=2.2, color="darkorange", label="ピーク増幅器 $i_P$")
plt.plot(v, i_total, lw=2.0, ls="--", color="green", label="合計 $i_M+i_P$")
plt.axvline(0.5, ls=":", color="crimson")
plt.text(0.5, 0.05, "ピーク\nターンオン", color="crimson", ha="center", fontsize=9)
plt.xlabel("入力振幅 $v$(1=フルパワー)")
plt.ylabel("基本波電流(正規化)")
plt.title("ドハティの電流配分:メインが先行、ピークが後から加勢")
plt.legend()
plt.grid(alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフが、ドハティの「役割分担」を物語っています。低出力ではメイン増幅器だけが電流を出し、ピークはゼロです。$v = 0.5$ のターンオン点でピーク増幅器が立ち上がり、そこから急な傾き($2v-1$)で電流を増やします。フルパワー($v = 1$)では両者がともに最大電流 1 に達し、合計は 2 になります。メインが先に飽和し、足りない分をピークが後から加勢する — これがドハティの電流配分の核心です。
AB 級単体とドハティのドレイン効率比較
いよいよ本記事の主役、効率特性です。理想 B 級単体 PA と理想ドハティのドレイン効率を、入力振幅 $v$ に対して計算し比較します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
v = np.linspace(1e-3, 1.0, 500)
# --- 単体B級 PA ---
# 効率 = (pi/4) * (Vo/Vdd)。電圧スイング Vo は入力に比例 → Vo/Vdd = v
eta_single = (np.pi / 4) * v
# --- ドハティ PA ---
iM = v.copy()
iP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1)
# メイン電圧: 低出力で v_M=2v、v>=0.5 で飽和して 1
vM = np.where(v <= 0.5, 2 * v, 1.0)
# ピーク電圧: 合成点電圧。理想では v>=0.5 で iP に比例して立ち上がり v=1 で 1
vP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1)
# 出力電力(基本波電力の和、(1/2)i*v)
P_out = 0.5 * (iM * vM + iP * vP)
# 直流電力(B級:直流電流 = (2/pi)*基本波振幅)
P_dc = (2 / np.pi) * (iM + iP)
eta_doherty = P_out / P_dc
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
plt.plot(v, 100 * eta_single, lw=2.2, color="gray", label="単体B級 PA")
plt.plot(v, 100 * eta_doherty, lw=2.5, color="crimson", label="ドハティ PA")
plt.axhline(100 * np.pi / 4, ls=":", color="black", alpha=0.6)
plt.text(0.02, 100 * np.pi / 4 + 1, "理論最大 78.5%", fontsize=10)
plt.axvline(0.5, ls="--", color="navy", alpha=0.7)
plt.text(0.51, 20, "6dBバックオフ点", color="navy", fontsize=9)
plt.xlabel("入力振幅 $v$(1=フルパワー)")
plt.ylabel("ドレイン効率 [%]")
plt.title("ドレイン効率の比較:ドハティは2つの効率ピークを持つ")
plt.legend()
plt.grid(alpha=0.3)
plt.ylim(0, 90)
plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフがドハティ増幅器の全価値を凝縮しています。単体 B 級(灰色)の効率は入力に比例して直線的に上がり、フルパワーでようやく $78.5\%$ に達します。一方ドハティ(赤)は、$v = 0.5$(6 dB バックオフ)でいったん $78.5\%$ の効率ピークに達し(左の赤点)、その後もほとんど効率を落とさずにフルパワーで再び $78.5\%$ に到達します(右の赤点)。2 つの効率ピークの間でも効率は $60\%$ 以上を保ち、単体の谷を大きく埋めています。
効率が高く保たれる本質は、メイン増幅器の動作点(電流と電圧の組)がどう動くかを見るとさらに腑に落ちます。横軸にメイン電流、縦軸にメイン電圧スイングをとって、入力振幅 $v$ を色で表した動作点軌跡を描いてみます。

この軌跡から、メイン増幅器の動作点が低出力では原点から斜めに(電圧・電流とも増えながら)伸びていき、ターンオン点 $v=0.5$ で電圧飽和ライン($v_M=1$)に到達することが読み取れます。それ以降は、動作点が飽和ライン付近にとどまったまま電流 $i_M$ だけが右へ増えていきます。電圧が飽和に張り付いたまま電流だけ伸ばせるのが負荷変調の効果で、これが高出力領域でも効率を高く保つ理由です。
出力バックオフ(OBO)軸での効率比較
実務では、横軸を「飽和出力からのバックオフ量 [dB]」(OBO: Output Back-Off)にとって効率を評価します。0 dB が飽和点、$-6$ dB が 6 dB バックオフ点です。同じデータを OBO 軸に描き直します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
v = np.linspace(1e-3, 1.0, 500)
# 効率(前のコードと同じ)
eta_single = (np.pi / 4) * v
iM = v.copy()
iP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1)
vM = np.where(v <= 0.5, 2 * v, 1.0)
vP = np.where(v <= 0.5, 0.0, 2 * v - 1)
P_out = 0.5 * (iM * vM + iP * vP)
P_dc = (2 / np.pi) * (iM + iP)
eta_doherty = P_out / P_dc
# 出力電力(飽和=v=1で最大)。単体B級の出力 ∝ v^2、ドハティは P_out
Pout_single = v**2
OBO_single = 10 * np.log10(Pout_single / Pout_single[-1])
OBO_doherty = 10 * np.log10(P_out / P_out[-1])
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
plt.plot(OBO_single, 100 * eta_single, lw=2.2, color="gray", label="単体B級 PA")
plt.plot(OBO_doherty, 100 * eta_doherty, lw=2.5, color="crimson", label="ドハティ PA")
plt.axvline(-6, ls="--", color="navy", alpha=0.7)
plt.text(-5.9, 20, "6dB OBO", color="navy", fontsize=9)
plt.xlabel("出力バックオフ OBO [dB](0=飽和)")
plt.ylabel("ドレイン効率 [%]")
plt.title("OBO に対する効率:6dBバックオフでの効率改善")
plt.legend()
plt.grid(alpha=0.3)
plt.xlim(-12, 0.5)
plt.ylim(0, 90)
plt.tight_layout()
plt.show()

この OBO 軸のグラフは、現代の高 PAPR 信号にとって最も実用的な見方です。6 dB バックオフ点($-6$ dB)を見ると、単体 B 級の効率が約 $39\%$ まで落ち込んでいるのに対し、ドハティは $78\%$ 前後を維持しています(数値計算上は $-6$ dB 近傍で約 $77.8\%$)。6 dB バックオフでの効率改善は約 2 倍です。実際の信号の平均電力はこのバックオフ領域にあるので、ドハティを使うと平均効率が大幅に改善され、消費電力と発熱が約半分に抑えられます。
6 dB バックオフでの効率改善の定量化
最後に、6 dB バックオフ点での効率改善を数値で確認します。
import numpy as np
# B級単体: 6dBバックオフ = 電圧で半分 → v=0.5
eta_single_6db = (np.pi / 4) * 0.5
# ドハティ: 6dBバックオフ = ターンオン点 v=0.5 で理論最大
eta_doherty_6db = np.pi / 4
print(f"単体B級 @6dB OBO: {100*eta_single_6db:.1f} %")
print(f"ドハティ @6dB OBO: {100*eta_doherty_6db:.1f} %")
print(f"効率改善(比) : {eta_doherty_6db/eta_single_6db:.2f} 倍")
print(f"効率改善(差) : {100*(eta_doherty_6db-eta_single_6db):.1f} ポイント")
出力結果は次のようになります。
単体B級 @6dB OBO: 39.3 %
ドハティ @6dB OBO: 78.5 %
効率改善(比) : 2.00 倍
効率改善(差) : 39.3 ポイント
この数値が、ドハティ増幅器の存在意義を端的に示しています。6 dB バックオフ点で、単体 B 級が $39.3\%$ なのに対し、ドハティは $78.5\%$ — ちょうど 2 倍、約 39 ポイントの効率改善です。基地局のように常時バックオフ領域で動かす用途では、この差がそのまま電気代と冷却コストの差になります。理想モデルでの結果ですが、実機でも 6 dB バックオフで $50\%$ 前後(単体 AB 級の 30 % 程度に対して大幅改善)が得られ、傾向は完全に一致します。
AM/AM 特性 — ドハティの非線形性
効率と引き換えに、ドハティは振幅特性に「折れ曲がり」を持ちます。入力包絡線に対する出力包絡線(AM/AM 特性)を、単体 B 級とドハティで比較します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
a = np.linspace(0, 1.05, 500) # 入力包絡線
out_single = np.minimum(a, 0.85) # 単体B級:早めに飽和(クリップ)
iM = np.clip(a, 0, 1)
iP = np.where(a <= 0.5, 0.0, np.clip(2*a-1, 0, 1))
vM = np.where(a <= 0.5, 2*a, 1.0)
vP = np.where(a <= 0.5, 0.0, np.clip(2*a-1, 0, 1))
env_d = np.sqrt(np.clip(0.5*(iM*vM + iP*vP), 0, None))
env_d /= env_d[np.argmin(np.abs(a-1.0))] # v=1で1に正規化
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(a, a, ls=":", color="black", alpha=0.5, label="理想線形")
plt.plot(a, out_single/out_single.max(), lw=2.3, color="gray", label="単体B級")
plt.plot(a, env_d, lw=2.4, color="crimson", label="ドハティ")
plt.axvline(0.5, ls="--", color="navy", alpha=0.6)
plt.xlabel("入力包絡線(正規化)")
plt.ylabel("出力包絡線(正規化)")
plt.title("AM/AM特性:ドハティはターンオン点で傾きが変わる")
plt.legend(); plt.grid(alpha=0.3); plt.tight_layout(); plt.show()

このグラフから、ドハティ(赤)の出力包絡線が理想線形(点線)からずれ、$v = 0.5$ のターンオン点を境に傾きが変化していることが読み取れます。これは負荷変調とピーク増幅器の立ち上がりによる利得変動が原因です。単体 B 級(灰色)は飽和でクリップするだけですが、ドハティはターンオン点に「折れ」を持つため、そのままでは信号が歪みます。だからこそ実用ではデジタル・プリディストーション(DPD)でこの曲線を逆補正して線形化します。次に、この特性を持つドハティを実際の高 PAPR 信号で動かしたとき、平均効率がどれだけ改善するかを実測してみましょう。
高 PAPR 信号での平均効率(モンテカルロ実測)
ドハティの真価は、瞬時振幅が大きく変動する高 PAPR 信号で発揮されます。多数のサブキャリアを合成した OFDM 風の信号(包絡線がレイリー分布になる)を生成し、各瞬時サンプルの出力電力と直流電力を効率曲線から内挿して足し合わせ、信号全体の平均効率を実測します。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(42)
N = 200000
env = np.abs(rng.normal(0,1,N) + 1j*rng.normal(0,1,N)) # レイリー包絡線
sat = np.percentile(env, 99.9) # 99.9%点を飽和=1に
v = np.clip(env/sat, 0, 1.0) # 瞬時入力振幅
# ドハティと単体の出力/直流(基本波・B級)を v から計算
iM = v; iP = np.where(v<=0.5, 0.0, 2*v-1)
vM = np.where(v<=0.5, 2*v, 1.0); vP = np.where(v<=0.5, 0.0, 2*v-1)
Pout_d = 0.5*(iM*vM + iP*vP); Pdc_d = (2/np.pi)*(iM+iP)
Pout_s = v**2; Pdc_s = v
avg_d = Pout_d.sum()/Pdc_d.sum()
avg_s = Pout_s.sum()/Pdc_s.sum()
papr = 10*np.log10(np.max(v**2)/np.mean(v**2))
print(f"PAPR ≈ {papr:.1f} dB")
print(f"平均効率 単体B級: {100*avg_s:.1f} %")
print(f"平均効率 ドハティ: {100*avg_d:.1f} %")
出力結果は次のようになります。
PAPR ≈ 8.5 dB
平均効率 単体B級: 42.6 %
平均効率 ドハティ: 57.1 %

左の図は生成した信号の包絡線分布です。平均(緑線)が飽和の $0.33$ 倍あたりにあり、ピーク(飽和=1)まで広く裾を引いている=PAPR が約 $8.5$ dB の高 PAPR 信号であることが読み取れます。信号は平均的にターンオン点(赤破線、$v=0.5$)より下のバックオフ領域で動きます。右の棒グラフが実測した平均効率で、単体 B 級が $42.6\%$ なのに対しドハティは $57.1\%$ — 約 14 ポイント、相対で 1.3 倍以上の改善です。理想点での 2 倍ほど劇的ではないのは、信号が常に 6 dB 点ぴったりではなく分布として広がっているためですが、それでも実信号で確かな効率改善が得られることが確認できました。
まとめ
本記事では、ドハティ増幅器の負荷変調原理と効率特性を、数式の導出から Python 実装まで通して解説しました。
- バックオフで効率が落ちる理由: B 級の効率は $\eta = (\pi/4)(V_o/V_{DD})$ で出力電圧振幅に比例するため、出力を絞ると効率が直線的に低下する
- 負荷変調: 出力に応じて負荷抵抗を動的に変えれば、トランジスタの電圧スイングを飽和に保ったまま出力を調整でき、バックオフでも高効率を維持できる
- λ/4 線路によるアクティブ負荷牽引: ABCD 行列から導いた $V_1 = jZ_0 I_2$, $I_1 = jV_2/Z_0$ により、メインが見る負荷は $Z_1 = (Z_0^2/R_L)/(1 + I_P/I_2)$ となり、ピーク電流の増加で減少する
- 電流配分: メインが先に飽和し、6 dB バックオフ点(ターンオン点)からピークが立ち上がって加勢する
- 2 つの効率ピーク: 6 dB バックオフとフルパワーの 2 点で効率が最大になり、間の谷も埋まる。6 dB バックオフで単体比約 2 倍の効率改善
ドハティ増幅器は高効率と引き換えに非線形性を持つため、実用ではデジタル・プリディストーション(DPD)と組み合わせて線形化します。また、メインとピークの電流比を変える「非対称ドハティ」や、3 段以上の「マルチウェイ・ドハティ」によって、より深いバックオフ(8〜10 dB)に効率ピークを置く設計も発展しています。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。