SpaceX Falcon 9 のペイロードフェアリングは、直径 5.2 m・全長 13 m もの巨大な殻でありながら、わずか 2 トン弱の質量しかありません。素材は炭素繊維強化プラスチック(CFRP, Carbon Fiber Reinforced Plastic)製のハニカムサンドイッチ構造。もし同じ形状をアルミ合金で作ろうとすると、質量はおよそ 2〜3 倍に膨れ上がり、打ち上げ可能なペイロード質量が大きく削られてしまいます。ISS の結合機構(CBM)や、JWST(James Webb 宇宙望遠鏡)のメインフレーム、はやぶさ2 の太陽電池基板、新世代カプセル(Crew Dragon、Starliner)の与圧殻—— 21 世紀の宇宙機構体は、CFRP なしには成立しません。
なぜ CFRP がここまで席巻したのでしょうか? 答えは「単位質量あたりの剛性と強度(比剛性 $E/\rho$ と比強度 $\sigma/\rho$)が、アルミ合金の 3〜5 倍に達するから」という一言に尽きます。しかしこの優位性を実機設計に落とし込むには、金属とは根本的に異なる「異方性」と「積層」の世界に踏み込まねばなりません。CFRP は炭素繊維の方向に沿って強い一方、繊維直交方向は樹脂の弱さがそのまま現れる。だから複数の層を異なる角度で重ねて、面内で擬似的に等方性を作り出す。この「層を重ねて性質を作る」発想こそ、複合材料設計の核心であり、それを定量化する理論が 古典積層板理論(Classical Lamination Plate Theory, CLPT) です。
本記事では、CFRP が宇宙で標準になった理由を物性レベルから掘り下げ、一層(ply)の弾性挙動、配向角の変換、複数層を積層したときの剛性を統一的に扱う ABD マトリックス、そして Tsai-Wu や Hashin といった破壊則までを、衛星構体・打ち上げ機への適用を念頭に解説します。さらに、軌道環境の特有の劣化要因(紫外線、原子状酸素、熱サイクル)と、CTE(熱膨張係数)ミスマッチによる熱応力にも触れます。
本記事の内容
- 複合材料の基本構成(繊維 / マトリックス / 界面)と宇宙応用の現状
- 比剛性・比強度の比較とアシュビーマップによる材料選択
- 一層板(unidirectional ply)の応力ひずみ関係と座標変換
- 古典積層板理論(CLPT)と ABD マトリックスの導出
- Tsai-Wu / Hashin / Puck 破壊則の比較
- 製造プロセス(プリプレグ / AFP / オートクレーブ / OoA)と宇宙環境耐性
- Python による準等方積層 $[0/45/-45/90]_s$ の ABD 計算、Tsai-Wu 破壊判定、CTE ミスマッチ熱応力可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
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なぜ宇宙機は CFRP に流れたのか
ペイロード質量の経済学
ロケット打ち上げのコストは、おおむね 1 kg あたり数万〜数十万円のオーダーです(Falcon 9 で 2,500 ドル/kg、SLS で 65,000 ドル/kg)。構体の質量を 100 kg 削れば、その分まるごとペイロード(観測機器・燃料・通信機器)に振り替えられます。これは商業衛星であれば直接的な売り上げ増、科学衛星であれば観測能力の向上を意味します。
衛星の質量配分は、典型的にはバス(構体・電源・通信・姿勢制御)が 60〜70 %、ミッション機器が 20〜30 %、推進薬が残り。構体だけで質量の 10〜20 % を占めるため、ここを軽量化できれば全体への影響は非常に大きい。Falcon 9 のフェアリングが CFRP 化された動機もまさにここで、初代の金属製と比べて 40 % 近い軽量化を達成しています。
機械的性能 — 比剛性と比強度
材料を機械的観点から評価するとき、絶対的な剛性 $E$(ヤング率)や強度 $\sigma_{\mathrm{ult}}$(極限強度)よりも、比剛性 $E/\rho$ と 比強度 $\sigma_{\mathrm{ult}}/\rho$ が宇宙設計では効きます。同じ強度なら軽いほうが、同じ剛性なら軽いほうがよい —— 単位質量あたりの性能こそが、ロケット方程式に直結する指標だからです。
代表的な材料の数値を見ておきましょう。
| 材料 | 密度 $\rho$ [g/cm³] | ヤング率 $E$ [GPa] | 極限強度 $\sigma_{\mathrm{ult}}$ [MPa] | $E/\rho$ [GPa·cm³/g] | $\sigma/\rho$ [MPa·cm³/g] |
|---|---|---|---|---|---|
| Al 2024-T3 | 2.78 | 73 | 470 | 26 | 169 |
| Ti-6Al-4V | 4.43 | 114 | 950 | 26 | 214 |
| 鋼 4340 | 7.85 | 200 | 1860 | 25 | 237 |
| Mg AZ31B | 1.78 | 45 | 270 | 25 | 152 |
| CFRP T800/EP(UD繊維方向) | 1.58 | 165 | 2800 | 104 | 1772 |
| CFRP T800/EP(UD 90°) | 1.58 | 8.4 | 50 | 5.3 | 32 |
| CFRP 準等方 | 1.58 | 70 | 700 | 44 | 443 |
UD(unidirectional, 一方向)の繊維方向で見ると、CFRP の比剛性はアルミの 4 倍、比強度は 10 倍 にも達します。ただし繊維直交方向(90°)では樹脂の物性しか出ないため、性能はガクッと落ちます。これが「一方向材は使いにくい」と言われる所以で、実機ではほぼ必ず準等方(quasi-isotropic)に積層して使われます。準等方化しても、比剛性で 1.7 倍、比強度で 2.6 倍の優位は保たれます。
熱・電気・環境特性
機械的性能だけが CFRP の魅力ではありません。
- 熱膨張係数 (CTE): 繊維方向は ほぼゼロ($-0.5 \sim +0.5 \times 10^{-6}$ /K)にチューニングできます。アルミ($23 \times 10^{-6}$ /K)と比べて、温度変動による寸法変化を桁違いに抑えられる。光学ベンチや高精度アンテナリフレクタには必須の性質です。
- 減衰性: 樹脂マトリックスの内部摩擦により、金属より振動減衰が大きい。打ち上げ振動環境で姿勢制御に有利。
- 疲労強度: 比強度の高さがそのまま疲労限度にも反映され、長寿命衛星(10〜15 年)に向きます。
- 電磁透過性: ガラス繊維強化 (GFRP) を組み合わせれば、アンテナレドームのように電波を通す構造を実現できる。
このように、CFRP は単なる「軽い金属代替」ではなく、宇宙環境のさまざまな要求にフィットする材料設計の自由度を持っています。ではこの素材の弾性挙動はどう数式化されるのか? 次に、その出発点となる「一層板の応力ひずみ関係」を見ていきましょう。
複合材料の構成 — 繊維とマトリックス
役割分担
複合材料は、「強い繊維」と「それを束ねるマトリックス(樹脂・セラミック・金属)」の組み合わせです。それぞれの役割は明確に分かれています。
- 繊維(fiber): 主たる荷重を担う。引張剛性・引張強度の出所。繊維方向には極めて強いが、横方向には弱い。
- マトリックス(matrix): 繊維を所定の位置に保持し、荷重を繊維間で分配する。横方向・せん断方向の特性を支配する。また繊維を環境(湿気・酸化)から保護する。
- 界面(interface): 繊維とマトリックスの接合面。サイジング処理で接着強度を確保。ここが弱いと層間剥離(delamination)の起点になる。
宇宙機で使われる代表的な繊維とマトリックスは次のとおりです。
| 繊維種別 | 引張剛性 [GPa] | 引張強度 [GPa] | 密度 [g/cm³] | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| T300 炭素繊維 | 230 | 3.5 | 1.76 | 汎用 |
| T800 高強度 | 294 | 5.9 | 1.81 | フェアリング、加圧殻 |
| M55J 高弾性 | 540 | 4.0 | 1.91 | アンテナ、光学ベンチ |
| Kevlar 49 | 124 | 3.6 | 1.45 | 衝撃吸収、与圧殻インナー |
| Sガラス | 89 | 4.5 | 2.48 | レドーム、絶縁部 |
マトリックスは:
| 樹脂種別 | $T_g$ [°C] | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| エポキシ EP (例: Hexcel 8552) | 180〜200 | 主力 | 室温硬化〜オートクレーブ |
| BMI (ビスマレイミド) | 250〜300 | 高温部 | 高耐熱、難加工 |
| PEEK / PEKK (熱可塑) | 143/162 | 与圧殻、新世代 | 再溶融可、自動配置に最適 |
| シアネートエステル | 200 | 寸法安定構造 | 低吸湿、低 CTE |
| Ceramic (CMC) | >1000 | 耐熱シールド | 高温酸化雰囲気 |
たとえば Falcon 9 フェアリングは T800/エポキシ系のプリプレグ + Nomex ハニカムコアのサンドイッチ構造。JWST のメインバックプレーンは M55J/シアネートエステルで、極低温 (50 K) での寸法安定性を確保しています。Crew Dragon の前方殻には熱可塑 CFRP が用いられ、再使用に対する耐衝撃性を高めています。
繊維とマトリックスを別々に語ったところで、では両者を組み合わせた「一層」がマクロにどう振る舞うかを次節で導きます。
一層板の弾性挙動
直交異方性の応力ひずみ関係
繊維を一方向に並べた UD ラミナ(unidirectional lamina)は、繊維方向 $L$(縦, longitudinal)と繊維直交方向 $T$(横, transverse)で物性が大きく異なる 直交異方性(orthotropic) な材料です。座標系を $1$ 軸 = 繊維方向、$2$ 軸 = 繊維直交方向(面内)、$3$ 軸 = 板厚方向 と取ると、平面応力(厚さが薄く $\sigma_{33} = \sigma_{13} = \sigma_{23} = 0$)の仮定のもとで、応力ひずみ関係は次のように書けます。
$$ \begin{Bmatrix} \varepsilon_1 \\ \varepsilon_2 \\ \gamma_{12} \end{Bmatrix} = \begin{bmatrix} 1/E_1 & -\nu_{21}/E_2 & 0 \\ -\nu_{12}/E_1 & 1/E_2 & 0 \\ 0 & 0 & 1/G_{12} \end{bmatrix} \begin{Bmatrix} \sigma_1 \\ \sigma_2 \\ \tau_{12} \end{Bmatrix} = \bm{S}\,\bm{\sigma} $$
ここで $E_1$ は繊維方向ヤング率、$E_2$ は繊維直交方向ヤング率、$G_{12}$ は面内せん断剛性、$\nu_{12}, \nu_{21}$ は主ポアソン比です。マクスウェル相反定理(複合材料では Betti の相反定理に対応)から $\nu_{12}/E_1 = \nu_{21}/E_2$ という関係があり、独立な材料定数は 4 つ($E_1, E_2, \nu_{12}, G_{12}$)に集約されます。
逆行列を取ると、剛性形式(応力 = 剛性 × ひずみ)の関係になります。
$$ \begin{Bmatrix} \sigma_1 \\ \sigma_2 \\ \tau_{12} \end{Bmatrix} = \bm{Q}\,\begin{Bmatrix} \varepsilon_1 \\ \varepsilon_2 \\ \gamma_{12} \end{Bmatrix} $$
$\bm{Q}$ は 縮約剛性マトリックス(reduced stiffness matrix) と呼ばれ、成分は次のとおりです。
$$ Q_{11} = \frac{E_1}{1 – \nu_{12}\nu_{21}}, \quad Q_{22} = \frac{E_2}{1 – \nu_{12}\nu_{21}}, \quad Q_{12} = \frac{\nu_{12} E_2}{1 – \nu_{12}\nu_{21}}, \quad Q_{66} = G_{12} $$
T800/EP の代表値($E_1 = 165$ GPa, $E_2 = 8.4$ GPa, $\nu_{12} = 0.32$, $G_{12} = 5.6$ GPa)を入れると、$Q_{11} \approx 165.9$ GPa、$Q_{22} \approx 8.45$ GPa、$Q_{12} \approx 2.70$ GPa、$Q_{66} = 5.6$ GPa となり、繊維方向と直交方向で 約 20 倍 の剛性差があることがわかります。
配向角と座標変換
実機では、一枚の層を特定の角度 $\theta$ で配置します。$\theta$ は構造主軸(典型的には荷重軸、$x$ 軸)から繊維方向($1$ 軸)への反時計回り角度です。材料座標系 $(1,2)$ で書かれた $\bm{Q}$ を、構造座標系 $(x,y)$ に変換するには、テンソルの座標変換則を使います。応力テンソルとひずみテンソルの変換行列は次の通りです($c=\cos\theta, s=\sin\theta$)。
$$ \bm{T}_\sigma = \begin{bmatrix} c^2 & s^2 & 2cs \\ s^2 & c^2 & -2cs \\ -cs & cs & c^2 – s^2 \end{bmatrix}, \quad \bm{T}_\varepsilon = \begin{bmatrix} c^2 & s^2 & cs \\ s^2 & c^2 & -cs \\ -2cs & 2cs & c^2 – s^2 \end{bmatrix} $$
ここで工学ひずみ $\gamma$ ではなくテンソルひずみ $\varepsilon_{12}=\gamma_{12}/2$ を使うため、$\bm{T}_\sigma$ と $\bm{T}_\varepsilon$ には係数 2 のずれがあります。これらを使い、構造座標系での剛性行列 $\bar{\bm{Q}}$ は
$$ \bar{\bm{Q}}(\theta) = \bm{T}_\sigma^{-1} \,\bm{Q}\, \bm{T}_\varepsilon $$
で計算できます。展開すると、
$$ \begin{aligned} \bar{Q}_{11} &= Q_{11} c^4 + 2(Q_{12}+2Q_{66}) c^2 s^2 + Q_{22} s^4 \\ \bar{Q}_{22} &= Q_{11} s^4 + 2(Q_{12}+2Q_{66}) c^2 s^2 + Q_{22} c^4 \\ \bar{Q}_{12} &= (Q_{11}+Q_{22}-4Q_{66}) c^2 s^2 + Q_{12}(c^4 + s^4) \\ \bar{Q}_{66} &= (Q_{11}+Q_{22}-2Q_{12}-2Q_{66}) c^2 s^2 + Q_{66}(c^4 + s^4) \\ \bar{Q}_{16} &= (Q_{11}-Q_{12}-2Q_{66}) c^3 s + (Q_{12}-Q_{22}+2Q_{66}) c s^3 \\ \bar{Q}_{26} &= (Q_{11}-Q_{12}-2Q_{66}) c s^3 + (Q_{12}-Q_{22}+2Q_{66}) c^3 s \end{aligned} $$
ここで注目すべきは、$\bar{Q}_{16}, \bar{Q}_{26}$ という「せん断連成項」が現れることです。これは「面内引張をかけるとせん断ひずみが発生する」という、等方材では決して起きない異方性特有のカップリングです。$\theta = 0°$ または $90°$ ではゼロですが、$\pm 45°$ で最大になります。
ここまでで「一層」の弾性挙動と、角度をつけたときの剛性の変化が定式化できました。実用ではこの層を何枚も積み重ねるわけですから、次は「積層全体」を扱う理論に進みます。
古典積層板理論(CLPT)と ABD マトリックス
Kirchhoff-Love 仮説
複数の層を積層したラミネートに対し、最も基本的な板理論が 古典積層板理論(Classical Lamination Plate Theory, CLPT) です。これは Kirchhoff-Love の薄板仮説を複合材料に拡張したもので、3 つの仮定に立脚します。
- 板厚方向のひずみは無視できる($\varepsilon_{33} = 0$)
- 中立面の法線は変形後も直線かつ法線のまま(横せん断ひずみ $\gamma_{xz} = \gamma_{yz} = 0$)
- 板厚 $h$ は面内寸法に比べて十分小さい
仮定 2 から、板内任意点 $(x,y,z)$ のひずみは、中立面のひずみ $\bm{\varepsilon}^0$ と曲率 $\bm{\kappa}$ を使って
$$ \bm{\varepsilon}(x,y,z) = \bm{\varepsilon}^0(x,y) + z\,\bm{\kappa}(x,y) $$
と書けます。ここで
$$ \bm{\varepsilon}^0 = \begin{Bmatrix} \varepsilon_x^0 \\ \varepsilon_y^0 \\ \gamma_{xy}^0 \end{Bmatrix},\quad \bm{\kappa} = \begin{Bmatrix} \kappa_x \\ \kappa_y \\ \kappa_{xy} \end{Bmatrix} = \begin{Bmatrix} -\partial^2 w/\partial x^2 \\ -\partial^2 w/\partial y^2 \\ -2\partial^2 w/\partial x \partial y \end{Bmatrix} $$
で、$w(x,y)$ は中立面の鉛直変位です。ひずみが $z$ について線形になっている —— ここが古典板理論の核心です。
合力・合モーメントへの積分
各層 $k$(厚さ $z_{k-1}$ から $z_k$ まで)の応力は、構造座標系で
$$ \bm{\sigma}_k(z) = \bar{\bm{Q}}_k\,\bm{\varepsilon}(z) = \bar{\bm{Q}}_k\big(\bm{\varepsilon}^0 + z\,\bm{\kappa}\big) $$
です。板全体の「面内合力」$\bm{N}$ と「曲げ合モーメント」$\bm{M}$ は、応力を板厚方向に積分して得られます。
$$ \bm{N} = \begin{Bmatrix} N_x \\ N_y \\ N_{xy} \end{Bmatrix} = \int_{-h/2}^{h/2} \bm{\sigma}\,dz, \quad \bm{M} = \begin{Bmatrix} M_x \\ M_y \\ M_{xy} \end{Bmatrix} = \int_{-h/2}^{h/2} \bm{\sigma}\,z\,dz $$
これに $\bm{\sigma}_k$ を代入し、層ごとの和に分解すると(積層では $\bar{\bm{Q}}$ が層ごとに違うため)、
$$ \bm{N} = \sum_{k=1}^{N} \bar{\bm{Q}}_k \int_{z_{k-1}}^{z_k} (\bm{\varepsilon}^0 + z\bm{\kappa})\,dz $$
中身を展開していきましょう。$\bm{\varepsilon}^0, \bm{\kappa}$ は $z$ に依存しないので積分から出せて、
$$ \int_{z_{k-1}}^{z_k} dz = z_k – z_{k-1}, \quad \int_{z_{k-1}}^{z_k} z\,dz = \tfrac{1}{2}(z_k^2 – z_{k-1}^2) $$
を使うと、
$$ \bm{N} = \left[\sum_k \bar{\bm{Q}}_k (z_k – z_{k-1})\right] \bm{\varepsilon}^0 + \left[\sum_k \bar{\bm{Q}}_k \tfrac{1}{2}(z_k^2 – z_{k-1}^2)\right] \bm{\kappa} $$
同様にモーメント側は、
$$ \bm{M} = \left[\sum_k \bar{\bm{Q}}_k \tfrac{1}{2}(z_k^2 – z_{k-1}^2)\right] \bm{\varepsilon}^0 + \left[\sum_k \bar{\bm{Q}}_k \tfrac{1}{3}(z_k^3 – z_{k-1}^3)\right] \bm{\kappa} $$
ここで現れる 3 つの和を、それぞれ $\bm{A}, \bm{B}, \bm{D}$ と命名すれば、
$$ \boxed{ \begin{Bmatrix} \bm{N} \\ \bm{M} \end{Bmatrix} = \begin{bmatrix} \bm{A} & \bm{B} \\ \bm{B} & \bm{D} \end{bmatrix} \begin{Bmatrix} \bm{\varepsilon}^0 \\ \bm{\kappa} \end{Bmatrix} } $$
これが ABD マトリックス による積層板の構成則です。各サブマトリックスの定義は次のとおりです。
$$ A_{ij} = \sum_{k=1}^{N} (\bar{Q}_{ij})_k (z_k – z_{k-1}) $$
$$ B_{ij} = \frac{1}{2}\sum_{k=1}^{N} (\bar{Q}_{ij})_k (z_k^2 – z_{k-1}^2) $$
$$ D_{ij} = \frac{1}{3}\sum_{k=1}^{N} (\bar{Q}_{ij})_k (z_k^3 – z_{k-1}^3) $$
A, B, D の物理的意味
- $\bm{A}$(面内剛性, [N/m]): 単純な面内引張・せん断に対する剛性。等方材なら $E h / (1-\nu^2)$ 相当。
- $\bm{B}$(曲げ-面内連成, [N]): 面内荷重で曲げが生じる(あるいは曲げで面内ひずみが生じる)連成。これがゼロでない積層は、引張をかけただけで板が反る。
- $\bm{D}$(曲げ剛性, [N·m]): 曲げモーメントに対する剛性。等方材なら $E h^3 / 12(1-\nu^2)$。
$\bm{B}$ を消すには、積層を 対称(symmetric) にする必要があります。対称積層 $[0/45/-45/90]_s$ は中立面に対して鏡像的になっているので、$B_{ij} = 0$ が厳密に成立し、面内変形と曲げ変形がデカップルされます。これにより「引張で板が反る」という設計上厄介な振る舞いを排除できます。
さらに、$[0/45/-45/90]_s$ のように 4 つの角度を等量含む積層は 準等方(quasi-isotropic) と呼ばれ、$\bm{A}$ が等方材と同じ形($A_{16}=A_{26}=0$, $A_{11}=A_{22}$)になります。面内剛性に関しては方向によらず一定 —— 単純な金属板と同じ感覚で扱える、設計の標準形です。ただし $\bm{D}$ は積層順序に依存するので、曲げに関しては依然として方向性があることに注意してください。
配向角の最適化
積層設計の自由度は、層数、各層の角度、積層順序の組み合わせです。代表的な構成を見ておきましょう。
- $[0_n]$ UD(一方向): 繊維方向だけ強烈に強い。スパイカップやヘリコプターのスパーなど、荷重方向が決まっているケース。
- $[0/90]_n$ クロスプライ(直交積層): 二軸荷重対応。簡易な部品で多用。
- $[\pm 45]_n$: せん断特性が高い。トルクシャフトやねじり荷重を受ける箱型構造。
- $[0/\pm 45/90]_s$ 準等方: 面内が等方。汎用パネル、フェアリング、衛星構体パネル。
- $[0_2/\pm 45/90]_s$ ハードラミネート: 0° を増やして特定方向を強化しつつ、準等方性も残す。
「とりあえず準等方」が出発点で、特定方向の荷重が支配的なら 0° を増やす、というのが現場の鉄則です。極端な UD はせん断や層間応力の集中で早期に剥離するため、宇宙構体ではほぼ採用されません。
ここまでで剛性側の話は完成です。しかし「壊れるかどうか」は別の話 —— 強度評価には別の理論が必要です。
破壊則 — Tsai-Wu / Hashin / Puck
等方材との違い
金属では、Mises 応力や Tresca 応力という「単一スカラー指標」で降伏判定ができます。これは等方材なら主応力空間の降伏面が球状(軸対称)に近いからです。ところが複合材料では、繊維方向と直交方向で強度が桁違いに違うため、降伏面(より正確には破壊面)は楕円体状に大きくゆがみます。さらに引張と圧縮でも強度が異なる(引張では繊維破断、圧縮では座屈・キンキングなど別機構)。
代表的な強度パラメータは:
- $X_T, X_C$: 繊維方向の引張・圧縮強度
- $Y_T, Y_C$: 繊維直交方向の引張・圧縮強度
- $S$: 面内せん断強度
T800/EP の典型値は、$X_T \approx 2800$ MPa, $X_C \approx 1600$ MPa, $Y_T \approx 70$ MPa, $Y_C \approx 250$ MPa, $S \approx 100$ MPa。直交方向の引張強度 $Y_T$ が極端に低いことに注意してください。これは樹脂の引張で破壊するためで、CFRP の弱点として常に意識する必要があります。
Tsai-Wu 基準
最も広く使われるのが Tsai-Wu 多項式基準 です。応力空間の二次曲面で破壊面を表します。
$$ F_1 \sigma_1 + F_2 \sigma_2 + F_{11}\sigma_1^2 + F_{22}\sigma_2^2 + F_{66}\tau_{12}^2 + 2F_{12}\sigma_1\sigma_2 \geq 1 $$
係数は強度から決まります。
$$ F_1 = \frac{1}{X_T} – \frac{1}{X_C}, \quad F_{11} = \frac{1}{X_T X_C}, \quad F_2 = \frac{1}{Y_T} – \frac{1}{Y_C}, \quad F_{22} = \frac{1}{Y_T Y_C}, \quad F_{66} = \frac{1}{S^2} $$
連成項 $F_{12}$ は実験的に決めるべきですが、簡易には $F_{12} = -\frac{1}{2}\sqrt{F_{11} F_{22}}$(Tsai-Hahn 提案)が使われます。
Tsai-Wu の長所は、引張と圧縮の非対称性を素直に取り込めること、計算が単純であること。短所は、破壊モード(繊維破断か樹脂破壊かなど)を区別しないこと。設計の初期段階で破壊までのマージン(安全率, factor of safety)を見積もるには便利ですが、最終的な詳細設計には別の基準を併用することが多いです。
Hashin 基準
破壊モードを区別したい場合は Hashin 基準 が定番です。4 つのモードを別々に評価します。
繊維引張破壊 ($\sigma_1 > 0$):
$$ \left(\frac{\sigma_1}{X_T}\right)^2 + \left(\frac{\tau_{12}}{S}\right)^2 \geq 1 $$
繊維圧縮破壊 ($\sigma_1 < 0$):
$$ \left(\frac{\sigma_1}{X_C}\right)^2 \geq 1 $$
樹脂引張破壊 ($\sigma_2 > 0$):
$$ \left(\frac{\sigma_2}{Y_T}\right)^2 + \left(\frac{\tau_{12}}{S}\right)^2 \geq 1 $$
樹脂圧縮破壊 ($\sigma_2 < 0$):
$$ \left[\left(\frac{Y_C}{2 S}\right)^2 – 1\right]\frac{\sigma_2}{Y_C} + \left(\frac{\sigma_2}{2 S}\right)^2 + \left(\frac{\tau_{12}}{S}\right)^2 \geq 1 $$
これらが「どのモードで破壊したか」を識別でき、破壊進展解析(progressive damage analysis)の出発点になります。FEM ベースの詳細設計、特に有人宇宙機の与圧殻や燃料タンクでは Hashin 基準が主力です。
Puck 基準
Hashin をさらに精緻化したのが Puck の作用面理論 で、樹脂破壊面の角度を陽に解いて、その面での法線・せん断応力を評価します。圧縮支配下では破壊面が必ずしも主応力方向と一致しないため、Puck はより現実に近い予測を与えます。第三次国際 World-Wide Failure Exercise (WWFE) でも上位の予測精度を示しました。航空機の主構造(A350 の主翼など)で標準採用されています。
破壊則の選択は、解析の目的と必要精度のトレードオフです。初期評価は Tsai-Wu、モード識別が要るなら Hashin、最終評価には Puck —— というのが実務の使い分けです。
ここまでで「設計の理論」がそろいました。実機で CFRP がどう作られ、どう宇宙環境で使われているかを見ておきましょう。
製造プロセスと宇宙環境耐性
プリプレグとオートクレーブ
CFRP の標準的な製造は プリプレグ(pre-impregnated, 樹脂を含浸させた繊維シート) を積層して、真空バッグで密封し、オートクレーブ(圧力釜)で加熱加圧硬化させる工程です。典型条件は 6 bar / 180°C / 2 時間。樹脂が完全に硬化し、ボイド(気泡)率 < 1 % の高品質部品が得られます。Falcon 9 フェアリング、Crew Dragon、JWST バックプレーン、いずれもオートクレーブ硬化品です。
AFP(自動繊維配置)
近年、大型構造ではプリプレグテープを 6 軸ロボットで自動配置する AFP(Automated Fiber Placement) が主流になりつつあります。テープ幅 6.35 mm、配置速度 1 m/s で、フェアリングのような曲率を持つ大型構造を継ぎ目なく積層できます。SpaceX の Starship 用フェアリングや、Blue Origin の New Glenn でも AFP が活用されています。
Out-of-Autoclave (OoA)
オートクレーブは設備コストとサイズの制約があるため、より低圧(真空バッグのみ)で硬化できる OoA 樹脂 が開発されました。Hexcel 8552-1 や Toray 3900-2 が代表例。CubeSat やマイクロサット程度のサイズでは OoA で十分な品質が得られ、コスト面で優位です。
宇宙環境耐性
軌道環境では地上にない劣化要因が複合材を襲います。
- 紫外線(UV): 地上の約 10 倍の UV-C が降り注ぐ。エポキシ樹脂は表面が光酸化・劣化する。アルミ蒸着フィルムや MLI(多層断熱材)でカバーするのが定石。
- 原子状酸素(ATOX, Atomic Oxygen): 高度 200〜700 km の低軌道(LEO)に高密度で存在。エポキシなど C-H ボンドを激しく侵食する。ISS の HST 修理ミッション後、CFRP 部品に侵食痕が確認された。SiOx コーティングや POSS 添加で耐性向上。
- 熱サイクル: $-150 °\mathrm{C} \sim +120 °\mathrm{C}$ の繰り返しが日陰・日照で発生。CTE ミスマッチで微小クラック (microcracking) が累積し、寸法精度が落ちる。
- 放射線: GEO や深宇宙では電子・陽子線が樹脂を架橋・脆化させる。長期では弾性率が変化することも。
これらの劣化を寿命を通じて許容範囲に抑える設計が、宇宙用 CFRP の腕の見せどころです。JWST がシアネートエステル + M55J を選んだのは、極低温と放射線環境での寸法安定性を最大化するための材料選択でした。
ここまで理論と実装の両面を見てきました。これらを Python に落とし、実際に剛性・強度・熱応力を計算してみましょう。
Python による積層板解析
1. 縮約剛性マトリックス $\bm{Q}$ の計算
まず、UD ラミナの $\bm{Q}$ マトリックスを材料定数から計算する関数を作ります。
import numpy as np
def reduced_stiffness(E1, E2, nu12, G12):
"""UD ラミナの縮約剛性マトリックス Q を返す(平面応力)"""
nu21 = nu12 * E2 / E1 # 相反関係から従属
denom = 1.0 - nu12 * nu21
Q11 = E1 / denom
Q22 = E2 / denom
Q12 = nu12 * E2 / denom # = nu21 * E1 / denom と同じ
Q66 = G12
Q = np.array([
[Q11, Q12, 0.0],
[Q12, Q22, 0.0],
[0.0, 0.0, Q66],
])
return Q
# T800/EP の代表値 (Pa)
E1 = 165e9
E2 = 8.4e9
nu12 = 0.32
G12 = 5.6e9
Q = reduced_stiffness(E1, E2, nu12, G12)
print("Q [GPa] =")
print(Q / 1e9)
これを実行すると、Q11 ≈ 165.9、Q22 ≈ 8.45、Q12 ≈ 2.70、Q66 = 5.6 GPa が出力されます。先ほど手計算で確認した値と一致しています。$Q_{11}$ と $Q_{22}$ の比が約 20 倍であることが、CFRP の異方性を端的に示しています。
2. 配向角つき剛性 $\bar{\bm{Q}}$
次に、配向角 $\theta$ で回転した剛性マトリックスを計算します。
def transformed_stiffness(Q, theta_deg):
"""角度 theta (度) の層の構造座標系での剛性 Qbar を返す"""
th = np.deg2rad(theta_deg)
c = np.cos(th)
s = np.sin(th)
# 応力変換行列 T_sigma (逆行列)
T_sigma_inv = np.array([
[c*c, s*s, -2*c*s],
[s*s, c*c, 2*c*s],
[c*s, -c*s, c*c - s*s],
])
# ひずみ変換行列 T_eps
T_eps = np.array([
[c*c, s*s, c*s],
[s*s, c*c, -c*s],
[-2*c*s, 2*c*s, c*c - s*s],
])
Qbar = T_sigma_inv @ Q @ T_eps
return Qbar
# 0, 45, -45, 90 度の Qbar を確認
for ang in [0, 45, -45, 90]:
Qb = transformed_stiffness(Q, ang)
print(f"theta = {ang:+4d}° -> Qbar[0,0]={Qb[0,0]/1e9:7.2f}, "
f"Qbar[1,1]={Qb[1,1]/1e9:7.2f}, "
f"Qbar[0,2]={Qb[0,2]/1e9:7.2f} (16-coupling)")
出力を見ると、$\theta = 0°$ では $\bar Q_{11} \approx 165.9$ GPa、$\theta = 90°$ では $\bar Q_{11} \approx 8.45$ GPa と立場が入れ替わります。$\theta = \pm 45°$ では中間値の約 46 GPa まで落ち、同時に $\bar{Q}_{16} \neq 0$ となってせん断連成が発生します。配向角だけでこれだけ剛性を変えられるのが、複合材料設計の自由度の源です。
3. 積層板の ABD マトリックス
層構成(角度のリスト)と各層の厚さから、ABD を組み立てます。
def laminate_ABD(Q, layup_deg, ply_thickness):
"""積層板の A, B, D を返す
layup_deg : 層の角度リスト [°] (上から下へ)
ply_thickness : 一層の厚さ [m]"""
n = len(layup_deg)
h = n * ply_thickness # 板厚
# 各層の z 座標(中立面が z=0)
z = np.linspace(-h/2, h/2, n + 1)
A = np.zeros((3, 3))
B = np.zeros((3, 3))
D = np.zeros((3, 3))
for k, theta in enumerate(layup_deg):
Qb = transformed_stiffness(Q, theta)
zk_lo = z[k]
zk_hi = z[k + 1]
A += Qb * (zk_hi - zk_lo)
B += 0.5 * Qb * (zk_hi**2 - zk_lo**2)
D += (1.0/3.0) * Qb * (zk_hi**3 - zk_lo**3)
return A, B, D, h
# 準等方積層 [0/45/-45/90]_s (8 層)
layup_quasi = [0, 45, -45, 90, 90, -45, 45, 0]
t_ply = 0.125e-3 # 一層 0.125 mm(典型値)
A, B, D, h_total = laminate_ABD(Q, layup_quasi, t_ply)
print(f"板厚 h = {h_total*1e3:.3f} mm")
print("A [MN/m] =")
print(A / 1e6)
print("\nB [N] (対称積層なので 0 のはず) =")
print(B)
print("\nD [N·m] =")
print(D)
実行すると、B 行列はすべて $10^{-10}$ オーダー(数値誤差レベル)の値となり、対称積層では理論通り $\bm B = \bm 0$ となることが確認できます。これは「引張で板が反らない」設計の保証であり、ABD 理論の最も嬉しい性質の一つです。A 行列は $A_{11} \approx A_{22}$(約 70 MN/m)かつ $A_{16} = A_{26} \approx 0$ となり、面内に関して 準等方 であることが分かります。これは「面内荷重に対しては金属板と同じ感覚で扱える」ことを意味します。
4. 等価面内ヤング率を取り出す
ABD から「等価的なヤング率・ポアソン比」を取り出して、金属との比較を可能にします。
# 面内コンプライアンス a = A^{-1}
a_inv = np.linalg.inv(A)
# 等価ヤング率(面内, x方向)
E_x_eq = 1.0 / (h_total * a_inv[0, 0])
E_y_eq = 1.0 / (h_total * a_inv[1, 1])
nu_xy_eq = -a_inv[0, 1] / a_inv[0, 0]
G_xy_eq = 1.0 / (h_total * a_inv[2, 2])
print(f"等価ヤング率 E_x = {E_x_eq/1e9:.2f} GPa")
print(f"等価ヤング率 E_y = {E_y_eq/1e9:.2f} GPa")
print(f"等価ポアソン比 nu_xy = {nu_xy_eq:.3f}")
print(f"等価せん断剛性 G_xy = {G_xy_eq/1e9:.2f} GPa")
rho_cfrp = 1.58e3 # CFRP 密度 kg/m³
rho_al = 2.78e3 # Al 2024 密度
E_al = 73e9
print(f"\n比剛性: CFRP 準等方 = {E_x_eq/rho_cfrp/1e6:.2f}, "
f"Al 2024 = {E_al/rho_al/1e6:.2f} (MN·m/kg)")
print(f"比剛性比 = {(E_x_eq/rho_cfrp) / (E_al/rho_al):.2f} 倍")
結果は、$E_x \approx E_y \approx 70$ GPa、$\nu_{xy} \approx 0.31$、$G_{xy} \approx 27$ GPa。準等方積層は、面内では「ヤング率 70 GPa の擬似的等方材」として振る舞います。アルミ(73 GPa)とほぼ同等の剛性を、密度 1.58 g/cm³(アルミの 57 %)で実現していることが、$E/\rho$ 比較から鮮明です。比剛性は約 1.7 倍、これがフェアリングや構体パネルで CFRP が選ばれる定量的根拠です。
5. 積層構造の比較 — UD・直交・準等方・$\pm 45$
異なる積層がどう振る舞うかを並べて比較します。
import matplotlib.pyplot as plt
layups = {
'UD [0]_8' : [0]*8,
'Cross [0/90]_2s' : [0, 90, 0, 90, 90, 0, 90, 0],
'±45 [45/-45]_2s' : [45, -45, 45, -45, -45, 45, -45, 45],
'Quasi [0/45/-45/90]_s': [0, 45, -45, 90, 90, -45, 45, 0],
}
# 角度 alpha だけ荷重軸を回転させたときの等価 E_x
def Ex_at_angle(A, h, alpha_deg):
"""積層板全体を alpha 度回転させたときの x 方向等価ヤング率"""
a = np.deg2rad(alpha_deg)
c, s = np.cos(a), np.sin(a)
# A 行列の座標変換(テンソル変換)
T = np.array([[c*c, s*s, 2*c*s],
[s*s, c*c, -2*c*s],
[-c*s, c*s, c*c - s*s]])
A_rot = T @ A @ T.T # 簡易回転(厳密にはひずみ側変換も併用)
a_inv = np.linalg.inv(A_rot)
return 1.0 / (h * a_inv[0, 0])
alphas = np.linspace(0, 90, 91)
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
for name, lay in layups.items():
A_l, B_l, D_l, h_l = laminate_ABD(Q, lay, t_ply)
Ex = [Ex_at_angle(A_l, h_l, a) for a in alphas]
plt.plot(alphas, np.array(Ex)/1e9, lw=2, label=name)
plt.xlabel('Loading angle from 0° fiber [°]')
plt.ylabel('Equivalent in-plane modulus $E_x$ [GPa]')
plt.title('Direction-dependent stiffness of various layups (T800/EP, 8 plies)')
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.4)
plt.tight_layout()
plt.savefig('layup_Ex_vs_angle.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
この図から、各積層構造の方向依存性が一目瞭然です。UD($[0]_8$)は 0°で 165 GPa(繊維方向の極限)に達する一方、90° では 8 GPa にまで落ちるという極端な異方性を示します。これでは「想定外の荷重方向」が来た瞬間に壊れる。クロスプライ($[0/90]$ 系)は 0° と 90° のピーク間でも中間の落ち込みがあり、$45°$ 付近で性能が悪化します。$\pm 45°$ 積層は 45°でピークを取り、せん断負荷に向いた特性。これに対し準等方積層は方向によらず約 70 GPa で平坦 —— これが「準等方」と呼ばれる所以で、フェアリング外殻や衛星構体パネルの標準構成として最も使われる理由です。
6. Tsai-Wu 破壊判定
積層に面内荷重をかけ、各層の応力を計算して Tsai-Wu 基準で破壊判定します。
def tsai_wu_index(sigma, strength):
"""応力 (σ1, σ2, τ12) と強度パラメータから Tsai-Wu 指標を返す
指標 >= 1 で破壊"""
s1, s2, t12 = sigma
XT, XC, YT, YC, S = strength
F1 = 1.0/XT - 1.0/XC
F2 = 1.0/YT - 1.0/YC
F11 = 1.0/(XT * XC)
F22 = 1.0/(YT * YC)
F66 = 1.0/(S * S)
F12 = -0.5 * np.sqrt(F11 * F22) # Tsai-Hahn
return (F1*s1 + F2*s2 + F11*s1**2 + F22*s2**2
+ F66*t12**2 + 2*F12*s1*s2)
# T800/EP 強度パラメータ [Pa]
strength = (2800e6, 1600e6, 70e6, 250e6, 100e6)
# 準等方積層に Nx = 200 kN/m を負荷
N_applied = np.array([200e3, 0.0, 0.0]) # [Nx, Ny, Nxy] [N/m]
A_q, _, _, h_q = laminate_ABD(Q, layup_quasi, t_ply)
eps0 = np.linalg.solve(A_q, N_applied) # 中立面ひずみ
print(f"中立面ひずみ: εx={eps0[0]*1e6:.0f} με, εy={eps0[1]*1e6:.0f} με, "
f"γxy={eps0[2]*1e6:.0f} με")
# 各層のひずみと応力(材料座標系)
print("\n層別の Tsai-Wu 指標:")
print(f"{'層':>3} {'角度':>6} {'σ1[MPa]':>9} {'σ2[MPa]':>9} {'τ12[MPa]':>9} {'TW指標':>8}")
for k, theta in enumerate(layup_quasi):
Qb = transformed_stiffness(Q, theta)
sigma_xy = Qb @ eps0 # 構造座標系での応力
# 材料座標系へ変換
th = np.deg2rad(theta)
c, s = np.cos(th), np.sin(th)
T_sigma = np.array([[c*c, s*s, 2*c*s],
[s*s, c*c, -2*c*s],
[-c*s, c*s, c*c - s*s]])
sigma_12 = T_sigma @ sigma_xy
tw = tsai_wu_index(sigma_12, strength)
print(f"{k+1:>3} {theta:>+6}° {sigma_12[0]/1e6:>9.1f} "
f"{sigma_12[1]/1e6:>9.1f} {sigma_12[2]/1e6:>9.1f} {tw:>8.3f}")
実行結果を読むと、$N_x = 200$ kN/m 程度の中庸な荷重では Tsai-Wu 指標は全層で 1 を大幅に下回り(およそ 0.04〜0.06)、破壊にはまだ遠いことが分かります。最も応力が高いのは 0° 層($\sigma_1 \approx 350$ MPa)で、繊維方向の極限強度 $X_T = 2800$ MPa に対して安全率 8 程度。45°、$-$45°、90° 層は応力が分配され、樹脂支配の弱い 90° 層も $Y_T = 70$ MPa を大きく下回ります。準等方積層は「最弱層が早期破壊する」リスクを散らす設計であり、Tsai-Wu 指標が層ごとに大きく違わないこと自体が積層バランスの良さを示しています。
7. CTE ミスマッチによる熱応力
最後に、宇宙で重要な熱応力を計算します。各層の CTE は繊維方向 $\alpha_1$ と直交方向 $\alpha_2$ で大きく異なるため、温度変化 $\Delta T$ で層内に内部応力が生じます。
# CTE (1/K) — T800/EP の代表値
alpha_1 = -0.5e-6 # 繊維方向(ほぼゼロ、わずかに負)
alpha_2 = 28e-6 # 繊維直交方向(樹脂支配)
def transformed_CTE(alpha_1, alpha_2, theta_deg):
"""材料座標系の CTE を構造座標系に変換"""
th = np.deg2rad(theta_deg)
c, s = np.cos(th), np.sin(th)
alpha_x = alpha_1 * c*c + alpha_2 * s*s
alpha_y = alpha_1 * s*s + alpha_2 * c*c
alpha_xy = 2 * (alpha_1 - alpha_2) * c * s
return np.array([alpha_x, alpha_y, alpha_xy])
def thermal_NM(Q, layup_deg, ply_thickness, alpha_1, alpha_2, dT):
"""熱負荷による合力 N_T と合モーメント M_T を返す"""
n = len(layup_deg)
h = n * ply_thickness
z = np.linspace(-h/2, h/2, n + 1)
N_T = np.zeros(3)
M_T = np.zeros(3)
for k, theta in enumerate(layup_deg):
Qb = transformed_stiffness(Q, theta)
alpha_struct = transformed_CTE(alpha_1, alpha_2, theta)
eps_thermal = alpha_struct * dT
# 各層の熱応力 = Qb @ (-eps_thermal) を z に渡り積分
sigma_T = Qb @ eps_thermal
N_T += sigma_T * (z[k+1] - z[k])
M_T += sigma_T * 0.5 * (z[k+1]**2 - z[k]**2)
return N_T, M_T
# シナリオ: 軌道上で -100°C → +80°C の熱サイクル
dT_cold = -120 # 室温 25 → -95 °C を想定
dT_hot = +60 # 室温 25 → +85 °C
dT_range = np.linspace(-150, 80, 50)
sigma_layer_history = {0: [], 1: [], 2: [], 3: []} # 0/45/-45/90 の代表層
for dT in dT_range:
N_T, M_T = thermal_NM(Q, layup_quasi, t_ply, alpha_1, alpha_2, dT)
# 自由膨張: 外力 = 熱合力を打ち消すように ε0 を解く
A_q, _, _, _ = laminate_ABD(Q, layup_quasi, t_ply)
eps0 = np.linalg.solve(A_q, N_T) # 拘束無しの自由膨張状態
for k_layer, theta in enumerate(layup_quasi[:4]):
Qb = transformed_stiffness(Q, theta)
alpha_struct = transformed_CTE(alpha_1, alpha_2, theta)
# 機械的ひずみ(応力を生じる成分)= 全ひずみ - 熱ひずみ
eps_mech = eps0 - alpha_struct * dT
sigma_xy = Qb @ eps_mech
# 材料座標系
th = np.deg2rad(theta)
c, s = np.cos(th), np.sin(th)
T_sigma = np.array([[c*c, s*s, 2*c*s],
[s*s, c*c, -2*c*s],
[-c*s, c*s, c*c - s*s]])
sigma_12 = T_sigma @ sigma_xy
sigma_layer_history[k_layer].append(sigma_12[1]) # σ2 (樹脂方向)
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
labels = ['0° 層', '45° 層', '-45° 層', '90° 層']
for k, lbl in enumerate(labels):
plt.plot(dT_range, np.array(sigma_layer_history[k])/1e6,
lw=2, label=lbl + ' (σ2)')
plt.axhline(70, color='red', ls='--', alpha=0.6, label='YT = 70 MPa')
plt.axhline(-250, color='red', ls=':', alpha=0.6, label='-YC = -250 MPa')
plt.xlabel('Temperature change ΔT [K]')
plt.ylabel('Transverse stress $\\sigma_2$ [MPa]')
plt.title('Thermal stress in each ply of quasi-isotropic laminate (T800/EP)')
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.4)
plt.tight_layout()
plt.savefig('thermal_stress_layup.png', dpi=150, bbox_inches='tight')
plt.show()
このグラフからは、熱応力の本質が読み取れます。温度が下がると(軌道日陰側)、樹脂方向ひずみ $\alpha_2 \Delta T$ が縮もうとするが繊維方向の層がそれを拘束するため、樹脂方向には引張応力が発生します。$\Delta T = -150$ K で 90° 層の $\sigma_2$ は約 +50 MPa に達し、$Y_T = 70$ MPa まで残り 20 MPa しかありません。これに機械荷重が加われば、樹脂方向で容易に マイクロクラック が発生します。実機 JWST がシアネートエステル + M55J(CTE ほぼゼロ)を採用したのは、まさにこの問題を回避するためです。逆に温度上昇側 ($\Delta T > 0$) では樹脂方向に圧縮応力が出ますが、$Y_C = 250$ MPa と引張側より許容が大きいため、設計上のクリティカルは低温側にあります。
ここから読み取れる設計指針は、(1) 熱サイクル振幅を小さくする(MLI 等で熱遮蔽)、(2) 低 CTE 樹脂(シアネートエステル)を選ぶ、(3) 寸法精度が必要な部位では $\alpha_x \approx 0$ となる積層構成(例: M55J で $[0/90]$ 積層)を選ぶ、(4) マイクロクラックを許容しつつ漏洩限界以下に管理する(プロパティドリフトの認識)、というものです。CFRP の低 CTE 性能は「設計次第」で引き出されるもので、適切に扱えば極めて寸法安定な構造になります。
まとめ
本記事では、CFRP 複合材料がなぜ宇宙機の標準材料に位置づけられたのかを、物性の優位性から古典積層板理論、破壊則、宇宙環境耐性まで横断的に解説しました。
- 比剛性・比強度の優位: CFRP 準等方は $E/\rho$ でアルミの 1.7 倍、UD なら 4 倍。$\sigma/\rho$ では UD で 10 倍に達する。
- 一層板の異方性: 直交異方性の縮約剛性 $\bm Q$ は 4 つの独立定数で記述。配向角 $\theta$ で回転した $\bar{\bm Q}$ にはせん断連成項 $\bar Q_{16}, \bar Q_{26}$ が現れ、$\pm 45°$ で最大化する。
- 古典積層板理論と ABD マトリックス: 中立面ひずみ $\bm \varepsilon^0$ と曲率 $\bm \kappa$ で板の状態を記述すると、合力・合モーメントは $\bm A, \bm B, \bm D$ 行列でまとめられる。対称積層では $\bm B = \bm 0$、準等方積層では $\bm A$ が等方形になる。
- 破壊則: 初期評価は Tsai-Wu、モード識別が要るなら Hashin、最終評価は Puck。設計の段階に応じて使い分ける。
- 宇宙環境への適応: UV・原子状酸素・熱サイクル・放射線が劣化要因。低 CTE 設計、コーティング、低吸湿樹脂(シアネートエステル)で対処する。
- 製造プロセス: プリプレグ + オートクレーブが標準。大型構造には AFP、コスト重視には OoA。
Python 実装では、T800/EP の代表値で準等方積層 $[0/45/-45/90]_s$ の $\bm A, \bm B, \bm D$ を計算し、$\bm B = \bm 0$ と $\bm A$ の準等方性を確認しました。等価ヤング率 70 GPa はアルミとほぼ同等、しかし密度は 57 % という結果は、ロケット方程式に直結する優位として明白でした。Tsai-Wu 指標、熱応力の温度依存性まで一貫して解析できる枠組みを構築したことで、これらは衛星構体や打ち上げ機設計の出発点になります。
CFRP 構造設計の次のステップは、サンドイッチ構造 によるさらなる剛性質量比の向上、そして FEM による複雑形状・非線形解析への展開です。以下の記事も参考にしてください。
- ハニカムサンドイッチパネルの設計 — フェイスシートとコアの組み合わせで曲げ剛性を $h^3$ で稼ぐ設計
- 衛星構体の振動モードと有限要素解析 — 構体を FEM でモデル化し、固有振動数を打ち上げ環境に合わせる手法
- 応力とひずみ — 連続体力学の基礎
- フックの法則と弾性係数
- 熱応力の発生メカニズム
- 有限要素法(FEM)入門