ベイズ決定則とは?事後確率が最大のクラスを選ぶMAP分類をわかりやすく解説

迷惑メールか否か、画像が猫か犬か、検査結果が陽性か陰性か——分類とは「観測したデータ $x$ から、それがどのクラスに属するかを当てる」問題です。ここで根本的な問いが生まれます。どう決めれば、最も間違いが少なくなるのでしょうか?

その答えが ベイズ決定則(Bayes Decision Rule) です。ルールは驚くほどシンプルで、

観測 $x$ を見て、事後確率 $P(c \mid x)$ が最大のクラス $c$ を選ぶ

これだけです。「事後確率が最大のクラスを選ぶ」ので MAP決定則(最大事後確率分類) とも呼ばれます。そして重要なのは、このルールが理論上もっとも誤りが少ない分類器(ベイズ最適分類器)だと数学的に証明できることです。

この考え方を理解すると、次のような見通しが得られます。

  • あらゆる分類器の「お手本」がわかる — ロジスティック回帰もナイーブベイズもニューラルネットも、突き詰めれば「事後確率が最大のクラスを選ぶ」ことを目指している
  • 達成可能な性能の限界がわかる — どんなに頑張っても超えられない最小誤り(ベイズ誤り率)の存在を理解できる

本記事の内容

  • ベイズ決定則の定義(事後確率最大のクラスを選ぶ)
  • なぜそれが最適か — 0-1損失のもとでの導出
  • 事前確率で動く決定境界
  • 避けられない最小誤り「ベイズ誤り率」
  • 尤度比と閾値、非対称損失、2次元の決定境界

なお本記事は「クラスを決める」決定理論の話です。観測からパラメータ(確率など)を推定するMAP推定とは目的が異なるので、合わせて読むと「MAP」という言葉の2つの使われ方が整理できます。

前提知識

この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。

ベイズ決定則とは — 事後確率が最大のクラスを選ぶ

分類器に求められるのは、観測 $x$ ごとに「どのクラスと答えるか」を決めることです。ベイズ決定則は、その決め方として「いま手元の $x$ を踏まえて、各クラスである確率(事後確率)を計算し、いちばん高いものを選ぶ」という、人間の直感にも合うルールを採用します。

ベイズ決定則:事後確率が最大のクラスを選ぶ

図は2クラスの例です。観測 $x$ の位置によって、$P(c_1 \mid x)$ と $P(c_2 \mid x)$ のどちらが大きいかが変わります。左側では $c_1$ の事後確率が高いのでクラス1と判定し、右側ではクラス2と判定します。2つの事後確率が等しくなる点が決定境界で、ここを境にクラスの判定が切り替わります。

では、その事後確率 $P(c \mid x)$ はどうやって求めるのでしょうか。鍵はベイズの定理です。

ベイズの定理 — 事後は「尤度 × 事前」

事後確率は、ベイズの定理によって「尤度」と「事前確率」から計算できます。

ベイズの定理:事後は尤度×事前

$$ \begin{equation} P(c \mid x) = \frac{P(x \mid c)\,P(c)}{P(x)} \propto P(x \mid c)\,P(c) \end{equation} $$

ここで $P(x \mid c)$ は尤度(そのクラスならこのデータがどれくらい出やすいか)、$P(c)$ は事前確率(そもそもそのクラスがどれくらいの割合で現れるか)です。分母の $P(x)$ はクラスに依存しない共通の値なので、クラス同士を比較するだけなら無視できます。つまり、ベイズ決定則は実質的に

$$ \hat{c} = \arg\max_c \; P(x \mid c)\,P(c) $$

尤度 × 事前 が最大のクラスを選ぶ」ことに等しくなります。

事前×尤度で決定領域が決まる

左は2クラスの尤度(データの出やすさ)、右はそれに事前を掛けた同時確率です。各点で大きい方のクラスの領域に色を塗ると、決定境界がどこに引かれるかが見えます。直感的には「その $x$ をよく説明し、かつ普段からよく現れるクラス」が選ばれるわけです。

ここで「なぜ事後確率最大が”最善”と言えるのか」を、損失の観点からきちんと示しておきましょう。

なぜ最適なのか — 0-1損失で期待損失を最小化

「最善」を定義するには、間違いのコスト(損失)を決める必要があります。最も基本的なのが 0-1損失で、正解なら損失0、不正解なら損失1とするものです。

このとき、観測 $x$ に対してクラス $c$ と答えたときの期待損失は、次のように書けます。

$$ \begin{equation} \mathbb{E}[\text{損失} \mid x, c] = \sum_{c’} L(c, c’)\,P(c’ \mid x) = \sum_{c’ \neq c} P(c’ \mid x) = 1 – P(c \mid x) \end{equation} $$

0-1損失では「正解クラス以外の事後確率の合計」が期待損失になり、それは $1 – P(c\mid x)$ に等しくなります。

0-1損失で期待損失最小=事後最大

この式を見れば結論は明らかです。期待損失 $1 – P(c\mid x)$ を最小にするには、$P(c \mid x)$ が最大のクラスを選べばよい。つまり、事後確率最大のクラスを選ぶベイズ決定則こそが、平均的な誤りを最小にする最適な分類器なのです。これをベイズ最適分類器と呼びます。どんなに高性能な分類器も、原理的にこのベイズ決定則を超えることはできません。

「最適」がわかったところで、事前確率がこの決定にどう効くのかを見てみましょう。

事前確率で決定境界は動く

ベイズ決定則は尤度だけでなく事前確率も使う点が、単純な尤度比較(最尤分類)との違いです。あるクラスが普段からよく現れる(事前が大きい)なら、その分だけ有利に判定されます。

事前を変えると決定境界が動く

同じ尤度でも、事前 $P(c_1)$ を 0.5 → 0.8 と大きくすると決定境界が右に動き、クラス1の領域が広がります。逆に事前を小さくすれば領域は狭まります。たとえば「99%の人は健康」という強い事前があるなら、検査値が多少高くても「健康」と判定されやすくなる、という直感に対応します。事前を無視して尤度だけで決める(最尤分類)と、この「そもそもの起こりやすさ」を取りこぼします。

では、最適に決めても残ってしまう誤りはどれくらいあるのでしょうか。

ベイズ誤り率 — 避けられない最小の誤り

ベイズ決定則は最適ですが、それでも誤りはゼロにはなりません。クラスの分布が重なっている領域では、どちらに判定しても一定の確率で間違えるからです。この最適な分類器でも避けられない最小の誤りベイズ誤り率 と呼びます。

ベイズ誤り率=2分布の重なり

2クラスの場合、ベイズ誤り率は「事前×尤度」の小さい方を積分した、2つの分布の重なり(オレンジの領域)の面積になります。

$$ \text{ベイズ誤り率} = \int \min_c \big[\, P(x\mid c)\,P(c) \,\big]\, dx $$

この図の設定では実際に計算するとベイズ誤り率は 約0.067(6.7%)でした。重なりが大きいほど(クラスが見分けにくいほど)この値は大きくなります。重要なのは、これがデータの本質的な難しさを表す量で、特徴量を増やすなどしてクラスの重なり自体を減らさない限り、どんな分類器でもこれを下回れないという点です。

ここまでは複数クラスの一般論でした。2クラスの場合は、もっとシンプルな「比較」の形に書けます。

2クラスは「尤度比 vs 閾値」で判定できる

2クラスのベイズ決定則は、$P(c_1\mid x) > P(c_2\mid x)$ という条件です。これをベイズの定理で書き換えると、尤度比事前比の比較になります。

$$ \frac{P(x\mid c_1)}{P(x\mid c_2)} \;\gtrless\; \frac{P(c_2)}{P(c_1)} $$

2クラスは尤度比vs閾値で判定

左辺の尤度比が、右辺の事前比(閾値)を超えればクラス1、下回ればクラス2と判定します。事前を変えると閾値(横線)が上下し、判定が切り替わる位置が動くことが図から読み取れます。この「尤度比を閾値と比べる」形は、検定理論(ネイマン・ピアソン)やROC曲線とも直結する、決定理論の基本形です。

ここまでは0-1損失(どの間違いも同じコスト)を前提にしてきました。しかし現実には、間違いのコストが対称とは限りません。

損失が非対称なら閾値が動く

病気の見逃し(偽陰性)と、健康な人を陽性と誤判定すること(偽陽性)では、ふつう前者のコストの方がずっと大きいですよね。このように誤分類のコストが非対称な場合、ベイズ決定則は「期待損失最小」という一般原理に立ち返って閾値を調整します。

非対称損失で閾値が動く

クラス1を選ぶ条件は、損失の比を使って $P(c_1\mid x)/P(c_2\mid x) > L_{12}/L_{21}$ となります($L_{12}$ はクラス1を2と誤るコスト)。見逃しのコストが大きいなら閾値を陽性側に寄せ、「疑わしきは陽性」と判定するわけです。そしてコストが対称(0-1損失)なら、この一般則はちょうど事後確率最大(MAP決定則)に一致します。MAP決定則は、一般のベイズ決定則の特別な場合だったのです。

最後に、ここまでの1次元の話を2次元に広げて、決定境界の形を見てみましょう。

2次元の決定境界

特徴量が2次元以上になると、決定境界は直線とは限らず曲線になります。各クラスをガウス分布でモデル化し、事後確率が0.5になる点を結ぶと境界が描けます。

2次元の決定境界(ガウス×ガウス)

2つのクラスの共分散(分布の形)が異なるため、決定境界は曲線(二次曲線)になっています。クラスの分散が同じなら境界は直線(線形判別分析=LDA)に、異なると曲線(二次判別分析=QDA)になる、という関係がここに表れています。いずれの場合も、やっていることは「各点で事後確率が最大のクラスを選ぶ」というベイズ決定則そのものです。

ベイズ決定則の位置づけ — 生成モデルと識別モデル

最後に、実際の分類手法がこの枠組みのどこに位置するかを整理します。ポイントは「事後確率 $P(c\mid x)$ をどうやって手に入れるか」の違いです。

生成モデルvs識別モデルの位置づけ

  • 生成モデル: 尤度 $P(x\mid c)$ と事前 $P(c)$ を学習し、ベイズの定理で事後に変換する。ナイーブベイズや判別分析(LDA/QDA)がこれにあたります
  • 識別モデル: 事後 $P(c\mid x)$ を直接学習する。ロジスティック回帰やニューラルネット分類器がこれです

アプローチは違いますが、最後に「事後確率が最大のクラスを選ぶ」=ベイズ決定則を使う点は共通です。つまりベイズ決定則は、個別の分類手法の背後にある「分類とは何をすべきか」という共通の指針なのです。

まとめ

本記事では、ベイズ決定則(MAP決定則)を解説しました。

  • ベイズ決定則: 観測 $x$ に対し、事後確率 $P(c\mid x)$ が最大のクラスを選ぶ。事後は「尤度 × 事前」に比例する
  • 最適性: 0-1損失のもとで期待損失は $1 – P(c\mid x)$ となり、事後確率最大の選択が期待損失を最小にする(ベイズ最適分類器
  • 事前の効果: 事前確率が大きいクラスほど決定境界が広がる
  • ベイズ誤り率: 最適な分類器でも避けられない最小誤りで、2分布の重なりの面積。データの本質的な難しさを表す
  • 2クラス: 尤度比を事前比(閾値)と比べる形になる。非対称損失なら閾値が動き、0-1損失ならMAP決定則に一致する
  • 位置づけ: 生成モデルも識別モデルも、最後はベイズ決定則で事後最大のクラスを選ぶ

「事後確率が最大のクラスを選ぶ」という一見当たり前のルールが、実は誤りを最小にする最適な分類だった——この事実が、分類という問題全体の理論的な土台になっています。

次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。