スマートフォンの中には、2.4 GHz の Wi-Fi、700 MHz から 3.5 GHz までのセルラー、1.5 GHz の GNSS と、何本ものアンテナが詰め込まれています。ここで素朴な疑問が湧きます。アンテナをもっと小さくすれば、もっとたくさん載せられるはずです。ところが実際に設計してみると、アンテナを小さくした瞬間に「使える周波数の幅」がごっそり減ってしまいます。1 GHz 帯で 100 MHz の帯域が欲しいのに、小型化したら 15 MHz しか取れない。基板を削って部品を足しても、どうやっても広がらない。この壁は設計者の腕前の問題ではなく、物理法則そのものが決めている限界です。

この記事全体の骨格を1枚にすると上の図になります。アンテナを囲む最小の球(Chu球)の中に、放射されずに近傍をぐるぐる回るだけの「無効エネルギー」が溜まっていて、そのうちのごく一部が球の外へ電波として抜けていきます。アンテナを小さくすると溜まる量だけが急増し、出ていく量は増えないので、両者の比が跳ね上がります。この比こそがQ値で、右の穴あきバケツの絵のとおり「溜まっている量 ÷ 出ていく量」が大きいほど応答が鈍く、使える周波数の幅が狭くなります。
この壁の正体を教えてくれるのが、共振回路でおなじみの Q値(quality factor) です。アンテナのQ値は「1周期あたりに放射する電力に対して、アンテナの周りにどれだけ無効エネルギーが溜まっているか」を表す量で、これが分かると帯域幅がほぼ一意に決まってしまいます。しかも、アンテナを囲む最小の球の半径 $a$ が与えられると、Q値には下限(Chu限界)が存在します。つまり「このサイズなら、どんな天才が設計してもこれ以上の帯域は取れない」という数値が、電磁気学から計算できてしまうのです。
この関係を理解しておくと、次のような場面で判断が一気に速くなります。
- 小型端末・IoTデバイスのアンテナ設計: 「この筐体サイズで LTE Band 8(880〜960 MHz、8.7%)をカバーできるか」を、試作前に $ka$ から見積もれます
- CubeSat・小型衛星の通信系: 1U(10 cm 角)の筐体に UHF アンテナを収めるとき、必要帯域が物理的に取れるのかどうかを最初に確認できます
- 整合回路の設計判断: 「整合回路をもう1段足せば帯域が広がるのか、それとも無駄なのか」を Bode-Fano の積分制約で見切れます
- 測定結果の解釈: VSWR特性から逆算した実効Q値と理論値を比べれば、放射しているのか単に損失で広く見えているだけなのかを切り分けられます
本記事の内容
- アンテナの「帯域幅」の定義(分数帯域・帯域比・VSWR帯域)
- アンテナを直列/並列RLC共振回路に等価化する考え方
- Q値のエネルギー的定義 $Q = \omega_0 W_{\text{stored}} / P_{\text{rad}}$ と回路量での表現
- 反射係数の周波数依存性から $\mathrm{FBW} = (S-1)/(Q\sqrt{S})$ を厳密に導出
- Chu の球面波展開による小型アンテナのQ下限 $Q_{\min} = 1/(ka)^3 + 1/(ka)$ の導出
- $Q \propto 1/(ka)^3$ となる物理的理由(近傍界に閉じ込められる無効電力)
- Bode-Fano の積分制約と「整合回路の限界」
- 二重共振(寄生素子)による広帯域化のメカニズム
- Python によるRLCモデルの $|S_{11}|$ 計算、VSWR=2 帯域の数値抽出、Chu限界の可視化
前提知識
この記事を読む前に、以下の記事を読んでおくと理解が深まります。
- 共振回路(直列共振と並列共振)
- アンテナのインピーダンス整合 — 反射を最小化して効率的に電力を供給する
- アンテナの基本パラメータ(利得・指向性・放射パターン)を解説
- VSWR・リターンロス・反射係数の関係を理解して実装する
アンテナの「帯域幅」とは何か
「このアンテナの帯域は 80 MHz です」と言われたとき、実は何を測ったのかが一意には決まりません。アンテナには少なくとも4種類の帯域幅があるからです。
- インピーダンス帯域幅: 給電点から見た反射が規定値以下に収まる周波数範囲。VSWR ≤ 2 や $|S_{11}| \le -10$ dB で定義するのが一般的です
- パターン帯域幅: 放射パターンの形(メインローブ幅、サイドローブレベル、ヌルの位置)が許容範囲に収まる範囲
- 利得帯域幅: 利得が最大値から 1 dB 落ち、3 dB 落ちに収まる範囲
- 軸比帯域幅: 円偏波アンテナで軸比が 3 dB 以下に収まる範囲

同じアンテナでも、どの指標で切るかによって「帯域」の値がまったく違うことが分かります。(a) のインピーダンス帯域幅は VSWR ≤ 2 を満たす範囲が最も狭く、(b) の利得帯域幅は 3 dB 落ちまでを許すので圧倒的に広くなっています。(c) パターンと (d) 軸比はその中間で、しかも中心周波数が微妙にずれることも珍しくありません。カタログの「帯域 80 MHz」がどれを指しているのかを確認しないと、比較そのものが無意味になります。
このうち最も狭くなりやすく、かつ設計の最初の関門になるのがインピーダンス帯域幅です。特に電気的に小さいアンテナでは、パターンはほとんど周波数によらない(微小ダイポールの $\sin\theta$ パターンは周波数不変です)のに、インピーダンスだけが急激に変化します。本記事で「帯域幅」と言うときは、断りがない限りインピーダンス帯域幅を指します。
分数帯域と帯域比
帯域幅を「MHz」で言うと周波数帯によって意味が変わってしまうので、比で表します。下限周波数を $f_1$、上限周波数を $f_2$、中心周波数を $f_0$ とすると、分数帯域(fractional bandwidth, FBW) は次のように定義されます。
$$ \begin{equation} \mathrm{FBW} = \frac{f_2 – f_1}{f_0} \end{equation} $$
中心周波数の取り方には流儀があり、狭帯域では算術平均 $f_0 = (f_1+f_2)/2$ を使い、広帯域では幾何平均 $f_0 = \sqrt{f_1 f_2}$ を使います。後で見るように、共振型アンテナでは通過帯域が幾何的に対称($f_1 f_2 = f_0^2$)になるので、幾何平均のほうが理論と相性が良いです。
一方、超広帯域アンテナ(スパイラル、対数周期など)では分数帯域が 100% を超えてしまい比較しづらいので、帯域比 $f_2/f_1$ を使います。「10:1 のアンテナ」という言い方がこれです。分数帯域と帯域比は次の式で相互変換できます(幾何平均を中心とする場合)。
$$ \mathrm{FBW} = \frac{f_2 – f_1}{\sqrt{f_1 f_2}} = \sqrt{r} – \frac{1}{\sqrt{r}}, \quad r = \frac{f_2}{f_1} $$
たとえば $r = 2$(1オクターブ)なら $\mathrm{FBW} = \sqrt{2} – 1/\sqrt{2} = 0.707$、つまり 70.7% です。
反射係数とVSWRの復習
給電線の特性インピーダンスを $Z_0$(通常 50 Ω)、アンテナの入力インピーダンスを $Z_{\text{in}}(\omega)$ とすると、反射係数は次式です。
$$ \begin{equation} \Gamma(\omega) = \frac{Z_{\text{in}}(\omega) – Z_0}{Z_{\text{in}}(\omega) + Z_0} \end{equation} $$
電圧定在波比 VSWR(以下 $S$ と書きます)は $|\Gamma|$ と一対一に対応します。
$$ S = \frac{1 + |\Gamma|}{1 – |\Gamma|}, \qquad |\Gamma| = \frac{S-1}{S+1} $$
$S = 2$ なら $|\Gamma| = 1/3$($-9.54$ dB)、$S = 1.5$ なら $|\Gamma| = 0.2$($-13.98$ dB)です。実務でよく使う $|S_{11}| \le -10$ dB は $S \le 1.925$ に相当し、VSWR ≤ 2 とほぼ同じ意味だと思って構いません。

左の図は帯域比 $r$ と分数帯域 FBW の対応で、$r = 2$(1オクターブ)が 70.7%、$r = 3$ で 115.5%、10:1 では 284.6% と、100% を軽く超えてしまうことが見て取れます。分数帯域という物差しが超広帯域アンテナで使いにくい理由がここにあります。右の図は VSWR・$|\Gamma|$・リターンロスの三者の対応で、$S$ を 1.5 から 3 まで緩めても $|\Gamma|$ は 0.2 から 0.5 にしか増えません。整合基準を緩めても稼げる量が意外に小さいことは、後で帯域の話に効いてきます。
帯域幅の物差しが揃ったところで、次はアンテナのインピーダンスがなぜ周波数とともに急激に変化するのか、その正体を回路モデルで捉えます。
アンテナを共振回路に置き換える
アンテナは金属の板や線でできた3次元の構造で、本来はマクスウェル方程式を解かないと入力インピーダンスは分かりません。ところが、共振周波数のごく近傍だけを見るなら、驚くほど単純な等価回路で振る舞いを再現できます。
イメージとしては、弦楽器の弦に近いです。弦は無限に多くの倍音モードを持ちますが、基音の近くだけを聴くなら「バネと重りが1組」というモデルで十分に周波数応答を説明できます。アンテナも同じで、共振の近くでは電界に蓄えられるエネルギー(コンデンサ的な性質)と磁界に蓄えられるエネルギー(コイル的な性質)、そして遠方に持ち去られるエネルギー(抵抗的な性質)の3つだけで記述できます。
直列RLC等価と並列RLC等価
半波長ダイポールを例に取ります。長さが半波長よりわずかに短いところで入力リアクタンスがゼロになり、そこで入力抵抗は約 73 Ω になります。周波数を上げるとリアクタンスは誘導性(プラス)に、下げると容量性(マイナス)に振れます。これはまさに直列RLC回路の振る舞いです。
$$ \begin{equation} Z_{\text{in}}(\omega) = R + j\left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right) \end{equation} $$
ここで $R$ は放射抵抗(+損失抵抗)、$L$ と $C$ は共振周波数 $\omega_0 = 1/\sqrt{LC}$ を与える等価素子です。$R$ は実際に電力を消費しますが、消費先は熱ではなく遠方への放射です。アンテナから見れば、電波として飛び去ったエネルギーは戻ってこないので、抵抗と区別がつきません。
一方、全波長ダイポール(反共振点)やパッチアンテナの共振モードでは、共振点で入力抵抗が非常に高くなり、周波数を上げるとアドミタンスが容量性になります。これは並列RLC回路です。
$$ Y_{\text{in}}(\omega) = \frac{1}{R_p} + j\left(\omega C_p – \frac{1}{\omega L_p}\right) $$

上段が2つの等価回路、下段がそれぞれの周波数特性です($Q = 12$ で描画)。直列RLC では抵抗成分が一定のまま、リアクタンスだけが共振点でゼロを横切り、下側で容量性、上側で誘導性に振れます。半波長ダイポールの入力インピーダンスがまさにこの形です。一方の並列RLC は共振点でインピーダンスの大きさが最大になり、実部・虚部の振る舞いが直列とは双対の関係にあります。どちらも「共振点付近だけ」を切り取れば3素子で足りる、というのがポイントです。
どちらのモデルを使うかは、共振の種類(直列共振か並列共振か)で決まります。以降は式が見やすい直列RLCで議論を進めますが、双対性からすべての結論は並列RLCでもそのまま成り立ちます。
放射抵抗と損失抵抗
実際のアンテナの抵抗成分は2つに分かれます。
$$ R = R_{\text{rad}} + R_{\text{loss}} $$
$R_{\text{rad}}$ が遠方へ放射される電力に対応し、$R_{\text{loss}}$ は導体の表皮抵抗や誘電体の損失に対応します。放射効率は次式です。
$$ \eta = \frac{R_{\text{rad}}}{R_{\text{rad}} + R_{\text{loss}}} $$
この区別が後で効いてきます。というのも、損失を増やすと帯域は広がるからです。極端な話、50 Ω の抵抗器を給電線につなげば反射はゼロで無限帯域ですが、電波は一切飛びません。「広帯域なアンテナ」を測定で見たときに、本当に放射しているのか、それとも損失で広く見えているだけなのかは必ず確認すべきポイントです。
回路モデルが手に入ったので、次はこのモデルから帯域幅を支配する一つの数、Q値を取り出します。
Q値 — 溜まったエネルギーと出ていくエネルギーの比
Q値の直感を掴むには、穴の開いたバケツを思い浮かべると良いです。バケツに水を溜めながら、底の穴から水が出ていく状況を考えます。バケツに溜まっている水の量が「蓄積エネルギー」、穴から出ていく流量が「放射電力」です。
穴が小さくて水がたっぷり溜まっているバケツ(高Q)は、水位を変えようとしても急には変わりません。ゆっくりとしか応答できない=狭い周波数範囲でしか動作できない、ということです。逆に穴が大きくてほとんど水が溜まらないバケツ(低Q)は、入力の変化にすぐ追従します=広帯域です。
この直感を数式にしたのがQ値の定義です。
$$ \begin{equation} Q = \omega_0 \frac{W_{\text{stored}}}{P_{\text{acc}}} = 2\pi \frac{\text{蓄積エネルギー}}{\text{1周期あたりに失われるエネルギー}} \end{equation} $$
$W_{\text{stored}}$ は時間平均の蓄積エネルギー、$P_{\text{acc}}$ はアンテナが受け入れた電力(放射+損失)です。損失がなければ $P_{\text{acc}} = P_{\text{rad}}$ となり、このときのQ値を放射Q値 $Q_{\text{rad}}$ と呼びます。
直列RLCでQ値を計算する
定義から出発して、直列RLC回路のQ値が $\omega_0 L / R$ になることを確認しましょう。回路に流れる電流のフェーザ振幅を $I$ とします。
磁界に蓄えられる時間平均エネルギーはインダクタが担当します。
$$ W_m = \frac{1}{4} L |I|^2 $$
電界側はコンデンサです。コンデンサの端子電圧は $V_C = I/(j\omega C)$ なので、その振幅は $|I|/(\omega C)$ です。これを代入すると、
$$ W_e = \frac{1}{4} C |V_C|^2 = \frac{1}{4} C \frac{|I|^2}{\omega^2 C^2} = \frac{|I|^2}{4\omega^2 C} $$
ここで共振条件 $\omega_0^2 = 1/(LC)$、すなわち $1/(\omega_0^2 C) = L$ を使うと、共振点では
$$ W_e = \frac{1}{4} L |I|^2 = W_m $$
となり、共振点では電界エネルギーと磁界エネルギーが等しいことが分かります。これが共振の本質で、両者が同じ量で振動しながら入れ替わっている状態です。

左のグラフは電流を一定にしたときの $W_e$ と $W_m$ の周波数依存で、$u = 1$ でぴたりと交差しているのが「電界と磁界に同量が溜まる」という共振の定義そのものです。共振から外れると $W_e$ だけが増えて合計も増加し、蓄積が偏った状態=整合が崩れた状態になります。右のグラフは同じQ値を時間領域で見たもので、Q = 60 では6周期経ってもほとんど減衰しないのに対し、Q = 5 では3周期で消えます。長く鳴り続けるということは入力の変化に追従できないということで、これが「高Q=狭帯域」の時間領域からの言い換えです。
合計の蓄積エネルギーは
$$ W_{\text{stored}} = W_e + W_m = \frac{1}{2} L |I|^2 $$
一方、抵抗で失われる(=放射される)時間平均電力は
$$ P_{\text{acc}} = \frac{1}{2}|I|^2 R $$
これらを定義式に代入します。分子と分母の $|I|^2/2$ が約分されて、
$$ \begin{equation} Q = \omega_0 \frac{\frac{1}{2}L|I|^2}{\frac{1}{2}|I|^2 R} = \frac{\omega_0 L}{R} = \frac{1}{\omega_0 R C} \end{equation} $$
最後の等号は $\omega_0 L = 1/(\omega_0 C)$ から得られます。並列RLCでは双対的に $Q = \omega_0 R_p C_p = R_p/(\omega_0 L_p)$ です。
損失があるときのQ値と効率
放射と損失を別々のQ値として扱うと便利です。
$$ Q_{\text{rad}} = \frac{\omega_0 L}{R_{\text{rad}}}, \qquad Q_{\text{loss}} = \frac{\omega_0 L}{R_{\text{loss}}} $$
全体のQ値は $R = R_{\text{rad}} + R_{\text{loss}}$ から、コンダクタンスのように足し算になります。
$$ \frac{1}{Q_{\text{tot}}} = \frac{1}{Q_{\text{rad}}} + \frac{1}{Q_{\text{loss}}} $$
さらに効率 $\eta$ を使うと、次の非常に重要な関係が出ます。
$$ \begin{equation} Q_{\text{tot}} = \eta \, Q_{\text{rad}} \end{equation} $$
効率が 50% のアンテナは、同じ形状で無損失の場合よりQ値が半分になり、帯域が2倍に広がります。ただし送受信できる電力も半分です。「帯域幅 × 効率」がおおよそ保存される、と覚えておくと現場の判断で迷いません。
微分によるQ値の実用的な定義
エネルギー積分は実測から求めるのが難しいので、実務では入力インピーダンスの周波数微分からQ値を推定します。Yaghjian と Best(2005)が示した近似式です。
$$ \begin{equation} Q(\omega_0) \approx \frac{\omega_0}{2R(\omega_0)} \left| \frac{dZ_{\text{in}}}{d\omega} \right|_{\omega_0} \end{equation} $$
直列RLCで確かめてみます。$dZ_{\text{in}}/d\omega = j\left(L + 1/(\omega^2 C)\right)$ であり、共振点では $1/(\omega_0^2 C) = L$ なので $|dZ_{\text{in}}/d\omega| = 2L$ です。これを代入すると
$$ Q \approx \frac{\omega_0}{2R} \cdot 2L = \frac{\omega_0 L}{R} $$
となり、エネルギー定義と完全に一致します。この式の良いところは、ネットワークアナライザで測った $Z_{\text{in}}(\omega)$ をそのまま差分すれば使えることです。
Q値の意味と計算方法が固まりました。いよいよ、このQ値から帯域幅がどう決まるのかを導出します。
分数帯域とQ値の関係式を導出する
目標は、次の関係式を導くことです。
$$ \begin{equation} \mathrm{FBW} = \frac{S – 1}{Q\sqrt{S}} \end{equation} $$
ここで $S$ は許容する VSWR です。この式は「Q値が分かれば帯域が分かる」という、アンテナ設計で最も使用頻度の高い関係式のひとつです。しかも直列RLCモデルの範囲では厳密に成り立ちます。順を追って示しましょう。
ステップ1: リアクタンスをQ値と規格化周波数で書く
直列RLCのリアクタンス部分を変形します。
$$ X(\omega) = \omega L – \frac{1}{\omega C} $$
ここで、$\omega_0 L = 1/(\omega_0 C)$ という共振条件を使い、両方の項から $\omega_0 L$ を括り出すのが要点です。第1項は $\omega L = \omega_0 L \cdot (\omega/\omega_0)$、第2項は $1/(\omega C) = \left(1/(\omega_0 C)\right)\cdot(\omega_0/\omega) = \omega_0 L \cdot (\omega_0/\omega)$ と書けます。したがって、
$$ X(\omega) = \omega_0 L \left( \frac{\omega}{\omega_0} – \frac{\omega_0}{\omega} \right) $$
さらに $\omega_0 L = QR$ を代入すると、リアクタンスは抵抗とQ値だけで表せます。
$$ \begin{equation} X(\omega) = QR\left( u – \frac{1}{u} \right), \qquad u \equiv \frac{\omega}{\omega_0} \end{equation} $$
$u – 1/u$ という組み合わせは、$u = 1$ でゼロ、$u \to 0$ で $-\infty$、$u \to \infty$ で $+\infty$ になる奇関数です。この関数が「共振からどれだけずれているか」を測る自然な物差しになります。
ステップ2: 反射係数を計算する
共振点で整合が取れている、つまり $R = Z_0$ である場合を考えます($R \ne Z_0$ なら理想変成器で変換できるので一般性を失いません)。反射係数の定義に $Z_{\text{in}} = R + jX = Z_0 + jX$ を代入します。
$$ \Gamma = \frac{(Z_0 + jX) – Z_0}{(Z_0 + jX) + Z_0} = \frac{jX}{2Z_0 + jX} $$
分母分子の絶対値を取って2乗すると、
$$ \begin{equation} |\Gamma|^2 = \frac{X^2}{4Z_0^2 + X^2} \end{equation} $$
この形は見慣れておくと便利です。$X = 0$(共振点)で $|\Gamma| = 0$、$|X| \to \infty$ で $|\Gamma| \to 1$ と、素直に単調増加します。
ステップ3: 帯域端の条件を解く
帯域端では $|\Gamma| = \Gamma_m \equiv (S-1)/(S+1)$ です。これを上式に代入して $X$ について解きます。まず両辺の逆数を取って整理すると、
$$ \frac{1}{\Gamma_m^2} = \frac{4Z_0^2 + X^2}{X^2} = \frac{4Z_0^2}{X^2} + 1 $$
$X^2$ について解くと、
$$ X^2 = \frac{4Z_0^2 \Gamma_m^2}{1 – \Gamma_m^2} \quad \Longrightarrow \quad |X| = \frac{2Z_0 \Gamma_m}{\sqrt{1 – \Gamma_m^2}} $$
ここで $\Gamma_m = (S-1)/(S+1)$ を代入して、右辺を $S$ だけの式に直します。まず分母の中身を計算すると、
$$ 1 – \Gamma_m^2 = \frac{(S+1)^2 – (S-1)^2}{(S+1)^2} = \frac{4S}{(S+1)^2} $$
分子が $(S^2+2S+1) – (S^2-2S+1) = 4S$ になることに注意してください。したがって $\sqrt{1-\Gamma_m^2} = 2\sqrt{S}/(S+1)$ です。これを使うと、
$$ |X| = 2Z_0 \cdot \frac{S-1}{S+1} \cdot \frac{S+1}{2\sqrt{S}} = Z_0 \frac{S-1}{\sqrt{S}} $$
$(S+1)$ がきれいに約分されました。
ステップ4: 周波数に戻す
ステップ1の結果 $X = QZ_0(u – 1/u)$($R = Z_0$ としたので)と、いま得た $|X|$ を等しく置きます。
$$ Q\left| u – \frac{1}{u} \right| = \frac{S-1}{\sqrt{S}} $$
右辺を $k \equiv (S-1)/(Q\sqrt{S})$ とまとめると、帯域端は次の方程式の解です。
$$ u – \frac{1}{u} = \pm k $$
両辺に $u$ を掛けて2次方程式にします。
$$ u^2 \mp k u – 1 = 0 $$
正の解だけを取ると、上側の帯域端 $u_2$ と下側の帯域端 $u_1$ は
$$ u_2 = \frac{k + \sqrt{k^2+4}}{2}, \qquad u_1 = \frac{-k + \sqrt{k^2+4}}{2} $$
ここで2つのことに気づきます。第一に、差を取ると平方根の項が消えます。
$$ u_2 – u_1 = \frac{k + \sqrt{k^2+4}}{2} – \frac{-k + \sqrt{k^2+4}}{2} = k $$
第二に、積を取ると
$$ u_1 u_2 = \frac{(\sqrt{k^2+4})^2 – k^2}{4} = \frac{4}{4} = 1 $$
すなわち $f_1 f_2 = f_0^2$ で、通過帯域は共振周波数を幾何中心として対称になっています。分数帯域を幾何平均基準で定義していれば、$\mathrm{FBW} = (f_2-f_1)/f_0 = u_2 – u_1 = k$ となり、
$$ \begin{equation} \boxed{\ \mathrm{FBW} = \frac{S-1}{Q\sqrt{S}}\ } \end{equation} $$
が近似ではなく厳密に得られます。ふつう教科書では「$Q \gg 1$ のとき」という但し書きが付きますが、それは中心周波数を算術平均で取った場合の話です。幾何平均で定義すれば、直列RLCモデルの枠内では常に正確です。

左の図が、いま追ってきた導出の全体像です。青い曲線 $X/Z_0 = Q(u-1/u)$ が赤の水平線 $\pm(S-1)/\sqrt{S}$ を横切る2点が帯域端で、その間隔がそのまま FBW になります。$Q = 10$、$S = 2$ なら 7.07% で、緑の帯が共振点を幾何中心として対称に広がっている($u_1 u_2 = 1$)ことも読み取れます。右の棒グラフは Q値と許容VSWR を変えたときの帯域で、対数目盛で等間隔に並んでいることから FBW が $1/Q$ に厳密に比例していることが分かります。
数値の感覚を掴む
$S$ ごとに係数 $(S-1)/\sqrt{S}$ を計算しておくと便利です。
| 許容VSWR $S$ | $\Gamma_m$ | $|S_{11}|$ [dB] | $\mathrm{FBW}\cdot Q$ |
|---|---|---|---|
| 1.5 | 0.200 | $-13.98$ | 0.408 |
| 2.0 | 0.333 | $-9.54$ | 0.707 |
| 2.5 | 0.429 | $-7.36$ | 0.949 |
| 3.0 | 0.500 | $-6.02$ | 1.155 |
もっとも使われる VSWR = 2 では $\mathrm{FBW} \approx 0.707/Q$ です。つまり Q値が分かれば、VSWR2 帯域は「約 0.7 割る Q」 と暗算できます。$Q = 10$ なら 7.1%、$Q = 50$ なら 1.4% です。逆に測定した帯域からQ値を推定するには $Q = 0.707/\mathrm{FBW}$ とすればよく、これが「実効Q値」の標準的な求め方になります。
また、許容VSWRを 2 から 3 に緩めると帯域は $1.155/0.707 = 1.63$ 倍にしかなりません。帯域が足りないときに整合の基準を緩めるのは、割に合わない対処だと分かります。
理論式が手に入ったので、次はこれを使って「アンテナのサイズが帯域を決める」という、もっと深い制約に進みます。
具体例 — 2.45 GHz 帯のアンテナで計算する
具体的な数値で感覚を掴んでおきましょう。$f_0 = 2.45$ GHz(波長 122.4 mm)で、実効Q値が 30 のアンテナがあるとします。これは小型の誘電体基板パッチアンテナとして現実的な値です。
VSWR ≤ 2 の帯域は、
$$ \mathrm{FBW} = \frac{2-1}{30\sqrt{2}} = \frac{1}{42.43} = 0.02357 = 2.36\% $$
絶対帯域に直すと $2.36\% \times 2450\ \text{MHz} = 57.7$ MHz です。帯域端は幾何対称なので $u_{1,2} = (\mp k + \sqrt{k^2+4})/2$ に $k = 0.02357$ を入れて、$f_1 = 2421.3$ MHz、$f_2 = 2479.0$ MHz となります。実際、$\sqrt{f_1 f_2} = 2450.0$ MHz で幾何中心が保たれています。
Wi-Fi の 2.4 GHz 帯(2400〜2483.5 MHz)は 83.5 MHz、分数帯域で 3.4% です。$Q = 30$ では足りません。必要なQ値は
$$ Q \le \frac{0.707}{0.034} = 20.8 $$
つまりQ値を 30 から 21 以下に落とす必要があります。基板を厚くする、パッチの幅を広げる、比誘電率を下げる、寄生素子を追加する — こうした手当てはすべて「Q値を下げる」という一点に集約されます。逆に言えば、Q値を下げる効果がない変更をいくら重ねても帯域は広がりません。
では、Q値はどこまで下げられるのでしょうか。ここに物理の壁が現れます。
電気的小型アンテナの限界 — Chu限界
直感 — 近傍界に閉じ込められる無効電力
アンテナを小さくすると帯域が狭くなる理由を、エネルギーの観点から考えてみます。
微小ダイポールの周りの電界を思い出してください。遠方界は $1/r$ で減衰し、これが放射に寄与します。しかし近傍には $1/r^2$(誘導界)と $1/r^3$(静電界)の項があり、これらは遠方まで届かず、アンテナの近くを行ったり来たりするだけです。この「行ったり来たりするエネルギー」こそが $W_{\text{stored}}$ の正体です。
アンテナを小さくすると何が起こるか。放射する電力を一定に保ったまま構造を縮めると、$1/r^3$ の静電界項がアンテナ表面のごく近くで猛烈に大きくなります。定量的に見積もってみましょう。電気双極子モーメント $p$ の近傍静電界は $E \sim p/(4\pi\varepsilon_0 r^3)$ です。半径 $a$ の球の外側に蓄えられる電界エネルギーは、
$$ W_e \sim \int_a^\infty \frac{\varepsilon_0}{2}\left(\frac{p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}\right)^2 4\pi r^2\, dr \propto p^2 \int_a^\infty \frac{dr}{r^4} = \frac{p^2}{3a^3} $$
積分の下限が $a$ なので、$W_e \propto p^2/a^3$ です。一方、双極子の放射電力は well-known な $P_{\text{rad}} \propto \omega^4 p^2$ です。Q値の定義に入れると、$p^2$ が約分されて
$$ Q = \frac{\omega W_e}{P_{\text{rad}}} \propto \frac{\omega \cdot p^2/a^3}{\omega^4 p^2} = \frac{1}{\omega^3 a^3} \propto \frac{1}{(ka)^3} $$
$k = \omega/c$ を使いました。サイズを半分にすると、Q値は8倍、帯域は 1/8 になる — これがアンテナ小型化の残酷な法則です。

左のグラフは電界の3つの項の距離依存で、$kr = 1$($r \approx 0.16\lambda$)より内側では $1/r^3$ の静電界が他を圧倒していることが分かります。半径 $a = 0.04\lambda$ の小型アンテナ(赤の点線)の表面では、静電界は放射界の 60 倍以上の大きさです。右のグラフは放射電力を一定に固定したときの蓄積エネルギーで、$ka$ が半分になると $W_e$ がちょうど8倍に跳ね上がります。分子だけが8倍、分母は据え置きなので、Q値も8倍・帯域は 1/8 になる、という因果がそのまま図に現れています。
この $1/(ka)^3$ 則を、Chu は球面波展開を使って厳密な下限として証明しました。
球面波展開と等価回路
Chu(1948)のアイデアは次の通りです。アンテナ全体を半径 $a$ の仮想球(Chu球)で囲むと、球の外側の電磁界は必ず球面波(球面調和関数 × 球ハンケル関数)の重ね合わせで書けます。TM$_n$ モード(電気型)と TE$_n$ モード(磁気型)があり、$n$ は角度方向の次数です。
重要なのは、球の外側にどれだけエネルギーが蓄えられるかは、モードの次数 $n$ と $ka$ だけで決まるという点です。アンテナ内部の構造(球の内側)には一切依存しません。したがって、球の外側の蓄積エネルギーの下限を計算すれば、それがQ値の下限になります。
さらに Chu は、各球面波モードの入力インピーダンスがラダー型のLC回路と厳密に等価であることを示しました。TM$_1$ モード(電気双極子モード)の場合、自由空間インピーダンス $\eta$ で規格化すると、直列キャパシタ $C = a/c$ + 並列インダクタ $L = a/c$ + 並列抵抗 $R = 1$ という、たった3素子の回路になります。
この回路の入力インピーダンスを計算してみましょう。$x \equiv ka$ とおくと、規格化されたリアクタンスは $\omega L = \omega a/c = x$、$1/(\omega C) = 1/x$ です。並列部分は
$$ Z_{\text{par}} = \frac{jx \cdot 1}{jx + 1} = \frac{jx(1 – jx)}{1 + x^2} = \frac{x^2 + jx}{1+x^2} $$
分母を実数化するために $(1-jx)$ を掛けました。これに直列キャパシタの $-j/x$ を足すと、
$$ Z_1 = -\frac{j}{x} + \frac{x^2}{1+x^2} + \frac{jx}{1+x^2} $$
虚部をまとめます。通分すると $-\frac{1}{x} + \frac{x}{1+x^2} = \frac{-(1+x^2) + x^2}{x(1+x^2)} = \frac{-1}{x(1+x^2)}$ なので、
$$ \begin{equation} Z_1 = \frac{x^2}{1+x^2} – \frac{j}{x(1+x^2)} \end{equation} $$

左が Chu が示した3素子の等価回路(直列 $C$ + 並列 $L$ + 並列 $R$)、右がその入力インピーダンスと球ハンケル関数から求めた厳密解の比較です。太い薄色の線(厳密解)の上に記号(等価回路)が完全に乗っており、両者が数値的に区別できないことが確認できます。$ka = 0.2$ では $0.0385 – 4.8077j$ と虚部が実部の 125 倍もあり、「ほとんど放射せず、ただのコンデンサとして振る舞う」状態が数値としても見て取れます。
この式は、球ハンケル関数から直接計算した TM$_1$ モードの波動インピーダンスと完全に一致します(後の Python コードで数値確認します)。$x \ll 1$ では実部が $x^2$、虚部が $-1/x$ で、容量性リアクタンスが放射抵抗より圧倒的に大きい — つまり「ほとんど放射せず、コンデンサとして振る舞う」状態です。
Q値の下限を導く
回路が分かれば、あとはQ値の定義に従うだけです。直列キャパシタを流れる電流を $I$ とします。
まず放射電力は実部で決まります。
$$ P = \frac{1}{2}|I|^2 \frac{x^2}{1+x^2} $$
次に電界エネルギー。直列キャパシタに蓄えられる時間平均エネルギーは、規格化系で $\omega C = x$ なので、
$$ W_e = \frac{|I|^2}{4\omega^2 C} = \frac{|I|^2}{4\omega \cdot (\omega C)} = \frac{|I|^2}{4\omega x} $$
磁界エネルギーはインダクタが担当します。インダクタに流れる電流は分流則から $I_L = I \cdot \dfrac{1}{1 + jx}$ なので $|I_L|^2 = |I|^2/(1+x^2)$ です。$L = a/c = x/\omega$(規格化系)を使って、
$$ W_m = \frac{1}{4}L|I_L|^2 = \frac{|I|^2 x}{4\omega(1+x^2)} $$
両者を比べると $W_e/W_m = (1+x^2)/x^2 > 1$ で、電界エネルギーが常に優勢です。TM モードが「電気双極子的」であることの表れです。
McLean(1996)の定義では、優勢な側のエネルギーを 2 倍したものを蓄積エネルギーとします(不足側は外付けの整合素子で補うため)。
$$ Q = \frac{\omega \cdot 2W_e}{P} = \frac{\omega \cdot 2 \cdot \frac{|I|^2}{4\omega x}}{\frac{1}{2}|I|^2\frac{x^2}{1+x^2}} = \frac{\frac{|I|^2}{2x}}{\frac{|I|^2 x^2}{2(1+x^2)}} = \frac{1+x^2}{x^3} $$
分母分子を整理すると、有名な結果が現れます。
$$ \begin{equation} \boxed{\ Q_{\min}(ka) = \frac{1}{(ka)^3} + \frac{1}{ka}\ } \end{equation} $$
第1項が近傍静電界($1/r^3$)による蓄積、第2項が誘導界($1/r^2$)による蓄積に対応します。$ka \ll 1$ では第1項が支配的で、先ほどの直感的な見積もりと一致します。
円偏波アンテナのように TE と TM を等しく励振する場合は、蓄積エネルギーが2つのモードに分散されるため下限が下がり、
$$ Q_{\min}^{\text{CP}} = \frac{1}{2}\left( \frac{1}{(ka)^3} + \frac{2}{ka} \right) $$
となります。$ka \ll 1$ ではおおよそ半分です。円偏波にすると帯域が2倍取れる、というのは経験的にもよく知られています。
効率を含めた形と数値例
損失があるアンテナでは $Q_{\text{tot}} = \eta Q_{\text{rad}}$ でしたから、下限も効率でスケールします。
$$ Q_{\text{tot}} \ge \eta\left( \frac{1}{(ka)^3} + \frac{1}{ka} \right) $$
これを帯域の式と組み合わせると、サイズ・効率・帯域の三者関係が得られます。
$$ \mathrm{FBW} \le \frac{S-1}{\sqrt{S}} \cdot \frac{1}{\eta} \cdot \frac{(ka)^3}{1 + (ka)^2} $$
2.45 GHz($\lambda = 122.4$ mm)で、無損失($\eta = 1$)・直線偏波の場合の数値を表にします。
| Chu球半径 $a$ | $ka$ | $Q_{\min}$ | VSWR2 の最大 FBW | 絶対帯域 |
|---|---|---|---|---|
| 30 mm | 1.540 | 0.92 | 76.6% | 1877 MHz |
| 20 mm | 1.027 | 1.90 | 37.3% | 913 MHz |
| 15 mm | 0.770 | 3.49 | 20.3% | 497 MHz |
| 10 mm | 0.513 | 9.33 | 7.6% | 186 MHz |
| 7.5 mm | 0.385 | 20.1 | 3.5% | 86 MHz |
| 5 mm | 0.257 | 63.0 | 1.1% | 28 MHz |

表の各行を対数グラフ上に打つと上のようになります。$ka < 0.5$ の領域では Chu限界の曲線が漸近則 $1/(ka)^3$(灰色の点線)にぴたりと重なり、傾き $-3$ の直線になっているのが分かります。赤い点が表の各サイズで、半径 10 mm($ka = 0.51$)で 7.6% だったものが、7.5 mm で 3.5%、5 mm では 1.1% へと急落していきます。円偏波(緑の破線)は $ka$ が小さい領域で直線偏波の半分程度のQ値に収まっており、円偏波にすると帯域が約2倍取れるという経験則が図の上でも確認できます。

左の図は効率を変えたときの帯域上限で、$\eta$ を下げるほど曲線が上へ平行移動します。効率 5% まで犠牲にすれば $ka = 0.2$ でも Wi-Fi 帯に必要な 3.4%(灰色の破線)を超えられますが、それは電波の 95% を熱にしているだけです。右の棒グラフは絶対帯域で見た同じ話で、半径 7.5 mm でようやく Wi-Fi 2.4 GHz 帯の 83.5 MHz(赤の破線)に届くかどうか、というのが物理の答えです。筐体サイズが決まった時点で、取れる帯域の上限もほぼ決まってしまうことが分かります。
半径 10 mm から 5 mm へ半分にすると、帯域は 186 MHz から 28 MHz へ、6.7 分の 1 に落ちます($1/8$ にならないのは $1/(ka)$ 項がまだ効いているためです)。先ほど「$Q = 30$ では Wi-Fi 帯(3.4%)に足りない」と見積もりましたが、$Q \le 21$ を実現するには $ka \ge 0.38$、つまり半径 7.5 mm 以上の空間が必要だと分かります。
なお、$ka = 0.5$(周長がおよそ波長の 1/2)が「電気的小型」の慣用的な境界です。$ka < 0.5$ の領域では $Q$ が急速に立ち上がるため、この線を越えた瞬間に設計難易度が跳ね上がります。この境界を意識しておくと、仕様検討の段階で無理な要求を見抜けます。
Chu-Harrington限界と現実のギャップ
Harrington(1960)は Chu の結果を拡張し、複数モードを使った場合の利得とQ値のトレードオフを明らかにしました。$N$ 次までのモードを励振すれば指向性は上げられますが、高次モードは $ka$ が小さいときに極端に大きな蓄積エネルギーを持つため、Q値が爆発的に増えます。これが「小型かつ高利得かつ広帯域」が同時に成立しない理由です。
実際のアンテナは Chu 限界にどこまで近づけるでしょうか。よく設計された小型アンテナでも $Q/Q_{\min}$ は 1.5〜3 程度に留まります。理由は単純で、Chu 限界は「球の内側の体積を隅々まで使い切る」ことを暗黙に仮定しているのに対し、実際のアンテナは平面基板の上の細い線や薄い板だからです。球体積を有効に使う三次元的な構造(球面上に巻いた螺旋、折り返し構造など)ほど限界に近づくことが知られています。
サイズによる限界が分かりました。では、整合回路を工夫すればこの限界を回避できるのでしょうか。次はその問いに答えます。
整合回路の限界 — Bode-Fanoの積分制約
直感 — 使える「面積」には予算がある
前節の $\mathrm{FBW} = (S-1)/(Q\sqrt{S})$ は、「単純なLC共振1個で整合した場合」の帯域です。整合回路を多段にすれば、もっと広げられそうな気がします。実際、ある程度は広がります。しかし無制限ではありません。
Bode と Fano が示したのは、「不整合の総量」には保存則があるという驚くべき事実です。$\ln(1/|\Gamma|)$ を周波数で積分した「面積」に上限があり、その面積をどこの周波数に配分するかは自由に選べても、総量は増やせないのです。予算が決まった買い物のようなもので、ある帯域で深い整合を取れば、別のどこかで必ず反射が増えます。
積分制約
負荷が抵抗 $R$ と容量 $C$ の並列接続(アンテナの容量性の等価回路に対応)である場合、無損失の受動整合回路をどれだけ複雑にしても、次の不等式が成り立ちます。
$$ \begin{equation} \int_0^\infty \ln \frac{1}{|\Gamma(\omega)|}\, d\omega \le \frac{\pi}{RC} \end{equation} $$
抵抗 $R$ とインダクタ $L$ の直列接続なら $\pi R/L$ が上限です。負荷の種類ごとに右辺の形は変わりますが、「有限の面積予算」という構造は共通です。
最適な配分と帯域の上限
予算 $A = \pi/(RC)$ をどう使うのが最善でしょうか。目標が「帯域 $\Delta\omega$ の中で $|\Gamma| \le \Gamma_m$ を保証する」ことなら、帯域内で $|\Gamma| = \Gamma_m$ ちょうど、帯域外で $|\Gamma| = 1$(完全反射) という矩形の配分が最も効率的です。帯域外では $\ln(1/|\Gamma|) = \ln 1 = 0$ で予算を一切消費しません。
このとき積分は長方形の面積になります。
$$ \Delta\omega \cdot \ln\frac{1}{\Gamma_m} \le \frac{\pi}{RC} $$
ここで、並列RLCのQ値が $Q = \omega_0 R C$ であることを使います。$1/(RC) = \omega_0/Q$ を代入すると、
$$ \Delta\omega \le \frac{\pi \omega_0}{Q \ln(1/\Gamma_m)} $$
両辺を $\omega_0$ で割れば分数帯域の上限です。
$$ \begin{equation} \boxed{\ \mathrm{FBW}_{\text{Fano}} = \frac{\pi}{Q \ln(1/\Gamma_m)}\ } \end{equation} $$
単一共振との比較 — 4倍の余地
VSWR = 2($\Gamma_m = 1/3$)で比べてみます。
- 単一共振: $\mathrm{FBW} = 0.707/Q$
- Bode-Fano限界: $\mathrm{FBW} = \pi/(Q \ln 3) = 2.860/Q$
比は $2.860/0.707 = 4.04$ 倍です。同じ VSWR = 1.5 なら 4.78 倍、VSWR = 3 なら 3.93 倍。つまり 整合回路を最大限に凝れば、単純なLC整合の約4倍まで帯域を伸ばせる余地があるということです。逆に言えば、それ以上は絶対に伸びません。
なぜ単一共振は「予算を使い切っているのに」狭いのか
ここが面白いところです。実は、単純な並列RLC(RC負荷 + 並列インダクタ1個で整合)でも、$\ln(1/|\Gamma|)$ の積分値は $\pi/(RC)$ ちょうどになります(後の Python で数値確認します)。予算は使い切っているのです。
問題は配分の仕方です。単一共振では共振点で $|\Gamma| = 0$、つまり $\ln(1/|\Gamma|) = \infty$ になり、共振点近傍の細い領域に予算のほとんどを注ぎ込んでしまいます。深く整合する必要などないのに、無駄に深い井戸を掘っているわけです。多段整合回路の役割は、この「井戸」を複数に分けて浅く広くならすことにあります。

左の図で、青い山(単一共振)と赤い長方形(Fano 最適配分)は面積がほぼ同じです。違うのは形だけで、青は共振点で発散する細いスパイクに予算を集中させているのに対し、赤は $|\Gamma| = 1/3$ の高さで幅 9.53% を平らに埋めています。右の棒グラフは実際に $0$ から $\infty$ まで数値積分した結果で、単一共振の $1.6135\times10^{9}$ に対し上限 $\pi/(RC)$ が $1.6120\times10^{9}$ と、比 1.0009 でぴったり一致しています。予算は最初から使い切っていて、伸びしろは「使い方」にしかないということです。埋め込みの棒グラフが示すとおり、その伸びしろは許容VSWRによらず 4 倍前後です。
理論的な上限が明らかになったので、実際にどうやって Q を実効的に下げるのか、その代表的な手法を見ていきます。
広帯域化の手法
二重共振(寄生素子)
最も広く使われるのが、共振器をもう1つ加える方法です。パッチアンテナの上にもう1枚パッチを重ねる(スタックドパッチ)、ダイポールの横に無給電の寄生素子を置く、給電スロットに共振長を持たせる — いずれも「わずかに異なる共振周波数を持つ第2の共振器を電磁的に結合させる」という同じ原理です。
回路的には、アンテナ(直列RLC)と第2共振器の間にインピーダンス変換(結合)が入った二重同調回路になります。単一共振の $|S_{11}|$ が1つの深い谷を持つのに対し、二重共振では2つの谷とその間の小さな山ができます。山の頂上が許容 VSWR にちょうど触れるように結合量を調整すると、帯域が最大になります。
第2共振器を「予算の再配分器」と見れば、Bode-Fano の議論そのものです。段数を増やすほど Fano 限界に近づきますが、$N = 2$ で限界の 6 割程度、$N = 3$ で 7〜8 割というのが実感で、素子が増えると損失も増えるので、実務では 2〜3 段で打ち止めにします。
構造を「太く」する
同じ長さでも導体を太くすると、電流分布が持つ蓄積エネルギーが減ってQ値が下がります。細い線ダイポールより円筒ダイポール、円筒より円錐(バイコニカル)のほうが広帯域なのはこのためです。パッチアンテナでは基板を厚くする、比誘電率を下げるのが同じ効果を持ちます。
$$ \mathrm{FBW}_{\text{patch}} \propto \frac{h}{\lambda_0} \cdot \frac{\varepsilon_r – 1}{\varepsilon_r^2} $$
という近似がよく使われます。厚い低誘電率基板ほど広帯域ですが、厚くしすぎると給電プローブのインダクタンスが効いて整合が取りにくくなり、表面波損失も増えるというトレードオフがあります。
抵抗装荷 — 効率と引き換えにする
導体に抵抗を分布装荷すると $Q_{\text{tot}} = \eta Q_{\text{rad}}$ の関係から帯域が広がります。UWB のインパルスレーダー用アンテナなどで使われますが、効率が犠牲になるので、送信電力に余裕がある用途に限られます。「広帯域だが効率 30%」という仕様を見たら、まず抵抗装荷を疑ってよいでしょう。
周波数非依存アンテナ — 共振から逃げる
そもそも共振に頼らない、という発想もあります。スパイラルアンテナや対数周期アンテナは、周波数が変わると「放射に寄与する部分」が構造上を移動していく自己相似形状を持ちます。どの周波数でも同じ形(角度だけで規定される形)が見えるため、Q値の議論から外れて 10:1 を超える帯域比を実現できます。代償はサイズで、最低周波数の波長に見合った大きさが必ず必要です。
詳しくは螺旋アンテナの理論 — 周波数非依存アンテナの原理と設計を参照してください。
非Foster整合 — 受動の枠を出る
Bode-Fano の制約は「無損失受動回路」に対するものです。負性容量・負性インダクタンスを能動回路で合成する非Foster整合回路を使えば、原理的にこの枠を超えられます。研究レベルでは実証されていますが、安定性の確保が難しく、雑音も増えるため実用化は限定的です。
手法が出揃ったところで、ここまでの理論を Python で数値的に確かめましょう。
Pythonによる実装と可視化
RLCモデルの $|S_{11}|$ とVSWR2帯域の数値抽出
まず、Q値を変えた直列RLC等価回路の $|S_{11}|$ 特性を計算し、VSWR = 2 を満たす帯域を数値的に抽出して理論式と比較します。
import numpy as np
import matplotlib, matplotlib.pyplot as plt
# 日本語フォント設定
for cand in ["Hiragino Sans", "Yu Gothic", "Noto Sans CJK JP", "IPAexGothic", "Meiryo"]:
if any(cand == f.name for f in matplotlib.font_manager.fontManager.ttflist):
plt.rcParams["font.family"] = cand
break
plt.rcParams["axes.unicode_minus"] = False
Z0 = 50.0 # 給電線の特性インピーダンス [Ω]
f0 = 2.45e9 # 共振周波数 [Hz]
w0 = 2 * np.pi * f0
f = np.linspace(0.80 * f0, 1.20 * f0, 400001)
u = f / f0 # 規格化周波数
g = u - 1.0 / u # 共振からのずれを表す関数
def s11_series_rlc(Q):
"""直列RLC等価回路の反射係数(共振点で R = Z0 に整合)"""
Zin = Z0 * (1.0 + 1j * Q * g)
return (Zin - Z0) / (Zin + Z0)
Gm = (2.0 - 1.0) / (2.0 + 1.0) # VSWR = 2 に対応する |Γ| = 1/3
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
for Q in [5, 10, 20, 50]:
G = np.maximum(np.abs(s11_series_rlc(Q)), 1e-12) # log10(0) を避ける
plt.plot(f / 1e9, 20 * np.log10(G), label=f"Q = {Q}")
plt.axhline(20 * np.log10(Gm), color="crimson", ls="--", label="VSWR = 2 の線 (-9.54 dB)")
plt.xlabel("周波数 [GHz]"); plt.ylabel("反射係数の大きさ $|S_{11}|$ [dB]")
plt.title("Q値を変えたときの反射特性(共振周波数 2.45 GHz)")
plt.ylim(-45, 2); plt.grid(alpha=0.3); plt.legend(); plt.tight_layout()
plt.show()

このグラフから、Q値が帯域幅をどう支配しているかが一目で分かります。Q = 5 の曲線は VSWR = 2 の線(赤破線)を非常に広い範囲で下回っているのに対し、Q = 50 では針のように細い谷しか残りません。どの曲線も共振点 2.45 GHz で $|S_{11}| \to -\infty$(完全整合)に落ちる点は共通で、違いは「谷の深さ」ではなく「谷の広さ」だけです。整合の深さと帯域は別物である、というのがここでの読み取りです。
続いて、この帯域を数値的に取り出して理論式 $(S-1)/(Q\sqrt{S})$ と突き合わせます。
import numpy as np
def measured_fbw(Q, S):
"""|S11| が VSWR=S の閾値以下となる連続帯域を数値抽出し、分数帯域を返す"""
Gm = (S - 1.0) / (S + 1.0)
G = np.abs(s11_series_rlc(Q))
idx = np.where(G <= Gm)[0]
return (f[idx[-1]] - f[idx[0]]) / f0
print(f"{'Q':>5} {'VSWR':>6} {'数値[%]':>10} {'理論[%]':>10}")
for Q in [5, 10, 20, 50, 100]:
for S in [1.5, 2.0, 3.0]:
num = measured_fbw(Q, S) * 100
th = (S - 1) / (Q * np.sqrt(S)) * 100
print(f"{Q:>5} {S:>6.1f} {num:>10.4f} {th:>10.4f}")

上の左図は、この表を対数軸に描いたものです。理論式の線の上に数値抽出の記号がぴたりと乗り、どの許容VSWRでも $-1$ の傾き($1/Q$ 比例)が保たれています。右図は相対誤差を ppm 単位で見たもので、最大でも 150 ppm、つまり $0.015\%$ しかずれていません。この残差は式の誤差ではなく、周波数グリッド(40 万点)の刻み幅で帯域端を離散的に拾っていることによるものです。
出力を確認すると、たとえば Q = 10 / VSWR = 2 では数値抽出値 7.0710%、理論値 7.0711% と、周波数グリッドの分解能で決まる最終桁を除いて完全に一致します。Q = 5 という「$Q \gg 1$ とは言えない」領域でも 14.1420% 対 14.1421% でぴったり合っており、導出のステップ4で見た通り、この関係式が幾何中心の定義のもとで厳密であることが確認できます。Q = 100 では 0.707% まで落ち、Q に反比例する性質もそのまま現れています。
Chu限界の可視化と等価回路の妥当性検証
次に、Chu限界 $Q_{\min} = 1/(ka)^3 + 1/(ka)$ を可視化します。あわせて、本文で導いた3素子等価回路の入力インピーダンスが、球ハンケル関数から計算した厳密な TM$_1$ モード波動インピーダンスと一致することも確認します。
import numpy as np
from scipy.special import spherical_jn, spherical_yn
def h2(n, x, d=0):
"""第2種球ハンケル関数(および その微分)"""
return spherical_jn(n, x, derivative=d) - 1j * spherical_yn(n, x, derivative=d)
def Z_tm1_exact(x):
"""球面波展開による TM1 モードの規格化波動インピーダンス(r = a)"""
H = x * h2(1, x) # リッカチ・ハンケル関数
Hp = h2(1, x) + x * h2(1, x, 1) # その微分
return 1j * Hp / H
def Z_tm1_circuit(x):
"""本文で導いた3素子等価回路(直列C + 並列L∥R)の入力インピーダンス"""
return x**2 / (1 + x**2) - 1j / (x * (1 + x**2))
for x in [0.2, 0.5, 1.0, 2.0]:
print(f"ka={x:>4}: 厳密={Z_tm1_exact(x):.6f} 等価回路={Z_tm1_circuit(x):.6f}")
出力は $ka = 0.2$ で厳密解・等価回路ともに $0.038462 – 4.807692j$、$ka = 1.0$ でともに $0.5 – 0.5j$ となり、小数第6位まで完全に一致します。つまり Chu の等価回路は近似ではなく厳密な等価変換であり、そこから導いた $Q_{\min}$ も厳密な下限だということです。$ka$ が小さいほど虚部が大きく実部が小さい、すなわち「ほとんど蓄積、わずかに放射」という状態になっていることも数値から読み取れます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
ka = np.logspace(np.log10(0.15), np.log10(3.0), 400)
Q_lin = 1 / ka**3 + 1 / ka # 直線偏波
Q_cp = 0.5 * (1 / ka**3 + 2 / ka) # 円偏波
fbw_lin = 0.70710678 / Q_lin * 100 # VSWR=2 の最大分数帯域 [%]
fig, ax1 = plt.subplots(figsize=(9, 5.5))
ax1.loglog(ka, Q_lin, lw=2, label="Chu限界 $Q_{min}$(直線偏波)")
ax1.loglog(ka, Q_cp, lw=2, ls="--", label="Chu限界 $Q_{min}$(円偏波)")
ax1.loglog(ka, 1 / ka**3, lw=1, ls=":", color="gray", label="漸近則 $1/(ka)^3$")
ax1.axvline(0.5, color="crimson", ls="-.", lw=1)
ax1.text(0.52, 3e2, "電気的小型の目安\n$ka = 0.5$", color="crimson", fontsize=9)
ax1.set_xlabel("規格化サイズ $ka$"); ax1.set_ylabel("最小Q値 $Q_{min}$")
ax1.set_title("Chu限界 — アンテナサイズが決めるQ値の下限")
ax1.grid(which="both", alpha=0.3); ax1.legend(loc="upper right")
# 右軸に帯域スケールを付ける。FBW = 0.7071/Q は Q が増えると減るので上下を反転させる
y0, y1 = ax1.get_ylim()
ax2 = ax1.twinx()
ax2.set_yscale("log")
ax2.set_ylabel("VSWR2 の最大分数帯域 [%]", color="seagreen")
ax2.tick_params(axis="y", labelcolor="seagreen")
ax2.set_ylim(0.70710678 / y0 * 100, 0.70710678 / y1 * 100) # 上下反転
plt.tight_layout(); plt.show()
対数軸で見ると、$ka < 0.5$ の領域では Chu限界の曲線が漸近則 $1/(ka)^3$(灰色点線)にぴたりと重なり、傾き $-3$ の直線になっています。ここが「サイズを半分にすると帯域が 1/8」という支配則の領域です。一方 $ka > 1$ では $1/(ka)$ 項の寄与で曲線が漸近則から離れて緩やかになり、$Q_{\min}$ が 1 のオーダーまで下がります。右軸の帯域スケールから、$ka = 0.5$(2.45 GHz なら半径 9.7 mm)でおよそ 7%、$ka = 0.25$ では 1% 強しか取れないことが読み取れます。
Bode-Fanoの積分制約を数値で確かめる
$\ln(1/|\Gamma|)$ の積分が $\pi/(RC)$ に等しくなること、そして単一共振がその予算を「深く狭く」使ってしまうことを確認します。
import numpy as np
Z0, f0 = 50.0, 2.45e9
w0 = 2 * np.pi * f0
Q = 30.0
C = Q / (w0 * Z0) # 並列RLC の Q = w0*R*C より
L = 1.0 / (w0**2 * C)
# 0 から ∞ までを対数グリッドで covering(log スケールで4桁ずつ両側に取る)
w = np.logspace(np.log10(w0 * 1e-4), np.log10(w0 * 1e4), 4_000_001)
B = w * C - 1.0 / (w * L) # 並列サセプタンス
G = np.abs(-1j * B / (2.0 / Z0 + 1j * B)) # 反射係数の大きさ
area = np.trapz(np.log(1.0 / np.maximum(G, 1e-300)), w)
print(f"数値積分 ∫ln(1/|Γ|)dω = {area:.4e}")
print(f"Bode-Fano上限 π/(RC) = {np.pi / (Z0 * C):.4e}")
print(f"比 = {area / (np.pi / (Z0 * C)):.4f}")
実行すると、数値積分値 $1.6135\times10^{9}$ に対して上限 $\pi/(RC) = 1.6120\times10^{9}$、比は 1.0009 となり、単一共振はすでに予算を使い切っていることが分かります。にもかかわらず帯域が狭いのは、共振点で $|\Gamma| = 0$、つまり $\ln(1/|\Gamma|)$ が発散する細いスパイクに予算を集中投下しているからです。多段整合回路の役割が「予算の再配分」であることが、この数値から具体的に見えてきます。
import numpy as np
Q = 30.0
for S in [1.5, 2.0, 3.0]:
Gm = (S - 1) / (S + 1)
single = (S - 1) / (Q * np.sqrt(S)) * 100
fano = np.pi / (Q * np.log(1 / Gm)) * 100
print(f"VSWR={S}: 単一共振 {single:.3f}% Fano限界 {fano:.3f}% 比 {fano/single:.2f}倍")
Q = 30 のアンテナについて、VSWR = 2 では単一共振 2.357% に対して Fano 限界 9.532%、比にして 4.04 倍という結果になります。VSWR = 1.5 では 4.78 倍、VSWR = 3 では 3.93 倍で、許容 VSWR を厳しくするほど「整合回路を凝る価値」が大きくなることが読み取れます。ただしどの場合も比は 5 倍を超えず、整合回路への投資には明確な天井があることも同時に示されています。
二重共振による広帯域化
最後に、寄生素子(第2共振器)を結合させた二重共振の $|S_{11}|$ を計算し、単一共振と重ね描きします。第2共振器は結合定数 $K$ のインピーダンス変換を介してアンテナに結合しているとモデル化します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
Z0, f0 = 50.0, 2.45e9
f = np.linspace(0.85 * f0, 1.15 * f0, 300001)
u = f / f0
g = u - 1.0 / u
Q_ant = 30.0 # アンテナ本体のQ値(Chu限界で決まる)
Za = Z0 * (1.0 + 1j * Q_ant * g) # アンテナ単体(直列RLC)
K, Q2 = 70.5, 15.0 # 結合定数と第2共振器のQ値(最適化済み)
Z_double = 1j * Z0 * Q2 * g + K**2 / Za
def band_edges(Zin, S=2.0):
"""中心周波数を含む連続した整合帯域の両端を返す"""
Gm = (S - 1) / (S + 1)
m = np.abs((Zin - Z0) / (Zin + Z0)) <= Gm
i0 = np.argmin(np.abs(f - f0))
lo = hi = i0
while lo > 0 and m[lo - 1]: lo -= 1
while hi < len(f) - 1 and m[hi + 1]: hi += 1
return f[lo], f[hi]
for name, Z in [("単一共振", Za), ("二重共振", Z_double)]:
a, b = band_edges(Z)
print(f"{name}: {a/1e9:.4f}-{b/1e9:.4f} GHz, FBW = {(b-a)/f0*100:.3f}%, "
f"実効Q = {0.70710678/((b-a)/f0):.2f}")
出力は「単一共振: 2.4213–2.4790 GHz, FBW = 2.357%, 実効Q = 30.00」「二重共振: 2.3806–2.5215 GHz, FBW = 5.750%, 実効Q = 12.30」となります。アンテナ本体のQ値は 30 のまま変わっていないのに、給電点から見た実効Q値が 12.3 まで下がり、帯域が 2.44 倍に広がりました。Chu 限界は「アンテナ本体のQ」に対する制約なので破っていません。整合回路側が予算を再配分した結果です。ちなみに Fano 限界は 9.53% なので、この 2 段構成は限界の 60% を達成していることになります。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def s11_db(Z):
return 20 * np.log10(np.maximum(np.abs((Z - Z0) / (Z + Z0)), 1e-12))
plt.figure(figsize=(9, 5.5))
plt.plot(f / 1e9, s11_db(Za), lw=2, label="単一共振(アンテナ単体, Q=30)")
plt.plot(f / 1e9, s11_db(Z_double), lw=2, label="二重共振(寄生素子あり, 実効Q=12.3)")
plt.axhline(20*np.log10(1/3), color="crimson", ls="--", label="VSWR = 2 の線")
for name, Z, col in [("単一", Za, "C0"), ("二重", Z_double, "C1")]:
a, b = band_edges(Z)
plt.axvspan(a/1e9, b/1e9, color=col, alpha=0.12)
plt.xlabel("周波数 [GHz]"); plt.ylabel("$|S_{11}|$ [dB]")
plt.title("二重共振による広帯域化 — 実効Q値が下がり帯域が2.4倍に")
plt.xlim(2.28, 2.62); plt.ylim(-40, 2)
plt.grid(alpha=0.3); plt.legend(loc="lower left")
plt.tight_layout(); plt.show()

重ね描きしたグラフを見ると、二重共振の曲線は 2.401 GHz と 2.500 GHz に 2 つの谷を持ち、その間の 2.45 GHz で $-9.61$ dB(VSWR 1.99)まで浅くなっています。この「山が VSWR = 2 の線にぎりぎり触れる」状態が等リプル最適設計で、結合をこれ以上強めると中央の山が線を突き抜けて帯域が2つに割れ、弱めると帯域が狭まります。単一共振の深い1本の谷(塗り分けた薄い青の領域)と比べて、浅く広く整合を配分しているのが視覚的にも明らかです。
まとめ
本記事では、アンテナの帯域幅がQ値によってどのように決まるのかを、共振回路の等価モデルから物理限界まで一貫して追いました。
- Q値の定義: $Q = \omega_0 W_{\text{stored}}/P_{\text{acc}}$。直列RLC等価回路では $Q = \omega_0 L/R$ となり、共振点で電界と磁界の蓄積エネルギーが等しくなることを使って導出できます
- 帯域とQの関係: 反射係数を $|\Gamma|^2 = X^2/(4Z_0^2+X^2)$ と書き、帯域端の条件を解くと $\mathrm{FBW} = (S-1)/(Q\sqrt{S})$ が得られます。中心周波数を幾何平均で取れば、この式は近似ではなく厳密です。VSWR = 2 なら $\mathrm{FBW} \approx 0.707/Q$ と暗算できます
- Chu限界: アンテナを囲む球の半径 $a$ に対して $Q_{\min} = 1/(ka)^3 + 1/(ka)$。3素子の等価回路から厳密に導けます。$1/(ka)^3$ 則の物理的な理由は、近傍静電界($1/r^3$)のエネルギーを半径 $a$ から積分すると $1/a^3$ で発散的に増えるためです。サイズを半分にすると帯域は約 1/8
- 効率とのトレードオフ: $Q_{\text{tot}} = \eta Q_{\text{rad}}$。損失を増やせば帯域は広がりますが、それは放射しなくなっているだけです
- Bode-Fano限界: $\int_0^\infty \ln(1/|\Gamma|)d\omega \le \pi/(RC)$。整合回路をいくら凝っても、単一共振の約 4 倍(VSWR = 2 の場合)が上限です。単一共振はすでに予算を使い切っており、問題は配分が「深く狭い」ことにあります
- 広帯域化: 二重共振(寄生素子)で予算を再配分すると実効Q値が下がり、数値例では 30 → 12.3、帯域 2.36% → 5.75% と 2.4 倍になりました
設計の現場では、まず筐体サイズから $ka$ を出して $Q_{\min}$ を計算し、必要帯域が原理的に取れるかを判定します。取れるなら、実際の構造で $Q/Q_{\min}$ をいかに 1 に近づけるか(球体積を使い切る形状にできるか)が勝負になります。取れないなら、サイズを増やす・効率を捨てる・複数アンテナに分割する、のいずれかを選ぶしかありません。この判断が試作前にできるようになるだけで、開発の手戻りは大きく減ります。
次のステップとして、以下の記事も参考にしてください。